|
| |||||
| 『黒薔薇昇天』['75] 『とむらい師たち』['68] | |||||
| 監督 神代辰巳 監督 三隈研次 | |||||
| これが岸田森の『黒薔薇昇天』か。宿題映画がまた一つ片付いたのは喜ばしいが、さほどの作品には思えなかった。これなら、十二年前に同じ劇場で観た『「エロ事師たち」より 人類学入門』['66]のほうが遥かに面白かったような気がする。最後にブルーフィルム監督(岸田森)が洩らす「修行が足らんのや」との自省に「ホンマや」と笑った。 摂理に則って生きる動物たちほどに上等ではない人間の滑稽さと哀しみを漂わせてはいたように思うが、饒舌に過ぎる監督の語りがいささか鬱陶しく、食傷した。関西財界の大物の愛人を務める傍らで歯科医と浮気している幾代を演じた谷ナオミの艶技の迫力には、翌年の『花芯の刺青 熟れた壷』には及ばずとも流石のものがあり、また臨場感に満ちた撮影だったが、どうにも劇中監督のキャラクターが仇となっていた気がする。藤本義一の原作『浪花色事師=ブルータス・ぶるーす』からしてそうだったのかもしれない。 幾代の名は、最後の本番撮影場面でメイ子(芹明香)が相方の一(谷本一)に懸命に「イッたらあかんでぇ」と声を掛けていたことに呼応するものとして付けられていた名前なのだろう。その前段での監督との濡れ場は、なかなかのものだった。 先ごろ県立美術館で上映された『黒蜥蜴』の続編『黒薔薇の館』から話題に登ったり、本作と同じ神代辰巳監督作の『女地獄 森は濡れた』が十九年前の年末にこの劇場で上映されたという話をしていたりということもあって、観賞後に劇場の人と話していたら、少なくともこの二十年の間には、前館主も掛けていなかった作品だということだった。然もあらんと納得。 ところが「これ、大阪のミニシアターで観ました!とにかく谷ナオミをスクリーンで観たくて、念願叶った作品です😊切り取り画像だと、イマイチ品がないんですけど、動くナオミ様は大変お顔もバストも美しく、気品もあり、眼福でしたね。ストーリーも面白く、観たのはだいぶ昔ですが、多分全部覚えています。」という旧知の映友女性の十四年前の映画日記を読んで愉しませてもらったので、「成田三樹夫好きとはなかなか筋がええですやん(笑)。谷ナオミ様は、そりゃもう「ほぉ〜、気品がある!楚々として恥じらいのある風情が何とも可憐」とお書きのとおりでして、僕も不満はありませぬ。「私はあんな完璧なそそる女体を観た事がない」との弁に快哉を挙げました。この際、ぜひ翌年の作『花芯の刺青 熟れた壷』をご覧いただきたい。加えて今村の『「エロ事師たち」より 人類学入門』['66]も是非。」と返した。 十四年前の「いつかきっと劇場で、「SMの女王」たる谷ナオミを絶対観るぞ!」は、その後どうなったかと訊ねると、未だ果たせずとのこと。シネ・ヌーヴォでは近所からの苦情でロマンポルノ作品の上映ができなくなったと聞いて諦めていたそうだが、今どきなら配信動画があるから探してみるとのことだった。シネ・ヌーヴォが入居マンションの住民から訴えられた件については、和解後に特集上映「生誕45周年~ロマンポルノ、狂熱の時代~」を開催していて、そのときに『花芯の刺青 熟れた壷』も『黒薔薇昇天』ともども上映されていたのに残念だ。ただ彼女が切望した「SMの女王たる谷ナオミ」の作品はなく、その後もシネ・ヌーヴォでは上映されていないように思う。 その『黒薔薇昇天』をようやく観賞したことから、同じくブルーフィルム製作現場を描いた『「エロ事師たち」より 人類学入門』の原作「エロ事師たち」と同じ野坂昭如の「とむらい師たち」の脚本を『黒薔薇昇天』の原作者である藤本義一が担った『とむらい師たち』を観てみた。奇しくも音楽が「江戸川乱歩の美女シリーズ」の鏑木創だった。 万博会場建設工事中の広大な土地に霊柩車が乗り込む図という'60年代末期ならではの映画を観ながら、進歩と調和を謳い上げる未来志向のなかで、高度成長期を謳歌しエコノミックアニマル化していったなかで、伝統的な儀式のなかにあった心が喪われつつある世相を風刺した作品の妙味に感心した。死顔美容なる言葉は、初めて聞いたが、野坂・藤本のいずれによるものなのだろう。アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』['08]とは真逆のテイストだった。いろいろ駄洒落がでてきたが、僕が可笑しかったのは「これが拙宅なら俺の家は藁草履」だった。 納棺師ではなくて、祖父が隠亡だったというデスマスク屋のガンめん(勝新太郎)、ガダルカナル帰りだという胡散臭い整形外科医のセンセイ(伊藤雄之助)、若干が口癖の元市役所職員のジャッカン(藤村有弘)のキャラが立っていて好い感じだ。万博の向こうを張った(つもりの)葬博【葬儀博覧会】あたりから失速したが、当時の社会状況を写し、葬祭業界の行く末を先取りして描いているようなところがなかなか興味深い作品だったように思う。最後の黒い雨には驚いた。当時関心を集めていたであろう核兵器不拡散条約との絡みだったのだろうか。 | |||||
| by ヤマ '25.12. 3. あたご劇場 '25.12. 3. YouTube配信動画 | |||||
ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―
| |||||