江戸川乱歩の美女シリーズ(7話~11話)
テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」

第7作『宝石の美女』['79] 監督 井上梅次
第8作『悪魔のような美女』['79] 監督 井上梅次
第9作『赤いさそりの美女』['79] 監督 井上梅次
第10作『大時計の美女』['79] 監督 井上梅次
第11作『桜の国の美女』['80] 監督 井上梅次
 天知茂版は全話観たと思っていたら勘違いだったことに気づいて、しばらく遠ざかっていた美女シリーズ観賞を再開させた。原作の『白髪鬼』は未読ながら、第7作宝石の美女の劇中に名前の出てきたエドガー・アラン・ポーの小説が原作にも出てくるのか青空文庫で当たってみたら、皆さんはポオの『早過ぎた埋葬』という小説を読んだことがありますか。と見事に里見こと大牟田敏清(田村高廣)の台詞としてあるものだったが、印象深かった死を覚悟したゆとりとのフレーズは原作にはなかった。

 美女役の大牟田ルリ子を演じた金沢碧の入浴シーンは明らかにボディダブルだったが、哀れなまでの強欲ぶりがなかなか似合っていて感心した。ラストの狂乱場面は、原作小説のほうがもっと凄惨な感じだったが、原作にはない女の魔性は犯罪を呼ぶとの台詞に相応しい性悪感があったように思う。

 ただ脱獄した宝石泥棒の西岡(睦五郎)の変装が白髪のかつらだというのは、いかにも苦しい気がしなくもなかった。目立つだけではないかと呆れたが、そうしないと白髪鬼のトリックの施しようがなくなるのはよく判る。


 第7作と続けて観たところ、きちんとマネキンの出てくる第8作悪魔のような美女のほうが断然、面白かった。マネキンどころか蝋人形ならぬ生身の人間の剝製美術館なるものさえ登場する。これはおそらく脚本を書いたジェームス三木の潤色だろうと思っていたら、乱歩の原作にも登場する趣向であることが、青空文庫を当たって判明した。大したものだ、江戸川乱歩。

 原作小説の『黒蜥蜴』に夫人は笑いながら、手を休めないで、一枚一枚と衣服を取り去って行った。彼女の奇妙な病気が起こったのだ。エキジビショニズムがはじまったのだ。全裸の…彼女はあらゆる曲線と、あらゆる深い陰影とを、あからさまに見せびらかして、トランクの縁をまたぎ、その中へまるで胎内の赤ん坊みたいに手足をちぢめて、スッポリとはまりこんでしまった。…まげた脚の膝頭が、ほとんど乳房にくっつくほどで、腰部の皮膚がはりきって、お尻が異様に飛び出して見えた。後頭部に組み合わせた両手が、髪の毛をみだし、わきの下が無残に露出していた。…「マダム、トランク詰めの美人ってわけですか」とある部分を緑川夫人こと黒蜥蜴(小川真由美)が演じる場面はなく、トランク詰めになるのも早苗(加山麗子)のみだった。

 しかし、黒蜥蜴を演じた小川真由美が流石の貫録で、大いに感心した。日活ロマンポルノでは華を感じさせる加山麗子を霞ませる華を放っていたように思う。また、学生時分を過ごした東京でよく耳にした伊東に行くならハトヤ、電話はよい風呂のハトヤグループのホテルが出て来て、行ったこともないくせに懐かしく感じたが、かのホテルは今も尚あるのだろうか。


 翌々日に観たのは、第9作赤いさそりの美女だ。黒い蜥蜴の次は赤い蠍だった。原作にはない彫り物や痣でも蠍が描かれたのは、明らかに前作『悪魔のような美女』の影響なのだろう。殿村京子こと匹田富美(宇津宮雅代)が新婚初夜に夫の吉野圭一郎(永井秀和)から“蠍の呪”だと言われていたハネムーン先も、ハトヤかどうかは不明ながら伊東だった。原作では醜貌の呪となっているものを美貌の下に隠された蠍模様の痣に替え、呪いというよりも復讐劇としたうえで、原作には登場しない狩野五郎(入川保則)を配して男女間の想い想われのままならなさの機微に深みを与えていたことが印象深い。

