(1)先ずはじめに、量的緩和政策が採用された、その経緯を知っておこう………
2005年5月30日、「量的緩和政策の緩和 その意味と日銀の情報公開性」と題して日銀の金融政策について書いた。アップロードしてからどうも気持ちが落ち着かない。いろいろ文献を調べて、ちょっと思い違いしていることに気が付いた。そして日銀の説明に矛盾があること、日銀を批判する人たちも間違えを認めるべきであること、に気付いた。
そこで「ゼロ金利政策と量的緩和政策」についてもう一度取り上げることにした。
先ず日銀の説明を聞いてみよう。日銀のホームページ「教えて!にちぎん」▲に「日本銀行当座預金残高を増やすことによって、どのような効果が期待できるのですか?」の質問に答えているので引用しよう。
A. 期待される効果としては、次の 3つが考えられます。
(1) 短期金利の一層の低下。
(2) いわゆるポートフォリオ・リバランス効果。日本銀行当座預金は、安全ですが利息を生まない金融資産です。これが積み上がれば、金融機関はより有利な運用先を求めて貸出や債券・株式投資などに資金を回すことができるのではないか、という考え方です。
(3) 期待効果。「日本銀行が資金供給を増加させれば、いずれは物価上昇や景気回復につながる」という予想が人々の間に生じて、企業や家計の景気に対する見方が改善されることで、企業の設備投資や個人消費が改善すると期待されます。
(1)「短期金利の一層の低下」と言うからには、ゼロ金利政策を行っていなかったということになる。それでは、もし一層の低下があるとどのような効果があるのか?ここで経済学を趣味とするTANAKAは経済学の入門書に出てくる言葉が頭に浮かぶ。「限界効用逓減の法則」という言葉が。
十分金利は下がっているのに、今更下げても効果は期待できないだろう。ビールは最初の一杯目が一番旨い。十分喉が潤ってからのビールは「もう結構だ」となる。
(2)の場合、日本銀行当座預金から話が始まっている。日本銀行当座預金にはどのようにして積み上がって来たのか考えてみよう。市場から銀行が国債などを買い、これを日銀に売った金だ。当然利益は出している。それならば、その資金はまた国債を買うことに使うのがいい。
リスクの高い株券などに資金を廻すのは愚策だ。これは経済学の問題ではなくて、社会人として常識の問題だ。
ここでも日銀関係者は視野狭窄になっている。
このように日銀のもくろみはピント外れだと言える。そして実際の結果は全く外れ。結果として市場から国債を買って、せっせと日銀に売った銀行が利益を得ただけ。コール市場での出し手は運用先を失ってしまった。つまり生保・年金・地銀などの犠牲によって銀行の不良債権処理が進んだのだった。
そして、もう一つ大きな問題は、この政策を論じる人たちは、日銀の力を買いかぶっている。「景気対策、日銀にできること、できないこと」▲がある、
「馬は水を飲まなかった」と今回の実験的な金融政策で悟るべきであり、
日銀の政策を批判して「インフレ・ターゲット導入」を主張人たちは、「ハイパワード・マネーは増加したが、マネー・サプライは増加しなかった」という事実を認めるべきであろう。そして、ここでハイエクの言う「市場には自生的秩序 (spontaneous order) がある」という言葉がTANAKAの頭に浮かぶ。
「限界効用逓減の法則」とは………
ウィキペディアには次のような説明がある。
限界効用逓減の法則==投機的な目的を除けば、人が消費できる財の消費量には限度があるのが普通である。(最初の1杯のビールは美味いが、飲みすぎれば飲みたくなくなる。空腹時には1杯の白飯も美味いが、いずれ他のおかずも欲しくなるだろう。)
一般的に、財の消費量が増えるにつれて、財の追加消費分から得られる効用は次第に小さくなる。これを限界効用逓減の法則(げんかいこうよう ていげんのほうそく)、又はゴッセンの第1法則という。
限界効用(げんかいこうよう)とは、財一単位の消費による効用の増加分のこと。より厳密には、効用関数を財の消費量で偏微分したもの。ミクロ経済学で用いられる重要な概念である。なお、ここでは、財が必要なだけ充分小さい単位に分割できるものと仮定されている。
これを簡単に言うと、「ビールは最初の一杯が一番旨い。その後は段々旨さが少なくなる」となる。金利の場合だと、「最初の金利を下げたときは効果が大きいが、その後は最初ほどの効果は期待できない」となる。これを「金利低下の限界効用」とでも言おうか。遊び心を失うとこうした発想は生まれない。使命感に燃えて、一心不乱に日本経済のことばかり考えていると、こうした発想は生まれない。
限界効用逓減の法則(げんかいこうよう ていげんのほうそく)ともいう。
「自生的秩序」とは………
ハイエクによれば、市場経済は自生的秩序 (spontaneous order) の一つである。「自生」という言葉は、誰かが意図や計画したわけではないのに、プリミティブな種が枝分かれしながら成長して、最初には思いもかけなかったような壮大で複雑な機能を有する自律的存在に発展するという事態を表現するのに適した表現である。
原始的な交易から始まった市場経済はそのとおりのものである。秩序という言葉も、市場経済が無秩序なものとして見下され社会主義が称賛されたハイエクの生きた時代には、市場経済の持つ法則性を公衆に印象づけるために適した表現であったであろう。
市場経済は自然状態である。自然状態は無秩序ではなく、そこには市場による秩序付けが存在する。
(『現代日本の市場主義と設計主義』から)
「自生的秩序」とは………
誰かの計画によらなくともある意味で目的にかなった制度が自生的に成立することを示す、18世紀の社会と経済の理論の枠組みは、19世紀にC・ダーウィンによって、生物の種の生成の説明に利用されて大成功を収める。
つまり「自生的秩序」の概念は、現在の生物学にとって、進化による新しい種の成立の説明として、もっともなじみ深い概念である。そしてこそ進化の連鎖は、人類の発生及び「理性」の成立にまで当然つながるのである。
(『自生的秩序』から)
自然界における動植物の生態系秩序をイメージすると良い。
<量的緩和政策への経緯>
今回の「やぶにらみ経済時評」は日銀の量的拡大政策を扱う。前回、2005年5月30日と基本的姿勢は同じだが、多くの人がいろんなことを主張している。そこで今回はテーマを広げ、掘り下げて扱うことにした。
アマチュアはニッチ産業狙いで、TANAKAの考えは「○○○論、みんなで主張すれば怖くない」とは反対の、誰も主張しないような点に目を向けて、人が気付かない面を明らかにしようと思う。
そのため、こうしたTANAKAの考え、人によってはこうした考え方は気に入らないかも知れない。そうした方は読み飛ばして頂きたい。アマチュアエコノミストの「戯れ言」と笑い飛ばして頂きましょう。
まずは日銀の説明の矛盾点から取り上げるのだが、その前に関連する事項の略年表を見て、大きな流れを頭に入れて頂きます。
♠♠ゼロ金利政策・量的緩和政策を巡る略年表♠♠
1993年
08.09 細川内閣成立(7党1会派の連立政権)
12. 稲作不作のため、コメの緊急輸入開始 コメのミニマムアクセスを受入れ、ウルグアイラウンド終結
1994年
04.28 羽田内閣発足
06.29 村山内閣発足。「自・社・さ」3党連立
1995年
01.17 午前5時46分、阪神大震災発生。死者6432人、約51万棟の住宅が全半壊。
03.20 地下鉄サリン事件発生。死者10人と5000人近い被害が出た。
04.19 1ドル79円75銭の超円高
09.08 公定歩合を0.5%に引き下げ即日実施。史上最低の金利。
1996年
01.11 橋本内閣発足 自・社・さ3党連立
04.01 三菱銀行と東京銀行が合併し、東京三菱銀行発足
05.10 住専処理の6850億円を盛り込んだ1996年度予算案が成立
11.05 米大統領選で、クリントン大統領が再選
12.17 ペルーの日本大使館が武装した左翼都市ゲリラに占拠される
1997年
08.17 小川証券(山一証券系列)自主廃業
11.03 三洋証券が会社更正法の適用を東京地検に申請し、事実上倒産。負債総額は3736億円。 コール市場で初のデフォルト発生
11.17 北海道拓殖銀行巨額な不良債権を抱えて経営破綻し、営業権を北洋銀行に譲渡すると発表した
11.24 山一証券が自主廃業を発表。簿外債務が2648億円
11.26 徳陽シティー銀行不良債権を抱えて経営破綻し、営業権を仙台銀行に譲渡すると発表
12.23 丸荘証券、自己破産申請
1998年
01.20 与党3党が大蔵省の財政・金融分離で合意
03.01 大手行に第1次公的資本注入決定
03.19 松下康雄総裁、福井俊彦副総裁の辞任
03.20 速水優総裁、藤原作弥副総裁の就任
04.01 新日銀法施行 山口泰副総裁、三木利夫、中原伸之、篠塚英子各審議委員就任
04.08 植田和男審議委員就任
05.02 鴨志田孝之理事自死
06.22 金融監督庁発足
07.30 小渕恵三内閣発足
09.09 無担保コールレート0.25%へ引き下げ
10.23 日本長期信用銀行国有化
12.15 金融再生委員会発足
12.25 日本債券信用銀行国有化
