独断的JAZZ批評 710.

THE SUPER PREMIUM BAND
このベース音では「高音質」が泣くというものだ
"SOUNDS OF NEW YORK"
KENNY BARRON (p), RON CARTER(b), JACK DEJOHNETTE(ds)
2011年4月 スタジオ録音 (HAPPINET : HMCJ-1008)


"THE SUPER PREMIUM BAND"と大層な名前の付いたグループでは2枚目のアルバムにあたる。1枚目は2010年に録音されており、メンバーはドラムスがLENNY WHITEだった。今回はJACK DEJOHNETTEに代わっている。ベースのRON CARTERが同じなので躊躇するものがあったが、ピアノがBARRONなので購入してみた。国内盤とはいえ、税込み3150円という価格は目茶高いと言っていいだろう。
このアルバムもネーム・ヴァリューを売り物にした売り線狙いというあざとさが透けて見えるが、それを承知で購入しているのだから文句は言えない。

@"TAKE THE "A" TRAIN" テーマからBARRONのピアノ・タッチは軽い。4ビートでズンズン進むがCARTERのベース音がエレキ・ベースのよう。DEJOHNETTEのシンバリングはいつもの通り軽快で心地よい。しかし、この演奏をMAGNUS HJORTHの"SOMEDAY. LIVE IN JAPAN"(JAZZ批評 609.)のそれと比べると、いかにもお手軽、気軽で凄みがない。
A"STOMPIN' AT THE SAVOY" 
これも軽いノリだ。名手BARRONも、これは売り線狙いだから軽く行こうと割り切ってしまったのか?そして、ついに出ましたモゴモゴ・ベースのソロ。
B"MOON RIVER" 
聴くほどにCARTERの音が耳障りに聴こえてくる。DEJOHNETTEのスティック捌きが実に気持ちよく歌っているので余計に残念だ。
C"AUTUMN IN NEW YORK" 
アドリブではBARRON節が堪能できる。
D"I CAN'T GIVE YOU ANYTHING BUT LOVE" 
E"SEVENTH D" 
F"CLOUDS" 
BARRONのオリジナル。こういう曲って、いかにもBARRONだ。ほかのピアニストには真似の出来ないBARRON'S WORLD。で、この曲が"NIGHT AND THE CITY"(JAZZ批評 16.)の中にある"TWILIGHT SONG"に曲想と雰囲気がそっくりなのだ。
G"FIVE SPOT AFTER DARK" 
H"LULLABY OF BIRDLAND" 
DEJOHNETTEのシンバリングはこれだけで躍動してくるね。余分なことはひとつもしていないのに。
I"SCRAPPLE FROM THE APPLES" 
J"TONE POEM NO.1" 


ピアニスト・ KENNY BARRONの凄さを知る人間にはこの演奏では物足りない。STAN GETZとの"PEOPLE TIME"(JAZZ批評 231.)やGEORGE ROBERTとの"PEACE"(JAZZ批評 147.)におけるデュオ、あるいは、GEORGE MRAZ、BEN RILEYとのトリオ・アルバム"MINOR BLUES"(JAZZ批評 576.)と比べると凄みに欠けるのだ。手抜きとまでは言わないが、売れ線狙いの意図を知って軽く流した感じだ。
日本を代表する敏腕プロデューサー・伊藤氏の手をもってしても、CARTERの増幅をたっぷりと利かせたモゴモゴ・ベースだけはどうにもならなかったみたいだ。こういう電気ベースみたいな音色なら、最初からエレベを使ったほうがフレットのある分だけ音程が正確になって良かったのでは?高音質を謳い、しかも、高目の価格設定をしながら、このベース音では「高音質」が泣くというものだ。多分、録音は忠実に高音質を再現しているのだろう。CARTERの弾くベースの音、そのものが悪いという証左でもある。ビートのない、撫でたような音色は最新、最高の録音技術をもってしても如何ともし難かったのだろう。   (2011.08.12)

試聴サイト : http://www.happinet-p.com/jp2/music/jazz/spb2.html



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