趣味の経済学 量的緩和政策はひびの入った骨董品


失敗を隠している政策審議委員


前回の失敗と比べてみよう 2001年3月から2006年3月まで量的緩和政策が行われて、ベースマネーを1.6倍まで増やしたが、マネーストックは1割増えただけ、消費者物価指数は-0.7から-0.2に変わった程度でインフレ目標政策としては失敗であった。 今回は2013年3月から鳴り物入りで始まったが、未だに消費者物価指数にインフレ基調は見られない。 前回の失敗と今回の失敗、関連する数字を拾ってみよう。数字を見ていろいろ感じて下さい。何も感じない人は
「ごめんなさい さようなら」
<表5 2001年3月からの量的緩和政策 >
年月 ベース サプライ 乗数 準備金 日銀当預 実質預金 銀行貸出 CPI 為替 日経平均
2001-03 65.7 639.3 9.7 4.0 4.5 476.9 457.0 -0.7 125.27 12,999.70
09 70.6 647.5 9.2 4.1 8,1 480.8 450.6 -0.8 119.29 9,774.68
2002-03 87.1 663.2 7.6 4.1 17.6 502.9 440.6 -1.2 133.89 11,024.94
09 85.7 668.4 7.8 4.3 15.2 499.0 426.2 -0.7 121.79 9,383.29
2003-03 96.6 674.2 7.0 4.3 22.8 510.0 423.3 -0.1 119.02 7,972.71
09 103.6 680.2 6.6 4.3 29.7 511.2 413.7 -0.2 110.48 10,219.05
2004-03 108.1 685.8 6.3 4.4 33.0 519.2 411.7 -0.1 103.95 11,715.39
09 108.5 693.8 6.4 4.5 32.9 516.3 404.4 0.0 110.92 10,823.57
2005-03 110.3 700.2 6.3 4.5 32.6 525.5 402.0 -0.2 106.97 11,668.95
09 110.4 708.1 6.4 4.6 32.9 527.8 404.1 -0.3 113.28 13,574.30
2006-03 109.3 710.7 6.5 4.7 30.4 531,6 410.8 -0.2 117.47 17,059.66

<表6 2013年3月からの量的緩和政策 >
年月 ベース ストック 乗数 準備金 日銀当預 実質預金 銀行貸出 CPI 為替 日経平均
2013-03 138.9 1,144.6 8.24 7.9 47.9 613.3 436.1 -0.9 97.49 12,397.91
09 181.5 1,162.6 6.40 8.1 87.2 616.6 439.0 1.1 97.87 13,388.86
2014-03 213.1 1,174.5 5.51 8.2 114.9 634.0 446.9 -0.9 102.27 14,827.83
09 244.7 1,192.6 4.87 8.3 147.3 631.4 448.0 3.2 107.24 16,173.52
2015-03 289.6 1,212.6 4.19 8.6 182.0 653.2 457.8 2.2 120.39 19,206.99
09 332.5 1,230.6 3.70 8.7 218.0 652.9 462.1 0.0 120.29 17,388.15
2016-03 371.7 1,245.4 3.35 8.9 245.0 679.3 469.7 -0.1 113.07 16,758.67
09 406.5 1,267.9 3.12 9.1 279.4 684.8 472.2 -0.5 101.94 16,449.84
2017-03 444.8 1,290.5 2.90 9.5 307.0 710.0 480.9 0.2 113.01 18,909.26
09 470.9 1,309.0 2.78 9.5 326.0 713.5 481.0 0.7 111.90 20,396.28
2018.03 484.3 1,321.8 2.73 9.8 329.7 734.8 488.7 0.6 106.00 21,454.30
09 497.2 1,340.5 2.69 10.0 342,3 740.5 493.9 1.3 111.98 24,120.04
2019.03 503.0 1,350.7 2.68 10.1 340.9 756.0 501.9 0.5 111.66 22,258.73
09 511.9 1,367.0 2.67 351.6 754.8 503.6 0.2 107.48 21,755.84
2020.03 517.7 1,387.5 2.68 343.6 778.1 512.8 0.4 107.29 18,917.01
09 585.5 1,468.1 2.51 11.4 406.7 825.7 534.2 0.0 105.69 23,185.12
2021.03 625.2 1,489.6 2.38 437.8 854.1 537.1 -0.1 108.65 29,108.80
09 648.8 1,520.0 2.34 462.7 854.1 534.9 0.2 110.22 29,452.66
2022.03 678.1 1,434.2 2.28 12.5 486.1 875.9 543.6 1.2 118.51 27,871.43
09 629.2 1,564.8 2.49 422.9 877.9 554.8 3.0 143.29 25,587.45
年月 ベース ストック 乗数 準備金 日銀当預 実質預金 銀行貸出 CPI 為替 日経平均