1999年
01.01 欧州連合ユーロ導入
02.12 日銀政策委、ゼロ金利政策採用
03.12 大手行15行に第2次公的資金注入
04.09 時間軸政策採用
10.10 後藤康夫審議委員退任
12.03 田谷禎三審議委員就任
2000年
04.02 小渕首相倒れる 森善朗内閣発足
07.01 金融庁発足
08.11 ゼロ金利政策解除 コールレート0.25%に引き上げ
09.19 ジャパンネット銀行設立
11.07 米大統領選挙(ブッシュ当選)
2001年
01.01 RTGSに切り替え
01.05 金融再生委員会廃止
01.06 中央省庁再編成(1府12省庁体制)
02.09 ロンバート貸出制度導入 公定歩合引き下げ(0.25→0.35)
02.28 コールレート誘導金利引き下げ(0.25→0.15) 公定歩合引き下げ(0.35→0.25)
03.19 量的緩和策採用(当座預金残高目標5兆円に)
04.01 三井住友銀行(さくら銀行と住友銀行が合併)発足
04.02 東京三菱銀行(三菱銀行と東京銀行が合併)発足
04.02 ソニー銀行発足
04.10 アイワイバンク銀行設立 5月7日 営業開始
04.26 小泉純一郎内閣発足
08.14 当座預金残高目標の増額(5→6兆円前後) 長期国債買い切りオペ(4000→6000億円)
09.11 米同時テロ勃発
09.12 日経平均株価1万円割れ
09.18 当座預金残高目標の増額(6→6兆円を上回る) 公定歩合引き下げ(0.25→0.10)
10.07 米軍アフガニスタン空爆
12.19 当座預金残高目標の増額(6兆円を上回る→10→15兆円) 長期国債買い切りオペ(6000→8000億円)
2002年
01.01 EUユーロ現金流通
01.15 ユーエフジェイ銀行(三和銀行及び東海銀行が合併)発足
02.28 長期国債買い切りオペ増額(8000→1兆円)
04.01 ペイオフ定期性預金解禁
04.01 みずほ銀行(富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行が合併)発足 システム障害で混乱。復旧に1ヶ月近くかかる
09.18 日銀、銀行保有株買入公表
09.30 竹中経済財政相が金融相兼任
10.07 ペイオフ全面解禁2年延期決定
10.30 当座預金残高目標の増額(10→15→20兆円) 長期国債買い切りオペ(1兆円→1兆2000億円)
2003年
03.05 当座預金残高目標の増額(4.1から17-22兆円)
03.19 速水優総裁、藤原作弥・山口泰副総裁の退任
03.20 福井俊彦総裁、武藤敏郎・岩田一政副総裁の就任
03.20 米軍がイラクに対する武力攻撃を開始、英国・オーストラリアもこれに追従。4月9日にバグダッドが陥落
04.16 産業再生機構発足
04.30 当座預金残高目標の増額(17-22→22-27兆円)
05.20 当座預金残高目標の増額(22-27→27-30兆円)
10.10 当座預金残高目標の増額(27-30→27-32兆円)
2004年
01.20 当座預金残高目標の増額(27-32→30-35兆円)
11.02 米大統領選挙ブッシュ再選
2005年
05.20 当座預金残高目標現状維持、なお書き修正(目標を下回ることがありうるものとする)
● 1999年2月12日の金融政策決定会合において、「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コール(オーバーナイト金利)を、できるだけ低めに推移するように促す」というマンデート(指令)を執行部に与え、いわゆる「ゼロ金利政策」に踏み出した。このマンデートを受けて、金融調節の実行部隊である金融市場局は操作目標である無担保コール(オーバーナイト金利)をゼロに誘導するためのオペレーションを開始した。
● 2001年3月19日の金融政策決定会合において、「主たる操作目標を、これまでの無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更」、いわゆる「量的緩和策採用」を採用。
<政策委員会・金融政策決定会合の結果発表>
日銀の金融政策の大筋は政策委員会の金融政策決定会合で決定する。「ゼロ金利政策」と「量的緩和政策」の決定、「なお書き修正」に関する日銀の発表をここに掲載しよう。
● ゼロ近畿政策 金融市場調節方針の変更について 1999年2月12日 日本銀行
(1)日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、金融市場調節方針を一段と緩和し、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。
より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。
その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。
(2)わが国の経済をみると、景気の悪化テンポは、公共投資の拡大に支えられて、緩やかになってきている。今後、緊急経済対策が本格的に実施されるにつれて、景気の悪化には次第に歯止めがかかるものと見込まれる。しかし、企業や消費者の心理は依然慎重なものにとどまっており、民間経済活動は停滞を続けている。物価も軟調に推移している。景気回復への展望は依然明確でない状況にある。
金融面の動向をみると、短期金融市場取引や企業金融を巡る一頃の逼迫感は和らいできている。しかし、長期金利が大幅に上昇し、為替相場も円高気味の展開が続いている。株価も総じて軟調に推移している。 こうした市場の動きは、わが国経済の先行きに対してマイナスの影響をもたらす惧れがある。
(3)上記のような金融経済情勢を踏まえて、日本銀行は、先行きデフレ圧力が高まる可能性に対処し、景気の悪化に歯止めをかけることをより確実にするため、この際、金融政策運営面から、経済活動を最大限サポートしていくことが適当と判断した。
(4)日本銀行としては、上記の金融市場調節方針のもとで、より潤沢な資金供給を行い、これを通じて、マネーサプライの拡大を促すとともに、落ち着きを取り戻しつつある短期金融市場の安定に引き続き万全を期していく考えである。
(5)金融市場調節の具体的な運営に当たっては、短期金融市場の機能の維持に配意しつつ、従来と同様に短期の調節手段を用いて、より潤沢な資金の供給に努めていく考えである。なお、そのなかで、国債を対象とするレポ・オペ(国債を見合いに短期の資金供給を行うオペレーション)については、従来以上に、積極的に活用していく方針である。
また、長期国債の買い切りオペレーションについては、これまでと同様の頻度、金額で実施していく考えである。
(6)日本経済を、しっかりとした景気回復の軌道に乗せていくためには、金融・財政面からの下支えだけでなく、金融システム対策や構造改革を着実に進めていくことが重要である。日本銀行としては、今回の金融緩和措置が、それら関係各方面の取り組みと相俟って、日本経済の直面する課題の克服に資することを強く期待する。 以 上
● 量的緩和政策 金融市場調節方式の変更と一段の金融緩和措置について 2001年 3月19日 日本銀行
日本経済の状況をみると、昨年末以降、海外経済の急激な減速の影響などから景気回復テンポが鈍化し、このところ足踏み状態となっている。物価は弱含みの動きを続けており、今後、需要の弱さを反映した物価低下圧力が強まる懸念がある。
顧みると、わが国では、過去10年間にわたり、金融・財政の両面から大規模な政策対応が採られてきた。財政面からは、度重なる景気支援策が講じられた一方、日本銀行は、内外の中央銀行の歴史に例のない低金利政策を継続し、潤沢な資金供給を行ってきた。それにもかかわらず、日本経済は持続的な成長軌道に復するに至らず、ここにきて、再び経済情勢の悪化に見舞われるという困難な局面に立ち至った。
こうした状況に鑑み、日本銀行は、通常では行われないような、思いきった金融緩和に踏み切ることが必要と判断し、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下の措置を講ずることを決定した。
(1)金融市場調節の操作目標の変更
金融市場調節に当たり、主たる操作目標を、これまでの無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更する。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)の変動は、日本銀行による潤沢な資金供給と補完貸付制度による金利上限のもとで、市場に委ねられることになる。
(2)実施期間の目処として消費者物価を採用
新しい金融市場調節方式は、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続することとする。
(3)日本銀行当座預金残高の増額と市場金利の一段の低下
