11月20 日、米海軍省グアム統合計画室は、沖縄からの米海兵隊移転などを含むグアム基地増強計画に関する環境影響評価書の素案を公表しました。これを元にマスタープランが策定されることになります。 建設費用は2016年までに 120億ドル。前政権下で日本 の負担額は60・9億ドルと合意 されています。
この増強計画の中心は、(1) 沖縄から移転する海兵隊のための施設とインフラ整備、(2) 原子力空母の中継拠点のための新岸壁の建設、 (3) 陸軍ミサイル防衛部隊創設のための施設とインフラ整備。
沖縄からは「普天間代替」施設建設とリンク させて海兵隊8552 人とその家族約9000 人を 移転させる計画です。海兵隊のための施設 て、アプラ軍港に強襲揚陸艦部隊用の岸壁整備 とLCAC 駐機場の建設をあげています。揚陸艦 3隻、その戦闘支援部隊としてイージス艦4隻 を想定。アプラ軍港には攻撃型原潜が配備済で、 事実上の「遠征打撃群」の基地整備となります。 LCAC 駐機場は約4.3ha(西海市に建設中の約 1/3)の広さで4 隻を駐機。管理やメンテナン スのための4施設や洗機場も建設。
2006 年の国防見直しでは、西太平洋で空母打撃群を効率的に展開できるような再編を提起しました。それは単なる一時的な寄港地ではな く、艦船のメンテナンスや乗員の長期滞在を可能とする「中継港」の建設でした。計画では年間63 日の滞在(3 週間×3 回)を想定した岸壁 や施設づくりが行われます。
弾道ミサイルからの「防衛」 用として空軍基地に、2015 年までにTHAAD(サード:高高度地 域防衛)システムとPAC3 システム等を配備。米陸軍は 2014・15 会計年度に2 億4 千万ドルを用意しています。 人員は軍人・軍属756 人、家族950 人。長距離ミサイル対 応のTHHAD の発射機は3基、 短距離用のPAC3は6基。(しかしグアムの周囲1000km 内には何もありません!)
これらは沖縄の「負担軽減」 を口実に、西太平洋に強大な軍事拠点を一挙に作り上げることに他なりません。外国の基地が 国外へ移転するにあたり、財政支援をおこなっ た例は世界にありません。戦後64 年、米軍基 地をまだ置き続けるのかも問われています。
またこの計画では、佐世保の強襲揚陸艦部隊 の基地機能をグアムにも合わせ持つことになり ます。財政の厳しい中、「仕分け」すれば「廃止」 の対象でしょう。
12 月に入ってついに鳩山首相は沖縄県民の 声に押されて「普天間機能のグアム移転」を選 択肢の一つと口にしました。日本防衛に無関係の基地はこぞって国外に「仕分け」願いたい。
※ 素案は8100 頁もありますが、全文をウェ ブサイトから入手できます。施設などの候補 地を数ヶ所あげ、約2ヶ月間、住民意見を受け付けるとしています。この点は、防衛省が 「普天間代替」施設の環境影響評価で、全文 公開を沖縄県内5ヶ所、ウェブ上では要約のみ、期間は30日だったこととは大違いです。
「みょうこう」から発射されるSM3(ミサイル防衛庁ホームページ)
実証済みで対費用効果の高い技術に限って「ミサイル防衛」の推進を掲げるオバマ政権。その主体はSM3にシフトすることが明確になっています。実証済みにはほど遠いSM3ですが、ますます日米一体化に拍車がかかろうとしています。
10月28日、「ミサイル防衛」用に改造されたイージ護衛艦「みょうこう」のSM3発射試験が、天候の関係で予定より1日早く行われ、標的ミサイルを迎撃したと報じられました。
JFTM-3(コードネーム:Stellar Raicho)と名付けられたテストでは、午後1時(日本時間)にハワイ・カウアイ島のミサイル評価施設から標的ミサイルが発射され、「みょうこう」のイージス・システムがこれを探知・追跡し、1時4分に1発のSM3ブロック1Aを発射しました。SM3はその約3分後に太平洋上空約160kmで標的を迎撃したといいます。標的は中距離弾道ミサイルで弾頭が分離されました。「みょうこう」はハワイでSM3を搭載して帰国する予定です。
一方、米海軍の巡洋艦レイク・エリーと駆逐艦ポール・ハミルトンも標的を探査・追跡し、迎撃シミュレーションを実施しました。 「みょうこう」は今年2月から5月にかけて三菱長崎造船所で改造工事が行われました。改造費用は約235億円(8発のSM3を含む)、試験費用は約67億円(1発のSM3を含む)。