ベース=ベースマネー=平均残高・季節調整済、単位・兆円
ベース=マネタリーベース=平均残高・季節調整済、単位・兆円
サプライ=マネーサプライ=M2+CD 月末残高・季節調整済、単位・兆円
ストック=マネーストック=M3 月末残高・季節調整済、単位・兆円
乗数=貨幣乗数・信用乗数=マネーサプライ÷ベースマネー マネーストック÷マネタリーベース
準備金=所要準備金=準備預金積み期間中の平均残高 単位・兆円
日銀当預=日銀当座預金残高=準備預金積み期中の平均残高 単位・兆円
実質預金=全国117銀行実質預金月末残高 単位・兆円
銀行貸出=全国117銀行貸出月末残高 単位・兆円
CPI=消費者物価指数=総合
為替=ドル・円=東京市場 スポット 17時点/月末
日経平均=東京市場・月末=単位・円
(^_^)                 (^_^)     
2%インフレ目標政策の失敗は「岩田理論」の間違え、のため  2013年3月に就任した日銀首脳は量的・質的金融緩和政策により2%のインフレを2年以内に達成させる、と明言した。しかしこれは失敗した。その原因は、「マネタリーベースを増やせばマネーストックが増える」という岩田理論の過ちからであった。  1992年9月、週刊東洋経済で、岩田規久男著「日銀理論を放棄せよ」が発表された。その主旨は「ベースマネーを増やせばマネーサプライが増える。この景気の悪い時期に、日銀はベースマネーを減らした。過ちを改めよ。今後は、 金利ではなくて、ベースマネーをコントロールすべきである 」というものだった(詳しくは、過去に引用したものを参照下さい)神話から生まれた「岩田・翁論争」。  岩田理論の対象となった1991年当時の金融関係の数字を拾ってみた。1992年10月16日、日銀は準備率を改定した。 このため銀行が日銀当座預金残高を減らした結果、ベースマネーが減少した。9月を1とすると、11月は0.5、そして10月は前半は1、後半は0.5。従って平均残高は0.75。10月、11月と所要準備額が1兆円減り、それにより銀行は日銀当預を銀行は1兆円減らし、そのためベースマネーも1兆円減った。つまり、日銀が準備率を改定したことが原因で、日銀当預、ベースマネーが結果であった。その他の数字は直接関係はない。1月ごとの数字を見れば、岩田理論のベースマネーが原因という主張が間違っていること、銀行が日銀当預の負担を少なくして、貸出に多くの資金を回せるように変更したことが分かる
 岩田理論の日銀批判はピント外れであったし、日銀の銀行に余裕がが出来れば貸出が増えると考えたことも間違えであった。 両者ともに「銀行に資金の余裕が生まれれば、貸出総額が増える」との見込み違いであった。さらに、「岩田・翁論争」にその後参加したエコノミストも、銀行に余裕がが出来れば貸出が増えると考えていて、こうした数字を調べようとはしなかった。植田和男・原田泰・白石賢・香西泰・中谷巌の諸氏は岩田理論を支持するだけであった。当時、僅かにマルクス経済学者が岩田理論に疑問を投げかけているだけであった
 ここで、「金利ではなくて、ベースマネーをコントロールすべきである」と主張しているのは、アメリでの例を頭に入れての主張と思われるが、これは「巧妙な政治的レトリック」であった
 またこの人は、2003年1月6日発行の『スッキリ!日本経済入門』で銀行間の決済を、時点ネット決済=「差金決済」で説明しているが、2001年(平成13年)1月から「RTGS」=Real-Time Gross Settlement(日本語に訳せば「即時グロス決済」)に統一された。金融機関の危機管理に関心がないようだ。

