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邦訳 | トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』、山室静訳、講談社、1979年 |
原著(スウェーデン語) | Tove Jansson: Trollvinter, 1957 |
作品概説 |
「ムーミン」シリーズは有名ですが、その中で一番好きな話。1958年のエルサ・ベスコフ賞受賞作です。
ムーミン族(カバではなく、ムーミンという種類の妖精です)は、冬の間冬眠するのですが、ある冬、ムーミン・トロールだけが冬眠から目覚めてしまい、見たことのない冬のムーミン谷で一冬を生き抜く、という話。
両親は冬眠中、親友のスナフキン(も、人間ではなく、ムムリクという種類の妖精です。ちなみに、ミイの異父弟という裏設定があります)は、渡り鳥のように、冬の間は南の国に移住するので、ムーミンは一人。と思いきや、冬のムーミン谷にも、いろいろな生き物が。
何日も、太陽が出ない日が続いて、ある日ほんのちょっとだけ太陽がのぞき、またすぐ見えなくなってしまうけれど、それがとてもありがたい、といったあたりの描写がすごいです。ポイントは、わたしの一番好きな人物おしゃまさん(赤いシマシマのセーターにベレー帽の女の子)が大活躍することで、ムーミンが何となく弱気になっている横で、氷に穴をあけておさかなをつっている姿が、かっこよすぎです。
原著タイトルは、『トロルの冬』。わたしは、「ムーミン・トロールの冬」という意味に解釈していますが、trollが語源の動詞trollaが「魔法をかける」という意味だったり、trollkonstが「素晴らしい芸術」という意味だったりするので、「魔法の冬」「素晴らしい冬」ととってもいいかもしれません。
著者のヤンソンは、1914年ヘルシンキ生まれ、2001年同地没。フィンランド人ですが、スウェーデン語母語話者(フィンランドでは、フィンランド語とスウェーデン語の二か国語が公用語です)で、『ムーミン』シリーズもスウェーデン語で書かれています。お父さんが彫刻家、お母さんが画家の芸術家ファミリーに生まれ、自身も早くから才能を発揮して、15歳の時から『ガルム』という雑誌に、ヒトラーやスターリンの風刺画を描いています。
この風刺画の端っこに、サインと一緒に描いていた、大きな鼻(今は顎になってますが)をした不思議な生き物が、後に独立してムーミンになったそうです。自作の小説だけでなく、壁画なども描いているほか、『ホビットの冒険』や『不思議の国のアリス』のフィンランド語訳にも挿絵をつけています。 |
その他の邦訳作品・関連書籍 |
・下村隆一訳『ムーミン谷の彗星』、講談社、1981(このほか、同社からムーミンの話がシリーズで翻訳されています)
・冨原真弓訳『彫刻家の娘』、講談社、1991(このほか、同社からヤンソンの少女小説がシリーズで翻訳されています)
・冨原真弓『トーヴェ・ヤンソンと「ガルム」の世界』、青土社、2009
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映像化 |
・「劇場版ムーミン パペット・アニメーション〜ムーミン谷の夏まつり〜」(フィンランド)
・「劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション」(フィンランド・ポーランド・オーストリア)
・「劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス」(フィンランド・フランス)
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リンク |
・ムーミン公式サイト(英語)
・ムーミン・ワールド公式サイト(英語に切り替え可)
・タンペレ市立美術館内ムーミン谷博物館(日本語)
・Tove Jansson's illustrations(英語、ヤンソンの挿絵を多数掲載。『アリス』や『ホビット』の挿絵も見られます)
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