当面、日本銀行当座預金残高を、5兆円程度に増額する(最近の残高4兆円強から1兆円程度積み増し<別添>)。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、これまでの誘導目標である0.15%からさらに大きく低下し、通常はゼロ%近辺で推移するものと予想される。
(4)長期国債の買い入れ増額
日本銀行当座預金を円滑に供給するうえで必要と判断される場合には、現在、月4千億円ペースで行っている長期国債の買い入れを増額する。ただし、日本銀行が保有する長期国債の残高(支配玉<現先売買を調整した実質保有分>ベース)は、銀行券発行残高を上限とする。
上記措置は、日本銀行として、物価が継続的に下落することを防止し、持続的な経済成長のための基盤を整備する観点から、断固たる決意をもって実施に踏み切るものである。
今回の措置が持つ金融緩和効果が十分に発揮され、そのことを通じて日本経済の持続的な成長軌道への復帰が実現されるためには、不良債権問題の解決を始め、金融システム面や経済・産業面での構造改革の進展が不可欠の条件である。もとより、構造改革は痛みの伴うプロセスであるが、そうした痛みを乗り越えて改革を進めない限り、生産性の向上と持続的な経済成長の確保は期し難い。日本銀行としては、構造改革に向けた国民の明確な意思と政府の強力なリーダーシップの下で、各方面における抜本的な取り組みが速やかに進展することを強く期待している。 以 上
● 当面の金融政策運営について (別添)2001年 3月19日 日本銀行
日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。
日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。 以 上
● なお書き修正 当面の金融政策運営について 2005年 5月20日 日本銀行
日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。
日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。 以 上
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(2)日銀が説明する「量的緩和政策3つの効果」についてよく考えてみる………
<量的緩和でゼロより金利が低下するのか?>
「教えて!にちぎん」の説明から話を始めよう。
(1) 短期金利の一層の低下。日銀の説明では、量的緩和策により短期金利の一層の低下が見込まれる、という。しかし、日銀は1999年2月12日の政策委員会・金融政策決定会合においてすでにゼロ金利政策を採用している。
すでに採用しているゼロ金利よりも「一層の低下」とはどのようなことなのだろう?意味のないことを言っている。2001年からコールレートが0.001%になっている。それ以前は0.01%であったが、これは最小単位を引き下げたのであり、すでにゼロ金利は実施されていた
一般論として、金利も他の商品と同じように需要と供給のバランスで価格は決まってくる。資金が豊富にあれば金利は安くなり、需要が多くなれば金利は高くなる。経済学の教科書はそれでもいい。しかし今はゼロ金利政策をとっているのだ。これ以上下がりようのないゼロ金利なのだ。
金利は低い方が良いのか?O/Nの利息収入はどうなるか?
例えばコールレート0.01%で100億円の資金運用すれば、その利息は 10,000,000,000X0.01%X(1÷365)=2,739円
そして、コールレート0.001%で100億円の資金運用すれば、その利息は 10,000,000,000X0.001%X(1÷365)=273円
1000億円を運用して、その利息が2,739円 1兆円で27,397円
そして短資会社の手数料が「資金の出し手、取り手双方から各々0.02%(1/50%)を片落しで受取る」とある。
これでは出し手がいなくなる。金利ゼロと言えば、地域通貨が頭に浮かぶ。地域通貨については<地域通貨は金融経済学の最適教材か?>▲を参照のこと。
地域通貨では利子がつかない。そのため投資家が現れない。事業意欲はあっても資金が借りられないので、金持ちのボンボンしか新規事業を始めることができない。年金運用などの運用先がなくなり、老後が心配になる。
もう一つ、たとえゼロ金利ではなくて、一層の金利低下が期待できる状況としよう。その低下した金利がどの程度経済に影響するのか?ここで。「限界効用逓減の法則」という言葉が頭に浮かぶ。「ビールは最初の一杯が一番旨い」だ。すでに十分な低金利になっている。さらに金利が低下しても有難味は少ない。経済学を楽しんでいると、こうした専門用語がすぐに頭に浮かぶ。
視野狭窄にならないとはこうしたことを言う。使命感に燃え、命がけ、生活の全てを賭けていると視野狭窄になり易い。もっとも日銀の審議委員とはストレスの貯まる仕事なのかも知れない。一般職員と同じ時間に登行し、遅くまで残業し、運転手付の乗用車があり、トイレ付の個室があっても、秘書に監視されているように感じたら、ストレスは貯まる。
新聞記者のレポートによるとこうしたことがあったという。ある審議委員が茶目っ気を起こした。「トイレ入口にマットがあって、センサーが付いている。入ってから20分経っても出てこなかったら、ブザーが鳴って、秘書が飛んでくると言う。本当だろうか?試してみよう」。こうして審議委員はマットを踏んでトイレに入り、出るときにはマットを飛び越えて出た。はたして20分後にブザーが鳴って、秘書が飛んできたという。
1,200万円の報酬を払い、十分に仕事をしてもらいた、日銀。しかしそのことがかえって重荷になってストレスのもとになる人もいる。そうした緊張感の中で仕事をしていると、「遊び心」など無縁になるだろう。そうした人の集まりであれば、雑種強勢は期待できず、
自家不和合性▲に陥りやすい。それでも視野狭窄にならないで仕事をしてもらいたい。
日銀の「 短期金利の一層の低下」とは、それを目論むこと、期待することが間違っている。実際にどのような状況であったかは別にしても、「 短期金利の一層の低下」を期待して、量的緩和策を実施することが間違っていると思う。
「こうしたことを期待するのが間違っていた」と同時に、その副作用についても問題だ。コール市場の機能低下、出し手の運用先を失うデメリットなど、こうしたことに対する配慮がない。ゼロ金利でコール市場は機能不全に陥っている。現場からの報告を読めば納得できる。そしてそれは予測出来たはずだと思う。
ゼロ金利でどのようなことが起こるか?事前に考えれば予想出来たはずだ。いいことしか予想しなかったとしたら、事務方は怠慢だった。
<準備金以上の当座残高はどのように運用するか?>
(2) いわゆるポートフォリオ・リバランス効果。日本銀行当座預金は、安全ですが利息を生まない金融資産です。これが積み上がれば、金融機関はより有利な運用先を求めて貸出や債券・株式投資などに資金を回すことができるのではないか、という考え方です。
「日本銀行当座預金は、安全ですが利息を生まない金融資産です」。確かにその通り。しかしその日本銀行当座預金はどのようにしてそこに入金されたのか?それは銀行が日銀に国債を売ったためにその口座に入っている。当然利益は出ている。だったらこれからもそうするだろう、市場で国債を購入し、それを僅かな利益であっても日銀に売る。それを繰り返して利益を積み重ねていく。
それが銀行にとって得策に違いない。日銀はこれから買いオペを続けると言っている。買い手がいるのだからこれほど安全な商売はない。リスクの高い株などに資金を任すのは愚の骨頂だ。しかし、日銀はそうは考えていない。銀行が国債を買わずに株を買うだろうと言っている。見方が狭い。
日銀は「主たる操作目標を、これまでの無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更する」と言った。ところが日本銀行当座預金から取り崩して運用することを期待している。買いオペを実施し、すぐに銀行が株などに運用したら残高は積み重なっていかない。そのときは買いオペを増額するつもりなのだろうか?
「残高」ではなく、「毎月いくら買いオペを実施し、そのつど銀行が株などに運用したら残高は変わらないが、それでもいい」と言っているのではない。銀行が運用して欲しいのか?それとも残高が多いことが安心材料なのか?何を望んでいるのか?言っていることが曖昧だ。それは考えていることが曖昧なのではないかと、思ってしまう。
<運用してデフレから脱却できるのか?>
量的緩和政策を2001年3月に発表して、8月に長期国債買い切りオペを月に4000億円から6000億円に増やした。月に6000億円ということは年に7兆2000億円だ。7兆2000億円をリスクのある投資に廻せばデフレ脱却となるのか?この発想は財政政策の発想だと思う。
バブル崩壊後何度も国債を発行して景気対策の補正予算を組んできた。一つずつ拾って集計しようと思ったが時間がかかりそうなので他の資料から引用すると、115兆円だそうだ。つまり累計115兆円の財政政策でもあまり効果はない。それで、7兆2000億円なら効果があるのか?1年ではなく何年も続ければ効果が出ると言うのか?
