人形劇 五頭龍と弁天姫 第三幕
BGM【のどかな農村】
弁天姫との約束を守り、村人のために働き始めた五頭龍は、良いことをするなどとんでもないと、龍の一族からは追放されてしまいました。でも、美しい弁天を妻にした彼は幸せでした。
しかし、突然、村人たちのために働き始めた五頭龍に、村人は驚き怪しみました。
しばらくして、もう、毎年生け贄を差し出さなくてもよいのだとわかり、数十年ぶりに村人に笑顔が戻ってきたのです。
その後も二人は手を携えて村人のために尽くし,『五頭龍様が村をお守りくださるのだ。』と、人々に感謝されるようになりました。
村人たちに喜ばれ、二人の幸せな日々は続いていきました。
でも、その幸せの中に、密かな陰が忍び寄ってくることに、二人はまだ気づいていないのでした。
BGMフェイドアウト。
BGM【桜舞う春 うららかな日々。】
アドリブ推奨。セリフをつけてもよい
二人で相談し、よしそうしよう、行ってくるぞ。 お帰りなさい。
そうじゃないわ、あなた、こうこうよ。そうかわかった。といった仕草を上手、下手に何回かする。
最後に帰りの遅い五頭龍を心配して、少しずつ上手へ移動する弁天。『遅いわねえ。』『どうしたのかしら。』といった仕草。
突然、上手から五頭龍が飛び込んでくる。
「わあ、びっくりした。遅いじゃない。」「ごめんごめん。」といった感じ。
BGMフェイドアウト。
ある年、春先から一滴の雨も降らず、夏になっても日照りが続きました。
田畑は干あがり、村人たちは、このままでは恐ろしい飢饉になると恐れおののいておりました。
五頭龍、弁天、舞台中央。
(五)「妻よ、近頃の日照り続きで、田が干上がり、村人が困っているようじゃな。」
(弁)「ええ、そうなんです。 村ではお坊さんを呼んで雨乞いをしているのですが、さっぱり効果がないようですわ。」
(五)「うむ、この辺りでは雨を降らす雷神どもの姿を見かけないからのお。当分は無理じゃな。」
(弁)「まあ、何ということでしょう。 あなた、何とかなりませんの。」
(五)「そうじゃな、どれ、一つ、ワシが雨を降らせてしんぜよう。」
五頭龍、 上手へ退場。
BGM【雷雨】
(五)「今、戻ったぞ。どうじゃ、雨を降らせてやったぞ。」
(弁)「はい、村人たちは大喜びですわ。 おや、あなた。お顔の色がすぐれませんわ。」
(五)「案ずることはない。 大丈夫じゃ。」
背景、コガネ色の稲穂。
(五)「妻よ、今年の稲もよお実ったのお。じゃが、台風の目がいやな目つきでこちらを睨んでおるぞえ。 アイツに来られては稲はひとたまりもない。どれ、ひとつ村人のためにアイツを跳ね返してやろうぞ。」
五頭龍上手へ退場。 エイッ、ヤアなどの掛け声。
しばらくして台風の目をはずす
(五)「今、戻ったぞ。 どうじゃ、台風を跳ね返してやったぞ。」
(弁)「はい、もう村人たちは大喜びですわ。よいことをなさいました。」
「ところであなた、ひどくお疲れのご様子。 今夜はゆっくりとお休みになったほうがいいですわ。」
(五)「そうじゃな、今夜はゆっくり休むことにしよう。」
そろって下手へ退場 背景ゆっくり下げる。
ある時、遠い海の向こうで大きな地震があり、その津波がこの辺りの村むらを次々に襲いました。
中でもひときわ高く大きな津波が、この村に刻一刻、一刻と、迫っていたのでした。
背景、 押し寄せる津波のシーン。
BGM【SeaStorm】
(五)「見よ、あの水平線を。大きな津波がこちらに向かってくる。あれに来られては村は全滅じゃ。ワシが止めてみせる。
「行ってくるぞ。」
横顔で勝負、正面を見ない。
海の見える崖っぷち、又は海岸。
下手から五頭龍が駆けつけ。弁天が遅れてついてくるイメージ。
上手を見ながら「~全滅じゃ。」 の後、弁天を振り返る、ワシが~」の後、 弁天、不安げにうなずく。
五頭龍上手に駆ける。 BGM高まり、やがて静まる。 背景下げる。
(五)「今、戻ったぞ。」 疲れ切った様子で。
(弁)「まあ、あなた。 どうなさったの。そのやつれようは。ただごとでは ありませんわ。」
BGM【逃避行】
(五)「妻よ、ワシは龍だ。 龍というものは悪いことをすれば元気になり、ますます寿命が延びるのじゃ。 逆に良いことをすれば力を失い、やがて消えてしまう。そういうものなのじゃ。今回は少し力を使いすぎたようじゃ。」
(弁)「まあ、私は少しも知りませんでした。 私はそれと知らず、あなたのお命を縮めていたんですね。」
「これから私たちはどうしたらいいのでしょう。」
以下は、観客の心に沁みるようにゆっくり語る。
(五)「妻よ、ワシは美しいそなたに恋をし、妻となした。
今更、昔に戻って悪いことなどできようか。
この命の尽きるその日まで、共に仲良く暮らしてゆこうぞ。それがワシの望みじゃ。」
弁天、五頭龍に寄り添う。 しばらくして下へ消える。
BGMフェイドアウト。