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『2017 アーカイブ』
『コンデンサ』について(その1)
2017.12.30
今年もあと1日・・・毎年、年末には「この一年、何ができたのかな〜」などと反省会まがいのことをしていたのですが、今年は無しです。
いろいろあり過ぎて、反省しきれない状態なので・・・。
さっそく、お題である『コンデンサ』についてですが、ネット上にはコンデンサの音質についての記事があふれています。皆さん、いろいろと取り替えて検討するのが楽しいのだろうな〜と思わずニヤニヤしてしまいました。
コンデンサといえば、「電荷を溜める」という目的のほか、「直流を遮断する」という目的にも使われ、前者は電源の出力とGNDとの間に入れて平滑(リップル除去)に使われるものや、負荷(オペアンプなど)の電源端子とGNDの間に入れて電源ラインの引き回しによるインピーダンス上昇を抑制したり負荷が発生する高周波ノイズをシャントして他に影響を与えないようにする目的(バイパスコンデンサ:略称パスコン)に使われるものがあります。
後者は、信号ラインにシリーズに入れられ、DCカットの目的(正確にはDCオフセット除去:カップリングコンデンサ)に使われます。
|Z|=1/ωCに従う特性を示すのが理想ですが、現実には等価直列抵抗成分ESRやリードワイヤなどによる寄生インダクタンス成分ESLが直列に入ってしまいます。
これら不要な成分により、コンデンサには色付け(カラーレーション)が為されると考えて良いと思います。
このように物性に起因したもの以外に、その構造や形状に起因するカラーレーションもあります。
例えば、フィルムコンデンサの場合、以下のような作り方をしますが、フィルムの膜厚、巻きテンション、巻いたものを扁平化するかしないか、外装ディップ材質などによって音質傾向は変わります。
[蒸着法:SH] @ 数ミクロンの樹脂フィルムにアルミニウム等の蒸着膜を形成する ⇒ A 2枚のフィルムの蒸着膜部分を交互にずらして巻く ⇒ B 両端に電極を形成するためのメタリコン(金属溶射)を施す ⇒ C リードを接合する ⇒ D 外装ディップ形成
[箔法:nH] @ 数ミクロンの樹脂フィルムと金属箔を交互にずらして巻く ⇒ A 両端に電極を形成するためのメタリコン(金属溶射)を施す ⇒ B リードを接合する ⇒ C 外装ディップ形成
いずれの方法にしろ、それぞれの工程で性能に差異が生じるパラメータがいくつも存在します。
SH(金属蒸着)とnH(金属箔)との大きな違いは、耐圧オーバーで誘電体フィルムに穴が開いたり、製造上、部分的に薄く耐圧が低い部分があったなどの不具合でリークしたりといったダメージを受けた時に、SHは蒸着膜が薄いので穴の部分でショート(放電)しても穴の開いた周辺の膜が飛散する自己回復性(self−healing)が機能しますが、nHの場合には箔が厚いのでショートモードで破壊に至ります。
音声電流を流した場合の挙動を考えてみます。
コンデンサの誘電体は、ミクロで見た場合には電圧を上げる(充電に相当する)と伸びて、電圧を下げる(放電に相当する)と縮みます。即ち、音声電流を加えると微妙に膨らんだり縮んだりして振動するということです。この場合、膜厚とテンションは共振周波数に関与しますし、扁平化することで部位によって共振周波数が分散することが想定されます。また、外装ディップの材質によってはこの振動を吸収するのか、助長するのか、変調するのか、あらゆる状況が想定されます。
何がベストかは分かりません。ただ、これだけのファクタだけを考えても、カラーレーションが無い状態というのは有り得ないのではないかと思います。
25年くらい前になりますが、メーカーはユーコン?でフィルムはMPEだったか?・・・SHコン(箔タイプのnHコンもあった)とだけ表示した音質の素直な万能コンデンサ(付加すれば必ずと言って良いほど改善する)がありました。外装ディップはライトブルーのゴム系で、振動を吸収するタイプでした。音質的にはニュートラルで情報量が多くなるので、かなりの機種に使ったものです。
バブルを象徴するように、物量投入する設計が許された時代でした。
SHコン
次回(来年になります)は、電解コンデンサについて記したいと思います。
『CNF』について
2017.12.28
CNFと書くと、「CNT:カーボンナノチューブの誤植じゃね!」とか若い方達に言われそうですが、CNF:セルロースナノファイバーも近年、注目されている材料になります。
CNFは、京都大学生存圏研究所・生物機能材料分野の矢野浩之教授のグループで2004年から産学協同で開発を進めてきたものです。
植物を叩解していき、もうこれ以上できないというところで出来るのがCNFになります。
植物組織は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンが複雑に絡み合って出来ていることは、折にふれて記述してきたのでご存知の方もいらっしゃると思います。
振動板に使う場合には、植物組織の性質を残しながらその特質を生かす方法でしたが、CNFの場合には、完全にほどいてしまい、セルロースの最小単位(繊維)にしてしまうことが大きな違いです。
このようにしたものは、乳白色半透明のゲル状になります。
CNFが注目されるのは、このままではなく他の樹脂との複合材料としての特質です。
金属よりも強靭、軽い、紙とは違って耐熱性がある、柔軟性があるなど、木質であるセルロースには無かった特質が種々の樹脂との組合せで生まれるのです。
当然ながら各業界から注目され、産学協同研究の結果、色々な特質を持つ材料が生まれました。有限な石油資源による合成樹脂だけでは将来の枯渇が危ぶまれる中、天然の木質資源を有効利用するというエコな面が注目され、且つ、高価なエンプラに代わる(実際には主材ではなく添加材だが・・・混合比率は逆転する場合もある)材料としての価値は高く、既に実用化されているCNTの1/5以下のコストで済むというC/Pの高さが魅力になり、急激な普及が進みつつあります。
ボールペンのインク増粘材にも使われています。
(三菱鉛筆 ユニボールシグノ307 https://www.mpuni.co.jp/news/pressrelease/detail/20160302173951.html)
また、その透明度の高さとしなやかさを生かしたものとして、パイオニアが有機ELと組み合わせてフレキシブルな表示器を研究しているそうです。
世の中がこれほど注目して採用している状況の中、オーディオ製品の材料として、もっと注目されるべきと考えます。
PDF『理想のスピーカーユニット』の中にも追記しましたが、エラストマー(ゴム材料)との複合材も可能なので、強度が大きく、且つ、制振性のある材料も作れるはずなので、できればハウジングに採用していただけるメーカーが出てこないかなぁと考えています。
スピーカーユニットの構成部品の中で、一番取り残されているのがハウジングです。高級ユニット設計において、他の部品(振動系や磁気回路)に関しては色々と検討されて歪への対応も進んでいる状況の中で、現在、残された歪の発生源は何かと考えるとハウジングがダントツだと思います。
ユニットが振動源を持った構造物である以上、本来は構造力学的な考慮が必要であるにもかかわらず、ないがしろにされてきたのが現状です。コストがかけられる高級ユニットにしても、せいぜい材料にアルミダイキャストやマグネシウム合金のキャスト材を使うこと止まりでした。
そこまでコストをかけられないものは、ガラス繊維のフィラーを入れた耐熱樹脂(FRPに分類されます)を使用するくらいで、それ自体は珍しくもありませんが、きちんと構造力学的に最適設計されたものは非常に少ないです。
ハウジングの主目的は、「磁気回路と振動系の位置関係を維持するもの」であり、その目的以外のものはシェイプアップすべきなのです。
『理想のスピーカーユニット』にも書きましたが、振動板の背面開口率は重要なファクタであり、振動板の後方放射がハウジングに反射して、振動板を透過して耳に到達すれば、立派な時間遅れ歪になります。
また、振動板に正対反射せずとも音響負荷にはなります。当然、ハウジングは共振対象になるわけで、そのエネルギーをどう扱うかが音質にも影響します。
キャビネット(バッフル板)に固定すれば、機械インピーダンスの低いキャビネットに向かってこのエネルギーが流れ、キャビネットが共振して二次輻射が起こります。バッフル固定部分からハウジングの腕が伸びていて、その先に磁気回路という錘が付いているようなものです。どれだけ固定部分にモーメントがかかるか分かると思います。
これを避けるためには、『ユニットをバッフル板に固定しない方法』を取り入れるべきで、テクニクスのSB−G90では磁気回路のトッププレートから固定用のリブを伸ばし、それを介してサブバッフルに固定する方法を採用しています。
ただし、固定先(この場合はサブバッフル)が仮想GNDに相当する性能『十分に大きな質量』を持っていなければならないため、対策としては十分とは言えない状況です。ここは柔構造や力学的分散(エネルギーは分散され、それぞれの部位を励振してしまう)などの手法では意味がありません。大きな質量で吸収する(エネルギー保存の法則、運動方程式:質量が大きければ加速度は小さくなる)しかありません。
富士通ゼネラルのECLIPSEシリーズ(流線型のデザインが目を引きます)では磁気回路の後方にグランドアンカーという質量の大きな部分を設け、それを床に対してリジッドにする設計手法を採っています。キャビネットには『容積を決定する器』としての機能だけを期待するという拙作ARシリーズと同じ考え方です。
詳細は、PDF『理想のスピーカーユニット』を参照願います。
今回の後半はハウジングの重要性が話の中心になりましたが、CNFはオーディオでも非常に期待できる材料で、メーカーさんには、どんどん採り入れていただきたいものです。
『フィルタと群遅延特性』について
2017.12.16
アナログであれデジタルであれ、フィルタは入力 ⇒ 出力間に処理を行うものなので、時間tの伝達関数H(jω)であらわすことになります。
先日、ちょっと前のオーディオ関係のメルマガを見ていたら、「デジタルフィルタは群遅延特性が悪い」というとんでもない記事がありました。それも仕事としてオーディオ設計をしていたリタイア組の記事です。
そもそも群遅延とは位相の微分dφ/dtであって次元は時間t(単位はs)になります。結論から言うと、その特性は設計次第なのです。伝達関数の係数設定次第と言ったほうが正確でしょうか。
よく使われる応答形式として今から90年以上前に開発された『バターワース』というものがあり、周波数応答の特徴としては「最大平坦(リップル無し)」になります。
最大平坦が目標ですので位相は考慮されなかったため、カットオフ近辺で変化し、dφ/dtもゆるやかにうねります。
オーディオ以外で大きな減衰を求めた場合には『チェビシェフ』というものもありますが、リップルが多く、位相変化が大きいため群遅延特性も悪くなります。
位相直線(フェイズリニア=群遅延ゼロ)を狙うものとして『ベッセル』がありますが、減衰傾度が緩いのでフィルタ応答としては十分ではないと言えます。何段も重ねて減衰肩特性を改善します。
デジタルの場合にはフィルタとフェイズシフターを組み合わせて係数を整えることで、これらの特性を満たすように設計します。したがって、「デジタルフィルタは群遅延特性が悪い」というのは都市伝説と言えると思います。
3つの特性を比較したNF回路設計ブロックのHPが参考になります。
http://www.nfcorp.co.jp/techinfo/dictionary/026.html
オーディオで群遅延特性が云々されているのは、大脳生理学的というよりは動物の感性(本能:敵の認知)として位相の緩やかな変化は認識されにくいが、急激な変化は認知されるということによります。人間が感じる違和感、不快感は歪であり、排除すべきという発想です。
これはテクニクスSB−7000などによる1970年代に始まったリニアフェイズの流れに源流を求めることができます。
B&Wなどが実施している振動板位置を合わせるということもそうですし、『無線と実験』に新井悠一氏が掲載しているリニアフェーズ化シリーズのようにタイムアライメントを含めて検討することは、これからのタイムドメイン設計の主流になると思われます。
『訃報 中島平太郎氏逝去』
2017.12.13
メールを確認していたら、NHラボより訃報が届いていました。
6月に骨折されましたが1ヶ月ほどで退院され自宅療養中で、駒沢公園に車椅子で散歩に出向いているとお聞きしていたので、お元気にされているものとばかり思っていましたが、9日(金)に急性心不全でご逝去されたとのこと。享年96歳でした。
CDの生みの親、日本オーディオ界の重鎮をまたひとり失いました。
お会いできたのは数度でしたが、90歳を超えたご高齢とは思えない矍鑠とした講演にびっくりしたものです。
ご冥福をお祈りいたします。
『MQAについて』
2017.12.11
