バリアフリーの誕生「バリアフリー」と言葉は、1974年6月に国際連合(WHO)で開かれた、障害者生活専門家会議報告書の表紙に書かれた「BARRIER FREE DESIGN」が最初と言われています。
この会議は「国際障害者リハビリテーション協会」が主催し、国連社会開発・人道問題センターが専門家を招集しています。 国際障害者リハビリテーション協会事務総長の冒頭挨拶は、 「第二次世界大戦の戦傷者の社会復帰を援助し続けているにもかかわらず、いまだに到達することができていない。それは障壁(バリア)があるからだ。 その障壁とは、物理的障壁と社会的障壁である。これらを取り除く(フリー)方法を見つけ出すまでは、人間社会が打ち立てたゴールに到達することはない。 これらに問題を人々は理解し、何か行動を起こす必要がある。」 この挨拶文を見ると、バリアフリーを建築用語と説明しているものを見かけますが、バリアフリーの成り立ちは人権にかかわる問題解決の提示であって、単に建築的な問題解決を説明しているのではなかったようです。 国連障害者生活専門家会議1974年6月3日4日に開かれた国連での障害者生活専門家会議には、アメリカ、フランス、カナダ、アルゼンチンなどの8か国から、障害者関係機関(3名)、保健教育機関(3名)、規格・基準関係(3名)、リハビリテーション機関(5名)、社会保障関連(1名)、建築関係機関(研究者含む・3名)、住宅・都市関係(行政・3名)、雇用・労働(4名)の25人の専門家が参加しています。 残念ながら日本からの参加はありませんでしたが、なんと議長が日本人の丹羽勇氏(国際労働機関)でした。 参加した専門家はリハビリテーションと建築関係だけでなく、バリアを被っている当事者団体の関係者、保健の教育関係者、規格や基準を作る機関の人、都市開発の行政等、多岐にわたっています。 また、雇用や労働、社会保障の関係者も参加していることから、「BARRIER FREE DESIGN」の最終目的が「社会復帰」を目指しているのが分かります。 会議の参加者それぞれの専門性からも分かるように、報告書の内容からも私には、バリアフリーは建築用語には思えません。 障壁(バリア)「BARRIER FREE DESIGN」では、障壁(バリア)を、物理的障壁と社会的障壁として説明しています。 物理的障壁 公共建築物、住宅、交通、教会、社会活動センター、その他地域の施設といった場所で、我々が作り出したもの。 社会的障壁 正常ということに関して、我々が条件づけてきた状態と、かなり異なっている人々に対する、我々の受け取り方。 これらは英語を日本語訳していますので、最初に読んだ時には「分かるけど…」でした。しかし、内容を読み進めると「ああ、そう言うことか」と少しわかったような気がしたので、私の解釈を記載します。 物理的障壁では、 教会はお寺や神社(少し前まではお寺や神社は人の集う場所でした)で、社会活動センターは、市民センター、または公民館と捉えると分りやすいと思います。つまり、我々が日常生活の中で使っている建物を指していると思いました。 これらの建物に物理的障壁(バリア)があり利用し難い人がいるのですが、そのバリアは、「我々が造っている」と言っています。また、バリアを造らなくても、バリアを自分がバリアと思わなければ「バリアが無いもの」としている「我々」は、「バリアを作る側の人間」なのだそうです。 社会的障壁では、 平たくすると、 「障害者と健常者の境はどこでしょうか?はっきりと「ここです」と言える人はいますか? もし、境目があるとするとその境目は誰が決めたのでしょうか? もし、あなたが自分を健常者だと思っているなら、誰かが決めた境目から向こう側の障害者をどのように思っていますか? 明日のあなた、10年後のあなたは、20年後にあなたは境目のどちら側にいますでしょうか。」 の様な気がします。 挑戦 〜架空の人物像「Mr.Average」〜次の文章は、建築士の私にはとても耳が痛いです。 「障壁となるような建造物、設備機器の一つの主要な原因は、それらが実在しない人々のために造られているということである。建物、道路、空間は、架空の人物像 (Ms.Average) − 主に肉体的に最もよく適応する壮年期(筆者注釈:この時代の壮年期は、働き盛りを指していた。年齢は30歳〜39歳)の男性(Ms.とあるように女性ではない)− の要求を満たしているものである。」 Panayiotis Psomopoulos ギリシャ また、 「何世紀にもわたって、建築家は不平、不便、さらに危険さえも黙認するため、人間の限りない能力につけ込んできたのは明らかである。逆に人間(筆者注釈:Mr.Averege以外の大多数の人)の必要性に対して考慮しようとする概念はいまだ浸透していない。これらは余計な仕事が増えるとしか思っておらず、ほとんどの人がそれ(筆者注釈:バリアフリー)に関しての知識を持っていない。」 「バリアフリーは実践することが重要で、(議論だけでなく)実践しなけらば意味がない。」 Selwyn Goldsmith 英国 後者はイギリスの建築家、セルビン・ゴールドスミス(1932〜2011)が記載しています。 彼はポリオの罹患者で車いすユーザーでした。また、当事者の権利獲得の運動家でもあったので、Ms.Average以外の大多数に人の、環境整備の実践から来る無理解な社会に対する怒りは相当のものだったと推察します。しかし、記載されている文章は、冷静で知的な、そして刺激的と思います。 建築に携わっているものとして「バリアフリーとは、考えて、考えて、また、考えて、実践しなければ」と思いました。 図解「バリア・フリー百科」「BARRIER FREE DESIGN」の原本は英語で書かれていますので、私には読めません。 また、「幻の名著」(なにせ、半世紀前)と呼ばれており、原本は手に入るものでもありません。 しかし、「BARRIER FREE DESIGN」の全文を知ることはできます。 図解「バリア・フリー百科」日比野 正己編著 1999年(TBSブリタニカ出版)の末尾に記載されている「付録4」に、日本語で「BARRIER FREE DESIGN」の全文が掲載されています。 この本も新しいとは言えないので、書店で探すことは困難かも知れません。しかし、ネットの検索で見つかると思いますので、是非ご一読ください。 |