VIT SVEC
問題はどこのジャンルに括るかではなくて、どんなに素晴らしい音楽になっているかということだろう
"KEPORKAK"
MATEJ BENKO(p), VIT SVEC(b), JAN LINHART(ds),
2004年7月 スタジオ録音 (ARTA F10131) 

VIT SVECというチェコのベーシストのリーダー・アルバム。JAZZ批評 126.は2001年録音の秀逸なアルバムだった。クラシックの薫陶を受けたSVECのベースは確かな音程とアルコ、ピチカート両方での美しい音色で魅了したものだった。
そのSVECが若手のピアノとドラムスを従えたトリオ・アルバムだ。ジャケットにはくじらの尾っぽのデザイン、1曲目のタイトルが"FOLLOW THE WHALES"で何がしか「鯨」に関係するアルバムかと思ってしまう。全11曲中9曲がピアノのMATEJ BENKOの手になり、残る2曲がSVECのオリジナルだ。

G"BLUES FOR MICHAEL" 先ずは8曲目のこの曲からお聴きいただきたい。SVECが書いたミディアム・テンポのブルース。1コーラスのベースのウォーキングがフィーチャーされ、その後、2コーラスのテーマを経てアドリブに入る。スウィング感たっぷり歌う3人のこの演奏を聴けば、グループの実力のほどが一目瞭然だ。いつの間にか勝手に指が鳴っている。
H"BENEATH A STORM SURGE" 分厚いベース・ワークの上をクリアなピアノの音が隙間を埋めていく。ドラムスも良く調和している。何回も繰り返し聴きたくなる。
I"FISHTAIL TALE" 美しくも高揚感溢れる演奏。
J"MONKFISH" BENKOのピアノ・ソロ。"MONKFISH"というのはネット検索すると、どうやら「あんこう」らしい。T.MONKにも引掛けているのだろうか?MONKをも彷彿とさせる演奏ではあるが、相当元気なアンコウのようだ。

順番を変えて紹介したのは@のイメージが相当強く残ってしまい、Gのような素晴らしい演奏が見落とされてしまうと思ったからだ。

@"FOLLOW THE WHALES" 演奏に紛れるイルカ(らしい)の声が耳について離れない。これは不要だったのでは?しかし、その後に続くアドリブは躍動感溢れるものだ。
A"EVENING PRELUDE" 変拍子。6拍子と思われるが違和感のない演奏で独特の雰囲気を醸し出している。
B"DREAMER" SVECのオリジナル。いきなり躍動するベースのリズムで始まる。明るい曲想のご機嫌な演奏でついつい身体も揺れてくるというものだ。ピアノの音色が本当にクリア!
C"SMILLA" 美しくも切れのある演奏だ。このピアニスト聴き込むほどに味が出てくるなあ。太いベースに切れのあるブラッシュ、クリアなピアノとなかなか聴かせてくれる。

D"INFORMATION NO.5" 以下、クラシック的組曲。
E"INFORMATION NO.6" 
F"INFORMATION NO.7" 

最初、僕はジャケットのイメージと1曲目のイルカの声でアルバム全体のイメージが固定してしまったようだ。しかし、この評文を書きながら何度も聴いているうちにその観念はなくなった。
いわゆる4ビート・ジャズは
Gくらいしかないが、どの曲も躍動感、緊密感と美しさに溢れている。いわゆるバップ系のジャズでもないし、クラシック系でもない。どちらかというとボーダレスのジャズと言った方が良いだろう。問題はどこのジャンルに括るかではなくて、どんなに素晴らしい音楽になっているかということだろう。
このアルバム、中でもベースの果たしている役割は大きい。ピアノとドラムスの若手も相当の使い手でリーダーのVIT SVECに臆することがない。
当初の印象では4.5★くらいかと思っていたが、聴き込んでいくうちに5つ★に変更した。
「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2005.01.16)



独断的JAZZ批評 245.