東京インターナショナルオーディオショーのPDF記事の中でメリディアンが開発したMQA(Master Quality Authenticated:マスター音質の保証)というものがあることを取り上げました。
デファクトスタンダードになってくれればと思いながらも、その後、それほど気にしていた訳ではありませんでしたが、MQAに関する記事が増えてきており、徐々に注目されつつあるようです。
どちらかと言うと、「高圧縮なのにロスレスで可逆性がある=CDメディアに記録して、再生時にデコーダーを通せばハイレゾで楽しめる(デコーダーが無ければCD品質で楽しめる)」という手法的な部分がクローズアップされているのかとばかり思っていましたが、MQAの本質である『タイムドメイン(時間領域)でのメリット』に注目が集まりつつあるようです。
デジタル処理技術なのにタイムドメイン?と思われる方がほとんどと思われます。
「クロックの話だろう。常識だよ」と仰る方もいらっしゃると思いますが、事は水晶発振子やクロックジェネレータだけの問題ではないのです。
デジタル処理としてフィルタ(FIRやIIR)、アンチエイリアス(偽信号除去)などが実施されることにより、メリディアン曰く『時間の滲み』『時間のボケ』という現象が起こります。
このことは、処理後のインパルス応答を見ると如実に分かります。
処理に伴ってサイドバンド(処理の事前、事後:赤線は192kHzリニアPCM)が発生します。
これは時間軸レスポンスの漏れとも言えます。理想は、入力と同様に0s(グラフの中央)で1本の棒状になる事です。
下図:メリディアン資料からの流用のため禁転載です
「漏れと言っても数字的には数百マイクロ秒の現象なので、人間には認識できないのでは?」と仰るかたもいらっしゃると思いますが、一方、クロックジェネレーターに数PPM(百万分の1)のジッタでも許せず、PPB(10億分の1)のオーダーまで求めようとしているメーカーが出てきています。
これは時間確度ではなく周波数確度の問題ですが、測定はTIA(タイムインターバルアナライザー)によるところになり、マスタークロック周波数が16.9344MHzだとすると、その5PPMは約85Hzのジッタ(周波数確度:揺らぎ)・・・小数点第4桁目の4が3〜4の間で変動するだけです。これが認識できるということは、5/1000000の揺らぎが認識できるということです。例えば、周波数が400Hzだとすると、400.002Hzから399.998Hzまでの変化が聴き分けられるということです。
私も同感なのですが、メリディアンも記述しているように、ここに挙げたクロック精度向上など1極集中の物量投資はC/Pが悪く、トータル(徹頭徹尾=入力から出力まで)での訴求が効果も含めてベストな選択になります。クロックジェネレータ以降の処理による揺らぎを克服しなければ期待した効果は得られないということです。
初期(約30年前)のK2インターフェイスが各種処理を繰り返した後のPCM信号をD/Aコンバーター直前にマスタークロックで叩きなおすこと(リクロッキング:当時は「符号情報の取り出し」と称していました)を実施していましたが、これもジッタ悪化を防ぐハード手法のひとつでした。
2012年以降、ニューロサイエンス分野における時間情報の分解能に関する論文が発表されましたが、それらによると、従来は50マイクロ秒が平均的な人間の時間分解能とされていたのに対し、5〜8マイクロ秒まで認知できるという発表になっています。
皆さんは、50マイクロ秒(0.05ミリ秒)でも十分に小さいと思われるでしょうが、気中の音速を340m/秒とすると17mmに相当します。両耳間距離(約18cm)を1波長とした場合(約1.9kHz)には、17mmの位相差は約30度強に相当します。この分解能が、ほぼ妥当な数字ということがお分かりいただけたでしょうか。
これは、「違っていることが分かる」ということで、「どこがどう違うかが分かる」ということではありませんが、違和感というレベルでは認知できるということです。
数値は統計値であることから、聴覚能力の個人差によらず分解能は数十マイクロ秒以下まで達していると思われ、上記のインパルス応答の1/10以下に相当します。したがって、デジタル処理であっても時間領域での歪が発生していて、改善検討が必要であることが裏づけられたということです。
MQAの取り組みは、量子化ノイズの伴うエンコーダーでの処理アルゴリズムや演算方法(ディザー注入など)、ハード処理などによりデジタル処理に伴うサイドバンドを小さくすること(結果的に周波数確度、時間確度ともに向上)やノイズフロアの低減になります。もちろん、データ圧縮のための折り紙工程もそれに含まれていて、ノイズフロアを下げることで、その冗長領域に畳み込むことが可能になります。
既存録音ソースに対してのサイドバンド滲み許容量は±10マイクロ秒の目標を設けていて、上図のMQA特性を見て分かるように、それに近い実績を残しています。
JASジャーナル2015年11月号に詳細情報がありますので、以下のPDFにアクセスしてみてください。
http://www.jas-audio.or.jp/jas_cms/wp-content/uploads/2015/12/201511-045-057.pdf
東京インターナショナルオーディオショーでは、残念ながらその効果を聴くことはできませんでしたが、「マスター音質を保証できる」ということは、理論的には画期的な概念だと思います。重ね重ねデファクトスタンダード化を期待したいです。
『NHK放送博物館 8Kシアター訪問』
2017.12.9
昨日の12月8日。紅葉も後半になってきたので、去年同じ時期に訪れた板橋の六義園に行き、谷根千(谷中・根津・千駄木)を訪れ、NHKスーパーハイヴィジョン『ガウディが見た夢』を鑑賞するべく、朝7時半には家を出ました。時間的には、結構ハードです。
六義園には9時過ぎに到着。残念ながら曇り空で、紅葉の色が冴えません。仕方なく、バックをボカしてアップでの撮影・・・バックのV字の枝はアクセントで入れたのですが、ちょっとクドいかも・・・撮影したなかでは、これがマトモなほうでした。
板橋から日暮里に移動し、谷中ぎんざ〜団子坂〜谷中霊園〜日暮里駅のルートでそそくさと回りました。時間があればゆっくりと回りたかったのですが、13時から愛宕山のNHK放送博物館に行かねばならないので・・・。
板橋から新橋まで山の手線で移動し、歩いて愛宕山へ。どのくらい混むのか読めなかったので12時前には板橋から乗車して、12時半には博物館に到着したので展示物を鑑賞。1964年の東京オリンピックで使われたTVカメラがモノクロとカラー両方の撮像管を搭載していたことを始めて知りました。当時は白黒テレビが大半で、国の威信をかけてカラー放送しなければならず、このような構造になったようです。でも、このようなトライがなければ日本を経済大国に押し上げることも出来なかったと思います。厳しいけれど遣り甲斐のある時代だったのだろうなぁと、ちょっと羨ましくなりました。
シアターは10分前に開場ですが、一番乗りでした。100席くらいあるのでしょうが、20席くらいが埋まった状態でスタート。眼鏡を忘れたので前から2列目の一番ベストな位置に陣取りましたが、音声は中央が良かったのかも・・・。
8kはNHK技研で何度か見ているので、あまり感動はありませんでした。細かく見ると4kの4倍解像度ですから素晴らしいのでしょうが、裸眼では限界があります。普通のハイビジョンの16倍解像度になります。22.2chの音声をゆっくりと聴きました。
22.2chの振り分けですが、今までと同じ相(中層と呼んでいます)には前方5ch、左右2ch、後方左右と真後ろに合計3ch、中層合計で10chが配置されています。追加になったのは上層(天井に近い面)の前方3ch、左右と真上に合計3ch、後方にも3ch(上層合計9ch)、そして下層にはフロントに3ch、重低音として左右に0.2chが配置されて総合で22.2chということになります。
禁転載
まず、一番違いを感じたのは、2chや5.1chでの映像鑑賞では平面より上方の発音画像に対して平面からやってくる音波情報を脳で補正をかけて合成しなくてはなりませんでしたが、それが不要なことです。
脳には経験値が記憶されていて、音のスペクトラムで上下の分別がある程度はできますが、経験値として登録されていないものには、上記のように合成という手間がかかり、結果的に疲労するか、脳が合成を諦めてしまう(順応する)ことになります。
不自然さからくる疲労が少ないのが最大のメリットと思われます。
『ガウディ・・・』では教会内部でのミサや街中での車が通る喧騒など以外にはあまりメリットを感じませんでしたが、その後に続けて上映した『川合玉堂 近代日本画の巨匠が描いた鵜飼』で、鵜飼の松明が映像の上方で揺らめく場面では目を瞑ってもほぼ同じ位置から音がやってくるのが確認できました。これは不自然さを払拭するには最良の手段だと感じました。
重低音に関しては両耳間距離に比べて波長が十分に長くなるので方向の情報が不要で0.1ch(LFE)だけで十分と言われていた5.1chですが、聴感上違和感があったのは事実で、今回の上映では重低音の定位に関しても明らかな改善がみられ、0.2chにしたメリットは大きいと感じました。
次回は12日からの『青森ねぷた祭2015』になりますが、鑑賞したくなってしまいました。
https://www.nhk.or.jp/museum/atago8k/atago8k_index.html
12月の上映予定は、
https://www.nhk.or.jp/museum/atago8k/pdf/atago8k_201712.pdf
を参照してください。
ちょっと残念なのは、上映中、映画館のように真っ暗にならないので黒の階調がイマイチ(黒が浮く)だったことくらいでしょうか。
22.2ch音声記録の情報は、
http://www.nhk.or.jp/strl/publica/rd/rd148/PDF/P12-21.pdf
にありますので、参考まで。
記事中に記されているようにライブ録画時に使用するマイクは球形のワンポイント(MユニットはゼンハイザーMKH−8020x16本:FLc(中層前左中間)、FRc(中層前右中間)、TPc(上層真上)を除く中層、上層各8ch)のようですが、後工程で収録しなかった3chを合成加工しています。
映像のパンニングに応じて、以前はマニュアルで強度比率をひとつひとつ調整して合成していたものを、各chの入力強度を3次元のジョイスティック操作(GUI)で簡便に調整することが出来るようになり、映像と音場との親和性が向上しているようです。3次元残響付加装置も組み込まれていて、各種会場の残響特性を記録してあり、その再現ができるようになっています。また、低域の暗騒音を低減するLog−TSPを採用して実用的なS/Nを確保できるとのこと。
ホールでの録音はどうしているのか知りたくなってきます。
帰りに愛宕神社の紅葉も撮影したので1枚だけ。
『同軸 凸型振動板ユニット』について。
2017.12.5
Webを彷徨っていたら、KOONのパワードモニターBC−1を見つけました。
「聴いていて疲れないスピーカー」というのがこのスピーカーの売り文句になります。
それを満たすための具体的な特徴としては、@ 凸型振動板により球面波を放射すること、A キャビネット形状により内部定在波を防止すること、B DSPを使ったチャンネルデバイダーを内蔵していることなどになります。
特にBに関してですが、L、Cを使ったパッシブタイプのデバイダではカットオフ周波数付近での位相回転が理論的に発生してしまうこと、そしてウーファとトゥィータの位置関係(駆動点の距離差)により位相のズレが発生することを、DSPのパラメータを適宜設定することで排除することができると謳っています。
脳を含めた聴覚機能(器官)は、常に不自然さ(この場合には位相の不整合)を補うように働くので、「疲れる」というのは当たらずといえども遠からずかもしれません。ところが脳には『順応』という機能もあり、いつのまにか慣れてしまう(感じなくなってしまう=感度が低くなる)のも確かです。実際には、疲れる以前に違和感を覚えてしまい、聴くのを止めてしまう場合が多いでしょうが・・・。
禁転載
可能な限り点音源に近い状況を実現するという意味では凸型振動板が通常のカーブドコーン(アサガオのような形状)に比べて有利(凸形状により、分割振動領域以外では球面波に近い粗密波を生成)ですが、従来と同じハウジングを使うと、構造上ボイスコイルが異常に長くなるために振動系実効質量が大きくなってモタつく(時間領域の遅延歪)などの音質デメリットが目立つようになってしまうため、最近の市場ではあまり見かけませんでした。
実際には、ユニット直径の2倍程度離れてしまえば、振動板の形状による影響はほとんど無くなるし、上図のようにSPシステムの正面を内側(視聴者)に向けてセッティングされる方以外はどちらもほぼ球面波になるのですが・・・皆さん、イメージに囚われすぎているようです。
そうなると、「疲れない」を実現している主役は、外観から受けるイメージとは裏腹に、ABの何れかの比率が大きいということになります。
