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TANAKAの説明する信用創造プロセス
日銀当預は各銀行が増減させる
<銀行融資の仕組み> アグリコーラの例も金細工師銀行の例も銀行制度が出来始めの頃の話としては説得力がある。 しかし、「アグリコーラにおける貨幣制度や銀行制度の発展が、多くの国々で何世紀にもわたって改善され発展してきた現実の貨幣・銀行制度とおおまかにではあるが似通っていることである」は納得できない。 現代日本の金融システムは、アグリコーラの例とも金細工師銀行の例とも違っている。「ベースマネーが増えることにより銀行貸し出しが増大する、つまり銀行は資金さえあれば融資を増大することができる」は現実的ではなく、実際は「銀行の融資条件に合う資金需要があれば、いくらでも貸し出しができる」だ。 どうしてそうなのか?その話から始めることにしよう。
<初めに融資ありき、所要準備は半月後に用意すればいい>  銀行が企業に融資することによりマネーサプライは増加する。そのときの銀行の資金、準備金などについて教科書とは違った説明をしよう。
 先ずA銀行がB企業に1億円融資する場合を考えてみよう。教科書の説明と違って、日銀の資金提供とか預金受け入れは必要ない。 銀行が企業に1億円融資する場合は、企業の口座に1億円入金する。ただし現金は必要ない。企業の通帳に1億円入金と記入するだけだ。後は銀行の帳簿を操作する。
 A銀行のバランスシートで、
 資産勘定で「B企業へ貸出 1億円」  負債勘定で「B企業の預金 1億円」 と変化する 
 つぎにA銀行は日銀当座預金に準備金を入れなければならない。その金額は1億円の0.1%から1.3%、A銀行の預金総額によって違ってくるが、ここでは1.3%として話を進める。 詳しくは 準備金率の計算方法▲ を参照のこと。
 A銀行は日銀当座預金に次の月の15日までに1億円の1.3%である130万円を入金しなくてはならない。ただしこれはB企業が1ヶ月間ずっと預金したままの場合で、たとえば銀行営業日数20日の月に1日だけ入金し、すぐに引き出すと、準備金は130万円の20分の1、つまり6万5千円となる。 通常、企業は支払の必要から融資を受けるので、長く入金したままにしておくことは考えられない。
 このケースでは1億円の融資に対して、その準備金=日銀当座預金に次の月の15日までに入金すべきは6.5万円でしかない。
 預金受け入れも日銀からの資金提供も必要とせず、1億円融資してもこの程度の準備金を半月遅れで入金すればいい。 このため
 @ 銀行は融資実行に際して通常は日銀当預への資金繰りのことは考えない。
 A 融資の判断は、「銀行に資金があるかどうか」ではなく、「融資条件に合う顧客を確保できるか」になる。
 B 日銀当座預金は利子が付かないので、銀行はなるべく必要な金額だけにして、余分な資金は入金したがらない。
 C こうして、自行の融資額総額に応じて、各銀行(日銀ではない)が日銀当預残高を調節(増減)する。
 もしも、銀行が翌月の15日までに準備金である6.5万円を用意できなければコール市場で借りればいい。その金利は年0.001%。ただし6.5万円を借りる事はできない。この市場での最小取引単位は5億円だからだ。6.5万円などという、はした金は取り引きすることができない。 このようにベースマネーの一部である日銀当座預金残高は、銀行が行う融資の総額によって決められる。つまり銀行の融資額の増減が原因となり、その結果、日銀当座預金残高、つまりベースマネーの額が決まる。 これで、銀行の融資活動の結果決まってくるマネーサプライの増減により(原因)、ベースマネーが増減する(結果)ことが理解できるはずだ。
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<準備金の計算方法> ここで準備金のキチンとした計算方法を書いておくことにしよう。教科書ではほとんどが準備率10%として書いている。前回例として引用した岩田規久男『金融論』の5%という数字が1番実際の数字に近く、しかし他の教科書は10%で、中には20%として説明しているものもあった。 これほど準備率が高いと、銀行は融資の際に準備金のことを計算しながら判断するかも知れない。だとするとベースマネーの増減によって融資の総額が影響されるかも知れない。準備率を10%とか、20%として考えるために、神話を疑わなくなるのかも知れない。
 銀行は預金の一部を、その預金が引き出されたときのために日銀の当座預金口座に預け入れなければならない、と法律で決められている。その率は次の通り。
 準備金率は、日本銀行の金融政策決定会議において決定される。現行の準備率(平成3年10月16日改定)は次の通り。預金等の種類および残高によって「超過累進制」の区分がなされている。
 ●銀行・長期信用銀行・第2地銀協加盟行・信用金庫/定期性預金(譲渡性預金を含む)の区分額についての準備率
   2兆5,000億円超=1.2%  1兆2,000億円超、2兆5,000億円以下=0.9%  5,000億円超、1兆2,000億円以下=0.05%  500億円超、5,000億円以下=0.05%  500億円以下は準備率ゼロ
 ●銀行・長期信用銀行・第2地銀協加盟行・信用金庫/その他の預金の区分額についての準備率
   2兆5,000億円超=1.3%  1兆2,000億円超、2兆5,000億円以下=1.3%  5,000億円超、1兆2,000億円以下=0.8%   500億円超、5,000億円以下=0.1%  500億円以下は準備率ゼロ
 ●外貨預金等の残高についての準備率
   非居住者外貨債務=0.15%
   居住者外貨預金  定期性預金=0.2%  その他の預金=0.25%
 (「農林中央金庫」については省略)
 具体例で計算するとどうなるか?ちょうど『新・東京マネー・マーケット』に計算例があったのでこちらを引用することにしよう。
 ある日の終業時における預金残高がちょうど20兆円の普通銀行(居住者円預金のうち定期性預金12兆円、その他の預金6兆円、居住者外貨預金のうち定期性預金8,000億円、その他の預金2,000億円、非居住者預金1兆円)があったとする。各預金の種類に応じて準備金率を適用して、法定所要額を計算する。
 たとえば居住者・定期性預金12兆円に関して見てみよう(2兆5,000億円超の準備率は1.2%だが、しかし、12超X1.2%という計算にはならない。超過累進制であることに注意)。
 @ 500億円以下は準備率ゼロ   500億X0%=0円
 A 500億円超から5,000億円以下は0.05%  4,500億X0.05%=2.25億円
 B 5,000億円超から1兆2,000億円以下は0.05%  7,000億X0.05%=3.5億円
 C 1兆2,000億円超から2兆5,000億円以下は0.9%  1兆3,000億X0.9%=117億円
 D 2兆5,000億円超は1.2%  9兆5,000億X1.2=1,140億円
 よって、@ーDを合計すると1,262.75億円となる。つづいて、同様の計算を他の預金に対しても行い、法定所要額全体を求める。
 このような計算を他の預金に対しても行い、法定所要額全体を求める。
 このような計算を月初から月末まで毎日行うことによって算出された金額を1カ月間で合計したものが、その金融機関に対する月間所要積数と呼ばれる。 また、月間所要積数を1カ月の日数で割ったものが月間所要平残である。ちなみに、2002年1月の市場全体の月間所要平残は4兆1,400億円だった。
 準備預金制度適用先の金融機関は、対象となる月の月間所要平残を達成するために、その月の16日から翌月15日までの間に、日銀当座預金に資金を預けなければならない。 たとえば3月分の積み立て期間は3月16日から4月15日の31日間である。つまり、実際の預金に対して半月遅れの同時・後積み混合方式となっている。
 銀行休業日は日本銀行も休業するため、休み前日の準備預金残高は休日も継続することになる。しかがって、土曜日・日曜日の準備預金残高は金曜日の終業時点の準備預金残高がそのまま参入される。 なお、毎月15日を準備預金最終日という。 (『新・東京マネー・マーケット』から)
 『新・東京マネー・マーケット』では「このような計算を他の預金に対しても行い、法定所要額全体を求める」として、ここで計算が終わっている。興味を持った人は計算してみてください。 ちなみに、アメリカでは、小切手(取引)勘定の場合、4000万ドルを越える額については、8%〜14%の範囲内でFRBが決めることになっている。14%にもなると準備金のことを考えながら融資を決めることも出てくるかも知れない。 サムエルソンが言うように、準備率の高低によって銀行貸し出総額が影響されるかも知れない。
 現在の準備率は1991年10月からの率であり、それ以前は今の約2倍であった。参考にその一部を下の書き出してみた。
 ●銀行・長期信用銀行・第2地銀協加盟行・信用金庫/定期性預金(譲渡性預金を含む)の区分額についての準備率
   2兆5,000億円超=1.75%  1兆2,000億円超、2兆5,000億円以下=1.375%  5,000億円超、1兆2,000億円以下=0.125%  500億円超、5,000億円以下=0.125%  500億円以下は準備率ゼロ
 ●銀行・長期信用銀行・第2地銀協加盟行・信用金庫/その他の預金の区分額についての準備率
   2兆5,000億円超=2.5%  1兆2,000億円超、2兆5,000億円以下=2.5%  5,000億円超、1兆2,000億円以下=1.875%   500億円超、5,000億円以下=0.25%  500億円以下は準備率ゼロ
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<歩積みがマイナスの場合だってあり得る> 16日から月末までは所要準備金の額は確定していないので予測に基づいて歩積みしていく。月末に確定し次月の1日から15日にかけて確定した目標に向かって「歩積み」をしていく。15日で終わって16日にはその金額がそのまま残っている。 全部引き出したり、日銀が没収したりするわけではない。従って前月より預金高が減ると準備金も減る。つまりマイナスの歩積みになる。そうでなくても、預金高があまり伸びていなければ、準備金をいっぱい積んでいく必要はなくなる。 現在の日本の準備率であれば、それが銀行貸し出しに大きな影響を与えるとは考えられない。アメリカのように8%から最大14%となると少しは影響を与えるだろうが。あるいは「5%から20%の範囲で日銀が決定する」と決めれば日銀は大きな影響力を持つことになる。 しかし、別の考えとして日銀がそれほどまで市場経済をコントロールすべきか?となると「経済思想」の分野の問題になってしまい、ここでのテーマからは外れてしまう。しかし、TANAKAの調べた経済学の教科書でそこまで突っ込んで書いたものはなかった。 「市場経済では、そこに自生的秩序が働いている」などという主張は全く聞かれなかった。残念。
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<融資額はどのようにして現金化されるか> 1億円の融資が実行されると、融資を受けた企業の口座に1億円が入金される。これにより預金通貨が1億円増え、マネーサプライが1億円増える。こうした融資により銀行が日銀当預に入金すべき額は月末にならないと確定しない。 上の例では6.5万円になるので、これを心配して融資すべきかどうかを検討する必要はない。では、その1億円が現金化されるこのとについての準備はどのように考えたらいいのだろうか。教科書の例では1億1千万円も札束を用意して、1千万円を日銀に輸送し、1億円の札束を企業に手渡しするかのように読める。
 融資が実行されると企業の口座(当座預金口座または普通預金口座)に1億円が入金される。企業はそれを取引先への支払にあてる。その方法は次の通り。
 @ 融資を担当した支店から現金を引き下ろす。
 A 融資を受けた銀行の他の支店から現金を引き下ろす。例えば渋谷支店から融資を受け、新宿支店から、または上野支店から、または京都支店から、または札幌支店から引き下ろしかもしれない。
 B 取引先の口座に振り込む。この場合同一銀行なら、取引先企業が同一銀行の他の支店から引き下ろすかも知れない。この場合はAと同じ様なケースになる。
 C 他の銀行の口座に振り込む。この場合は日銀当預で決済される。つまり日銀当座預金から引き出され、他の銀行の口座に入金される。
 このようにしてみると、「融資した1億円がいずれ現金化されるのだから、どこかに用意していなければならない」と考えると、用意すべき所は、融資を実行した支店、他のすべての支店、日銀当預となり、とても個別の融資に対して用意することはできない。 結局融資総額・預金総額から判断して、過去の統計と担当者の勘をはたらかせて、各支店、日銀当預を決めることになる。
 このことからも、通常は銀行に資金があるかどうかは問題にはならないことが分かる。問題になるのは、企業が破綻しそうなときなどの特別大きな融資で、通常の融資では問題にならない。現在の銀行は経済学の教科書に書かれているほど資金不足ではない。日銀からの資金供与や預金額により融資総額が左右されるほど資金難ではない。 それは、銀行制度が出来始めた頃で国内に銀行が1行、支店もなく本店だけ、とか、日本では戦後の混乱時期の資金不足だったころ、国内に資金がなくて 西山弥太郎▲ の川崎製鉄が千葉に工場を造ろうとしたら、日銀の一万田総裁に「川崎製鉄が千葉工場建設を強行するならば、ペンペン草を生やしてみせる」と言われ、世界銀行から融資を受けた時代の昔話だ。
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<実際の数字はどの程度なのか?> 銀行融資に関してその仕組みについて書いてきた。では実際にこれに関する数字はどの程度なのか、それについての数字を表にしてみた。いくつかの資料からの寄せ集めなので、年度・年次、平残・末残など不統一なところがあるかも知れないので、大まかな数字として見てください。 もともと「経済学の神話を暴く」として集めた資料はないので、こうした点で不統一なところがあるかも知れません。
 それでもマクロな数字に慣れて下さい。ここで扱うのは私たちの生活とはかけ離れた数字です。こうした数字に慣れていないと、「日本の銀行では100万円の預金があると1000万円の通貨が創造される」などというミミッチイ、ミクロ経済のセンスになってしまいますよ。
<表1 マネーサプライ ベースマネー 日銀当預 関係表> 平残 単位億円
年次 M2+CD ベースマネー 日銀当預 準備金 準備金余 実質預金 銀行貸出 有価証券 日銀貸付 広義流動性
1995 5,351,367    31.067 31,012 55 4,700,223 4,863,560 1,246,580 10,979 10,745,330
1996 5,525,715    32,661 32,557 104 4,688,010 4,882,907 1,263,480 6,119 11,082,732
1997 5,694,907 622,146 34,861 34,053 808 4,746,290 4,930,232 1,283,260 43,260 11,481,801
1998 5,943,877 643,644 36,763 36,050 713 4,778,854 4,888,201 1,246,590 15,236 11,931,866
1999 6,162,653 @ 929,780 45,467 38,475 6,992 4,867,720 4,688,104 1,360,000 15,381 12,369,748
2000 6,292,840 744,467 42,790 38,873 3,917 4,821,755 4,639,163 1,640,720 6,887 12,748,394
2001 6,468,027 889,134 58,536 40,546 17,990 4,861,746 4,482,233 1,648,650 8,161 13,061,722
2002 6,681,970 994,009 149,391 42,782 106,609 5,016,306 4,316,425 1,620,770 1,931 13,130,418
2003 6,794,841 1,113,630 226,237 43,251 182,986 5,116,754 4,138,534 1,806,980 1,411 13,205,683
2004 6,920,567 1,156,268 272,672 44,625 228,047 5,186,815 4,040,009 1,941,760 1.111 13,604,893
金融経済統計月報・経済統計年鑑などから作成
@これ以前の数字とは不連続   
「マネーサプライ(M2+CD)」とはM1(現金通貨+預金通貨)+準通貨(預金から要求払預金を除く)+譲渡性預金(CD、一般法人・個人・公金設定分)、99年4月から外銀在日支店等を含めた新ベースの値。 基本的には通貨保有主体(非金融法人、個人、地方公共団体等)が保有する通貨量の残高(金融機関や中央政府が保有する預金などは対象外)。 なお、銀行・信用金庫等のほか、信託(投信を含む)、保険会社、政府関係金融機関などは通貨保有主体から除かれる一方、証券会社、証券金融会社、短資会社などは非金融法人として通貨保有主体に含まれる。郵貯は(M2+CD)には含まれず、M3に含まれる。
「ベースマネー」とは現金通貨と日銀当座預金残高を合計したもの。マネタリーベース、ハイパワードマネーともいう。
「準備金余」とは日銀当預から必要な準備額を引いたもの。低金利で銀行が運用先を失って、リスクがないので預けっぱなしにしている資金。これが増えたので日銀からの借入が減っている。
「銀行貸出」とは銀行が企業や個人に貸し出している額。マネーサプライにおける銀行貸出の比率の大きさから、銀行貸出の増減によりマネーサプライが増減することが納得いくはずだ。
「有価証券」とは銀行が保有する、株券・国債・外国証券などの資産。「実質預金」「銀行貸出」と比べてその大きさを知ってください。「銀行は資金が少ないので、預金や日銀からの資金提供があることによって貸出を伸ばす」 などとの、経済学業界の人たちのようなピント外れな見方はやめてください。
「広義流動性」とは(M2+CD)+郵便貯金+その他金融機関預貯金+金銭信託。1999年4月から外銀在日支店等を含めた新ベースの値。
平残と末残が混在している可能性があるので、大まかな数字として見て下さい。ベースマネー1995,1996年は数字が見つからないので空欄。一部原資料は10億円単位なので、1億の数字を0で表現した。
それぞれの年の出来事に関しては ゼロ金利政策・量的緩和政策を巡る略年表▲ を参照
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<さらなる数字による実証> 日常生活とはかけ離れた大きな数字に慣れたところで、「ベースマネーの増減により(原因)、マネーサプライが増減する(結果)」が神話であり、「マネーサプライの増減により(原因)、ベースマネーが増減する(結果)」が正しい、と実証するための数字を用意しようと思う。 統計資料の出典の違いによって年度・年次、平残・末残の統一がとれずまとめにくい。それでもアマチュアエコノミストにもこれほどのことができるのだ、と知らせたい。ちなみにTANAKAの調べた経済学の教科書 <主な参考文献>▲ で「所要準備率が1.3%である」と書かれたものはなかった。 また、「たとえば銀行営業日数20日の月に1日だけ入金し、すぐに引き出すと、準備金は130万円の20分の1、つまり6万5千円となる」とのことも、どの教科書にも載っていない。 上の表をジックリ見て、大きな数字に慣れて、経済学教科書のミミッチイ感覚を捨てて、マクロ経済を扱う勘とセンスを養ってください。
 次回更新は多分年明けになるでしょう。ご期待ください
(^o^)                  (^o^)                  (^o^)
<主な参考文献・引用文献>
新・東京マネー・マーケット              東短リサーチ編 有斐閣         2002. 8.10
日本金融年表 明治元年〜平成4年             沢本一穂編 日本銀行金融研究所   1993.10
経済統計年鑑2005 東洋経済臨時増刊        東洋経済新報社 東洋経済新報社     2005. 5.25
日本の統計2005                 総務省統計研修所 総務省統計局      2005. 3
統計でみる日本2005               総務省統計局監修 日本統計協会      2004.10
経済要覧平成16年版 長期時系列データ収録  内閣府経済総合研究所編 国立印刷局       2004. 6.10
統計要覧2005              日本政策投資銀行調査部編 日本政策投資銀行調査部 2004.12
日本金融年表 明治元年〜平成4年             沢本一穂編 日本銀行金融研究所   1993.10
日本金融年表  自明治元年─至昭和35年        日本銀行調査局 日本銀行調査局     1961. 6
外国経済統計年報 1952年版               鍵山覚編 日本銀行        1953.11.30
外国経済統計年報 1953年版               鍵山覚編 日本銀行        1954.11.20
本邦経済統計 昭和28年版                 鍵山覚編 日本銀行        1954. 3.31
金融経済統計月報2005 72号    日本銀行調査統計局長早川英男 ときわ総合サービス   2005. 3.25
( 2005年12月19日 TANAKA1942b )
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神話が生まれる背景と、新に生まれる神話
教科書の誤った「信用創造」の説明
<教科書が誤りをおかす原因、準備金の率とその扱い方> 現在日本の準備率は1.3%。しかしほとんどの教科書は10%として説明している。準備率が高いということは、銀行が貸出を多く実行するとそれに伴って準備金を多く積まなければならなくなる。 教科書の説明ではこうなる⇒貸出を増やすには、充分な準備金を用意しなければならないので、銀行は多くの預金を獲得したり、日銀からの借入に頼ることになる。
 1.3%ということは調べれば簡単に分かることだ。日銀のホームページ 準備預金制度における準備率▲ を見ればすぐ分かる。このような簡単なこともやらず手抜きして教科書を書いているのか、知ってはいるけれど率の高低は説明に影響なしと考えているのか、あるいは意図的に高い準備率で説明しているのか? どうしてこんな過ちをしているのかわからないが、ともかく多くの教科書がそろって10%として説明している。また、銀行貸出では、銀行が融資先企業に口座振り込みではなく、現金を手渡しするかのように書いている。では具体的にどのような説明なのか、いくつかの教科書の例を引用することにした。さらに、「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話が経済学者業界で信じられている、その背景となる考え方、また、その神話から生まれる「新たな神話」についても取り上げてみることにした。
準備率が10%だったり、20%だったり初めに取り上げるのは「準備率が10%だったり、20%だったり」という教科書。「仮に10%とすると」などという書き方をする必要はないと思う。 せいぜい「計算を簡単にするために、実際は1.3%だけど、ここでは1%として話を進めよう」なら、計算の苦手な学生のためになるかもしれないが……
 しかし、数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
*               *                *
『新版 図解 金融を読む事典』 日本総合研究所編 東洋経済新報社  2003.8.14
 このようにハイパワード・マネーからマネー・サプライを創り出す金融機関の機能のことを信用創造機能といいますが、これは一体どのようなものなのでしょうか。 例えば、日本銀行が金融機関に1億円を供給したとします。この時、預金準備率が仮に10%だったとすると、金融機関は1000万円は準備預金として日銀預け金に残し、あとの9000万円を貸出に回すことができます。
T注  準備率は正しく表示しましょう。読者が迷いますよ。
*               *                *
『事典 金融と経済のしくみがわかる』 芹澤数雄 中央経済社  1998.12.30
 以上のプロセスを、準備率が0.1、供給されるハイパワード・マネーが100億円であると想定して示すと、表のようになります。
<表 銀行行動のモデル> 
預金 100 90 81 ・・・
貸出 90 81 72.9・・・
現金準備 10  9 8.1・・・
 すなわち、供給されたハイパワード・マネー100億円が預金され、そのうち10億円が現金準備として保有され、残余の90億円が貸し出されるわけです。この貸し出された90億円が取引などに使われ、それが預金されます。この90億円のうち9億円が現金準備として保有され、残余の81億円が貸し出されます。
T注  日銀当預に預ける準備なのか、銀行が手元現金として保有すべき準備なのか?でも、そんな細かいことは問題にすべきでない、と言いたいのかもしれない、と思う。
*               *                *
『金融のすべてがわかる事典』 三宅輝幸 日本実業出版社  2001.11.1
 銀行が預金を受け入れてそれを貸出する過程で、全銀行では預金も貸出も増えていきます。こうした銀行の機能を信用創造といいます。
