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vol 19 : うらみ
恨み、(一般的)不満【貧乏を恨む、不運を恨む、無理解を恨む】
怨み、憎悪
うらみっちゅーやつは基本2種類に分けられる。
この2種類の言葉の意味で大きく変わってくる。
同じ人をうらむ、でも気持ちによっては大きく変わるんや。
俺は毎度のごとく頭痛に悩まされとった。
時には起きられへんぐらいなんやで?
頭痛が治まったら、体の怠るさがハンパないし。
今回の頭痛のキッカケは、同級生の谷口諭って奴が原因や。
これは哀しく、また人間の儚さを身にしみて感じた話。
「カン!あんた次、体育でしょ。早く着替えないと遅刻しちゃうよ?」
女子の声で漫画を読んでいて昼休み終わり間近を知った俺は、
急いで着替えに合同の隣のクラスに駆け込んだ。
「カン、遅かったじゃん。」
同じクラスの奴に言われ、今おもろいとこやってんと遅れた状況を説明し、
体操服に着替える為に服、脱いでたんや。
「なぁ、谷口~、おねいさんとはどうなったんだよ~。」
「あ?・・・あぁ、別れた。」
「えぇ!またかよ!お前今月に入って3人目じゃなかったか?」
「だったかな。年上ってさ、案外うっとおしいんだよね。」
谷口諭。隣のクラスの色男。
俺からしたら、それほど男前には見えんけど、
しゃべりがごっつ上手いって事は解る。
女をとっかえひっかえして、泣かせてるっちゅー噂は誰もが知ってる。
なんでか同じ年の子や年下にはモテへんみたいや。
そら・・・顔は別にーって感じやし、俺のがイケてるよ。ウン。
何か文句ある?
「大学生の子だろ?相手。」
「そっちは前の子。今別れたのはOL。」
「ほーんと谷口年上キラーだなぁ~。」
聞きたくもない話が耳に入りながら体操服に着替えていたも、
ジッと見てたつもりもなかったのに、谷口と目が合った。
その瞬間、
「いっ!」
激しい痛みが頭を刺激する。
まるで、尖った棒が頭を貫通したような痛さ。
実際貫通したことないんやけど、想像ではそんな感じ。
「おい・・・カン大丈夫か?」
俺は地面にしゃがみ込み、徐々に痛みに支配されていく。
ここでおさらい。
さて、頭痛や吐き気の場合で霊やと確信もったら、
その後はどうしたらいいのでしょうか?
答え。
(誰や・・・誰かおるんやろ?)
答えは問い掛ける。
でもな、答えはそうやねん。間違ごうてない。
いきなりの痛み、霊のはずやねん。
何も言わへん。
目を閉じて空気感を探ってみる。
ジンジン感じる。
「カン、体育休んで保健室行けよ。先生には言っといてやるから。」
「悪い。頼むわ。」
なんとか立ち上がり、痛みでフラフラになりながら廊下を歩く。
そや!ニコニコさん!
って、ニコニコさんは最近、なんや忙しいみたいでおらへん。
ハァ・・・なんとか自分でせなやけど、痛すぎて・・・無理。
保健室に行くと保険医に頭痛だと話、薬をもらって飲んだ。
「戌尾くん、この痛み止めね、よく効くの。」
保険医の先生・・・今の俺には効かんのですよ。
「ども・・・。」
「奥のベッドに寝てちょうだい。先生ちょっと職員室に行ってくるから。」
「ハイ。」
出て行く先生を見送る事もなく、言われた奥のベッドに必死で歩いて向い、
靴を脱いで寝ころんだ。
目元に腕を置いて、ひたすら痛みに耐える。
「はぁ、はぁ・・・。」
痛みに耐えれば耐える程、痛みは増す。
呼吸も荒くなり、痛みに涙がこぼれた。
つらい。
ただこの言葉だけが浮かぶ。
意識が朦朧としてきた。
昔の俺と変わらない事を思う。
こんな苦しいんなら・・・死んで楽になりたい。
痛みに弱い俺の弱点。
「駄目だ!」
ドアの勢い良く開く音と閉まる音が鳴り響く。
この声・・・大樹。
目元に腕を乗せたまま音だけを聞いて判断する。
ベッドに近付いて来る足音と、それに重なる音があった。
何かが這う音。
「カンっ!」
大樹・・・そないな大声だして。
保健室に他の奴がおらんで良かった。
痛みの中の虚ろな俺。
「カン、何言ってるわけ!死なせないよ!バカ。」
大樹は怒った音色の声で俺に話す。
「カンから出ろよ!今すぐにだ!」
大樹が叫ぶ度に頭痛が増す。
痛い、痛い、痛い。
「言う事を聞かないなら、引きづり出す・・・」
そんな大樹の低い声も、強気な言葉も初めて聞いた。
頭痛は俺の意識を飛ばし、頭痛は消えた。
が、俺の意識とは関係なく俺の体は動く。
目元から腕を下ろして起き上がり大樹を冷ややかに見つめる。
その光景を俺は俺自身で見てるんやけど、俺の中に俺がいる感じ。
「・・・憑依したか。シロっ。」
大樹の襟元から白い赤目の小さな蛇がスルリと現れ、
俺に向かって凝視する。
シロ、お前、俺様にガンとばしてんのか?あーん?