Aは、キャビネット内部で反射した音波が振動板を通過して視聴者に届くことによる混変調歪を低減しており、Bは上記したように位相歪の低減になります。
「疲れないスピーカー」というフレーズを聞いた時、2013年にLINNのEXAKTが発表され、それを視聴した時のイメージと重なりました。パッシブフィルタ(デバイダ)を使わずに、DSPで位相変化させずに帯域分割すると「疲れない」のです。多分Bが「疲れない」との因果関係が高いと思われます。
BC−1は同軸2ウェイ構成です。
横からの外観図を見る限りウーファ側は従来構造のままで円錐型のサブ振動板をメインの凸型振動板に貼り合わせているように見えます。これはテクニクスSB−C700のユニットにも使われている方法で、実効質量は大きくなりますが、構造的には妥当な方法と思われます。
同軸の場合、ウーファとトゥィーターをリニアフェイズとするために駆動点を出来る限り合わせる必要がありますが、凸型振動板の口元をボイスコイルに接着しているようですので、ほぼ駆動点は揃っていると思われます。ただ、サブコーンを介して伝播した振動と口元から凸型振動板に直接伝播する振動では微妙に干渉する可能性があります。
この部分をきちんと整理して合理的な構造にするためにはどうすれば良いか考えてみました。
磁気回路は、ボイスコイルを短くして直接振動板駆動方式だけにするため、振動板の裏側に収納されるような形として、且つダンパーレスとしています。(必要であれば磁性流体をギャップに入れる)
また、従来型構造に囚われていると、磁気回路の形状により振動板の裏面放射に対する開口率が下がってしまうので、磁気回路はコンパクト且つエッジ部分が無く磁気漏洩の少ない壺型ヨーク、それも胴体部分が膨らまない円筒に近い形にしてみました。ネオジウム磁石を使ってコンパクト化を図れば良いと思います。
エッジ(座)ベースは磁気回路の後方を支えているハウジングから5本のリムを生やしスタッドを介して結合させています。このスタッドの寸法を変えることで、各種振動板形状や磁気回路サイズにフィットさせられるようにしています。
エッジ・ベースはキャビネットへの固定を考えていません。キャビネットへの固定は、磁気回路後方のハウジング・ベースを介して行うことを想定しています。
昔取った杵柄。のめり込んでしまうのが恐いので、ユニットには手を出さないと決めたから自作はしませんが、このようなユニークな形状で合理的なユニットをどこかのメーカーが本気で検討して実現していただければなぁと思います。
『MAG-REV audio』について。
2017.12.1
国内ではあまり話題になっていませんが、ターンテーブル(プラッターと呼んでいます)を磁気浮遊させて回転させるプレーヤーの開発が進んでいます。
https://www.kickstarter.com/projects/245727224/mag-lev-audio-the-first-levitating-turntable
https://maglevaudio.com/
上記の写真が演奏状態で、LPディスクを載せる際には、下から4本のプラッターフットがせり上がってきてプラッター裏にある溝に入る形でプラッターを固定します。これは、ディスクを載せる時の安定度を確保するためです。プラッター側が溝なのはフットが下がり始めて完全に離脱する前にプラッターが回転しても問題が無いようにとの考慮でしょう。
MAG-REV audio.comという企業が8名のメンバーによるプロジェクトとして立ち上げ、kickstarter.comという企業が協賛会員を募集しています。
協賛金(実際には、購入費用)を先に徴収し、それで商品化をしようというもののようです。
デモ動画を見る限り、プラッターは4〜5cmほど浮遊しています。重量物をこれだけの距離まで浮かすとなると、かなり強力な磁気回路が必要になりますし、漏れ磁束によるピックアップカートリッジへの影響が心配です。プラッター裏側の映像を見る限り、溝以外の部分(磁石は見えませんが・・)は樹脂で埋められているようです(映像ではオレンジ色の照明が反射してコルクのように見えますが・・・)。ただ、最外周部分はイナーシャを大きくするために非鉄金属を入れていると思います。(私なら他の部分は比重の小さなものを充填しても最外周は比重の大きなものを使います)
外部からの振動を断ち切るということであれば、浮上は1mmでも十分だと思いますが、同じ原理を使った玩具U−CASと同様、この距離がバランスが取れる距離なのかもしれません。(U−CASは浮上する独楽が回転していないと安定しませんが・・・回転モーメントによるジャイロ効果です・・・プラッターが安定して回転しているのも同じジャイロ効果が寄与しているのでしょう)
そうは言っても、距離が離れれば離れるほど制御は難しくなりますし、漏れ磁束も増え、それなりの物量投入が必要になってC/Pが悪くなります。
浮上原理は、漏れ磁界の反発によるエントロピー鞍部での安定(バランスが取れた状態)を利用していると思われますので、安定範囲を外れる(バランスを崩す)と一気に不可逆な状態となり、エントロピーのより大きな方向に力が働き、吹っ飛ぶか本体側に急激に吸着されます。
これは、私が何度も陥った失敗から導いたものですので、真実です。
同じく磁気浮上を利用して強化ガラス板をフローティングしているSAP社の「RELAXA530」で位置がズレないような構造を取り入れているのも、この脱調(制御不能)を避けるためのものです。
たぶんMAG-REVの場合には、鞍部を広くするためにプラッターの裏側に細いリング状の磁石を配置し、本体側にはそれに対向して内側に円筒、外側に大きなリング状の磁石を配しているのではないかと思われます。(次図)
動画の中に指でプラッターを突いて揺らすところが出てきますが、f0は2〜3Hz程度。収束時間は極端に長いよう(10秒以上)です。
浮遊は上記のように磁気反発を使っていますが、回転(駆動)方法については記述が無く、コアレスの巻線を円周上に8極〜16極並べて渦電流で駆動しているのでしょうか?この距離では難しいので多分違うでしょう。
色々と考えてみましたが、浮遊させるだけならば磁石は対抗面双極着磁(表がNならば裏はS)してあれば良いのですが、その場合には相互位置が決まらず自由回転してしまいます。磁石を多極(4極?)着磁し、本体側の磁石を3相4極6スロットのようなモーター構成(中心軸あり)などにして回転させることで本体とプラッターとの相互位置関係を保持した状態で回転させているのかもしれません。(通常のコアレス誘導モーターの上に上図の浮遊構造を載せたと考えれば分かりやすいと思います)
その場合には、モーターが上記のf0共振周波数を持つバネを介してプラッターを駆動しているようなものなので、駆動側モーターのコギングとの関係が重要になると思われます。
また、構造上、回転軸芯がないので、ディスクの偏芯は防げないと思います。(一般のアナログプレーヤのように中心を固定して回転させるものとは異なるため、仕方ないと思います)
非接触は、見た目がセンセーショナルですが、浮遊しているプラッターのコントロールが難しく、外乱に対して無防備になるため、置き場所を選んだり、大きなケースに入れる必要が生じるかもしれません。
それでも興味が絶えません。今年の7月には販売予定だったはずですが、早く商品化して欲しいものです。
『理想のスピーカーユニット』を追加増補しました。
2017.11.28
私事ですが、今月末をもちまして定年を迎えます。
少し時間がとれましたので、スピーカーユニットについて書き足りない部分を補足するつもりでしたが、最近の動向が気になったり、昔の部品メーカーがどうなっているかが気になったりして、2週間に亘って寄り道をしながら追加していったらページ数が多くなってしまい、目次を設けました。
12項目に分けて記述してありますので、気になるところからツマミ食いしてください。
それから、気になったのは、Webには誤情報が溢れているということです。
自分の思い込みや聞きかじりで気楽(無責任と言っても良いかも)に書き込んだ記述が多く、これを信じてしまったらとんでもないことになるな・・・という感想を持ちました。
例えば、「ダブルマグネット」で検索してみると、バックプレートに背負っている第二の磁石(バックマグネット)について本来の目的である『防磁』ではなく「磁気回路を強化するもの」という記述までありました。
実際には、上図のようにバックマグネットの極性を指定して組み込んだ金属ケースがヨークの役割をして漏れ磁束を引き込み(破線丸囲み部分)、結果的に防磁の目的を達成します。バックマグネットからの開放磁束はケースに阻まれて基本的に(飽和しない限り)はケースの外に漏れません。
ブラウン管式のテレビが全盛の時代に採用されたもので、スピーカーをブラウン管の近くに実装する場合、SPユニットの漏れ磁束がブラウン管の電子ビーム偏向に影響を及ぼし、画面に色ムラができたり、ひどい場合には画像が歪んでしまったりするのを防ぐものです。
今では、実用性が無いものになってしまった技術のひとつです。
せめて、根拠の無いことは「・・・と考えます」「・・・と思われます」などの個人的意見の形式を採り、断定しない記述を心掛けるべきと考えます。
音質についての記事「・・・を聴いてみて」などは、自分の感じたことが相手にも同じように感じられるという勘違いをした記述が多く、残念な思いをします。聴覚には運動能力などと同様に個人差があることを認識していない記事が多過ぎます。運動能力であれば筋力や瞬発力をはじめとして分かりやすい差(客観的な数値など)があり、それを測定する機会がありますが、聴覚にはそれがないため、個人差というものを認識しにくいのだと思います。
この件については、私自身も常に反省の連続ですが、出来る限り感覚的な部分での断定は避けています。
なぜ個人差が生まれるかは生体機能に依存しており、以下の拙著pdfファイルを参照ください。
pdfファイル:
『音声記憶の脳メカニズムについて rev.1.04』
pdfファイル:
『理想のスピーカーユニット』
『NHセミナー第25回参加報告』
2017.10.9
10月6日(金)に開催されたNHセミナーに参加しました。
今回は、いつもの会場ではなく、大岡山駅前の東工大蔵前会館1階ロイヤルブルー。
テーマは「1ビットマルチチャンネル音源を使った たまごスピーカ 再生」になります。
8ch同時デジタル録音したソースを使って、おなじみのNH-W1&B1を8本使って再生させてみようというデモになります。
この方法は、ステレオフォニック2chの録音〜再生の考え方の延長線にあり、8chを独立に記録することになります。したがって膨大な情報量を同時に処理する必要があるため、従来はメモリ容量の問題や、処理時間が追いつかず実現できなかったことが技術の進歩により可能になってきています。
市場に販売されているソースではないため、現時点ではあくまで実験レベルと考えますが、将来的にはシステムとして市場投入されるかもしれません。
例によってPDFファイルにまとめました。
pdfファイル:
『第25回 NHセミナー』
『2017 Tokyo International Audio Show』
2017.10.8
東京インターナショナルオーディオショーが9月30日〜10月1日の3日間の会期で催されましたので、二日日の30日(土曜日)に見学に行ってきました。
月末はバタバタしていて、前日の金曜日は家に帰り着いたのが午後11時過ぎ。バタバタのうちに土曜日の朝を迎え、急に写真が撮りたくなって鎌倉へ・・・。
材木座海岸で撮った写真を一枚。ウィンドを始める前の緩やかに過ぎる時間・・・。
午前中に撮影を終えて、午後1時前には会場に到着。
5時半には帰宅しなければならず、4時までの3時間の配分を考えて7階より回ることにします。
一番の目的はB&Wの800D3の試聴で、混んでいて座ることは期待していませんが、販売店で買いもしないのに試聴させていただくのは気が引けて・・・こんな機会でもないとなかなか聴けないものです。
もう一つは元気なテクニクスがどんなデモを行うか・・・SL−1200Gを復活させたと思ったら、コアレスモーターを新規開発してGRにリファイン・・・次に何が来るのか。
それともう一つ。海外勢の美しいデザインに触れること。未だに日本製で美しいと感じた製品は少ないですね。特にアクシスで扱っているものは芸術品と見紛うものもあるので、毎回楽しみにしています。
DanDagostiniのPROGRESSIONやMSBテクノロジーのReferenceDACなど、惚れ惚れしてしまいます。
詳細は、PDFファイルをご覧ください。ちょっと長いので、飛ばし読みしていただけたら良いと思います。アドレスはPDFにリンクを貼っていないので、ウェブブラウザによってはクリックしただけではサーフできないことがあるかもしれません。その場合にはアドレスボックスにコピペしてサーフしてください。
pdfファイル:
『2017 Tokyo International Audio Show』
PDF『TSパラメータ』を追加増補しました。
2017.9.10