 A銀行が100億円の預金を受け入れました。A銀行は、10億円を支払準備として残し、90億円をJ社に貸出しました。J社は90億円を仕入代金としてK社に支払い、K社はそれをB銀行に預金しました。B銀行は9億円を支払準備として、残り81億円をL社に貸出しました。 L社は81億円を仕入代金としてM社に支払い、M社はそれをC銀行に預金しました。そして、C銀行は8.1億円を支払準備として、残り72.9億円をN社に貸出しました。
 こうした取引がC、D、E銀行……とさらに続いていくと、関わったすべての銀行では預金総額が1000億円となり、当初受け入れた100億円の預金が900億円増額することになります。すなわち、この一連の取引で900億円の信用創造が行われたことになります。
T注  神話を要領よく説明している文章だ。常識と思われることについては、疑う姿勢は持たない。それが通せる、幸せな生き方だと思う。
*               *                *
『入門 現代日本の金融』 玉木勝 シグマベイスキャピタル  2002.4.1
 銀行から企業に貸し出された際の資金は全額流出するわけではなく、貸出金の一部は預金として残ることになる。これは必ずしも当該貸出銀行だけを意味するのではなく、企業が他の銀行に預金することも含めている。 すなわち銀行システム全体としては貸出の何倍もの預金そして貸出が増えていくことになる。結局銀行システムメイリオ;全体としては預金者からの預金や中央銀行が市中銀行に貸出や手形・債券の買いオペにより供給した資金の10倍近い係数(これを信用乗数という)の貸出が可能であると言われる。このように銀行全体、つまり銀行システム全体として多額の信用(預金と貸出)が創造されていくことを銀行の信用創造という。
 銀行Aは預金者から1億円の預金(これを本源的預金という)を預かっている。この銀行Aは、すべての預金者が一斉に押しかけて預金全額を一度に引き出すことは起こり得ないこと、また、日々の支払に応じるには預金の10%程度を手許においておけば充分であることを、経験的に知っている。そこで銀行Aは、1億円の10%に相当する1000万円だけを銀行の金庫に残し、(これを現金準備という)、残りの9000万円を企業Pに貸し出す。 次ぎに9000万円の貸出を受けた企業Pは、その資金を企業Qに支払い、企業Qはその取引銀行である銀行Bに、9000万円を預金する。この瞬間に、もともと1億円しかなかった預金は1億9000万円に増えている。続いて銀行Bは、その10%の900万円を預金準備として残し、残りの8100万円を別の企業Rに貸し出す。企業Rはその資金を企業Sに支払い、企業Sは銀行Cに8100万円を預金する。(この時点で預金は2億7100万円にまで増えている) 銀行Cは、その10%の810万円を現金準備として残し、残りの7290万円を企業Tに貸し出す。
 このようにして預金と貸出の連鎖は無限に続き、最初の1億円の本源的預金から、最終的には総額10億円の預金と総額9億円の貸出が創造されたことになる。このような形で銀行の信用創造が行われている。
T注  準備とはそれぞれの銀行が手元に用意しておくもので、日銀当預は考えていない。
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『テキスト現代金融』 土田壽孝 ミネルヴァ書房  2004.1.30
 信用創造とは、銀行組織全体として当座勘定を通じる小切手による決済を媒介として行われる、預金通貨創出という貨幣供給機能のことです。
 銀行の預金通貨創出の根源となるのは、本源的預金といわれる現金通貨によって預け入れられる預金(現金準備)です。この本源的預金となりうる現金通貨のことを、ハイパワード・マネーとよんでいます。信用創造で生み出された預金通貨は、その名の通り預金として創出され保有されますが、この預金は派生的預金といわれます。
 初めに経済組織の中に市中銀行が1つだけあり、全ての取引決済が銀行内の当座預金口座振替で行われるという仮想敵な場合を想定しましょう。この場合にはこの銀行が保有する本源的預金は、中央銀行によって市中に提供された現金通貨の全部です。仮に100の本源的預金がこの銀行に預けられたとすると、その時点での銀行の貸借対照表は資本部分を無視して書くと、
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 資 産      │ 負 債
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現金準備 100  │本源的預金 100
────────────────┼───────────
資産合計 100  │負債合計  100   
となります。現代の預金準備制度は部分準備預金制度ですから、受け入れた預金の一定割合を預金引出しに対しての準備として残せばよいので、今仮にその預金準備率を10%としてみましょう。このことは銀行が受け入れた預金総額の10%の現金準備を持てばよいということですから、現に所有する本源的預金として受け入れた100の現金準備があるのですから、総額では1000の預金を受け入れられることになります。 つまり900は銀行が生み出した預金なのです。当然この生み出された預金は収益を稼ぐ貸出資産となるべく創出されたのです。このとき銀行の貸借対照表は、
────────────────┬───────────
 資 産      │ 負 債
────────────────┼───────────
現金準備  100 │本源的預金   100
貸 出   900 │派生(当座)預金100
────────────────┼───────────
資産合計 1000 │負債合計   1000   
となっています。現在の仮定の下では、銀行と資金取引のある人は全てこの銀行に当座預金口座を持っています。したがって、この900に相当する資金を借入た人は、その資金を何に使おうとしても支払いのためには全員がこの銀行の当座預金から資金を引き出す小切手を振り出すことになります。 その結果、誰かが支払のために振りだした小切手は、その小切手を受け取った人が再びこの銀行の受取人名義の当座預金口座に預け入れるわけですから、銀行内部では当事者の口座間の資金の振替だけで資金決済が完了します。 全員がこのように当座預金口座で小切手による決済を行う限り、銀行から現金準備の流出が発生しないので、銀行は900の預金通貨を発行し続けることができます。通常、当座預金には利息はつかないので、銀行は貸出からの収益を全部獲得できます。銀行から支払準備となるべき現金が流出するとそれに応じて預金通貨つまり銀行の貸出も縮小しなければならないことになります。
T注  銀行制度が出来始めた頃の話で、現代の金融制度の解説ではないようだ。
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『金融論』 {新版} 柴沼武・森映雄・藪下史郎・晝間文彦 有斐閣  2000.2.20
 前の項では、ハイパワード・マネーに乗数倍された貨幣が供給されることが示されたが、これは銀行の非銀行部門への貸付という信用創造過程を通じて行われる。こでは、中央銀行が増加させたハイパワード・マネーが、銀行の信用供与を通じてどのように貨幣を増大されるかを見てみよう。 ただしここでは、銀行は預金総額の10%を準備として保有し残りの90%を非銀行部門に貸出し、また非銀行部門は現金を保有せず、借り入れた資金はすべて銀行に預金するとする。(中略)
 支払準備制度の下では、日本銀行はこれらの法定準備率を変更することができる。法定準備率の低下は、貨幣乗数を上昇させるため、マネーサプライを増加させ、金融緩和効果をもつ。逆に、法定準備率の上昇は貨幣供給量を減少させる。
 窓口指導は、日本銀行が長く採用してきた政策の1つであったが、これは日銀が銀行の貸出増加額に対して規制を行うことである(日本銀行は1991年に、窓口指導を今後行わないと発表した)。これは、法定準備率の変更のように、貨幣乗数を増減させる政策であるとみることができる。 たとえば、銀行の貸出額の制約が保有準備の増加を意味するとすると、貨幣乗数は小さくなり、金融引締的効果をもつ。しかし、それが銀行の証券投資などに結びつくときには、その効果を弱めることになり、有効な政策でなくなる。さらには、この政策は民間銀行による効果的な資金配分を阻害するものであると批判されてきた。(中略)
 貨幣は現金通貨と預金通貨とからなるが、現金通貨は中央銀行によって直接供給される。中央銀行は、ハイパワード・マネーの供給量を変化させ、コールレートなどのインターバンクマーケットの利子率に影響を与える。預金通貨は貨幣乗数の大きさに依存し、また貨幣乗数は銀行の資産・負債管理および家計などの民間非銀行部門の資産選択によって決定される。
T注  現在の準備率は1.3%で、1991年10月に改訂されたが、それ以前は2.5%。アメリカのそれに比べれば準備率変更の効果は少ない。 アメリカの準備率については、 法定準備金要額▲ を参照のこと。
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『マクロ経済学』 明石茂生 中央経済社  2003.9.20
 ある市中銀行Aに中央銀行から(手形割引や手形貸出による)貸付があって、銀行A自身が余分に1,000万円を貸出する余裕ができたとしましょう。 ある企業に貸付が行われたとすれば、その貸出金1,000万円はその企業の口座のある銀行Bに振り込まれるでしょう。そのうち、2割が現金化されて残り8割の800万円が預金として預けられるとします。預金準備率が1割であるとしますと、銀行Bにとって同じくそのうちの9割である800X0.9=720万円が貸出に可能な金額です。
T注  数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
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『金融経済論』 里麻克彦 税務経理協会  2001.1.15
 マネーサプライは物価動向に強い影響を与え、適切な管理に注意を払わなければ、増加がインフレの原因となる。また、実質成長とも密接な関係がある。ところが、定義によるマネーサプライは、日本銀行にとって直接には量をコントロールできないのである。 日本銀行は、現金通貨と準備金と呼ばれる日本銀行への民間金融機関からの預金通貨からの預金量だけ直接にコントロールできる。マネーサプライの構成要素である預金通貨や準通貨については、民間部門が保有を選好する際に日本銀行の強制力は及ばない。 それに対して、物価水準や経済成長に深い関係を持つのは、マネーサプライ全体なのである。金融政策として貨幣量の調整が難しいのは、一部の貨幣量を通して、マネーサプライ全体を調整するということによる。この直接に調整可能な現金通貨と準備金である日本銀行への預金は、マネタリー・ベースあるいはハイパワード・マネーと呼ばれる。
 日本銀行は、民間金融機関から持ち込まれた手形の割引率である公定歩合を変更して、預金、貯金金利の収益率に影響を及ぼし、マネーサプライ全体を調整しようとする。これは、貸出政策と呼ばれる金融政策であるが、マネーサプライへの影響は間接的である。マネタリー・ベースとは、日本銀行が直接に調整できる預金の総額である。 次節であきらかにされるように、その何倍かのマネーサプライを生み出すことから、ハイパワード・マネーとも呼ばれる。(中略)
 金融機関は、貸出利息と貸出額から計算される総収入から、預金利息と預金総額の費用を差し引いたものを利益とする。この利益を最大にするような貸出額を決めるのが、金融機関の最適行動である。 ところが現代の銀行システムでは、現金が預金として金融機関に預けられるとき、全額を貸出しに振り向けることはできない。金融政策の手段として、また預金者保護の目的で支払準備制度が設けられている。これは、債務としての金融機関の預金について、支払準備あるいは法定準備率として決められた一定割合を、無利子で日本銀に準備として預け入れることを義務づけられている。 この制度により、金融機関はすべてを貸出に振り向けられないのである。前述のように、預金の払い戻しが不可能となる債務不履行に備える協同の資金準備が目的であった。 しかし、日本銀行がこの割合を政策的に変更すると、金融機関の貸出を調節して利用可能な資金量を直接増減できる。与信活動に影響を与えることにより、マネーサプライの増減をコントロールす上限るのである。
 現金通貨の増加は、預金準備率の逆数倍の預金通貨を創り出す。このプロセスは信用創造と呼ばれ、預金準備率の逆数を貨幣乗数あるいは信用創造の乗数と言う。 準備率を10%として 、上限まで貸し出されていく過程を考慮する。(中略)
 貨幣乗数 現金通貨の増加が、最大値として預金準備率の逆数倍の預金通貨をもたらすプロセスは、信用創造と呼ばれる。このことから、預金準備率の逆数は信用創造の乗数とも呼ばれる。信用創造の大きさは、預金通貨創造の波及、すなわちメカニズムの機能がどのように伝播していくかに依存している。 波及効果がなく、伝播の速度が速く完全であれば、預金通貨の創造額は理論値と等しく乗数倍となる。このようなメカニズムのいろいろな場合を想定して、マネタリー・ベース増加と貨幣供給量の関係をあきらかにしよう。(中略)
 金融政策は、裁量かルールか? 小さな政府と市場原理への移行は、1990年代の世界経済のキーワードであった。大きな政府による大きな財政支出と市場規制は、財政赤字と国際競争力の喪失を招いた。1980年代以降のイギリス金融ビッグバン、アメリカの規制緩和とサプライサイダーの経済は、大きな政府からの訣別と市況経済への復帰であった。 国家の役割を徐々に減らし、市場の価格メカニズムにその役割を委嘱していったのである。現代の経済政策は、市場メカニズムを重視した古典派経済学に回帰しているのである。
T注  日銀当預は準備金と日銀ネットを通じた取引のための資金とがあり、ベースマネーの内訳も問題にすべきで、単純に準備率の逆数とは言えない。
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『入門マクロ経済学』 第2版 井堀利宏 新世社  2003.11.10
 貨幣供給の総需要を拡大させる効果は、「貨幣乗数」と呼ばれる。(中略)
 貨幣の供給メカニズムでは、中央銀行が直接コントロールできる貨幣であるハイパワード・マネー(あるいは、マネタリーベース)が重要な役割を演じている。ハイパワード・マネーとは、中央銀行の債務項目である現金通貨と預金通貨銀行(=市中銀行)による中央銀行への預け金とを加えたものである。 言い換えると、ハイパワード・マネーは中央銀行の債務の主要項目を形成し、その一部が民間によって直接現金通貨として保有され、残りは、預金通貨銀行の準備となる。
 ここで、貨幣の信用乗数を説明しておこう。一般に、銀行は預金に充てる現金を100%準備しておくことはない。現金で持っていても何の収益を生まないからである。それよりも、貸出に回して収益をあげようとする。中央銀行は、市中の銀行に対して、支払に準備のために現金を中央銀行への預け金の形で、保有するように求めている。 このとき、預金に対する中央銀行への預け金の比率を、預金準備という。現金通貨が、預金準備率の逆数倍の預金通貨をもたらすプロセスは、信用創造と呼ばれている。準備率の逆数は、信用創造の乗数と呼ばれている。(中略)
 いま、預金準備率が10%であるとして、信用創造のメカニズムを説明しよう。現金が10億円だけ増加したとする。これは、さしあたっては、どこかの銀行の預金の増加となるだろう。このとき、銀行は10X0.1=1億円を中央銀行への預け金に回し、残りを貸付に回すだろう。 なぜなら、銀行は貸し付けによって得られる利子率をそのまま収益源としているからである。貸し付けられたお金は、どこかの銀行の口座に振り込まれる。その銀行は、9億円のうち、9X0.1=0.9億円を中央銀行への預け金に回し、残りの8.1億円をさらに貸付に回す。
T注  数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
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『マクロ経済学』 新経済学ライブラリ=3 浅井和美・加納悟・倉澤資成 新世社  1993.2.25
 信用創造のメカニズムを理解するために、次の例を考えてみよう。説明を簡単にするために、法定準備率を10%とする。いま、新しく銀行Aに100億円預金されたとしよう。銀行Aは、預金の10%を支払準備として手元に保有し、残りの90億円を企業aへ貸出す。企業aはそれを企業bに対する支払に当て、企業bがこれを銀行Bに預金すると、銀行Bには新たに90億円の預金が増える。 銀行Bは10%の9億円を支払準備として手元に残し、残りの81億円を貸し出す。貸出を受けた企業cはそれを企業dに支払い、企業dは銀行Cに預金する。こうした連鎖を考えると、銀行B、銀行C、と次々に預金が派生し、増加する。(中略)
 総預金と本源的預金の比率(先の例では10)は信用乗数と呼ばれる。信用乗数は、預金準備率の逆数となることに注意しよう。一般に預金準備率をkとすると、信用乗数は1/kとなる。 日本における預金準備率は平均すると、およそ2%程度であり、これをもとに信用乗数を求めると1/0.02=50となる。 したがって、上で説明した信用創造メカニズムが理論通り機能するならば、100億円の本源的預金に対して、5000億円の総預金が創造されうる。(中略)
 単純な想定のモデルを前提にすると、マネーサプライは、ハイパワード・マネーと貨幣乗数の積に等しい。したがって、もし貨幣乗数が安定的であれば、ハイパワード・マネーのコントロールによって、マネーサプライの管理が可能になる。実際、金融政策の責任主体である中央銀行にとっては、マネーサプライの管理が主要な関心事の1つである。
 貨幣供給(とくに、ハイパワード・マネーの供給)が、通貨当局あるいは政府の収入を増加さっせる事実も見逃してはならない側面であろう。これはシーニョレッジと呼ばれた、シーニョレッジが得られるのは、中央銀行の負債が、実質上永久に返済する必要のない負債だからである。
T注  「日本における預金準備率は平均すると、およそ2%程度」ではない。
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『初級・マクロ経済学』 鴇田忠彦・足立英之・藪下史郎 有斐閣  1998.6.20
 日銀は金融機関から入札によって、たとえば1兆円の国債を購入するとしよう。すると1兆円の国債の代金、つまり日銀券が金融機関に支払われる。金融機関はこの1兆円を貸し出すことで利息を得ようとする。 仮に各金融機関は企業などに全額を貸し付けたとしよう。このとき一般的には各金融機関は、各企業の取引先の金融機関(自行を含む)に振り込むことになる。すると各金融機関は預金は1兆円増加したことになる。各金融機関は再びこの預金を貸し付けるのだが、このとき各金各融機関は増加した預金のうち、一定部分たとえば単純化のために10%を、日本銀行に準備預金として保有しなければならない。 この割合が法定準備率である。1兆円の預金増加のうち90%の9000億円だけが、各金融機関にとって貸出可能な金額である。そして再びこの金額を全額貸し付けたとしよう。前と同様に9000億円は各企業の口座に振り込まれ、各金融機関の預金が同額だけ増加する。各金融機関はやはり10%だけ日本銀行に準備預金し、残り8100億円は各企業への貸し付けにまわす。このようなプロセスは、際限なく続いていく。
T注  単純化するなら、「1%」でいい。このように実際よりも大きい数字を使うことによって、「高い準備率のために、貸出が制約される」との印象を与えることになる。
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『経済学 基礎から実戦へ』 中桐宏文 有斐閣  2000.4.10
 ところで、貨幣の供給のメカニズムはどのようになっているのだろうか。(中略)
 民間銀行(信用創造能力をもつ民間金融機関)が行う非金融企業への貸出には、銀行組織全体からみるとき、預金通貨を創り出す独特のメカニズムがある。当初の本源的預金の数倍の預金通貨を創り出すことができる。そのメカニズムは次ぎのようなものである。
 いまある人がP銀行に現金で100の預金(これを本源的預金という)をしたとする。P銀行は、支払準備として100のうち10(仮に支払準備を10%とする)を残し、90を貸出(または有価証券投資)に充てることができる。(中略)
 中央銀行(たとえば日銀)が直接コントロールすることができる貨幣量のことをハイパワード・マネーまたはマネタリー・ベースといい、通貨当局が発行する通貨と民間銀行が中央銀行に預ける預け金の合計がハイパワード・マネーとなる。
T注  数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。
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『ベーシック/金融入門』 日本経済新聞社 日本経済新聞社  1989.4.10
 銀行の役割は大きく分けて3つあります。1番目は「金融仲介機能」(信用仲介機能ともいいます)。この機能は前節で説明した通り、最終的な借り手と最終的な貸し手を仲介する機能です。この機能を果たすために銀行は預金の受け入れと貸し出しという業務を営んでいます。
 2番目は「決済機能」です。私たちはモノやサービスの代価としておカネを支払います。支払いによって取引は終了するわけですが、この支払い行為が決済です。最も基本的な決済は現金ですが、現金では不便なことも少なくありません。遠隔地にいる人や企業との取引、巨額の取引などを想像して下さい。 大量の現金を持ち運ぶのは大変です。そこで同じ通貨でも第1節で説明した預金通貨が登場します。小切手・手形、クレジットカード、自動口座振替、振込などで決済する方式です。いずれも銀行の預金口座が決済の舞台になります。預金口座を扱っているのは銀行だけで、これが銀行の決済機能の源泉です。
 3番目は「信用創造機能」と呼ばれるものです。銀行は受け入れた預金のうち一定額を支払い準備として手元に置いたり、日銀に預けています。しかし預金すべてを支払い準備にしておく必要はありません。このため銀行は最初に受け入れた預金の何倍もの貸し付けをすることができます。
 まず100万円の預金を受け入れたとします。この預金を便宜上、本源的預金と呼びましょう。銀行はこのうち20万円を支払い準備にあて、80万円を貸し出します。貸し出された80万円はいずれ使われるのですが、とりあえず銀行に預金されます。 この80万円分の預金を派生的預金といいます。派生的預金についても銀行は一定の支払い準備をしたうえで、残りを貸し出します。ここでも借り手がいったん預金すれば、もうひとつ派生的預金ができ、銀行はまた支払い準備の残りを貸し出します。 これを繰り返していけば、銀行は本源的預金の何倍もの貸し出しができるわけです。これが銀行の「信用創造機能」です。もちろん信用創造は無限にできるわけではありませんが、銀行は預金をもとにおカネをつくり出すことができ、それによって経済が円滑に回っていくのです。
T注  数字はキチンと正しいものを使った方が良い。教科書ならそうすべきだと思う。これでは「法定準備率は20%だ」と誤解してしまう。
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<準備率が何パーセントかハッキリさせない教科書> 民間銀行は受け入れ預金額に対して準備金を日銀当座預金口座に積まなくてはならない。けれどもどの程度積まなければならないのか、具体的な数字を書かない教科書もある。 教科書の著者はその率を知らないのではないか?と心配になる。少なくとも、その教科書で学ぶ学生は知らないし、知ろうともしないかも知れない。金融経済学を学ぶ態度がそのようなものなら、「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話を疑うこともないだろう。 そうして、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と同じように、自分では善悪を確かめず、他人の動きに逆らわず、従って行くことになる。
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『金融』 小野善康 岩波書店  1996.1.22
 日本銀行による民間金融機関への貸出しや、民間金融機関の発行する手形の購入によって、日銀から民間金融機関に流れ出た資金は、民間金融機関から企業や家計に貸し出されるか、あるいは民間金融機関による国債、株式、債券などの購入によって、非金融機関に資金が流れていく。こうして非金融部門に流れ出た資金は、その大きな部分が金融機関の預金として再び金融機関に環流してくる。 こうして金融機関に環流した資金は、一定率の預金準備(預金者の預金引き出しに対する準備金)を残しながら、残りは再び貸出しや債券・証券類の購入に使われて非金融部門に戻っていく。こうした金融機関の信用創造プロセスを繰り返すことにより、日本銀行によって発行されたハイパワード・マネーは、その何倍もの貨幣(=現金通貨+預金通貨)として、民間非金融部門に保有されることになる。
 こうした信用創造の乗数を信用乗数と呼ぶが、これについては次項で詳しく論じることにする。なお、預金準備は通常、民間金融機関による日銀への無利子の当座預金(日銀預け金)として保有される。
T注  準備率は日銀のホームページでも、『金融経済統計月報』でも調べることができる。
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『マクロ経済学』 <やさしい経済学シリーズ> 浜田文雄 東洋経済新報社  2002.4.30
