オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』
 (The Untold History of the United States)
制作:Showtime (アメリカ 2012年)


 シリーズ第1週
第1回 第二次大戦の惨禍(World War Two)
第2回 ルーズベルト、トルーマン、ウォレス(Roosevelt,Truman & Wallace)
第3回 原爆投下(The Bomb)
第4回 冷戦の構図(The Cold War 1945-1950)

 シリーズ第2週
第5回 アイゼンハワーと核兵器(Eisenhower,the Bomb & the Third World)
第6回 J.F.ケネディ ~全面核戦争の瀬戸際~(JFK: To the Brink)
第7回 ベトナム戦争 運命の暗転(Johnson,Nixon & Vietnam: Reversal of Fortune)

 シリーズ第3週
第8回 レーガンとゴルバチョフ(Reagan,Gorbachev & the Third World: Rise of the Right)
第9回 “唯一の超大国”アメリカ(Bush & Clinton: American Triumphalism)
第10回 テロの時代 ブッシュからオバマへ(Bush& Obama : Age of Terror)


 第1週として放送された4回を観て感心したのは、回を重ねるほどに面白くなったことだった。これを観ると、キャピタリズム マネーは踊るシッコを撮ったマイケル・ムーアがアメリカで共産主義者呼ばわりされる以上に、オリバー・ストーンは、そう言われているのではなかろうかという気がした。

 なにせ本作によれば、第二次大戦終結はアメリカの参戦による奏功だとアメリカは宣伝しているが、ヨーロッパ戦線で最も大きな犠牲を払い、ドイツを追い詰めたのはソ連による東部戦線での進攻であり、“史上最大の作戦”たるノルマンディー上陸作戦などではないわけだし、太平洋戦争において日本を無条件降伏させることに最も大きく作用したのも、ヤルタ会談に基づくソ連の対日参戦による満州国進攻であって、原爆投下などではなく、トルーマンの覇権欲からの蛮行爆撃をしなくても、日本は既に追い詰められていたというのだから、アメリカ主義の輩からは糾弾されるに違いない。

 だが、トルーマンの前にルーズベルト政権下で副大統領だったヘンリー・ウォレスが引き続き副大統領に就いていて、ルーズベルトを引き継いでいたら、戦争で儲けた産軍共同体による戦後アメリカの反共覇権主義はなかったろうということを、ウォレスやトルーマンの演説ほかの記録映像などから語るアメリカ史には、かなりの説得力があるように感じられた。ヤルタ会談でルーズベルトが約束していたソ連への利権保証を反故にして、世界に君臨する警察たるアメリカを打ち出したトルーマン・ドクトリンの背後には、産軍共同体による利権漁りがあったというのがオリバー・ストーンの言う“もうひとつのアメリカ史”であり、その利権の邪魔になるソ連を排除するがための“反共”であって、イデオロギー対立などではなかったというわけだ。トルーマンとは、どこか風貌も似通っているチェイニーが湾岸戦争やイラク戦争で巨額の利益を得ていたことを彷彿させていたように思う。ルーズベルト以上に理想主義的だったウォレスが後継者となっていたら、戦後世界は大きく異なり、国際連合による二大国協調路線が敷かれていた可能性を訴えていた。

 そして、ウォレスの庶民主義と対比させた、戦時特需利権による富裕層に支えられた人種差別主義者のトルーマンという図式における、日本に対する差別的な臨み方に対する批判の急先鋒ぶりは、当の日本人以上で、さすがはJFKのエンドクレジットに“内助の功”として妻の名前を出していただけのことはあると思った。


 シリーズ第2週では、ノーム・チョムスキーが“ならず者国家”と評するようになるアメリカの戦後世界での他国への介入が、時代を下るにつれ、第三世界からの収奪という経済目的による軍産複合体維持に傾いていく姿を鮮やかに浮かび上がらせていた。共和・民主という二大政党によって政治が動いているかのように見られがちなアメリカについて、対共産主義、対第三世界という真にグローバルな視点で臨む“現代史としての視座”にいっさいぶれがないところに、感心させられた。アメリカが軍産複合体のために、近代化や民主主義を謳いながら地元の経済を搾取してきたというのは、間違いのないところで、朝鮮半島や東南アジア、ベトナムなどの東アジアで展開していたとき以上に、中南米や西南アジアに介入していくなかで、ますます顕著になってきているように思っていたので、本作を観て共感しきりだった。

 また、権力者の側にいる者すべてを敵視するような安直な反体制とは一線を画して、党派色を排して是々非々で臨んでいる。第一週の4回ではルーズベルトやウォレスなどが評価されていたように、第2週の3回ではケネディの罪を罪としながらもその後の方針転換を評価したり、マクナマランの非道な政策展開を指摘しつつも、その後の変心や晩年の悔恨にも触れていた。何年か前に都会の映画館でチラシを入手し気になりながらも、当地で上映されることなく観逃している『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』['03]を観てみたくなった。

