『音場再現』を追求する

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HOT NEWS

月刊STEREO 4月号に掲載  第11回 自作スピーカーコンテスト

 2021.3.20
応募作品がコンテストで1位入賞し、月刊STEREO誌に掲載されました。

STEREO4-3-1

STEREO4-4

詳細情報は、以下の『最新レポート』 3/20版の記事をご覧ください。

LATEST REPORT

振り返り

 2021.12.31
大みそかになりました。

今年は、去年にも増して新型コロナに振り回された1年でした。
友人とも接触出来ない状況で、連絡はメールかラインに頼り、ほとんど作業場に籠ってアイデア出しや工作に明け暮れました。人的な刺激がないのでボケ(忘れっぽい)が進行しました。
自作スピーカーコンテスト(通称「スピコン」と言うそうです)の作品造りにも3か月強を費やし、一次選考を通過しました。(下写真の黄色矢印:月刊STEREO 1月号より)

show

大病もなく、ここまで来ましたが、昨日、愛犬が肺水腫で入院しました。
明日は我が身と気持ちを引き締めて、来年に望みたいと考えています。

良いお年を。

メーカーカラーの違い

 2021.12.31
マークオーディオ製Alpair-6Pv2とオンキョー製OM-OF101の音の違いに改めて驚いたのですが、それぞれのメーカーの考え方が如実に現れていると感じました。
マーク・フェンロンの考え方は、「ユニットが音響変成器(音声電流を音響エネルギーに変換)である以上、駆動される側の振動系は出来る限り慣性質量として振る舞ってはならない」「駆動力にリニアに反応しなければならない」というもので、振動系の実効質量とコンプライアンスがキー・パラメーターになります。
これは音質にも現れていて、音離れが良く、ユニットの存在を感じさせないのが特徴になっています。
ニアフィールドで聴かれるユーザーが増えているので、「廉価でこのような音をえられるもの」という需要にはジャストフィットするものになります。

一方、オンキョー技術者の考え方は、「ピストン振動領域を拡げて(分割振動開始周波数を上げて)、基音をきっちりと出す」ところに主眼があり、そのために振動系は余計な歪を出さないために形状を工夫して強度を上げる設計手法を選択したため実効質量は大きくなり、それを補うために強力な磁気回路を採用しています。
質量が大きくなった影響として逆起電力が大きくなりますが、それを抑制する意味でも磁気回路の強化はマストだったと思います。
驚いたのは、磁気回路に銅キャップとファラデーリングを導入して駆動時の前後方向のインダクタンス非対称と漏れ磁束の制御を行っていることです。
これはコストがかかるため、高級ユニットにしか導入されない内容で、ペアで数千円のユニットに導入された例を私は知りません。
もしかしたら、新たに作った部品ではなく、余剰在庫として保有していたものを有効活用したのかもしれません。
ヨークもポール中央に空気抜き穴のあるものが使われていて銅キャップが被せられる段付きのものと思われます。
経営的観点から見ても、赤字で製品企画することはあり得ないので、私としては、ほぼ確信しています。

マークオーディオの場合も自社工場や部品ストレージを持つ訳ではないので、製品企画して生産した数量を売り切ったらモデルチェンジとなるため、人気のあった上記のAlpair-6Pは再販されていません。

話が逸れてしまいましたが、設計で目指すものが違う異常、出てくる音にもそれぞれの主張が感じられるのは当然で、一言で例えるなら、Alpair-6Pv2は「自然」、OM-OF101は「丹誠」でしょうか。
安い部品を使ったとしても、メリハリを付ける(重要箇所に集中的にコストをかける)ことで目的を達成する新星マークオーディオと、それなりの物量を投入して基本性能をきっちり出してくる老舗オンキョーと、取り組み方は異なれど、これからが楽しみになります。

特許・実用新案

 2021.12.30
「色々な構造をHPで公開してしまっていますが、特許・実用新案の申請はしているのですか?」とお問い合わせいただきました。
30年近く技術職としてオーディオメーカーに勤務していましたので、会社に帰属する案件は十数件くらいありましたが、申請文書は専門職に依頼していました。
転職後も数件は会社帰属で出していましたし、登録できる内容のアイデアはここ数年でも2,3件はあると思います。
ただ、申請文書の言い回しは独特のもの(特許庁で選別や精査がしやすいように書式を揃えてある)で、私には生理的に受け付けないものがあるため、個人的に申請することはしていません。
したがって、「公知」として扱っていただいて構いません。どんどん取り入れていただいて、効果を楽しんでいただいた方が私には有難いです。

Alpair-6Pv2について

 2021.12.30
昨日からAlpair-6Pをタンデム結合したモーターブロックでの音出しを始めました。
キャビネットが無いので床にゴロンと置いて前側ユニットの後方と後側ユニット全体に数枚の布(不要になった衣類です)をかけて正面の音だけが聴こえるようにして音出ししているだけですが、久々に聴いてみて歪っぽい嫌な音がしないし管楽器が尖らずに生演奏のように自然に耳に入ってくる・・・「あぁ、こんなに気持ちの良い音を出すユニットだったんだなぁ」と思いながら脚でリズムを取っている自分に気付きました。
ピアノの打音は立ち上がりと収束性が良いので濁らず、ちょっとクールだけれど女性ヴォーカルの声の艶もキチンと描き出す。
おまけに振動板が浅いので平面波に近い波面になるのと高域f特のアバレが少ない(群遅延特性がフラットに近い)ので前後方向の定位がスコブル良く、カーブのキツイ振動板で起こる奥目効果(口にメガホンを当てたような音になり、ユニットが発音源であることがハッキリしてしまう)も皆無と言って良いほど。
マークオーディオが振動系を軽くする設計に移行したv2(バージョン2)の良さを耳が思い出しました。

ボイスコイル巻線にはCCAW(銅クラッドアルミニウム線:アルミ線の表面を銅で覆ったもの。銅の高伝導率とアルミの軽比重を両立)を使うことで軽量化を図り、ダンパーのフェノール樹脂含侵を極限まで減らすことでコンプライアンスを大きくしてf0を下げ、小口径でもストロークを確保することで低音の量も出せるなど良いこと尽くめ・・・当時は「量産品なのに信頼性環境試験(加速試験)は合格したのかな?」と本気で疑ったものでした。湿度の高い日本では、含侵が浅いと吸湿によるダンパーダレや変形が発生することが多く、酷い場合には巻線がトッププレートを擦る事態にもなります。

show

VCボビンにはアルミを使っているにも関わらず、渦電流で音痩せしないのも元ユニット設計者としては脅威でした。
ボビンに穴(本来、穴の目的は放熱です)を開けてアルミ合金キャップとVCボビン、センターポールで囲まれた閉鎖空間の影響による駆動時のスチフネス非線形変化を防いでいることとダンパーの樹脂含侵が少ないため通気性が確保出来ていることの両方により振動系の非線形歪が減っているのか、音のヌケ感も十分に感じられます。

購入後10年を経てもダンパーのヘタリは見えず、信頼性を疑ったのも杞憂でした。

ただ、以前の記事に書いたかもしれませんが、AR-1に使った再生品ですので性能は十分でも樹脂フレーム前面に付着した両面テープの跡が醜く、今回の出品作のように前側ユニットにはフレーム補強も兼ねてアルミ化粧板を装着しようと考えています。

TSパラメータの比較表を以下に掲載しておきます。
振動系実効質量が小さく、コンプライアンスが大きい(⇒ 動きやすいように柔らかいと言うこと)かが分かると思います。
show

久々に掃除

 2021.12.27
埃を被っていた和室の試聴コーナーも、ちょっとはキレイになりました。
しばらくの間、今回の応募作品で音出ししていたので、久々にT2(AR-1.7)で音を出してみると、かなり音の傾向が違うのに気付かされました。

show 三脚のフット部分には、3ヶ所ともコイルばねを入れ(ブーム部分と床の間に挟む)、且つ高さ調整でフットの接地軸が床に軽く触れるようにセッティングしてあります。
試行錯誤する中で、T2の場合にはこの状態にすることで空間定位がビシッと決まることが分かりました。
交響曲などの再生の場合には各プルトの楽器の遠近感もキチンと描き出します。
床の構造が変われば伝播特性も変わるため、今のセッティングでのベスト条件と見做しています。
そういった意味でも、今回の作品で採用したコイルばね組み込みのフット構造(接地が飾りねじの設定でオンオフできる)は今後も続けていこうと考えています。 show 構造は簡単ですが、飾りねじの締め付け方で伝播経路の直結オンオフができるスグレモノだと自負しています。
一度その変化の大きさに触れてしまうと、この構造のメリットから抜け出せなくなります。

年明けから、Alpair-6P+タンデム構造のモーターブロック(11/13の記事に写真あり)を組み込むキャビネット作りを開始する予定です。
三脚は今回の応募作品と共用ですので、返却されたら組み換えてみるつもりです。
コーン紙が浅く空間表現の素晴らしいAlpair-6Pとの組み合わせが今から楽しみです。

キャビネットのデザインについて

 2021.12.25
今日はクリスマスなので、ゆっくりしています。

海外における自作キャビネットデザインのトレンドは、バッフルを必要最低限の面積に抑えるもののようです。(写真はPINTERESTより)
show バッフル効果を抑えるためにユニットの取り付け位置ギリギリで斜めにカットするデザインで、合理的ですし見た目もカッコ良いのが人気のヒケツのようです。
実際には角度が滑らかに変わる球や放物面、もしくは円筒(角だけラウンドしたものを含む)で無い限り鈍角に折れ曲がっている部分で回折効果が発生する(厳密には球でも表面反射がある以上干渉は起きるのですが、f特に山谷が生じるほど急激な変化ではない)のですが、バッフル端が直角に折れ曲がっているよりはマシです。