 日本銀行は、財政収支や貿易などの国際収支の変動によって、現金通貨が民間に供給される量が多すぎたり不足したりすることが起きないように絶えず調整する責任を負っている。そのために、日本銀行は民間の貨幣市場から余分な貨幣量を吸い上げたり供給を増やしたりする。 そのための手段として、日本銀行は民間が保有する政府発行の証券(政府短期証券や中・長期の国債など)を買い取ったり、短期の銀行間での資金取引をするコール市場への資金の供給を調節したりする。 日本銀行のこのような活動は、政府や民間の取引によって生じる現金通貨の貨幣市場への流出入を政策的に安定化させる役割を果たしている。
 日本銀行は、この他にも民間金融機関への貸出しをするという形での現金通貨供給も行っている。これは日本銀行の民間金融機関への信用供与という。したがって、現金通貨供給の要因は、政府の財政収支と民間の貿易などの国際収支、そして日本銀行の信用供与と貨幣供給総額の調整的な現金通貨の供給の合計であるということになる。 民間に供給された現金通貨の一部は銀行などの金融機関の内部と金融機関以外の民間に保有されることになる。この総額は、貨幣全体のもととなることから、ハイパワードマネーと呼ばれている。
 民間の銀行は、消費者や企業が貯蓄した現金が預金として入ってくると、その一部を預金支払い準備として、残りを貸し出す。こうして貸し出された資金の大半は、いろいろな支払を経てまた預金される。このような預金を銀行の派生的預金という。これに対して、貯蓄から行われた最初の預金は本源的預金という。 本源的預金は銀行貸出しを通じて次々に派生預金を生み出す。これらの預金はすべて現金通貨と同じように貨幣としての役割を果たせるから、これらの預金は預金通貨と呼ばれ、貨幣供給のなかでもかなり大きな割合を占めている。 貨幣供給総額は、現金通貨と預金通貨の合計である。ハイパワードマネーに対する貨幣供給総額の比率は、貨幣乗数と呼ばれている。信用乗数の最近の値は、約13弱である。1997年の貨幣供給残高は、年平均で約570兆円であり、これは同じ年の国内総生産507兆円の1.12倍である。
 日本銀行は、貨幣供給量つまり民間の現金通貨と預金通貨の合計がマクロ経済の規模と比較してちょうど適切な量になるように、民間の貨幣量を絶えず調整することを最重要の課題としている。もし、上に述べたような原因で日本銀行の貨幣供給量が増加すると、日本銀行は、金融市場を通じて手持ちの有価証券を売ったり、民間銀行への資金の貸しだしを抑制したりすることで、民間から現金通貨を引き上げる政策を実行する。 したがって、日本銀行は日本のマクロ経済に対する貨幣供給量を直接・間接に調整しているということができよう。
T注  準備率は日銀のホームページでも、『金融経済統計月報』でも調べることができる。
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『マクロ経済学のナビゲーター』 (第2版) 脇田成 日本評論社  2004.12.20
「銀行は預金を貸し出して、その利ざやで儲けるんだけど、預金を全部貸し出してはならないんだ。何%かは残しておいて、急な引き出しに備えなければならない。このパーセンテージを預金準備率と言うんだ。
 中央銀行は受け身の貨幣供給を行うと考えるのが銀行主義
 マネーサプライは中央銀行が制御できると考えるのが通過主義
 マネーサプライ論争
 「このような貨幣の相異なとらえ方を背景として、バブル期のマネーサプライ急増とその後の急減に対する日本銀行の金融調節方式を巡って岩田・翁の「マネーサプライ論争」が行われた。
 その中で
  岩田規久男教授らが通貨主義の立場で日本銀行のマネーサプライ調節の失敗を追求するのに対し
  日本銀行の翁邦雄は銀行主義的な弁明をとって、決済を円滑に進めるためには銀行の要請に基づき貨幣を受動的に供給するしかないと主張したんだ」
 ──受動的で決まるって言い方だと日本銀行にはもともと金融政策の遂行能力がない、と言っているようなものじゃないですか。
 「こう考えるとマネーサプライ論争とは端的に言って、金融調節を名目金利あるいは「価格」をターゲットにするか、貨幣供給量あるいは「数量」をターゲットにするかの論争であると言っても良いのかもしれない。
 実はこのような論争は過去にも繰り返されているのだけれど、ここで疑問なのは、たとえどのような調整メカニズムであったとしても、異常な資産価格の上昇は金融政策の失敗以外のなにものでもないはずなのに、なぜ同じような論争が繰り返されるのか、と言うことだね」(中略)
金融政策運営の「3段階アプローチ」
 政策手段  中央銀行貸出金利操作、準備率操作、市場操作
  ↓
 操作目標  ハイパワードマネー、準備量、短期金融市場金利
  ↓
 中間目標  マネー・サプライ、信用量、長期金利
  ↓
 最終目標  物価安定、経済成長と雇用増加
T注  準備率は日銀のホームページでも、『金融経済統計月報』でも調べることができる。 「なぜ同じような論争が繰り返されるのか」と言えば、経済学者業界の人たちが、日銀関係者の言うことを理解しようとしないから。
(^_^)                (^_^)                 (^_^)
<準備率以外のいろいろな問題点> 「景気対策、日銀にできること、できないこと」と題して日銀に関する問題を扱った。基本的な態度は「日銀に対するいわれなき批判と、多大な期待があるようなので基本的なことを押さえておこう。」 ということで書き始めた。インターネットの掲示板などで、日銀に対して多大な期待をしている意見が見受けられたからだ。「アマチュアだからしようがない」と思いながら書いたのだが、経済学者業界でも日銀に対して過大な期待を持っている人がいるようだ。 「日銀はベースマネーをコントロールし、それによってマネーサプライをコントロールする」との期待がある。期待していいのか、悪いのか、それにはマネーサプライが増加する仕組みを理解する必要がある。学生にその仕組みを説明せず、日銀に対する期待を書いている教科書もある。 そうした点も含めて、準備率以外に問題がある教科書を取り上げてみた。
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『はじめて学ぶ金融のしくみ』 家森信善 中央経済社  2004.12.10
 貨幣乗数の考え方に基づきますと、中央銀行の作り出したマネタリーベースに対して、乗数倍のマネーサプライが生み出されることになります。なお、貨幣乗数については8.1節で詳しく説明します。(中略)
 マネーサプライと経済活動の関係が弱まっている理由としては、@金融システム危機による金融機関の貸出能力の低下、Aゼロ金利によって他の金融資産とマネーとの代替性の高まりなどが指摘されています。
 このようにマネタリーベースの変化によって経済活動に影響を与えるという金融政策の有効性は、貨幣乗数の観点でも貨幣の流通速度の観点でも低下しているということになります。
 前節で見たように貨幣と経済活動の関係は近年弱まり、また不安定化しています。5.4節で金融政策の効果波及のメカニズムに対して、銀行の貸出を通じるルートを強調するクレジットビューという見方があります。
 クレジットビューの立場から見ると、金融政策の効果が弱まっているのは銀行の信用創造機能が低下しているからだと言うことになります。簡単に言えば、お金が余っていても銀行が貸出を行わないので、企業が投資を行えないというわけです。 実際、バブル崩壊後、銀行貸出は減少を続けています。
 また、銀行の信用創造機能(預金1からどれだけの貸出が生み出されているか)は1999年頃から急激に低下しています。こうした銀行の信用創造機能の低下が、金融政策の効果を大幅に低下させたために、資産担保証券の買入オペのような「非伝統的な」手法を日本銀行が採用せざるを得なくなったのです。
T注  「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話を正当化しようとして、いろいろ新しい新しい理論を生み出そうとする。まるで、ウソをついて、それをごまかすために新たなウソをつくのに似ている。 「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」のではなくて、「マネーサプライの増減により、ベースマネーが増減する」と言えば、問題は解決するのに……
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『マクロ経済学入門講義』 田中宏 慶應義塾大学出版会  2002.2.1
 ではハイパワード・マネーの大きさを規定する要因はなにか。ハイパワード・マネーを発行するのは中央銀行のみであるから、このことは中央銀行がどのような事由によってハイパワード・マネーを発行するかということである。 それは、(a)外貨の買い入れ、(b)民間銀行への貸出の増加、(c)公開市場での債券・手形の買い操作である。ハイパワード・マネーを減少させるのはこの(a),(b),(c)の各項目が逆の動きをするときである。つまり(a)外貨の売り出し、(b)民間銀行への貸出の減少、(c)公開市場での債券・手形の売り操作である。これらはハイパワード・マネーの源泉 (sources) であり、いわばハイパワード・マネーの供給面を指している。 
T注  日銀がオペによりベースマネーを増減させるのは確かだけれど、各銀行は日銀借入を増減させたりして、ベースマネーを増減させることもできる。そうした民間銀行の動きを日銀が規制することはできない。
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『入門 金融』 (第3版) 黒田晃生 東洋経済新報社  2002.5.24
 一般に中央銀行の金融調節は、第4章で登場したハイパワード・マネーの需給を調節することによって、短期金融市場金利(略して短期金利)をコントロールすることと言い換えることができます。 ハイパワード・マネーは、民間金融機関が保有している中央銀行当座預金(および、手持ち現金通貨)と企業・家計などが保有する現金通貨の合計として定義されます。そして、そうしたハイパワード・マネーを供給できるのは、銀行券の独占的発行者であり、また中央銀行当座預金(準備預金を含みます)の提供者である中央銀行なのです。 以下では中央銀行の例をとって、ハイパワード・マネーの需給均衡によって、短期金利が決定されるメカニズムについて解説します。
T注  金融政策の基本姿勢として、@短期金利を操作する。Aマネーサプライを操作する。の2つがある。@は日銀の考えで、Aは経済学者業界の人たちの考えだ。ハイパワード・マネーという言葉を使うのは業界人で、短期金利を問題にするのは日銀当局。この説明は両者の考え方の違いを一緒くたにしている。
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『金融論』 増補改訂版 柴沼武 創成社  1999.3.31
 そもそも現実の日本銀行券の増減は、日本経済における所得、消費、投資等の動き、つまり経済実体面からの需要によって左右される面の方が強いのである。したがって、金融市場の動きをみる限り、国際収支の動き、財政収支の動き、民間からの日本銀行券の需要の動き、などを反映した日本銀行券への総需要の大きさが金融市場の外部から与えられ、 それに基づく金融市場での需給関係の過不足が、最終的な貸し手としての日本銀行の日本銀行券供給によって調整されるとみるほうが現実的であろう。
 そうであるならば、日本銀行の銀行券供給の自立性はまったくないのであろうか。そうとは言えないであろう。日本銀行は、金融政策を通じて国内の実体経済(とくに景気)を調整し、実体経済面から発生する資金需要を動かすことによって、間接的にタイム・ラグを伴う銀行券の発行量・供給量を調節することができるはずである。 金融政策の意義もまたここにあるのである。さらに日本銀行は、金融行政・金融政策を通じて、銀行貸出を中心に民間金融機関の行動を動かし、預金通貨も含めたマネーサプライ全体をコントロールすることもできよう。つまり、預金通貨量に引きずられがちな現金通貨量を、預金通貨量のコントロールを通じてある大きさに制限することができるのである。 このような点からみて、日本銀行は銀行券の増減について当然その責任が問われることになろう。
 現在では、中央銀行は銀行券の供給をほぼコントロールできるとする見方が通説となっている。
 また、より広義の貨幣としてのマネーサプライの発生の基礎となるものとして、ハイパワード・マネーあるいはマネタリー・ベースと呼ばれる概念が注目されるようになった。これは、現金通貨発行高に金融機関の中央銀行への預金を加えたものである。 中央銀行はこのハイパワード・マネーをコントロールできるかどうかについては、種々の議論もあるが、それはほぼ可能であるというのが多くの研究者の見方である。(中略)
 さて、マネーサプライは上述の貨幣乗数とハイパワード・マネー供給量の積に等しいわけだから、もし貨幣乗数が安定的で一定の係数であり、しかも中央銀行がハイパワード・マネーをコントロールできるとすれば、中央銀行はマネーサプライをコントロールすることができることになる。
 ハイパワード・マネーの供給に関しては、それは市場での需要動向に応じたものであるため、中央銀行は一方的に決定することはできないとする見方もあるが、現在ではすでに述べたように、金融政策等を通じて中央銀行はそれをほぼコントロールすることができるとする見方が有力となっている。
T注  大切なのは、赤信号でみんなが横断歩道を渡っているかどうか?ではなくて、交通ルールでは赤信号とはどういうことか?渡っていいのか、悪いのか?あなたはどのように考えますか?ということだ。
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『経済学入門』 21世紀型文明をどう築くか 正村公宏 筑摩書房  1999.5.25
 民間金融機関が保有する現金通貨と民間金融機関が中央銀行に預けている当座預金は、民間金融機関が顧客から受け入れている預金のために支払準備である。 民間金融機関は、支払準備の何倍かに預金残高と貸出残高をもつ。何らかの原因で中央銀行券の発行残高や民間金融機関が中央銀行にもっている当座預金の残高が増加すれば、支払準備が増加するから、民間金融機関の預金残高と貸出残高も増加する。 新しく貸し出された資金は、多くの場合、企業や個人の資金となり、預金通貨として使われる。 現金通貨と民間金融機関が中央銀行に預けている当座預金は、預金通貨の基礎であり、その増減は何倍かの預金通貨の増減を伴う。 そのため、「ベース・マネー」 (base money) または「ハイパワード・マネー」 (hight-powered money) と呼ばれている。
T注  経済学の入門書ではあるが、金融問題は大きなテーマではないので、簡単に書き流している。その程度なので、あまり突っ込むのは止めにしておこう。
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『現代マクロ経済学』 吉川洋 創文社  2000.8.15
 マネーサプライの90%以上は「預金」であり、マクロ的に預金量を変化させる主因は民間銀行による貸出しである。したがって、日本銀行はマネー・サプライを直接コントロールすることはできない。 しかしハイパワード・マネー(現金通貨プラス預金準備)の供給量をコントロールすることを通して、中・長期的にはマネー・サプライをコントロールすることができる。 これがスタンダードな考え方である。有名な「信用乗数」の公式はこうした考え方を要領よく表現したものである。
T注  「これがスタンダードな考えで、私は自分の意見を持たないので、スタンダードな考えを採用します」と言っている。
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『ベーシック マクロ経済学入門』 井上歳久 プレアデス出版  2005.2.28
 いま、ハイパワード・マネーとして1,000の通貨が市中に供給されたとする。これを受け取った人は、銀行に預ける。預けられた銀行は、利ザヤを稼ぐために一定の準備率(例えば預金の10%)を銀行に残して残部を他人に貸し出す。 貸し出された人はこれを自分の口座のある銀行に預け入れる。その銀行は、同様に一定の準備金(10%)を残して他を別の人に貸し出す。この連鎖が無限に繰り返される。
 ここで、銀行に残った現金と預金のそれぞれの計を計算してみよう。銀行に残った現金の計は1,000であり、ハイパワード・マネーと一致する。しかし、預金として創造された金額は10,000であり、ハイパワード・マネーの10倍の通貨が創造されている。これが銀行システムによる通貨創造である。(中略)
 日銀は、4章で述べた理論モデルとは異なり、ハイパワード・マネーを直接コントロールするのではなく、公開市場操作などにより「短期金利」を目標に誘導することによりマネーサプライを間接的にコントロールし、通貨価値の安定などの最終目標を達成しようとしている。 日銀に関する各種の著述から推定すると、日銀の金融政策に関するスタンスは以下である。
@) マネーサプライ(M2+CD)とは、預金通貨が主な要素であり、それは銀行の信用創造行動や企業・家計などの資産選択行動の結果として定まる。日銀は、それを間接的にコントロールしうるにすぎない。
A) ハイパワード・マネーを直接コントロールすることはできない。短期金利を変化させることによりマネーサプライを変化させて、最終的な目的を達成する。
B) 日銀の政策遂行の方法は、市場の自由取引を前提として、それに悪影響を与えないように、市場参加者の一員として市場に影響を与える方法で行われる。
 この日銀理論を、通常の貨幣乗数アプローチと対比してみよう。
 貨幣乗数アプローチ(理論モデル)では、操作手段は準備率操作などによる「ハイパワード・マネーの供給量」であり、これを変化させることによって市中にはハイパワード・マネーの乗数倍の通貨が供給され、利子率が下落して投資が促進されGDPの増加につながる。
 これに反して日銀理論では、短期市場金利であるコール手形レートを至近の操作目標とし、これと中間目標であるマネーサプライ、および最終目標としての物価安定やGDPの水準の間に安定した関係を仮定し、公開市場操作や公定歩合の変更などを通じて至近目標であるコール手形レートを操作し、金融政策の最終目的である物価安定や経済成長を実現させようとする。これは「金利政策」である。
 しかし、この金利政策も時代とともに変化している。1975年(s.50年)以降、日本では様々なオープン市場が発達し短期金融市場の規模が拡大した。これによってコール手形市場の占める比率が低下し(79%/1976年→40%/1997年)、至近目標であるコールレートが次第に周辺のオープン市場の金利の影響を受けやすくなり、日銀はコールレートを早期に特定の水準に誘導することが困難になった。 また、1980年代の後半には中間目標であるマネーサプライ(M2+CD)の予測値と実績値が大幅に乖離するようになり、日銀はマネーサプライを中間目標として政策を運営することが困難になった。このため、1980年代後半以降、日銀では様々な指標を見ながら政策の効果を総合的に判断する方式に移行したといわれる。
 その後、デフレ対策としてマネーサプライを増加させることを目的に、コール市場の翌日物金利をゼロに誘導するゼロ金利政策が採用された。さらに、日銀は金融政策の誘導目標をコールレートから、市中銀行が日銀に持つ当座預金の残高に変更する金利政策から量的緩和政策への転換である。 量的緩和政策の初期には銀行の当座残高が5兆円となるように調整が行われた。その後これは増額され2004年1月には当座残高の目標は30〜35兆円となっている。しかし、この量的緩和政策は、その効果や影響が未知の分野である。
T注  「(例えば預金の10%)」も問題だけど、通貨が増えることと、利子率が低下することは同時に起こることではないと思う。@ベースマネーが増えることによって利子率が低下する、と言う日銀の考えと、Aベースマネーが増えることによってマネーサプライが増え、それによってデフレを脱却できる、との「貨幣乗数アプローチ(理論モデル)」の考えがあるのだと思う。 両者の考えが混ざって書かれている、と思う。
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『現代金融論講義』 藤原賢哉・家森信善 中央経済社  1998.4.15
 まず、Aさんが手持ちの資産を中央銀行に売却して現金100万円を受け取り、それをB銀行に預金したとしよう。B銀行はその資金の一部を手元に残して、残りの90万円を企業Cに貸し付ける。 貸付を受けた企業Cは、この90万円を全部企業Dへの支払に充てる。90万円を受け取った企業Dは、銀行Eは、先の銀行Bと同様に、一部を手元に残して、残りの81万円を企業Fに貸し付ける。以下同じようなことが無限に続いていく。
 このプロセスを預金(マネーサプライの構成要素)の増加で整理してみると、まず、Aさんの100万円の預金があり、次に、企業Dの90万円の預金がある。以下、81万円、72.9万円、65.61万円……と無限に預金が行われることになる。 このように当初の100万円の預金(本源的預金と呼ぶ)が、結局いくらの預金を誘発しているかは、無限等比級数の和の公式を使って簡単に求めることができる。
 上記の例では、100万円の本源的預金は10倍の1000万円の預金(マネーサプライ)を生み出すことになる。このようにマネタリーベースの何倍ものp貨幣が創造されるので、このメカニズムを貨幣創造と呼んでいる。ちなみに、この倍数(ここの例では、10)を貨幣乗数と呼んでいる
T注  日本銀行は個人と直接取引はしない。
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『目からウロコの経済学』 山崎好裕 ミネルヴァ書房  2004.11.20
 法定準備率が1%、民間の現金預金保有比率が11%だったとしよう。マネタリーベースが69兆円であるとき、マネーサプライはいくらか。 
 中央銀行は、いろいろな方法でマネーサプライを調整することによって、お金の量を経済の大きさにふさわしいものにしたり、経済に制限を与えたりする仕事をしている。だが、この場合、民間の持ち物である預金に直接手をつけることはできないから、間接的な手段に頼らざるをえない。 中央銀行が比較的直接手を下せるのは自らが発行している現金通貨と、民間銀行の預金の一定の割合を中央銀行に預け入れることが法律で決まっている預金準備である。これら2つを合わせた呼び名がマネタリー・ベースだ。ベースマネーとかハイパワード・マネーともいったりするが、すべて同じものを指している。
 例の計算は、預金を基準にして考えるとわかりやすい。預金1に対して、預金準備は0.01、現金は0.11だから、マネタリーベースの割合は0.12にあたる。マネーサプライは同様に1.11になる。したがって、69を0.12で割って預金の合計金額が出て、これを1.11倍すればマネーサプライが求められる。マネーサプライは638兆2500億円である。(中略)
 日銀が買いオペでお金を提供すると、銀行間でお金を貸し借りする必要がなくなるのでコールレートが下がるということで影響がでる。しかし、近年日本では、日銀の度重なる金融緩和でコールレートがゼロまで下がって久しい。だから、すでに述べたように、日銀が現在、日銀当座の金額に直接目標を立てて、マネーサプライの増加をそれによって図ろうとしているのである。
T注  算数のクイズ問題としてはいいだろうが、ベースマネーとマネーサプライの関係はそれほど簡単ではない。
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『新しい日本経済講義』 新保生二 日本経済新聞社  2004.1.5
 量的緩和の効果を巡っては意見が大きく分かれているのが実情です。過去においてはマネタリーベース増加率とマネーサプライ増加率の関係は密接でした。ところが、バブル崩壊後この関係が乱れてきています。
 90年代に入ってからマネーサプライ増加率がマネタリーベース増加率を下回る傾向が見られます。言い換えれば、貨幣乗数(=マネーサプライ/マネタリーベース)の低下傾向が見られるということです。 とくに日銀は2001年春先から「量的緩和政策への転換」を表明し、現実にもマネタリーベースの増加率を大きく高めてきていますが、それに見合ってマネーサプライ増加率が高まっていません。
 まず、90年代に入ってから貨幣乗数の低下傾向が見られる理由を考えてみましょう。1つは、銀行貸出が過剰の状態にあるため、それを是正するために銀行貸出が傾向的に減らされていることが、貸出を伸びにくくし、貨幣乗数を引き下げているのかもしれません。もう1つは、不良債権問題が深刻でそのために貸出態度が慎重化し、やはり貨幣乗数を引き下げるように作用しているのかもしれません。
 このようにマネタリーベース増加率とマネーサプライ増加率の関係が変わってきたのは事実ですが、その程度をしっかり把握する必要があります。 というのは、関係が全くなくなったのであれば、マネタリーベースを増やす政策をやる必要はありません。しかし、関係が弱くなっただけであれば、マネタリーベースを強力に増やす政策をとる必要があるからです。
 ここからは、ややめんどうな式や計算が出てきますが、決して難しいわけではありません。189ページまでは、実際に貨幣乗数が低下していることを理論的・実証的に確かめる作業です。(中略)
 つまり、マネタリーベース増加がマネーを増やす効果が小さくなったというのは事実ですが、ゼロになったということではないということです。このことは重要です。効果がゼロになったのなら、量的緩和という政策は取る意味が有りません。しかし、その効果が小さくなったということであれば、全く話は別です。より思い切って量的緩和を進めるべきだという結論になるからです。(中略)
 金利がゼロに張り付いていても、日銀は貨幣を創出することはできます。その例として彼(ヘッツル)は次の2つの方法を挙げています。
 1つは、日銀が財務省の預金を増やす形でマネタリーベースを増やし、財務省はその預金で個人に小切手を郵送するという方法です。(中略)(T注 かつて公明党が主張して実施された「地域振興券」と同じ発想。関係者なのかな?)
