|
邦訳 | マリア・グリーペ『鳴り響く鐘の時代に』、大久保貞子訳、冨山房、1992年 |
原著(スウェーデン語) | Maria Gripe : I klockornas tid , 1965 |
作品概説 |
マリア・グリーペは、リンドグレーンやヤンソンに比べて知名度が低いですが、北欧の戦後児童文学の主要作家の一人です。作品の大多数を大久保貞子さんが翻訳していて、『忘れ川をこえた子どもたち』は、旺文社児童文学翻訳賞を受賞しています。
『鳴り響く鐘の時代に』は、中世を舞台にした、ハイティーン向けの作品です。主人公は、16歳のメランコリックな王、アルヴィド。先代の王である父は、アルヴィドが13歳の時に王位を譲って以来、錬金術と占星術にのめり込み、現在は塔にこもって賢者の石の研究にいそしんでいます。過保護っぽい母親には心を閉ざし、かわいい婚約者にも無関心、道化にはいじめられ、武術は嫌いで、頭は悪くないのに勉強にも身が入らない、やる気のないアルヴィドのもとに、ある日、勉強を怠けるアルヴィドの代わりに鞭で打たれる役職として、首切り役人に育てられた17歳の少年ヘルゲがやってきます。ヘルゲは、アルヴィドと正反対の性格ながら、初めてにして唯一の友達になり、そのことで、アルヴィドの性格や考え方も、彼を取り巻く環境も、変わっていきます。
錬金術、占星術、道化、神秘主義、一角獣と乙女のタペストリー、死の舞踏、そしてタイトルにもある鐘と、「中世」のモチーフをふんだんに盛り込んだこの作品は、解説によれば、ホイジンガ『中世の秋』に触発されて書かれたということで、本書読了後に、早速、『中世の秋』を読んでみたことを覚えています。当時は高校生だったので、『中世の秋』は少し難しかったのですが、その解説か何かに、『中世の秋』が、「暗い中世、明るい近代」というステレオタイプ・イメージを覆した本だというようなことが書いてあって、歴史上で起こった出来事は一つでも、それに対する見方や評価は様々で、それは歴史を見る「現代」の価値観を反映しているのだということがおぼろげに分かった気がしました。博論で、ホイジンガは直接は関係ないものの、「近代批判」を一つの軸にしたことを考えると、なんとなく感慨深いです。ちなみに、当時のこの後はお約束で、『アーサー王』と死の舞踏にハマりました。
著者のマリア・グリーペは、1923年ヴァクスホルム生まれ、2007年レーニンゲン没。戦後スウェーデンを代表する児童文学者として、ニルス・ホルガション賞(1963)、リンドグレーン賞(1972)、アンデルセン賞(1974)、Litteris et Artibusメダル(2003)等、北欧の主要な児童文学賞・芸術賞を多数受賞しています。また、2005年には、マリア・グリーペ賞が設立され、近年日本でも紹介されているアニカ・トール(2005)や、ウルフ・スタルク(2006)が受賞しています。『鳴り響く鐘の時代に』は、中世を舞台としていますが、邦訳が出ている作品のほとんどは現代の日常を舞台とし、その中で「ちょっと、不思議な(非日常的な)こと」が起こる、という筋書きが多いです。スウェーデン語版Wikipediaによると、ポーやブロンテ姉妹の影響を受けているようです。ほとんどの作品に、ご主人のハラルド・グリーペが挿絵をつけているのですが、きれいで暗い感じの絵なので、個人的には、ローティーン向け作品には少し重いかな、と思いますが、『鳴り響く鐘の時代に』にはぴったりです。二人の間には、カミラ・グリーペという娘がいて、この人も児童文学作家のようですが、邦訳は出ていないようです。 |
その他の邦訳作品・関連書籍 |
・大久保貞子訳『忘れ川をこえた子どもたち』、冨山房、1972(旺文社児童文学翻訳賞受賞作品)
・大久保貞子訳『小さなジョセフィーン』(1980)、『ヒューゴとジョセフィーン』(1981)、『森の子ヒューゴ』(1981、冨山房)
・大久保貞子訳『森の少女ローエラ』、学習研究社、1973
・大久保貞子訳『夜のパパ』(1980)、『夜のパパとユリアのひみつ』(1983、冨山房)
・山内清子訳『エレベーターで4階へ』(1995)、『自分の部屋があったら』(1997)、『それぞれの世界へ』(1998、講談社世界の子どもライブラリー)
※一行に書いてあるのは、同じ出版社から刊行されているシリーズです。
・ヨハン・ホイジンガ『中世の秋』(堀越孝一訳、中公クラシックス、2001)
・ミヒャエル・エンデ『ハーメルンの死の舞踏』(佐藤真理子・子安美知子訳、岩波書店、1993)
・トマス・マロリー『アーサー王の死』(ウィリアム・キャクストン編、厨川文夫・厨川圭子訳、ちくま文庫、1986)
|
映像化 |
『ヒューゴとジョセフィーン』、『夜のパパとユリアのひみつ』などがスウェーデンでTVシリーズ化・映画化されているようですが、日本でDVDなどが手に入るかどうかは分かりません。ご存知の方の情報をお待ちしています。
・映画情報サイトIMDb内マリア・グリーペ原作映画一覧(サイト自体は英語ですが、タイトル等はスウェーデン語のまま。タイトル名をクリックすると、それぞれの作品のスタッフやキャストを確認できます)
・映画情報サイトSvensk Filmdatabas内マリア・グリーペ原作映画一覧(スウェーデン語。タイトル名をクリックすると、DVDジャケットを見ることができます(載っていないものもあり)
|
リンク |
・ボニエル・カールセン社HP内 マリア・グリーペ紹介ページ(スウェーデン語)
|