PEACE TOPICS

『平和新聞ながさき版』不定期掲載

【2016年9月25日】

ようやく返還された米軍対馬通信所

 長崎県から米軍基地が一つなくなった−今年7月、対馬市の米軍対馬通信所が3月31日付で日本に返還されていたことが報道されました。福岡と佐賀の県境にある米軍背振山通信施設も同日付で返還されています。効力を持つ防衛省告示は7月15日。これによって県内の米軍専用基地は10(佐世保市9,西海市1)となりました。
 対馬通信所はマイクロ波による地対地通信を行う米空軍の通信基地で用地は1948年に米軍に接収されました。2つずつ同じ方向を向く4つのパラボラアンテナがあり、その右2つは佐賀県背振山の方向を、左2つは韓国の蔚山の方向を向いています。在日米軍のマイクロ波通信幹線は米第5空軍司令部のある横田基地と沖縄の嘉手納基地を結ぶ沖縄ルートと、途中の背振山(佐賀)から対馬通信所を経由する韓国ルートに分かれていました。このうち沖縄ルートは通信システムの変更などで1990年代にすでに廃止され、いくつかの中継基地は返還されました。

 2001年になって対馬通信所の看板が撤去されていることがわかりました。情報開示請求で入手した資料によると対馬通信所の電気使用料は97年度までは年間100万円程度でしたが、04年度は11万円、05年度は4万円、その後は該当なしで、通信所としての使命はすでに終わっていたものです。

 対馬通信所の土地は4,650 m2(国有地1,131 m2,民有地2,279 m2,公有地1,240 m2)はすでに国に所管替え済み。通信局舎やフェンスなど工作物の撤去や土壌調査を終えた後、民有・公有地は地権者に返還され、国有地は陸自対馬駐屯地の演習場に組み込まれる見通し。


【2016年6月25日】

遅々として進まぬ核兵器削減

―その裏で進行する核兵器近代化計画―

 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)は16年6月現在の世界の核弾頭数の推定値の詳細をウェブ上で公表し、併せて学習・啓発用のポスターを作成しました(図)。

 今回デザインを変えて、現在の核弾頭の状況が一目でわかるものにしたと考案者の冨塚明さんはいいます。
①世界の推定弾頭数15,350の約93%を米ロが占め、他の保有国の総数は7%にすぎないことを「円グラフ」的に示した。
②米ロで戦略的に重要なのは潜水艦発射弾道ミサイルと大陸間弾道ミサイルで、これを地球を取り巻くように配置した
(図の青及び緑の部分)。爆撃機の多くには核兵器は搭載されておらず、重要性は低くなっているので遠めに配置した(赤)。退役・解体待ち核弾頭は、計画が順調に進めば減っていくので一番外側に配置した(灰色)。

■減ったは退役・解体待ちの核弾頭

 RECNAのポスター作成は今年で4年目。最初のポスターの総弾頭数は17,300でこの3年間で約1,900発減ったことになります(内訳はロシア1,200減、米国700減)。しかしその実態は退役・解体待ちが1,800減なのです。作戦配備・作戦外貯蔵(青+緑+赤)の総数は100発しか減っていません。いわば無駄な贅肉を少し落としたに過ぎないのです。

 米ロは、新戦略核兵器削減条約を履行するために配備弾頭数を一定数減らす必要があります。その結果、この3年間で計300減りましたが、作戦外貯蔵が逆に200増えています。

■進行する核兵器増強計画

 ポスターでわかるのは数だけで、その「質」は見えてきません。実はどの核保有国も近代化計画を進めています。
 ロシアは旧ソ連時代に配備されれ旧式となった核兵器システムを2025年までに一新する計画が進行中です。
 米国は老朽化してきた核兵器システムをすべて新型で置き換える計画を進めています。陸上発射/潜水艦発射ミサイルに共用弾頭を開発するなど、運用・維持の効率も向上させようとしています。(詳細はRECNAのHP参照)。

□核兵器禁止の法的措置こそ現実的

 核保有国は被爆100年を超えても核兵器を保有し続ける意思を示し、予算措置をとっています。日本政府が固執する「ステップ・バイ・ステップ・アプローチ」がいかに非現実的で、被爆者の願いを裏切るものであるかは明白です。被爆の実相、核兵器の非人道性を世界に広げ、法的に核兵器を禁止する道こそが現実的です。


【2016年5月15日】

核保有国のミサイルテストの実態

 北朝鮮は今年1月の4回目の核実験後、ロケット/弾道ミサイルを相次いで発射させた。核兵器開発と軌を一にしたミサイルテストは安保理決議違反であり、許されるものではない。しかし、その陰で核保有国は核兵器の近代化を進め、その一環として核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルテストを繰り返している。だが、その事実は日本ではほとんど報道されない。表は昨年1年間の発射テストの状況である。

 米国は3カ所に配備しているICBMの性能確認のためにカリフォルニア州の空軍基地からグアムやクワジェリン環礁付近の標的まで飛行させている。またSLBMのテストは搭載核弾頭の耐用年数延長用の部品のテスト及び耐用年数を延長したミサイルのテストだった。

