『2046』['04]
監督 ウォン・カーウァイ

 二週間余り前に観ながらも、昨年、三十年ぶりに再見した『欲望の翼』['93]に始まる1960年代シリーズの未見だった3作目をようやく観ることが出来た。王家衛とは相性が悪くて、'04年の公開時にはもういいかと見送ったような覚えがある。 相変わらず気障ったらしく断片的で、女優を美しく映し出し、音楽に凝り、フォトジェニックな画面が、スタイリッシュで詩的な思わせぶりと共に、矢鱈とあざとい構成と編集で綴られる。でも、ゴダールよりかは好いかなぁ(笑)。 『LOVERS』当時のチャン・ツィイーが艶技を演じていて驚いた。それなら公開時に観ておけばよかったなと思ったりした。とSNSのメモにしただけだったのだが、確か公開時に、当時開設していた掲示板で何やら遣り取りをしていたことを思い出して探ってみると、「感想待ってます」と言われたままになっている過去ログがあった。

 観た以上、日誌にしておかなければと思ったのは、そのときの遣り取りがなかなか示唆に富んでいたからだ。返還後50年どころか、半分の二十五年を待たずして激変した香港事情に、当時の書き込みにあった50年と言うのは言葉のアヤで永遠という意味だとか50年終ったってそんな変わらないだろうといった文言が強く響いてきた。いま日本で徐に着実に進行している国家主義や武装拡大についても、同じようなことになってしまうのだろうか。ネトウヨあたりが言っているらしい“茹でガエル”とは真逆の意味でのそれを思わずにいられない。

 ルームナンバー“2046”のみならず、取って付けたように“2047”を提示していたのは、両方の数字を並べることで香港返還後五十年を示唆することへの気づきを促していたわけだ。

 2001年に観た山の郵便配達』の拙日誌に目を留めてメールをくれた、当時「my jazz life in Hong Kong」というサイト【現在は閉鎖】を開設していた kaoriさんには、一度だけお会いしたことがあるけれど、今はどうしておいでるのだろう。おそらく香港にはもう住んでいないのだろうな、などと思いながら、懐かしく読み返した。


2004年当時の掲示板談義
『2046』 投稿者:kaori 投稿日:11月 3日(水)23時50分36秒
ヤマさん
 ところで、今日、やっと『2046』を見てきました。あまり期待してなかったんですけど、個人的にはよかったです。『花様年華』のもう一つバージョンでもあり、続編でもあり、『欲望の翼』のもう一つバージョンでもあり、続編でもあります。ヤマさんはご覧になられるのですか? 苦手なら見られないのでしょうか? でも『欲望の翼』好きならちょっと気になるシーンがいくつかあるんですよ。

 しかし、2046が変わらない場所で、2047という小説を書いたら悲劇に終るって、香港人ってそーーんなに恐怖感持ってるのかなー、本当に? 今どきの若い人はなーーーんも思ってないでしょうけど、彼ぐらいの年の人はそうなのかなー? いくら香港に住んでいても外国人の私には実感がまるでないのですけど。『ブエノスアイレス』を見たときも、香港人としてのロマンを感じてしまいましたけど、これもやっぱり、香港人の映画なのでした。

 映画の内容はぜーーんぜん普通の恋愛で、香港なんて関係ないけど。だいたい2046がどういう数字なのかは、香港人じゃないと気づかないと思います。映画でそれが描かれているわけでももちろんないから。私も「変わらない」と言われてやっと気づきました、その数字の意味に。


『2046』どないしょ(笑) 投稿者:ヤマ 投稿日:11月 4日(木)21時29分9秒
kaoriさん、こんにちは。
 『2046』は日本の僻地でもちょうど今上映中ですが、観に行くつもりしてませんでした(あは)。でもね、2046の数字の意味とか教えてもらえれば、ちょっと興味が湧いてくるかもって思ったりもしてますよ(笑)。観たいのがちょっと立て込んできてるとこですが。