 金利ゼロの状況で貨幣を創出するもう1つの方法は、日銀が国債、社債、株式などを買い入れることによりマネタリーベースを増やすことです。日銀が買い入れる資産が貨幣と完全に代替的でない限り、個人に対する小切手の送付の例と同じように、過剰なマネーサプライを創出することによりポートフォリオ・リバランシングを引き起こし、名目GDPを増やすことができます。
T注  「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話を正しい理論として守り通したいのだろうが、これは宗教の問題ではない。目を見開いて、違った観点から神話を眺めてみましょう。
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<せっかく良いところに目を付けたのだから、もっと突っ込んで書いて欲しかった> せっかく、他の教科書の著者が取り上げない問題に目を付けているのだから、もっと突っ込んで書いて欲しかった教科書がある。そのような教科書を取り上げてみた。
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『金融政策の有効性と限界』 90年代日本の実正分析 細野馨・杉原茂・三平剛 東洋経済新報社  2001.3.20
 信用乗数はマネーサプライとマネタリーベースの比で表される。マネタリーベースは、中央銀行が他の経済主体に対して提供する決済手段であり、具体的には日銀が発行する現金と、銀行が日銀口座に保有する準備預金とからなる。
 これに対しマネーサプライは、日本銀行を含む銀行部門が民間非金融部門(企業・家計・地方公共団体)に提供する決済手段(もしくは容易に決済手段に転換し得るもの)である。 日本の代表的なマネーサプライ指数であるM2+CDには、現金のほかに、企業や家計が決済に用いる当座預金や普通預金、それらに容易に転換できる定期性預金が含まれている。
 中央銀行によるマネタリーベースの提供がマネーサプライに影響を与える過程は次の3段階に整理される。
 (1)金融調節:中央銀行がマネタリーベースを銀行部門に提供
 (2)信用供与:銀行が資金を貸出等により企業や家計に提供
 (3)貨幣需要:銀行から提供された資金を最終的に企業や家計が現預金として保有
 この場合、(3)のステップで資金が預金として銀行部門に環流すれば、銀行はそれを再び貸出等にまわす(2)の信用供与を繰り返せるから、マネーサプライはマネタリーベースの増加分以上に増大する。 これを信用創造といい、中央銀行がマネタリーベースの供給を増やしたときにマネーサプライが信用創造を通じて何倍増えるかを示すのが信用乗数である。
 マネーサプライをターゲットとする量的金融政策では、中央銀行が密接にコントロールできるマネタリーベースと、ターゲットとするマネーサプライとの間に安定的な関係が存在していること、すなわち信用乗数が安定していることが重要である。
 近年の信用乗数の同行を概観してみると、信用乗数は1992年ころから低下傾向にあり、特に95年後半から低下の度合が著しくなっている。97年末から98年にかけては、マネタリーベースは前年比10%近い高い伸びを示したにもかかわらず、マネーサプライは3〜4程度の伸びに留まっていた。 すなわち、日本銀行が積極的にマネタリーベースを供給しても、信用乗数の低下によって、それがマネーサプライの増加に結びついていなかった。98年末から99年初には、マネタリーベースの伸びは5%程度のまで鈍化する一方、マネーサプライは引き続き3〜4%程度の堅調な伸びを示し、信用乗数にも下げ止まりの様子がうかがえたが、ゼロ金利政策がとられた99年4〜6月期以降は再び信用乗数が低下を初めている。(中略)
 改めて「信用乗数の要因分解」を考えてみると、銀行部門の現金/預金比率要因の変動は比較的小幅なものにとどまっているのに対して、同じ銀行部門でも、準備/預金比率は時に信用乗数の大きな変動をもたらしている。1986年、1991年の預金準備率の改訂も、信用乗数の上昇に大きく寄与している。
 最近においては、法定準備を超えて準備の増しが行われるというきわめて異例な事態が発生しており、信用乗数のいっそうの低下をもたらしている。銀行が超過準備を積み増している背景には、先に見た金融システム不安定化の影響に加えて、ゼロ金利政策により準備保有の機会費用が著しく低下していることがあろう。
T注  「預金準備率の改訂によって信用乗数が変化する」という点に気づいたのだから、もう少し突っ込んで考えてみて欲しかった。 「何故、預金準備率が変わると信用乗数が変わるのか?」と疑問を持つと、「そうか、マネーサプライの増減が、預金準備率に従って、ベースマネーの増減になるのだ」と分かるはずだ。折角他の業界人の気づかない点に気づいたのだから、もっと考えて欲しかった。
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『マクロ経済学と金融』 石橋春男・関谷喜三郎 慶應義塾大学出版会  2002.6.20
 第4章で述べましたように、マネーサプライを変化させる最も重要な要因は民間金融機関の貸出ですが、この民間銀行貸出と金融政策によるハイパワード・マネーの調節を結びつけるのが、準備預金制度です。
 金融機関は預金、金融債、信託元本などの一定割合を日本銀行に当座預金として預けることを義務づけています。その割合を準備率といいます。準備率は、金融機関の種類、預金量、預金の種類によって異なります。たとえば、現在銀行の2.5兆円超の定期性預金に対する準備率は1.2%となっています。……………      現在の主要な金融機関の準備率は表1のようになっています。(T注 正しい準備率準備預金制度における準備率▲と同じなので、表は省略した。珍しく正しい数字を表示している教科書だ)
 金融機関は、1カ月単位で準備金を積み立てる必要があります。準備率の平均残高は月ごとの預金額の平均残高に準備率を掛けて計算されます。ただし、準備額を実際に積み立てる機関は、その月の16日から翌月の15日までとなっています。 つまり、準備預金の積み立て機関は準備額の計算対象機関から半月遅れています。
 金融機関は、準備額のすべてを日本銀行の当座預金として積み立てることを義務づけられており、金融機関の手持ちの現金通貨は準備額としては認められていません。積み立て期間中に準備額が不足した場合には、不足額に対して公定歩合プラス3.75%の過怠金が課されます。
 この日本銀行当座預金に積み立てられる準備金には利子が付きませんので、金融機関は利子の付かない準備率に見合うぎりぎりまで圧縮しています。ただし、金融機関の準備金には日々過不足が生じます。たとえば、家計や企業が銀行から預金を引き出しますと準備金は減少しますし、預金の預け入れがあると準備金は増加します。 また、公共投資の資金が政府から民間企業に支払われますと、企業はそのお金を銀行に預金しますので準備金が増えることになります。さらに、日常的に銀行間で手形交換尻の勝ちの金融機関は準備金がそれだけ増加しますが、負けの金融機関は減少します。そこで、準備が不足した銀行は、準備に余裕がある銀行から短期的に資金を借り入れることによって不足を調整していますし、準備率を上回る準備金がある銀行はそれを不足した銀行に貸すことによって金利を稼ぐことができます。 こうして、銀行間では準備金の過不足が調整されていきます。金融機関が相互に短期資金を融通し合うこの市場が、前章でみたコール市場です。ここで成立する金利をコール・レートといいます。これは短期金利の代表的なものであり、日本銀行が金融政策の目標としている重要な利子率です。(中略)
 これまで、金融政策として日銀の金融緩和による利子率の低下を中心にみてきました。それは、金融緩和政策によって利子率を低下させることができれば、それによって民間投資に影響を与え、それが総需要の増加を通じて国民所得を拡大させることになるというものでした。
 しかしながら、バブル崩壊後の日本経済のように、金利を低下させても民間投資がすぐには活発化せず、長期に渡って景気が低迷する場合もあります。ここにおける民間投資の低迷は、金利よりも不良債権を背景とした銀行の「貸し渋り」や資金の借りてである企業の「バランス・シートの悪化」に起因していると考えられます。 とくに、金融機関の貸出能力の低下は、企業の資金調達にとって大きな制約となり、ひいては実行できる投資規模を制約することになります。こうした面から、金融が実体経済に与える点を重視する見方を、クレジット・ビューといいます。
T注  1.2%は正しい。けれど、ここは銀行貸出を問題とするところだ、どうせなら、定期性預金ではなく、その他の預金(当座預金や普通預金)の1.3%を紹介して欲しかった。銀行貸出を受けた企業は定期預金には預けない。
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『金融』 {新版} 池尾和人・岩佐代市・黒田晁生・古川顕 有斐閣  1993.2.20
 銀行(預金取扱い金融機関)は、資金貸借の仲介機関であると同時に、貨幣の供給機関であるということから、信用創造と呼ばれる能力を持つことになる。すなわち、貯蓄の形成を先取りする形で前もって資金を貸し付ける能力を持つ、次ぎに、この信用創造という現象について取り上げよう。
 銀行が貸出を行う場合、貸出金は、その銀行に設けられた借り手の預金口座に振り込む形をとる。すなわち、銀行から見れば、貸出とは、直ちには貸出額に相当する数字を預金口座にに記入することにすぎない。したがって、この限りでは紙とインクさえあれば、銀行は、いくらでも貸出を実行できることになる。
 もちろん、借り手は、預金口座に記入された数字を楽しむために借り入れたのではないから、その預金は直ちに支払いに当てられるであろう。しかし、支払いが預金振替の形をとる限りは、預金口座の間の転記が生じるにすぎない。転記が異なった銀行間で行われた場合には、個々の銀行レベルでは資金過不足が発生することになるが、そうした資金過不足は、銀行相互間の貸借によって調整可能なものにすぎない。 それゆえ、まだこの段階では、少なくとも銀行部門全体としては、紙とインクさえあれば貸出を実行できるという事情に変わりはない。預金が払い戻され、実際に現金との交換が請求される段階になってはじめて、銀行は現金準備を必要とするのである。
 だが、通常その額は、当初の貸出金のごく一部でしかない。というのは、非銀行部門にとって、預金は決済手段であると同時に貯蓄手段であるために、銀行の貸出金の大部分は、現金への交換を求められることなく、いずれかの主体によって預金の形態のまま保有されることになるからである。 そのため、銀行は手持ちの現金準備の何倍もの貸出を行うことができる。これが、信用創造と呼ばれる事態にほかならない。(中略)
 再度確認すると、信用創造が可能であるのは、銀行の貸出金の大部分が直接・間接に預金の形態のままで保有されることになるからである。ただし、このとき預金を保有する主体は貯蓄を行っているのだという点は、忘れてはならない。先に信用創造について「貯蓄の形成を先取りする形で」と述べたのは、この点を示唆するためである。
 すなわち、信用創造は、無から有を生じるものではなく、貯蓄の先取りにすぎない。それゆえ、銀行部門の行う信用創造の大きさが、非銀行部門の意図する貯蓄額を上回るものであれば、いわゆる「貨幣の過剰、資金の不足」という事態に陥ることになり、銀行は予定以上の現金流出に見舞われるか、インフレによる強制貯蓄(消費の抑制)の発生が見られることになろう。
 逆に、銀行部門の行う信用創造が過小なものであれば、決済手段の不足から取引活動の円滑な遂行が困難になり、経済活動の収縮が帰結しよう。まさに銀行部門による信用創造は、非銀行部門の貯蓄形成意図を的確に反映するものでなければならないのである。 しかし、民間銀行の自主的な行動に委ねるだけで、信用創造は適切な範囲に収まるであろうか。
 この問題について詳しくは、第6章と第7章で学ぶことになる。しかし、金融政策の最も基本的な原理は、すでに見た信用創造の公式の中に示されている。すなわち、民間銀行の信用創造は、ハイパワードマネーの供給量によって制約されているということである。そして、ハイパワードマネーの量は、その独占的な供給者である中央銀行の行動によって変化する。
 営利(利潤の最大化)を目的とした企業体であるという点では、銀行(預金取扱い金融機関)は、非金融の事業法人と何ら変わるところはない。したがって、銀行の行動についても、標準的な経済学における企業行動の理論を採用して分析することができる。 すなわち、銀行行動は、制約付き利潤最大化問題の形に定型化できる。そこで、まず銀行の行動が従わなければならない制約条件について見ていくことにしよう。(中略)
 以上のように、銀行の貸出および預金吸収の決定は、インターバンク市場金利の水準によって大きく規定される。しかし、インターバンク市場金利の水準自体は、同市場における需給関係を反映するものであり、その需給関係は、銀行の貸出および預金吸収の決定と密接に連関している。(中略)
 先に見た信用創造の公式の背後には、こうしたインターバンク市場の金利機構を通じたハイパワードマネー供給と銀行行動の関連が存在している。すなわち、ハイパワードマネー供給の増加が貸出の増加につながるのは、前者が貸出の機会費用にあたるインターバンク市場金利を引き下げ、銀行にとって貸出増加を有利なものとすることを通じてに他ならない(逆は逆である)。
T注  現代では、銀行は多額の預金が預け入れられなくても、日銀からの資金提供がなくても「紙とインクさえあれば、銀行は、いくらでも貸出を実行できることになる」のです。銀行貸出を規制するのは、ハイパワード・マネーなどではなくて、「紙とインク」と「企業の借入意欲」なのです。それなのに「民間銀行の信用創造は、ハイパワードマネーの供給量によって制約されているということである」と言う。 他人の顔色は気にしないで、「紙とインクさえあれば、銀行は、いくらでも貸出を実行できることになる」との考えを主張してください。
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『マクロ経済学と日本経済』 松川周二 中央経済社  2001.4.1
 民間銀行は市民からの銀行券の預金を受け入れる。いまA氏が100ポンドをX銀行に預金したとする、X銀行は、預金された100ポンドのうち、引き出しに備えて、たとえば20%の20ポンドを現金準備として、残り80ポンドをB氏に貸し付ける。B氏は、この80ポンドをC氏への支払いにあてると、C氏はこの80ポンドを自分の口座のあるY銀行に預金する。 するとY銀行もX銀行と同じように、その20%である16ポンドを現金準備として、残りの64ポンドをD氏に貸し付ける。D氏も、この64ポンドをE氏への支払いにあて、E氏はZ銀行に64ポンドを預金する。
 このように、銀行組織が預金受け入れ額の一定割合を現金準備として引き出しに備え、残りを貸し付けていくと、貸付額と預金額は、減衰しながらも、無限級数的に増加していく。これが銀行組織による信用創造と呼ばれる預金通貨の創出である。
そこで一般的にある銀行への現金による預金(本源的預金)のC(ポンド)は、現金準備率をとすると、預金総額、貸付総額は、それぞれ、
  D=C+(1−r)C+(1−r)(1−r)C+………
  L=(1−r)C+(1−r)(1−r)C+………

 となり、それぞれの無限級数の和は、
  D=(1÷r)C、L={(1−r)÷r}C  (D=L+C)

となる。ここで(1÷r)を信用乗数といい、もしえが0.2ならば、本源的預金の5倍の預金が生じることになる。なお、銀行への預金が「預金通貨」とみなされるのは、普通預金や当座預金は、いつでも要求に応じてすぐに現金化し、支払い手段として用いることができるからである。
 以上が、信用創造のシンプルな説明であるが、現実はやや異なっている。というのも今日では、金額的には現金の使用はきわめて僅かであるために、銀行は預金額とほぼ同額の貸付が可能であり、 時として r≒0 となるため、貸付総額および預金総額は無限大となってしまう。
T注  現代日本では「貸付総額および預金総額は無限大となってしまう」ことがあるのです。ベースマネーの増減に関係なくマネーサプライが増減するのです。 しかし、銀行貸出が増えれば、預金総額が増え、準備率に従って、日銀当預を増やさなければならない。それによりベースマネーが増える。つまり、マネーサプライの増減によりベースマネーが増減するのです。 そうした正しい答えの直前まで来たのだから、もう一歩前に進んで欲しかった。
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『金融論』 堀内昭義 東京大学出版会  1990.4.25
 マネーサプライを中央銀行のコントロールという観点から定義する場合には、これまでに説明したよりももっと狭い範囲の定義が可能である。これはハイパワード・マネー、あるいはベース・マネーと呼ばれるものであり、中央銀行の貸借対照表における主要な負債項目によって構成される。表は単純化された日本銀行の貸借対照表であるが、以下の説明を理解するためには、この貸借対照表の構成を頭に入れておくことが必要である。
  表 日本銀行の単純化された貸借対照表(1987年末) 億円 
     資産               負債
 ───────────────────────────┬────────────────
  貸出金         65,668 │  銀行券     291,868
  国債         196,402 │  金融機関預金   30,002
  (うち政府短期証券  138,391)│  政府預金     3,153
  買入手形        47,993 │  
  その他         37,335 │  その他      22,375
 ───────────────────────────┼─────────────────
  合 計        347,398 │  合 計     347,398  
 ハイパワード・マネーは、民間部門(民間の金融仲介機関を含む)が保有する銀行券および補助貨幣と対象金融機関が保有する日銀への預け金(金融機関預金)の合計額で定義される。 ただし、日本銀行の調査統計局の公式統計のなかにはハイパワード・マネーという概念は存在しない。不思議に思われる読者も多いだろうが、日本銀行の関係者は従来から、ハイパワード・マネーという概念を重視してこなかったのである。
 しかし、それのもかかわらず、専門家の多くはこの集計量を重要だと考えている。その理由は、主として次の2つに求められる。(a)ハイパワード・マネーは、それ自体が決済手段であるばかりでなく、すでに紹介した各種の貨幣供給量を規定すると考えられること、(b)その供給量は、原理的には、中央銀行の裁量によってコントロールしうること。
T注  「専門家の多くはこの集計量を重要だと考えている」としても「私は違う考えを持っている」と主張して欲しい。百花繚乱、百家争鳴によって経済学者業界が活性化する。折角日銀の意見を聞いたのだから、それが正しいのか、間違っているのか、自分の頭で考えてください。
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『金融論』 晝間文彦 新世社  2000.12.10
 銀行の重要な機能に通貨の供給があることは第3章で触れたが、この機能について見ていこう。銀行の基本的機能のひとつは預金を受け入れ、貸出を行うという受信・与信業務であるが、預金通貨はこの業務を通じて創造される。 たとえば、銀行が貸出を行う場合、銀行は借り手に現金を渡すのではなく、借り手の(当座)預金口座に貸出金額を記入する。借り手は小切手を切るなどして、支払に当てる。支払を受けた企業や家計は、その小切手を自分の取引銀行の預金口座に振り込む。 こうして銀行間で預金の振替が起こるが、この限りでは、現金(ハイパワード・マネーの1構成要素)は必要とされない。しかし、その預金が引き出され、現金に交換される場合も当然あるので、銀行はそれに対処するためにある程度の現金を常時持っておく必要がある。これが(支払または預金)準備()である。
 しかし、その準備額は貸出額全額でなく、その一部であるのが普通である。なぜなら、預金は決済手段であると同時に貯蓄手段でもあり、銀行貸出の大部分は誰かの預金として現金化されず、預金として銀行にとどまると考えてよいからである。 こうして、銀行は全体として支払準備(ハイパワード・マネーの1構成要素)の何倍もの貸出(信用)を行うことができる。こうした銀行の信用創造プロセスを通して結果として預金通貨が創造されるわけである。
 支払準備については1957年に公布された「準備預金制度に関する法律」によって導入された制度がある。銀行は自分の預金残高の一定割合を預金引き出しに対する準備として、日本銀行にある自行の預金勘定に無利子で預金しなければならないことになっている。この預金は先に述べたように日本銀行預け金と呼ばれている。(中略)
 これまでの説明では、日本銀行(ハイパワード・マネー)を動かすことによって(いわばが原因で)、(マネーサプライ)が変化する(結果)という因果関係として説明された。これは標準理論と呼ばれる。 しかし、当の日本銀行の実務家は、実際の因果関係はむしろ逆であると主張する。 すなわち、日々の経済活動の結果生じるの変化が時間的に先行しており、日本銀行は最終的にはこのの変化(原因)に同調するようにを変化(結果)せざるを得ないと説明する。 これは日本銀行理論(日銀理論)と呼ばれている。日銀理論は、の変化に同調せずHを不変に保つことは技術的には可能であるが、そうした場合、短期金利の乱高下が生じ、金融市場が混乱に陥る危険性が極めて高くなると指摘している。
 日銀理論が主張するように、時間的に先行するのは銀行貸出(、すなわち)であるとしても、もし日本銀行が銀行貸出の変化に同調してハイパワード・マネーをいつも調節するわけではないことを銀行が事前に知っていれば、銀行は将来のハイパワード・マネーの供給に関する日本銀行の意図を前提にして貸出を調整する可能性がある。 その意味では、日本銀行によるハイパワード・マネーの供給がに影響を与えていると見ることもできるであろう。しかし、標準理論と日本銀行理論とのマネーサプライ論争はまだ決着を見ていない。
T注  多くの教科書は「1,100万円の札束があって、そのうち100万円の札束を日銀に輸送し、日銀当預に入金する。残りの、1,000万円の札束を企業に手渡しする」かのように読める表現がある。 それについては、この教科書は間違うことはない。
 「標準理論と日本銀行理論とのマネーサプライ論争はまだ決着を見ていない」のならば、自分で決着させたらどうでしょうか?
