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現象学



 フッサールが創始した現象ガクは、あらゆる領域に影響を及ぼし続けています。われわれが身を置く臨床心理の世界は、その最たるものであると思います。われわれは哲学者・現象学者ではありませんから、現象ガクそのもの、あるいはフッサールの探求を目指すのではありません。カウンセリング・心理療法実践のための思想的背景として、現象ガクの恩恵を得て居るのです。
 現象ガクはフッサールだけではありません。彼の影響を受けつつ、独自の思想を打ち立てた現象学者が多数存在します。その中から自分に合った人間を見つけて、じっくりと読み進めてください。きっと、相談者にとってよきカウンセリングを実践するための、数々のアイデアや根本的な姿勢を学ぶことができるはずです。以上、札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」でした。




[アロン・グールヴィッチ Aron Gurwitsch]

 英語と日本語で読めるグールヴィッチのみ掲載します。主著の「意識の場」は新品では入手困難でしたが、Springerから最近著作集が刊行されました。
 以前、ロールシャッハの場理論について思索し、行き詰っておりました。ゲシュタルト理論には図と地の二つしかないことに限界を感じて、意識・知覚の三層構造理論はないものかと苦しんだのです。そこで見つけたのが、グールヴィッチの「意識の場」でした。村田純一先生の「知覚と生活世界」にグールヴィッチの紹介を見つけ、さっそく「意識の場」を入手して読むと、そこには私が求める世界が描かれて、いました。「主題」「主題野」「辺境野」です。日本語で読める「亡命の哲学者たち」にも「意識の場」が執筆されるプロセスが書かれており、とても参考になりました。
 メルロ=ポンティも、グールヴィッチの研究ノートを残しています。意識研究にとどまらない社会ガク的な志向をもつ現象学者ですから、私のような読み方にはかなり偏りがあります。ぜひ著作集を入手されて、彼の全体像を把握してください。


Gurwitsch, Aron (1964) Field of Consciousness. Duquesne Univ Pr

Gurwitsch, Aron (1966) Studies in Phenomenology and Psychology. Northwestern Univ Pr

Gurwitsch, Aron (1974) Phenomenology and the Theory of Science. Northwestern Univ Pr

Gurwitsch, Aron (1978) Human Encounters in the Social World. Duquesne Univ Pr

Gurwitsch, Aron (1985) Marginal Consciousness. Ohio Univ Pr

Gurwitsch, Aron (2009) The Collected Works of Aron Gurwitsch in English : Volume I. Constitutive Phenomenology in Historical Perspective. Springer

Gurwitsch, Aron (2009) The Collected Works of Aron Gurwitsch in English : Volume II : Studies in Phenomenology and Psychology. Springer

Gurwitsch, Aron (2010) The Collected Works of Aron Gurwitsch in English : Volume III : The Field of Consciousness : Theme, Thematic Field, and Margin. Springer

「亡命の哲学者たち―アルフレッド・シュッツ/アロン・グールヴィッチ往復書簡1939~1959」佐藤嘉一訳、木鐸社、1996




[エドムント・フッサール Edmund Husserl]

 現象ガクの始祖フッサールです。それにしても、「イデーン」の1が翻訳されてから、約30年かけて3が出版されました。訳者の諸先生の偉業であると思います。
 正直に言うと、フッサールは難しくてよく分かりませんでした。自分が理解しているのか、理解してないのかさえ、よく分からないありさまです。ところが、山口一郎先生の訳された「受動的総合の分析」を読んだときのことです。「ああ、そうか」と腑に落ちました。対化とは何か、触発とは何か、カラフルなロールシャッハ・インクブロットを具体的に目にしながら読み進めると、劇的に理解が進んだのです。
 それはまるで、ミルトン・エリクソンが文盲の老婆に文字を教えるエピソードと似ていました。どこに書いて いたのか思い出せませんが、老婆にとってただの線であった文字が、生きた意味をもって立ち上がる瞬間が描写されていたと思います。老婆と同じように、私に、フッサールが生き生きと迫って来たのです。私は不意に「あいやー」と感嘆の声をあげておりました。
 医学領域にも、看護領域にも、臨床心理領域にも、あらゆる対人援助領域にフッサールは浸透しています。フッサールは、人間性心理ガク・実存的心理療法を志向する臨床家にとっては基本となる思想家ですから、読んでおきたいものです。難しくて何度投げ出してもよいと思います。また戻ってくればよいのですから。