バッフルボードを厚くしておいて、斜めにカットする作例(掲載写真もそうです)が多いのですが、作りやすさや見栄えを考えるとベターな方法だと思います。
強度の均一さや、ユニットの後面開放率を考えるなら、従来のブックシェルフ型と同様の直方体の角を大きめにカットして側板と同じ厚さの板を斜面に貼り付け、周囲を面に合わせてカット&サンディングする方法が良いのですが、ニス仕上げでは断面(木口)が多くなるため見栄えを考えるとペイント塗装向きです。

斜め部分の面積を小さくしておいて、干渉を減らすために稜線をヤスリで丸める方法もありますが、デザイン的にシャープさがスポイルされるので嫌う方もいらっしゃいます。

直方体のブックシェルフ型に飽きた方にはお勧めなデザインかと思います。

友人に頼まれて21mm合板で作った時には、斜めカット部分の体裁を整える(サンディングシーラー塗布含む)のに1日かかったので、簡単なワニス仕上げ(2回塗り)で納期は5日でした。

今回のコンテスト応募での複雑で時間のかかる作業は9月〜12月前半(塗装&水研ぎを含めて3か月強)で終わったので、年末に向けては掃除と部品棚の整理&道具の手入れで終わりとして、来年の前半は多少は製作依頼に応えられそうです。
年齢的にもハードワークは無理なので、極端な短納期は避け、以前の記事に採り上げた拡散ツール(納期10日)や上記のようなちょっと見栄えの良いキャビネットが主になると思います。

PDF『ユニットって奥が深い』を更新

 2021.12.23
B&W 800D4シリーズの最新技術として、バイオミメティックダンパーを蝶ダンパーの項目にアップし、プッシュプル磁気回路の改善内容(構造図)もアップしました。

PDFファイル
 『ユニットって奥が深い』

温故知新

 2021.12.19
今回は「古いものにも、見直してみると素晴らしいものがある」という内容です。

9/11にB&WのD4シリーズがリリースされたという記事を掲載しましたが、記事中に記載したミッドバスユニットに使われている「複合生体模倣サスペンション(CMS:composite biomimetic suspension)」についての話になります。
そのメリットについて「フレームとダンパーに囲われた半閉鎖空間のスチフネス変化による非線形歪を払拭して、ヌケ(B&W曰く「前例のない透明性とリアリズム」)を改善」と記しましたが、繊維を編み込んだ布にフェノール樹脂含侵して熱成形したファブリックダンパーのデメリットに気付いていたのは50年以上前の技術者達でした。
show

70年くらい前にはベーク板を打ち抜いて作ったダンパーが主流で、海外でスパイダー(蜘蛛)と呼ばれているのはその形がクモに似ていたからに外なりません。確かにモノによってはクモそっくりです。(日本では蝶ダンパーと呼ばれます)

薄いベーク板(フェノール樹脂)をビク型で打ち抜いたダンパーは材料として重いし割れやすい、共振周波数でのQが高く、おまけにストロークが取れないとデメリットのオンパレードでしたので、扱いに困った技術者がファブリックダンパーを思いついたそうですが、物事メリットだけではありません。
プレス型さえ作れば歩留まりが良く大量生産に向いているし、ストロークも取れる。それなりの耐熱性もあるなどメリットが多いのですが、上記のヌケが悪くなることだけはバーターで残ってしまいました。

今までの技術では、蝶ダンパーのデメリットを払拭できず、長い間ファブリックダンパーの時代が続きました。

show ハイテクグリッツ社HPより

今回採用されたバイオミメティックサスペンションはクモヒトデの脚を模倣したもののようで、材質は非公開ですが、柴崎氏の情報(MJ誌1月号)によると熱可塑性のスーパーエンプラとのことです。(注:色は結晶質スーパーエンプラのPEEKに似ているが荷重タワミ温度が低いので疑問)
難接着材なので、VCボビンとの接点は六角形にしてバネ性で位置を決め、隙間を接着剤で充填しているそうです。
2D成形の蝶ダンパーと異なり、3D成形であることも特筆すべきでしょう。ストロークに対するリニアリティは2Dとは格段の違いがあります。


D4シリーズでは採用されていませんが、私が注目している「温故知新」のパーツにフィクストエッジがあります。
ここ半世紀くらいのスピーカーユニットでは振動板とエッジは別パーツで貼り合わせてある構造が主ですが、その前は「フィクストエッジ」と呼ばれる同時成形のものが大半でした。
メリットは、振動板とエッジが同じ材質なので、上手く作れば音響インピーダンスが不連続にならないものが作れるため、反射や共振モードの影響を抑えることができます。
ダイヤトーンのP-610初期型のように音質的にもメリットがあることは明白です。
ご存じのように、昔の振動板は紙と同じように抄くことで成形していましたので、エッジの部分は薄く抄くことで可動部分を構成するようにしていました。
薄くすれば通気してしまうので、ビスコロイド(商品名モーエンが有名:水絆創膏のサカムケアと同様の成分)を塗布して駆動時のカサカサ音と通気の防止をしていましたが、ビスコロイドには経年変化でボロボロになる欠点がありました。

この部分も最新の技術であるCNF(セルロースナノファイバー)を利用したコンポジット材を使うようにすれば、フィクストエッジのメリットを活かしながらビスコロイドのような劣化性付加物を排除することができるので、上記のダンパーと同じように革新的な技術と成り得ます。

このように、構造的に優れたものであっても昔はどうしても実現できなかったものが、最近の技術を使うことで現実化出来るとなると、なんだかワクワクしてしまいますね。

接着について

 2021.12.16
前回の記事で「接着が外れた」という内容を載せましたが、それについてお問い合わせをいただきました。

ご存じの方も多いとは思いますが、そもそも「万能な接着剤」と言うものは無く、用途別、材料別に得意&不得意なものが明記されているものがほとんどです。(PE、PP、フッ素樹脂は「濡れ性」が悪いのでNGなものがほとんど)

記事では金属シャフトとそれを通した穴部分をメタルロック(セメダイン社製AY-123)で接着したところが外れたのですが、金属同士を接着するにはメタルロックは非常に優秀な接着剤になります。
メタルロックは衝撃に強いアクリル系SGA(第二世代接着剤)でも後発の部類に属し、スピーカー業界では磁気回路の組み立てを主に30年以上前からデンカ製「ハードロック」の独壇場が続いてきましたが、最近の民生ではメタルロックを良く見かけます。
Web記事によっては「金属同士の溶接の代わりに使うことができる」という表記もありますが、一番のデメリットは有機樹脂なので熱に弱いという点です。
それさえ認識していれば、メタルロックはチタン、ステンレスだけでなくアルミや亜鉛合金などの金属一般と炭素繊維(CFRP)も接着できるし、ハードロックのような刺激臭も無く、便利な接着剤になります。

それでも外れてしまったのは、接着面積が小さかったのと応力の加わる方向に因ったと考えています。

接着には大別して「機械的結合:アンカー効果」「物理的相互作用:ファン・デル・ワールス力」「化学的結合:原子間結合」の3種類がありますが、メタルロックの場合には物理的結合を利用したもので、金属と接着剤がキチンと接することが重要になり、金属表面の汚れや油脂分を除去する(濡れ性を良くする)ことが肝要になります。(詳細は、拙著PDF『ユニットって奥が深い』の2.9.2項 接着剤について を参照願います)
その上で接着面積を出来る限り取ることが強度を得るためには必要になります。
それと、外部応力のかかり方も強度には影響があり、接着面に水平や垂直といった方向に均一に応力がかかる場合には十分な威力を発揮しますが、斜め方向やヨジレには弱く、前回の記事で接着が外れたのは落下などで斜め方向に衝撃力が加わったためと考えられます。
私の作品は重心が高いものが多いので、どうしても落下などの衝撃には弱くなります。
メーカー製なら一体削り出しか溶接が当たり前な部分ですが、シロウトの私には手を出せないため接着しか選択肢がありません。
そのためには、出来る限り接着面積を稼ぐこと、曲げなどのモーメント応力に強い構造にすることの2点が重要になってきます。

因みに、MDFなどを接着する木工ボンド(酢酸ビニル系)やゴム系接着剤はアンカー効果を利用したもので、表面がある程度粗くなっている(紙ヤスリなどで粗しておく)こと、もしくは繊維中に浸み込むことが必要で、接着剤が食いつくことで接着します。
ガラスのようにツルツルピカピカな面に木工ボンドを塗っても直ぐにペロッと剥がれてしまうのはそのためです。

応募作品搬入

 2021.12.14
今日が搬入の〆切ですが、昨日、神楽坂の音友社に車で搬入しました。

私の作品は宅急便輸送中や評価後に壊れることが多く、一昨年の「Cyclopes2.0」は宅急便返送時にシャフトの接合部接着(メタルロックで接着)が剥がれ、それに懲りた昨年の「ターミネータ2」は往復とも自分で運ぶことにしたのですが、審査終了後に三脚部分の一脚が壊れる(接着部のダボが抜ける)という事故がありました。
原因は私の設計や製作スタンスが甘いことで、強度的に十分な構造になっていなかったり、三脚ボディとブーム部分は接着面積が少なく且つ曲面接着なのでダボを追加したのにMDFの割れを恐れてダボ穴を緩くして接着強度が得られていなかったりだったので、今回は最初から強度的にヤバそうな部分は補強を入れるようにしましたが、私の作品の場合「やじろべえ」のように構造的にフリーな部分が存在するため、自分での持ち込み&持ち出しが必須になってしまいます。

昨日、持ち込んだ際に名前を伝えると、「ああ、前回1位になって脚の取れた方ですね」「今回は注意事項がありますか?」と聞かれ、恐縮するとともに恥ずかしくなりました。
「壊れてしまう作品」で憶えられているとは・・・。
今回はレギュレーションの「25kg/1本あたり」には余裕のある15kg強(T2の時には10kg弱)の重量ですが、カウンターウェイトを入れたにしても重心はかなり上方にあり不安定な部分もありますので、音友会館別館1Fストレージから試聴室へ移動の際に事故が起きないか不安です。