AR-2の再設計のために拙著PDF『TSパラメータ』を参照する機会がありましたが、言葉足らずで分かりにくいところが散見されました。
週末は天気が良かったのでAR-1の整形作業を進めたかったのですが、腰痛には勝てず、PDF『TSパラメータ』の見直しを行ったというところです。・・・情けない・・・。
PDFにする前の原稿は、従来はExcelでしたが、Word化を進めています。図は相変わらずExcelで作成し、PNG画像にしてからWORDに貼り付けることで体裁を整えています。
Excel2002なので数式ツールは自由度が低いのが難ですが、何とか使い回しています。(会社で使っている2010と使い勝手が違いすぎます・・そろそろ買い換えないと)
なぜ?どうして?という部分については出来る限り追記しました。
項目を赤字にしたものは重要度の高いものです。他のパラメータは、それらを使って演算で求められるものです。
pdfファイル:
『TSパラメータ』
『AR-2 構造リファイン その1』
2017.8.27
今週は忙しく、昨夜AR-2の見直しを行いました。
当面、気になっていたのは、重心が後方にあるのをどうやって改善するか、後方ユニットの前面スチフネスがこれ以上悪化しないようにしつつ、且つ、外形を出来る限り変えずにリファインできるかの2点です。
いっそのことキャビネット外径をふたまわり大きくすることも考えましたが、下図のように『あたまでっかち』な宇宙人のようになってしまい、センスの悪い私でも納得できませんでした。
妥協点を模索し、今日時点での形状は下図になります。
青の破線が先週末時点での形状です。支持シャフトに対し重心を出来る限り前方に移動するために前後ユニット間の距離を大きくしました。これは後方ユニットのキャビネット内放射が直接前方ユニットの振動板を通過して漏れてくる歪に対しても有効ですが、打消しに関して影響が出ないかどうかは未知数です。
また、外形を変えずに内部だけの変更にしているため、単純に後方ユニットの前方スチフネスが大きくなってしまうので、影響を小さくするようサイレンサー迷路部分の構造を考慮して容積の配分を変更しました。
今週は、ここまででタイムアップです。
『ARシリーズの目指すもの』をアップしました。
2017.8.19
お盆休みというのに、毎日、雨、雨、雨・・・。
おかげでAR-1のピアノ塗装への変更を予定していたのに作業を開始したのは昨日。
用意した自家製木工旋盤で形状の整形から始めましたが、想定外に形状が変形していたのと、木工旋盤の強度不足で作業が思い通り進まず、DIY店と家の間を行ったり来たり・・・。
やっとそれなりに作業が進みだしたのは、今日の午後から。ラッキーにも我が家が雷雨に見舞われたのは、作業を切り上げた6時半過ぎ。午後いっぱいかかって、1本目のキャビネット修正整形が9割くらい終わりました。
塗装は下地処理次第で決まりますので、手は抜けません。晴れれば、明日中には2本とも下地修正を終わりたいものです。その後、週末の自由時間を使って、こつこつ作業を進め、秋には製作記をアップしたいと考えています。
雨で作業が出来ない間に『ARシリーズの目指すもの』を自分なりに整理してみました。
富士通テンのECLIPSEシリーズに触発されて、「よし、一発作ってやるか!」と一念発起。ECLIPSEがグランドアンカーという部品を磁気回路の後部に付加することで磁気回路の質量をアップし、振動板の動作基点を明確にしようとトライしているならば、昔から温めていたユニット2発の後部を突合わせた構造を取り入れることで作用反作用の打ち消し(理論的には質量∞)を狙い、不要振動から完全フリーなエンジン部分を狙ってやろうというのがスタートでした。
AR-1で初めて音を出した時、正直言ってまともな音ではありませんでした。仕事のない週末とお盆、年末の長期休暇を利用して、原因を調べ、ひとつひとつ解決できる問題は解決し、お茶を濁すところは濁し、それなりの結果を残してきたことは、製作記やトピックに記してきたとおりです。
AR-2の設計を始めてからも、既に2年以上が経過しました。本当にライフワークになっちゃったなぁというのが実感です。
先日、Alpair-6Pのディスコン(生産中止)を知りました。AR-2にも使うつもりで設計していたので、「寝耳に水」でした。
慌てて、ネットを調べましたが、どこもソールドアウトばかり・・・。1ペアだけ見つけましたが、ARシリーズでは片チャンネルに1ペア使うので不足します。ダメ元で秋葉原のコイズミ無線に出向いて確認すると、とっくに在庫切れとのつれない返事。仕方なく、代替にと考えていたAlpair-10Pを4本購入しました。
もう少し吟味すべきだったかもしれませんが、TSパラメータも確認しており、購入することで自らに負荷をかけたかったのです。
暫くは、AR-1のピアノ塗装とAR-2の再設計を並行して進めていきます。
以下にPDFファイルを掲載します。
pdfファイル:
『ARシリーズの目指すもの』
『ダンピングファクタと逆起電力』を追加増補しました。
2017.7.30
「ダンピングファクタは大きいほど高性能」「磁気回路が強力なほどユニットとしては優秀」と言われているのは本当でしょうか?ただメーカーに踊らされているだけではないか?
そんな疑問をお持ちの方も多いと思います。
スピーカーを考えるうえで切っても切り離せない『逆起電力』の観点から、この疑問に臨んでみました。
結果から言ってしまうと、一部のマニアの方には納得できないものになっているかもしれません。
これも改訂版になります。
以下のpdfファイルに掲載いたします。
pdfファイル:
『ダンピングファクタと逆起電力』
『音場再現の限界』を追加増補しました。
2017.7.17
前回は人間の聴覚器官の機能を中心に音声記憶メカニズムについての資料の見直しを行いましたが、今回はそれに関連して『音場再現の限界』を追加増補しました。
・音場はどのような要素によって検知できるのか?
・ステレオフォニックとバイノーラルの違いは何か?
・再生側ではなく録音〜記録媒体への記録側で何が起こっているのか?何が限界を生んでいるのか?
大きく分けて、この3つについて記述してみました。
例によって、PDFで掲載させていただきます。
先日、中島平太郎先生のNHセミナーに参加させていただき、潟rットメディア社の穴澤氏による残響分離制御ユニットBM-1のデモを体験してきましたが、その紹介も入れております。
内容としては、2年半前より充足できたと思います。
pdfファイル:
『音場再現の限界』
『音声記憶の脳メカニズムについて』を追加増補しました。
2017.7.2
音声が人間の脳の中でどのように扱われているのか気になり、年初にアップしてから半年以上が経過しました。
大脳生理学とオーディオを結びつけて記述した「まとまった資料」など無く、Web検索や知り合いの医師からの聞きかじり的に書いたこともあって現実との整合性が気になっていたのですが、はたけ違いの事ゆえ調べ始めると奥が深く、かなりのパワーを必要とすることから改定するのを躊躇していたのですが、思い立ったが吉日と自分を奮い立たせて内容を増補しました。
シロウトゆえ間違いも多いとは思います。Webで調べてみると、事実だけを記述しているのではなく、思い込みや勘違いの記述もあることに気付きましたので、それらをスクリーニングしたつもりです。
例によって、PDFで掲載させていただきます。
「本文に記述しないとアクセス数が伸びないよ」と友人に忠告されましたが、数字だけが目標になるのは本意に反しますので、資料としての有効性を優先させていただいています。
以下におおまかなレジュメを・・・。
・耳介の構造とHRTF(頭部伝達関数)について
・聴覚能力の個性(個人差)について
・蝸牛管の基底膜構造とコルチ器の構造について
・20kHz以上の音を認識するには
・スペクトル応答について
・海馬と視床の機能
・記憶の種類と特質
内容的には、前回よりだいぶ濃くなったと思います。
シロウト記事なりに元情報の確実性に注意しました。
詳細は、PDFを参照願います。
pdfファイル:
『音声記憶の脳メカニズムについて』
『テクニクスSB-G90の特質について その2』
2017.6.10
前回の記事が、尻切れトンボのようでしたので、今回は機械要素を電気要素に変換して解析する方法『機械−電気アナロジー』を使って説明してみました。
かなり容量が大きくなってしまったので、例によってPDFファイルにしましたが、以下にダイジェストだけ。
『機械−電気アナロジー』とは、機械要素と電気要素が似た挙動を示すことにより、電気回路として解析できるようにする方法になります。
詳細はPDFに譲るとして、ハウジングと振動板だけの要素を考えたシンプルなものをここでは取り上げます。ここで、ハウジングは固定部分と考えます(GNDとなります)。
質量要素は、振動板とボイスコイル、編組線の一部、エッジとダンパーの一部の総和になります。
ばね要素としては、エッジとダンパーの一部がこれに当たり、減衰要素も同様です。厳密には振動板内部にも内部損失がありますが、ここでは振動板は質量に寄与するだけと想定します。
(図1)
これを『F−iアナロジー』を使って電気回路に置き換えると、(図2)になります。
同様に、『F−Vアナロジー』を使って電気回路に置き換えると、(図3)になります。
式の番号などはPDFから引用したものなので悪しからず。
キャビネットまで含めた機械要素図、『F−iアナロジー』、『F−Vアナロジー』は、
となり、ハウジングで駆動力と反作用による混変調が起こっていることが分かります。
(黄色矢印と青色矢印が逆向きで混在している)
このように、具体的なシミュレーションを行わなくとも、どこに課題があるかが分かることがこの方法のメリットになります。
詳細については、以下のPDFでご確認ください。
pdfファイル:
『アナロジー手法による電気系への変換とその解析』
『テクニクスSB-G90の特質について』
2017.5.21
OTOTENでは、残念ながらテクニクスSB-G90の音は聴けませんでした。
昨日アップした『理想のユニット rev.1.00』にも取り上げましたが、言葉では説明しきれない部分もありますので、以下に機械要素図で説明します。
まず、一般的なブックシェルフの要素図は以下のようになります。
機械要素は@(慣性)質量、A(弾性)振動、B(機械抵抗)減衰の3つから成ります。
まず質量ですが、運動エネルギーを蓄える働きを持ちます。
そして弾性は「ばね」要素であり位置エネルギーを蓄えます。
機械抵抗は「摩擦」要素のことで、これはエネルギーを蓄えるのではなく、熱エネルギーとして消費します。
したがって、要素図の「ユニット」部分では振動板(質量:mdia)にローレンツ力が加わると、それにつながったエッジとダンパー(弾性+機械抵抗)は変形して変形することによってエネルギーを消費します。
エッジとダンパーはハウジング(質量:mh)につながっていて、ハウジングは磁気回路(質量:mmc)につながっています。
磁気回路は振動系にローレンツ力を発生させますが、その反作用で逆方向に同じ大きさの力を受けます。質量比が1:100だとしても振動板に比べて−40dBの加速度が生じます。これは1%の歪みと考えても良い量です。大きいと思いませんか?真空管アンプの歪みと同じレベルです。DACやアンプの歪は0.001%のオーダーであることを考えると1000倍です。
またハウジングはキャビネット(質量:mcab)に固定されていて、キャビネットは大地(床)に置かれています。
この時、ハウジングには振動系からの振動エネルギーと磁気回路に発生した反作用がともに伝わってきていて、混変調歪を起こしたエネルギーがキャビネットに伝わります。
キャビネットが強固で且つ質量が大きければ、これらの歪を吸収します。
SB-G90が一般のシステムと異なるのは、磁気回路がキャビネットにつながっているため、磁気回路にキャビネットの質量が加算されてハウジングの振動エネルギーや磁気回路の反作用エネルギーを吸収します。混変調を受けた振動は磁気回路で吸収され、キャビネットに伝わるエネルギーは小さくなります。ここで注意したいのは、ハウジングは『経路』になっていて、振動エネルギーはインピーダンスの低い方(磁気回路の方向)に流れるということです。
富士通テンのECLIPSEの場合には、磁気回路にグランドアンカー、ディフュージョンステイ〜制振スタンドの質量が加算され、この質量で振動エネルギーを吸収する考え方です。質量が大きいということは運動エネルギーを蓄える(吸収する)働きが強いということです。
キャビネットはその他の系から機械抵抗で分離されていて、エネルギーが伝わらないようにしています。
AR-1ではユニットを向かい合わせにすることで反作用を打ち消し、振動系は直接床につながります。
キャビネットはECLIPSEと同様に振動系から分離されていて、振動系とは別に床につながります。
今日は、ここまでにします。
『理想のスピーカーユニットとは?』
2017.5.20
以前、スピーカーユニットの作り方をアップしましたが、あくまで作り方に留まっていました。
