COLUMN(コラム)
                     
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第1回 家相と風水についての愚見
 

 家相と風水


「家相とは、宅地や家が持つ吉凶のことである」と、新米の建築士として働き始めたきに、先輩から教えられました。また、「風水とは、古代中国の権力者が国家を統治する際に用いられた環境の学問である」とも。

「家相も風水も中国からの伝来であるが、家相は日本独自で発展し、平安時代に全盛期であった陰陽道とも相関があった」と先輩建築士が力説していたことも覚えています。

現代の家相と風水ですが、色々の方が色々なことを発信していますし、書籍も一つのジャンルになるくらい多く出版されています。ネット検索では一瞬で何百万件のHPがヒットし、情報があふれて混乱します。

 家相の相談


私は「家相」と聞くとある事を思い出します。それは私が設計事務所を開設して間もない頃でした。

インターネットが普及していない時代だったので、何事も情報は書籍でした。相談者も家相について最もメジャーな「暮らしのこよみ」高島易断所本部編集を持参されていました。

相談内容は、
「家相が気になり「暮らしのこよみ」を頼りに間取りを考えたのですが、氏子になっている神社に行き宮司に確認を取りました。そうするとことごとく否定されました。どう言う事なのでしょか?」

(私の言われても…。)と思いましたが、
「間取りの事なので、私が宮司に話しを聞いてきましょう。」

 宮司の説明


その神社は相談者が住んでいる地域にありました。お正月の参拝だけでなくお祭りや地域行事の中心を担っている神社でした。

宮司にお会いすることが出来て、お話を伺いました。

「家相の相談では、ご持参いただいた間取りを否定した訳ではありません。家の造りにこの土地の成り立ちや風向きという自然が影響するとお話しをしたまでです。
たとえばトイレとか台所ですが、ちょっと前まで日本の暮らしは汲み取りの便槽でしたし、お勝手には竈(かまど)がありました。それらが風上にあると、臭いが家に充満しますし、火災になり易いので、風下に配すべきと説明を致しました。
また、この地域の風向きは山間の関係で東南方向です。吹き返しが西南なのですが、相談者の家は谷の関係で少し方向が異なるので、それをアドバイスをしました。
他に、中廊下は気が溜まりやすいので、風の抜けを造ると良いことと、この地域の昔からある住まいの形状が単純なのは、台風や地震に耐えてきたからです。それを踏襲されると良いという話しをしました。」

宮司は、その地域の雨や風、台風や地震の自然の生業(エネルギー)に立ち向かうのではなく、受け入れる、云わば共存する考えを家づくりに入れるべきとアドバイスをしたようです。

 自然エネルギーと共存


宮司は、こうもお話しされました。
「家を建てる時に、その土地の自然を知って下さい。日差しや風向きを知って下さい。きっとそれと同じものを依頼者の子どもや孫も見ることになるでしょう。その時に自然を受け入れている暮らしを見て、『親父(じいちゃん)は良い家を建ててくれたものだ』と言われるように、自然に逆らうことのない住まいを造って下さい。
我々は、この地域が持っている自然エネルギーを、これからも伝えていきます。」

その地域で暮らしていくことは、自然エネルギーと共存していくことが大切であると痛感しました。

家相の相談者の住まいは、大枠はご本人が「暮らしのこよみ」を読みながら作った間取りですが、宮司のアドバイスがあったことは、生活に密着した事柄なので大切に間取りに組み込みました。

 家づくりは危機介入である


宮司のお話を聞かせてもらって、納得することが沢山ありました。
日本で発展した家相は、陰陽道や民俗信仰の影響を受けつつ、畳式の日本家屋に最適化された環境学と言われています。とはいえ、江戸時代の家屋と現代の住まいとでは、大きな違いがあります。

トイレは水洗になり汚物が敷地内に留まらないので、臭気の心配はありません。また、竈は炊飯器に変わり熱源も電気になっていますので、火災にも安心です。また、空気の流れを風に頼らず機械換気が整備され、災害に対する構造的工夫も随分進歩しています。

しかし、住環境が良くなっても不安感が無くなるわけではありません。しかもその不安は漠然としているので、余計に対応が難しくなっているようです。

住まいを造る時は、その漠然とした不安が増大すると言われています。事務所に務めている時に先輩から「家づくりは危機介入である」と言われましたが、今はそれがよく分かります。

 さりげなく家相を根拠にする


私は、家相は危機介入の手段と考えています。

私の場合は、
「家相でこのような間取りが…」という「家相」を前面に出した介入ではなく、「先祖を大切に考えられていますので、仏壇は南向けましょう。しかし、宗派によると西向きが良いと言われているのですが、住職はどのようにお話しされていますか?」
「北西方向は静かですし、主に夜に使う寝室に最適です。一般的に家相でも吉となっています。南側は陽当たりが良いのでリビングにしましょう。」
と、さりげなく家相を根拠として安心できるプランを作りたいと考えます


家相が気になる方は、大きな組織で全国共通の教えがある所も良いと思うのですが、家を建てる地域の神社やお寺などに相談されてみたら、その地域に密着したアドバイスが貰えるかもしれません。
検討して見ても良いかと思います。
 

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