いずれにしろ、やれることはやったのだから、後は天に委ねるしかありません。

ここで小ネタ情報です。
塗装はガンメタの水研ぎ仕上げ(#400〜#1000〜#2000)にしたのですが、マット状のガンメタではどうもしっくりこないので、仕上げにアクリル透明板用の研磨剤で仕上げてみました。
当初のイメージとは異なってしまいましたが、木目調というかブラックタイガーアイのような模様が出た光沢面となりました。
好みが分かれるとは思いますが、面白い仕上がりにはなりました。

皆さんも曲面部分(と言うか塗装面が多少凸凹でないと上手く模様が出ない:スプレーよりムラの出やすいハケ塗りがベター)で試してみてください。メタリック塗装がお勧めです。

球形キャビネットは最高の形?(2)

 2021.12.10
球形キャビネットの場合には定在波対策が必要なのは分かったけれど、世の中に球形キャビネットを使ったシステムを作るメーカー(フランスのELIPSONなど)やオーディオノートが多いのは何故か?・・・と聞かれた場合の回答は、以下になります。

見た目の美しさ(安定感)、木工旋盤で回転させて簡単に作れること、昨日の記事で触れた「厚さが薄くても強度が取れる」などに因るものと思いますが、市販されているIKEAの「木を刳りぬいた半球サラダボール(NC旋盤で回転させて大量生産ができる)」2つを利用して組み合わせた作例がWeb上で多いのは手軽に安く作れるのが理由と思います。

また、シミュレーションしやすいと言うのも理由の一つで、B&Wの「Sphere&taper tube(ミッドレンジに使われている球形と円錐形を組み合わせたキャビネット:タービンヘッドと呼ばれているもの)」はその代表です。
球形内部で反射した音波を円錐形状のチューブに導き(球だけだと球内部に音波の合焦点が出来てしまうので整流器で導く)、内部反射させて経路長を長くすることで減衰させるという合理的な形状です。
定在波については、ユニット後部に流線形の整流器を入れて点対称を崩すことで発生を抑え、且つ上記の「チューブに導く」働きをすることで一挙両得を狙っています。(参考図掲載:禁転載)

show

いずれにしても、メリットがあればデメリットもある訳で、B&Wのように一挙両得的なものを狙ったとしても作り難さが弊害として発生しているのは致し方ないとも言えるでしょう。

球形キャビネットは最高の形?

 2021.12.5
徹底して球形のキャビネットしか作らない友人がいます。
彼曰く「球形というのは板厚が薄くても強度が最大になる形なんだ」「上手く作れば、どこにも応力が加わらない理想的なモノができるはずだ」
確かに「閉じた球形」は力学的には理想的な形ですが、切り抜いてユニットを取り付けた時点でその部分に構造的な節が生じ、球の中心に対して点対称ではなくなることを指摘すると以下のような回答が・・・
「だからユニットをキャビネット開口に取り付けないでフリーにして、球体としての形状ダメージを最低限にしている」・・・彼は私と同じ設計思想を持っていて、「キャビネットは干渉を避ける(領域を仕切る)ための必要悪」と考えています。
最近の彼の作品(10年くらい前に作って少しずつリファインしている)ですが、コンクリート打ちっぱなしの床にM20のボルトを埋め込んでいて、それにH鋼(電車のレールに使われているH字の形の鋼材:自動車のシャーシ防錆&防振用チッピングでデッドニング)を溶接してあり、それを仮想GNDと考えてユニットを固定しています。
球形(直径90cmくらいか? ← 彼に問い合わせたところ外寸で70cm弱、内寸で65cmくらいとのことでした。記憶はあてになりませんね)のキャビネットは天井からSUSワイヤで吊ってあり、キャビネットとユニット(13cmのフルレンジ)との間には音漏れ防止とインシュレートのためのソルボセインが挟んであるだけです。
当然、家から持ち出しできる代物ではありません。
出てくる音は凄味があるかと思いきや、すごく素直な音で、空間定位がピンポイントなのが特徴です。

ただ気になるのは定在波で、球形は全ての面が1つの波長もしくはその逓倍の定在波を生み出すので最悪です。(直径が半波長の定在波がピーキーに出る。縦/横/奥行きが同じ長さの立方体と同様)
周波数スイープ音源を入力してみると、紙系振動板の場合にはユニットから漏れてきた共鳴音が耳に付くので分かります。金属系振動板では透過しないまでも振動板を励振して変調がかかると思われます。
したがって、キャビネットの中には和紙で作ったテトラパックをごっそり入れてあるそうで、音には艶っぽさが全くありません。(吸音材を入れ過ぎるとこうなります)

私は、吸音材は必要最低限しか入れたくないので、キャビネット内面は平行面が出来る限りできないようにしています・・・といっても軸対称形状(流線形など)ですが。
こうすることで、特定の定在波が影響することは殆どありません。
結果的に吸音材は定在波対策(平行面を消す)ではなく、本来の吸音に少量だけ使う形になります。
直方体のキャビネットのように作りやすくはありませんが、このメリットは捨てがたいです。

STEREO自作コンテスト一次通過

 2021.12.1
昨日、落選をご報告しましたが、今朝メーラーを開いたところ、午後8時前に一次通過の連絡が入っていました。

前言撤回で、塗装の仕上げをハイペースで継続します。
お騒がせしました。

STEREO自作コンテスト落選

 2021.11.30
月末になりましたが、15時時点でメール連絡がありませんので一次(書類)審査落選です。(通過していれば、例年もっと早くメールが届くはずなので最後のアガキです)

匠(たくみ)部門ということもあり、オッこれは凄いと思わせる「抜きん出たモノ」がないと選ばれないだろうなとは思いながら、地味な既存の技術でもブラッシュアップして完成度が高ければ行けるのでは・・・と舐めていた部分もあったと思います。

昨日夕方に4層目の塗装をしたばかりだったので、今日の午前中は、気持ちを切り替えるのとリフレッシュも兼ねて鎌倉に紅葉の撮影に行ってきました。
例年より遅いのかな・・・それと葉がかなり乾燥して縮れてしまっているものが多かったように感じました。
コロナ禍でオミクロン株の脅威がニュースで流れているにも関わらず人出は多く、有名な明月院や長谷寺などは避け(土産物屋の多い小町通りなど以ての外です)、もっぱら街路や山道を巡りながらの撮影でしたが、源氏山公園は小学生の遠足で混みあっていました。

作品提出の〆切が無くなったので、塗装も思い通りに仕上げていこうと思います。
外観も伏せておく必要が無くなったので、徐々に記事で開示していきます。
それと、構造的な特徴も・・・皆さんの参考になれば幸いです。

まずは、ご報告まで。

テクニクスSB-G90m2について(その3)

 2021.11.29
気になってテクニクスのHPを確認したところ、間違いがありました。

show マウントバッフルは同軸とウーファで分かれているようです。(2つのウーファは1枚のマウントバッフルに固定)

底板は40mmになったようです。
雑誌記事を鵜呑みにするのも考え物ですね。



テクニクスSB-G90m2について(その2)

 2021.11.29
月刊STEREO12月号に注目製品として採り上げられていたので情報収集しましたが、以下の点が判明しました。
ウーファを固定しているマウントバッフル(16日の記事ではサブバッフルと表記)は、従来、ユニット毎に分かれていたものを一体化して底板に接続していて、底板は従来の2倍の厚さとしたとあります。
この改善はマーク1の発売時に私が指摘した通りの変更になっていて、底板を仮想GNDと想定した場合の最適解になるはずです。
理論的には同軸ユニットのマウントバッフルとウーファのマウントバッフルを共通インピーダンスを持たせないように、それぞれ別に(キャビネットに接しないようにして)底板まで延ばしてやる方がベターですが、木製のバッフルでは構造強度が取れないため却って悪化させてしまうかもしれません。
底板の厚さを2倍にしたのは正解だと思います。仮想GNDとしては質量と剛性が要求されますから。
これは設置場所で音が変わってしまう事への対処にもなるので、スパイクの併用でだいぶ改善されていると思います。

タンデム結合部の構造について

 2021.11.28
今月13日の記事にタンデム結合部の写真を掲載したところ、「2つのユニットのボトム同士を直に結合しなくて良いのか?」とご意見をいただきました。

確かに磁気回路のボトム同士を結合するのが作用反作用だけを考えるとベストなのですが、問題があります。
5年近く前に考えたAlpair-6Pを使った構想図を掲載しておきます。

show まず、ユニットが近いことで磁気的な問題が発生する可能性があることです。
固定磁界なので相互干渉(混変調)は無いように思いますが、反発により漏洩磁力線の経路が広がってしまいます。これがどのように音質に影響するかは未知数ですが・・・。

それと背面放射音圧同士が近くなるので、2つのユニットが完全にシンクロしていたとしてもキャビネット内部の壁面は2つのユニットに対して同じ状況にはならないので、反射波の干渉が大きく発生します。また、振動板は相互に後方後者の影響を受けます。というより、後方ユニットの音圧を封じ込めるサブキャビネットを設置するスペースが無いので、AR-1のように後方ユニットの前方放射のみをサイレンサーなどで分離することしかできません。(2つのユニットの後方放射が合算されるので、振動系実効面積が2倍になった状況になり、有効にバスレフに使えますが・・・)

そして、これが一番の問題点ですが、やじろべえ構造を組むのに今回の構成は使えず、大型ジンバルなどユニットより外縁で保持する機構が必要になります。
逆に言うと、安定度を求めてモーメントを大きくする必要のある今回の構造を採用するには、ある程度ユニット同士の距離を離す必要性が生じ、反作用の打ち消しを効率よく行うには結合部に剛性が求められたということになります。

ニードル(スパイク)について(2)

 2021.11.23
世の中でニードルがもてはやされる理由を考えてみました。
先端の断面積が減ることで「エネルギーを通りにくくすることができる」と思い込んでしまっているのだと思います。

