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邦訳
ハンス・クリスティアン・アンデルセン『にんぎょひめ』、曽野綾子編訳、いわさきちひろ絵、偕成社、1967
原著(デンマーク語)
Hans Christian Andersen: Den lille Havfrue, 1836
作品概説
 今更紹介するまでもない有名な作品ですが、やはり「10選」には入れておきたい、ということでレビューします。完訳版もたくさん出ていますが、あえて、子どもの頃に読んだいわさきちひろの絵本バージョンを推したいと思います。
 そういう方は多いと思いますが、わたしが初めて読んだ北欧文学は、この作品でした。当時、夢見がちな幼稚園児だったわたしは、将来はおひめさまになりたいと思っていたのですが、この絵本を読んで、『シンデレラ』や『白雪姫』とは違う結末に、衝撃を受けました。そして、おひめさまになりたい沢山の女の子を押しのけて、自分だけ幸せになるシンデレラや白雪姫よりも、人魚姫の方が立派だと思いました。同時に、はっきりと言語化してではないにせよ、人間には、生きたくても生きられないこともあるし、好きな人と結ばれないこともある、でも、その成就しなかった思いにも、価値はあるのだということを知った気がします。当時は、これが北欧文学だと認識していたわけではありませんが、「成就しなかった思い」への関心は、その後、北欧文学研究をしようと決めた時も、今でも、ずっと意識の底に流れている気がします。
 アンデルセンは、1805年オーデンセ生まれ、1875年コペンハーゲン没。デンマーク語読みすると、名前は「アナスン」になります。生まれたのはナポレオン戦争中で、その後のデンマークは、イギリス艦隊に敗れ、ノルウェーをスウェーデンに奪われ、シュレスヴィッヒ=ホルシュタインをプロイセンに奪われ、「デンマーク海上帝国」から、「小国」へと縮小していきます。文学史的には、スウェーデン語で書かれた北欧文学史の本を読むと「後期ロマン主義」、ドイツ語で書かれた北欧文学史の本を読むと「詩的リアリズム」(シュトルムやシュティフターが代表格)に属します。デンマーク思想史上では、キルケゴール(も、デンマーク語読みだと「キアケゴー」。 Kierkegaard, 1813-1855)やグルントヴィ(Grundtvig, 1783-1872)と同時代人、一世代後で、内村鑑三が紹介して日本で有名になったエンリコ・ダルガス(Dalgas, 1828-1894)が登場します。
アンデルセンおよび『人魚姫』関連書籍
・山室静訳『アンデルセン童話集1 小さい人魚姫』、角川文庫、1976
現在品切れですが、絵本版にハマっていたわたしに、母が読んでくれた完訳版がこれ。この本を通じて、「翻訳には抄訳と完訳があり、完訳の方が面白い」(主観ですが)ということを学びました。この文庫には、藤城清治が挿絵を描いていて、こちらもすてきでした。
・大畑末吉訳『完訳 アンデルセン童話集1〜7』、岩波文庫、1984
・『アンデルセン童話集I〜III』、新潮文庫、1952−67(訳は矢崎源九郎と山室静)
・番匠谷英一訳『アンデルセン童話集1〜3』、角川文庫、1951ー56
・鈴木徹郎訳『アンデルセン小説・紀行文学全集1〜10』、デンマーク王立国語国文学会編、東京書籍、1986−87
上記の童話集に収録されていない作品が収録されています。品切れですが、所蔵する図書館も多く、古書店でも比較的容易に入手できます。
・長島要一訳「あなたの知らないアンデルセン『人魚姫』」、評論社、2005
『人魚姫』は「童話」ではなく大人の本、という観点からの翻訳。訳者解説が面白いです(わたしはこの解釈には賛成しませんが、いろいろと考えさせられる解釈です)。
・小川未明『赤い蝋燭と人魚』、酒井駒子絵、偕成社、2002
小学校の頃、「人魚もの」という理由で読みました(その時読んだのはこのバージョンではありませんが)。一度しか読んでいませんが、細部に至るまで、忘れられない作品。
・小川未明『赤い蝋燭と人魚 (若い人の絵本) 』、いわさきちひろ絵、童心社、1980
酒井駒子の方を探していたら、ヒットしました。いわさきちひろの絶筆とのことです。
映像化
ディズニー映画は最後が変わっているので、代わりに、人魚を書いた画家関連のHPをリンクします
昇仙峡 影絵の森美術館
藤城清治の影絵を常設展示している美術館。ウェブサイト上にもギャラリーがあります。
ちひろ美術館
東京と安曇野のいわさきちひろの美術館HP。世界の絵本作家紹介など、絵本に関する情報が充実しています。
リンク
・Arkiv for Dansk Litteratur内アンデルセン(デンマーク語)
アンデルセン作品の原文がファクシミリ版とテクスト版で読めるサイト。『人魚姫』(Den lille Havfrue)は、タイトルリストDのところにあります。
・アンデルセンの出生地オーデンセ市公式HP(デンマーク語、英語、ドイツ語)
「アンデルセンの足跡をたどって」という項目に、アンデルセンにかかわりの深い場所の説明と地図があります。
・ナダ出版 ホームページ内アンデルセン翻訳作品年表