最近はスピーカーシステムを自作される方も多くなってきています。オーディオ雑誌などには載っていない「理論的にユニットの構成部品に求められること」、そしてその理想像、現在の(技術的な)市況などをつらつらと記してみました。
本文に書くには長すぎるので、例によってPDFファイルにしました。
pdfファイル: 『理想のユニット』
『OTOTEN 2017』
2017.5.13
東京国際フォーラムにて、5/13、14両日に開催されているOTOTEN(オーディオヴィジュアルフェスティバル2017)に行ってきました。
デイプラネットのJAZZMAN J-01X、3/21にテクニクスブランドから発表されたSB-G90スピーカーシステム、オオアサ電子(Egretta)のTS1000F、コーセル鰍ナ会長まで勤めた町野さんが立ち上げたCSポート鰍ネどを中心にPDFにまとめました。
PDFファイル 『OTOTEN 2017』
どうにも偏った報告になりましたが、ご容赦ください。
『SPユニット直列/並列接続の比較とAR-2の駆動構成について』
2017.4.21
スピーカーの直列接続と並列接続のメリット・デメリットについて考えてみました。
まず、代表的なインピーダンスを持つユニットを直列に接続した場合と並列に接続した場合の合成インピーダンスを簡単にシミュレートした結果を以下に示します。
ユニットAとBとを直列に接続した場合と並列に接続した場合の結果になります。
それぞれのf0があまり異ならない場合(左側)と大きく異なる場合(右側)とでは、だいぶ挙動が異なってきます。
並列接続の場合には、合成Imp. Zcpはどちらか低いほうの値の影響度が高くなるため、Qが低くなります。
Zcp = Za・Zb/(Za+Zb) Za>>Zb ならば Zcp → Zb
これはアンプから見れば大きな優位性になります。
ここで注目すべきは、合成インピーダンスZcpは見かけ上は平坦になりますが、各ユニットに流れる電流は各々のユニットのインピーダンスに応じた電流であるということです。
アンプが低電圧源として振舞うという前提においての話ですが、それぞれのユニットに電流が正しく分流されるために、それぞれ単体の特性を維持できるということです。
一方、直列接続の場合には、それぞれのユニットに流れる電流は、合成インピーダンスZcsに応じたもの(=V/Zcs)になります。
これが意味することは、2つのユニットが全く同じImp.特性を持たない限り、相互の影響を受けて正しい駆動電流にならないということです。
もう一度(図1)を見てください。
ユニットA単体をアンプにつないだ場合にユニットAに流れる電流(青破線)と、ユニットA、Bを直列接続した場合にユニットAに流れる電流(赤破線)とを比べてみると、f0が異なってしまった場合(図の右側)では明らかに異なっています。
もちろん青破線のような電流が流れなければアンプ出力に応じた正しい再生はできません。
通常、ユニットのf0(Qも)公差は10%以内に入りますので、直列でも大きな影響を及ぼすことはありません(図1の左側に相当)が、ARシリーズの場合には、ハイド・ユニットの正面スチフネスが大きくなってしまうため、どうしてもアンバランスが大きくなります。(図1の右側に近付く)
したがって、駆動方法としては並列接続を選択する必要があります。
上記のことが分かっていながらAR-1で直列接続を採用した理由としては、ユニットにAlpair-6P(4Ω)を使ったことがあります。
当初は並列接続にしましたが、再生音がフォルテッシモにさしかかると当時使用していたアンプ(CDレシーバーでした)がショート(過大電流)検出してリレーが働いてしまいました。
並列だと2Ω負荷になりますから仕方ないと思います。
リレーが働かない小音量で直列と並列の聴き比べをしましたが、ツイン・ユニットによるバスレフが上手くスタガードで効いているのか、直列にしたほうが低域が膨らまず、好印象でした。
全く以って怪我の功名です。
そういった経緯でAR-1では直列接続を採用しました。
それでは、AR-2ではどうするかですが、(図2)のように1ユニットにアンプの1ch分の出力を割り当てる方法を考えています。
したがってLch、Rchそれぞれにステレオアンプを1台ずつ割り当てることになります。
アンプの負荷は4Ωになるので問題ありませんし、アンプ入力の各入力chには同じ信号を与えるということになりますので、それぞれのアンプ内部も同相信号しか扱わないことになります。
現在使っているアムレックのAL-202Hをもう1台購入しての駆動を考えています。
ACアダプターによるDC給電のD級アンプですが、小型で効率がよく、音質もニュートラルなうえに価格も13000円。
色々な意味でコスパの高いアンプです。
アムレックですが、以前、ラステームという社名でDACユニットなどを手がけていましたが、残念ながら倒産したと思ったら不死鳥のようにアムレックとして甦り、魅力的な商品を世に出してきました。
これからも期待したい企業です。
上記の構成とした場合のメリットとしては、アンプをスピーカーユニットの直近に置くことで、ケーブルの影響を出来る限り小さくできることが挙げられます。
その分、DACユニットからアンプまでの同軸ケーブルが長くなりますが、インピーダンスは十分に高く、電圧伝送になりますのでスピーカーケーブルに比べて影響度が低くなります。
ここまで構想がまとまってくると、いよいよ製作に移りたくなってきます。
pdfファイル:
『SP直列接続と並列接続のメリット・デメリットについて』
『AR-2 設計変更』
2017.4.15
既存のPDFを見直し&手直している中で、ARの基本的思想とAR-1での問題点をもう一度見直す事になりました。
そして、設計の方向性がかなりズレていることに気付きました。
ハイド・ユニットの正面負荷になるバック・キャビネットの容積を出来る限り大きくする(スチフネスを小さくする)ことが第一の課題であることをいつのまにか失念していました。
この課題を解決するためには後方へのサイズが更に大きくなり、重心が後方に移動するというデメリットが生じてしまいます。このデメリットを出来る限り排除するために、前方の板厚を増やすことと、サブ・ユニットの位置を前方に移動することで対処しようと考えました。
形状変更にあたっては、メイン・キャビネットの容量には出来る限り影響を与えないこと、デザイン的に改悪にならないこと(元々センスはないのですが・・・)にポイントを置きました。
変更後の形状だけではイメージが沸かないと思いますので、以前の形状(緑色の破線)と比較したものが以下になります。
勿論、内面一次反射がユニットに直接返ってこないような形状になるよう出来る限り考慮しています。
メイン・キャビネットの容量は、板厚変更で1L程度増加して約14.5Lに、バックキャビネットは1.5L強増加して約5Lになりました。
バック・キャビティ内の整流板(サイレンサーの音道を作っている部分)は、従来、ボルト&ナット4ヶ所で固定する構造にしていましたが、フリーの部分が多いと単純共振の影響がありそうなので、60°振り分けでリブを設けてバック・キャビティとの結合度を上げるように変更しました。
メイン・キャビネットはヘルムホルツ共鳴器として機能しますが、共振周波数は約28Hzとなりバスレフとしては機能しません。共鳴器内部の空気は弾性体として振舞います。ということはこの部分の容積もメイン・キャビネットに加算される事になりますが、流動体として考えると細いダクト部分の空気は壁面との摩擦が発生しており、単純に加算はできないと思われます。
本来は密閉箱にしたいのですが、構造上、無理ですのでこのような構造にしています。音波によるダクト内部の空気振動が上記の摩擦により熱に変換しますので、サイレンサーとしての機能も期待できます。
デザイン的にはAR-1に近いティアドロップ形状にしたので、贔屓目でしょうが、多少スマートになったような気がします。
PDFファイルの専用ページを追加しました。
2017.4.8
いくつかのPDFファイルに見直しを加えて、まとめたページを作りました。大きく変えたものは無いのですが、記載にミスがあったり、表示や図が見難かったりしたものを出来る限り修正しました。
トップページの上部に『PDFs』というボタンがありますので、そちらからどうぞ。
PDFファイル『歪とエントロピー』を更新しました。
2017.4.1
既述PDFファイル『歪とエントロピー rev.1.02』のエントロピーに関する記述のなかに分かりにくい部分(閉じた系とその周囲との関係、自由度とキャビネット構造の関係など・・)があると友人より指摘があったため、見直しをかけて修正版をアップします。
今後、時間の取れる範囲で既述PDFファイルの見直しを実施していこうと考えています。
pdfファイル: 『歪とエントロピー』
『ダンピングファクタと逆起電力 その2』
2017.3.22
前回の記事では言葉足らずの部分があり、理解できなかったと思いますので改めて説明します。
まずは、下図を見てください。
電気回路の解析方法に、「重ね合わせの理(principle of superposition)」というものがあります。
現象を単純化して分析し、それを重ね合わせることで複雑な挙動を理解するための原理です。
上図はそれを使って内部インピーダンスreと逆起電力Eの間にどのような関係があるのかを調べたものです。
実際の等価回路は左図ですが、右の2つの回路図に分けて考えて、それを重ね合わせることで、実際の回路の動向が分かります。
どのような負荷がつながれるか分からないアンプからすると、可能なのは出力端子で波形保証する(逆起電力の影響を小さくする)ことであり、そのためにはDFを大きくする(reを小さくしてreEの項を小さくする)ことが有効であるのが分かります。
一方、スピーカー側から考えると、逆起電力の影響を小さくする(アンプの駆動波形を出来る限り正しく再現する)事にアンプの内部インピーダンスを小さくすることが役立たないことが分かります。
このように、設計する立場が異なってしまうと、追求できる限界が生じてしまいます。
MFB(振動板部分でVo-Eを検出してアンプにフィードバックをかけてEをキャンセル)のように、一体で考えれば対応できることもまだまだあるのですが・・・。FOSTEX(CW-250B)などが実施していますが、アンプメーカーが本気にならないと上手くいきません。そのような企業が出てくることを期待したいと思います。
『ダンピングファクタと逆起電力』
2017.3.20
先週、MJオーディオフェスティバルのB&W 800D3音出しイベントに参加しましたが、組み合わせるアンプをLUXMANのプリメインL-550AXUからアコースティックアーツのPOWER T MK-3に変えた時に、800D3の低音が極端に変化したのを体験しました。
気になって調べてみると、アコースティックアーツはダンピングファクタに対し十分に高く可聴帯域でフラットであることを目指しているのが分かり、ダンピングファクタ(以降、DFと略)とは、どのようなものなのかをおさらいしてみようと思いました。
オーディオに興味のある方には「アンプの駆動能力(制動能力)を表す数値」として認知されていると思います。
総じて真空管アンプのDFは低いのでゆったりとした低音が、半導体アンプではDFが高いためしまりのある低音が再生される傾向があると言われています。
まず、DFの定義ですが、アンプの出力にスピーカーの代わりにダミー抵抗を負荷インピーダンスとしてつないだ場合に、この負荷インピーダンスとアンプ内部インピーダンスとの比になります。
したがって、内部インピーダンスが小さいほどDFは大きくなります。内部インピーダンスという言葉に馴染みがなければ「出力インピーダンス」も同じものになります。
DF = Rd/re
Rd:負荷インピーダンス re:内部(出力)インピーダンス
可聴帯域での抵抗の周波数特性はフラットであるため、DFが周波数依存性を持つならば、それはアンプ要因(NFBなど)と言えます。
測定方法としては、ダミー抵抗をON/OFFした時の出力端子での電圧を測定し、演算により内部インピーダンスを求める方法が簡単で一般的です。この方法では、スピーカーケーブルのインピーダンスも含めて負荷となるため、最短で接続することは言うまでもありません。
ただ、最近の半導体アンプでは内部インピーダンスが極端に低いことから、メーカーでは、より精度の高い注入法を使って測定しているとのことです。
一方、スピーカーは磁界の中で電流を流すとローレンツ力が生じることにより振動板を動かして音圧を得る変声期です。
高校?の物理で「フレミングの左手の法則」というものがありましたが、電流、磁界、力とそれぞれのベクトル方位を指に当てはめて憶えたのを思い出す方も多いと思います。
回りくどいようですが、要は「スピーカーは電流駆動するもの」であることを言いたかった訳です。
したがって、オーディオアンプには「音声信号に応じた電流を、いかにして忠実にスピーカーで変声させるか」が期待されるということです。
そのためには電流源=内部インピーダンスゼロが理想となります。