前回も記しましたが、ニードルでは伝播のコントロールはできず、100%伝播してしまいます。
一番のメリットは「先端がピンポイントになるので、狙ったところに当てられる」ことです。
バルク金属以外のもの、例えば発泡ゴム系の材質を介在させた場合には、その減衰要素が伝播を変調することが考えられるため「固有の音(カラーリング)」を発生しやすいのですが、バルク金属であれば変調からはフリーなのもメリットになります。
ニードルの特性を活かすには、脆弱な床との間に質量の大きなバルク材(重量コンクリート塊など)を挟み、その上にニードルを位置させることが有効で、床の影響を減らすことができます。

show 質量が大きなバルク材は仮想GND(機械インピーダンスが低いので相対的な振幅が小さい)として機能し、床の構造や材質によるカラーリングを減らすことができます。
このようにしたからと言って、床が振動しないわけではない(重量物が載った部分が振動の節になるので見かけ上そのように振舞う)のですが、振動エネルギーは機械インピーダンスが低い(重い)方に流れる特性があるのも手伝って、ニードルを伝播して機器へ戻るエネルギーを減らすことができます。

ニードル(スパイク)について

 2021.11.18
このテーマ何回目でしょう?
ご意見がありましたので、私の理解している範囲で回答させていただきます。

物質と物質が接触している場合、運動エネルギー(振動もそうです)は運動量保存の法則に従い伝播します。
中学だったか?の物理の授業で、球突きを例にして習った記憶がありますが、大きな球を突いて小さい球(同じ大きさでも良いのですが・・・)と大きな球と同じ大きさの2つの球がくっついた状態のものに当てると、小さい球は動かずに大きな球だけが突いた球と同じ速さで弾かれるというヤツです。
衝突した瞬間には3つの球は接触(球はそれぞれが点接触)していて、運動エネルギーの伝播が起きます。小さな球が静止したままなのは、100%エネルギーが伝播(通過)したからです。
実際にはビリヤードに使う球は木製で、弾性やロスがあるため、まっすぐに突いた球であっても多少弾かれたり、小さな球がよろよろ動いてしまったりしますが・・・。

物質に「減衰要素」や「バネ要素」が無い場合(バルク金属の場合がそうです)にはロスなくほぼ100%伝播します。
「ほぼ」と書いたのは、そのものの持つ固有振動数で共振するため、その周波数以外という意味で書き加えました。

金属であっても、コイルバネなど特別な場合にはバネ要素が直列に入りますので共振周波数以上では振動が減衰され、100%伝播するのはバネ共振周波数以下の周波数振動のみとなります。
弾性領域(バネ共振周波数以上)では運動エネルギーが弾性(位置)エネルギーに変換されて減衰します。

金属製のニードルの場合、先端の断面積で変わるのは単位面積当たりの荷重だけで、伝播するエネルギーが減衰することはありません。
ただし、接触面での運動エネルギーのベクトルを考えると、ある程度の面積で接する場合には外周に行けば行くほど鉛直以外のベクトルが存在するかもしれません。(検証していないので明言できませんが・・・)
そういう意味では音質に違いがあってもおかしくはありません。
床に傷が付くのを厭わない方は、ニードルに荷重がかかることで床にめり込んで接触面積を増やしていることになり、且つ接触面がニードル法面に沿った形になるので、前述のベクトルは床に鉛直ではなく法面に鉛直になります。
これを気にされるならば、ニードルと同材質の受け皿を床との間に入れることをお奨めします。
ただし、受け皿が大きくなれば床との接触面積が大きくなったのと等価ですので、ニードル先端を尖らせる意味が本当にあるのか??という疑問が生じます。

いずれにしろ、金属製ニードルでは伝播をコントロール出来ません。

ニードルを使うなら、製品側をニードルの先端にする(上向きにする)ことで接触ポイントを明確に出来るメリットのほうが大きいと思います。
スピーカーキャビネットの振動の少ない部分(稜線や角に近い部分)を狙ってニードルで受けるほうが合理的です。
方向を変えても100%伝播することには変わりがありませんが、発生源からの伝播エネルギー自体を減らすことができます。

テクニクスSB-G90m2について

 2021.11.16
前回の記事でも触れましたが、テクニクスSB-G90m2 が9月にプレスリリースされています。
SB-G90からの改善点は色々ありますが、ユニットを取り付けるサブバッフル構造についての改善が無かったのが残念です。
ユニットの重心に近い部分でマウントすることでサブキャビネットに振動を伝播させにくいようにする構造は秀逸で、タンデム以外ではこの方法がベストと思います。
しかし、「スピーカーの不要振動を約半分にした」とありますが、サブバッフルに振動が伝わることは事実であって、経験的に、その処理が受け側(サブバッフル)でキチンとできていることが性能を左右します。

SB-G90の時に、置き場所で音が変わってしまうことで苦労していたことの反省はどうしたのでしょうか・・・。
解答がスパイクの採用であるならば、ちょっとお粗末です。これでは対処療法になります。

ところで、このスパイクですが、MJでも指摘がありましたが、先端が尖っておらず、丸みを帯びています。
材質が同じ真鍮製の受け皿を用意して床を傷付けない配慮をしているのに、何故?と思われる方もいらっしゃると思いますが、点接触はいくら尖らせても意味が無いのです。
2019/9/12の記事でも採り上げましたが、直接接触する以上、接触面積が変わろうが形状に因らずエネルギー伝播は100%発生します。
ニードルの先端を尖らせるメリットは「接触位置を明確に出来ること」で、広い面で接触する場合には床の形状などにより再現性がありませんが、ニードルのようにピンポイントであれば再現性がある程度確保できるということです。

作品紹介(7)

 2021.11.15
指標の四番目「点音源に近い構造にする」は私のライフワークテーマになります。

市販のスピーカーシステムを聴いて、「良い音はしているのに満足できないのは・・・?」。
解答は、「目の前に完璧なパースペクティブが展開されないから」です。
ステレオフォニックの理論通りに2本の無指向性マイクでソースが収録されていれば、理論的にはパースが完全に再現出来るのですが、現実には録音はマルチマイク+マルチトラック録音機ですし、市販されているソースでは99%ミクシングを行っているので録音現場そのもの(元通り)の再現は不可能です。
(詳細は、左欄の「PDFライブラリー」⇒「聴覚と脳」 と辿って、拙著PDF『音場再現と聴覚の限界』総合版の第一章をご確認ください)

それでもミクシングセンスの良い録音はそれなりにパース(「音場」と言い換えた方が分かりやすいですね)を再現できますが、スピーカー側で更に悪化させる要素があるのに、それを防ごうとしていないものがほとんどです。
何が悪いのかというと、点音源に近付けなければ正しいステレオフォニック再生は出来ないのに、2ウェイ、3ウェイといったマルチウェイ(多音源)のスピーカーがほとんどですし、せめてウーファとツィーターの位相くらい合わせて(リニアフェイズにして)欲しいのに、それもしていない・・・愚痴になりました。
(話が逸れますが、9月に発売されたテクニクスSB-G90m2のミッド+ツィーターは同軸でリニアフェイズになっています MJ12月号に紹介記事あり)
確かにマルチウェイの良さは帯域分割することで分割振動しない(歪の少ない)帯域を出来る限り受け持たせてユニットの性能を十分に発揮させられることで、分割振動を利用せざるを得ないフルレンジとの差はそこにあります。 でも、パースが気になってしまうと、もう対策をしていないマルチウェイは聴けません。

したがって、私の作るシステムは点音源に出来る限り近付けるフォルムを持ったものになります。
外観としては、バッフルレスで流線形(バッフル効果や回折効果が少ない)、SPスタンドで反射しないように細い支柱で支えるの2点が基本になります。デンソーテンのECLIPSEシリーズのパクリではありません。設計思想が同じだけです。
それで、毎回作る作品がECLIPSEに似てしまうのは仕方のないことなのです。
今回は、せめてデザインに特徴を持たせようと努力していますが、コンテスト一次選考中なので、全体像はご紹介できません。悪しからずご容赦ください。

作品紹介(6)

 2021.11.14
キャビネット構造が出てきましたので、指標3「ユニットの背圧は出来る限りスムーズに逃がす」について説明します。

紹介(1)でユニットOM-OF101の振動系が如何に空気のスチフネス(閉空間の空気が振動系を抑え込もうとして硬くなる)からストレスフリーになっているかを説明しました。
この特徴を活かすためには、キャビネットにも振動系を抑え込まないような構造が求められるというのが私の考えです。

そのためには後面開放がベストだと思いますが、それでは芸が無さ過ぎますので、断面積の大きなシングルバスレフ構想でスタートしたことは紹介(1)に記した通りです。

ただし、指標1によりサブキャビネットが必須になりますので、サブキャビネットの外壁をダクトの内壁としたリング状断面を持つダクトが構造上最適であることに気付きました。
show そのためにはサブキャビネットをメインキャビネットの内側中央に配置しなければならず、且つ相互にインシュレートすることで音圧により励振されて双方に発生した微小振動同士の混変調を防ぐ意味もあって、サブキャビネットを中央に位置させるための10本のフィンとメインキャビネット内壁との間に緩衝用のクッションを入れる構造としました。
これにはサブキャビネットを中央に配置する役割もありますが、それだけでは保持機能が弱く、ナイロンテグスでメインキャビネットから吊り下げる構造も併用しました。(写真は下地塗装&仮組状態のもの。遊びで、要らなくなった「ユニットのシール」を貼ってみました)

続く

作品紹介(5)

 2021.11.14
前回の部分断面図を見て気付かれたかもしれませんが、後方ユニットはサブキャビネットの中に丸ごと入ってしまっています。
これは指標1の説明後半で示したように、「後方ユニットから放射される不要な音響エネルギーを閉じ込める」ための具体的な解答です。

本来、全てのスピーカーシステムにおいて必要なのはユニットの前方放射のみで、ユニットの背面放射を分離するためにキャビネットが存在しています。密閉箱がその最たるものです。
バスレフは低域を補う手段としてダクトをキャビネットの外側に向けて設置しているだけで、必要悪でしかありません。

