設立趣意書
このたび、ミシェル・アンリ (Michel Henry, 1922-2002) の研究に連携して取り組む研究者グループとして「日本ミシェル・アンリ哲学会」を設立することといたしました。
ミシェル・アンリがその生涯を閉じてから、早いもので、七年が経とうとしています。その間、母国フランスにおいては、論文集の出版や既刊書の再刊、あるいは、研究書なども多く出版され、また、「国際ミシェル・アンリ学会」も設立されました。さらに、フランスを初めとしたヨーロッパ各国では、アンリ哲学をテーマにした国際的なコロックも開催されています。
しかし、翻って、日本におけるアンリ研究の現状を見ますと、翻訳こそ徐々に揃ってきたとは言え、まだ未訳の著作が残っており、研究書としては、(アンリへの言及のある研究書は多くあるにしても)アンリ哲学そのものをテーマとしたもの(翻訳も含めて)は少数です。また、学会での研究発表もきわめて少なく、研究活動が活発に行われているとは言えない状況と言えましょう。
しかし、アンリ哲学になんらかの関心を持たれている日本の研究者は実は多く、徐々に、その注目度も高まってきていると思われます。そもそも、アンリ哲学は、母国フランスにおいても、実存主義や構造主義などの流行の陰に隠れて、その正当な評価が遅れました。日本においても事情は同じで、今、ようやく多くの研究者が再評価の目を向けはじめたところであると言えます。しかし、そのような中にあっても、現状では、研究者達は、各人が独自に研究活動を行っている状態であって、(各人の優れた研究成果は発表されていますが、)それらの研究活動を相互に結びつける絆が存在しません。同じ研究対象に関心を持つ研究者を結びつける横のつながりは、研究者どうしのコミュニケーションを活発にし、研究活動そのものを活性化していく意義がありますし、また、アンリ研究を志す新しい世代に、研究活動の社会的な地盤を提供するという意義をも持っています。今後、日本におけるアンリ研究を活性化していくためには、やはり、こうした研究者間の横のつながりとしての何らかの組織を設立することが必要であり、そこで、今回、「日本ミシェル・アンリ哲学会」として、新たな研究者グループを立ち上げることといたしました。
以上の趣旨からして、この「日本ミシェル・アンリ哲学会」は、日本におけるアンリ研究者間の横のつながりを作り、今後のアンリ研究を活性化していくことを目指しておりますが、同時に、海外の研究組織や研究者とも積極的に連携して研究を進めることを目標に掲げております。どの哲学分野にしても、近年は、海外の研究者との交流が進み、非常に多くの成果を生み出しています。とりわけ、日本におけるアンリ研究は、(個人としてではなく)全体としては、今、途に就いたばかりの状態であり、そうした意味でも、海外の研究者と交流して、それに刺激を受けつつ、活性化の方向に向かっていくことが必要不可欠であると考えます。
本会が目指すのは、以上のように、アンリ研究の将来にわたる活性化ですが、アンリ哲学の研究は、アンリを専門とする研究者のみでは決して活性化させることはできず、むしろ、多様な観点からアンリの思想に関心を持たれる研究者の方々に集っていただくことではじめて真の意味での活性化がはかれます。アンリの思想自体、決して狭い意味での哲学に終始せず、多くの学問に開かれておりますので、そうした多様な側面を持つアンリの思想に、多様な視点からスポットを当てることができますように、アンリの思想に関心をお持ちの多くの研究者の方々にお集まりいただきますことを切に願っております。
2009年6月13日
同志社大学 山形頼洋
同志社大学 庭田茂吉
神戸市看護大学 松葉祥一
愛知県立芸術大学 中敬夫
徳島文理大学 榊原達哉
関西学院大学 米虫正巳
北九州市立大学 伊原木大祐
佐世保工業高等専門学校 川瀬雅也