そのようなことから、DF神話「DFは大きければ大きいほど良い」が生まれたような気がします。
ここで、DFが「純抵抗」を負荷として定義されていることを思い出してください。
スピーカーは純抵抗ではなく、低域に機械共振周波数f0を持つため周波数に対してインピーダンスが一定ではありません。
したがって、DFをいかにフラットにしたところで、各々の周波数で負荷インピーダンスが変化することになります。
特にf0近辺ではL負荷からC負荷に変化するため位相も180度回りますので抵抗と同じように考えるのには無理があります。
もうひとつ、困った問題があります。
フレミングの左手に対して右手の法則があるのをご存知と思いますが、これは磁界内の導体に力が加わる(変位する)と電磁誘導により電流が生じることを示すものです。
モーターが発電機としても機能するのと同じですね。
スピーカーを駆動すると、ボイスコイルの自己インダクタンス(自己誘導係数)Mに対して磁束変化分dφ/dtに応じた逆起電力Eが生じます。
E = −N・dφ/dt
N:総巻線長さ[m]
ここで
φ = BS = μnI・S
B:磁束密度 n:巻数
S:コイル断面積 = 磁束の貫く面積
μ:純鉄の透磁率=6.3[mH/m]
なので
E = −N・μn・S・dI/dt
n = N/L L:1T巻線長さ[m]
より
∴ E = −M・dI/dt = −N(μNS/L)dI/dt ・・・(1)
またN = nLなので
E = −n(μnSL)dI/dt ・・・(2)
分かりやすく表記すると
ローレンツ力でコイルが動くことで二次的に逆起電力が生じ、駆動した電流と逆方向に電流が生じます。
一連の現象を整理します。
アンプの駆動電流Iによって、
F = IBL B:磁束密度 L:コイル長
の力がコイルに加えられ、結果として生じた変位dχ/dtにより磁束変化dφ/dtが起こり、コイルには逆起電力Eによって「加えた電流と逆方向の電流」が重畳します。言わば自家中毒とも言えるものです。
スピーカーに振動要素がない(減衰振動と時間遅れがない)のであれば駆動電流と逆起電力による電流は相似(向きは逆)であり、単に足し引きされるだけで大きな問題にはならないかもしれませんが、スピーカーの機械系(振動系)にはかならず遅れ系要素が存在しますので、上記のような歪みが発生してしまいます。
これはアンプの問題ではなく、スピーカー駆動の原理原則によるものであり、防ぎようがないものです。
DC駆動負荷の場合(電磁石など)には並列にダイオードをつなぐことで起電力による電流を逃がして駆動源に戻るのを防ぎます(こうしないとOFF時に起電力の分だけ逆バイアスがかかり駆動側を破壊することがある)が、スピーカーの場合には難しいです。
起電力の影響を小さくする=時間遅れを出来る限り小さくするには、振動系を軽くする、f0でのQを小さくするなどが効果的ですが、どちらも低域の再生に関しては条件の悪いものになります。
また、起電力は磁気回路を強力に(磁束密度を大きく)すると大きくなりますので、軽い振動板と、それを駆動できるくらいの磁気回路の組合せがベターだと思います。能率は低くても現在では十分駆動できるだけのパワーを持ったS/Nの良いアンプが安価に求められるので、大音量再生を考えず、ニアフィールド再生か小さな部屋での再生であれば問題ないと言えます。
我々は強力な磁気回路をついつい求めてしまいがちですが、その副作用とも言うべき逆起電力はそれに応じて大きくなり、歪みを生む原因となっていることを忘れてはなりません。
ここまでおさらいしてみると、デジタルフィルタで帯域分割し、低域のみをMFBスピーカー+別アンプで駆動し、それ以外の帯域は駆動信号をフィルタリング分割してスピーカーユニットのf0を含まない帯域信号だけがユニットに印加されるようにするのがベターなのではないかという結論に達しました。
ただ、MFBと言えども出力で起きたこと(逆起電力を含めて)を入力側にフィードバックして制御するものであり、時間遅れを完全に抑え込める訳ではないので、まだまだ妥協の産物とは思いますが・・・。
『第二回 MJ オーディオフェスティバル』
2017.3.12
本日、秋葉原の損保会館で開催されましたので、ちょこっと覗いてきました。
詳細は、以下のPDFをご覧ください。
PDF『ヘルムホルツ共鳴器』の間違いを訂正
2017.3.7
一昨日の記述で過去にアップしたヘルムホルツ共鳴器に関するPDFの件を取り上げたので、気になって内容を確認してみましたら、間違いが見つかりましたので訂正いたします。
共振周波数を求める部分で、(8)式から(9)式に展開するときに、体積V0の項を落としてしまいました。
肝心なところが抜けていますね・・・
アマチュアのご愛嬌と思ってご容赦ください。
ついでに共鳴管の長さl(小文字のエル)が1に見えるので、大文字のLに修正しました。
AR-2 設計変更
2017.3.5
B&Wの技術的な考え方に触れ、B&Wとは異なりますがAR-2の方向性に間違いが無いと感じました。
その中で、バスレフダクトの悪影響が歪みに直結することをB&Wも重要視していることが分かりました。
低音の再生を別の方法・・ツインのスーパーウーファで行うという前提であれば、密閉構造にして100Hz以上の帯域を低歪みで再生することのメリットは計り知れません。
以前からバスレフから漏れるノイズには着目していて、AR-1でもダクト出口に吸音材を貼り付けて対処していました。
かと言って、単純に密閉箱にした場合にはスチフネスが大きすぎますのでエア抜きを設けたい・・・思いついたのが、ヘルムホルツ共鳴器です。・・・詳細は技術情報の初期情報に記載しています。
十分に低い共振周波数であれば聴感には影響はないと考え、30Hz前後を狙って設計しました。
構造的にヘルムホルツ共鳴器はバスレフそのものなのですが、バスレフが可聴帯域の音圧を補うのが目的なのに対し、共鳴器が有する共振周波数近辺のエネルギーを吸収する(定在波対策製品に使われる)のが目的で使われることが多いです。
共振周波数frは
fr = C/2π√S/{V(L+δ)}
C:音速340m/s S:共鳴管断面積 V:共鳴器容積 L:共鳴管長さ δ:補正分(ダクト開口部)
で表せます。
実際の共鳴器構造としては、以下のようになります。
計算上、共振周波数は28Hzくらいになり、これを従来の構造に組み込むことを考えると、以下のようになりました。
この構造では、更にピラーの部分に両端開放の共鳴器がある形になりますが、これが共鳴器として働くかどうかは未知数です。
設計変更ばかりしていては埒があきません。この形でFIXして進める事にしようと思います。
B&Wの設計技術から思いついたこと その3
2017.2.18
振動板径と球の直径の比率がどうにも気になってしまい、この比率を変えると状況がどのように代わるのかを調べてみました。
単純な設定とするため、振動板の直径とテーパードチューブの径を内接正六角形の一辺の長さにして考えてみました。
まずは【図1】を見てください。これは振動板の最外径(左側の赤点)から放射された音波の経路を破線で示したものです。
内接する正多角形の経路を通った場合には元の赤点に戻ります。
振動板径に相当する弦を正六角形の辺の長さにしたため、テーパードチューブの開口が無い球の場合には正六角形の辺の長さより短い弦を作る経路の場合には全て振動板に戻りますが、直径が正六角形の一辺に相当するテーパードチューブ開口があるため、弦がこの長さより短い経路はテーパードチューブに導かれます。
図1の場合で、振動板に戻ってしまう経路は弦が内接正四角形(正方形)の辺より長いものの一部になります。(図1-1)のオレンジ色の経路になります。
振動板の中ほどの部分からの放射は【図2】のようになります。
弧が赤く塗られている部分は、振動板に戻ってしまう経路が反射する部分になります。
同様に、振動板の中央部分からの放射を【図3】に示します。
以上は正六角形で単純化した場合ですが、球の大きさを変えずに振動板の直径とテーパードチューブの開口を約70%に小さくした場合にはどうなるかを示したのが【図4】になります。
当たり前の話ですが、この場合の最外周部からの経路が図1の振動板の中ほど付近を通過するので図2、3と似た状況になります。
違うところは、振動板から放射されるエネルギーがテーパードチューブに導かれる経路は図1の場合より開口面積比で約半分(0.7x0.7=0.49)に減少するところです。
だからと言って、開口部を大きくする比を選択すると、単純にチューブを振動板の後部に設置した状態に近付いていき、「球体」を追加した効果が薄れます。
このことから、B&WのHPで謳っている一定の比率は、どうやら正六角形(振動板直径:球の直径=1:2)あたりに回答がありそうです。実際、振動板からの放射は図1〜2が主でユニットの構造上、図3は考えなくても良いと思います。二次元で見ると図1と図2は放射エネルギーに差が無いように見えますが、三次元的に振動板面積を考えると半径の二乗で大きくなるので、外周部分からの放射比率が高くなるため図1の状況を優先して考えておけば良いと思います。
姑息な手段ですが、B&Wのツイッターに掲載されていたこの部分のPC解析画面から比率を計らせていただきましたが、1:2。ビンゴでした。
比率を決めている因子はたぶん上記だと思われます。
完全を期するために【図1-2】【図2-2】のようにユニット後部に設けられているシャフトにコンペンセータ(補正器)を付けてしまう手もあります。
現時点で不明なのは、内部に充填する吸音材で減衰させることができると謳っている部分です。広帯域で減衰率が安定している吸音材があれば、ぜひ使ってみたいものです。
ここは、宿題にしましょう。
そろそろ、体調も改善しつつあるので、徐々に木工のほうに舵を取っていきたいと思います。
B&Wの設計技術から思いついたこと その2
2017.1.25
再びB&WのHPにアクセスしました。
正直に言ってしまいますが、B&WのHPにまともにアクセスしたのは4年ぶりくらいでした。それも、技術関係の記述ページ「テクニカル」があるのを知らず、ノーチラス製品情報のみを見ていました。(当HPのTOPページ最下段にある常設記事『ARシステムの概要』にノーチラスに触れた記事があります)
前回の記事を書くために、B&Wのトップページにあるサブセレクション「さらに見る」の中から「テクニカル」というページを選んでアクセスし、Sphere(球)/チューブエンクロージャの技術説明に初めて到達したということです (^_^;)
製品の内容についても自分の思い込みだけで、掘り下げて追求することがありませんでした。
改弦易轍、取り組み方を改めねばなりません・・・。
今回は、ユニット後方に直接テーパードチューブを設置した「テイパリングチューブ」という技術の項にアクセスしましたが、そこには以下のような記述がありました。
『ドライバーが同様の直径を持つチューブによってダイヤフラムに搭載された場合、音は一連の単純な平面波としてチューブ下方に伝達されます。音がチューブの端に届くと、今度はチューブ上方のドライバーに向かって音が反射されます。それがドライバーに達すると放射が遅延し、オリジナルの信号を時間的に不鮮明にし、音が不明瞭となります。』
『しかし、チューブを十分に長くし吸音材を詰めれば、チューブの端に届く前にエネルギーを放散させることができます。そしてドライバーからの音は明瞭さを保ち、入力信号に忠実なものとなります。チューブを先細りにすることで、より短いチューブで同様のレベルの吸収率を得ることができます。ちょうど楽器のホルンと逆の原理で、音のレベルを上げる代わりに減少させます。』
⇒ 『ドライバーが同等の直径・・・』は『ドライバーと同等の直径・・・』の誤記と思われます。機械翻訳器による日本語のようで、理解するのが難しいです。
要は振動板と同等の開口径を持つテーパードチューブをドライバー後方に設置すると、その中を平面波(粗密波)が後方に伝わっていき、反射して戻ってきた波(時間遅延した波)が振動板に達すると時間遅延モジュレーション歪み(先日の記事にも書いたとおりです)が起きて音が不明瞭になるという記述内容と思われます。
ホルンの逆・・・は音響インピーダンスの考え方から言うと全くの間違いです。そもそもホーンとは2R空間への音響放射(平面バッフルを考えてください)に対し、バッフル面をメガホンのように絞ることにより放射面積を小さくすることで単位面積あたりの音響エネルギーを大きくする方法です。先細りのチューブでは奥に行くほど単位面積当たりのエネルギーは増えます。試しにメガホンの口を付ける部分に耳を当ててみてください。集音効果があるのが分かると思います。(図1)
『チューブを十分に長くし吸音材を詰めれば、チューブの端に届く前にエネルギーを放散させることができます』とありますが、これは、『テーパー内に吸音材を詰めることで音響エネルギーを熱に変えて消費させることができる』という意味でしょう。テーパーにすることで消費効率を上げられるとも書かれていますが、(図1)のように奥に行くほど変位は大きくなるので、吸音材との摩擦による熱エネルギー消費効率が上がるという意味でしょうか??