<表7 ベースマネーの要因別変化の推移>  単位億円
(週刊東洋経済<「日銀理論」を放棄せよ>から)
ベースマネーの変化額  財政要因  (うち国債要因)  その他   日銀信用 
1987年 26,905 2,965  (▲24,983) 13,344 10,596
88年 44,139 6,087   (2,057) 12,339 25,713
89年 49,597 3,99  (▲3,587)  ▲10,259 55,864
90年 31,163 36,365  (▲50,656) 13,268  ▲18,4706
91年 ▲9,642 ▲192,454 (▲103,357) 153,426 1129,386
91(T) ▲56,116 ▲42,796 (▲22,714) 8,654 ▲21,974
91(U) 8,243 ▲22,581 (▲27,709) 14,139 16,685
91(V) ▲28,666 ▲102,948 (▲31,475) 16,525 57,757
91(W) 66,895 ▲24,129 (▲21,459) 14,108 76,916
92(T) ▲60,313 ▲35,459 (▲26,934) 16,105 ▲40,959
(出所)日本銀行「経済統計年報」、「経済統計月報」
<表8 マネーサプライ ベースマネー 日銀当預 関係表>  単位億円
年月 ベース サプライ 乗数 準備金 日銀当預 実質預金 銀行貸出 CPI 為替 日経平均
1991- 6 350,321 4,983,634 14.2 48,848 48,885 4,342,492 4,342,492 3.4 138.15 23,291
7 372,140 5,040,024 13.5 48,400 48,422 4,255,138 4,485,904 3.5 137.83 24,121
8 364,477 5,020,817 18.1 47,888 47,937 4,274,495 4,519,300 3.3 136.88 22,336
9 356,966 5,041,125 14.2 48,884 48,936 4,396,712 4,522,041 2.7 132.95 23,916
10 346,487 5,031,895 14.5 38,159 38,199 4,196,316 4,502,566 2.7 131.00 25,222
11 339,661 5,018,666 14.8 29,100 29,153 4,265,878 4,555,040 3.1 130.07 22,687
12 387,445 5,122,051 13.2 29,626 29,663 4,284,614 4,604,719 2.7 125.25 22,984
1992- 1 371,124 5,069,555 13.7 29,398 29,433 4,132,337 4,577,094 1.8 125.78 22,023
2 346,735 5,004,632 13.6 28,823 28,879 4,185,335 4,596,554 2.0 129.33 21,339
3 353,520 5,057,976 14.3 29,350 29,380 4,347,814 4,603,939 2.0 133.05 19,346
4 350,325 5,063,356 14.5 29,273 29,299 4,163,956 4,570,348 2.4 133.38 17,391
5 349,576 5,017,338 14.4 28,818 28,842 4,193,092 4,590,984 2.0 128.33 18,348