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『テキストブック 現代の金融』 (第2版) 古川顕 東洋経済新報社  2002.12.12
 日本の準備金制度のもとでは、この制度の対象となる個々の金融機関は、ある月の平均預金残高に対して一定の準備率を乗じて得られる所要準備額(法定準備率ともいう)を、その月の16日から翌月の15日までの1カ月間に日銀預け金(準備預金)の平均残高として積み立てるよう義務づけられている。
  表 所要準備額の算出例    (単位:億円、%)
──────────────────────────────────────────────────────────
  預金の種類         │1カ月の預金残高積数(A) │準備率(B) │ 準備所要額(AXB)
──────────────────────────────────────────────────────────
  円預金  │定期性預金   │       1,500,000 │   1.75 │      26,250
       │その他の預金  │       1,000,000 │   2.5  │      25,000
─────────────────────────────────────────────────────────
 外貨預金  │定期性預金   │        300,000 │   0.375 │       1,125
       │その他の預金  │        200,000 │   0.5   │      1,000
─────────────────────────────────────────────────────────
  合  計          │        300,000 │      │  
───────────────────────────────────────────────────────────  
 表はある金融機関に対して要求されるこの法定準備額算出の1つの仮説例を示している。表のA欄は、準備預金制度によって設定された預金の種類別に毎日の預金残高を分類し、その預金種類別の毎日の残高を当該月の月初から月末までの1カ月について合計した値を示している。 (A欄全体の合計は300兆円となっているが、これは平均預金残高10兆円規模の銀行に相当する)
 そこで、預金種類別の準備率がB欄のように与えられているとすると、A欄の金額に、それに対応するB欄の準備率を掛け合わせることによって、預金の種目ごとの月間所要準備額が求められ、それらを合計すると、その月に積み上げなければならない準備額、いわゆる「積み所要額」が確定することになる(この例では5兆3375億円)、こうして得られた「積み所要額」をこの金融機関は当該月の16日から翌月の15日までの1ヶ月間、いわゆる「積立て期間」中に、日本銀行当座預金として保有することを義務づけられている。 ただし、「積み所要額」は、あくまでも「積み立て期間」中の準備預金の積数(累積値)として充足すればよいことになっている。つまり、1カ月を30日として表のケースを説明すると、仮に最初の20日間の合計で1兆円の準備預金を積み立て、後の10日間で残り4兆3375億円を積み上げても差し支えない。 もっとも極端な場合、「積み立て期間」の最後の1日(いわゆる「積み最終日」)に、一挙に「積み所要額」の全額を積み上げるといったことも制度上は許される。
T注  準備制度については他の教科書よりも詳しく書いている。けれども「所要準備額の算出例」は1991年10月に改訂された、それ以前の数字。10年以上前の数字。その間著者は変更に気づかず、他の人も指摘しなかった。 学生は10年以上も昔の間違った数字で勉強していることになる。正しい数字、およびその計算方法は <初めに融資ありき、所要準備は半月後に用意すればいい><準備金の計算方法>▲ を参照のこと。
(^_^)                (^_^)                 (^_^)
<神話が「インフレ・ターゲット」という新たな神話を生み出す> 「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」という神話が経済学者業界で信じられている。日銀関係者や短期市場実務者などの意見は無視し、業界人すべてが「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とばかり、神話を元に新たな神話を生み出している。 その代表的な神話が「インフレ・ターゲット」だ。多くの人が支持しているようだが、その内容はあまりハッキリ言っていない。そうした状況で短く、要領よくまとめた文章があったので、ここに引用することにした。インフレ・ターゲットは「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」と「日銀はベースマネーをコントロールできる」が正しければ日本経済にとって有効な金融政策と言える。 しかし、「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」は現代では通用しない「神話」であり、「日銀はベースマネーをコントロールできる」も状況によっては認められない。「マネーサプライの増加によって経済は活性化する」も基本的には正しいが、マネーサプライの内訳も検討する必要はある。 さらに、「インフレ・ターゲット」は市場経済において、どこまで市場のメカニズムに委ねるか?どこまで政府・日銀など経済の司令塔が統制すべきか?といった「自生的秩序」に任せるべきか?「設計主義」を貫くか?という問題にまで発展する可能性もある。
 そのような事も考えながら、「インフレ・ターゲット」を考えて下さい。
*               *                *
『平成大停滞と昭和恐慌』 田中秀臣・安達誠司 日本放送出版会  2003.8.30
 われわれの主張はもし不良債権処理を推し進めるならば、先行して金融行政の抜本的なレジーム転換をはかるべきだとするものである。従来の日銀当座預金残高をターゲットにした量的緩和政策と、金融システムの安定化のための日銀の資金提供などは旧来型のレジームであった。
 そうではなく、2〜4%の物価水準を目標としたターゲットに、日本銀行は積極的にコミットするべきである。この物価目標安定化政策が現実化するための具体的な担保は、長期国債の買い切りオペにまずはするべきである。現在、日本は毎年あらたに30兆円もの長期国債を発行しているので、いま日本銀行の行っている買いオペの量はあまりにも僅少である。 われわれは毎月5兆円を超える規模を行うべきだと考える。この額は、銀行や民間の経済主体が資産選択のスタンスを変更するインセンティブをもたらす最低限度の水準であると考える。
 もしこの長期国債買い切りオペが効果をはっきり示さないのであれば、それこそ外債や株・土地などのさまざまな資産を購入すればいいだろう。また為替介入や、政府通貨発行益にもとづく減税や社会保険の見通しなどもこの量的緩和政策に付随させれば、より確実なデフレ脱却の手法となるであろう。
T注  買いオペを進めると、将来国債が償還されるとき、税金が日銀の金庫に中に消えてしまう。例えば1年間に50兆円の税金が集められ、そのうちの10兆円が国債償還に伴い日銀の金庫に消えていくことになるかも知れない。 買いオペの副作用についても説明して欲しい。TANAKAの考えは「借金をするときは返済計画を立ててからにしましょう」という極めて常識的なものだ。毎年10兆円の国債償還があるなら「国債償還のために、消費税を5%アップして今後は10%とする」などの計画を発表すべきだ。 こうした考えは 「日本版財政赤字の政治経済学」▲ に書いたので、そちらを参照のこと。
*               *                *
『経済論戦』 野口旭 日本評論社  2003.5.20
 インフレ目標を導入せよ つまり、バブル崩壊後の日本経済は、「経済対策」という名の財政政策の発動によって、かろうじて経済のスパイラル的な収縮を免れてきた。特に、金利がゼロに近付き、金融政策が無力化した90年代後半以降は、それがほぼ唯一の支えだったといってよい。
 とはいえ、政府財政への依存を永久に続けるわけにはいかない。直ちに現実化する可能性はないとはいえ、それはやがては、発展途上国などでよく見られるような破滅的な経済混乱に結びつく。だからといって、現状でやみくもに財政再建を進めるわけにもいかない。それは単に、緊縮財政によって景気を腰折れさせた橋本政権の失敗を繰り返すだけに終わる。
 この状況を打開するには、何が必要なのか。それは、金利がゼロ近傍に張り付いているという「流動性の罠」の状況から一刻も早く抜け出すことである。つまり、金利の調整によってマクロ経済の安定化を行うという、通常の金融政策が使える状況に復帰することである。
 そして、そのためには、デフレからの脱却が何よりも必要である。というのは、デフレ下の金利引き上げは、デフレ・ギャップを拡大させることで、単により一層のデフレをもたらすにすぎないからである。そのことは、2000年8月の日銀による「ゼロ金利解除」によって、見事に実証された。
 問題は、いかにしてデフレ・ギャップを縮小させるかである。1つの方法は、財政支出のより一層の拡大である。しかし、もし財政だけでデフレ阻止を実現させようと思えば、一時的にせよ、小渕政権時を上回るような巨額の座委細赤字を覚悟しなければならない。というのは、、小渕政権の「超拡張財政」をもってしても、デフレの克服はついに実現されなかったからである。
 そしてもう1つが、ゼロ金利下での「インフレ目標」の導入という、非伝統的な金融政策の採用である。
 ところで、日銀は2001年3月のゼロ金利復帰=「量的緩和」の導入において、「消費者物価の上昇率がゼロを上回るまでゼロ金利を維持する」という。「疑似インフレ目標」とでもいうべきコミットメント(約束)を行った。しかしこれは、以下の2つの点で、デフレ期待を払拭するというためには十分ではない。
 第1に、すでにインフレ目標を導入している多くの国がそうであるように、目標とするインフレ率はプラスの値(1〜3%前後)であるべきである。というのは、物価指数は一般に過大評価されがちであるし、また、いくつかの理由によって、経済調整が円滑に進ためには一定程度のインフレが必要だからである。フィリップス・カーブから確認したように、日本の場合にも、消費者物価上昇率が1%以下になると、失業率が急速に高まることが明らかとなっている。
 第2に、目標の達成時期と手段が明確化されるべきである。現状のように、ただ一定の日銀当座預金残高を維持しつつゼロ金利を漠然と続けても、デフレ期待の払拭およびデフレの阻止につながる可能性は低い。2001年3月以降の「消費者物価の上昇率がゼロを上回るまでゼロ金利を維持する」という日銀のコミットメントでは、仮にデフレがより一層深刻化したとしても、金利さえ引き上げばければ、日銀は何もしなくてもよいということになる。 あるいは、デフレがこれから先に何十年続いても、金利さえ引き上げなければコミットメントには抵触しないことになってしまう。そして、民間経済主体の側が実際に「デフレが何年続こうとも日銀は何もしそうにない」と考えるのであれば、デフレ期待の払拭などは望むべくもないのである。
 重要なのは、日銀が、量的緩和の「持続拡大」を、一定のインフレ率に到達するまで将来にわたって続けるという、決然としたコミットメントを行うことである。より具体的には、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の対前年上昇率を1〜3%のレンジで安定化させることを目標とし、日銀はそれに達するまで、国債買い切り額および日銀当座預金残高を持続的に拡大させていく。
 このような「明確な強いコミットメント」のみが、現状の根強いデフレ期待を払拭させることができる。そして、デフレ期待が反転しさえすれば、予想実質金利は低下し、民間投資や民間消費が拡大し、デフレ・ギャップは縮小する。つまり、デフレ経済からの脱却が「自己実現化」するのである。
T注  インフレ・ターゲットは、@「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」、A「日銀はベースマネーをコントロールできる」、B「マネーサプライが増加することにより、デフレスパイラルから脱却できる」、を前提としている。 「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」が神話であることがハッキリすると、インフレ・ターゲットが「砂上の楼閣」となる。
(^_^)                (^_^)                 (^_^)
<このような教科書で学生は学んでいる> なぜこうまでに「ベースマネーの増加により、マネーサプライが増加する」という神話が信じられているのか?多くの教科書を調べてみて、その原因が分かったような気がした。1.3%の準備率を「仮に10%とすると」と表現する教科書、そのために銀行貸出には多額の資金が必要で、多額の預金か日銀からの資金提供、あるいは積極的な買いオペが必要だと思い込んでしまう。 こうした教科書で学んだ学生が卒業してエコノミストになると、「これほどまでにベースマネーが増えているのに、なぜマネーサプライは増えないのだろう?」と愚問を発することになる。そしてこの神話から「インフレターゲット」が生まれ、反論しない日銀は、妥協案として「量的緩和政策」を行なう。その副作用と、将来の国債償還時の増税については何も語らない。
 学生の間から疑問は起きなかったのだろうか?著者自身は全く神話を疑わなかったのだろうか?経済学者業界には臍曲がりは出ないのだろうか?これが、多くの教科書を調べてみての感想です。
(^o^)                  (^o^)                  (^o^)
<主な参考文献・引用文献>
『新版 図解 金融を読む事典』    日本総合研究所編 東洋経済新報社    2003.8.14
『事典 金融と経済のしくみがわかる』     芹澤数雄 中央経済社      1998.12.30
『金融のすべてがわかる事典』         三宅輝幸 日本実業出版社    2001.11.1
『入門 現代日本の金融』            玉木勝 シグマベイスキャピタル2002.4.1
『テキスト現代金融』             土田壽孝 ミネルヴァ書房    2004.1.30
『金融論』{新版} 柴沼武・森映雄・藪下史郎・晝間文彦 有斐閣        2000.2.20
『マクロ経済学』               明石茂生 中央経済社      2003.9.20
『金融経済論』                里麻克彦 税務経理協会     2001.1.15
『入門マクロ経済学』第2版          井堀利宏 新世社        2003.11.10
『マクロ経済学』      浅井和美・加納悟・倉澤資成 新世社        1993.2.25
『初級・マクロ経済学』  鴇田忠彦・足立英之・藪下史郎 有斐閣        1998.6.20
『経済学 基礎から実戦へ』          中桐宏文 有斐閣        2000.4.10
『ベーシック/金融入門』        日本経済新聞社 日本経済新聞社    1989.4.10
『金融』                   小野善康 岩波書店       1996.1.22
『マクロ経済学』<やさしい経済学シリーズ>  浜田文雄 東洋経済新報社    2002.4.30
『マクロ経済学のナビゲーター』(第2版)    脇田成 日本評論社      2004.12.20
『はじめて学ぶ金融のしくみ』         家森信善 中央経済社      2004.12.10
『マクロ経済学入門講義』            田中宏 慶應義塾大学出版会  2002.2.1
『入門 金融』(第3版)           黒田晃生 東洋経済新報社    2002.5.24
『金融論』増補改訂版              柴沼武 創成社        1999.3.31
『経済学入門』21世紀型文明をどう築くか   正村公宏 筑摩書房       1999.5.25
『現代マクロ経済学』              吉川洋 創文社        2000.8.15
『ベーシック マクロ経済学入門』       井上歳久 プレアデス出版    2005.2.28
『現代金融論講義』         藤原賢哉・家森信善 中央経済社      1998.4.15
『目からウロコの経済学』           山崎好裕 ミネルヴァ書房    2004.11.20
『新しい日本経済講義』            新保生二 日本経済新聞社    2004.1.5
『金融政策の有効性と限界』   細野馨・杉原茂・三平剛 東洋経済新報社    2001.3.20
『マクロ経済学と金融』      石橋春男・関谷喜三郎 慶應義塾大学出版会  2002.6.20
『金融』{新版} 池尾和人・岩佐代市・黒田晁生・古川顕 有斐閣         1993.2.20
『マクロ経済学と日本経済』          松川周二 中央経済社      2001.4.1
『金融論』                  堀内昭義 東京大学出版会    1990.4.25
『金融論』                  晝間文彦 新世社        2000.12.10
『テキストブック 現代の金融』(第2版)    古川顕 東洋経済新報社    2002.12.12
『平成大停滞と昭和恐慌』      田中秀臣・安達誠司 日本放送出版会    2003.8.30
『経済論戦』                  野口旭 日本評論社      2003.5.20
( 2006年1月16日 TANAKA1942b )
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神話から生まれた「岩田・翁論争」
日銀当預と準備率の関係を検証する
<未解決と言われる「岩田・翁論争」> 「日銀はベースマネーをコントロールできるか?」これが「岩田・翁論争」のポイントだったと思う。そして多くの経済学者業界の人たちは「未解決である」と言う。 一時、妥協案というか、折衷案のようなものが提示されたことがあったが、これは両者の中間点をとっただけで、新しいアイディアではなかった。 それでも <マネーサプライ管理は日銀の責任==中谷巌>▲ のように評価する人もいる。しかし問題は「日銀はベースマネーをコントロールできるか?できなか?」ではない。 これをいくら議論しても問題の本質にはたどり着けない。日銀側も「ベースマネーをコントロールすることはできない」とは言うが「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する、は神話である」とは言わない。ここが問題だ。 なにしろ「ベースマネーをコントロールしても、それでマネーサプライをコントロールできるわけではないのだから」だ。つまり「岩田・翁論争」はピント外れの議論をしていたわけだ。それでも問題の発端は「岩田・翁論争」なのだから、この辺りから話を始めることにしよう。
 まずは、日銀の金融政策を批判した「岩田論文」から。
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<週刊東洋経済の岩田論文=「日銀理論」を放棄せよ>
マネーサプライをベースマネーで割った比率を貨幣乗数あるいは信用乗数と呼ぶ。(中略)
 貨幣乗数が比較的安定していることは、日銀はベースマネーの供給をコントロールすることによってマネーサプライをコントロールすることができることを示している。
 図1にはベースマネーの変化率も示されているが、それは1990年第4四半期から急激に落ち込み初め、最近の三期にわたる四半期についてみるとマイナスである。 この事実と貨幣乗数の安定性とから、マネーサプライの増加率の著しい低下は戦後日本ではかつてなかった事態である。この原因はベースマネーの増加率の著しい低下によってもたらされたことが分かる。
 1年近くもの間、ベースマネーが絶対額で減少するといったことは、戦後日本ではかつてなかった事態である。それではベースマネーが絶対額で減少するといったことが起きた原因は何であろうか。
 表1はベースマネーの変化額を要因別に示したものである。表中の日銀信用とは、日銀による市中銀行貸出や市中銀行保有の手形や国債の買い取りなどを通じて供給される準備(ベースマネーの一部)のことである。
 この表は91年ころから、財政要因のうち国債要因に基づいてベースマネーの供給が大きく減少していることを示している。(中略)
 表1から分かるように、日銀はこの財政要因に基づくベースマネーの減少を相殺するように、日銀信用を増やすどころか、92年第1四半期には、日銀信用をも削減し、ベースマネーの減少を増幅させることによって、0.7%という前代未聞のマネーサプライの増加率の大幅低下を引き起こしている。これが「日銀理論」に基づく金融緩和の実態である。
 それでは、日銀はなぜ金融緩和政策に転じたといいながら、財政要因によるベースマネーの減少を日銀信用の増加によって相殺しようとしないばかりか、むしろ増幅するようなことをしているのであろうか。この不可解な日銀の行動は次ぎのような「日銀理論」に基づいている。
 日銀の『調査月報』や『金融研究』の論文によると、日銀はベースマネーをコントロールできないという。なぜならば、日本の市中銀行は法定準備を超える超過準備を持たないため、必要な準備需要は前の月の市中銀行預金の水準によってすでに決定されており、その準備需要に対して、日銀が準備供給に応じなければ、市中銀行の決済が不可能になり、大混乱が生じてしまうからである。 つまり、日銀は市中銀行の準備需要に応じて準備を供給するしかないというのである。これが「日銀理論」である。
 しかし、日銀が、日銀はベースマネーをコントロールできないと主張することは、「私たちは金融政策の手段を持っておりません」と自ら告白するに等しく、日銀自身がその存在意義を否定する自殺行為である。 最近鈴木正俊氏は『誰が日銀を殺したか』(講談社)という本を出版されたが、「それは日銀である」がこの本の問いに対する正解である。(中略)
 最近1年間のベースマネー供給の増加率だけでなく、絶対額そのものの減少は、従来の「日銀理論」だけに基づくものではないと考えない限り、91年第1・第2四半期におけるベースマネーの増加率の急低下は、日銀が地価高騰に責任を感じて、バブル退治のために金融政策を利用しようとしたからであろう。(中略)
 日銀はベースマネーをコントロールできないという「日銀理論」を直ちに放棄して、ベースマネーを手形や国債の買いオペなどによって積極的に増やすべきである。 ベースマネーを絶対額で減少させて、マネーサプライの増加率を一定以下に抑制するといった危険な賭けに挑むべきではない。(中略)