「フッサ-ル書簡集1915-1938 ― フッサ-ルからインガルデンへ」せりか

「経験と判断」長谷川宏訳、河出書房新社

「デカルト的省察」浜渦辰二、岩波書店

「現象ガクと人間性の危機」御茶の水書房

「幾何学の起源」青土社

「 現象ガクの理念」立松弘孝、みすず

「内的時間意識の現象ガク」立松弘孝、みすず

「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象ガク」細谷恒夫、木田元、中央公論社

「受動的総合の分析」山口一郎、田村京子訳、国文社

「30年代の危機と哲学」清水多吉、平凡社

「ブリタニカ草稿―現象ガクの核心」谷徹、筑摩

「フッサール・セレクション」立松弘孝編、平凡社

「論理ガク研究 〈1〉」立松弘孝、みすず

「論理ガク研究 〈2〉」立松弘孝、みすず

「論理ガク研究 〈3〉」立松弘孝、みすず

「論理ガク研究 〈4〉」立松弘孝、みすず

「イデ-ン 〈1-1〉純粋現象ガクと現象ガク的哲学のための諸構想 純粋現象ガクへの全般的序論」みすず

「イデ-ン 〈1-2〉純粋現象ガクと現象ガク的哲学のための諸構想 純粋現象ガクへの全般的序論」みすず

「イデーン 〈2‐1〉純粋現象ガクと現象ガク的哲学のための諸構想 第2巻 構成についての現象ガク的諸研究」立松弘孝、別所良美、みすず

「イデ-ン 〈2-2〉純粋現象ガクと現象ガク的哲学のための諸構想 構成についての現象ガク的諸研究」立松弘孝、みすず

「イデーン〈3〉純粋現象ガクと現象ガク哲学のための諸構想(第3巻)現象ガクと、諸学問の基礎」渡辺二郎、千田義光、みすず




[ダーヴィット・カッツ David Katz]

 ダーヴィット(デヴィッド)・カッツは多様な領域を探求しましたが、一応は実験現象ガクのカッツとしておきます。ここには膨大な著作の中から、英語と日本語で読めるものを一部掲載します。
 カッシーラーの「シンボル形式の哲学」を読んでいると、要所でカッツの「色の世界」が引用されており、どうしても読みたくなりました。やはり、ゲーテ色彩論の血をひく、歴史に残る現象学者であると思いました。ゲーテと、カッシーラー(シンボル形式の哲学)、メルロ=ポンティ(知覚の現象ガク)を結ぶ位置にあり、極めて重要です。
 カッツは、色について研究したことがあれば、誰でも一度は出会うはずです。表面色、平面色、空間色、透明平面色、透明表面色、などなど、物が色として現出するさまざまなモードを分類した人です。
 私はロールシャッハと結びつけながら読みました。カッツの色のモードと、フィッシャー・クリーブランドのボディ・イメージの考えを結合させると、人間のパーソナリティについて理解が深まりそうです。しかし、私はこの分野の研究からは足を洗いました。どなたか深めて考えて頂けるとよいのですが。


Katz, David (1935) The World of Colour. Routledge

Katz, David Katz, Rosa (1936) Conversations with Children. Routledge

Katz, David (1951) Gestalt Psychology : Its Nature and Significance. Methuen

「触覚の世界―実験現象ガクの地平」東山篤規、岩切絹代、新曜社




[ベルンハルト・ヴァルデンフェルス Bernhard Waldenfels]