日銀が財政政策の発想をするのはおかしい。では、インタゲ派の考えるように、マネーサプライで考えるか?2005年4月の数字、代表的な指標の「M2+CD(現金、要求払い預金、譲渡性預金など)」の平均残高は705兆6000億円、これに郵便貯金や投資信託などを加えた「広義流動性」は1396兆9000億円。「これに7兆2000億円を加えればインフレが起こる」とでも言いたいのだろうか?
<何故量的緩和政策でデフレから脱却できるのだ?>
日銀の説明では「量的緩和政策でデフレから脱却できる」とは思えない。結局インタゲ派が主張する「日本銀行当座預金残高を多くして(ハイパワード・マネーを多くして)、トランスミッション・メカニズムを生かして、通貨流通量を多くすればインフレになる」との考え、すなわち「インフレはいついかなる場合も貨幣的現象である」を経済学の常識とする人たちの考えと、
昔からの日銀理論である「マネーサプライはコントロール出来ないから、ゼロ金利を維持するために資金を潤沢に供給しよう」との両派の妥協の産物であるようだ。つまり2つの考えがあって、両方に共通するのが「積極的に買いオペをすべし」ということで、量的緩和政策が生まれたように思える。だから結局どちらの政策にもないような、筋の通らない説明になってしまう。
その政策の基本になる考えがどうであるのかは問題ではなくて、「皆が量的緩和政策を支持するのだからこれで行こう。理由は後から考えよう」のように思える。
「実際にその政策がどのような結果になっているのか?」も、これから検討するのだが、出発点が曖昧であることをハッキリさせてから話を進めて行くことにしよう。
(^_^) (^_^)
(3)TANAKAの考えた量的緩和政策のポイントは日銀とは違っていた………
<日銀の目指したのは、通貨流通量増大ではなくゼロ金利維持だった>
TANAKAはこのHPで日銀を何度か取り上げた。そのタイトルは次の通り。
¥景気対策、日銀にできること、できないこと
景気対策、日銀にできること、できないこと(前) 馬を水飲み場へ連れていくこと ( 2001年12月10日 )
景気対策、日銀にできること、できないこと(後) 日銀流「調整インフレ」の効果は?( 2001年12月17日 )
景気対策、日銀にできること、できないこと(追加) 先覚者たちの先進的通貨拡大政策( 2001年12月24日 )
日銀が調整インフレを認めたようだ 今までにない目標と手段、その成果を見守っていこう ( 2001年9月3日)
小泉内閣の構造改革が始まった 日銀もそれに歩調を合わせている ( 2001年9月10日)
実はTANAKAは勘違いをしていた。日銀の発表を勝手に、自分好みに解釈していた。今回、文献・資料を読んで解った。ではどのように勘違いをしていたのか?そこから話を進めることにしよう。
2001年3月19日の発表で次のような文があった。
(1)金融市場調節の操作目標の変更
金融市場調節に当たり、主たる操作目標を、これまでの無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更する。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)の変動は、日本銀行による潤沢な資金供給と補完貸付制度による金利上限のもとで、市場に委ねられることになる。
この文から次のように解釈した。「日銀は操作目標を金利からマネーサプライに変更した」と。岩田vs翁論争で知られる翁邦雄著『金融政策』(東洋経済新報社 1993年11月)によると、「日銀はマネーサプライをコントロールできない」ということになる。ところが日銀はその「日銀理論」を捨てた、とTANAKAは思った。
バブルがふくらんでいった頃、日銀は「マネーサプライはコントロール出来ない」と考えていたのではなくて、マネーサプライを見ていなかったのだと思う。もし注目していたら「ヤヤ、マネーサプライの伸びが異常だ。今までコントロールできない、としてきた、しかし何とかしなければならない」そして、何らかの手を打ったはずだ。たとえそれが効果なくてもだ。
『金融政策』にはそのようなことは書いてない。日銀の金融政策は金利を金融市場調節の操作目標にしていて、マネーサプライは気にしていなかった、と考えられる。それが「日本銀行当座預金残高に変更する」と言うのだから、マネーサプライをハッキリ意識した、と思った。しかし日銀の目指したのは「ゼロ金利政策の維持」だった。そのための量的緩和政策だった。
<TANAKAの考えた量的緩和政策>
「量的緩和政策によって日銀はマネーサプライをコントロールしようとした」と考えたTANAKA、では、マネーサプライをコントロールしてどうしようと考えたのか?それについて話を進めよう。
翁邦雄著『金融政策』で書かれているように、日銀は直接マネーサプライをコントロールする手段は持っていない。日銀にできるのはハイパワードマネー(ベースマネーとかマネタリーベースなどとも言われる)の中、日本銀行当座預金残高だけだ。しかし日本銀行当座預金残高をコントロールすればマネーサプライを間接的にコントロールできる可能性は高い。
現時点で考えれば、貨幣乗数は今までにないくらい下がっていて、ハイパワードマネーとマネーサプライ(M2+CD)の相関関係は見出せない程だが、2001年当時としてはかなり関係があると考えていた。そこで日本銀行当座預金残高を高めに維持し、トランスミッション・メカニズムを生かし、通貨流通量(マネーサプライ)を増大させる。「インフレはいついかなる場合も貨幣的現象である」を経済学の常識とすれば、
こうした政策によって、マネーサプライの増大によって、インフレが起こる、このように考えた。インフレとは、貨幣価値の低下であるから、「原油価格が上がった」「春闘で人件費が上がった」はインフレの直接的な原因にはならない。そうしたことから、通貨流通量が増大して、そこでインフレが起こってくる。これについてルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは次のような説明をしている。
キャビアの供給がジャガイモの供給と同じくらい豊富であったとしたら、キャビアの価格──すなわち、キャビアと貨幣の交換比率ないしキャビアと他の商品の交換比率──は、かなり、変化することでしょう。そうなると、今日よりもずっと少ない犠牲で、キャビアを手にするのとができるでしょう。同様に、貨幣が増えると、貨幣一単位の購買力が減少します。したがって、この貨幣一単位と交換に入手できる商品の数量も減少します。
16世紀に、金や銀の資源がアメリカで発見され採掘されたとき、膨大な量の貴金属がヨーロッパへ運ばれました。このように貨幣量が増大した結果、価格を全般的上昇させる傾向をもたらしました。同様に、今日、政府が紙幣の数量を増大させますと、その結果、貨幣一単位の購買力が低下し始め、したがって、価格が上昇します。これがインフレーションと呼ばれています。不幸なことに、他の諸国のみならず米国でも、インフレーションの原因は、貨幣数量の増加にあるのではなくて、価格の騰貴にあると考える人があります。
(「自由への決断」から)
<日本銀行当座預金は貸出保証金=トランスミッション・メカニズム>
ここで信用創造プロセス(トランスミッション・メカニズム)とはどういうことか、その仕組みをおさらいしておこう。と言うのも、インタゲ派の書物を幾つか読んで、トランスミッション・メカニズムの説明がなくて、読者がこの仕組みを誤解してしまうかも知れない、と感じたからだ。
金融機関にとっては、顧客からの預金引き出しに備えて、自ら常にある程度の余裕金を保有しているのが健全な姿であろう。こうした余裕金を「支払準備金」と呼ぶ。そして支払準備金を法的に制度化したものが準備預金制度である。つまり、「市中金融機関の預金の一定割合を中央銀行に強制的に預け入れさせ、その預金率すなわち準備率を随時変更することにより、金融機関の現金準備を直接敵に増減させ、
それを通じてその与信行動を規制しようとする政策手段」(日本銀行『わが国の金融制度』)が準備預金制度である。
(『新・東京マネー・マーケット』から)
このように準備率とは銀行が受け入れた預金額に対しての率であるが、それが銀行の貸し出し額に影響を与えることになる。それを理解するには銀行の貸し出し、信用創造についての理解が必要になる。
例えば銀行が企業に1億円を融資する場合は、その企業の口座に1億円入金させることになる。といっても1億円の現金を動かす必要はない。企業の口座に1億円が入金されたことを示すため、通帳に1億円を記入するだけだ。そして、銀行は1億円を預け入れたことになる。
ここで、準備率が問題になる。つまり、銀行が融資すると、それによって預金が増え、準備金を日銀当座預金口座に入金しなければならなくなる。このようにして、本来「顧客からの預金引き出しに備えて、自ら常にある程度の余裕金を保有している」という準備金であるが、貸し出すことによって準備金を積むことになる。
そこで、このように考えることができる。日本銀行当座預金が多くある、ということは、特に現金を用意することなく預金を受け入れることができる⇒特に現金を用意することなく貸し出すことができる⇒つまり「日本銀行当座預金は貸出保証金」と考えるとトランスミッション・メカニズムを理解しやすくなる。
「貨幣乗数」の意味や、日本銀行当座預金が多くあることによってマネーサプライが増加する仕組みを理解することができる。このように現金を動かさずに銀行の貸し出しが行われる、信用創造と言われる仕組みについては<日銀当座預金での決済とは>▲に詳しい。
