独断的JAZZ批評 448.

北川 潔
全曲に漲る躍動感と緊迫感が凄い
実に「刺激的な」アルバムだ
"I'M STILL HERE"
DANNY GRISSETT(p), KIYOSHI KITAGAWA(b), BRIAN BRADE(ds)
2007年2月 スタジオ録音 (ATELIER SAWANO : AS071)

これまでに紹介した北川潔のアルバム、"ANCESTRY"(JAZZ批評 225.)と"PRAYER"(JAZZ批評 312.)とライヴ・コンサート・レビューでは、ピアニストは常にKENNY BARRONであった。今回、参加したピアニストは若きDANNY GRISSETTである。このGRISSETTがリーダーになったアルバム"PROMISE"(JAZZ批評 403.)は3月に紹介しているが、評価としてはまずまずというところで次のアルバムへの期待感を語っていた。
このアルバム・ジャケットの写真は冬のニューヨークの写真であろうか。ベースを転がしてる北川の容姿にジャズの匂いがして、洒落ている。内容も申し分ない。恐らく、今まで紹介したアルバムの中でも一番のお奨めだ。兎に角、「刺激に満ちている」 これは若手ピアニストのGRISSETTの参加が大いに貢献していよう。3人が互いに刺激し合い、そこから、互いにインスパイヤーされているのが良く分かる。
全7曲、全て北川のオリジナルで占められている意欲作。いずれの曲も6分以上、12分まで、聴き応えあり。

@"KG" 
テーマからアドリブに切り替わると同時に4ビートが躍動していく。ゴリゴリと突き進むベースと快いシンバリングに乗ってGRISSETTのピアノが踊っている。特に、BRADEのドラミングに注目いただきたい。溌剌としたBRADEのドラミングに!!! 力強い北川のベース・ソロには唸るね!7'56″。
A"SHORT STORY" テーマにおけるピアノとベースの絡みが実に良い。そこへ、BRADEのブラッシュがさりげなく割り込んでくるから、もう堪らない。北川のベース・ソロ、そして、伸び伸びとしたGRISSETTEのピアノに心が踊るのは僕だけではないだろう。刺激的で緊迫感に溢れた演奏に大満足。6'21″
B"CIAO, CIAO" ベースの定型パターンで始まるが、このパターンが躍動していて、何気に凄いテクニックを披露している。実に心地良い。「きめ」もピタリと決まっていいね。北川のベース・ソロは強いピチカートと伸びのある音色が魅力だ。この音色は強靭な左手と右手のコンビネーションによってはじめて生み出されるといっても良いだろう。その上、良く歌っているので申し分がない。世の軟弱なベーシストはこの音色を見習って欲しいものだ。更には、若手ピアニスト、GRISSETTの本当の実力を測るに相応しい演奏だ。"FREEDOM JAZZ DANCE"の1フレーズがこっそりと導入されているあたり小憎らしい。このピアニスト、これからの10年間、要注目だ。8'15″。

C"ANOTHER PRAYER" 絶妙な北川のアルコ・プレイには唸ってしまうね。兎に角、このアルコもピチカートも音が良い。録音技術の良さもあるかもしれないが、これは楽器そのものの音色の良さだね。この音色だけとっても、北川は世界で指折りのベーシストと言えるでしょう。スロー・テンポのインタープレイが展開されていくがBRADE と GRISSETTの良く配慮の利いたバッキングも特筆ものだ。11'31″。
D"TOMORROW" 
9'13″。
E"INNOCENT MISTAKE"
 急速調のモーダルな曲で、アドリブに入ると、一見、学者風のBRADEが仮面を剥ぎ取って絶妙なスティック捌きで暴れまくる。これはいいねえ。ドラム・ソロの醍醐味が凝縮している、6'29″。
F"I'M STILL HERE" 
一転してポコポコとした楽しげなスティック捌きにニヤリとしてしまう、7'32″。ここでは伸びやかに、北川とも対等に張り合うGRISSETTのピアノ・プレイに注目したい。

全曲に漲る躍動感と緊迫感が凄い。実に「刺激的な」アルバムだ。KENNY BARRONがピアノを務めた時とは違って、ある種の緊張感や緊迫感が張り詰めていて、とても刺激的だ。
長年、トリオを組んできたBARRONとは「馴れ合い」みたいなものが生じ始めていたのだろう。このメンバー交代は正解である。そして、若手のGRISSETTもその期待に見事に応えている。
このアルバムはベース・トリオという印象が薄い。むしろ、3者が裸の魂をぶつけ合ったピアノ・トリオと言うべきだろう。そして、北川が世界でも指折りのベーシストであることを証明しているアルバムでもあり、更に加えれば、僕が今年聴いたアルバムの中でも最高位に位置するアルバムでもある。
勿論、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。 

録音の素晴らしさも付記しておこう。ピアノ、ベース、ドラムス、各楽器の生々しい録音技術とセンスの良さに他のレコード会社も見習って欲しいと思うほどだ。是非とも大音量で聴いてその音色の生々しさを肌で感じて欲しいアルバムだ。「澤野工房ここにあり」という1枚。   (2007.11.26)