 フッサールやメルロ=ポンティについて理解を深めるためにも、対話の現象ガクについて学ぶためにも、ヴァルデンフェルスはなくてはならない存在です。カウンセリングや心理療法にとって重要な著書がたくさんありますが、日本語で読めるものはわずかです。まずは「行動の空間」から入門することをお勧めします。

『経験の裂け目』知泉書館

『講義・身体の現象ガク-身体という自己』知泉書館

『フランスの現象ガク』法政大学出版局

『行動の空間』白水社

「日常の迷宮のなかで・行動の規範と行動のコンテクスト」白水社「現象学とマルクス主義1」所収

「開かれた弁証法の可能性」「純粋認識論および純粋科学論への挑戦」白水社「現象ガクとマルクス主義2」所収

「閉じられた本質認識と開かれた経験」晃洋書房「現象ガクの根本問題」所収

「対話の中間領域」国文社「現象ガクの展望」所収

「パトスと応答の間における現象ガク」『思想』No.968、岩波書店

「間文化性への現象ガク的パースペクティブ」『現代思想』臨時増刊「総特集フッサール」




[アルフレッド(アルフレート)・シュッツ Alfred Schütz]

 アルフレッド・シュッツは、昼間は銀行員、夜は現象学者としての生活を送りました。もっぱら学者として生きた期間は短いものの、アメリカに渡ってから特に社会ガクの領域で多大な影響を及ぼしました。特徴として、超越論的態度とは異なる自然的態度によって構成的現象ガクを展開したこと、ヴェーバー社会ガクとフッサール現象ガクを融合しようとしたこと、フッサールの生活世界に影響されて日常性を重視したことなどがあります。現象学的社会学の始祖といっても過言ではなく、フッサールが理解しにくい方は、シュッツの現象ガクからこの領域を覗いてみることも得策であると思います。彼の全体像を知るには、さまざまな領域の論文を編集した「現象学的社会学」から手をつけることをお勧めします。一般の読者が心理ガクとしてイメージするのが、人間を感覚や知覚などの諸要素に分解しない社会心理ガクであるように、心理臨床家の感性からすると、現象学的社会学こそ現象ガクであると感じられるかもしれません。私が一番好きな彼の概念は、「一緒に歳をとること」です。人と人のあいだを考えるとき、アルフレッド・シュッツは大いに役立つに違いありません。

「現象ガク的社会学」森川真規雄訳、紀伊国屋書店

「社会的行為の理論論争 ― A・シュッツ=T・パ-ソンズ往復書簡」木鐸社

「社会的世界の意味構成 ― 理解社会ガク入門 (改訳版)」佐藤嘉一訳、木鐸社

「社会的世界の意味構成 ― ヴェ-バ-社会ガクの現象ガク的分析」佐藤嘉一訳、木鐸社

「生活世界の構成―レリヴァンスの現象ガク」那須寿、浜日出夫、今井千恵、入江正勝訳、マルジュ社

「亡命の哲学者たち ― アルフレッド・シュッツ/アロン・グ-ルヴィッチ往復」木鐸社

「著作集 〈第1巻〉 社会的現実の問題 1」渡部光訳、マルジュ社

「著作集 〈第2巻〉 社会的現実の問題 2」渡部光訳、マルジュ社

「著作集 〈第3巻〉 社会理論の研究」渡部光訳、マルジュ社

「著作集 〈第4巻〉 現象ガク的哲学の研究」渡部光訳、マルジュ社




[モーリス・メルロ=ポンティ Maurice Merleau-Ponty]

 身体性と言うよりも間身体性、キアズム(交叉配列)、肉、見えるものと見えないもの、知覚の現象学、目と精神、などで著名なメルロ・ポンティです。現代思想にいまだ多大な影響を及ぼし続ける、現象ガクの巨人です。メルロ=ポンティについては、メルロ・ポンティとワロンのコーナーで紹介しました。






以下、更新。


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