神話が生まれた昭和37年の新金融調節方式  1962年(昭和37)11月7日、日銀は新金融調節方式を実施した。この新金融調節方式とは、銀行が常時多額の日銀借入に依存するオーバーローン現象を是正するため、限度額を設けて日銀貸出を信用割当する一方、成長通貨の供給については、おもに国債買入操作によることとした金融調節方式であった。  当時の銀行は旺盛な資金需要に対して、預金を増やすこと、日銀からの借り入れで対処していた。このためオーバーローンが問題となり、手持ちの国債を日銀が買い入れることにより対処しようというものだった。つまり、量的緩和政策により銀行貸出の資金を増やし、成長通貨・マネーサプライを増やそうというものだった。銀行が預金高を増やすために努力したことに関しては、銀行は預金高と貸出額のバランスを計る、 旺盛な借入意欲に対する資金不足を参照して下さい。  量的緩和政策の副作用について、そしてマイナス金利の副作用については、短期市場参加者の縮小、撤退、日本経済新聞社編『ドキュメント 惑うマネー』から<ディーラーが消えたマーケット>、コール市場 日はまた昇った 金利復活 思い万感を参照して下さい。
 市場経済システムに組み込まれたビルトインスタビライザー(経済の自動安定化装置)が働かなくなる。政府と日銀が一体となって経済統制塔を作るべきである、という社会主義経済の考えと似たところがある。
 量的緩和政策は銀行に対する「隠れ補助金」であり、国債が札割れしないということで、「財政正確支援策」と言うことになる。量的緩和政策が銀行貸出を増やすことに効果がない、ということを一番分かっている銀行に対して黙らす効果があり、財政健全化の主張者を黙らせ、国債を発行し、補正予算を組んでも経済効果が少なくても政府が積極的に経済政策を実行しているとの印象を与える、 (▲日本版財政赤字の政治経済学) 安倍政権の支持拡大を狙った政策であり、このために「マネタリーベースを増やせばマネーストックが増える」という間違った理論=岩田理論が利用されたのだった。そしてこの理論が間違っていたことがハッキリした現在、インフレ期待に働きかける、というプラシーボ効果を狙った「言霊金融政策」に変わっている。
セイの法則か有効需要の原理か  新金融調節方式の考え方は「銀行に貸出のための資金があれば貸出が増える」という「供給はそれ自身の需要をつくり出す」と同じ考え方だ。高度成長を支えたのはこの考え方であった。しかし豊かな社会になり、銀行に十分な資金がある現在は、「需要の大きさが供給を作り出す」という状況になっている。量的緩和政策により銀行に資金を供給しても、それによって通貨流通量が増えるとは限らない。1991年秋の準備率改定によってもマネーサプライは増えなかった。2001年3月からの量的緩和政策によっても通貨流通量は増えなかった。しかし経済学教育業界の人たちはその事実から目を背けている。  ベースマネーを増やせばマネーサプライも増えるというのは間違った理論 神話 です。量的緩和政策は ひびの入った骨董品 です。
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日銀は2%インフレ目標政策の失敗を隠している
疑惑 審議委員は失敗に気づいてないのだろうか?  2013年3月に就任した日銀首脳は量的・質的金融緩和政策により2%のインフレを2年以内に達成させる、と明言した。3年近く経った今、「2%インフレ目標政策が失敗であった」との声は聞かれない。審議委員の誰も失敗だとは思っていないのだろうか?岩田副総裁の理論に拠ると、日銀が買いオペを進めるとマネーストックが貨幣乗数分だけ増加して、インフレが起きる、というものだ。1年経ってもその兆候は起きてない。当然、数字は把握しているはずだ。原因は確定できなくても失敗であることには気づいたはずだ。それを黙っていたのだろうか?何らかの機会に他の審議委員に話したはずだ。2年経って全ての審議委員は「2%インフレ目標政策は失敗である」と認識したはずだ。しかし、日銀の公式見解は「2%インフレ目標政策は続行する」だ。マスコミも、経済学教育業界も「2%インフレ目標政策は失敗である」とは言っていない。「誰も気づいてないし、今失敗を公表すれば市場が混乱する。経済はそれほど悪くはないのだから、黙っていよう。失敗とは言わないことにしよう」なのだろうか?当初「量的緩和政策は過去に失敗したのだから反対」と言った人がいた。以前はたった一人で皆と違う主張をし続けた人がいた。そういう自由があった。 審議委員は、失敗に気づいていたはずだ。
 ところでマスコミもエコノミストもそれを指摘しない。誰も気づいていないようだ。トランスミッションメカニズムのついては以前調べた時、32冊の金融経済学の教科書全てで扱っていた。外国の教科書でも、サムエルソン以外バーナンキもマンキューもスティグリッツもジェフリー・サックスもドーンブッシュも扱っていた。日本で金融経済学を学んだ人は何処へ行っちゃったのだ。教えている人はどうしているのだ。日本の金融経済学の知識レベルはこんな程度なのだろうか?
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貨幣理論は日本庭園と同じ審美的な統一性がある ここにミルトン・フリードマンの文章を紹介して締めくくりとしよう。──1969年に発表した The Optimal Quantity of Money (最適貨幣量)と題する著作の序文から……
 貨幣理論は日本庭園と同じである。日本庭園には多様性から生じた審美的な統一性がある。複雑な真相を覆い隠す外見の質素さであり、深い奥行きの広がりの中に溶け込む表層的な風景である。それを心行くまで堪能するには、多角的に検証し、しかもじっくりと腰を落ち着けて深く吟味しなくてはならない。貨幣理論も日本庭園も同じである。しかも、両者とも全体から切り離して、それだけでも楽しめる部分を有し、全体から取り出した一部分からでも全体的な認識を得ることができる。
(2016年2月1日 TANAKA1942b)

日 銀 改 革 試 案

(1)失敗を隠していたことの検証 2013年3月に就任した日銀首脳は量的・質的金融緩和政策により2%のインフレを2年以内に達成させる、と明言した。しかし失敗してそれを隠している。当時の経済状況がどのようであっても、情報公開は民主制度の基本だ。
(2)活発な経済政策議論を エコノミストが10人集まると11の経済政策が提案されると言う。しかし日銀に意見を言ったのは小宮隆太郎、岩田規久男の2氏だけ。日銀委大して議論があっても良い。
(3)弁護士による相談窓口 職場の相談窓口。2つの弁護士集団。手紙、メール、電話、来所。パワハラ、セクハラなんでも可。何もなくても窓口があることが役に立つ。
(4)新規採用は50%女性 女性優先は憲法違反などの批判も出るだろうから、いろんな分野の専門家が必要。試行錯誤することが大切。
(5)日銀が日本の企業の先端に 日本企業の先端をチャレンジ。試行錯誤の連続だろう。


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趣味の経済学 Index
経済学の神話に挑戦します  「ベースマネーの増加により、マネーサプライが増加する」という神話=岩田・翁論争の過ち
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