今回の作品も同様に必要なのは前方ユニットの前方放射のみで、後方ユニットは『反作用打ち消しのため』だけに必要なだけです。

続く

作品紹介(4)

 2021.11.13
ユニットをキャビネットからフローティングする具体的方法を説明します。
指標1のところで紹介した「2つのユニット同士をタンデム結合(尻と尻を突き合わせる形で結合)したもの」が9/7の記事に掲載した写真で、「モーターブロック」と呼んでいます。(再掲します)

show

以下の図に示すようにモーターブロックの重心軸上方の連結バー中央部に先端を尖らせた保持シャフトの受け部分を設けてあり、やじろべえのようにバランスさせることが出来ます。

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show 左図は三脚部分と保持シャフトおよびモーターブロックの位置関係を表していますが、保持シャフトの長さで床からの距離を決めることでユニットの位置が決まりますので、ハウジング外径に合わせて三脚に載せるキャビネットを切りぬけば、ユニットとキャビネット切り抜き穴との位置関係が決まります。
モーターブロックは保持シャフトに対しモーメントバランスが取れているので水平に保持され、キャビネット穴とユニット外周の間にインシュレータ構造を置いてもユニットの荷重で潰れることはありません。
このように文章で説明してもイメージが湧かないと思いますので、キャビネット部分の構造断面図(分かりやすくするため部分断面図にしています)を以下に示します。

show


前方ユニットと後方ユニットの外周部分に差があるのは、前方ユニットに制振や整流の構造を持たせたためで、後方ユニットには付加質量を加えることでバランスを取っています。(掲載した写真はユニットの加工前)
show 前方ユニットとメインキャビネット、および後方ユニット(実際には「結合ベース」のユニット端)とサブキャビネットとの間に中空シールチューブ(サッシ用網戸のシールパッキンを流用:図では英文字のDを寝かしたように見える部分)を配してエアタイト構造にしています。
この中空チューブは網戸のパッキンに使われるので耐久性(耐候性)もあり密着度も高いものになっていてエアタイトには最適ですが、非常に柔らかいので、ちょっとした荷重がかかれば変形して潰れてしまいます。
そのために「やじろべえ構造」でモーメントバランスしていることが有効になってきます。

続く

作品紹介(3)

 2021.11.12
次は指標2についてです。
「ユニットはキャビネットには取り付けない」

指標1で駆動基準を明確にすると言っておきながら、ユニットをキャビネットに固定しないとはどういうことなのか?と不思議に思われた方もいらっしゃると思います。
通常、磁気回路は駆動力の反作用で振動していて、磁気回路につながるハウジングも振動しています。
このハウジングをキャビネットに取り付けるということは、反作用による振動がキャビネットに伝播するということに外なりません。
振動エネルギーは機械インピーダンスの低い(質量の大きい)方に向かって流れ込みますので、ハウジング構造がしっかりしていてキャビネット質量が大きければ、キャビネットは磁気回路のデッドマス(振動吸収機能)として考えることができます。

この状況で、ハウジングは振動系の駆動による背圧(直接波)をモロに受けていて、励振される条件が整っています。
もしハウジングが弱く共振しやすい状況であれば、背圧の特定の周波数で励振され、磁気回路から伝わった反作用のエネルギーを変調したものがキャビネットに流れ込みます。
キャビネットが共振しにくく、且つ質量が大きく完全に吸収してくれれば問題は起こりませんが、実際のキャビネットは木製(MDFや合板など)が多いので有限の質量しかなく、ここでも共振が起こります。
酷い場合には「箱鳴り」という共振現象を起こしてキャビネットから空間へと複雑に変調された波動が伝わっていきます。

こう書くと「箱鳴りは悪いことだけじゃなくて、楽器のように美しい音色や色気を付加する」とおっしゃる方が必ずいらっしゃいますが、箱鳴りはアンコントロールであることを忘れてはなりません。結果オーライでは設計とは言えないのです。

では、キャビネットに取り付けた場合に悪さをしないキャビネットの条件は何かというと、質量が十分に大きく、出来る限り共振しないような剛構造を持つことになります。
そのため、海外では金属製で桁違いに重い剛体キャビネットや金属フレーム+木材というハイブリッド構造が採用されている場合もあります。

ここで冒頭のようにユニットのハウジングをキャビネットに取り付けない状況を考えると、振動エネルギーはキャビネットに直接伝播せず、キャビネットの要求条件も緩和されます。
その場合には、反作用のエネルギーが指標1に従ってキャンセルされていることが意味を持ってきます。
ハウジングには背圧による共振しか発生せず、キャビネットに固定されていないので、共振エネルギーは機械インピーダンスの低い磁気回路に吸収されます。(ハウジングから振動系に流れ込むエネルギーは微小です)

デッドマスを付加した状況でキャビネットに固定しない場合(昨年製作したT2もそうです)も同様にデッドマスが共振エネルギーを吸収してくれますが、反作用のエネルギーが存在するのでハウジングは磁気回路と同様、反作用により微小振動した状態になります。

続く

作品紹介(2)

 2021.11.12
 キャビネットというよりスピーカーシステムを設計するにあたり、指標としたものが4つあります。

 1.振動板の駆動基準を明確にする
 2.ユニットはキャビネットに取り付けない
 3.ユニットの背圧は出来る限りスムーズに逃がす
 4.点音源に近い構造にする

今回は指標1について。
ユニットを音声入力で駆動することは「実効質量のある振動系+振動板周囲の空気質量」を動かして音圧を生成する事になるため、運動方程式 F = m・aに応じた駆動力が発生していることになります。( mは振動系の実効質量+振動板周囲の空気質量 )
作用・反作用の法則により、磁気回路には駆動力と大きさが同じで逆方向の力が働くことになります。
「昔の大砲を打つ映像」をご覧になった方も多いと思いますが、弾を打った時の反動で数トンもある大砲の筒が台車と一緒に後方に動いてしまいます。
着弾点への狙いが甘くなるため、現在では「無反動砲」といって筒のみが後方に移動して台車は動かないものになっていますが、いずれにしろ筒には反動が発生しています。
この反動が無ければ、弾に加えられるエネルギーは最大になりますが、そうすると反作用に大砲自体が耐えられず壊れてしまいます。
運動方程式から、反動を小さくするためには筒と台車の質量を可能な限り大きくすれば良いことが分かりますが、それでも反動はゼロにはなりません。

これをスピーカーユニットに応用したものがデッドマスになります。
この反作用がある限り、デッドマスを加えられた磁気回路でも少なからず動いてしまい、振動系は駆動基準を持たずに駆動されることになります。移動量は格段に減るのでデッドマスを加えないよりはパースペクティブなどの再現性はずっと良くなるのですが・・・。

故・江川三郎さんが1970年代に『ミラード・アクロポリス』と題して「2つの同じユニット同士の尻を突き合わせて同相で駆動する方式」を提案し、特許も取られました。
海外ではRCCM(reaction canceling compliant mount :反作用をキャンセルする理論に裏打ちされたマウント法)としてVivid audio社のG1 GIYAシリーズのウーファ部や各社のサブウーファシステムに採用されています。

このような構造にすることで、それぞれのユニットの反作用は相殺(キャンセル)され、それぞれのユニットは明確な駆動基準(機械的仮想GND)を持つことになりますが、以下の問題が発生します。

ウーファ帯域では波長が長くなるため聴覚の位相検出能力が極端に低くなるので成立しますが、フルレンジ(全体域)をそのまま放射したら試聴位置に届く相互ユニットから放射された時間差のある音波が干渉してしまい、2kHz以上では本来の性能を全く発揮できません。
したがって、フルレンジでこの方式を使うのはタブーとされてきました。

どうしてもこの方式のメリットを諦めきれなかった私は、発想を転換して、一方のユニット(後方にあるユニット)から放出される音波を閉じ込めてしまえば問題は起きないだろうと考えました。(参考:3/2記事)
それが10年以上前からAR方式を進めてきた根拠ですが、「後方放射を2つのユニットから合算してバスレフに使えば低域が稼げる」というスケベ根性から抜け出せず、後方ユニットの前面放射のみを閉鎖空間(実際にはスチフネスのアンバランスが生じるのでサイレンサーとして機能する空間にした)に放出する方法から抜け出せずにいました。
今回、ユニットをマルゴト閉空間に置くことで完全分離を目指すことにしました。(3/2の記事を参照ください)
今までと異なり、後方ユニットには空気圧(容積に因るスチフネス変化も)の影響は空振りしてほとんど生じないためf0の上昇はありません。従って圧力を逃がすためのサイレンサー機能も必要ありません。
駆動しても後方ユニットの音波は放出されず無駄になるので、海外の友人からは「ダルユニット(なまくらorはっきりしないユニット)だね」と言われ、自らは「ハイドユニット(隠れたユニット):本来はヒドンユニット(隠されたユニット)ですが・・・」と名付けました。

続く

作品紹介(1)

 2021.11.11
今日は、1か月ぶりにゆっくりしようと思います。
近くにあるコスモス畑に写真を撮りに行こうと思いましたが、昨日の帰りに寄ってみたら更地になっていました。残念!