法定所要額の計算
では具体的に準備金率と法定所要額はどのようになっているのか?その計算を上に引用した『新・東京マネー・マーケット』から引用することにしよう。
準備金率は、日本銀行の金融政策決定会議において決定される。現行の準備率(平成3年10月16日改定)は次の通り。預金等の種類および残高によって「超過累進制」の区分がなされている。
●銀行・長期信用銀行・第2地銀協加盟行・信用金庫/定期性預金(譲渡性預金を含む)の区分額についての準備率
2兆5,000億円超=1.2% 1兆2,000億円超、2兆5,000億円以下=0.9% 5,000億円超、1兆2,000億円以下=0.05% 500億円超、5,000億円以下=0.05%
●銀行・長期信用銀行・第2地銀協加盟行・信用金庫/その他の預金の区分額についての準備率
2兆5,000億円超=1.3% 1兆2,000億円超、2兆5,000億円以下=1.3% 5,000億円超、1兆2,000億円以下=0.8% 500億円超、5,000億円以下=0.1%
●外貨預金等の残高についての準備率
非居住者外貨債務=0.15%
居住者外貨預金 定期性預金=0.2% その他の預金=0.25%
(T注 「農林中央金庫」については省略)
具体例で計算してみよう。ある日の終業時における預金残高がちょうど20兆円の普通銀行(居住者円預金のうち定期性預金12兆円、その他の預金6兆円、居住者外貨預金のうち定期性預金8,000億円、その他の預金2,000億円、非居住者預金1兆円)があったとする。各預金の種類に応じて準備金率を適用して、法定所要額を計算する。
たとえば居住者・定期性預金12兆円に関して見てみよう(2兆5,000億円超の準備率は1.2%だが、しかし、12超X1.2%という計算にはならない。超過累進制であることに注意)。
@ 500億円以下は準備率ゼロ 500億X0%=0円
A 500億円超から5,000億円以下は0.05% 4,500億X0.05%=2.25億円
B 5,000億円超から1兆2,000億円以下は0.05% 7,000億X0.05%=3.5億円
C 1兆2,000億円超から2兆5,000億円以下は0.9% 1兆3,000億X0.9%=117億円
D 2兆5,000億円超は1.2% 9兆5,000億X1.2=1,140億円
よって、@ーDを合計すると1,262.75億円となる。つづいて、同様の計算を他の預金に対しても行い、法定所要額全体を求める。
このような計算を他の預金に対しても行い、法定所要額全体を求める。
このような計算を月初から月末まで毎日行うことによって算出された金額を1カ月間で合計したものが、その金融機関に対する月間所要
積数と呼ばれる。また、月間所要積数を1カ月の日数で割ったものが月間所要平残である。ちなみに、2002年1月の市場全体の月間所要平残は4兆1,400億円だった。
準備預金制度適用先の金融機関は、対象となる月の月間所要平残を達成するために、その月の16日から翌月15日までの間に、日銀当座預金に資金を預けなければならない。
たとえば3月分の積み立て期間は3月16日から4月15日の31日間である。つまり、実際の預金に対して半月遅れの同時・後積み混合方式となっている。
銀行休業日は日本銀行も休業するため、休み前日の準備預金残高は休日も継続することになる。しかがって、土曜日・日曜日の準備預金残高は金曜日の終業時点の準備預金残高がそのまま参入される。
なお、毎月15日を準備預金最終日という。
(『新・東京マネー・マーケット』から)
日本銀行当座預金残高が多ければ、銀行は安心して貸出を多くすることができる
このように本来は預金の払い出しに備えての準備金ではあるが、実際はこれが貸出を規制することになる。
銀行が企業に融資をすれば、結果として預金額が増えることになり、準備金を多くしなれけばならない。そこで、前もって当座預金残高を多くしてあれば、安心して融資を行う事ができる。
つまり、当座預金残高は、銀行にとって「貸出保証金」または「貸出権利金」のようなものだ。このように当座預金残高が多いということは、銀行は貸出権利が多くなったのだから多く貸し出し、それによってマネーサプライも増加するだろうと、期待しているわけだ。
このように当座預金残高はマネーサプライに大きな影響を与えるために、日本銀行当座預金残高+現金通貨を「ベース・マネー」とか「マネタリーベース」とか「ハイパワード・マネー」などと呼ぶ。日本銀行当座預金残高が大きくマネーサプライに変わる仕組みを「信用創造プロセス(トランスミッション・メカニズム)」と言い、マネーサプライのハイパワード・マネーに対する比率を「貨幣乗数」と呼ぶ。
現在これらの数字がどうなっているか、と言うと、日銀が2005年4月12日発表した2004年度の貸出・資金吸収動向(速報)によると、「国内銀行の年度平均の貸出残高は386兆511億円で、前年度に比べ3.5%減少した」とある。
そしてこれに対する準備金は、大体4兆円と言われている。つまり、4兆円の準備金と400兆円弱の貸出が対応していると考えれば良い。
しかし、日本銀行当座預金残高が多くてもマネーサプライが多くなるわけではない
日本銀行当座預金残高が多いということは、銀行が安心して企業への貸し出しを増やすことができる。馬を水飲み場に連れていって十分な飲み水を用意する。日銀にできることはそこまでで、馬が水を飲むかどうかは馬次第。
企業に資金需要があるかどうか?銀行が積極的に融資先を開発できるかどうか?それにかかっている。そして、ハッキリさせておかなければならないのは、「日本銀行当座預金残高が多くしても、通貨流通量が多くなるわけではない」ということだ。
これをハッキリさせておこう。マネーサプライが増加するということは銀行が企業に多く融資すること(原因)⇒企業の口座に融資額が振り込まれる⇒銀行の預金額が増加する⇒必要準備金が多くなる⇒日本銀行当座預金残高が増加する(結果)⇒ベースマネーが増加する(結果)。
分かりやすくするために。原因と結果という言葉を使った。これで分かるようにマネーサプライの増加が原因で、ベースマネーの増加が結果なのだ。ハイパワード・マネーとか貨幣乗数という言葉を使うことによって、原因と結果を取り違えそうになる。
日銀の量的緩和政策によってべースマネーが増えることによって、マネーサプライが増加するかのように思ってしまう。ここではこのことをシッカリと理解しておく必要がある。
そして馬は水を飲まなかった
馬を水飲み場に連れて行っても、水を飲むかどうかは馬次第、とはこういうことだ。
「馬を水飲み場へ連れていくことはできるが、水を飲むかどうかは馬しだい」 =「通貨流通量が増えるような状況を作り出すことはできるが、信用創造が増えるかどうかは、企業と銀行次第」
「水飲み場へ連れて行き、十分な水を用意する」
=「ハイパワード・マネーを増やす」
「水を飲み始める」
=「民間銀行が融資を拡大する」
「ドンドン水を飲む」
=「通貨流通量が増える」
「水を飲み元気になる」
=「需要が拡大し、設備投資が増え、景気が上向く」
こうした一方で
「水飲み場への給水を制限する」
=「三重野総裁時代のバブルつぶしのように、公定歩合をドンドン上げて信用創造プロセスをストップさせる」
「馬が1頭しかいないのに、2頭、3頭分の水を用意する」
=「量的緩和政策」
「水を無くしたり、馬が水飲み場に行くのを邪魔するはできるが、水を飲ますことは難しい」」
=「目標を設定してインフレを抑えることはできるが、目標を設定してデフレを変えることは難しい」
なおインタゲ派の文章を読むと、「日銀は馬に水を飲ますことができる」かのような印象を持つ。
(^_^) (^_^)
(4)はたして日銀の思惑通りの効果はあがっているのと言えるのだろうか?………
<量的緩和政策の効果は出ていない>
2001年3月から始まった量的緩和政策、4年経った現在どのような状況なのだろうか?ここでは日銀の説明に従って検証するとして、もう一度日銀の説明を書き出してみよう。
A. 期待される効果としては、次の 3つが考えられます。
(1) 短期金利の一層の低下。
(2) いわゆるポートフォリオ・リバランス効果。日本銀行当座預金は、安全ですが利息を生まない金融資産です。これが積み上がれば、金融機関はより有利な運用先を求めて貸出や債券・株式投資などに資金を回すことができるのではないか、という考え方です。
(3) 期待効果。「日本銀行が資金供給を増加させれば、いずれは物価上昇や景気回復につながる」という予想が人々の間に生じて、企業や家計の景気に対する見方が改善されることで、企業の設備投資や個人消費が改善すると期待されます。
(1) 2001年3月当時、O/Nの最低レートは0.01%、つまりこれが最低単位だった。そのレートの最低単位が0.001%になった。このため短期金利が下がったわけだが、量的緩和政策の効果とは言えないだろう。それよりも副作用の方が大きい。
ではタイボー(Tokyou Inter-Bank Offerd Rate)ではなく、銀行から企業への短期融資金利はどうなのだろう。これに関しては5月23日次のように書いた。
住宅ローンや企業の設備投資、在庫投資、研究開発投資は長期金利で借りる。では短期とは、5,10日など支払日に資金不足を補う運転資金だろう。こうした資金が金利低下で借りやすくなるとどうなるか?