 ロシアは旧ソ連時代の核戦力を2023年頃までに一新する計画を進めている。そのために新型ミサイルの性能テスト及び開発のためのテストを頻繁に行っている。また3年前から大規模な「核戦争」訓練を行っている。10月30日はSLBM、ICBMの他に戦略爆撃機や戦闘艦から巡航ミサイルを、陸上でもSRBMを発射した。

 中国は開発中の車両搭載式ICBM東風DF-41のテストを行った。複数核弾頭を搭載でき米国本土に十分届くと推定されている。

 NPT未加盟のインドとパキスタンも頻繁に弾道ミサイルテストを繰り返す。インドは陸海空の核戦力を持ち、最近はICBMやSLBMの開発にも取り組んでいる。パキスタンも飛距離3,000km以下のIRBMの開発を進めている。

米国 11月09日 SLBM トライデントIID5
11月07日 SLBM トライデントIID5
10月21日 ICBM ミニットマンIII
8月19日 ICBM ミニットマンIII
5月20日 ICBM ミニットマンIII
3月27日 ICBM ミニットマンIII
3月23日 ICBM ミニットマンIII
2月22日 SLBM トライデントIID5 2発
ロシア 12月24日 ICBM トーポリ
12月12日 SLBM シネバ
11月17日 ICBM トーポリ
11月14日 SLBM ブラバ 2発連射
10月30日 ICBM トーポリ
SLBM シネバ
SLBM SS-N-18
10月28日 ICBM ヤールス
8月22日 ICBM トーポリ
3月18日 ICBM ルベージュ
2月26日 ICBM SS-19
中国 12月05日 ICBM DF–41
8月06日 ICBM DF–41
インド 11月27日 SRBM アグニI
11月26日 SRBM プリトビII
11月09日 IRBM アグニIV
4月09日 SRBM ダナシュ(海洋発射)
2月19日 SRBM プリトビII
1月31日 ICBM アグニV
パキスタン 12月15日 SRBMシャヒーン–1A
12月11日 IRBMシャヒーン–II
3月09日 IRBMシャヒーン–III

【2015年4月25日】

プルトニウムと再生可能エネルギー

 日本政府は2030年時の電源構成を「原発20~22%、再生可能エネルギー22~24%」とする方針という。ドイツは22年までに原発を全廃することを決定し、すでに24%に達している再生可能エネルギーの割合を30年に50%にすることを目標にしている。同じ敗戦国、非核保有国でありながら、いろいろと対比させられる日本とドイツの違いを考える。

■プルトニウム路線から手を引いたドイツ

 ドイツも日本と同様にプルトニウム利用路線を歩んでいた。原発の使用済み燃料の全量再処理を前提に、フランスと英国に委託すると同時に自前の再処理工場を建設する計画だった。しかしドイツでは核兵器配備反対運動と反原発運動が結びつき、また「緑の党」の結成など政治面でも大きな動きが生まれた。州政府の権限が大きいのも特徴。

 運動は1986年のチェルノブイリ原発事故を機に盛り上がり、計画されていたバッカースドルフ再処理工場の建設を中止に追い込んだ(89年)。さらに、完成していたカルカー高速増殖炉(プルトニウムを燃料に発電しながら、消費した以上のプルトニウムを生み出す原子炉)を本格試運転前に閉鎖させた(91年)。

 またウラン燃料にプルトニウムを混ぜたMOX燃料の製造工場も完成直前に中止に追い込まれ(95年)、MOX燃料の製造も英仏にすべて委託することになった。そして94年の原子力法の改正で「使用済み燃料の再処理をしなくてもいい」とし、ドイツはプルトニウム路線から手を引くことになる。

 一方の日本はプルトニウム路線に固執。六ケ所村に大規模な再処理工場を建設し、建造費は当初の7000億円から2兆2000億円に膨らみ、完成時期も22回延長せざるをえない状態となっている。高速増殖炉もんじゅは、95年にナトリウム漏れ事故を起こし、現在も年間二百数十億円の維持費をかけて、再稼働を目論んでいる。MOX燃料工場は17年10月完成予定で建設工事が進められている。

■プルトニウムをゼロにするドイツ

 ドイツは累計で約60㌧の分離プルトニウム(使用済み燃料から再処理したもの)を所有していた。MOX燃料の利用は1987年から始まり、15基の原発でプルトニウムを消費してきた。そんな中、英国はセラフィードMOX工場を2011年8月に閉鎖。福島第一原発の事故で、主要顧客である日本のMOX利用計画が不透明になり、経済的理由から早期閉鎖を決めたのだ。

プルトニウム施設のドイツと日本の状況
施設 ドイツ 日本
再処理工場 89年に建設計画を中止 93年着工。現在は試験中。16年3月に完成予定。
高速増殖炉
(原型炉)
完成したが使用せずに91年に閉鎖 95年に事故で停止。現在は無期限運転禁止状態。
MOX工場 完成直前の95年に中止 建造中。17年10月完成予定。