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『七年目の浮気』(The Seven Year Itch) | |||||
監督 ビリー・ワイルダー | |||||
この時、マリリン・モンローは、一体いくつなのだろう。役の上では22才だが・・・。十代の時分、TVで『帰らざる河』を観た記憶があるが、そう印象に残らなかったのに、スクリーンで初めてお眼に掛かったモンローは、こんな女性もいたのかと目を見張るほどに魅力に溢れ、これ一本で完全にイカレてしまった。彼女はセックス・シンボルと言われるが、いわゆるセクシーなだけではなく、実に表情が可愛らしく、この役どころの健康的で屈託のない明るさがぴったりとはまっている。後にあんな怪しげな死に方をしたのが信じがたいほどである。 それにしても、この三十年前の喜劇の何と上品で軽やかなことだろう。お色気たっぷりなのに、そこには微塵の生臭さもなく、喜劇といっても昨今のような毒や騒々しさや下劣さが全くない。とにかく気持ちよく観られる。こういうのをコメディーというのだろう。モンローが内気で気弱な妄想癖のある、極めて素朴で善良な、ちょいとパッとしないリチャードに「貴方って素敵よ」という時に「You are elegant !」って言うセリフがある。そのエレガントという言葉の響きがとても新鮮で、印象に残った。 とにもかくにも、リチャードの妄想と彼のモンローを前にしたうろたえぶりを半ば馬鹿にし、笑って見ている観客の前で、彼女一人が、しかも彼女のようなとびっきり魅力的な女性が彼の良さを認め、そう言ってくれるのだ。そして、口紅のついたシャツを見てもイチゴジャムだとしか思わないという彼の奥さんを嘆き、彼の唇に鮮やかに口紅の跡を残し、「これもイチゴジャムだなんて言うようなら・・・」と、避暑地の妻のもとへ出掛ける疲れた中年の男に味方百万騎もの自信を与え、彼ら夫婦の愛に活気を送り込む無邪気なプレゼントを贈るラストに至って、彼女は、ほとんど天使か女神のごとく見えてくるのだ。 | |||||
by ヤマ '85. 2.22. 県民文化ホール・グリーン | |||||
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