長崎港で改造工事中の「みょうこう」
▲針尾弾薬庫:奥の入り江を埋め立てて前畑弾薬庫の地上覆土式弾薬庫を移設。
中央の丘陵部にはトンネル式弾薬庫を移設し、手前には埠頭を建設する計画。
先の総選挙で、大企業優先で国民生活を破壊し、日米軍事同盟を強化して平和と憲法を脅かしてきた自公政治が退場することになりました。しかし防衛省は世界の流れにも逆行し、9年ぶりに前年度比プラス(しかも3%)とする概算要求を提出しました。
2010年度の概算要求のうち佐世保における米軍「すみ分け」事業には次の約87億円が盛り込こまれました。
長さ520mの米軍専用岸壁はすでに200億円以上の予算措置が終了しており、11年3月末には完成となります。
LCAC新駐機場(写真下)の建設費は10・11年度分で、これが最後の予算要求。認められれば13年3月末には完成し、総額は当初予定の2・5倍の250億円を超えます。
また佐世保弾薬補給所(前畑弾薬庫)の機能を針尾弾薬庫に集約・近代化する計画については10・11年度にわたる基本設計費を要求しています。これは埋め立て地に建設する地上覆土式弾薬庫の位置を検討し、10年度に終わる新施設の安全性調査(弾薬庫の安全確保に必要な距離を調べる爆破試験など)を踏まえ、トンネル式と覆土式の両弾薬庫の全体配置を決めるというもの。
地元漁業や自治会など関係10団体が移設に「合意」したことで計画は大きく動き出そうとしていますが、日米合同委員会での正式合意はまだです。この計画の総経費は1000億円を超えると見積もられています。しかし外国軍隊の弾薬庫近代化に税金を投入するなど前代未聞のことです。しかも米軍は、弾薬庫とは全く無関係の家族住宅の建設も前畑弾薬庫の返還の条件としています。
新しい連立政権は「税金のムダづかいを一掃し」、10年度予算の抜本的な組み替えと、「緊密で対等な日米関係」「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向」を確認しています。これを現実のものとするためにも、住民要求に沿って前畑弾薬庫の即時返還と、針尾弾薬庫増強計画の撤回を求める運動を盛り上げていく必要があります。
年度 | 専用岸壁 | 新駐機場 | 弾薬庫近代化 |
1999 | 0.07 | 0.08 | |
2000 | 0.36 | 1.56 | 0.15 |
2001 | 1.80 | 1.73 | 0.25 |
2002 | 0.62 | 2.14 | 0.84 |
2003 | 49.00 | 6.36 | 0.54 |
2004 | 42.00 | 17.18 | 0.86 |
2005 | 30.00 | 42.00 | 0.65 |
2006 | 26.38 | 30.33 | 0.65 |
2007 | 33.41 | 26.97 | 0.38 |
2008 | 4.05 | 26.59 | 4.49 |
2009 | 30.15 | 38.93 | 0.45 |
計 | 217.84 | 193.79 | 12.34 |
▲佐世保に到着した米掃海艦ディフェンダー(米海軍ホームページ)
オバマ政権による初の「4年ごとの国防戦略見直し」は10年2月にまとめられる予定ですが、海外基地に対する新たな戦略ーー(1)永続的な基地の増設、(2)海外駐留部隊のローテーション化、(3)機動的な部隊の強化、を盛り込むといわれています。これは最近の「同盟変革」(在日米軍再編)の流れを固定化し、強化するものにほかならず、佐世保基地ではいっそう「永続的な基地」機能が強化される危険があります。
6月3日、米掃海艦ディフェンダーが米海上輸送司令部の貨物船に搭載されて佐世保基地に到着しました。同アベンジャーも7月8日に到着し、2隻とも西太平洋に配備されると米海軍ホームページでは報道しています。
米海軍は14隻の掃海艦を保有し、2隻が佐世保に、2隻が中東バーレーンに配備されています。他の10隻は司令部のある米テキサス州イングルサイド海軍基地においていました。
しかしイングルサイドは米軍のBRAC (基地再配置と閉鎖)2005計画で10年9月末までに閉鎖されることになり、米掃海艦はカリフォルニア州サンディエゴ海軍基地に移されていました。