とか、俺は思ったりしてるのに、体は動かへん。
俺の唇が動いた。
『・・・ウゥゥ』
俺は唸り声をあげる。
つか、大樹、憑依ってなん?
取り憑かれたって意味やないやろな?
「カンの体から出て行くんだ。そしたら危害は加えない。」
大樹の言葉に唸る俺は俯きガタガタと震える。
「カン、聞こえるか?」
聞こえとるよ。
(天の子よ、情けない。生き霊などに憑かれるとわな。)
(シロ、俺は天の子やない!戌尾 柑や言うとるやろ!)
(・・・ハァ)
なん!その溜息!
シロにムカついてる間に俺の体は立ち上がり、
ものすごい形相でベッドから飛び降りて保健室のドアに駆けだした。
「シロっ!」
(御意)
シロはシュルシュルと体を伸ばして俺の足に向かって素早く這い、
俺の足首に巻きついて強く引っ張り俺の体を床に転げさせる。
(人の生き霊如きに我が逃がすとでも思うのか。)
シロは見下したように俺の中の霊に言う。
『ウゥゥ・・・グゥゥゥ』
俺の体は地面に爪を立ててドアに手を伸ばす。
逃げようとしてるんやろか。
「これ以上、抵抗するのであれば、こちらも容赦はしない!」
大樹が両手を合わせてパンっと大きく手を叩き、
「我に従え・・・我は大神なり!」
大樹の目が見開くと大樹の体から無数の蛇が飛び出て俺の体に向かって、
飛び付き何かを噛んで引きずり出す。
無数の蛇は透けていて、シロのようなハッキリした色には見えへん。
せやけど、この蛇・・・どっかで・・・
大樹の部屋におった蛇軍団や!
(くっ!)
蛇達が引きづり出そうとする度に俺が苦しさを感じる。
た・・・いじゅ。
(天の子よ。お主それでも天の子か。)
『グゥゥゥ!アァァァァ!』
俺の体は苦しそうにもがき蛇に埋もれている。
(天の子よ。こんな生き霊如き、お前の力有れば散りと変せるであろう?)