 金融政策とは「日銀理論」とはちがって、公定歩合を引き下げることではなく、ベースマネーの供給を増やすことによってマネーサプライの増加率を引き上げることをいうという当然のことを強調しておきたい。
 世間も公定歩合の上げ下げで金融政策の状況を判断することを早急にやめない限り、いつまでたっても日銀の金融政策の誤りを見抜くことはできない。今後は、金融政策の是非を判断するうえでは、公定歩合ではなく、ベースマネーに注目すべきである。 (週刊東洋経済<「日銀理論」を放棄せよ>から)
<表1 ベースマネーの要因別変化の推移> (単位 億円)
ベースマネーの変化額  財政要因(うち国債要因)   その他   日銀信用 
1987年 26,905 2,965  (▲24,983) 13,344 10,596
88年 44,139 6,087   (2,057) 12,339 25,713
89年 49,597 3,99  (▲3,587)  ▲10,259 55,864
90年 31,163 36,365  (▲50,656) 13,268  ▲18,4706
91年 ▲9,642 ▲192,454 (▲103,357) 153,426 1129,386
91(T) ▲56,116 ▲42,796 (▲22,714) 8,654 ▲21,974
91(U) 8,243 ▲22,581 (▲27,709) 14,139 16,685
91(V) ▲28,666 ▲102,948 (▲31,475) 16,525 57,757
91(W) 66,895 ▲24,129 (▲21,459) 14,108 76,916
92(T) ▲60,313 ▲35,459 (▲26,934) 16,105 ▲40,959
(出所)日本銀行「経済統計年報」、「経済統計月報」
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<週刊東洋経済の翁論文から=岩田論文の要約> 岩田論文に対して、「岩田論文に反論する」、と題して日銀の翁邦雄が同じ週刊東洋経済に論文を書いている。ここでは岩田論文の要約だけを紹介しよう。上に紹介した「岩田論文」の大部分を省略しているので、分かり難かったり、誤解を招く怖れもあるかもしれない。 そこで、これに反論した翁邦雄の文章を紹介することによって、岩田論文を理解して頂きましょう。
 岩田教授が重視しているベースマネーとは、日銀が供給する日本銀行券と準備(預金)の合計をいう。準備とは、市中銀行が銀行間の決済のために、日銀に預けている当座預金である。
 準備には利子はつかず、「準備預金制度に関する法律」に基づき、銀行はある月の預金の一定割合(預金準備率)をその月の16日から翌月の15日までの1カ月間の平残で維持するよう求められている。 このため、わが国の準備預金制度は達観すれば前月の預金量に応じて準備預金を積む「後積み方式」と考えることができる。
 岩田教授の立場の基本的前提は「市中銀行はこのベースマネーを基礎として、貸し出し等の与信行動を通じて、ベースマネーの何倍かの預金通貨を創造する」という点にある。
 この時「マネーサプライがベースマネーの何倍になるか」が、貨幣乗数であり、岩田教授は、貨幣乗数は比較的安定しているため、日銀はベースマネーの供給をコントロールすることによってマネーサプライをコントロールすることができる、とされ、 さらに、最近3四半期のベースマネーの前年比がマイナスであることが、マネーサプライ増加率低下の原因である、と結論づけている。
 理論的な問題を取り上げる前にデータの解釈について意見を述べておきたい。この点における岩田教授のもっともショッキングな主張は、最近1年間のベースマネー供給の減少は、日銀がバブル退治のためにベースマネーを減少させ引き締めを継続しているのではないか、という疑問を示唆しておられる点であろう。
 このような文章から、岩田論文に反論していくのだが、ここでは日銀理論の紹介ではなく、また翁論文の紹介でもなく、TANAKAの考え方を書くところなので、翁論文はこの辺で終わりにしておこう。翁論文に関しては「週刊東洋経済」を読んで頂きましょう。
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<準備率の変更による日銀当預の変化> 岩田論文の主旨は「不況である1991年には、日銀はマネーサプライを増やすべきなのに、ベースマネーを減少させマネーサプライを減少させた。 今後は、金融政策の是非を判断するうえでは、公定歩合ではなく、ベースマネーに注目すべきである」ということだろう。1991年の金融面でのTANAKAの説明はまったく違っている。「不況でマネーサプライは伸びない。そこで日銀は準備率を下げ、銀行貸出の負担を少なくしょうとした。これによりベースマネーが減少した」だ。 ここでは岩田理論を1つ1つ批判するのではなく、違った方向からみたTANAKAの説明を展開することにする。 先ず表を見て頂きましょう。数字を見て何かを感じて下さい。数字を見て何かを感じるか、何も感じないか、それが分かれ目です。数字にしても、社会の出来事にしても、皆が同じように知っていることでも、そこから何を感じるか、それで問題意識の深さが決まってくる。 ここで使うのは、この表のごく一部です。でもその前後の数字も挙げておきました。イッパイいろんなことを感じて下さい。
<表2 マネーサプライ ベースマネー 日銀当預 関係表>  単位億円
年月 M2+CD BM 当預 準備額 日銀券 預金 銀行貸出 保有証券 借入 保有現金
89-4 4,240,993 322,127 40,388 40,346 281,739 3,647,897 3,792,899 1,025,018 50,790 229,494
5 4,231,214 323,164 39,997 39,969 283,167 3,672,639 3,773,746 1,035,042 47,612 255,840
6 4,268,553 319,346 40,705 40,690 278,641 3,720,990 3,823,709 1,046,290 48,457 253,528
7 4,345,989 334,821 41,760 41,734 293,061 3,718,099 3,866,275 1,056,446 52,397 243,434
8 4,366,927 331,760 41,712 41,677 290,048 3,733,633 3,895,079 1,067,536 48,337 246,109
9 4,402,627 325,676 43,072 43,019 282,604 3,879,789 3,986,275 1,099,374 47,472 295,929
10 4,408,424 325,297 42,448 42,417 282,849 3,768,188 3,951,981 1,102,522 55,249 261,359
11 4,460,570 330,607 43,769 43,738 286,838 3,913,755 4,004,587 1,104,959 36,336 302,035
12 4,627,790 379,218 46,366 46,300 332,852 4,055,023 4,105,723 1,125,861 61,932 328,255
90-1 4,635,014 326,176 46,073 46,030 320,103 3,969,179 4,113,947 1,142,538 49,748 279,667
2 4,667,345 347,859 46,363 46,338 301,496 4,031,783 4,146,793 1,161,298 55,379 282,102
3 4,730,830 356,824 47,888 47,794 308,936 4,195,805 4,243,430 1,211,746 42,534 318,154
4 4,801,061 371,008 48,572 48,541 322,436 4,191,001 4,207,818 1,211,133 39,063 287,601
5 4,790,095 318,272 48,308 48,275 309,964 4,212,155 4,188,058 1,208,872 30,963 316,786
6 4,805,089 350,335 48,446 48,398 301,889 4,271,847 4,258,235 1,215,149 36,293 319,256
7 4,876,335 365,958 48,980 48,947 316,978 4,243,481 4,277,285 1,221,566 38,736 301,130
8 4,886,619 360,535 48,997 48,962 311,538 4,245,531 4,297,706 1,219,027 18,664 299,562
9 4,930,512 354,892 50,635 50,597 304,257 4,414,996 4,341,726 1,230,008 35,317 348,856
10 4,928,423 352,824 48,994 48,968 303,830 4,242,790 4,339,514 1,248,203 31,527 283,468
11 4,900,824 352,739 48,288 48,244 304,495 4,323,226 4,381,429 1,238,739 36,378 307,232
9 4,930,512 354,892 50,635 50,597 304,257 4,414,996 4,341,726 1,230,008 35,317 348,856
10 4,928,423 352,824 48,994 48,968 303,830 4,242,790 4,339,514 1,248,203 31,527 283,468
11 4,900,824 352,739 48,288 48,244 304,495 4,323,226 4,381,429 1,238,739 36,378 307,232
12 5,022,086 402,975 50,283 50,242 352,692 4,362,377 4,411,685 1,240,370 56,290 318,273
91-1 4,978,914 384,482 48,960 48,936 335,522 4,201,728 4,401,901 1,239,302 56,471 265,220
2 4,926,178 360,151 49,080 48,141 311,071 4,202,060 4,414,227 1,225,502 42,197 270,092
3 4,970,366 371,486 52,796 50,107 318,690 4,434,407 4,458,893 1,232,185 41,263 334,525
4 4,985,533 366,883 49,901 49,367 316,982 4,268,130 4,422,034 1,225,858 42,258 277,552
5 4,962,597 362,264 48,367 48,337 313,897 4,324,803 4,430,410 1,228,940 34,753 298,664
6 4,983,634 359,321 48,885 48,848 310,436 4,342,492 4,483,575 1,233,184 50,153 279,741
7 5,040,024 372,140 48,422 48,400 323,718 4,255,138 4,485,904 1,231,377 57,200 231,555
8 5,020,817 364,477 47,937 47,888 316,540 4,274,495 4,519,300 1,221,963 67,849 224,888
9 5,041,125 356,966 48,936 48,884 308,030 4,396,712 4,522,041 1,220,079 49,029 299,162
10 5,031,895 346,487 38,199 38,159 308,288 4,196,316 4,502,566 1,217,595 52,865 182,762
11 5,018,666 339,661 29,153 29,100 310,508 4,265,878 4,555,040 1,210,444 32,066 205,636
12 5,122,051 387,445 29,663 29,626 357,782 4,284,614 4,604,718 1,206,168 93,640 225,385
92-1 5,069,555 371,124 29,433 29,398 341,691 4,132,337 4,577,094 1,203,253 68,557 156,400
2 5,004,632 346,735 28,879 28,823 317,856 4,185,335 4,596,554 1,202,793 54,758 172,460
3 5,057,976 353,520 29,380 29,350 324,140 4,347,814 4,603,939 1,195,264 44,514 259,554
4 5,063,356 350,325 29,299 29,273 321,026 4,163,956 4,570,348 1,194,131 62,473 160,824
5 5,017,338 349,576 28,842 28,818 320,734 4,193,092 4,590,984 1,196,261 79,179 169,275
6 5,030,318 344,328 28,878 28,864 315,450 4,169,204 4,604,621 1,194,664 70,634 150,003
7 5,048,854 359,657 28,769 28,732 330,888 4,125,556 4,614,450 1,179,573 66,064 138,183
8 5,037,325 356,325 28,924 28,897 327,401 4,109,233 4,610,875 1,186,600 73,310 147,570
9 5,020,805 344,832 28,887 28,873 315,945 4,196,024 4,640,044 1,165,276 73,820 192,567
10 5,001,591 346,086 28,582 28,548 317,504 4,092,537 4,631,937 1,183,382 58,886 141,305
11 4,989,166 348,335 28,493 28,466 319,842 4,122,358 4,647,493 1,189,433 64,673 157,824
12 5,099,669 393,917 28,925 28,897 364,992 4,116,081 4,718,206 1,181,147 67,033 125,886
93-1 5,055,340 374,680 28,788 28,759 345,892 4,086,108 4,709,394 1,182,289 68,934 136,144
2 5,011,162 357,042 28,623 28,586 328,419 4,097,511 4,705,565 1,181,130 74,484 141,449
3 5,038,006 362,527 29,052 29,016 333,475 4,262,532 4,726,330 1,174,177 55,478 195,737
(出典)経済統計月報、経済統計年報から集計 
 ここでの銀行とは==都市銀行(11行)、地方銀行(64行)、地方銀行U(66行)、信託銀行(7行)、長期信用銀行(3行)
M2+CD=マネーサプライ平均残高  BM=ベースマネー平均残高   当預=日本銀行当座預金平均残高  準備額=法定準備額   日銀券=日本銀行券発行高平均残高  預金=全国銀行預金月末高   銀行貸出=全国銀行貸出金月末高  保有証券=全国銀行保有有価証券月末高   借入=全国銀行日銀借入月末高  保有現金=全国銀行保有現金月末高(除く 小切手・手形)
*               *                *
1991年秋の経済情勢 岩田論文で問題としている1991年秋、当時の経済情勢がどのようであったか振り返ってみよう。 1989年の東証では大納会で38,915円87銭をつけたのを最後に、1990年から下がり始めた。1990年の大納会は23,848円71銭、1991年は16,924円95銭となった。土地の価格は1991年から下がり始めた。 当時の失業者はまだ130万人程度であった。政府が初めて景気対策を打ち出したのは1992年3月31日のことであった。1989年からの日銀の金融引き締め、公定歩合の再度の引き締めがその後の日本経済を痛めつけ、すぐには立ち直れないほどの後遺症を与えたのだが、 当時は「平成の鬼平」と三重野総裁をたたえたほどであった。公定歩合の推移はつぎの通り。
公定歩合の推移
昭和62年(1987)年 2月23日  2.50
平成 1年(1989)年 5月31日  3.25
          10月11日  3.75
          12月25日  4.25
平成 2年(1990)年 3月20日  5.25
          8月30日  6.00
平成 3年(1991)年 7月 1日  5.50
          11月14日  5.00
          12月30日  4.50
平成 4年(1992)年 4月 1日  3.75
          7月27日  3.25
平成 5年(1993)年 2月 4日  2.50
          9月21日  1.75
平成 7年(1995)年 4月14日  1.00
          9月 8日  0.50
平成10年(1998)年 4月 1日  0.50
平成13年(2001)年 1月 4日  0.50
          2月13日  0.35
          3月 1日  0.25
          9月19日  0.10
1991年秋から金融緩和に転換 中央銀銀行が金融緩和政策をとっているのか、金融引き締め政策をとっているのか、それは公定歩合を見れば分かる。 「金融政策の是非を判断するうえでは、公定歩合ではなく、ベースマネーに注目すべきである」と主張する人もいるようだが、先進国の中央銀行は公定歩合を主要な金融政策の手段にしている。 その公定歩合を見てみよう。徐々に金利を上げていき、1990年8月30日に引き上げたのをピークに、1991年7月1日から下げ始めた。 1991年秋、岩田論文は「日銀が金融引き締めの政策をとっている」と非難しているが、公定歩合を見て判断すると「日銀はベースマネーを減少させるという<金融引き締め政策>と、公定歩合を引き下げるという<金融緩和政策>の矛盾した政策をとっている」という主張になる。 いくら「日銀不信」であっても、「日銀がそんなバカな政策をとっている」と非難するのは常識外れだ。
 1991年秋に「不況は長く続くだろう」とは予想されていなかった。けれども日銀の金融政策は1991年夏から金融緩和政策に転換している。ベースマネーの減少もそうした日銀の金融緩和政策 で、準備率を引き下げた結果であり、公定歩合の引き下げと矛盾しない政策の結果だと、考えないと筋が通らなくなる。
*               *                *
<1991年10月16日、法定準備率が引き下げられた> <表2 マネーサプライ ベースマネー 日銀当預 関係表>の1991年9,10,11月の一部色を変えて表示した。1991年10月16日から法定準備率が引き下げられたので、その影響がこの表から読みとれるからだ。 岩田論文では四半期単位で表示されているので分からないが、1カ月単位で表示するとハッキリ分かる。「10月16日から実施」ということは、10月末で締め切って、11月15日に向けて積んでいく準備金から適応される、ということだ。上記表でいうと、 「9月の日銀当預は旧準備率(2.5%)での歩積み」「11月の日銀当預は新準備率(1.3%)での歩積み」そして「10月の日銀当預は前半は旧準備率(2.5%)、後半は新準備率(1.3%)での歩積み」となる。つまり9月の日銀当預に比べ11月の日銀当預は約その半分で、10月はその中間となる。
 表の「当預」の数字を見ればそれがよく分かる。各銀行は自行の預金総額に準備率を掛けて必要な額を日銀の当座預金口座に入金する。決して日銀当預の増減が原因で貸出が増減するのではない。この表から「従って、準備率が下がれば各銀行は日銀当預を減少させる」と読みとれる。 こうして「預金総額の増減により(原因)、各銀行は日銀当預を増減させる(結果)」が理解できたはずだ。これで 「ベースマネーの増減により(原因)、マネーサプライが増減する(結果)」が神話である、とまでは証明出来たわけではないが、ベースマネーの主要な項目である「日銀当預」は各銀行が預金総額に従って増減させるのであって、 @日銀当預の増減によりマネーサプライが増減するのではない、A日銀当預を増減させるのは各銀行であって日銀ではない。が理解できたはずだ。
 さらにB各銀行は必要とされる法定準備金に対して、ほんの少しだけ予備のために日銀当預に積んでおく。従って日銀当預残高は、銀行貸出残高の増減に従う。
日銀信用を増減させるのは、貸したい日銀?借りたい銀行? 「○○銀行さん、おたくは資金不足で企業への融資額が伸び悩んでいますね。当方(日銀)からの融資を受けたらどうですか?」と日銀が銀行に融資話を持ちかけて、日銀信用が実行されるのか?それとも「日銀さん、15日の準備金の締め切り日に日銀当預が足りなくなりそうです。○○億円ほど融資してください」と銀行から話があって日銀信用が実行されるのか? 当然、銀行から話があって実行される。もし「○○銀行さん、折角ですが日銀の方針はベースマネーを抑えるのが今日の基本です。これ以上ベースマネーを増やすとマネーサプライが増加し、インフレになると考えられるので、○○銀行さんへの融資はお断りします」なんて日銀が言ったらどうなるか?このように各銀行の事情より日銀の金融政策優先で融資が決まるのなら、民間の銀行はまともな経営ができなくなる。 銀行から融資の申し込みを日銀が断ったり、あるいは銀行からの返済を「まだ返済しなくて良いですよ」と言ったらどうなるか?借入希望のない銀行に日銀は貸し付けるのか?「どこかの銀行さん、日銀融資を受けませんか?」と呼びかけるのか?
 「日銀信用が伸びないのは日銀の責任だ」と言うのは、社会人としての一般常識から考えてもピント外れの理論だ。 経済学者業界の人たちはよく言うではないか「日本銀行は最後の銀行である」と。その意味はどういうことなのか?
