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治療的アセスメント



 治療的アセスメントとは何か。アメリカのスティーヴン・フィンによって推進される、心理テストを活用したブリーフセラピーのことです。臨床心理学の二大分野であるセラピーとアセスメントを融合した、画期的な手法です。
 2010年1月に、フィン先生が初来日されました。彼の本を訳出したこともあり、東京に会いに行ってきました。そのとき、片言の英語で交わしたやり取りがこれです。私はフィン先生に尋ねました。「ある日、一人の心理臨床家に尋ねられました。治療的アセスメントはセラピーなのかと。私はこう答えました。半ばイエス、半ばノー。またある日、こう尋ねられました。治療的アセスメントはアセスメントなのかと。私は答えました。半ばイエス、半ばノー。一体、どうすればよいのやら」。それに対して、彼はこう答えてくれました。「ブリーフセラピーだよと言ったらどうかな」。この答えはあくまで、私の困惑とすでに生まれつつある自分の中の答えを察知して、彼が与えてくれた言葉です。
 治療的アセスメントは、私にとって、カウンセリング・心理療法と心理査定を二分するディコトミーへの挑戦でもあります。見立て主義といいますか、心理療法の前に見立てとか、診断なくして治療なしとか、そのような従来的な考え方に対するアンチテーゼでもあります。私は、心理テストを行って何を見たてましたかという質問に対しては、「私は何も見たてないのです」と答えるようにしております。そのような質問を発する相手は、私に対して、不可思議な生き物を目の当たりにしたかのような顔をされます。それほど、いまある常識から逸脱しているわけです。
 クライエントのことを理解しなければカウンセリングは行えないのか、相手のことが分からなければカウンセリングは行えないのか、このような問いを立てるといろいろなことが分かってきます。分かる、理解するには、相異なる二つの意味が混在するのです。この意味で、アンチ・デカルトのヴィーコは強い味方です。彼の「クリティカ」と「トピカ」の概念は、私のようなアンチ見立て主義の根拠になってくれます。
 治療のための診断、心理療法のためのアセスメント、こんなディコトミーにうんざりしているところに現われたのが、スティーヴン・フィンでした(それに、対話哲学のローゼンツヴァイク)。
 フィンはアセスメントの側からのアプローチですが、心理療法の側からこのように二分法に異議を申し立てた手法もあります。短期力動精神療法で著名な、アビーブ・デイバンルーのトライアル・セラピーです。自分がよって立つセラピーに効力があるかどうか、実際にクライエントに行ってみなければ何も分からないではないかと言う、簡単明瞭な主張がそこにはあります。
 ここまではカウンセリング・心理療法の世界の話でしたが、教育の世界には、ヴィゴツキーの発達の最近接領域の理論を取り込んだ、ダイナミック・アセスメントなる手法があります。自力で可能なレベルの学習能力と、相手と対話的に関与することで可能なレベルのあいだをアセスメントするのです。ここでは、アセスメントと教育実践の二分法がまったく消滅してしまいます。
 私がいま没入して取り組むのは、「治療的アセスメント」「トライアル・セラピー」「ダイナミック・アセスメント」の三領域に身を置きつつ、アセスメントとセラピーの(当然と見られている)垣根を破壊することです。
 あるとき俳優の江口洋介さんが、TVドラマのERで口にしたせりふがあります。救急にヘルプでやってきた内科医たちの「診断もしないで治療するのか」と言う驚きに対して、彼はこう言ったのです。「治療しながら診断しているのです」と(概ねこのようなことであったと思います)。医療の世界で言えば、このような治療「行為」に通じるのが私の考える治療的アセスメントです。もちろんそれは医学的な治療行為とは言えませんが、セラピーを行いつつアセスメントを行うわけです(その反対もまたしかり。できればセラピー、アセスメントと言う言葉は使いたくない)。以上、札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」でした。


[治療的アセスメント]

 短期的なカウンセリングとしての治療的アセスメントの具体的な手順については、私が訳出したフィンの「心理査定フィードバック面接」が参考になります。彼の最新作はまだ訳出されておりませんが、もう少しで出版されると耳にしました。それには、背景にある哲学的な叙述も示され、必読の書です。
[追記2012.12.26]
 今年になって、ケースブックが出版されました。また、来年4月には決定版とも言える治療的アセスメントの著作が出版予告されています。400ページを超えるようです。これ、また訳そうかな。一緒に訳してくれる方、連絡お待ちしています。



Stephen E. Finn  (2013) Therapeutic Assessment: Using Psychological Testing to Help Clients Change. Routledge

Stephen E. Finn, Constance T. Fischer, Leonard Handler (2012) Collaborative / Therapeutic Assessment: A Casebook and Guide. Wiley

Finn, Stephen E. (2007) In Our Clients' Shoes : Theory and Techniques of Therapeutic Assessment. Lawrence Erlbaum Assoc Inc.

Finn, Stephen E. (1996) Manual for Using the Mmpi-2 as a Therapeutic Intervention. Univ of Minnesota Pr (田澤安弘、酒木保 (2007) MMPIで学ぶ心理査定フィードバック面接マニュアル. 金剛出版)

こちらは私の雑文です。
断章-治療的アセスメントNO.1
断章-治療的アセスメントNO.2
断章-治療的アセスメントNO.3


[トライアル・セラピー]

 短期力動精神療法の、デイバンルー関連の著書です。なかには「いつアセスメントは終わり、いつセラピーは始まるのか」と言う魅力的な題名の論文もあります。しかしながら、彼のトライアル・セラピーは、心理療法に導入する前のクライエントの「選択・選別!!(セレクション)」の色彩が濃厚で、私の考えるカウンセリングとアセスメントの「あいだ」の考えとは、少し隔たりがあるような気がしています。

Davanloo, Habib (2001) Chapter 3 of Intensive Short-Term Dynamic Psychotherapy : Selected Papers of Habib Davanloo. John Wiley & Sons Inc.

Davanloo, Habib (1995) Chapter 9, 10 of Unlocking the Unconscious : Selected Papers of Habib Davanloo. John Wiley & Son.

Davanloo, Habib ED. (1994) Chapter 2, 5, 14, 15, 17 of Basic Principles & Techniques in Short-Term Dynamic Psychotherapy. Jason Aronson Inc

Davanloo, Habib Ed. (1992) Chapter 5, 7, 15 of Short-Term Dynamic Psychotherapy. Jason Aronson




[ダイナミック・アセスメント]

 ヴィゴツキーの発達の最近接領域の考えが、ダイナミック・アセスメントとして現代に蘇りました。教育畑は門外漢ですが、英語圏では、キャロル・シュナイダー・リッツという方が第一人者のようです。日本人の手による「アセスメントと日本語教育」では、早稲田大学の市嶋典子先生の論文「対話的アセスメントの実践研究」が興味深いと思います。

Poehner, Matthew E. (2008) Dynamic Assessment : A Vygotskian Approach to Understanding and Promoting L2 Development. SPRINGER

Haywood, H. Carl, and Lidz, Carol Schneider (2006) Dynamic Assessment in Practice : Clinical and Educational Applications. Cambridge Univ Pr

Lidz, Carol Schneider, and Elliot, Julian G. (2001) Dynamic Assessment : Prevailing Models and Applications. Emerald Group Pub Ltd

Lidz, Carol Schneider (1991) Practitioner's Guide to Dynamic Assessment. Guilford Pubn

佐藤慎司、熊谷由理編集 (2010) アセスメントと日本語教育 ― 新しい評価の理論と実践. くろしお出版


 以下、更新の予定。


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