独断的JAZZ批評 449.

DAG ARNESEN
 
ピアノ・トリオにおけるドラマーの重要性を再認識した
"MOVIN'"
DAG ARNESEN(p), TERJE GEWELT(b), SVEIN CHRISTIANSEN(ds)
1994年1, 2月 スタジオ録音 (TAURUS RECORDS : TRCD 832)

僕が購入した"MOVIN'"は左のジャケット。右のジャケットのアルバムが世に出たのはもう何年も前のことと記憶しているが、まさか、DAG ARNESENのアルバムだったとは今日まで知らなかった。右のジャケットでは耳当たりの良いBGM的ジャズしか思い浮かばない。このジャズが、何でこういうジャケットになってしまうのか?不思議だ!果たして、メーカーの思惑通り売れたのだろうか?
DAG ARNESENといえば"TIME ENOUGH"(JAZZ批評 284.)が良かった。同じTERJE GEWELT(b)とPAL THOWSEN(ds)とトリオを組んだ"NORWEGIAN SONG"(JAZZ批評 397.)はタイトル通りノルウェイのフォーク・ソングにテーマを求めたので若干グルーヴ感に欠けていて評価が下がった。
さて、このアルバムであるがARNESENとGEWELTの二人は変わらないがドラムスにSVEIN CHRISTIANSENを迎えた初期のアルバムで1994年の録音となっている。ARNESENとGEWELTの強い絆はこの頃から健在だ。

@"BODY AND SOUL" 
饒舌なピアノ、饒舌なベース、饒舌なドラムスという具合で1曲目から妙にしつこくて重たい。この曲は願わくばサラッといって欲しいね。
A"ALONE TOGETHER" 
ピアノとベースがガツンガツンいくのだが、ドラムスが取り残されている感じ。しかし、このドラミングは酷いね。まるで素人のようなドラミングでピアノもベースもこれには参ったろう。何ともがさつな演奏で、聴くほうも参った。ベース・ソロの後にドラムスとの小節交換が配置されているが、これが最悪。ピアノ・トリオとしての面白みはまるでない。

B"MAYBE" 
GEWELTの書いた牧歌的な曲。ドラムスが極めて控えめなので、これは聴ける。
C"C-MINOR BLUES" 
このグループにドラムスは不要だったかも。TERJE GEWELTといえばCHRISTIAN JACOBとのデュオ・アルバムの名盤(JAZZ批評 275. 407. & 420.)がいくつもあるし、ARNESENとのデュオでも良かったかも。このデリカシーのないドラマーは最初からいないほうが良かった。
D"MOVIN'" 
この曲もドラムスが控えめなので、まあ聴ける。
E"UP TIDE" 
ベースとドラムスがアップテンポの4ビートを刻んでいく。ドラムスは完全にベースに煽られているし、もたついている。シンバリングにもまるで余裕が感じられない。
F"EN MANDAG" 
これもARNESENのオリジナル。美しい曲だが、ARNESENとGEWELTはかなり弾き倒している。まるでデュオ・アルバムのようだ。マスタリングの段階で意識的にドラムスの音を絞ったのではないかと思うほど。
G"SKATING THE CLUB" 
ジャケットの写真を見るとARNESENがスケート・シューズを履きながらピアノを弾いているがこれはどういうわけ?ここではCHRISTIANSENの退屈で躍動感の欠如したドラム・ソロが配置されているが、耳を覆いたくなる。何ゆえ、このドラマーを採用したのか!?
H"PEACE" 
HORACE SILVERの書いたしっとりとした佳曲。

このアルバムは、いっそのこと初めからピアノとベースのデュオであれば良かった。このドラムスは余分だった。二人の間に入って完全に浮いている。技量的にも決して上手いとは言えまい。この手のドラマーなら素人でも五万といるだろう。こう言いたくなるのも、最近掲載したレビューのドラマーはMORTEN LUND(JAZZ批評 447.)とBRIAN BRADE(JAZZ批評 448.)という一級のドラマーばかりを聴いていることが影響していることも否めない。ピアノ・トリオにおけるドラマーの重要性を再認識した。
考えてみれば、GEWELTとCHRISTIAN JACOB とのデュオが何枚も存在するのであればGEWELTとDAG ARNESENのアルバムが存在したとしても何も不思議ではなかった。このアルバムにおける二人の息のあった関係をとってみれば、これは判然とした事実でデュオのほうが良かったと思える内容だ。二人の間に割って入ったドラマーに臆することなく(ある意味、無視し続けて)自分たちのやるべきことを最後までやり遂げたARNESENとGEWELTに脱帽。故に、かろうじて星3つをキープした。   (2007.12.01)