独断的JAZZ批評 711.

HIROKO TAKADA
瑞々しい朝採れのトマトを頬張るような味わい
"INNER VOICES"
高田 ひろ子(p), 安ヵ川 大樹(b), 橋本 学(ds)
2010年3月 スタジオ録音 (D-MUSICA : DMCD 14)


高田ひろ子のピアノの素晴らしさを知ったのはついこの間のことで、D-MUSICAからリリースされた最初のアルバム"FOR A NEW DAY"(JAZZ批評 707.)をレビューしたのがきっかけだ。そのアルバムの録音は3年も前のことで、レビューするには遅きに失した感があるが、安ヵ川のベースをもっと聴きたいと思って購入したアルバムだった。そうしたら、開けてびっくり玉手箱ってやつで高田のピアノに唸ってしまったってわけ。
今回のアルバムもメンバーは同じ。ベースに安ヵ川、ドラムスに橋本という布陣だ。今、もっともライヴで聴いてみたいと思わせるプレイヤーが安ヵ川。先日もグレース・マーヤとのデュオを聴きに行ってきたが、これにも唸ったね。グレース・マーヤのピアノとヴォーカルが実に伸び伸びとしていて良かった。安ヵ川のベースはプレイヤーの潜在能力を見事に引き出しているものね。
スタンダードから3曲。
ACDがそれで、残る6曲は全て高田のオリジナル。この人、なかなかいい曲を書く。

@"桜、散る" 海外生活の長い人ほど日本の良さが良く分かるとは世間でよく言われることだ。日本人であることを再認識する、そういう1曲。そういえば、AKIKO GRACEも"GRACEFUL VISION"(JAZZ批評 493.)で"EVANESENCE OF SAKURA(桜の無常観)"という曲を書いている。日本女性の日本に対する細やかな情感を感ぜずにはいられない。高田自ら「日本人なんだなあ」と書いているが、これが高田の本質であることに間違いない。
A"I REMEMBER YOU" 安ヵ川のアルコとピアノの絶妙なマッチング。続くビート感溢れる安ヵ川のピチカートが素晴らしい。
B"LATE SUMMER"
 これもいい曲だ。スイング感満載にして突っ走る。ソロでは遠慮会釈なしに叩きまくる橋本のドラミングにスカッとする。
C"I LOVES YOU PORGY" 3/4で演奏されている。これが7/4だったりすると目くじら立てて怒るところだけど、この範疇なら違和感はない。しかし、この演奏の瑞々しさったらないね。独創的でありながら完成されている。まるで瑞々しい朝採れのトマトを頬張るような味わい。
D
"BUT NOT FOR ME" 初めて聴く、この曲のバラード演奏。続く安ヵ川のベース・ソロ。いいねえ!聴きたいのはこういうベースの音色。弦を強く弾き、箱が鳴る・・・。もう堪らん!
E"青い空 白い雲"
 高田のオリジナルのワルツ。伸びやかで艶やかな安ヵ川のベース・ソロを堪能いただきたい。橋本のドラミングはトリオとしての理想的なドラミングだと僕は思っている。時に脇役に徹し、時に自己主張をする・・・この按配が素晴らしい。
F"つばめ"
 高田の書く曲の根っこは日本に根ざしている。こういう曲は外国のプレイヤーには先ず書くことが出来ないだろう。
G"遠い道程"
 高田の当時小4の息子がライヴで聞いたこの曲への一言が、名付け親になったという曲。ウーン、息子までセンスが違う!
H"INNER VOICES"
 

高田のD-MUSICA第1弾"FOR A NEW DAY"(JAZZ批評 707.)をレビューしたのはわずか20日前のことだけど、偶然にも高田ひろ子の第2弾が間髪いれずリリースされた。前作に違わず素晴らしいアルバムに仕上がった。何よりも全編を通して溢れる瑞々しさに感動した。まるで、これは朝採りのトマトのようではないか!ということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。
今、僕の中で、一番、生で聴いてみたいピアニスト。それも、このトリオでなくては駄目なのだけど・・・。   (2011.08.13)

試聴サイト : http://www.d-musica.co.jp/release/14.html



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