人形劇 五頭龍と弁天姫 第二幕
BGM 【空を見上げて】
欽明天皇の御時。その十三年四月十二日のこと。
前夜から真っ黒な雲が天を覆い、海岸一体に深い霧がたちこめておりました。
どこからか地鳴りが鳴り響き、突然、大地震が襲ってきました。
そして、海の中に、真っ赤な火柱が吹き上がったのです。
数日して灰神楽が治まってみると、そこに小さな島が現れました。
月日は流れ、やがて島は深い森に覆われ。美しい小島にその姿を変えてゆきました。
まるで絵のように美しい島だと評判になり、人々はいつしか、その島を絵の島と呼ぶようになりました。
BGMフェイドアウト。
(背景)左上から天女が舞い降り、右下で人々が見上げている図。
村人たちが上手から現れ、空を見上げて騒ぐ。
そんなある日のこと。天がまぶしいほどに輝き、人々が驚き見上げていると、紫の雲に乗り、美しい天女が愛らしい童女を従え、静かにこの島に降り立ったのです。
その様子を五頭龍が物陰から、じっと見つめておりました。
(女)「あらっ、あれは何かしら、こっちへ来るわ。」
(女)「まぶしくて、オラにはよく、みえねえだ。」
(女)「紫の雲に乗って誰かが下りてくるんだわ。」
(男)「あれは、まさしく、弁天様じゃ。間違いなか。」
背景を下げ暗幕に。
弁天、下手からゆっくり現れて、中央で正面を向いて止まる。
五頭龍、上手から顔をのぞかせる。
(五)「ほォ、おーっ。(3秒の間) 何と美しいおなごじゃ。」
五頭龍、天女に近づく。
(五)「ワシはこの辺りを支配する五頭龍という者じゃが、そなたを妻に迎えたい。」
重々しく、当然のごとく宣言する。
弁天、キッと振り向く、一拍置いて。
(弁)「これ。五頭龍とやら。」怒りを押し殺すように間をとる。
「そなたは田畑を押し流し、罪なき幼子を丸呑みし。ゆっくりと念を押すように。これまで。どれほど村人たちを苦しめてきたことか。その罪業を振り返ってみるがよい。」
「わらわは、そのような者の妻にはなりませぬ。」怒りをぶちまける。
弁天 。怒ってそっぽを向く。
五頭龍、 上手へずり下がる。(舞台の右端へ移動)。
スポットライトが当たるイメージ。
BGM
【甘酸っぱい思い出】
(五)「我が身を振り返ってみるがよい、か。」
(間)
「どうすれば、天女さまはワシにほほえんでくださるのじゃ。
ワシはこれまで誰かに好かれたいとか、誰かの笑顔を見たいなどと思ったことなど、一度もないんじゃ。」
回想シーン BGM流したまま、崖崩れ、洪水、逃げ惑う人々、 笑い声。
(五)「はっ、ワシは・・・。3秒の間 今までなんてむごいことを・・・。」
弁天 中央でそっぽを向いている。
五頭龍 おずおずと弁天に 少し近づく。
(五)「天女様・・・、五頭龍じゃ。」
「ワシは今まで村人を苦しめてきたことを、深く詫びたいと思う。」
「これからは心を改め、その償いをしてゆくつもりじゃ。」
「だから。どうか。 (間) どうか。ワシの妻になってくだされ。」
(弁)「・・・。」 じっと見つめ、そしてそっぽを向く。
少し間をあけて。 五頭龍、もう少し近寄る。
(五)「天女さま・・・。弁天殿。ワシを信じてくだされ。ワシはもう、昔の五頭龍ではなくなりました。どうかワシと夫婦になってくだされ。」
弁天。 振り返り。じっと五頭龍を見つめる。
そして心の中でそっとうなずき。五頭龍に手をさしのべる。
(弁)「わかりました。その言葉を信じ。わらわは、そなたの妻になりましょう。」
笑顔を見せ、やさしく。
五頭龍、弁天に駆け寄る。
舞台中央。 抱き合う二人。
しばらくして 下へ、ずり下がる。
BGMフェイドアウト。