これは、経営不振企業の延命策として有効かもしれない。つまり負け組の倒産先延ばしに有効だろう。そう考えると、それが日本経済に与える良い影響とは?取り上げるほど影響はないと思う。企業活動で、設備投資、在庫投資、研究開発投資は将来利益を生み出す可能性もあるが、
倒産延命策は後ろ向きの効果でしかない。それでもマイナスの効果ではないだろうが、どの程度の期待が持てるだろう?
例えば資金不足の企業が運転資金を1億円、半月借りたとしよう。金利が2.5%だったものが、量的緩和政策により2.0%になったとしよう。この0.5%の金利低下がどの程度のものか、計算してみよう。
元金X金利X期間=利息 100,000,000円X0.005%X(0.5÷12)=20,833
日銀の量的緩和政策により、1億円を半月借りて、2万円程度、金利が安くなる。たったこれだけ。0.5%であっても長期借り入れなら大きな影響もあるが、短期ではあまり影響はない。こうした金利低下も日本経済がデフレ・スパイラルかの脱出には効果はない、と言えるだろう。
そうして、この例の0.5%の金利低下はここでの仮定であって、実際の数字はわからない。
金利低下が日本経済に良い影響を与えるとすれば、それは@長期金利であること。A高金利の時に金利低下があること。6%が3%になれば影響も大きいが、2.5%が2%のなった程度では影響は少ない。しかしこうした点に就いてのエコノミストの百花繚乱百家争鳴はないようだ。
現在0.001%で推移している。変化はない。
「タンス預金化」する余剰資金
短期金利の低下に関してTANAKAの見方にピッタリの現場からの報告があったのでここに紹介しよう。
短期市場の低下とは、結局のところ日銀当座預金に「死蔵」する資金が増加し、市場の流動性が低下することを意味している。では、なぜ日銀当座に資金が眠ってしまうのか?
金利水準の極度の低下 量的緩和政策によって短期市場の金利水準は限りなくゼロ%に近づいている。その結果、市場で資金を運用しても利息はただ同然になる。
例えば、100億円をオーバーナイトで運用したとしよう。その利息は、
オーバーナイトの金利 100億円の利息
0.010% 2739円
0.005% 1369円
0.002% 547円
0.001% 273円
となる。0.001%の場合、利息はわずか273円。これに種々の取引コスト(仲介手数料や資金送金の際に利用する日銀ネットの手数料、電話代など)を払うと明らかに赤字になってしまう。
9月上旬(2001年)にコール取引の刻み幅が0.01から0.001になったが、これをきっかけに、市場参加者によっては最低運用下限レートを設定する動きが現れ始めた。例えば最低運用下限レートを0.005%に決めた場合、市場の調達レートがそこまで上がってこなければ、その金融機関の余剰資金は日銀当座預金に眠ることになる。
日銀当座には理想は利息はつかないがリスクはない(タンス現金を保有することと同じである)。よって、”無担保”でゼロ同然の運用を行うよりも、日銀当座預金に眠らせて「タンス預金化」する方がはるかに「合理的」な判断となる。
ただし、投資信託などの期間投資家は約款の関係で、余剰資金を運用しないわけにはいかない状況にある。このため、極限まで余剰資金を運用する一部参加者とそうでない参加者に二極分化している。
「ブタ積み」への抵抗感が消えた:資金繰りのディシプリン喪失
長い間、日本の金融機関は超過準備を保有することを極端に嫌がっていた。もし超過準備を保有する場合は担当役員の印鑑が必要となる、というような話は珍しくなかった。これは、日銀の過去の暗黙の指導の遺産というせいもあるが、それ以前に、超過準備とは資金繰りの失敗を意味するためでもあった。
超過準備を回避するスタンスは単にコストの問題だけではなく資金ディーラーのディシプリン(規律)の問題でもある。本来、きちんとした資金繰りをしていれば超過準備が発生するはずはなく、そのため超過準備は「ブタ積み」という俗な業界用語で表現される(「ブタ」の語源は花札から由来している模様)。
しかし、日銀が8月(2001年)に日銀当座預金を6兆円に引き上げたため、超過準備回避を諦める金融機関は増加し始めた。それが、同時多発テロの大量資金供給で更に決定的になった。実はこれまでゼロ金利同然で資金運用していた金融機関は、利息収入を追い求めていたというよりも「ブタ積みへの心理的抵抗感、習慣」が動機となった面が強い。
よって、一度、資金繰りのディシプリンが崩れると、超過準備保有のコストもほとんどゼロであるため運用意欲が急速に萎えてくる。このため日銀当座への資金滞留は増加しやすくなり、市場のカネの巡りは悪化する。
(『日銀は死んだのか?』から)
(2) 債券・株式投資などに資金を回すことができるのではないか、と思っても、銀行は国債を買い続ける。それが銀行にとっての最善の策だからだ。そして買い切りオペによって利潤をあげ、不良債権処理を進める。
日銀が毎月6000億円程度の買いオペを続けて、それで銀行が株を買ったら景気が良くなるのか?財政政策で効果のなかったことを日銀が行うのか?日銀にそのような政策・財政政策を要望するのか?
あるいは「M2+CD(現金、要求払い預金、譲渡性預金など)」の平均残高は705兆6000億円、これに郵便貯金や投資信託などを加えた「広義流動性」は1396兆9000億円。その市場に日本銀行当座預金からの資金が回ることによって、マネーサプライが増加し、貨幣的現象であるインフレが起こるとでも言いたいのであろうか?