更に意訳をしてみます。
『この搭載方式の限界は、波長がチューブの直径に匹敵するほど小さくなった時に現れます。一定周波数を超えると、音は単純な平面波として伝達することを止め、一連のクロスモードの共振が起きて、ドライバーのダイヤフラムを通して再放射されます。チューブローディングの効果を維持するには、各ドライバーの帯域幅を制限する必要があります。それが、Nautilusスピーカーが4ウェイ・システムに分かれている理由の一つです。』
⇒ 進行方向の粗密波の周波数が高くなり、直径より波長が短くなると、進行方向ではなくチューブの半径方向での共振(定在波)が発生して減衰が期待できなくなるという意味と思われます。
波長10cmは約3.4kHzになります。例えばテーパリングチューブの開口径が10cmの場合には、3.4kHzが効果の上限周波数となります。
『より幅広い帯域幅をカバーするにはさらに複雑な搭載方式が必要となり、球体/チューブ・エンクロージャーがNautilus 800シリーズのために開発されました。』
⇒ 球体/チューブ・エンクロージャーは、進化形だったようです。
後方のテーパードチューブで共振を引き起こす周波数成分(高域成分)を球の部分で消費してしまえば一本のテーパードチューブで事足りるということです。これにより、広帯域を受け持つミッドレンジに適応することができた訳です。
『ホルンの逆・・・』が納得できなかったので、B&Wの英国HPに直接アクセスして原文を翻訳してみました。ほとんど直訳です。カッコの中は補足です。
以下が、『テーパリングチューブ』と『球/チューブエンクロージャ』の翻訳になります。やはり日本のHPの文章とは似ているようですがニュアンスが異なります。残念ながら、テーパードホーンの音のレベル(先細りになると減少する)については納得がいきませんでした。通常のメガホンでも口の部分のレベルより開口部ではレベルが下がります。メガホンを使わないよりは高くなるということです。・・・上記の図1は正しいと思います。
『ノーチラステーパリングチューブ:スピーカー駆動ユニットによって創られた全ての音が部屋の中に放射するわけではない』
サウンドオブサイレンス。スピーカードライブユニットによって生成された全ての音が良好とは限りません。動作しているドライバーの後方から現れる類(の音)は、従来のボックスキャビネットの中に向かって周囲に跳ね返らせ、正面に発生する良い音を台無しにすることができます。B&Wの先駆的な「ノーチラス」スピーカーはボックス周辺である方法を発見しました。吸音材で満たされたテーパーになったチューブは厄介な音響エネルギーを吸収し、共鳴を取るに足りないほど減少させました。(皆さんの)目に触れないにしても、ノーチラステーパリングチューブはほとんど全てのB&Wスピーカーに装着されています。
音は振動板から離れ、中空のポール磁石を通して尾部に消えます。したがって、聴こえる全ての音は「良好な音」となります。ドライバーがその振動板と同じ径のチューブによりロードされているときには、音は単純な波の連なり(粗密波)としてチューブに伝わります。(そして)音がチューブの逆の端に達すると、反射してチューブの中をドライバーに向かって戻ります。(波が)ドライバーに達すると、遅延した放射がオリジナル信号を時間的に不鮮明にし、音の鮮明さをぼやけさせます。しかし、チューブを吸音材で満たし、(かつ)十分に長くすればチューブの端に達する前にエネルギーを消費させることができます。したがってドライバーからの音は相変わらずクリーンで入力信号に正確なままです。
チューブをテーパーにすることで、同じ吸収レベル(を得ること)に対しチューブをより短くすることができます。チューブは逆にしたホーンのように振舞う・・・音のレベルを増大する代わりに減らします。このタイプ(テーパード)のローディングは、波長がチューブ径に匹敵するほど小さくなる時に限界に達します。ある周波数を超えると単純な波(粗密波)として伝わるのをやめ、振動板を通して再放射できる一連のクロスモード共振が用意されます。チューブローディング効果を維持するためには、それぞれのドライバーの帯域幅を限定しなければなりません。これは、ノーチラススピーカーが4ウェイシステムに分けられている理由の一つです。更に広い帯域幅をカバーするために、より複雑なローディングタイプが必要とされ、球/チューブエンクロージャがノーチラス800シリーズのために開発されました。
『球/チューブエンクロージャ:ドライバー後方のエネルギーを吸収し、正確なイメージを許容する』
生々しいロック、パワフルなアリアや合唱のレパートリーであっても、声は音楽情報の伝達主体であって、全ての感動を伝えるには最良の・・・理想的なエンクロージャで最高のドライバーが動作する・・・ミッドレンジ描写が要求されます。オリジナル4ウェイノーチラスの単純なチューブによるコンセプトを超えたもの(方法)を用いることで、クリチカルなミッドバンド全てを1回の継ぎ目のないスイープでカバーすること(目的)を単一のドライバーによって許容するのを、我々はノーチラス「ヘッド」で成し遂げました。
不活性(高分子樹脂)複合材料のマーランから作られた「短いチューブに接合された球」の内側にある空洞部分は、そこに吸音材を満たすことでドライバー後方から(放射される)音の最後のナゴリまでほとんどを吸収します。球の外側では、磨き上げられた涙滴(ティアドロップ)形状がスピーカーの周辺に確固たる三次元イメージを作り出す音をスムーズに分散させます。ノーチラステーパードチューブの項で指摘したように、波長がより短くなることによりクロスモード共鳴が開始するので、このテクニックが効果を発揮する帯域が制限されてしまいます。「もしドライバーとホーンのスロートの間に空間がある(完全なホーンを形成していない)ならば、高周波帯域での性能が制限される(空間がローパスフィルタになる)」というホーン理論は長い間認識されてきました。スタンダードなホーン設計(の範囲)では不都合な事ですが、この効果がまさにノーチラスチューブに入る前にクロスモード共振を引き起こす高周波(成分)を減衰させることには必要だということになります。
勿論、空洞自体が内部共振という問題を有しています。実際、まず第一にこれらの問題から逃れなければなりません。しかしながら、今回だけは物理学が我々の側にあります。もし、球の直径がドライバーの振動板径に対し特定の比率を持ち、ドライバーに対面した穴の直径が振動板と同じであり、その穴がテーパードチューブに導くのであれば、内部共振は大きな範囲で除去されることを拡張PCモデリングと実用実験が証明しました。どのような残留効果であっても球とチューブに詰め物をすることであっさりと払拭されます。球は、エンクロージャ外側への回折効果を避けるための理想的形状であり、イメージを形づくる帰結的な利点を持つ形状でもあります。
内容的にも濃いものであり、微妙な表現も見られます。訳してみることで良く理解できました。日本のHPの文章も、英文の内容を理解したうえで読み直してみると、納得できました。
もうひとつ。フローポートをチェックしました。
バスレフのダクトにゴルフボールのディンプルに似た凹みをつける事により、空気がダクトを出入りする際の流れを整えて乱流によるノイズ(風切り音)を減らそうというものです。実際、乱流によるノイズもさることながら、ダクトから出てくる歪みの総レベルは桁違いに大きいのです。f0近辺の周波数では位相が0度から180度まで回転しますし、低音補強が不要なら、歪みを考えて密閉箱にするのがベターですが・・・。
(図2)に表面が平滑なダクトの空気の流れの様子を示しました。空気は粘性流体ですので、どんなに平滑な表面にしても空気とダクト表面(界面)での摩擦が生じます。ダクトの表面に近付くにつれ、流速が小さくなり、渦が生じます。これによりダクト表面から離れた流れにも乱れが生じ、実際に可聴域の音(波長)となった場合には歪みとして認知されます。
(図3)にディンプルを施した場合の空気の流れを示しました。図2で生じていた平滑面近くの渦はディンプルを設けることによりディンプル内部に発生するようになり、この部分での界面摩擦が生じなくなります。
B&Wでは、ダクトの入り口と外部空間への開放部をホーン形状にしてこの部分だけにディンプルを設けていますが、本当は上記のようにダクト内面全体に設けないと意味が無いのです。作り込みが難しくなるのでやっていないだけでしょう。特殊なスライド金型を使えば可能です。
「性能に影響力が大きい部分から先に対処」という設計の基本思想に忠実に、且つ、コストも考えて量産するために、このような形に収斂したのでしょう。
やはり、B&Wには学ぶところが多いです。
追記
ダクト内の流速で本当に渦ができるのか気になって、色々と調べました。結果、直径や形状、長さで異なりますが、ダクト内面近くでは乱流が発生する流速より小さいと思われ、且つ、流れの方向が一定ではなく数十Hzで交番しているため、定常的な渦の発生はありえないということが分かりました。(渦ができる前に流れの方向が交番して渦を壊してしまいます)
聞きかじりの流体力学で、またまた、やってしまいました。すみません。
渦が発生しないならば、どのようになっているのか?実際にはディンプル部分で気圧が下がることにより流速が大きくなくても乱流を作れることで、2R空間への開放部分での渦(切りっ放しのダクトでは大振幅時には発生すると思われます)を小さくできるというメリットがあると思われます。ただし、ディンプルによる乱流の効果とホーンのように徐々に2Rに近付ける形状による効果とどちらの効果が大きいのかと問われると言葉に窮しますが・・・。
ディンプルの形状で乱流の状態がどう変わるかという疑問に対して、面白い公開論文(東海大)を見つけました。参考まで。
http://bulletin.soe.u-tokai.ac.jp/vol48no1_2008/03_18.pdf
B&Wの設計技術から思いついたこと
2017.1.21
B&W社800D3のカタログを入手しました。
初めて800D3の音を聴いたのは、昨年9月のインターナショナルオーディオショーでした。あれだけ環境の悪いところであれだけのパーフォマンスを出せるスピーカーに出会ってしまい、正直、ショックでした。
802D3も完成度の高いシステムですが、800D3に比べると雲泥の差・・・極低音までスピード感が落ちないし、音楽がスピーカーを意識させず違和感なく耳に流れ込んでくる・・・ここまできたか、という感じでした。
開発思想が一貫しており技術力も高いため、以前よりB&W社の製品には一目置いていたのですが、今回の800D3は予想をはるかに超えていました。
カタログでは飽き足らず、HPにアクセスしました。
B&WのHPにはキャビネット設計の根幹をなす一要素として、球体(Sphere)/チューブ・エンクロージャが挙げられています。
「(エンクロージャ内部の)空洞がドライバーのダイヤフラムの直径に対する特定比率の直径を持つ球体で、さらにその球体にダイヤフラムと同じ直径の穴がドライバーの真向かいにあって先細りのチューブにつながっている場合、内部共振のほとんどを排除できる」とあります。
そこで「特定比率」に目を瞑って手動でシミュレートしてみました。
ここで注意したいのは、シミュレート結果は、@振動板のカーブ、Aユニットの形状、Bユニット後部の整流器の形状に多いに依存するということです。
ユニットの部品寸法も分からない状態であり、且つ、シミュレートの精度はコンピュータには絶対に勝てないので、とにかくアバウトにやってみました。
(図1)がその結果ですが、振動板のa(内周)、c(外周)、b(中間位置)の3点背面からの代表的な経路(PCアプリがあれば波面の伝達状況もシミュレートできますが、無理ですのでピンポイントの経路だけです)をひいてみました。
経路の殆どは見事にテーパーチューブに導かれ、振動板に戻る経路は1本だけ。それも10回近く壁面を反射してから到達するため、十分に減衰していると思われます。(結果については、壁面での反射角度がアバウトですので不正確です。イメージと考えてください。)
