▲建設の進むLCAC 新駐機場。盛土は埋め立てた地盤を早く固めるための「重し」
西海市の米海軍横瀬貯油所の制限水域の一画を埋め立て、12隻のLCACを整備できる本格的な駐機場の建設が行われています。計画段階では約100億円だった建設費が、いまや約280億円に膨れ上がっています。完成は2012年3月の予定。
LCACは海兵隊といっしょに、敵国の海岸線に殴り込み上陸作戦を敢行するために使用されるものです。完全な水陸両用で、世界の海岸線の70%以上に展開できるといわれています。典型的な任務は、機器、部隊、補給物資の海岸や内陸への高速輸送で、揚陸作戦が成功するか否かの鍵を握っています。そのため乗組員には高度な運航技術が求められ、「操縦感覚」の維持と船体整備が不可欠となっています。
新駐機場整備の名目は、高速航行するLCACの騒音・潮害の回避でした。佐世保市は再三、運用中止を求めました。しかし米軍は住民の切実な要求を逆手にとり、「思いやり予算」を使わせて使い勝手のよい施設を獲得したのです。米軍は現在の崎辺地区の駐機場に対し次のような不満を持っていました。
運行が火曜・木曜の各3時間に限定▽佐世保市が騒音測定▽夜間運行の禁止▽格納庫や屋根付施設がない▽乗員の力量、熟練度の維持が困難▽高度な修理、悪天候での修理が不可
4月15日、日米合同委員会はLCAC駐機場の施設整備計画について合意しました。建物は19棟、延べ6,800m2にのぼります。2,400m2の整備用格納庫の他、工場、倉庫、管理棟。塩分を洗い流す洗機場、変電・受電所、給油所、そして遮音壁。本格施設の稼働で、航行以外は自由に運用できることになります。
現在、LCACの配備数は7隻ですが、佐世保の揚陸艦搭載可能数は、エセックス3,トーテュガ4,ハーパーズ・フェリー2,デンバー1の計10隻。デンバーは近いうちに新型揚陸艦に交代するのは必然で計11隻になります。12隻分の駐機スペースは、1隻の予備を含めて将来の「フル稼働」を見越したものと考えられます。このとき佐世保には太平洋に配備されているLCACの1/3が集中することになり、ますます前進基地としての機能が強化されます。
4 月6 日、米オバマ政権は今後の核兵器政策の方向性を示す「核態勢の見直し」(NPR) を発表しました。
しかし1 年前に大統領自身が表明した「核兵器のない世界」へのプロセスが全く見えないものです。
今回のNPR は核テロと核拡散の防止を核政策の第一課題として位置づけています。また安全保障上の核の役割の縮小し、強化された通常戦力と少ない核戦力で抑止力を維持するとしています。そして核兵器を効率的に維持し、同盟国への抑止力を保証すると述べています。
前回のブッシュ政権のNPR02と比較をして何が変わり何が変わらないのか見ていきます。
NPR02は、核兵器使用の垣根を低くし、通常兵器で事態打開ができなければ核兵器を使うという、核・通常の「統合」を打ち出しました。
今回のNPRでは「現時点では核攻撃を抑止することが核兵器の唯一の目的であるという一般的政策は採らない」とし、通常兵器による攻撃に対する核兵器の使用を否定していません。それでも「通常兵器による攻撃を抑止するために通常戦力を強化し、核兵器の役割を減らしていく」とし、また核兵器使用は「合衆国や同盟国や友好国の死活的な利益を守るという極限状態」に限定するとしています。
NPR02では1978 年以来の「非核国には先制核攻撃せず」という国際公約を破棄。核攻撃の対象としてロシア、中国の他に北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアを名指しました。
今回は、「NPT に加盟し、核不拡散の義務を遵守する非核国に対し、核兵器の使用や威嚇はしない」と宣言。しかし、北朝鮮とイランは「核の野望」を追求していると非難し、核攻撃の対象としています。その一方、明らかな核保有国であるインド、パキスタン、イスラエルには全く言及がありません。
NPR02は、今後の核戦力近代化を掲げました。2020 年までに新型大陸間弾道ミサイル開発、30 年までに新型戦略原潜の開発、40 年までに新型戦略爆撃機の開発。