少し自由な時間が出来たので、作品紹介をしていきたいと思います。
今回の作品のテーマは『ユニットを鳴らしきる』です。
いままで数回に分けてユニットOM-OF101の特徴を記してきましたが、かなり本格的な設計をされているので、どう料理するかを半年近くかけて練ってきました。
ムック本でユニットについて設計者が述べているように、『聴感上のS/N感』を求めるための仕組みが随所に見受けられます。

ここで整理しておきますが、「聴感上のS/N」のN:ノイズの意味するものを、「本来、振動系が音響変換器として機能するにあたり不要なもの」として捉えると、周波数領域では振動系の構成部品に発生する機械的な歪(=駆動した結果発生する非線形歪)、材質特有の固有共振(線形だがQが高い)、磁気回路の非対称性による磁束分布の非線形歪(駆動力歪)などを総合した高調波歪が相当し、タイムドメインでは各所に生じる粘性流体(空気)の性質を要因とする遅延非線形歪がそれに相当します。
これらのノイズ要因を削減する仕組みがいっぱいあると言うことです。

まず振動系ですが、1つ目はエッジを特殊形状にすることで、振動板とエッジの逆相共振による周波数特性ディップ(凹み)の発生を抑えています。

show 通常のフルレンジユニットでは単純なロール形状(断面が半円)のものが多く、左図のように振動板の駆動方向と逆方向に変形する逆共振(副共振)が生じて、10cm以下の口径では1kHz前後に音圧ディップが生じます。(7/21の記事の凹ロール図のほうが分かりやすいですね・・・)
共振の仕組みは以前にも記しましたが、振動板の質量とエッジの形状、質量要素、弾性要素、減衰要素により発生するため、PCシミュレーションを行って厚さ分布を変えたり途中にリング状の膨らみを設けたりして抑制しますが、単純形状のロールエッジでは不可避の現象になります。
振幅に合わせた同相の動きではない(遅れ系になる)ので聴感上の「歪=ノイズ」になり、振動板のモード共振(5/1の記事参照)と共に設計者の悩みの種になっています。
これを特殊形状のエッジにすることで回避し、且つ振動板に五角形稜線を回転させた全体形状とバイオミメティクスによるトンボの翅脈を模したリブ形状を表面に配する形状的な特徴を持たせること(=剛性UP)で分割振動領域での歪を抑えています。

加えて、キャップとVCボビン、センターポールで囲われた閉鎖空間のスチフネスによる制動を嫌ってダストキャップを排してフェーズプラグにしたのと、ダンパーとハウジングで囲われた閉鎖空間のスチフネスによる制動を嫌ってハウジングに空気抜き穴を4ヶ所設けたこともあって、振動系は空気のスチフネスからはストレスフリー状態にあります。
このままだと振動系の機械Qが極端に大きくなってしまうので、特殊エッジのQを抑える(コンプライアンスを小さくする)ことでバランスを取っているものと思われます。
低域の再生については振動系の実効質量を大きくして磁気回路を強力にすることでクリアしています。
磁気回路にしてもセンターポールに被せた銅キャップと磁気回路のマグネット内周に設けた銅製ファラデーリングにより駆動時のBL対称性を改善しています。

これらは全て「非線形歪」を排除する技法で、オンキョーサウンド設計者の言葉にある『聴感上のS/N感』のために取り入れられたものです。(人間の聴覚は非線形歪に対する感度が高い)
ここまで低歪を徹底した廉価ユニットは今まで見たことがなく、どんなキャビネットに入れても卒なく並以上の音質が得られるはずで、ムックの付録としては最高のものに仕上がっていると思われます。(もう売り切れ状態のようですが・・・)
逆に言うと、それ以上のものを得ようとすると、なかなか応えてくれないユニットとも言えます。

それに見合ったキャビネットを考えた場合、今流行しているダブルバスレフが正解とは考えられず、ユニットに負担をかけないという意味で平面バッフル(オープンバッフル)や後面開放などがふさわしいと考えましたが、それでコンテストに応募するのは芸が無く、当初は断面積の大きなストレスフリーのシングルバスレフ(入口と出口をフレア構造にして歪低減)で設計スタートしました。

続く

TIAS見学できず

 2021.11.10
11/5〜7の会期で開催されていた東京インターナショナルオーディオショーに行くことが出来ませんでした。
昨年が中止となり、今年こそはと張り切っていたのですが、月刊STEREO誌主催・自作スピーカーコンテスト用の作品造りが佳境に入っていて叶いませんでした。

今日が応募〆切で、先ほど出品用レポートを粗方書き上げたところです。
後は、今日撮った写真を一枚貼り付ければ完成なので、夕方にはPDF化して音友社に送れると思います。
前回、一般部門で1位を取ったプレッシャーもあり、且つ匠部門が強者揃いということもあって、盛りだくさんにしたのがアダで、今回もギリギリのタイトロープ状態でした。
今回も塗装がネックになり、ダークグリーンから急遽ダークシルバーへの変更をする決断を1週間前にしました。
鏡面仕上げは間に合わないと思われますが、コンテストが終了してから必ず仕上げることを誓います。

TIASが見学できなかったので、せめてWeb上の情報を拾おうと思って先ほどから検索していますが、予定通りフランスAudioNec製「EVO」の音出し(初出品)が行われたそうです。
B&Wの800D4と並んで、ぜひ聴きたかったので、非常に残念です。
タイムロードによるNORD製スピーカー「HYLIXA」も私の作品と似たところがあり、一昨年は音を聴けなかったので期待していましたが・・・。

新型コロナのために好きな写真撮影にも出かけられない1年半でしたので、逆に出品作品のアイデア出しや製作に力が入りました。
今年こそ、平日に紅葉の写真を撮りに行こうと考えています。

CUBEAUDIO F10Neoについて

 2021.10.21
CUBE AUDIOをご存じでしょうか。
ポーランドのメーカーですが、8インチと10インチのダブルコーン、トリプルコーン、さらに第四のコーン付きのフルレンジユニットなどを使ったシステムをシリーズ展開していますが、ユニットの単売もしています。
今回ご紹介するのは10インチのフルレンジユニットF10がF10Neoとして登場したことです。(失念していて、いつ発売されたのか気付きませんでした)
コーン紙の構成は、メインコーン+3種類のサブコーン(ウィザーコーン)から成る非常にユニークな構造を持っていながら、半世紀前に主に採用されていたリニアリティの良いメンブレン板打ち抜きダンパーを使うなど支持系への保守的な拘りもあるようです。

https://www.cubeaudio.eu/cube-audio-f10-neo

show 磁気回路の磁石は81個の円筒形ネオジウム磁石から成っていて、BLは9.7Tm
9o厚さのトッププレートによるギャップでは2.4テスラ(24000ガウス)の磁束密度を発生しています。(トッププレートは軟鉄ではなく高磁性合金と思われます)

とかくサブコーンを使うと音質にクセが生じやすくなりますが、これはメインコーンから発した波面とサブコーンが干渉して波面を乱すためで、干渉から逃げるために複数のサブコーンを設置しているとの説明が上記Webページにあります。
たぶん、シミュレーションと聴感で追い込んだのだと思いますが、気の遠くなるような作業だったと思います。

TSパラメータを見ると、Qtsが0.43とオーバーダンプ傾向で、Cmsは0.76mm/Nとなっていて、振動系保持は硬い方です。f0は30Hzですので振動系実効質量がかなり大きくなるので磁気回路をおごっているようです。

周波数特性を見ると、25cmのフルレンジとは思えないほど高域までフラットなのに驚かされます。おまけに広指向性です。
これも特殊なコーンジオメトリーに因るところだと説明されています。
ちょっと食指が動きますが、日本には代理店がないので直接輸入するしかないのが難です。

ダクトの補正係数(2)

 2021.10.15
「ダクトの長さを補正しなければならない理由を説明してください」というメールをいただきました。

空気は気体ですが、「粘性流体」という言葉で分類されます。
これはどういう性質なのかというと、今回の例では「ダクトの中という半閉鎖空間にある空気を何らかの形で動かそうとすると、その容積分の空気だけでなく周囲直近の空気も一緒に動いてしまう性質になります。(下図のハッチング部分が一緒に動く)

show

この図のハッチングをかけた部分が共鳴に供与する部分になります。 長岡さんの式ではダクトの半径分rを補正しています。(図の一番上)
ヘルムホルツの式では0.6r(図の真ん中)を、Rフレアの付いたダクトでは約0.8rを補正係数として引用しています。
補正係数は音速と同様に、気圧でも気温や湿度でも変化し、あくまで目安と考えるのが妥当です。仮にr=5cm、Vc=10L、L3=15cmとすると、rと0.6rの補正係数の差は周波数として5%強になります。
従って、設計で使う場合には長岡さんの式で問題ないということになります。

そもそも、ユニットにおけるf0の個体バラツキは±10%(メーカー許容値)くらいありますので・・・公称90Hzであれば、運が悪ければ購入したものが81Hzと99Hzの場合もあるということです。(同ロットならば±5%くらいには入ります)

ダクトの補正係数

 2021.10.14
昨日、ダクトの補正係数について書きましたが、ちょうど「無線と実験」11月号に関連記事がありました。
両端にフレアの付いた円筒形ダクトの場合の係数についてですが、円筒の約0.6に対して、片端にフレアがあると約0.7…、両端だと約0.8…(例によって立ち読みなので細かい数字は忘れました・・・)と増える記述でしたが、流体力学的に考えてもその通りだと思います。(掲載されていた図ではフレアではなくツバのようなフランジになっていましたが・・・たぶん係数を求めたシミュレーション形状がフランジなのかもしれません)
ただし、フレアの形状(ツバの直径やフレアのR値)により変化するので、ある条件での値だと思います。
記事に記載されていた市販品は円筒の両端共になだらかなRが付いたもので、切りっぱなしの円筒と比較してダクト取り付け面に対して急激な形状変化が無いために気流の乱れ(風切り音の原因)が起きにくいので最近の作例で良く見かけるものです。(円筒だけのものより回折効果も減ります)
市販ではありませんが、私の作品『T2』にもこの形状を採用しています。
確かに、T2ではダクトでの風切り音はほとんど聴こえませんし、断面積が一度減ってから再度広がるため、漏れてしまう高域成分に対してはサイレンサー効果も若干はあると思います。

ダクトの共鳴(ヘルムホルツ共鳴)は一定の断面積が連続していないと成り立たないとお考えの方もいらっしゃいます(定在波と勘違いしていらっしゃる?)が、実際にはキャビネット容積とダクト内容積の共鳴現象になりますのでテーパー(円錐台形状)でも成立します。ただ、計算が面倒になるので作例が少ないだけです。
今製作している作品はシングルバスレフですが、ダクトは連続的に断面積が変化する形状にしています。
完成して効果が確認できたら紹介したいと思っています。