経路も特定の3点に対し各々4本だけですので断定はできません。
テーパードチューブに導かれた経路は、さまざまな入射角度を持っていて、テーパー角度によって変わりますが数回〜十数回壁面に反射してから球体に戻ります。このテーパー角度の設定により、どれだけ経路を延ばせるかが決まります。
注記として謳いましたが、ユニットと振動板の形状、そして整流器の形状をちょっと変えてみた結果が(図1-2)です。球体内壁や整流器で反射してユニットに戻ってくる経路が多くなりました。
やはり、PCシミュレーションで追い込まないと、最適解は見つからないようです。
B&W社の設計上の狙いは確認できました。キャビネット内部での反射音が振動板を二次的にモジュレートしたり通過もしくは再放射することにより、「源信号(リアルタイム信号)」に「過去に発生した信号が時間遅延&変調した情報」が重畳され、タイムドメインでは一番耳に付く歪みが発生します。この歪みを減らそうという設計意図です。
また、テーパードチューブ部分では奥にいくほど細くなっていますので、徐々に音圧が高くなり、かつ伝播速度が速くなります。
これは単純な円柱チューブでは起きない現象です。
微妙にテーパーにしたことで発生する壁面での反射によるロス(微々たるものですが経路を長くする事に貢献)やこの部分に吸音材を入れることで出来る限り熱エネルギーに変換してしまうことで球体部分に歪みとして戻っていく音波の影響を減らせます。
AR-1で後方ユニットに対して行った方法と同じですが、テーパー角度を浅くすることで経路を長くする手法を取っていること(これもテーパーチューブへの入射角により最適解があるはず)が大きな違いで、今回一番参考になった部分です。
無駄なエネルギーを消費させる方法は、AR-1でも課題でしたし、ARシリーズ共通の課題ですので、得るところが大きかったです。
手動シミュレーションを実行して感じたのは、ツールを使ってシミュレーションできる環境を持っているのは、つくづく羨ましいということです。
B&W以外の直方体キャビネットの場合はどうかと言うと、(図2)のようになります。
特徴的なのは、平行面があるために角度の揃った線が多い(コヒーレントな状態)ということです。進行波面が揃うということは定在波になるということです。
では球形の場合はどうでしょうか。断面(円)を考えます。円周上の2点を通る弦を入射線とすると、特定の入射角の場合には反射を繰り返してもとの点に戻ります。(図3のように弦が多角形をつくっている状態=内接正多角形ということです)。この時には当然、それぞれの弦の長さは同じで、定常状態で経路が固定されます。特定周波数では弦の両端が節となった定在波が発生するということです。
B&Wでは、これを分断するために後方にテーパードチューブを設けています。内接する多角形が確実に成立しなくなる条件はテーパードチューブの直径が内接する正三角形の1辺の長さ(内接多角形の中で一番長い)以上であることとなります。球の半径と振動板径との関係が分からないので、これ以上は私には分かりませんが・・・。
ただ、残念ながら、この形状は現在設計しているAR-2には単純には導入できません。
AR-2に導入できるのは、経路をシミュレートすることで吸音材を入れるポイントを最小限にする検討ができるというメリットくらいでしょうか。
早速、やってみました。
まず、フロント側のユニットとリア側のユニットからキャビネット内部に放射される経路を示したのが(図4)です。
当然ながら、B&Wのように球形にすることによるシンプルな挙動は望めません。逆に、AR-2では定在波を防ぐために、あえて球形やラグビーボールのような形状を避けました。
(図5)は吸音材を部分的に入れることで、どのくらいの減衰が望めるかを示しています。吸音材の種類、周波数により吸音材による減衰には差がありますので、あくまで感覚的な表現になっています。
B&Wに比べ、ちっともアカデミックではありませんが、吸音材による悪影響を最小限にするには有効な検討と思います。
吸音材の悪影響とは、何でしょう? 吸音材がない場合には、周波数特性に変化なく減衰していきますが、吸音材を入れた場合には周波数により減衰率が異なるため、反射音は減衰するにつれ変調を受けます。これが短時間を経て振動板に到達し、通過するときに影響が出ます。タイムドメインでの遅延歪みに周波数変調歪みが加わります。具体的には、「つまった音」「S/Nの悪い音」「アタックを引き摺る」と表現される傾向が強くなります。
昔のオープンリールテープなどで現実に経験した方もいらっしゃると思いますが、テープの保管状態が悪い場合、重なったテープの層間で磁気転写が起き、再生時に極端に言うとエコーのように聴こえたのと仕組みは同じです。
最後に、AR-2の後方ユニットのバックキャビティについても検証しました。1次反射でユニットに出来る限り戻らないように音道を作る為のサブパーツの形状を変更してみました。吸音材はスチフネスを出来る限り上げない範囲でサブパーツ全面に置くことを想定しています。
音声記憶の脳メカニズムについて
2017.1.4
ここ数年来、体調不良から脳のCTやMRIを撮る機会があり、脳の機能、特に「音をどうやって認識してどのように記憶するのか」に興味を持ち、色々と調べました。
以下に、詳細を記します。
まず、音波は耳介(俗に「耳」という部分)や耳垂(耳たぶ)、耳珠(外耳道導入部の突起)などで反射してから外耳道を通って鼓膜を振動させます。
鼓膜には耳小骨(鼓膜に近い順に、ツチ、キヌタ、アブミの3つの骨)が繋がっていて、アブミ骨は蝸牛管という内耳器官に繋がっています。
アブミ骨にはアブミ骨筋という筋肉が付いていて、過大音圧に対してアッテネーターの役割を果します。
アブミ骨の内耳側は蝸牛管の前庭窓という部位に埋まるように位置していて、ここでは、鼓膜に加えられた音圧を約30倍に増幅することができます。
蝸牛管の内部はリンパ液に満たされた前庭階、中央階、鼓室階という3つの部屋に分かれていて、前庭窓、蝸牛窓という部分に伝わった振動は内部のリンパ液を振動させます。
鼓室階と中央階の間は基底膜、前庭階と中央階の間はライスナー膜という膜構造で分割されています。基底膜は奥に行くほど幅広く柔軟になっていて、より低い固有振動数(共振周波数)を持ちます。「特定周波数の検出感度が高い部位」が高いキーから低いキーへと順番に並んでいる・・・ピアノの鍵盤が並んでいるイメージです。
基底膜の中央階側にはコルチ器という器官が蝸牛に沿って整然と並んでいて、それには内有毛細胞(片耳で約3500個)と外有毛細胞(片耳で約15000〜20000個)が備わっています。
この2種類の細胞のうち内有毛細胞が振動を電気信号(活動電位)へと変える一次器官になり、これらの内有毛細胞から蝸牛神経軸索にはシナプスを介して伝達されます。
蝸牛神経から「爬虫類の脳」と呼ばれる原始的な機能(自律神経を司る)を持つ脳幹のうち中脳と呼ばれる部位へと伝わり、ここではまず、リズムやテンポといった基本的な要素を感じることになります。
前回も記載しましたが、この中脳の下丘という部位には周波数再現(tonotopic organization)と呼ばれる特定の周波数に応答する神経細胞が整然と配列された構造があり、周波数認識の大部分を司ります。これは蝸牛で各周波数に分けられた投射繊維(神経線維のことです)がそのままの情報を有したまま下丘に至り、中心核と呼ばれる周波数弁別性の高い細胞層構造が関与するのですが、記憶に至る経路の中ではあくまで中継点です。さらに下丘には、周波数弁別以外にもスペクトル応答する機能や両耳間位相差/音圧差を検知する機能、振幅変調(AM)や周波数変調(FM)に応答する機能、音の開始/終了に応答(ATTのタイミング制御)する機能などを持つ細胞が存在します。そして、これらの多様な応答性を有する細胞はそれぞれクラスター(密集群)状に存在し、機能単位(nucleotopic organization)を形成しています。
殆ど全ての感覚情報は、大脳辺縁系の「海馬」および間脳の「視床」という部位を経由して大脳皮質に伝えられます。海馬は感覚記憶(数秒で消去される)の溜まり場であり、この情報の中から短期記憶と長期記憶の分岐を司ります。スネを何かにぶつけて痛い!と感じても、その場だけでいつの間にか忘れてしまい、アザができていても原因が思い出せないことがあるのは短期記憶にもなっていないからです。同じ刺激が繰り返し与えられると感覚記憶⇒短期記憶⇒長期記憶と切り換えられていきます。RAMバッファのある入出力セレクタと考えれば分かりやすいでしょうか。
視床は自律神経を司る重要な器官ですが、それ以外に色々な機能を持つ20あまりの「核」という部位からなっていて、視覚、聴覚、体性感覚(触覚など)情報を大脳皮質のどの部位に送るかを分岐させるセレクタの機能を持ちます。
大脳辺縁系にある扁桃体は、本能的な恐れ(危険回避)や不快感(情緒、喜怒哀楽)に結びついた情報に反応して機能します。海馬とも連携して働くため、極端な恐怖体験と音(聴覚情報)や映像(視覚情報)、加えて現実の痛覚などが結びついて記憶されると、その音や映像だけで恐怖体験を繰り返す・・・最近、良く耳にするPTSD(心的外傷後ストレス障害)などがその例となります。扁桃体の異常興奮や外部情報を遮断する目的で海馬が縮小してしまうなどが起こり、正常な感覚伝達が行えなくなります。
大脳(新)皮質に伝えられた情報は、空間認識であれば頭頂連合野に、聴覚情報であれば側頭連合野に、音色であれば側頭葉から腹側経路を通って前頭前野へと伝えられます。ハーモニーは側頭葉で認知されます。
これらの情報は複合的に処理されるため、特定の部位だけが機能して判断したり記憶したりするのではありません。
例えばオーケストラの演奏中に立ち上がった奏者がトランペットを吹き始めたとすると、聴衆は位置情報(アンビエンス)、楽器の音色(スペクトラム)、音程(周波数)、他の楽器とのハーモニー(和音)などを殆ど同時(リアルタイム)に感じるはずです。
大脳皮質のすばらしい機能としては、チャンキングができるということが挙げられます。チャンキングとは、物事を細かくしたり(チャンクダウン)、細かいものをまとめたり(チャンクアップ)、横にずらしたりする(とりあえず排除する、もしくは間口を広げる)ことによって、対象(聴覚情報も含まれます)のイメージを具体的にしたり、目的や意味を明確にしたり、選択肢を広げたりすることです。
大脳では各部位で記憶しやすい形にチャンキングして記憶することで連想ゲームのように後から記憶を紐解くことができます。
この機能があるからこそ、あるフレーズを聴いただけでそれを聞いたときの記憶が蘇って自然に涙が流れてきたり、その場にいた恋人の顔や声まで思い出したりといったことも起こります。当然のとこながら、いくつもの要素が複雑に関連してくる音質評価もこの機能があるから可能になるのです。
全てがすばらしいことだけではありません。人間の脳は「騙される」のです。
記憶にバイアスをかけることで書き換え(極端な場合は洗脳)を行うことができます。また、本人は意識していませんが「思い出す」という行動も特定の都合の良い情報だけを強化(美化)したり、歪曲したりします。パソコンのメモリと違い、リードライトするたびに周辺の状況に因って少しずつ(場合によっては大きく)変化してしまうのです。
色々調べてみると、脳は複雑な機能を分業して行っていることがわかります。複雑であるがゆえに、またファジーであるがゆえに、単純な「単語の記憶」などと比較して、より高次な現象である「音質の記憶」を正しく維持することが殆ど不可能であるのもお分かりいただけたと思います。
したがって、「耳だけの記憶」を過信することなく「客観的に音質を評価する方法を確立すること」がいかに重要であるかということもお分かりいただけたと思います。
上記の内容を見やすいようにPDFにまとめました。