 それにしても、CIAの暗躍とアメリカ国内での暗殺事件の頻発した'60年代の緊迫した危機感には、やたらテロ、テロとメディアが不安を掻き立て、恐怖心さえ呼び起こしているように映る現在のアメリカ以上のものがあるように感じた。社会心理を醸成するものが何であるのかを考えるうえでも、非常に興味深いシリーズになっているのは、豊富に挿入されるニューズ画像や映画・TVドラマの場面映像のもたらす効果だと改めて思った。「歴史は記憶にとどめなければ、教訓になりません」との言葉にはとても重いものがあるのだが、どんどん風化し拡散していっているような気がする。

 この第2週を観ると、ジョンソン大統領はトルーマン大統領以上にろくでなしだという気がしてくる。ニクソンにもかなり辛辣な目が向けられているように感じられたが、どうやら史上最悪大統領はレーガンだというのが作り手の観方のようだ。第3週の3回に登場してくるはずのカーター大統領がどのように評されているのかが楽しみになってきた。


 第2週までで史上最悪大統領はレーガンだとしていたのは、“史上”であって現在形ではないからだということが、第3週を観てよく判った。今世紀に入り「変革」を唱えて画期的な当選を果たしたオバマさえも絡め取るだけの強固な軍産複合体を、愛国者法の制定とともに強大な国権として乱暴に確立させていたブッシュ政権は、未だ“史上”にはできない現実だという認識のようだ。

 ベトナム戦争に並ぶ汚点としてアメリカ史に刻まれることになるであろう中東政策において、でっち上げのイラク進攻の中心人物であった、アメリカの軍産複合体を体現する人物ラムズフェルドが、第3週では最も批判的に告発されていたような気がする。そして、カーター政権時のタカ派として批判的に捉えられていた国家安全保障問題担当大統領補佐官ブレジンスキーさえもが危惧するようになっていたブッシュ政権のひどさについて、数々の記録映像と音声によって、的確な炙り出しをしているように感じた。

 結局のところ、保守の共和党であろうが、リベラルとされる民主党であろうが、ひとたび政権担当者になると、外交面では戦後アメリカ主義すなわちタカ派帝国主義の呪縛から逃れられなくて、カーターやオバマさえも外交戦略を変えられずに、わずかに勇気ある方向転換を試みようとしたケネディは暗殺されたというふうに総括しているような気がした。日本において、自民党が政権を担当しようが下野しようが、対米追従を変えられないのと同じことのようだ。

 史上最悪大統領のレーガンを目指し、それ以上の悪行をなしたブッシュではなく、ゴアが大統領になっていた場合の可能性について少し言及されていたが、歴代大統領のなしえなかった偉業を彼が成し得たようには思えない。党派を超えた強固な呪縛が戦後アメリカにはあるような気がする。

 そういう意味での体制変革の難題さから言って、オリバー・ストーンが現代史の偉人としてソ連の覇権主義と東西対抗に終止符を打とうとしたゴルバチョフを挙げていることに、大いに共感を覚えた。彼の英断によるグラスノスチとペレストロイカが結果的には、ソ連崩壊を招いたように思うが、それは決して世間で言われるような共産主義の敗北と資本主義の勝利などではないと僕は思っている。二十年前に求められて寄稿した『今 私が思うこと「ソ連邦崩壊」』でもそのことに触れているが、オリバー・ストーンとは史観的に共鳴する部分が非常に多いように感じられた。最も強く重なる部分は、反軍事主義だ。僕は、ベトナム戦争に出征した彼のように戦争体験があるわけではないが、軍事費に投入する資本を極小化し、民生費に投じるべきだと思っている。だから、昨今のグローバル化の名のもとのアメリカ化ということについて、強欲資本主義の部分もさることながら、アメリカ的な国防称揚に対して強い懸念を抱いている。当のアメリカでのオリバー・ストーンの危機感に対して、大いに賛同を覚えるとともに、深夜枠とはいえ、NHKで繰り返し再放送されていることに強い支持を表明したいと思った。




【追記】'24. 3. 1.
 NHKプラスで、映像の世紀バタフライエフェクト「CIA 世界を変えた秘密工作を視聴した。上記日誌で言及している、二十一年前に観たチョムスキー 9.11 Power and Terrorにも出ていたノーム・チョムスキーが「ならず者国家」と呼ぶアメリカをまさに象徴していると言えるCIAを捉えて、非常によくまとまった番組だと思った。1947年に「中央情報局」として2000人体制で発足したCIAの前身であるOSS(戦略情報局)のスパイ訓練を観たのは、初めてのような気がする。スパイの顔が判ってはいけないからとマスクを着用した訓練光景だった。
 CIAの仕掛けた代表的な工作として取り上げられていた、石油利権を狙ったイランの王政復古、反ソを煽っておいて梯子を外したハンガリー動乱、国民が支持していたチリのサルバトル=アジェンデ大統領を反共の名の元で自殺に追い込んだ軍事クーデターなどを観ながら、改めて酷いものだとの思いを強くした。人物としてのならず者をとりわけ感じさせたのは、CIAを発足させたトルーマン大統領、第5代長官アレン・ダレス、新自由主義の提唱者でもあるミルトン・フリードマンだった。
 
by ヤマ

'13. 4. 8~ 8.21. NHK衛星放送“BS世界のドキュメンタリー”



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