『終着駅』(Terminal Station)['53]
監督 ヴィットリオ・デ・シーカ

 映友からディスクを借りた理由が思い出せなくなっていたのだが、ふたりの駅』の日誌人生のある何日かの眩しい思い出として恋を語る作品は、例えば、『終着駅』などを思い出すまでもなく、既に何度となく映画の語ってきたところと記したのは、三十五年も前のことだし、タワーリング・インフェルノ』を再見してSNSにジェニファー・ジョーンズが、またよくて!とコメントしたり、未見のままだった『慕情を観て寡婦の女医ハン・スーインの浮世離れした舞い上がり方を演じたジェニファー・ジョーンズが達者だったと綴ったのは、もう四年も前になる。このDVDを借りたのは、それほど前ではない気がするものの、寄る年波からか借りた経緯を失念してしまった。観賞記録に残っていないことから、既見作なのかどうかを確かめたくなって借りたのかもしれない。

 不倫なる有夫子恋に身を焦がしたハワード・フォーブス夫人メアリー(ジェニファー・ジョーンズ)が駅で別れの電報まで綴りながら、彼女を「マリア、マリア」と呼ぶイタリア人教師のジョバンニ・ドリア(モンゴメリー・クリフト)が駅まで追って来ると、叔母好きの甥っ子少年ポール(リチャード・ベイマー)が気が知れない思いで心配するような揺らめきに右往左往する物語なのだが、彼女がジョニーと呼ぶジョバンニがポールの呆れるなんて男だとしか映って来ず、二枚目以外にまるで取柄がない気がして仕方がなかった。

 一ヶ月間の蜜月をいっさい映し出さずに、ニ十分後に出る19:00発ミラノ行きの列車を待ちながら、20:30発パリ行きに乗ることになる二時間足らずに対して時間を追って八十九分で写し取った作品で、まさに前年の真昼の決闘の趣向をなぞったような映画だ。

 メアリーとジョバンニの見境のなさは駄目男と駄目女ゆえではなく、知性も理性も備えている者から分別を奪う烈しい恋の熱情がもたらしたものとして描いているつもりなのだろうが、7歳の娘キャシーをアメリカに残して一ヶ月もローマで過ごし、歳の離れた夫にはない若さというか精力に引き摺られていたと思しきメアリーにしても、父は典型的なイタリア男でね、好き勝手に振舞って夜になるとカフェに行ってはカードをしてた。母は怒ってたよと言い私でも怒るわ。毎晩、家に置いてかれて待つだけなんて…と返されると縫物や料理をして僕を待つのが嫌なのか? この国じゃ男に逆らうと…ぶたれると言い放ち、あなたがぶつわけないわの声にもぶつさ、当たり前だ。心配するな、今夜はどこへも行かないなどと言うばかりか、反抗されて実際に彼女の頬を張り飛ばすジョバンニにしても、もともと駄目男と駄目女ではないかと思わずにいられなかった。

 互いに未練たらたらで列車が動き出しても降りられずに車掌に促されてようやく、加速しつつある車両から下車して転び、駅のホームで通りすがりの人物からケガは?と問われているジョバンニの姿で終わる本作はケガというよりも、火遊びによる火傷のほうを思わせる痛々しさのほうが印象深い。

 折しもふたりで終わらせる魚影の群れと女性に手を挙げる“根は悪くない”男の出てくる映画を続けて観たばかりでもあり、古今東西の不変と変化に思いを馳せることとなった。

 すると映友が、一足先に本作を再見した方の記事の投稿コメントで『哀愁』やら『逢いびき』やらメロドラマの話題になって、見てないなぁになって貸したんじゃなかったかな?と教えてくれた。また本作についても、観たのは三十年くらい前としながらジョーンズが、キスでリップがついたクリフトの唇を、そっと拭くシーンがあるでしょう?すごくエレガントで、印象に残っています。あれは女性が年上で、男性が青二才だから似つかわしいんですよね(笑)。「不倫もの」では、この作品とシモーヌ・シニョレの『年上の女』が好きです。とのコメントが寄せられていた。哀愁['40]こそ観ているが、『逢いびき』も『年上の女』も未見だと思うので、この機会に片付けたいと思った。

 興味深かったのが「あれは女性が年上で、男性が青二才」という三十年前の印象だった。調べてみたらジェニファー・ジョーンズとモンゴメリー・クリフトの生年は、1919年と1920年だから一歳しか違わない。'53年の本作への出演当時は三十路半ばで、最早若輩とは言い難い年齢なのだが、ジョバンニに青二才という印象が残るのは、その人物像の未成熟さが与える至極御尤もなことで、受けの側に回って引き摺られるメアリーが年上に感じられたのだろう。だが、あなたは若いわというメアリーの台詞の後に続くのは主人よりずっとであって「私」ではない。この台詞が出てくる場面に僕が感じたのは、上述したように「歳の離れた夫にはない若さというか精力に引き摺られていたと思しきメアリー」というフォーブス夫妻の閨房事情のほうだったから、意外に思うとともに大いに納得した。
by ヤマ

'24.12. 5. DVD観賞



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