マネーサプライとベースマネーの増減、どちらが原因?どちらが結果? 1991年秋の金融情勢について、岩田理論ではこうなる「日銀がベースマネーを減少させたので、マネーサプライが伸び悩んだ」。TANAKAはこのように説明する「マネーサプライが伸び悩んでいたので、日銀は銀行の貸出負担を少なくするために準備率を下げた。そこで各銀行は日銀当預を引き出し、その結果ベースマネーが減少した」。
 相違点は「原因と結果が逆立ちしている」と「ベースマネーを増減させるのは、日銀か?各銀行か?」だ。上記<表2 マネーサプライ ベースマネー 日銀当預 関係表>から読みとって下さい。上記表からはその他のこともいろいろ読みとれると思います。頭の体操にどうぞ。
神話を信じる者ほど、日銀の政策転換を評価すべきだ 1991年10月16日、法定準備率が引き下げられたことに対する評価は、神話を信じるものほど評価すべきだ。ベースマネーの増減によりマネーサプライが増減するとの神話を信じる、ということは、 貸出に対して少しでも銀行の負担を少なくすべきだ、との認識があるからだ。そうした考えに従えば、日銀が準備率が引き下げたので、各銀行は貸出に対する負担が少なくなった、これで銀行貸出が増え、マネーサプライが増えることになるはずだ、との評価になるはずだ。 従って、神話を信じる「岩田論文」では「日銀は適切な政策転換であった」と評価するのが筋が通っている。ベースマネーの増減によりマネーサプライが増減する、との立場にたつならば、つまり銀行は貸出資金が足りないから、日銀が資金提供したり預金が増えたりすることによって貸出が増える、との考えだ。 だからその考えに従えば、日銀が準備率を引き下げたのは、銀行貸出が増える要因になるはずだった、との評価になるはずだ。それなのに日銀の政策を批判している。基本的立場と主張する立場とが矛盾している。
 神話を信じない立場ではどうか?企業の資金需要さえ旺盛ならば、銀行はいくらでも貸出を実行する。だから、準備率の変更はあまり影響がない。アメリカのように8%から14%の間で操作すれば、それほど高い利率ならば大きな影響力を発揮するだろうが、2.5%とか1.3%ではあまり大きな影響力は期待できない。 もっとも「アメリカのように高い利率にして、日銀がそれほど大きな影響力をもつのは市場のメカニズムに対する不信感の表れだ。自生的秩序を無視している」との批判も出るかもしれない。
平成の鬼平の「バブル潰し」は凄まじかった 1991年秋の日本経済は、平成の鬼平の「バブル潰し」によってデフレ・スパイラルへの道へ凄まじい勢いで突き進んでいったときだった。 <表2 マネーサプライ ベースマネー 日銀当預 関係表>をよく見ると、そのように読みとれる。 「預金、銀行貸出、保有証券、借入、保有現金」の数字を見ると、そのように感じる。「1980年代、マネーサプライが異常に増加し、バブルが膨らんだ。これは日銀がベースマネーをコントロールしなかった結果で、日銀の責任である」との批判がある。 1980年代に物価は問題になるほど上昇してはいない。1980年代の経済パフォーマンスは良くないものだったのだろうか?少なくとも「日銀が積極的にバブルを膨らました」との批判は当たらない。日銀の政策に余り影響されずにマネーサプライが増加したのなら、放っておけば自然にバブルがはじけたはずだ。 平成の鬼平の「バブル潰し」ほど急激なものではないだろうから、銀行も不良債権をこれほどまでに抱え込むことはなかったであろう。バブルが膨らんだことに日銀の責任があるのではなく、バブルを潰したことに日銀の責任があるのではないだろうか? とは言っても、当時は「バブルは潰すべきである」との主張がマスコミの主流であった。日銀は世論に答えた政策をうったのであった。と考えると、日本国中が目先の混乱に眼を奪われて、冷静に経済を見つめることが出来なくなっていたのだ、と言えそうだ。 民主制度、市場経済では独裁者も、コントロール・センターもない。必要もない。国民大衆が判断を誤れば、経済も誤った方向へ向かう。 「愚衆政治」と非難させる事態が起こるかも知れない。しかし「民主制度」「市場経済」に取って代わる、それより良い制度は考えられない。このように考えると、日銀のバブル潰しによって日本経済はデフレ・スパイラルに陥ったが、民主制度・市場経済では起こりうるリスクでしようがないことだ、と考えるべきなのだろう。
改訂前後の法定所要額はどの位なのか? 1991年10月16日、法定準備率が引き下げられたために、ぞの前後で法定所要額はどの程度違ったのだろうか?経済学の教科書では、法定所要額の計算式は書かれていない。準備率の改訂でどの程度銀行の資金繰りが楽になったのか、そうしたことは教科書では問題にされていない。 折角だからここで計算してみよう。計算例は大手都市銀行、預金総額26兆円で、そのうち10兆円が普通預金と当座預金、つまり「その他の預金」に分類される預金だ。 ここでは、その「その他の預金」に関する法定所要額を計算してみよう。定期性預金や非居住者預金に関しては省略する。先ず改訂前の準備率での計算から。 準備率に関しては 準備預金制度における準備率▲ を参照。
 @ 500億円以下は準備率ゼロ   500億X0%=0
 A 500億円超から5,000億円以下は0.25%  4,500億X0.25%=11.25億
 B 5,000億円超から1兆2,000億円以下は1.875%  7,000億X1.875%=131.25億
 C 1兆2,000億円超から2兆5,000億円以下は2.5%  1兆3,000億X2.5%=325億
 D 2兆5,000億円超は2.5%  7兆5,000億X2.5%=1,875億
 E 合計 2,342億5,000万円
 次ぎに改訂後の率で計算してみよう。
 @ 500億円以下は準備率ゼロ   500億X0%=0
 A 500億円超から5,000億円以下は0.1%  4,500億X0.1%=4.5億
 B 5,000億円超から1兆2,000億円以下は0.8%  7,000億X0.8%=56億
 C 1兆2,000億円超から2兆5,000億円以下は1.3%  1兆3,000億X1.3%=169億
 D 2兆5,000億円超は1.3%  7兆5,000億X1.3%=975億
 E 合計 1,204億5,000万円
 10兆円の預金に対する法定所要額、改訂により約1千億円減ったことが分かった。定期預金も含めていくら減ったのか?そして銀行にとってどの程度資金繰りが楽になったのか?これは皆さんで計算し、想像してみて下さい。日銀が行った法定準備率の変更が金融市場にどのような影響を与えたのか、それを想像してみて下さい。 経済学者業界の人たちよりも、もっともっと現場に近い所から「マネーサプライ論争」を見ることができるはずです。
*               *                *
<「岩田・翁論争」はピント外れの論争だった> 「ベースマネーの増減により(原因)、マネーサプライが増減する(結果)」という神話を暴くのがこのシリーズの目的なのだが、「岩田・翁論争」は避けて通れない論点だ。 上に書いたようにTANAKAの結論は、「日銀はベースマネーをコントロールできるか?できないか?」はピント外れの議論で、「ベースマネーの増減により、マネーサプライは増減するか?で論争しなければ意味がない」だ。 つまり、両者の論旨を熟読し、意見の相違点を考えると、根本的な違いは「ベースマネーの増減により、マネーサプライは増減するか?」「そうでないか?」になる。
 日銀はベースマネーの増減に影響を与えることはできる、しかし各銀行は日銀とは別の方向へベースマネーを増減させることもある。日銀がオペレーションによりベースマネーを増減させても、各銀行が日銀からの借入を増減させることにより、ベースマネーを増減させることもできるからだ。
 日本の市中銀行は法定準備を超える超過準備を持たないため、必要な準備需要は前の月の市中銀行預金の水準によってすでに決定されており、その準備需要に対して、日銀が準備供給に応じなければ、市中銀行の決済が不可能になり、大混乱が生じてしまうからである。つまり、日銀は市中銀行の準備需要に応じて準備を供給するしかないというのである。これが「日銀理論」である。 という、日銀の「○○である」との論法と「○○べきである」との岩田理論がゴッチャになっている。日銀が「コントロールできない」というなら「そんなことはない、こうすればコントロールできる」と方法を提案するか、「このように制度を変えればいい」と主張すべきだ。 それは
<マネーサプライ管理は日銀の責任==中谷巌>▲にも言える。「である論」と「べき論」がゴッチャになっている。議論の仕方がなっていない。まともな議論の仕方を勉強しましょう。
 「岩田・翁論争」の岩田理論は筋が通っていなかった。単なる「日銀に対する嫌がらせだ」と言われてもしょうがない批判であった。それと同時に、それに対する翁論文もポイントが外れた反論であった。そしてそれを見守る経済学者業界の人びとは、結局ポイントを理解していなかった。 それでも、他の業界からの新規参入がないので安穏としていられた。本当は、大学教授で「日銀理論の方が正しいようだ」と書いている経済学者もいたが、主流派からは無視されていた。しかしこれに関して書くと長くなるので、このシリーズの終わり頃に取り上げることにしよう。 ただ、「割合に近い所にいる人でも、この業界では無視され、相手にされないこともある。それほどこの経済学者業界は閉鎖的である」とだけは言っておこう。
<そして、その後もピント外れの論争だった> 岩田・翁論争、マネーサプライ論争はその後多くの場面で展開され、多くの人が発言した。これらは「日銀はベースマネーをコントロールして、マネーサプライを適正に供給せよ」「日銀はベースマネーをコントロールできないし、現在は適正である」との論争になっていった。 それらの論争では「ベースマネーの増減により、マネーサプライが増減する」が前提となっている。結局神話を前提とした論争なので、決着が着くはずがなかった。経済学の教科書は、「決着が着いてない」を認めて書かれている。だれ一人として、神話を疑おうとはしていない。自分で決着させようとの意欲をみせていない。 臍曲がりも異端者も突然変異も一代雑種もない。自家不和合性に陥っている。マスコミで発表される意見は結局コップの中の嵐、狭い閉鎖社会での同業者同士の論争でしかなかった。 そしてTANAKAは、実に多くの経済学者業界の人に対して「王様は裸だ!」と叫ぶことになる。
(^o^)                  (^o^)                  (^o^)
<主な参考文献・引用文献>
週刊東洋経済 1992.09.12 「日銀理論」を放棄せよ            岩田規久男 東洋経済新報社   1992. 9.12
週刊東洋経済 1992.10.10 「日銀理論」は間違っていない           翁邦雄 東洋経済新報社   1992.10.10
週刊東洋経済 1992.12.12 「マネーサプライの『正しい』見方」       植田和男 東洋経済新報社   1992. 9.12
週刊東洋経済 1992.12.26 「政策論議を混乱させる実務への誤解」       翁邦雄 東洋経済新報社   1992. 9.12
週刊東洋経済 1993.01.16 「岩田教授の金融理論はやはり正しい」   原田泰・白石賢 東洋経済新報社   1993. 1.16
週刊東洋経済 1993.02.06 「混乱招く日銀のあいまいな表現」         香西泰 東洋経済新報社   1993. 2. 6
週刊東洋経済 1993.03.13 「初動因」は金利かベースマネーか   岩田規久男・翁邦雄 東洋経済新報社   1993. 3.13
日本経済新聞 経済教室 マネーサプライ論争上「供給量、不足とは言えず」   賀来景英 日本経済新聞    1992.12.23
日本経済新聞 経済教室 マネーサプライ論争下「ベースマネー供給増は可能」 岩田規久男 日本経済新聞    1992.12.24
経済統計月報 第514号                日本銀行調査統計局長中尾正明 日本銀行      1990. 1.31
経済統計月報 第517号                日本銀行調査統計局長中尾正明 日本銀行      1990. 4.30
経済統計月報 第525号                日本銀行調査統計局長中尾正明 日本銀行      1990.12.31
経済統計月報 第531号                 日本銀行調査統計局長山口泰 日本銀行      1991. 6.30
経済統計月報 第535号                 日本銀行調査統計局長山口泰 日本銀行      1991.10.31
経済統計月報 第541号                日本銀行調査統計局長賀来景英 日本銀行      1992. 4.30
経済統計月報 第547号                日本銀行調査統計局長賀来景英 日本銀行      1992.10.31
経済統計月報 第550号                日本銀行調査統計局長賀来景英 日本銀行      1993. 1.30
経済統計月報 第557号                日本銀行調査統計局長賀来景英 日本銀行      1993. 8.31
経済統計年報(平成3年)             日本銀行理事・調査統計局長大須敏生 日本銀行      1992. 3.31
経済統計年報(平成4年)                日本銀行調査統計局長賀来景英 日本銀行      1993. 3.31
( 2006年2月27日 TANAKA1942b )
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ベースマネーとかマネーサプライとは何か?
その増減が経済に及ぼす影響
<景気とマネーサプライの関係> 「ベースマネーの増減により(原因)、マネーサプライが増減する(結果)」が神話である、とのTANAKAの主張、少しずつ「本当らしいな」と思ってきたのではないかと思う。それでも未だ神話に未練のある人に質問。 「マネーサプライが増減すると経済がどうなるの?」「ベースマネーと銀行の貸出資金量との関係はどうなの?」
 これらの質問に答えるためには、「マネーサプライの内訳がどのようなものか?どのような項目か?」をハッキリさせる必要がある。同じように「ベースマネーの日本銀行券発行高と日銀当座預金高とはどういうことか?」もシッカリ理解しておく必要がある。
 今回はこのような質問に答えること、そして、マネーサプライとベースマネーのことをシッカリ理解することから始めることにしよう。それというのも、今までマネーサプライもベースマネーもその意味を充分理解しているとして話を進めてきた。しかし、教科書を読んでみてこれらの言葉を曖昧にしか理解できなのではないか?と心配になった。 そこで、今これらの言葉をハッキリさせておこうと思う。もしかすると教科書の捉え方と違ってくるかも知れない。
(^_^)                 (^_^)                  (^_^)
<貨幣数量説=情報数量説>  経済学で「貨幣数量説」と言われる説がある。
 MV=PY ・・・・・・ただし、M=貨幣量 V=貨幣の流通速度 P=物価水準 Y=実質国民所得
 YをT(取引量)と置き換えて、MV=PTという恒等式も成り立つ。
 この式の表すことに関してはいろんな説明がある。@通貨流通量が多くなると物価が上がる。A経済が成長すると取引が多くなるので、そのために多くの通貨が必要になる。これを「成長通貨」と言う。Bデフレから脱却させるには通貨を多く供給すればいい。
 つまりこの式の何を原因とし、何を結果とするかによって色々な説明が成り立つ。そしてその説明に対して反対意見もあるが、ここでは「M=貨幣量」と「Y=実質国民所得」とは深い関係にある、として話を進めることにしよう。そこで問題になるのは、「貨幣量」とは何か?ということだ。 通常「マネーサプライ」という言葉を使っているが、その内容をシッカリ理解しておく必要がある。
<マネーサプライ> 「マネーサプライ(通貨供給量、通貨流通量)」とは、基本的に通貨保有主体(非金融法人、個人、地方公共団体等)が保有する通貨量の残高(金融機関や中央政府が保有する預金などは対象外)。 なお、銀行・信用金庫等のほか、信託(投信を含む)、保険会社、政府関係金融機関などは通貨保有主体から除かれる一方、証券会社、証券金融会社、短資会社などは非金融法人として通貨保有主体に含まれる。
 代表的な指標は、「M2+CD」と「広義流動性」が用いられる。
M1 「現金通貨」 日本銀行が発行する日本銀行券発行高+貨幣流通量
  「預金通貨」 要求払預金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備)ー対象金融機関保有小切手・手形 これらの発行主体は=国内銀行、在日外銀、信金、しんきん中金、農中、商中
M2
「準通貨」 定期預金、据置貯金、定期積金、非居住者円預金、外貨預金 これらの発行主体はM1と同じ
CD
「CD」 CD(譲渡性預金) この発行主体はM1と同じ
M3 「郵便貯金」 通常、積立、住宅積立、教育積立、定額、定期、郵便振替
  「その他金融機関預貯金」 要求払預貯金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備)ー対象金融機関保有小切手・手形、 定期預貯金、定期積金、非居住者円預金、外貨預金、CD(譲渡性預金)  これらの発行主体は信用組合、全信組連、労働金庫、労金連、農協、信農連、漁協、信漁連
  「金銭信託」 金銭信託(投資信託、年金信託等を除く) これらの発行主体は国内銀行の信託勘定
広義流動性

  「金銭信託以外の金銭の信託」 金銭信託以外の金銭の信託 この発行主体は国内銀行の信託勘定
  「投資信託」 公社債投信、株式投信 この発行主体は国内銀行の信託勘定
  「金融債」 金融債 この発行主体は金融債発行金融機関(長信銀、農中等)
  「金融機関発行CP」 金融機関発行CP(短期社債を含む) この発行主体は金融機関(国内銀行、農中、商中、保険会社等)
  「債券現先・現金担保付債券貸出」 債券現先(買現先)、現金担保付債券貸借(債券借入<現金担保放出>)発行主体は資金調達主体
  「国債・FB」 国債(TB、財融債を含む)、FB これらの発行主体は中央政府
  「外債」 非居住者発行債((円建て、外貨建て) この発行主体は外債発行機関
もう少し分かりやすく……… 上記説明は、日銀発行の『経済統計月報』からの引用なので、間違いはないが分かりづらい。そこでもう少し分かりやすく、そして景気動向との関連についても考えてみよう。
 通常、マネーサプライとはM2+CDを指す。市中に流通している日銀券と非金融機関・家計が持っている銀行預金、およびCD(譲渡性預金)の合計をマネーサプライと言う。 つまり、これらは実際の取引に使われる通貨だからだ。
 ここまでは何の疑問もなく理解したような気分になるが、本当に理解したのかというと疑問だ。実際の取引には、郵便貯金も使われることがある。また最近では企業買収に株式交換という手段が使われることもある。 これは、企業を買い取るのに、現金・預金の他に、自社の株券を相手側に渡し、これを取引手段、つまり通貨として使うということだ。とすると、ここでは「株券」が「通貨」として使われることになる。 「M2+CD」のほかに通貨として使われるものがある、ということは「M2+CD」が多くなったかどうか、だけで「貨幣数量説」を説明しようとするとムリが生じることもある、ということだ。つまり「M2+CD」の量だけで景気が良くなるとは言い切れないし、「M2+CD」が変化しなくても景気がよくなることもある、ということだ。 こうしたことについてもう少し詳しくみてみよう。
郵便貯金 郵便貯金の残高はM3として分類され、マネーサプライの数字には加えられない。郵便貯金が解約され銀行に預け入れられたとするとマネーサプライ(M2+CD)は増加する。 ただし、これによって経済が活性化するとは考えられない。つまりマネーサプライが増加しても経済は変化しない場合もあるということだ。
広義流動性 広義流動性のコンポーネントは、M2+CDのほか、郵便貯金、その他金融機関預貯金、金銭信託、金銭信託以外の金銭の信託、投資信託、金融債、金融機関発行CP、債券現先・現金担保付債券貸借、国債・FB、外債の10系列。 これらは取引に際して貨幣として使用されるわけではない。取引のための「貨幣」ではなくて、資産価値としての「貨幣」だ。これらは現金に換えられるので、取引のための「貨幣」に変わることがある。しかし非金融機関が買った場合は、マネーサプライに変化はなく、銀行が非金融機関から買うとマネーサプライが増える。
銀行が非金融機関から国債を買うと 日銀が銀行から国債を買う場合は、買いオペとして色々と解説されているが、銀行が非金融機関(企業や個人)から国債を買う場合についての詳しい説明はない。では何が変化するのか? 銀行が非金融機関から国債を買うとマネーサプライが増加する。それでありながら経済に大きな変化は生じない。企業や個人が国債を売って現金を手に入れても、それで経済が大きく変化するわけではない。この場合も郵貯から銀行へ資金が流れた場合と同じ、マネーサプライは変化しても実体経済に変化はない。
企業が社債を発行すると 企業が銀行から融資を受けると、マネーサプライは増加する。その増加を見て「企業が積極的に投資を始めた。景気が上向くのだろう」との予測は立つ。しかし企業が社債を発行しても、マネーサプライに変化はない。 企業が社債を発行して非金融機関(企業や個人)がそれを買った場合は、企業や個人の資金が社債を発行した企業に移るだけで、マネーサプライに変化は生じない。しかし、企業が社債を発行するということは、銀行から融資を受けるのと同じように、設備投資・在庫投資・研究開発投資など、積極的な経営になった証拠なので、景気の上向きが期待できる。 しかし、マネーサプライの変化からは読みとることはできない。日本でも最近は間接金融から直接金融に変わってきた、と言われる。 これは、企業が銀行から資金を借りるのではなくて、社債を発行して非金融機関からの資金を集めるようになったということで、それは、マネーサプライの変化に関係なく経済が変化するということでもある。
株式が通貨のように取引の手段に使われることがある 上に書いたように、株式が企業買い取り、企業合併などの場合に取引に使われる場合がでてきた。昔には考えられないことだった。 それだけ、「貨幣の種類が多くなった」と言うべきか「貨幣の概念があやふやになった」と言うべきか。いずれにしても、「通貨流通量」と「実体経済」との関係が、そして「貨幣数量説」の意味が、があいまいになってきた。
取引に使われる通貨の種類が多くなった 江戸時代は三貨制と言って、金貨・銀貨・銭が使われ、さらにコメが通貨のように使われていた。とても複雑に思えるが、通貨流通量という観点から見ると現代ほど複雑ではない。 明治時代初期、「国立銀行」という「民間銀行」が153もできて、それぞれが紙幣を発行する権限を持っていた頃、あるいは江戸時代、荻原重秀が貨幣改鋳を行った頃、その頃は通貨流通量と景気との関係は今より密接であった。 しかし現代では、貨幣数量説が基本的に正しいとしても、通貨流通量で景気を判断するのが難しくなってきた。 そうした貨幣と景気との関係を理解して金融経済学を理解しないと経済を見誤るおそれがある。