長岡鉄男さんの計算式

 2021.10.13
私がオーディオに興味を持ったのは今から50年近く前になります。
当時は中学生で、ご多聞に漏れずエアチェック(既に死語ですね)に勤しんでいて、週刊FMやFMファンを少ない小遣いから購入していた頃でした。
カセットテープを購入すると財布の中身はキビシク、「ラジオ技術」や「無線と実験」はもちろん、「月刊STEREO」誌も目を皿のようにして立ち読み(音友社さん、ごめんなさい)していた口で、本屋の店主には嫌がられる存在でした。
かく言う私も、当時の長岡鉄男さんがSTEREO誌上で製作していたバックロードホーンに触発され、初めて作った自作スピーカーシステム(高校生の夏休みに製作)はFE203を1発使ったバックロードホーンでした。
高3の文化祭でPAの音出し用として使ったのが懐かしいです。

大学に入り、自分でバイトをして稼げるようになって、数冊のSTEREO誌バックナンバーを古本屋で購入させていただきました。(十冊くらい大人買いしたかも・・・)
それらは度重なる引っ越しで行方不明になっていたのですが、最近、そのうちの1冊(シミだらけです)が出てきました。
その中に、バスレフの共振周波数を求める式があって、当時はTSパラメータのことも分からず、やみくもに「神の公式」のように信じて使っていましたが、
160√〔πrxr/{Vc(L3+r)}〕= 160√〔S/{Vc(L3+r)}〕
πは円周率、rはダクト半径、Vcはキャビネット容積、L3はダクト長さ、Sはダクト断面積
というものでした。
これはヘルムホルツ共鳴器の共振周波数を求める公式を分かりやすく表現したもので、凄いな〜と思うのは、雑誌を立ち読みする当時の私(シロウト)にも分かるように普段使っている単位で表わしていることです。
それぞれ、rはダクトの半径[cm]、ダクトの長さL3[cm]、Vc:キャビネットの容積[L(リットル)]としていて、CGS系かMKS系単位とかに縛られない「直感で分かりやすい」ようにしているところが凄いのです。

技術者だとMKSやSIと言った単位系を重視したくなりますし、私もそうしてきました。
それに精度より分かりやすさを優先していて、(L3+r)の部分は厳密にはrではなく空気が粘性流体である性格上ダクトの形状によって係数が変わり、円筒であれば約0.6rになるところを割り切ってrにしている部分など、見習うべき部分を見つけました。
読んでいる方に疑問を持たせないことが如何に大切かということです。

最近、メールで質問を受けることが多く、「そんなんじゃ分からないよ!」と指摘されることがほとんどです。
文章もですが「簡潔で親しみやすい」「専門的な難しいことは噛み砕いて」と言うことが何よりも大事だということが最近になってやっと分かってきました。
この歳になっても長岡さんに教えられるとは・・・。正直、恥ずかしくなりました。
皆さんに、長岡さんが神のように慕われるのも、もっともだと再認識させられた体験でした。

タンデムモーター部 途中経過

 2021.9.21
フロント側ユニット周りの加工がほぼ終わったので仮組してみました。

show show show ユニットにマスキングテープで目張りしてあるのは、ユニットフレーム裏側にエポキシ樹脂充填した部分をヤスリで出っ張りを除く作業の際にフレームの鉄粉や削りカスがギャップに入らないようにするためです。
木製の部分は桂の集成材から切り抜いて加工した整流リングになります。上記で出っ張りを除いて平坦にしたユニットフレーム裏側に接着しました。
ユニット裏側の処理は、あまり気にする方が少ないのですが、キャビネットによる直接反射や回折による音の濁りを防ぐには重要な部分になります。
下写真のようにユニット後方放射音が通過する整流リング表面は、なだらかなスロープにしてあります。フレームと整流リングの間の溝は、エポキシで充填します。
ユニット正面側には、3mm厚さのアルミ板から切り抜いてボール盤治具で回転整形した化粧リングを装着します。
ユニットのフレームは整流リングと化粧リングに挟まれてエポキシ接着剤で固定された形になります。

show 化粧リングの整形は今回初めて挑戦しましたが、粗方のテーパー整形は平ヤスリで行い、#120〜#180の布ヤスリで平坦にして、#400〜#1000〜#2000の水研ぎで艶を出すことでキレイな仕上がり(シロウトなりの自己満足ですが・・・)になりました。
アルミは指紋(汗の塩分や酸化脂肪)や酸に弱く、酷い場合は跡が付いて取れなくなるので、表面に薄く透明アクリル塗料(クリア)を吹くかどうか悩んでいます。吹かない方がエッジが立って目立つのですが・・・。プロならばアルマイト処理をするのでしょう。

励磁型磁気回路を有するユニットは最高?(2)

 2021.9.19
逆起電力の説明が不十分だとお叱りを受けました。以下に補足します。

逆起電力は発電と同じ原理で、電線(集合したものがボイスコイルです)が動き出して磁束(磁力線)を横切ると、駆動するために流した音声電流と逆方向にコイル(電線)に電流が誘起されて、結果的にコイルの抵抗値に応じた電圧が生じるというものです。
これは万物に対して働く「エントロピー極大の法則(常に自由度の大きな安定した方向に現象が進む)」に従った現象で、動こうとするものを元の状態に戻そうとするために生じます。
ここで重要なのは、逆起電力が「動き始めてから起こる現象」であるということです。
理想的(慣性質量がゼロで、振動系に非線形要素が無い)な状況では、音声電流と駆動力によって発生した振動系の動きが時間遅れなく比例関係になるので、駆動力と磁束(密度が均一であることが条件)によって発生する逆起電力は音声電流に比例したものになり、正しく制動することが出来ます。
でも実際には慣性質量(振動系実効質量)はゼロではないし非線形要素が振動板の保持系にあるため、駆動力は音声電流と比例したものではなく、且つ遅れて起こる現象になります。
それによって二次的に発生する逆起電力は音声電流とは時間的にも波形的にも相似ではないものになってしまいます。
この逆起電力が入力音声電流にフィードバックされ重畳されるのです。
インパルス入力に対するトランジェント波形は音声電流+逆起電力による駆動状況を表しています。どう見てもキレイな減衰振動波形ではないことから、ご理解いただけると思います。(ほかの要因も含まれてはいますが・・・)
そのため、一昨日の記事では「逆起電力=歪」と表現しました。
もし、フィールドコイルによる励磁磁気回路が理想的な制動を実現できるならば、インパルス応答波形はキレイな減衰波形になるはずで、電圧を変えることによりD-factorを制御して理想的な臨界減衰状態(キャビネットに実装した状態でQcs=0.5)を再現できるのですが・・・。

上記のように理想的な状況を実現できれば逆起電力は悪さをしなくなるため、ユニットメーカーは(特にフルレンジの場合には)軽く、リニアな振動系を目指して設計しています。

でも低音を出そうとすると、空気を大きく動かす必要があるため、ストロークを大きくするか、もしくは振動板の直径を大きくしなければならなくなり、結果的に慣性質量が大きくなって逆起電力が悪者になってしまうというジレンマが生じてしまいます。

上手く説明できているでしょうか?つくづく文章力が欲しいと感じてしまいます。

励磁型磁気回路を有するユニットは最高?

 2021.9.17
電磁石を磁気回路に使った励磁型(フィールドコイル型)ユニットを信奉する方のfacebookに伺う機会がありました。
その方は、「励磁型こそ最高の磁気回路であり最高の音質を持つもの」と明言されていて、根拠も示していると記載していました。

私の場合、励磁ユニットについては知り合いの試聴室で聴いたことがある程度ですが、それほど感銘を受けませんでした。
電磁石の電源(エキサイター)の電圧を変えることでダンピング制御ができるのは面白いとは思いましたが、セッティングがベストでは無かったのかもしれません。

趣味の世界ですから、自分の好きなものを信じるのは自由ですが、現時点で万民が認めている技術情報を歪めてしまうのは如何なものかな〜と感じてしまいましたので、今回の記事テーマにしました。

まず第一に、「逆起電力が過渡特性を向上させるもの」であると明言されている点です。これは明らかに間違いです。
逆起電力(発電現象)は磁束を切ることで発生するもので、駆動力で振動系が動いて初めて発生するものになります。
したがって、ボイスコイルを何らかの手段で固定してしまうと、駆動力は発生しますが逆起電力は発生しません。(駆動に応じて二次的に発生するものであるということ)

構造的に非線形な要素(慣性質量は別として、ばね要素、減衰要素には非線形要素がある)から成る振動系が、磁気回路が作り出す非線形の磁界(均一なのはギャップ直近のみ)を利用して駆動された結果、逆起電力が発生し「遅れ系」として入力に印加されることになります。
(慣性質量は動き出しにくく、動き出すと止まりにくいので、遅れ系になります)
アンプのフィードバックループに遅れ系の要素(時定数など)が入ったのと同じです。
フィードバックは抑圧制御になるため、遅れが無ければ理想的な制御になりますが、時間遅れがある場合には当然ながら歪(タイムドメイン歪)を発生します。酷い場合には発振します。
これと同じことが逆起電力にも起こっているということです。実際の逆起電力=歪ということです。
これを改善するためにMFB(モーションフィードバック)という手法がありますが、あくまで駆動後の結果をフィードバックする方法なので完璧ではありません。

因みに振動系の減衰振動を制御するのは減衰比(D-factor)で、TSパラメータのQtsに依存します。
電磁石の場合にはホプキンソンの法則(起磁力F=Φ・Rm Φ:磁束、Rm:リラクタンス=パーミアンスの逆数)により磁束を変化させることで起磁力の制御が出来ます。
電磁石ではF=NI(N:巻き数、I:電流)ですので、Φ=NI/Rmとなります。
発生磁束を電流で変えられるということは、ギャップの磁束密度Bを変えられると言うことで、QesがBL(駆動力係数:磁束密度と巻線長さの積)によって制御されるパラメータであることからQtsも制御できるということです。
∵ Qts=QesxQms/(Qes+Qms)

