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| 『ナイトフラワー』['25] 『ミーツ・ザ・ワールド』['25] | |||||
| 監督・脚本・原案 内田英治 監督 松居大悟 | |||||
| 六年前に観た『全裸監督』で名を記憶した内田英治作品は、エンドロールを観ていると、監督・脚本・原案に留まらず、原作小説までも書いていた。映画タイトルが示しているように、日陰に身を置き、華を咲かせられずとも懸命に生きる隠花植物のような人々の姿を描いて、是非もない生きざまに対してエールを送っているように感じた。 昼間は地球儀の地図貼りといった地味な手作業に工場で従事し、夜はクラブホステスとして深酒を強いられつつ深夜まで働き、合間にラブホの掃除婦までやっているトリプルワークに疲れ果て鼾をかいて寝る姿を晒していた夏希を演じる北川景子に『モンスター』を演じていたシャーリーズ・セロンを想起せずにはいられなかった。彼女が演じると、夫が多重債務の重圧によって失踪するまでは、おそらく子供にバイオリンを習わせることも造作ない星崎みゆき(田中麗奈)のような境遇だったものがドロップアウトしたのに違いないと極自然に思わせてくれていて、大いに感心した。 ところが、その北川景子の熱演を凌駕するような迫力で森田望智が女子格闘技で名を馳せようとしている多摩恵を演じていて圧倒された。まさしく『モンスター』ばりに体を張った圧巻の演技だったように思う。『全裸監督』での黒木香、朝ドラ『虎に翼』の花江、本作での蟹股歩きの多摩恵と変幻自在に人物造形を果たしつつ、カメレオン俳優とは異なりいずれにおいても森田望智であることを強く印象づける彼女は、まさにロバート・デ・ニーロのようだと大いに感心した。 そして、多摩恵と海(佐久間大介)のみならず、合成麻薬の密売組織のメンバーは全員が母親から棄てられた生い立ちを持つ者ばかりという設えだった。実母か継母か明らかにされていなかったように思うが、事故死した星崎家の家出娘は子供としての居場所を見つけられない境遇にあったに違いない。 組織に捕らえられた海の顛末も明示されていなかったように思うが、おそらくは殺されたのだろう。殺されたというよりは、全ての責を自分が負うことで夏希と多摩恵を守ったのだろう。今や表の世界は、政界でも財界でも誰かがきちんと責任を取ることで片を付けるという伝統的な習わしが軽視され、誰も彼も挙って責任を取らなくなっているが、ここでは、海が身を挺することで片を付けたということだ。組織を牛耳る男を演じた渋谷龍太は、かなりの貫目不足だったように思うが、役柄としては、それなりの筋と顔を立てる人物として描かれていたような気がする。とはいえ、なんだか今の世の荒みを炙り出していて、最後にはナイトフラワーが昼に花開けども、遣り切れなさの残る作品だった。 翌日観た『ミーツ・ザ・ワールド』は、前半、実に活き活きとしていた、腐女子銀行員の由嘉里(杉咲花)とキャバ嬢ライ(南琴奈)の会話と人物造形に大いに魅せられていたのだが、次第に失速していったように感じられたお話の転び方が残念だった。 わりなきシスターフッドを描いて鮮烈だった『ナイトフラワー』を観たばかりというハンディもあったかもしれないが、シスターフッド映画として支持の高い『あのこは貴族』よりも好いようには感じた。何と言ってもライの人物像と佇まいが気に入った。アサヒと呼ばれていたナンバーワンホストの朝比奈健太郎(板垣李光人)の造形も意外と面白かった。厭味のないところが好い。 希死念慮も腐女子も僕には縁なく遠い世界だが、生き辛さを負いつつ、懸命に生きている感じが好もしかった。それにしても、エンドロールにクレジットされていた菅田将暉は、いったい何処に出ていたのだろうと思っていたら、映友から「声だけとか?」とのコメントを貰った。なるほど。最後に出てきた電話の男かと腑に落ちた。 | |||||
| by ヤマ '25.12. 1. TOHOシネマズ4 '25.12. 2. キネマM | |||||
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