見てくださーい 投稿者:kaori 投稿日:11月 4日(木)23時02分9秒
ヤマさん
 ぜひ見てください。まあちょっと長いんですけどね。もうちょっとカットしろよ、とか思わないんでもないんですけどね。苦手なヤマさんがどういう感想を持つか興味シンシンです(笑)。それに、チャン・ツイイーがお好きなのではありませんでしたっけ? そしたら見ないわけにはいかないでしょー。あんなこともこんなこともやってる大人なツイイーちゃん(笑)。

 ところで、2046の数字の意味は、映画としてはぜーーんぜん描かれてもないし、関係ないんですよ(笑)。ただ、ホテルの部屋番号が2046。そして劇中SF小説の中で、「2046は変わらない場所だ」というフレーズが何度も出てくるんです。

 じゃあ、どうして2046が変わらないのか?

 香港が中国に返還されたとき、1国2制度で、香港はイギリス領の時のまま、50年は何も変わりませんよ、という条件なのをご存知ですよね? 1997年に返還されて、2046年はその50年の最後にあたる年です。

 50年後に、劇的に共産党に変わるとか考えにくいし、50年と言うのは言葉のアヤで永遠という意味だという説もあったりするし、外人の私からすると(そして多分若い世代の香港人)、50年終ったってそんな変わらないだろう、と思うのですが、香港人にとっては、やっぱり50年後の恐怖とかあるのかなー?と思います。でもあるからこそ、民主化のデモに50万人もの一般市民が参加するのかもしれません。だから、改めて2046と出されると、そうかやっぱり気になるのね、香港人。と思ってしまったわけです。

 そのSF小説のなかの、2046に行って帰ってきた者は誰もいない。俺を除いてとはキムタクのセリフですが、もしかすると現実の2046年の数年前には、また1997年の前みたいに移民ブームが起きて、香港をみんなが去ってしまうのかな? そして誰も香港に戻ってこない? とか思ってしまったりしました。


あ、そーか(納得)。 投稿者:ヤマ 投稿日:11月 5日(金)23時48分45秒
kaoriさん、こんにちは。
 そうですか、興味津々ですか(苦笑)。モンスター血と骨『シークレット・ウィンドウ』笑の大学『オールド・ボーイ』『キャット・ウーマン』『丹下左膳 百万両の壺』と今上映中の未見作品だけでも、これだけあるんで、あと一つくらい加えても、確かに大差ないかも、です(笑)。でも、全部観きれるんかいな?(笑)

 2046の意味、なるほど、そう言われれば確かにそういう計算になりますね。2046は変わらない場所だというフレーズが何度も出てくるなかで、どういうふうに使われているのか、それを観てきたいようにも思いました。でも、それって王家衛作品への臨み方としては、完全にソッポかもって気も(笑)。それよりは、大人なツィイーちゃんのほうが当てになってそうだな(笑)。


ええ!感想待ってますから(笑) 投稿者:kaori 投稿日:11月 8日(月)14時52分58秒
ヤマさん
 そんなに見たい作品があるんですねー? 私その中で知ってるの、『モンスター』『オールド・ボーイ』『キャット・ウーマン』だけです(笑)。キャットウーマンとオールドボーイ、もう終わってるし(笑)。『モンスター』はねえ、多分見ないような気がします、私は。

 >どういうふうに使われているのか、それを観てきたいようにも思いました。

 どういうふうにも使われていないのですけどね(笑)。やっぱり、2046と聞いて反応する香港人とその他の国の人とでは、その数字そのものに対する感覚が違うと思います。それだけですけど。映画の内容には関係ないので。ただ、私は、『ブエノスアイレス』にも、香港返還に対してのすっごいノスタルジーを感じました。

 そんな不安なのかなー?と。それで、エンドのクレジットタイトルが真っ赤だったので、やっぱりそうか!とも思ったんですけど、香港のその後とか香港の現在とか、映画には描かれてなくても彼が意識してるところはあるんだと思います。それが無意識(もしくは少しずつ故意的に)に出てくるんだと思います。
by ヤマ

'22.10. 3. あたご劇場



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