<コール市場の機能低下という副作用>
量的緩和政策は日銀の説明する効果は出ていない。せいぜい銀行の不良債権処理に役立った程度だ。それに対して副作用が出始めている。コール市場の機能低下、という副作用だ。
コールレートが0.001%ということは10億円を借りて翌日返済すると、その金利は 1,000,000,000X0.001%(1÷365)≒27,4円 1000億円借りて、その金利が2740円。
そして短資会社の手数料が「資金の出し手、取り手双方から各々0.02%(1/50%)を片落しで受取る」となっている。これでは出し手がいなくなってしまう。
それでどうなるか、と言うと、地方銀行などコール市場での出し手の担当者が配置転換になってしまうケースが出始めている、ということだ。そうした事例のレポートを紹介しよう。
<ディーラーが消えたマーケット>
2002年7月半ば、日本銀行のある審議委員から指示を受けた1人の職員が、東京都内にある大手外国銀行の熟練ディーラーの元をひそかに訪れた。
「仮に今後、ペイオフの全面解禁で預金が大幅に流出するような不測の事態が生じた場合、中小金融機関は問題なく短期金融市場から必要な資金を調達することができるでしょうか」。
当時はまだ、政府がペイオフの全面解禁を2003年4月から2005年4月に2年間延期することを決断する3カ月ほど前。危機感を漂わせる職員からの真摯な問いかけに、熟練ディーラーはしばし沈黙した。そして一呼吸置いた後、こう切り出した。
「1999年2月に日銀がゼロ金利政策を導入して以降、地方銀行が相次いで収益性の落ちた短期取引部門を大幅に縮小していることをご存じですか」。
ペイオフとはやや異なる話を持ち出されたことに戸惑う職員に、熟練ディーラーはこう言葉を続けた。
「このままゼロ金利政策が長期化すれば、こうした傾向がさらに強まるでしょう。そうなると、いくら日銀が潤沢な資金を出し続けたとしても、緊急時にとっさの判断で必要な資金を調達できる豊富な知識と経験を持った熟練ディーラーが東京市場からいなくなっている危険性を否定できません」。
資金の余っている金融機関が足りない金融機関に融通することで成り立つ短期金融市場は、それぞれの金融機関が資金繰りの最終的な帳尻合わせに利用する重要な場所である。金融システムの維持を重要命題に置く日銀は、金融機関の資金繰りが生き詰まって金融システム不安が市場に広がる事態を未然に避けるため、
短期金融市場を日々注意深く監視するとともに、金融機関向けに潤沢な資金を供給し続けている。
ところが資金供給をいくら増やしても対処できない深刻な問題が浮上してきた。厳しい経営環境を乗り切るためにリストラを急ぐ地銀が、相次いで収益性の低い短期取引部門の縮小に動き出した結果、「短期部門一筋で十数年」といった熟練ディーラーたちが市場から次々と姿を消しつつあるのだ。
日銀が景気下支えの切り札として打ち出したゼロ金利政策が、皮肉にも金融システム不安の原因になりかねない事態を招いていた。
「毎日、大手都市銀行だけでなく、世界中に名を知られた欧米の有力銀行なんかを相手に、百億円単位の資金をやり取りするんです。その緊張感がたまらなかった。国債金融資本市場を相手に働くディーリング部門は、何物にも代え難い刺激に満ちた職場だったと思います。だけど僕は、地銀に勤務するサラリーマンでもあるんです。
上から他の部署への転勤辞令を出されれば、それに黙って従うしかないでしょう」。
中部地方のある大手地銀に勤務する石川英治さん(40、仮名)は、十年近く短期取引部門で働いてきた熟練ディーラーの一人。しかしゼロ金利政策以降、短期金融市場でいくら資金を運用してみても、金利収入をほとんど得ることができなくなった。
勤務先の地銀が短期取引部門の大幅縮小に踏み切るのも無理はなかった。そして2000年に入ると、とうとう石川さんにも地元の支店への転勤命令が出された。それ以降の仕事は以前とすっかり様変わりした。
石川さんは百万円単位の取引を獲得しようと、地元の中小企業経営者を相手に、せっせと営業活動にいそしむ毎日をすごしている。
(『ドキュメント 惑うマネー』から)
<干し上がる短期市場>
筆者は短期市場の一つであるコール市場の現場に身を置いているが、量的緩和策が決定された直後、ある雑誌に次のように書いた。
強力な時間軸の下では、短期のイールドは怖ろしいほどべったりとフラットになってくる。この状況では、運用手段で利益を得るよりも短期セクションの整理・縮小によるコスト削減を追求する方が得策になってくる。日本の金融機関は人事ローテーションが速いため通常の資金繰りの知識・経験が”伝承”されずに途絶えてくる恐れが考えられる。
市場機能はさらに低下し短期市場は干上がっていくだろう。量的緩和処置における短期市場の存在は、諫早湾干拓事業で壊滅的な打撃を受けた海苔養殖業者の境遇に近いものがある。この例えを先日ある短期市場関係者に話したところ、「日銀当座預金ターゲットが7兆、8兆と引き上げられれば、我々は絶滅に瀕した有明海のムツゴロウ状態になる」と苦笑いしていた(『週刊金融財政事情』2001年4月9日号「BOJウォッチング」)。
少し書き過ぎたかとも思ったが、市場参加者から賛同の意を示す多くの反響をもらった。ある資金ディーラーからは「表現がまだ生ぬるい」との「お叱り」さえ受けた。
実は、コール市場においては、導入直後からこの量的緩和策がもたらす弊害を指摘する大合唱が起きていた。本来、短期金融市場は中央銀行が金融政策を遂行する場であり、常にモニタリングすることによって経済の体温を測る窓口でもある。
それゆえ、日本に限らず、短期金融市場に参加するディーラー、ブローカーは皆「セントラルバンク・ウォッチャー」であり、自然と他の市場よりも中央銀行に対して心情的な理解を示す人が多い。しかし、この政策導入以降、短期金融市場との信頼関係は壊れてしまった。
諫早湾の海苔養殖業者が怒っていたのは、単に金銭的な、問題だけではないだろう。海苔養殖の「職人の技術」が踏みにじられたことへの怒りが内在していたと想像する。短期市場に直接接している日銀スタッフは板ばさみにあって苦労しているが、この政策が長期化すればするほど彼らのモニタリング能力は低下していく恐れがある。
(『日銀は死んだのか?』から)
短期市場参加者の縮小。撤退
量的緩和策が一時的なののならば先の弊害も一時的であり深刻になる必要はないだろう。しかし、懸念されるのは、今回の量的緩和策には「強力な時間軸」がセットされている点である。
多くの市場参加者は短期市場で収益が稼げない環境が長期化すると思っている。となれば、短期セクションを維持するよりも、整理縮小によって人件費等の固定費を削減して、余剰資金を日銀当座預金に置きっ放しにする方が、はるかに有利な”運用”になってしまう。
しかし、市場全体の人員が極端に削減されるとディーラーの金利に対する感応度は急激に低下する。これは既に起き始めている現象だが、例えば、市場レートが跳ねて歪みが生じた時に、有利な運用先があることをブローカーが連絡しても、担当者は会議中だったり、外回りの営業をしていたりして、つかまらないことが度々ある(リストラの環境の中で皆仕事量が増加しているので、もうからない短期取引は後回しになる)。
また、普段余剰資金を日銀当座預金に眠らせっぱなしにしている金融機関の場合、それが長期化してくると、少々のレート上昇では資金運用に乗り出してこなくなってしまう。少々の利息収入のために不慣れな事務フローが発生するのを嫌がるからである。
量的緩和策が実際に3〜5年以上続いた場合、市場機能がどれほど麻痺しているか、想像するのも怖ろしい。
(『日銀は死んだのか?』から)
『日銀は死んだのか?』に対する批判
量的緩和政策を扱った最近の本の中で『日銀は死んだのか?』は他とは違っている。他の本は著者が学者かジャーナリストで、金融市場の現場からの報告はこれだけだ。それだけに他の本とは違った視点が感じられる。そして、それだからだろう、批判する人もいる。
どのような批判か?少し引用してみよう。
●短期金融市場の機能不全というが……
本書は、著者が市場関係者であるだけに、一般になじみの少ない短期金融市場の様子が微に入り細にわたって描写されている。
ゼロ金利政策のもとでは、日銀がいくら貨幣を供給しても、金融機関は運用収入より事務コストが上回るので運用せず、金融機関は手元に死蔵する実態とそのメカニズムが明らかにされている(第1章)。
このため、量的緩和やインフレターゲットでは、ゼロ金利で短期金融市場が機能不全になっている以上、その政策効果はないと断じている(第2章)。
もし評者が短期金融市場になじみがなかったら、おそらく『加藤本』に対して未知なる事実を教えてもらったという畏敬を抱き、あるマクロ経済学者のように好意的な書評を書いていただろう。
金利ゼロでコール市場が機能不全になるのは当然であり、その結果この市場の仲介を業とする短資会社が危機感を持つのは理解できる。
日銀がコール市場を政策実施の場とする以上、短資会社と密接な関係にあるのも自然であり、短資会社を日銀のファミリー企業とみる人も多い。
