独断的JAZZ批評 391.

MATEJ BENKO
強いタッチ、美しい音色、けれんみのない演奏といい、この若さにして味のある演奏をするもんだ
"UNIVERSALITY"
MATEJ BENKO(p), JAN GREIFONER(b), BRANKO KRIZEK(ds)
2005年9月 スタジオ録音 (ARTA F10143)

このMATEJ BENKOの名を聞いて、誰だかわかる人は相当のヨーロッパのジャズ通だと思う。知らない人も、多分、こう言うとわかるかも。「あの鯨の尻尾のジャケットでピアノを弾いていた人」と。そう、鯨の尻尾で有名になったVIT SVEC TRIOの"KEPORKAK"でピアノを担当したのが、このMATEJ BENKO。かく言う僕も「鯨の尻尾」ではたと思い当たったわけだ。

このアルバム、久しぶりに寄った御茶ノ水のDISK UNIONに平積みで置いてあった最後の1枚。この御茶ノ水のDISK UNIONには3ヶ月に1回くらいしか寄らないのだが、その都度、印象に残るアルバムを偶然にもゲットしているような気がする。今回は店頭にあった最後の1枚をゲットしたわけだけど、もしかしたら、裏の倉庫には在庫が山ほどあったかも知れない?
因みに、ネットでHMVを調べてみたら、一応、ラインナップには「通常出荷」として載っていた。
2004年7月録音の「鯨の尻尾」こと、"KEPORKAK"(JAZZ批評 245.)についてのレビューは2005年1月16日に書いているが、その時のレビューでは、4曲目の"SMILLA"で、「美しくも切れのある演奏だ。このピアニスト、聴き込むほどに味が出てくるなあ。太いベースに切れのあるブラッシュ、クリアなピアノとなかなか聴かせてくれる。」と書いてあった。
そのMATEJ BENKOがリーダーとなり、同世代を集めて録音したのがこのアルバムだ。ジャケットの写真を見る限り、皆若い。
一聴して気がつくのは、ピアノの音色。タッチがクリア。これって、いいピアニストの必要条件のひとつだと思う。

"KEPORKAK"でリーダーを務めたVIT SVECはなかなかのベーシストで2001年録音の"TRIO '02"(JAZZ批評 126.)という傑作も残しているのでついでに紹介しておこう。ここではジャズ界では珍しいMARK AANDERUDというメキシコ人がピアノを弾いている。このピアノとベースの絡みがすばらしく良くて、特に5曲目の"FROZEN DROPS"には唸ってしまうね。機会があれば是非、聴いてほしいアルバムだ。

さて、このアルバムであるが、まずは最後の曲から聴いてもらいたい。
I"CHAN CHAN" この曲を聴けばこのピアニストの実力が分かるというものだ。強いタッチ、美しい音色、けれんみのない演奏といい、この若さにして味のある演奏をするもんだ。徐々にテンションが上がってくるその様がいい。GONZALO RUBALCABAの"THE BLESSING"(JAZZ批評 99.)を彷彿とさせる切れのある演奏が印象的だ。マレットを使ったドラミングがスパイスのように効いている。ウーン、やるねえ!

@"DISTANT RELATIVE" 腕白坊主3人が賑やかにラテン調で暴れてみました!という感じ。これをもって全てと思われるといけないのでIから紹介した次第だ。跳躍するドラミングが印象に残る。このドラマーの名前を記憶に留めよう。
A"ABSENCE" ボサノバ調の軽快なリズムに乗って・・・。
B"FAIRYTALE ABOUT CAROLINE" 美しいピアノの音色だ。粒立ちのくっきりした音色だ。こういう美しいバラードにあってもピアノのタッチは強くて切れがある。
C"LORO" この曲、EGBERTO GISMONTIの手になる曲。どこかで聴いた記憶があるなと思ったら、GIOVANNI MIRABASSIが"PRIMA O POI"(JAZZ批評 307.)の中で演っていた。まさに弾き倒すという感じで弾き捲くっている。最後にテンポ・ダウンして終わるところはMIRABASSIと同じ。

D"GRANNY'S ROOM" グルーヴィなブルース。ベース・ラインを聴いていると12小節の忠実なコード進行をなぞっているので分かりやすい。ベースのソロが長めの6コーラス。イエイ!そのあと、1コーラス単位のドラムスとの交換があってテーマに戻る。やはり、ブルースはこうでなくちゃあ。
E"SMOKE GETS IN YOUR EYES" 邦題「煙が目にしみる」 スタンダード・ナンバーをしっとりと、しかも、しっかりと聴かせてくれる。聞き古されたスタンダード・ナンバーというのは、得てして、色々と手を加えたくなるものだが、正統派で弾いている。こういうところに、センスが光るね。
F"ALL FOOL'S DAY" これもラテン・ビートに乗って賑やかに。ピアノの腕は確かだ。
G"UNIVERSALITY - PIANO INTRO" 2分24秒のイントロ。
H"UNIVERSALITY" 7/4の変拍子のようだ。僕には、7拍子というのはどうも生理的におさまりが悪いなだなあ。何か余分なような、足りないような・・・。

このMATEJ BENKOというピアニストは非凡なセンスを持っていると思う。まず、ピアノの音色がいいし、タッチも強い。テクニックも相当のものだ。
BEのバラードを演らせても、Dのブルース演らせても一級品である。これから先が楽しみで目が離せない。
活きが良くて自己主張のしっかりした若手ピアノ・トリオということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2007.01.28)