俺は・・・白蛇神の言葉にブチ切れた。
その瞬間、俺は俺の体をのっとった生き霊をそのままに、
俺の体を取り返し、カッと黄色い眩しい光を体中から放った。
俺に群がる蛇達は光で跳ね返されてボタボタと床に落ちていく。
俺も自分で何がどうなってんのか解らんけど、とにかくムカついた。
「なぁ、大樹・・・お前なにやっとるんじゃ。」
俺は目を見開いて大樹に問い掛ける。
大樹は俺の問いかけに目を細めて眉尻下げ、
「カン・・・俺はカンを助けようと・・・。」
(血迷ったか、天の子よ。お前を助けようとした蛇共をっ)
俺は左右に頭を振った。
「違う。こんなん・・・助けた言わへん・・・。」
その瞬間に俺から生き霊が離れた。
それを見たシロは生き霊に歯を剥き出しにして飛びかかろうとした。
「逃げる!」
大樹もその光景に咄嗟に叫ぶ。
俺は、ゆっくり瞬きをして再びシロに向かって目を見開いた。
神々しい眩しく貫くような光はシロを跳ね返し、
シロは壁に体をぶつけて床に落ちる。
生き霊はそのまま姿を消した。
「カン!何をっ。」
俺の生き霊を助けたとも言わん行動に大樹がくってかかる。
「シロ、大丈夫かい?」
床に落ちたシロに駆け寄り抱き上げる。
俺はその光景を冷ややかに見つめた。
(天の子・・・お前、何をしているのか解っているのか。)
シロは衝撃で苦しそうに言う。
「解っとるよ。ちゅーか・・・お前らは何をしたんか解ってるん?」
俺の問いかけに大樹が切なげに言葉を綴る。
「カン・・・俺やシロや蛇達は、カンを助けようとしたんだ。
なぜ怒ってるの?解らないよ・・・。」
「なぁ、大樹。俺を助けてくれようとした事は、重々解ってる。
せやけどなぁ、嬉しく思えん。」
「なぜ?」
「大樹は、俺が助かったら他はどうでもいいん?
霊は?霊に対しては?」
大樹は伏せ目がちに目線を下に落とし、
「・・・カンが大事だし、カンに辛い思いして欲しくないんだ。」
「せやったら、霊はどうでもええん?
シロやお前の蛇が理由あってとり憑いてて、
お前、今みたいな気持ちになるん?
霊もシロや蛇とおんなじ、霊や。」
元が優しさの塊の大樹はハっと顔を上げて俺を見た。
(何を言う!愚か者め!我と霊とを同じにするなど侮辱も程々しい!
我は神ぞ!)
ちっさ。
「シロ~。お前が神って、それ、神の子として生まれてきたからちゃうん?
そうと違ったら、お前は・・・神にはなれんよ。」
俺の発言に白蛇神は空気を重く変えて姿を大きくし、
俺に殺気立たせて見下ろす。
「・・・美輪の大神と同じ姿やのに、えらい違いやのう。シロ。」
(許さぬ!)
シロは俺に大口を開けて襲いかかろうとした。
「シロっ!」
俺は白蛇神を見上げて睨みつけ、
「神が、神が霊を助けやんと苦しめてどないすんねん!
この、どアホぅがぁぁぁぁぁ!」
「カン・・・」
その言葉に大樹が俺の前に立ち、俺を頭から包み込んだ。
身長の差って、や~ねぇ~。
(兄様、何を!)
シロの動きが止まった。
「カン、ごめん。俺間違ってた。本当にごめん。
理由がないのに生き霊にまでなって人に取り憑くなんてしないよね?
よっぽどの事があったからだよね。
こんなやり方、力で押しつぶしても、何の解決にもならないよね。」
(シロ・・・白蛇神やったらなぁ、
大樹への教え方間違っとるんちゃうんか。
お前のオカンやったら、同じ事せんぞ。)
俺は大樹の背中に触れてゆっくり撫でる。
「大樹・・・ありがとうな。」
俺は大樹に俺を助けようとした事に礼を言う。
「蛇達も、ありがとうな。」
消えたと言っても大樹の中に戻った蛇達に礼を言う。
「シロ、助けようとしてくれて、ありがとうな。」
シロにも礼を言う。
(・・・)
「俺を助けようとしてくれた事には、ホンマお前ら大好きやって思うんや。
その事実は俺には大きな事やし、俺の唯一の存在やもんな。」
俺は笑顔をシロに向けた。
シロは蛇の表情は解らんけど、戸惑っとるんは解る。
シロは、
(か、カンのどアホぅがぁぁぁぁぁ!)
って叫んで小さな白蛇に姿を変えた。
勿論、大樹は見えるだけで、言葉は聞こえへん。
「シロ・・・なんて?」
大樹が情けない顔で問いかける。
「ん?・・・カンだいちゅきって。」
俺はヘラリと笑って大樹に答えた。
するとシロは珍しく床を這って俺の足元に近付くと、
俺のプリチーな足首にカップと噛み付き、
「いっ・・・だぁぁぁぁあああああ!」
俺はシロに噛まれた。
その後、大樹はワンワン泣いてゴメンの連呼。
大樹は純粋で優しいヘタレです。
体をのっとられてたおかげで気力体力共に激下がり。
風呂で一気に疲れが出た。
湯船に浸かり、湯に落ちる水音が響く。
(どアホぅがぁぁぁぁ!)