今回の2隻が佐世保を母港とするかどうかは情報がまだありませんが、佐世保の現地司令部(第11掃海部隊分遣隊)指揮下に入るので、基地機能は間違いなく強化されます。
▲佐世保に寄港した米ドック型揚陸輸送艦ニューオーリンズ(米海軍ホームページ)
7月8日、米ドック型揚陸輸送艦ニューオーリンズが佐世保に寄港しました。レーダーに捉えられにくいステルス設計が施された最新鋭のサン・アントニオ級揚陸艦の2番艦です。
報道では、ニューオーリンズは母港の米サンディエゴに戻る途中で寄港したもので、佐世保のLCACを1隻、交換するとしています。
現在、佐世保配備の揚陸輸送艦デンバーは就役後40年を過ぎた老朽艦で、サン・アントニオ級と交代するのは時間の問題です。今回の寄港もそれに向けた第一歩とも考えられます。
▲海自庵崎貯油所の燃料タンクと補給施設
米海軍庵崎貯油所は自衛隊が共同利用している貯油所です。ここの岸壁は補給艦への燃料搭載専用岸壁でした。護衛艦は港内では海自油船から間接的に燃料の補給を受けていました。
しかし6月10日、初めて「護衛艦くらま」が庵崎貯油所に接岸して直接、燃料を搭載しました。今後、「ひゅうが」など大型護衛艦が配備された場合、また緊急出港の際には、庵崎貯油所を活用した迅速な対応が可能となります。
▲佐世保市への検疫強化の申し入れ(4月30日)
メキシコを「震源地」とする新型インフルエンザの感染が世界中に広がっています。日本でも「感染症の予防及び感染症の患者に対する法律」や検疫法に基づいて、「水際」でのウイルス侵入に全力を挙げています。その中で、帰国した日本人への感染が確認されました。
しかし、いくら民間空港や船舶の検疫を強化しても米軍関係者にはそれが適用されません。日米地位協定で出入国に国内法が適用されないため、日本の検疫を受けずに出入国できることになっているからです。米兵と軍属及びその家族の数でさえ、日本政府はリアルタイムに把握することはできないのです。
世界保健機関が世界的流行の警戒水準を「5」に引き上げた4月30日、佐世保平和委員会と原水協は佐世保市に対して、市民の安全を守るために米軍関係者の検疫強化を要請しました。
山下千秋さん(佐世保原水協理事長)は、「国が水際作戦を強化しているときに、米兵が検疫なしで入国するとなれば、佐世保から新型ウイルスが侵入する可能性がある」と強調し、(1)米軍関係者も水際対策の対象とすること、(2)地位協定第9条に、検疫については国内法を適用することを明記するよう改定を政府に求めることを要請しました。
末竹健志副市長が応対し、「1996年の日米合同委員会の取り決めで米軍関係者には米軍の法律に基づく検疫措置がとられる」と述べ、米軍からは「新型ウイルスに対しては米国本土と同じ措置をとる」という回答があったこと、市基地政策局と佐世保基地広報官の間で連絡態勢を整えたことを明らかにしました。また米軍基地を抱える知事連絡協議会で、検疫に対する国内法の適用を政府に要望していると述べました。
1996年の「人、動物及び植物の検疫に関する合意」では、植物に関しては「合衆国軍隊と日本国政府の権限ある者とが共同して行」うことを定めました。しかし人間の検疫に関しては基地内では「合衆国軍隊の医官は必要なときには、……検疫措置を行う」としています。また民間港・空港では、米軍医官が必要なしと判断すれば日本の検疫を受けずに済みます。
しかも米軍医官は入港艦船と事前に無線で連絡を取り、異常がなければ検査をしないのが日常(長崎新聞5月8日付)のようで、日本の民間空港で行なっているような強制検疫が実施されなければ意味がありません。
ドイツでは検疫に関して、「人間、動物及び植物の伝染病の予防及び駆除並びに植物の害虫の繁殖の予防及び駆除に関するドイツの法規と手続は、軍隊と軍属に適用される」と地位協定に明記しています。(ドイツにおけるNATO軍地位協定の補足協定第54条)
そもそもドイツでは基地の使用について、別段の規定がある場合を除き、国内法を原則適用することが明記されています。日本では逆に米軍の行動を特別に保障する例外規定を設け、それでも米軍は国内法を無視するといった由々しき事態になっています。
日本の主権と国民の安全を守るために日米地位協定の改定は待ったなしです。