『パリで一緒に』(Paris When It Sizzles)['63]
『お熱いのがお好き』(Some Like It Hot)['59]
監督 リチャード・クワイン
監督 ビリー・ワイルダー

 先に観た『パリで一緒に』は、アイデアは悪くないと思うのだが、こなれぬ運びと脚本のお粗末さで、オードリーの百面相というか、様々な顔と姿を見せるためだけの、なんじゃこりゃのおバカ映画になっていたような気がする。

 オープニングのリゾートホテルの空撮から捉えられる、プールサイドに寝そべった若い娘の背中(トップレスかと思わせながらそうではなかった)をカードゲームの記録メモに使いながら博打に現を抜かしつつ、傍らに立つ水着姿の秘書に口述筆記で新作映画に係る業務通信文を書き取らせている映画プロデューサーのアレックス・マイヤハイム(ノエル・カワード)の姿が端的に示していた、退廃的な豪奢に彩られたハリウッドと、そこでの成功に毒されたと思しき、放蕩シナリオライターのリチャード・ベンソン(ウィリアム・ホールデン)が、人生に倦み酒に溺れていた生活からの再生を果たすラヴストーリーだったわけだが、臨時雇用のタイピストであるガブリエル・シンプソン(オードリー・ヘプバーン)には、二人の出会いの場面での「暗示と推測」についての物言いなどで見せた利発と気丈が最初に出てきただけで、呆気なくリチャードの饒舌に心奪われる有様で、ギャビーことガブリエルを演じているのがオードリーであることのほかに、彼女がリックことリチャードの生き方を変えてしまうような女性像を造形できていないところが難点だと思う。

 最も失敗していると感じられた点は、ガブリエルが陶然と聞き惚れているリチャードの長口舌の、ユーモアの達人だとは、とても思えないグダグダ感だった。いささかうんざりさせられ、中盤がツラかった気がする。

 ディートリッヒの顔見せやシナトラの歌声が使われ、思い起こすだけでも、ティファニーで朝食をマイ・フェア・レディ甘い生活カサブランカ『死刑執行人もまた死す』、ドラキュラやフランケンシュタイン、狼男やらチャップリンなどの映画の数々を想起させる楽しいはずの作品が何とも勿体なかった。

 フランケンシュタインとマイフェアレディは、結末が違うだけで同じ映画だとかアメリカ映画でよく使う手だといって西部劇の酒場よろしく乱闘を始めて煙に巻く場面とか、ニンマリさせてくれるところはあったのだが、いささかオードリーに頼り過ぎていたような気がする。

 それにしても、オードリーの表情の見せ方は、劇中に現れた歌でも示されていたように本当に大したものだ。そのためにいろいろな場面を設えるという趣向の映画だったような気がする。無駄にキスしたまま移動するロングキスシーンまであって、飲んだくれホールデンの役得だと羨んだが、御年三十路半ばのオードリーが汚名['46]での三十路に入ったバーグマンの向こうを張る趣向だったのかもしれない。何度も繰り返すキスよりも、こちらのほうが長く感じられた気がする。

 聞くところによると、オリジナルはフランス映画ということらしい。それなら、なるほどハリウッドへの辛辣さも納得だと思ったが、同時に開幕場面がそのように映ることにすら鈍感な“これ見よがし”というものが当時のハリウッドにあってのリメイクだったような気がしなくもないような若い娘たちの侍らせ方でもあるように感じられた。


 同日に観た、禁酒法時代の暗黒街のカーチェイスで始まる『お熱いのがお好き』['59]を観賞するのは、三十八年前に地元の名画座で『熱いトタン屋根の猫』との二本立てで観て、本作のほうに大いに感心して以来のことだ。

 オードリーが上唇を上げると笑って見えると言われて変顔を見せたり、女たらしの中年シナリオライターに首を咬まれたりして奮闘していた『パリで一緒に』を観たばかりで、その時分のオードリーと同じ年頃のマリリンが、同じくトニー・カーティスと共演していたコメディを再見してみようと思ったのだった。カラー作品のような気がしていたのに、モノクロだったことに驚いた。

 『パリで一緒に』では、うそつき泥棒のリックを演じたウィリアム・ホールデンとオードリー・ヘプバーンのロングキスシーンに圧倒されたが、同作では袖にされていた元恋人役のトニー・カーティスが、本作では、うそつき楽士を演じてマリリンと実に熱っぽいロングキスを交わしていて、圧倒される。

 ビリー・ワイルダーによるコメディとしては、先ごろ観たばかりのあなただけ今晩は['63]が元々のミュージカル劇をストレートプレイにして失敗しているように感じられたのとは対照的に、ウクレレ弾きのシュガー・ケイことコワルチェクを演じるマリリンの歌や音楽が巧みに活かされていたように思う。主題歌I Wanna Be Loved By Youの目当ての男の姿を客席に探しながらの歌唱は、やはり好い。

 女装しダフネと名乗るベース弾き(ジャック・レモン)が、ダフネに求婚した大富豪オズグッド3世(ジョー・E・ブラウン)に男であることを明かした際に、オズグッド3世が完全な人間はいないと返して、ものともしなかった最後の台詞の笑える決まりようは、やはり鮮やかだと改めて思った。

 そして、マリリンの「It Hot」とオードリーの「It Sizzles」という、お熱いロングキス映画の組み合わせで再見することのできた妙味にほくそ笑んだ。




推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/2463899157042986/
by ヤマ

'23. 9.26. BSプレムアム録画
'23. 9.27. DVD観賞



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