今回のNPR も戦略核の強化を明言しています。大陸間弾道ミサイル弾頭の延命研究の開始。2017 年までに戦略原潜のミサイル弾頭の延命を完了。2027 年までに新型戦略原潜を開発。B-52戦略爆撃機は通常任務のみに変更。2015年までにB-2 戦略爆撃機を改良。
一方、戦術核については、トマホークは退役、B-61 核爆弾は2017 年から延命措置を実施。開発中のF-35 戦闘機にB-61 の搭載能力を付加。
NPR02は先制核攻撃を保証するために「ミサイル防衛」の開発・配備を大きな柱のひとつにしました。
今回のNPRにも「ミサイル防衛」は頻出。その「抑止力」によって核兵器の役割は減らせると強調しています。
NPR02は核兵器の維持や開発のために、将来、核実験が必要になるとし、核兵器関連の基盤重視を掲げました。
今回のNPR では新型核弾頭の開発や核実験をせずに抑止力を維持できるとしています。しかし核兵器の信頼性の維持のためには施設の近代化が重要で、2021 年までにロスアラモス化学冶金研究所の建て替え、オークリッジに新型ウラン濃縮施設建設などをあげています。
▲完成間近の広大な米軍専用岸壁
弓張岳の眼下に広がる米海軍佐世保基地。その一画に520mの新岸壁がまもなく完成します。佐世保の基幹企業である佐世保重工業(SSK)と米軍の「岸壁競合」を避けることを口実に、200億円以上の予算が投入されました。
隣にある四角い凹型“池”は立神係船池(インディア・ベイスン)で、旧日本海軍が日露戦争後に建設を着工し、1918年に竣工したもの。横幅576m、縦幅365mの広さがあり、当時の最先端の技術が駆使されました。
戦後は米軍が接収し、9つある岸壁のうち第1~第6は日米地位協定第二条4項(a)の共同使用施設で米軍側に優先権があります。現在、SSKが一時使用を認められているのは第4・第5岸壁のみで、年間約5,000万円の使用料を支払っています。
1992年の強襲揚陸艦ベローウッド配備以降、SSKと米軍の間で岸壁使用をめぐる競合問題が激化。SSKは米軍の都合で何度も追い立てにあい、船舶の移動に伴う曳船費用、動力設備費、遊休時間などで大きな損益を受けてきました。
日本政府は米軍とSSKの「すみ分け」をはかるため、隣のジュリエット・ベイスンの一画を埋め立てて長さ520mの米軍専用岸壁を建設することを決定。しかしこれはもともと米軍のマスタープランに描かれていたものでした。米軍は横暴を通すことで専用岸壁を手に入れることになりました。投入された「思いやり」予算は実に218億円。
新岸壁完成後、立神係船池内の143m+362mの岸壁がSSK専用となります。新岸壁は“長さ”こそ従前と同じ規模ですが、広さは返還する土地の12倍の5.7haとなります。受電システムや通信設備も整備され、とりわけ520mの“直線岸壁”はこれまでの“L字型”に比べてその利便性は飛躍的に向上します。
そして広大な土地には今後、様々な施設を建設することが可能となります。
オバマ政権下初の「4年ごとの国防計画見直し」
2月1日、オバマ政権下で初めてとなる「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)が発表されました。基本的な方向はブッシュ時代から「ノーチェンジ」です。
10年度版QDRはその目的を「現在の戦争を勝利するための軍事力バランスの変更と戦闘に必要なニーズ支援のための国防総省の機構改革」としています。
そして米国が冷戦崩壊後から採用してきた2つの大規模紛争に同時に対処する「二正面作戦」の原則を維持しながらも、軸足を核拡散やテロへの対応に移すことをより明確にしています。
06年版QDRでは「テロとの戦争」を「長期戦争」と位置づけ、前者に20回、後者に29回も言及していました。しかし今回は両者の言葉とも全く使われていません。「長期戦争」という言葉は冷戦時代の思考そのもので、ブッシュ時代との決別の現れと思われます。替わって「対テロ作戦」という言葉が随所で使われています。テロへの対応は何も変わっていない。
国家の権益を守り拡大させるために4項目の戦略的優先事項を設けています。
これまで以上に同盟国や海外基地の重視を謳っています。
