美しい六十代


塀からはみ出た サルスベリ 揺れていた

細くなった 蝉の声

自転車こげば Tシャツのすそから

入ってくる秋風も また旅人 

もう 立秋

恋心 (ほむら)となって 夏草焦がした

くすぶる中 見つめていた いとしい(ひと)の背中

行ってしまうのね 抱きしめていたい夏

美しい六十代 我も旅人





道端ゆかしく エノコロ草 揺れていた

そっと啼いた こうろぎ

栗のイガ落ちて 踏まぬように歩いた

去っていく夏風も また旅人

もう 立秋



繰り返し





美しい六十代 我も旅人

あの山の涯てに あの空の涯てに

いずれ住まう我

ああ 今 この旅路の

何と光り輝いていることか

美しい 六十代