目を閉じてくつろいでいた俺は声にビックリして体制を崩し、
湯船に顔が浸かりそうになった。
ニコニコさんがニコニコして登場。
「び、ビックリしたやんか!ニコニコさん。」
(いやぁ~、カンよ。お前シロにアホぅ言うたそうじゃな。)
「言うたよ・・・だってな!だってアイツっ!」
(落ち込んでおったぞ?)
俺は言葉を失った。
(あのお方は坊ちゃんじゃと言うたじゃろ。
世間知らずの坊ちゃんじゃ。)
俺・・・シロを傷つけたんか・・・な。
(大神は笑っておった。大樹の元に行かせて正解じゃったと。
シロもあの大神の子。あぁいう性格に育てたのは、
蛇の国の神々じゃ。
大神は何が大切かをシロに身で学ばせる為に此処にお送りになられた。)
「そっか・・・。」
(生き霊の事じゃがの。)
「ニコニコさん、今日一緒におったん?」
(おったおった。)
「おったのに・・・おったのに・・・」
俺は悲しくなった。
苦しい頭痛の中の不安に泣きそうになっていたのに、
ニコニコさんは何もしてくれなかったんやって。
(・・・ワシも、ワシもカンに身をもって教えなければならん。
心を鬼にせねばならん。
とても辛いんじゃが、カンが大事じゃからの。
ワシも我慢せねば・・・。)
ニコニコさんのその表情は今にも崩れそうな笑顔やった。
「・・・俺アカンなぁ~。ホンマ。」
眉尻下げて笑顔を見せる。
ニコニコさんは俺の守り神。
そのニコニコさんを少しでも疑った。
俺は最悪です。
(ハッハッハッ!疑って知る事もある。)
ホンマにこの人は・・・大好きや。
「で、生き霊はどうなったん?」
(おお、そうじゃった。逃げた生き霊はワシが引き留めた。
話を聞くのに苦労したんじゃ。
なかなか心を開いてくれんでのぅ。)
「女の子やろ?なんやそんな感じがしてん。
谷口から来たさかい・・・谷口に遊ばれた女か。」
(そうじゃ。心底好いておった。)
「捨てられたのにか?」
(本人は捨てられたと思いたくなくて、徒然と思いを寄せ、
考え悩み、捨てられた現実から離れたいという気持ちが憎悪を呼び、
怨んで生き霊と化した。)
「怨むって・・・ほんなら谷口が。」
(今回の場合は愛故の怨み。本人は谷口とやらには危害は加えんじゃろ。
それにの、生き霊は生きたまま生気が飛んでおる。
本人は相当の辛い状態じゃろ。そして、
行った報いは必ず自分に返ってくる。
愛故じゃとしても、怨みの心からというのは事実じゃ。
怨みはけして、良い事は起こらん。)
「・・・せやな。ありがとうニコニコさん。」
(どアホぅがぁぁぁあああ!)
ニコニコさんは笑顔で言う。
もしかして・・・
「それ、気にいったん?」
(神に言うたカンが気にいっとる!黄泉の国でもまた噂がたっておるぞ?
ワシはお前のそういう所がほんに大好きじゃて。)
「アハハハ。シロに噛まれたのに。」
俺は歯型のついた足を湯船から上げて見せた。
ニコニコさんは俺に右手人差し指を見せた。
(ワシもシロに噛まれたわい。)
ニコニコさんは人差し指でシロを指して笑顔で、俺の真似をし、
人差し指を噛まれたらしく、
ニコニコさんの年期の入った人差し指にはシロの歯型がついていた。
うらみ。
それは、一般的に2種類の意味がある。
どちらも、けして良い事ではなく、
生き霊であっても、霊であっても、
どんな理由であっても、
良い事はひとつもなく、
それを心底思ったモノには同じだけの何かが必ず返ってくる。
それが、うらみ。
その後の話。
谷口は危ない系の女に手ぇ出してもうて、
ボコボコにされて数日学校休んでた。
怨まんでも、上に跳ばした唾は自分に落ちてくるんよ。
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