マネーサプライはなぜ増減するのか? 江戸時代には金貨に含まれる金の量を減らして金貨を多く流通させることができた。代表的なのは、荻原重秀が行った貨幣改鋳だ。これに関しては以前に 荻原重秀の貨幣改鋳と管理通貨制度▲ と題して 書いたので、そこから引用することにしよう。
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 荻原重秀(1658-1713)(万治元-正徳3) 時は5代将軍綱吉の時代、元禄の華やかな町人文化が咲き誇っていた頃、しかし幕府の財政は赤字続きで破綻寸前だった。その時御側用人柳沢吉保の命を受けて、勘定組頭荻原重秀は財政再建へ取り組むことになった。そこで重秀が考えたのは貨幣改鋳だった。慶長小判の金含有量を減らし、出目を稼ぎ、通貨を拡大すること。つまり小判10枚を回収して、これを改鋳して15枚として流通させる。これで幕府の財政は潤うと考えた。こうした貨幣改鋳政策は4代将軍家綱の時代にも幕府内で検討されたが、時の老中土屋数直の反対「邪(よこしま)なるわざ」として葬られている。しかしこの時は、重秀のそれまでの仕事ぶりから柳沢吉保・将軍綱吉の信頼もあって実施されることになった。これが1695(元禄8)年。
 幕府はこの改鋳の目的を「刻印が古くなって摩滅したため」と説明した。勿論本当の目的は品位の高い慶長小判を回収して品位を落としたものに改鋳し、出目の獲得を狙ったものだった。慶長小判が86%の金品位だったものを、56%に減じたもの。これで出目は大きく、銀の改鋳と合わせて、 全体で500万両にも及んだと試算される。
 これが幕府の財政再建に大きく貢献するのだが、もう一つの効果があった。それは通貨流通量拡大による景気刺激だった。徳川幕府が成立し、戦国のすさんだ世から安定へ歩みだし、米の生産も伸び、豊かになり始めていた。綱吉の「生類哀れみの令」もこうした世の中の安定期から生まれたもので、単に行き過ぎた動物愛護ではなかった。
 これ以前は殺伐とした時代で、生活に困って子供を捨てたり、気に入らない子供を捨てたりすることがあったし、人間や牛馬が年老いたり病気になったりすると、まだ息のあるうちに野山に追放して自然に死ぬのを待つような風習さえあった。屍も野ざらしのままだった。綱吉はこれらを取り締まろうとする。この時期は人間も含めた「生類」、つまり生きとし生けるもの全てを大切にし、平和を築こうとの時代だった。日本人全てが自分の「墓」を持つようになるのはこの時代からだった。こうした時代の「生類哀れみの令」であった。
 こうして世の中が安定し、生活が豊かになり、経済が拡大してくるとそれに伴った通貨も多く必要になる。 今日の経済用語で言う「成長通貨」が必要になる。重秀の貨幣改鋳はこの「成長通貨」の役割も果たしたわけだ。
 こうして幕府の財政も立ち直り、経済も順調に伸びるかのように見えたが、ここで思わぬ弊害が出てきた。それは江戸の消費物価が異常に高騰してきたことだった。
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明治以降はどうなったのか? 明治時代、金本位時代には貿易が金で決済されていた。そこで貿易黒字が多くなると国の金保有量が多くなり、金を裏付けとして貨幣が多く流通するようになった。 これが建前、実際は「制限外保証発行」といってかなり自由に貨幣を発行していたが、それでも江戸時代よりは制限があった。
 そして現代。管理通貨制度では違っている。貨幣を発行するのは日銀であるけれども、日銀の独断で発行するのではない。経済活動が活発になると企業同士の取引が多くなり、それに必要な貨幣も多くなる。これを「成長通貨」と言う。企業は取引に必要な通貨を銀行からの融資により手当する。これで預金通貨が増え、これを現金化すると日銀券が増える。この場合、企業からの要請により銀行が日銀から日銀券を引き出し、企業に提供する。 ここでは日銀の独断で日銀券が増刷されるのではない。日銀は受け身であって、企業からの需要によってマネーサプライが増えることになる。 岩田ー翁論争での論点の1つは、マネーサプライの増加は日銀主導でなるのか、日銀は受け身なのか?ということだった。江戸時代、金本位制の時代は幕府・中央銀行が独断で貨幣を発行したが、現代の管理通貨制度では中央銀行は受け身であるのが特徴だ。 そしてこれを時代の流れとして見ると、政府・中央銀行の権限が少なくなって、市場の動きが主導権を握るようになった、と言える。つまり「市場経済」になってきたわけだ。そのような時代にあって、それでも中央銀行の主導でマネーサプライを増やすべきだ、という人がいる。 市場の動きが主導で経済が動くことに不安なのか、不満なのか、不信感を持っているのか、市場経済よりも管理経済に信頼感を持っている人がいる。平成の鬼平の再来を望んでいるのだろうか。西欧では政治面で救国の英雄が独裁者になった例が多い。このため政治経済のコントロールセンターが強力になることに抵抗感を持つ人がいる。 日本ではそうした警戒心はないようだ。こうした感覚・センスは 自給自足というアンチユートピア 『1984年』を中心に考える▲ を参照のこと。
 日本では、貨幣は日本銀行が独占的に発行する。しかし、独断ではなく、市場からの要請によって発行する。
「銀行貸出が前年を上回った」とマスコミは報道する。「企業の銀行からの借入が前年を上回った」とは表現しない。しかし、上回ったのは、銀行側の「日銀当預」が多くなったからではなく、景気が上向き、企業側の投資意欲・借り入れ意欲が強くなったからだ。
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<ベースマネー> マネタリーベースとかハイパワード・マネーともいう。「ベースマネー」とは「日本銀行が供給する通貨」のこと。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計値。
 ベースマネー=日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金
 ベースマネーの流通現金は、マネーサプライ統計の現金通貨と異なり、金融機関の保有分が含まれる。これは、マネーサプライが「(中央銀行を含む)金融部門全体から経済に対して供給される通貨」であるのに対し、ベースマネーは「中央銀行が供給する通貨」であるためだ。
 経済学の神話では、ベースマネーが増加するとマネーサプライも増加することになっている。それは銀行に貸し出すための原資・資金が増えるからだと言う。貨幣流通量と言っても、それが銀行にあるのか、非金融機関(企業や個人)にあるのかは問題にならない。神話に基づいて考えるならば、銀行が貸出をするためには、銀行が多くの現金や日銀当預を有していることが必要だ、となるはずだ。 そのためには、預金を集めたり、日銀の買いオペに積極的に応じるべきだ、となる。ところがベースマネーの数字には企業や個人が持っている現金も含まれる。ベースマネーとは違った項目の数字、統計資料が必要になるはずだ。そして、マネーサプライのところで書いたように、ベースマネーについても、マネーサプライとの関係や実体経済ほ変化にあまり関係のない数字もある。
銀行が非金融機関から国債を買うと ベースマネーの数字では、現金が銀行にあっても非金融機関にあっても変わりがない。したがって、銀行が市場から国債を買っても、ベースマネーに変化はない。この場合、マネーサプライに変化はあるがベースマネーに変化は起きないことになる。神話理論で言えば「貨幣乗数が高くなった」ということだ。
ベースマネーは誰が増減させるのか? ベースマネーとは現金通貨と日銀当座預金の合計を言う。岩田ー翁論争では、ベースマネーの増減を日銀はコントロールできるか、できないか?が論点になっていた。そので、ベースマネーの増減する仕組みをシッカリと理解しておこう。
 日銀の買いオペ、売りオペにより日銀当預は増減する。これが大きな要因だ。日銀の判断でオペレーションを行うので、これに関しては「日銀はベースマネーをコントロールできる」と言える。しかし、銀行は日銀から日銀信用を受ける。日銀からの借り入れは各銀行の判断で行なう。日銀は銀行からの借入の申し出を断ることはない。そこで、日銀信用に関しては「日銀はコントロールすることはできない」と言える。
 「日銀はベースマネーをコントロールできるかどうかは大きな問題ではない」というのは、「ベースマネーの増減によりマネーサプライが増減するというのは神話だ」との理由の他に、もう1つ理由がある。それは、たとえ銀行の資金が少ない時代であっても、ベースマネーの内には貸出能力に影響のない数字もある、ということだ。 日本銀行券といっても、銀行が保有していても、あるいは非金融機関が保有していても統計上は差がない。どちらもベースマネーの数字に含まれる。こうした理由により「日銀はベースマネーをコントロールできるか?」は大きな問題ではない。
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<金融機関の「負債」としての数字> ベースマネーとかマネーサプライは、本来、景気動向を表す数字ではなくて、金融機関の「負債」を表す数字なのだ。ベースマネーは日銀の負債であり、 マネーサプライは日銀と民間銀行の負債であると理解すべき数字なのだ。つまりそれらの数字は景気を判断するために集計される数字ではない、と理解しないと頭が混乱する。マネーサプライの増加に多大な期待を抱いたりするのは、マネーサプライが景気判断の数字と考えているからだろう。 貨幣数量説を単純に信じているとこのように判断を誤ることになる。基本的に貨幣数量説が正しいとしても、例外的な数字があることも知っておく必要がある。
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<日銀がマネーサプライをコントロールするためには何を変えるべきか?> 「日銀はマネーサプライをコントロールできる」「日銀はマネーサプライをコントロールすべきだ」と主張する人が多い。それに対して「日銀はマネーサプライをコントロールすることはできない」と日銀は言う。 ではどうすれば、日銀がマネーサプライをコントロールできるようになるのか、それを考えてみよう。
アメリカの例 アメリカでは、小切手(取引)勘定の場合、4000万ドルを越える額については8〜14%の間で連邦準備制度(Fed)が変更しうることになっている。これについてサムエルソンは 『経済学』▲ で 次のように書いている。
法定準備金要額 銀行業においては、準備金というのは、銀行の資産の中で手元現金としてかあるいは中央銀行での預金としてか保有されている部分である。銀行が日常の取引に十分な現金を保持していることを顧客に安心させるだけの関心をもつ用心深い銀行家であっても、銀行の資産の1〜2パーセントを準備金として保持するだけでよいと思うかもしれない。 ところが実際には、銀行は、その小切手用預金の10パーセント以上を、一般的にはわが国の中央銀行である連邦準備制度に、準備金として預託している。
 何故、準備金はそんなに高額なのだろうか。その理由は、金融機関が法律および連邦準備制度規則によってその資産の相当部分を準備金として保持するよう求められているということにほかならない。 1980年以来、すべての金融的媒介業は、異なる種類の預金にたいして準備金を保持することを求められている。預金は、小切手のタイプと貯蓄用のタイプに分類されていて、準備金所要額は、手元現金の実際の必要または預金を受け入れている金融機関の種類とは独立に、それぞれのタイプの預金に対して課せられる
 表は、所要準備率の水準を示したものである。その水準の幅は、小切手タイプの勘定にたいする12パーセントから個人の貯蓄勘定にたいするゼロまでとなっている。数字例でもって論ずる場合の便宜のため、われわれは10パーセントという準備率を使うが、それは、実際の所要率は10パーセントとは多少異なるという了解のもとにおいてのことである。
 これらの法定準備金所要額は、Fed が銀行貨幣の供給を統御するにあたってのメカニズムのきわめて重要な一部分をなしているので、ここで更に詳しく説明しておく必要がある。
法定準備率は高すぎるであろうか 銀行家たちは、彼らの分別で妥当と思われる以上に、いや、引き出し預け入れの干満に対処するのに客観的第三者が必要だと考える額以上にさえ、無収益資産を保持しなければならぬ、と不満を訴えている。 彼らは、何故自分たちは大事な稼ぎを失わなければならぬのか、と言う。そして実のところ、何人かの経済学者は今日、準備金所要の制度を完全に廃止して、金融制度を全面的に規制緩和すべきだと主張しているのである。
 こうした考え方は、銀行かの立場からすれば取り柄のあるところだが、マクロ経済的な立場を見失っている。すなわち法定準備金所要額が高すぎるくらいになっているのは、中央銀行が貨幣供給を統御するのを助けるためなのである。 換言すれば、中央銀行は、準備金商用額を銀行自身が望む水準よりもかなり高く設定することにより、適格な準備水準を決めて貨幣供給の統御を行うことができるのだ。高率の法定準備金所要額の制度がどのようにして中央銀行による貨幣供給の統御に資することができるかの論理は、このあとで説明することにする。
表 金融機関のための所要準備
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預金の種類       │準備率% │連邦準備制度(Fed)が変更しうる幅
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小切手(取引)勘定    │     │
 最初の4000万ドル   │   3 │変更認められない
 4000万ドルを越える額 │  12 │  8〜14
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有期預金および貯蓄預金 │     │
 個人のもの      │   0 │
 非個人のもの     │     │
  満期1年半まで   │   3 │  0〜9
  満期1年以上    │   0 │  0〜9
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 法定準備金所要額の主な機能は、預金に安全性または流動性を持たせるとか、預金の要求払いを可能にする、とかいうものではない。その特に重要な機能は、銀行が創り出しうる小切手預金の大いさを連邦準備制度が統御できるようにするということである。 一定の高率の法定準備所要額を課すことにより、Fed は一層有効に貨幣供給を統御できるのである。 (T注 サムエルソンは「準備率は高くてもいい」と考え、バーナンキは「準備率という規制は緩和すべき」との考えと感じた) (サムエルソン『経済学』13版上 から)
準備率を2〜20%に アメリカの例を日本で応用すれば、「準備率を2〜20%に」という提案になる。この程度高率ならば影響も大きいだろう。1.3%とか2.5%程度では銀行の貸出量に影響を与えることはできない。
「窓口規制」と「窓口指導」の復活を 日銀が民間銀行の貸出をコントロールする手段として、現在は使われていない「窓口規制」がある。これは銀行が企業への貸出をすることに関して、その総額を規制することで、これによりマネーサプライの増加を抑えることができる。
 「窓口指導」とは銀行が準備のための日銀当預を歩積みしていく、その進捗具合を指導することで、「○○銀行さん、歩積みの進み方がが遅れていますよ」などと催促すること。こうした指導により準備率が低くても銀行は歩積みに対する負担が大きくなる。
傾斜生産方式 戦後、経済がまだ混乱していた時期に「傾斜生産方式」がとられた。これは少ない資金を効果的に経済発展に使うために、貸出先を指定し、他の産業への貸出を規制していたやり方。当時は石炭・鉄鋼への貸出が優先されていた。
日銀による金利規制の強化 各銀行が勝手に金利を設定し、自由な競争を始めると日銀の統制力が効かなくなる。日銀が行う各種規制を有効にするためには、金利規制など日銀の規制を強くしておく必要がある。
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日銀は規制緩和の方向に進んでいる 日銀は「マネーサプライを日銀がコントロールすることはできない」と言う。それに対して、経済学者業界の人たちは「日銀が、日銀はベースマネーをコントロールできないと主張することは、「私たちは金融政策の手段を持っておりません」と自ら告白するに等しく、日銀自身がその存在意義を否定する自殺行為である」と主張する。 では具体的にどうすればよいのか?答えは「規制を強化せよ」だ。つまり「通貨流通量を市場の流れに任せておくのはよくない。日銀が各種規制を強化してでもコントロールすべきだ」との主張になる。つまり市場経済に不安感を持っているようだ。そこで、日銀に協力な指導力を期待する。
 日銀は業界人の主張とは反対に規制緩和の方向に向いている。マネーサプライをコントロールできないと言い、だからといって「日銀の権限を大きくせよ」とは言わない。市場のメカニズムを尊重しようとの姿勢と見える。ここが業界人と大きく違うところだ。
日本経済に「白馬の騎士」を期待するのか? 「民主制度」「市場経済」を信頼する者は英雄や強力な指導者を期待しない。祖国の英雄として登場したリーダーがその後独裁者になった例をいくつも知っていることもその理由の1つだ。 TANAKAが取り上げている 「地産地消の国アルバニア」▲ のエンベル・ホジャもその1人。そしてヨーロッパでは、そうした社会正義という誰も反論できないスローガンを掲げた独裁制に対してのアレルギーが強い。 『1984年』▲ をはじめ多くの著作がこうした危機意識を表現している。 日本の経済学者業界の人たちにはこうしたアレルギーはない。日銀が強力な指導力を発揮することを期待している。「平成の鬼平」にも嫌悪感を持っていない。「隠れコミュニスト」かも知れない。
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<マネーサプライやベースマネーのコンポーネント再構成を> 「ベースマネーの増減により(原因)、マネーサプライが増減する(結果)」と信じていても、マネーサプライやベースマネーのコンポーネントが最適であるとは思っていないのではないだろうか。 「M2+CD」では郵貯が敗っていないし、だからと言って「広義流動性」では「取引手段」というより「資産保全手段」と言った方がいい項目もある。景気動向を的確に表現する金融情報・統計資料・コンポーネントは何が良いのか?選び直す試みも必要だと思う。 それは「ベースマネー」についても言える。両方とも「景気動向のために指数」ではなくて、「金融機関の負債」という指数だから、必ずしも景気動向を表現する指数・景気の体温計ではない。どのような数字を取りそろえたら良いのか?今のところすべて日銀任せでしかない。 業界人からの提案は出ていない。
 かく言うTANAKAも具体案はないのだが、何か良い統計があっても良いように思う。日銀批判だけでなくて、具体的な提案もイッパイ出てくると良いと、経済学者業界の人たちに期待することにしよう。
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<数字に慣れておこう> マクロ経済で扱う数字は普段の日常生活での数字と桁が違う。準備率は下がると大手都市銀行では準備金が1000億円も減ることになる。量的緩和で日銀当預が30兆円になって、それで株、社債、土地を買って通貨流通量が増えたとしても、マネーサプライ700兆円や広義流動性1300兆円にはあまり影響を与える数字ではない。 こうしたこともあって、マクロの数字に慣れるためにマネーサプライ関係とベースマネー関係の数字をあげてみた。どうぞマクロ経済の数字に慣れてください。そうでないと、ピント外れな感覚・センスになって、たとえば「日本の銀行は資金不足なので、預金が増えたり、日銀信用が増えると貸出が増える。つまりベースマネーの増減によりマネーサプライが増減する」などのようなことを言い出すことになってしまう。
<ベースマネー関係表>  単位億円
年月 BM 長期国債 発行高 流通高 当預 法定準備 預金 貸出 現金 有価証券 日銀貸出
05-1 1,125,134 658,897 746,097 44,871 334,166 45,313 5,163,180 4,003,234 380,512 1,957,834 49
(出典)日本銀行統計、経済統計月報から集計
BM=ベースマネー。マネタリーベース、ハイパワードマネーとも言う。 長期国債=日銀が保有する長期国債。これを買いオペすることにより日銀は通貨を金融機関に供給する。 発行高=ベースマネーのうちの、日本銀行券発行高。 流通高=ベースマネーのうちの貨幣流通量。  当預=銀行が保有する日銀当座預金残高。通常は法定準備よりほんの少しだけ多いのだが、この時は量的緩和という異常な状態であったのでこれだけ多くなっている。 <表2 マネーサプライ ベースマネー 日銀当預 関係表>▲ を参照のこと。 法定準備=法律に定められた準備額。 預金=銀行の預金高。  貸出=銀行の貸出額。 現金=銀行が保有する現金・切手・小切手。 有価証券=銀行が保有する有価証券。 日銀貸出=日銀が銀行に貸し出している額。 
<マネーサプライ関係表>  単位億円
年月 M2+CD M1 現金通貨 預金通貨 準通貨 CD M3+CD 広義流動性 郵貯 預貯金
05-1 6,998,459 3,684,217 700,724 2,983,493 3,102,140 212,102 11,381,819 13,904,699 2,237,065 1,123,084
(出典)日本銀行統計、経済統計月報から集計
M2+CD=通常、通貨流通量と言うとこのことを指す。  M1=通貨流通量の内の、現金通貨と預金通貨の合計。 現金通貨=M1の内の日本銀行が発行する日本銀行券発行高+貨幣流通量。  預金通貨=M1の内の、当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備。  準通貨=定期預金、据置貯金、定期積金、非居住者円預金、外貨預金などのM2 CD=譲渡性預金。  M3+CD=M2に郵便貯金とその他金融機関預貯金を加えたもの。 広義流動性=M3に投資信託などを加えたもの。  郵貯=M3のうちの郵便貯金。 預貯金=M3のうちの、その他金融機関預貯金。 
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<主な参考文献・引用文献>
経済学 13版 上                P.サムエルソン 都留重人訳 岩波書店      1992. 5.15
金融経済統計月報72号              日本銀行調査統計局長早川英男 ときわ総合サービス 2005. 3.25
日本銀行統計夏号                 日本銀行調査統計局長早川英男 ときわ総合サービス 2005. 7.27
( 2006年3月13日 TANAKA1942b )