もちろん個人の資格により書いた『加藤本』を色メガネでみることは適切でない。むしろ『加藤本』は短期金融市場の実情を正確に描写している。
しかし、それと金融政策としての有効性とどのような関係があるであろうか。日銀からの資金が本来資金を保有しておく必要がない短資会社の日銀当座預金になったとしても、または金融機関に滞留しても、それは量的緩和が効果がないことを意味するのか、
機能不全に陥った短期金融市場と量的緩和政策の有効性とはまったく別次元の問題である。本書で、日銀の貨幣供給によって市場がジャブジャブと表現されているが、それは物事の一面をみたにすぎない。
本書の議論には大きな見落としがある。量的緩和によるマネーの供給増にともなう通貨発行益の効果(seigniorage channel)である。たとえば、日銀券発行では発行価額の99.8%程度の発行差益が、国庫納付金となって国民に、または日銀から直接に金融機関にばらまかれて需要を創出するはずだ。
この通貨発行差益チャンネルによる効果によって、ゼロ金利でも量的緩和は実態経済に影響を与えるのだ。なお、このように貨幣部門の超過供給が非貨幣部門の超過需要を引き起こすことは、経済学ではワルラスの法則(経済全体の総需要価値額は総供給価値額に等しい)として知られている。(以下略)
(『エコノミスト・ミシュラン』から)
(T注 「通貨発行差益」については、ここより後の「(7)100兆円の金融政策によって日本経済はどのように変化するだろうか?………」で扱っています。いわば「借金踏み倒し政策」)
(^_^) (^_^)
(5)インフレターゲットについてその提唱者の意見を聞いてみることにしよう………
<インフレターゲットとは>
インフレターゲット推進派でない人間が「インフレターゲットとはどういうことか」を書くのは難しい。というのはインタゲ派の書いた本には「誰々はインフレターゲットを誤解している」というようなニュアンスの文が目立つからだ。
自分なりに理解した「インフレターゲット論」を書くと、「まったく誤解している」と批判されそうなので、その人たちの文章を引用することにしよう。
伊藤隆敏著『インフレターゲッティング』
目次を見ると「インフレ・ターゲッティングとは何か」とあり、小見出しとして「金融政策の新しい枠組みである」「どこがすぐれているか」「インフレ・ターゲッティングの具体策」「海外先進国ではスタンダードな政策」
「インフレ・ターゲット政策はインフレ率引き上げにも有効か?」「数値目標はだれが決めるのか」「実体経済など諸要素を無視してよいわけではない」などが並ぶ。
先ず「金融政策の新しい枠組みである」から一部引用しよう。この本は2000年11月20日初版発行。
物価安定が目的 インフレ・ターゲッティングとは何でしょうか。簡単に言えば、年間の物価上昇率を「1パーセントから3パーセントの範囲内」といった数値目標として定め、中央銀行は、その目標を達成するように金融政策を行うと宣言することです。
インフレ・ターゲッティングというネーミングがどうもよくないのではないかと言われます。「インフレ」という言葉には、オイルショックの時代に起きた「狂乱物価」など物の値段が暴騰するというようなマイナスのイメージがあるからです。後で詳しく説明しますが、インフレ・ターゲッティングとは、物価上昇率を「物価安定」と整合的な範囲内にコントロールすることであり、
物価を急上昇させる政策や、インフレ率が高ければよいという政策ではありません。ですから、本書では、無用の誤解を避けるためにもインフレ・ターゲッティングのことを「物価安定数値目標政策」と言い換えたいと思います。
ただ、欧米の文献では、「インフレ・ターゲッティング」「インフレ・ターゲット」という言葉で一般化し、研究も進んでいます。ネーミングだけの問題ですので、本書では「インフレ・ターゲッティング」と「数値安定数値目標政策」の両方の言葉を使いますが、同じ意味であるということをご諒解ください。(中略)
インフレ・ターゲッティングの具体策 それでは、日本銀行が実際に物価安定数値目標政策を導入することになったとしたら、どういう宣言が必要になるか、どういうことを発表していくかについて具体例をあげながら説明しましょう。
まず日本銀行が、たとえば「2年後に消費者物価指数(除く、生鮮食品)のインフレ率を1〜3パーセントの範囲にするということを目標に、金融政策を運営します」ということを宣言すれば、これは物価安定数値目標政策の発動ということになります。
@この「消費者物価指数(除く、生鮮食品)」が目標として取り上げる適切な物価指数であるのかどうか、Aその数値を「1〜3パーセント」と設定するとはどういうことなのか、B期間を「2年後」とすることにどういう意味があるのかということについて、順に説明しましょう。
次ぎに「インフレを起こすことはできるのか」から一部引用しよう。
インフレは必ず起こせる まず、「物価安定数値目標はたしかに好ましいし、デフレを止めるのもよいことだ。しかし、その手段がないじゃないか」という意見があります。すでに利子率(名目の利子率)はゼロになっていて、これ異常金利を下げられない状況です。そういうなかで、どうしたらデフレを止めることができるかという批判があるかもしれません。
これに対する答えは、「インフレは必ず起こすことができる」ということです。(T注 「馬に水を飲ませることが出来る」と言っている。そうであるならば、「長期不況ということは今後起こらない」、「景気循環はなくなる」と言っているに等しい。)
近代以降の日本、そして世界を見渡すと、これまでの政府や中央銀行にとっては、むしろインフレを止めることが非常に大きな課題でした。デフレを止めるということはほとんど経験がなかったわけですが、インフレは、金融政策を運営する限り必ず起こすことができます。むしろ、これまでのインフレの環境下では、やっていけないと言われていた、「不適切」と呼ばれるような政策を金融当局が行えばよいのです。
たとえば、大量の量的緩和や、長期債の買い切りオペの増額、さらに株式の購入などです。ただしアメリカの著名な経済学者であるポール・クルーグマンは、ある論文のなかで、このような政策のことを指して、日本銀行は、「無責任な政策」をとるべきだ、と言ったのですが、このような言い方は、世間に誤解を与えてしまったようです。
インフレをどうやって起こすのか 現在のマネーマーケットの状況をみると、いまは短期の名目利子率がゼロになっていて、しかも「積みの余剰」と呼ばれるダブついた資金が、日本銀行に預け戻されているという状況になっています。
そういった特殊な状況の中でデフレを阻止する、つまり日本銀行がこれ以上さらにお金を市場に供給するにはどうしたらいいかという、技術的な議論になってきます。
私の提案では、日本銀行は、まず長期国債の買い増しをすべきです。これまでも日本銀行は長期国債を毎月ある一定額買ってきているわけですが、これの購入の額を増額する。よりたくさんの長期国債をマーケットから買っていくということが考えられます。
(T注 ではいくらにすればいいのか?具体的な数字がない。この本が出版された時点では、月額4,000億円の買い切りオペ、現在はその3倍の1兆2,000億円)
この場合、注意が必要なのは、長期債を買うといった場合も、流通市場で買うのが原則で、財政法で禁じられている「国債をそのまま日本銀行に引受させる」ということは、好ましくないということです。これは、市場から買い入れることで、これを後に売却することも容易になります。
政府発行のものを「引き受ける」ということは、価格づけの考証から行わなくてはいけないので、政府が、財政規律を失わせる可能性があるからです。
(T注 「買い切りオペ」ではなく「買いオペ」を想定している。「買いオペ」=「テンポラリー供給オペ」とは短期買い現先オペ、レポオペ、手形買いオペ、CPオペなど期日が来る供給オペのこと。「買い切りオペ」=「アウトライトオペ」とは、短期国債買い切りオペか中長期債買い切りオペのこと。つまり将来日銀は国債の売りオペを行うと考えているようだ。将来売りオペを行えばマネーサプライが減少しデフレになる。)
日本銀行が長期債を買い上げることによって多くの現金が市中に流れるわけですから、これまで長期国債を持っていた人たちが現金を手にすることになります。そうなると彼らは何か別のものを買うことになります。それは株式の購入に向かうかもしれないし、外貨預金に回るかもしれません。「今よりもう少しリスクをとっていいかな」というふうに考えるようになるだろうというのが、一つのロジックです。
株式を購入すれば、株価が上昇し資産効果によって景気はよくなります。外貨を購入すれば、円安となり輸出産業を中心に景気回復に向かいます。あるいは、消費財や投資財を買うかもしれない。その場合には直接、景気を狙撃することになります。どのようなチャンネルにしろ、景気がよくなり、デフレが止まります。
(T注 この説明は日銀の説明とまったく同じ。国債を売って儲けた人は、柳の下のドジョウを狙って、また国債を買う。これが賢い資金運用方法。)
(『インフレターゲッティング』から)