 前作の小川真由美には及ばぬながらも、余り見慣れない風情の怨女を宇都宮雅代がよく演じていたように思う。ボディダブルを使わない下着姿までだったけれど、聞き覚えのある声質のほかは、全く覚えのない女性のように映った。死ぬときは一緒よと明智に訴える思い込みぶりが凄い。ある種の女性の類型を確かに示していて、つい失笑した。コンテスト準優勝の相川珠子を演じた野平ゆきや、優勝した春川月子を演じた三崎奈美がボディダブルではないヌードになっていたのは、ロマポ女優だから驚くまでもないが、この当時はまだロマンポルノに出ていた気のする永島暎子にヌード場面がなかったのは、けっこう意外だった。

 そう来るかの明智への変装には意表を突かれた。二と三で富美、という駄洒落は流石に乱歩はやってないだろうと青空文庫を当たったら、やはりなかったのが可笑しかった。ところで、本作でもしっかりマネキンが出て来たが、やはりマネキンや人形の登場する本シリーズは出来がいい気がする。


 第10作大時計の美女['79]は、第7作の白髪鬼を想起させるお鉄婆さんの幽霊姿から始まったので、原作『幽麗塔』でも白髪老婆だったのか確かめてみようと青空文庫を開いたが、なくて残念だった。老婆が断末魔に腕の肉を食い千切ったという設定の凄まじさに恐れ入ったせいでもあった。今作は、顔を替えない変装の明智という趣向かと思ったら、どう考えても背丈に無理のある醜男の使用人に変装させるお約束場面が現れたが、マネキンないし人形は登場しなかった。

 時計屋敷の主人である児玉丈太郎(横内正)の妻夏代の人物造形に少々難があって、丈太郎が相続権を得て資産家になった途端にママさん稼業の店を処分して資産目当てに嫁いだが、それ以前は丈太郎をヒモにしていたというような関係には映って来なかった。演じた赤座美代子は当時、三十路半ばの艶があって、同じ年頃の謎の美女役の結城しのぶ以上に魅力があったように思う。お約束の入浴場面は、ボディダブルだったようだが、笑窪が好い感じだった。美人度では、結城しのぶのほうが優っているのだろうが、あまり個性の感じられない面立ちがその後のキャリアにも影響したのだろう。また、ヌードシーンのなかった謎の美女の代わりに、丈太郎と因縁のあったアケミこと元お手伝いのトキ子(内藤杏子)が岩場で殺害された場面で無駄にというか手順からしてあり得ない胸をはだけた遺体になっていたのが可笑しかった。

 お宝を隠してある場所を記した書き物を収めた金庫の鍵の謎があまりに呆気なくて、動かない大時計を動かせる鍵の存在が明らかになった時点で、誰もが試そうとするはずだと思えてならなかった。ボスとしての弁護士黒川(根上淳)の配置にも些か難を感じた。やはりデスマスクならぬライブマスク止まりで、人形やマネキンに至ってない分、力及ばずだと感じた次第。そもそも丈太郎は、何ゆえ明智小五郎を招いたのだろうと不審極まりない顛末だったように思う。


 第12作から観始めた天知茂版「江戸川乱歩の美女シリーズ」もいよいよ最終となる第11作桜の国の美女は、桜の国とはまた、と思ったら第6作妖精の美女の続編で、フランスから舞い戻ってきた黄金仮面との対決だった。

 桜花の如く美しい日本女性という桜の国の花子に扮した古手川祐子に入浴場面もシャワー場面もないのはまだしも、黄金仮面=ロベール(伊吹吾郎)に一途に恋した浅沼由貴を演じた田中真理にも設えられてなくて、すっかり拍子抜けだった。明智に張り合って黄金仮面を追い詰めると宣言していた保険会社調査員(中田彩子)が浅沼由貴に共犯者だろうと名指しに行く場面に唖然としていたら、シャワーを浴びながら全裸で刺殺される場面を設えるためのものだった。

 筋立てとしてもかなり乱暴で、最初に登場した、ルノワールの『陽光の中の裸婦』の“模写にしても些か御粗末に過ぎる絵”と同じくらい、雑な筋書と運びだったように思う。あまりに第6作の黄金仮面と異なる人物造形に対して、明智の台詞で繰返し以前の黄金仮面とは別人のようだと弁解がましく述べていたのが可笑しい。そして、またしても熱海伊東温泉か、と妙なところでウケてしまった。




参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ(1話~6話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ(12話~16話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ(17話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ(18話~21話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ(22話~25話)
by ヤマ

'25. 8.18. BS松竹東急録画
'25. 8.18. CSファミリー劇場録画
'25. 8.20. CSファミリー劇場録画
'25. 8.23. CSファミリー劇場録画
'25. 8.23. CSファミリー劇場録画



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