CONCEPT(住まいの考え方)

 

 「トレンド」と「ライフスタイル」の変化


住まいには流行(トレンド)があります。

昭和の時代には、ちょっとした住宅には「応接間」がありました。
それまでは、和室の続き間の「座敷」で客人を迎えていましたが、「お客さんは洋室の応接間に通す」がトレンドになったのです。
しかし、今では「座敷」も「応接間」も昭和レトロになりました。
トレンドとは移り変わるもので、住まいのトレンドも10年周期で入れ替っているようです。
しかし、トレンドを取入れて、住まいをアップデートしたいと思っても、そんなに早い周期でリノベーションすることは物理的にも経済的にも難しいと思います。

また、家族のライフスタイルは変わって行きます。

厚生労働省の人口動態統計によると2000年以降は、65歳以上の夫婦・単独世帯が増えているようです。これは、シニア世代からは家族人員が減っていくことを示しています。
シニア世代はライフスタイルを変える、良いタイミングだと言われています。代表的なものには「床座」から「イス座」への切り換えがあります。

住まいに「トレンドの導入」や「ライフスタイルの変動」に対応するには、「住まいの基本」を整えるておくことが必要です。

 「建物の性能」と「建物の基本」


「住まいの基本」では、多くの方は耐震性や耐久性、また、断熱・気密性などの「建物の性能」を思い浮かべるのではないでしょうか。

確かに「建物の性能」は大切で、耐震性など全てを兼ね備えた住まいは災害に対しての安全性は高いです。しかし、現実的にはコスト面から、優先順位を決めて取捨選択をすることは少なくないと思います。

しかし、「基本」と「性能」は異なる基準です。基本は「必須」となるもので、性能は「高い、低いなどの幅」があり、また、「必ずしも必要とは限らないもの」もあります。

一方、我々建築士には、建築基準法を遵守する責務があります。
建築基準法が定めた事柄は、どの家にも必須の要素です。したがって建築基準法は、「建物の基本」と言えます。
建築基準法には、耐震・耐久性や断熱性も定められており、CMで言われている「性能」に振り回されなくても「建物の基本」としての基礎的な性能は担保できます。

したがって、地元工務店や一人親方の大工も、建築基準法を守って「建物の基本」がしっかりした住まいを造っています。

 超高齢社会に必要な「住まいの基本」


私は、生涯に渡り住み続けれれるために必要なのは「住まいの基本」と考えています。

私自身がシニア世代になり「家族構成の変化(子どもの独立・親の死去)」を経験しています。
実体験を通して仕事でいろいろな家族を見ていると、家族人員は「増える」時間より、「減る」時間の方が、ずっと長いと思います。

シニア世代の住まいでは、「巣立った子ども部屋に勉強机がそのまま」「使わなくなった両親の部屋は、窓を閉めたまま」「この一年、2階に上がっていない」などを聞きます。

また、シニア世代では介護問題は避けて通れません。老両親のことだけではなく、自身の問題でもあります。

ふと自宅を見てみると「車いすでに移動が難しい」「トイレが狭く使いづらい」「介護の後始末に時間がかかる」などが気になりませんか。若い時代では「何とかなる」「頑張ればできる」と考えていたはずですが、それが重荷になります。

意外に思われる人もいらっしゃるかも知れませんが、自宅に福祉・医療サービスが入ると、ヘルパーさんや訪問看護師の訪問中の「家族の居場所」も悩ましい問題になっています。

それらの問題に対応するのが「住まいの基本」です。

 住まいの基本➀ 可変性のある間取りの仕掛け


住まいの基本には、「可変性のある間取りの仕掛け」が必要です。

「可変性のある間取り」とは、「シニア世代は暮らし方が大きく変わる」ことを受け入れ、リノベーションを容易にするための「仕掛け」のことを言います。

例えば、家を建てる時に「布団での就寝」を希望したとします。和室には床の間と押入がありますが、そのレイアウトに「仕掛け」を施します。

床の間や押入を和室の長辺方向に配すと、将来ベッドにしたいと思えば、床の間などを部屋に取り込めば8帖の正方形の寝室になり、ベッドが2台並びます。

しかし、短辺方向に床の間などを配すと、細長い7.5帖の寝室になります。ベッドは2台並びますが、他に家具は置けませんので、使い勝手がよい寝室とは言えません。

この差は、家を建てる時にライフスタイルの変化を受け入れる(可変性のある)間取りにしているか否かです。

住まいをリノベーションすることで、自身を初め、家族の気力・体力の再生産します。
なるべく簡便にリノベーションできるように、住まいの基本に「可変性のある間取りの仕掛け」を組み込んで下さい。

 住まいの基本➁ 家庭内で事故を起こさない工夫


住まいの基本には「家庭内での怪我や痛ましい事故を起こさない」ことが必要です。

家庭内事故に関するデータは、厚生労働省の人口動態統計にあります。
「家庭における主な不慮の事故死」で、住まいに関連する事故死は、「スリップ、よろめき及びよろめきによる同一平面上での転倒」や「浴槽内での溺死・溺水」があります。

2019(令和元)年度では、前者は「階段や建物からの落下」を合わせると2,000人を超えています。後者は5,000人を超えています(※1)が、他のデータでは、15,000人や20,000人というものもあります。また、これらの事故で死亡には至らなかったケースは、この数字の数倍に上ると言われています。

デーダを年齢別に見ると、65歳以上で数字が急激に多くなり、80歳以上が最も多いのですが、全ての年齢に数字が入っていることは特筆すべき点と思います。

家庭内事故の原因は、住まいの問題です。
住まいには「家庭内で事故を起こさない工夫」を暮らしのベースにする必要があります。

 本来のバリアフリーの住環境を造る


私は、1990年代から障害を持っている人や高齢者の住環境を提案する仕事に携わっています。

その時に手引書にしていた書籍の冒頭に「障害を造り出しているのは住環境である」とありました。
また、建築士は住む人に合わせて家を作っていたつもりでいたはずが、若い「Mr.Average」にしか使えない住環境であることも知りました。※2

手引書に載っているバリアフリーには、衝撃を受けました。しかし、手引書に沿って仕事を進めているうちに「なるほど」と納得しましたし、納得せざるを得ない状況になりました。

現在では、バリアフリーと言えば「段差を無くし、手すりを付ける」ですが、段差を無くすことや手すりを付けることは大切です。しかし、バリアフリーの基本は、Mr.Averageに合わせている環境からの脱却であり、生涯にわたって住み続けられる住環境をつくることです。

これからは、本来のバリフリーの考え方による住環境を造ることが大切と考えます。
 


 
※1 厚生労働省の人口動態統計(2019年)によると、「家庭内における主な不慮の事故死」は、「浴槽内における溺死・溺水」が5,166人、「スリップ、つまづき及びよろめきによる同一平面での転倒」は1,444人、「階段、ステップからの転落及びその上での転倒」は388人、「建物又は建造物からの転落」は242人である。高齢者人口が増えると家庭内における主な不慮の事故死も増える。

※2 1974年6月国連障害者生活環境専門家会議報告書「BARRIER FREE DESIGN」に、「障壁となるような設備の一つの主要な原因は、それらが実在しない人々のために作られているということにある。建物、道路、空間は、架空の人物像(Mr.Average)ーおもに身体的に最もよく適応できる若者の男性(女性ではない)ーの要求を満たしているものである」とある。Mr.Averageとは、身体的に必要なものは全て持っている若い男性なのである。