「安定と平和を維持するために鍵となる同盟国や友好国との共同を強めなければ合衆国が最強の関与者ではいられなくなる」「前方展開及びローテーション配備される部隊は今後とも意義があり必要である」「同盟国や友好国のためには海外での恒久的駐留が必要だが、緊急事態等に対応する柔軟な能力とのバランスも必要」
特に「既存の軍事同盟を維持し、新たなパートナーシップを作り上げることは米国防戦略の中心要素である」と明言しています。
QDRは日米同盟と米韓同盟について「米軍のアジア駐留の基礎」であり、60年以上の平和と安定をもたらしたとしています。
北東アジアでは、日本や韓国と緊密に協力して「二国間、地域的、地球規模の包括的同盟の構築」「兵力の再編」「同盟内の役割と能力の再構築」「集団的抑止と防衛能力の強化」に努めるとしました。そして特に日本と韓国へは(核による)拡大抑止を提供し、地域安定を維持するために駐留を続けるとしています。
また普天間基地の「移設」などを含む「再編ロードマップ合意」は「日本への長期駐留を保証し、グアムを地域における軍事活動のハブ(中軸)にする」ものと位置づけ「日本政府と、引き続き実行を果たしていく」としています。
▲海自大村航空基地の滑走路
迷走する鳩山政権の普天間の「移設」探し。いま「長崎案」が急浮上しています。
発端は昨年12月25 日号の週刊朝日でした。「鳩山首相× 小沢幹事長 密談スッパ抜き 普天間移設『長崎案』急浮上」のタイトルで3頁の記事が載りました。記事は、臨時国会終了後の12月4日に行われた非公式の小沢・鳩山会談で、小沢氏が普天間移設案として「海自大村航空基地」を進言したというのです。その理由として「今も米軍ヘリに基地の施設を貸しているし、米海軍佐世保基地にいちばん近いから米軍も異存はないはず」と述べています。
1月5日、連立を組む国民新党の下地幹郎政調会長は、記者会見で海自大村航空基地など県外に移設する案を示しました。
そして毎日新聞と琉球新報が、1月5日に開かれた、鳩山首相の私的勉強会である「国家ビジョン研究会」で孫崎享・元外務省国際情報局長が「長崎案」を普天間移設案の一例として提示したことを報道しました。それは海兵隊のヘリ部隊を海自大村基地に移転させ、歩兵部隊は佐世保の陸自相浦駐屯地へ、さらに陸自の連隊をキャンプ・シュワブに配置させるというもの。この案に鳩山首相は「非常に先見性のある外交方針で感銘を受けた」と述べたといいます。
1月14日、国民新党の下地氏が大村航空基地を視察し、大村市長と会談を行いました。
国民新党が政府の沖縄基地問題検討委員会に提示を検討しているのは、嘉手納基地のF15戦闘機を米軍三沢基地に移駐した上での嘉手納統合案といいます。そして騒音負担を軽減するために海兵隊訓練につて(1) 嘉手納基地の外来機訓練を関西空港に移転、(2) 普天間ヘリ部隊の訓練の一部を陸自日出生台演習場(大分県)に移転、(3) 訓練期間中のヘリの駐機場として海自大村航空基地を利用、(4) 日出生台で訓練後、米海軍佐世保基地の強襲揚陸艦に乗り込んで海外演習に参加するというもの。
松本崇・大村市長は「基地機能移転は絶対反対」と言いながらも、「訓練の一時受け入れならば、正式な政府案となった段階で議会や市民と話し合う必要がある」と態度を保留しました。
いま大村航空基地では大村湾の一部を埋め立てて1・3倍に拡張する計画と滑走路の防衛省への移管計画が進行中です。現在、滑走路と航空管制は国土交通省の管轄ですが、名実ともに自衛隊基地となれば軍事一体化で米軍も利用する危険な状態に道を開くことになります。これが普天間のヘリ部隊受け入れ案に利用された感もあります。
現在でさえ海自の哨戒ヘリの訓練時の騒音が周辺住民を悩ませています(そもそも滑走路の防衛省移管問題は騒音対策への補償金捻出のために持ち出された)。これが米軍ヘリとなったら想像を絶するものとなるでしょう。隣り合わせの長崎空港へ与える影響も計り知れません。
名護市長選は移設反対候補が勝利しました。「県内」候補地とされた嘉手納町、伊江島、下地島でも大きな反対の声が上がっています。いかなる「長崎案」もきっぱりと拒否して、基地のたらい回しを許さず、撤去させる世論を大きくしましょう。