このあたりの詳細は、拙著PDF『ユニットって奥が深い』の2.4.3項「インパルス応答」を参照してください。

ホプキンソンの法則で、ある起磁力値を得る場合にリラクタンスが小さければ磁束Φが大きくなります。
大きな磁束(結果的にギャップの磁束密度を大きくできる)を得るためには磁路材質の比透磁率が高いことが必要である点(リラクタンスは透磁率に反比例)は正しいのですが、透磁率の高い強磁性体である純鉄やパーメンジュールを磁路に使っているのは固定磁石を使った磁気回路も同様であり、電磁石の優位性にはなりません。
磁路に直列に入る固定磁石の比透磁率が低いことを以て性能が低いと結論付けていますが、固定磁石の比透磁率はリコイル比透磁率と言って、B-H特性曲線から得られるリコイル線から求めたもので、フェライトやアルニコなどを磁石にする(不可逆変化させる方法で「着磁」と言います)際に印加する磁場(強力なインパルス磁場)による磁化しやすさを表したもので、通常の物質の比透磁率(物質が磁化される度合いを真空の透磁率を基準に数値化したもの)と横並びで云々出来るものではありません。
比透磁率が大きければ磁化されやすいということで、逆に磁界が消失すれば磁化された磁区も直ぐに元に戻るということです。磁石にくっ付いた鉄は磁力を持ちますが、磁石を離すと磁力が消失するのは鉄の比透磁率が大きいためです。

専門用語や数式ばかり出てきて分かりにくいかもしれませんが、電磁石は固定磁石と同様に起磁力を得る一手段であって、磁束を変化させることができるメリットがあるだけで「音質的な優位性との相関については明確な根拠が無い」ということです。

それは「アルニコ磁石がフェライト磁石に対して音質的に優位性がある」という都市伝説と同様です。
アルニコ磁石を使った磁気回路は内磁型という構造となるため、ギャップ周辺の空気の流れ方や磁気回路内に構成される閉空間のスチフネスが外磁型と異なるため単純比較できないこと、希土類磁石が高価で何となくカッコ良い(憧れる)こと、フェライト磁石を使った磁気回路より磁束密度を大きくできる(ネオジウム磁石のほうが更に大きくできるのに音が良いという話を聞かないのは?)という理由から優位性があるとされたのだと思われます。
私は、磁石の種類でなく内磁型という構造自体が音の差を作る主要因と考えています。

また、アルニコには導電性があるので渦電流を防ぐので音が良いという説もありますが、そもそも導体を貫く磁束の周辺に渦電流が生じるのでナンセンスです。
フェライト磁石を使った磁気回路でトッププレートとヨークを電線でショートしたり、磁気回路をアルミフォイルで包んだりしても相対的な音質に大きな変化がない(ユニットの特性的には高調波歪が低減しているかもしれませんが・・・)という実験結果から上記と同様に都市伝説と言えます。

そもそも、「音質」は測定器で測れない相対的なものであって明確な尺度が無く、聴覚による「音の傾向」と言うもので評価するしかありません。
したがって、AさんとBさんの最高と感じる音は異なる(好みが違う)と言うことを肝に銘じておかないと、ただの盲信になってしまいます。
こちらは、拙著PDFライブラリー「聴覚と脳」にある『音場再現と聴覚の限界』統合版の第二章「音質の評価について」に詳細を記しました。参考にしていただければ幸いです。

B&W 800D4シリーズについて

 2021.9.11
2週間ちょっと前になりますが、D4シリーズが発表になりました。
特筆すべきはミッドレンジのダンパーに使われた「複合生体模倣サスペンジョン(composite biomimetic suspension)」になります。

show ハイテクグリッツ社HPより

下側が従来のファブリックダンパー(コーネックスなどの布にフェノール含侵して成型)で、以前にも解説した事があると思いますが、フレームとVCボビン、ダンパーで囲われた空間は当然空気で満たされていますがダンパーに通気性がある以上、ゆっくり駆動すれば圧力変化は起こらないはずです。ところが、空気が「粘弾性流体」であることにより振幅が大きくなる(実際には速度が大きくなる)につれ「囲まれた空間」は圧力変化を発生するようになります。
結果的にスチフネスが非線形に変化することになり歪を発生してしまいます。
振幅が小さいうちは通気性があって、大きくなると通気性が無くなるということです。
これを避けるにはベーク板ダンパーやテグスを利用したストリングダンパーを使えば改善されるのは以前から知られていましたが、強度や共振など弊害が大きく、理想的な実用には至っていませんでした。
細い板バネ状の6本の接続肢(ウィッシュボーンとありますがV字型ではない)でVCボビンに固定されるリングを支える構造にすることで、「前例のない透明性とリアリズム」が得られたとしています。
昔、私がダンパーを切り抜いて穴を開け、スカスカにした実験をしましたが、その時と同じ変化だと思います。これだと振動系のスチフネスが下がり(コンプライアンスが上がり=ダンパーが柔らかく動きやすくなり)、結果的にf0が下がってしまったので、同列では比較できませんが・・・。

くしくもONKYOのOM-OF101のコーン紙にも生体模倣技術が使われていて、最先端技術と言えると思います。
生態系で実現されている形態は長い時間をかけて環境に合わせて淘汰され実現したもので、「究極の合理性」を持つと言えます。
それを模倣することで究極の性能を得ようというのが昨今のトレンドで、スピーカー以外の業界でも盛んになってきている流れです。
何かを模倣すればそれで良いということでは無く、それが何(どのような環境)に順応して得られたものであるかが重要で、ONKYOさんの場合には「トンボが素早く飛翔出来るのは軽くて強靭なハネに翅脈(しみゃく)があるため」で、軽くてしなやか、且つ剛性の高い究極の形と捉えて模倣したということでしょう。
B&Wの場合には鳥の鎖骨(ウィッシュボーン)を模倣したとありますが、板バネの形状が理想的な保持を司っていて強度や共振の問題を回避出来ているということなのでしょうか・・・。

写真を良く見ると、6本の肢は角の取れた六角形のリングの辺の中央に固定?されているようで、リングもバネとして変形することでリニアリティを確保するような構造なのかもしれません。(もしかしたら応力分散するためにリングがボビン表面をスライドするようになっていて接着していないかも・・・ミッドなのでボビンの前後位置はエッジで確保するし、ボビンが動いても1mm程度なのでリングが傾くだけか・・・)
「柳に風」と全体が少しずつ変形することで受け流して歪を抑える、言わば「柔良く剛を制す」かもしれません。特殊樹脂「スライドリングマテリアル」と同じ発想です。

「Woven Keblar(編み込んだケブラー振動板)」の時のことを思い起こしました。
20世紀の終わり近くにB&Wの特許が切れて他のメーカーが追随できるようになった時のことです。
ほとんどのメーカーがケブラー布に樹脂含侵することで剛性だけを上げてしまって「繊維相互が固定されていないことにより応力集中を防ぎ副共振のピークを抑える」と言う特許の合理性を打ち消してしまったように、周囲からは理解されない部分もあると思います。
基本構造(素材)は「剛」で、その中に柔を取り入れる・・・『応力集中させない = 歪を抑える = 音を劣化させない』だと言うことがB&W技術のポイントなのですから。

OM-OF101 タンデムモーター実装

 2021.9.7
機械加工に時間がかかり、やっとタンデムモーター部分が仮組まで行きました。全部、アルミ平板からの加工になります。ボール盤を使った作業以外はほぼ手作業です。

show

背の高いほうがOF101用で、比較のためにAlpair-6P用を一緒に撮影しました。Alpair-6P用は訳あってユニットボトム部分との結合部(ベース)形状が異なります。(6/2の記事参照してください)
OF-101用は、まだ出来立てホヤホヤなので、ネジロックはしておらず、不具合が無いかどうかの仮組状態です。
ユニットを実装してみたくなるのが人情なので、以下が実装したものになります。OF101は仮止めです。

show

show

サイズの違いはそのままキャビティの差になります。キャビネットの設計は、できるだけ共用部分を多くするようにしていて、三脚ピラー部分は共通で、キャビネットの部分だけをそれぞれ作ることになります。

因みに、タンデム結合部だけで約1.62kg あります。これからM20ナット&平ワッシャを合体させますので約1.76kg になり、ユニット+M20シャフトが1個あたり約844gで2個実装すると全体では約3.46kgになります。

キャビネットと三脚部分および保持シャフト&カウンターウェイトも含めると片チャンネルで10kg 近くになるかもしれません。

OM-OF101 取り付けスクリュー実装(2)

 2021.8.28
今週はt12のアルミ板の切り抜きをやっていたのでスクリュー加工が後回しになりました、

M20のSUSスクリューシャフトを43mmにカットし、中央にM10のタップ(ネジ山有効長17mm)を切ります。
通常のドリル(先端角118°)しか持っていませんので粘りのあるSUS材の穴開けにはちょっとしたコツが必要です。
ヘタをすると食いつくだけでなく折れることもありますので・・・。もちろん、作業中は防塵メガネとキャップは必需品です。
先端角が130°〜140°と浅いSUS用ドリル刃が欲しいところですが、価格が高いので使用頻度を考えると揃えるのには勇気がいります・・・と言うことで、今回も通常のドリル刃を使います。
コツと言っても、切削油を多めに給油することと、一気に切削せず低速(加工用鉄材SS400の場合の約半分の回転数)で切削すること、切削カスがプツプツ切れて排出されにくいので小まめにカスをかき出すことの3点です。
要はSUS材を加熱させないようにすることが重要で、温度が上がると焼きが入って食いつきます。したがって連続的に刃を押し付けず、合間合間に小まめに給油し切削カスを取り除くことが肝要です。

それとタップ穴は鉛直であることが重要ですので、一工夫します。
カットしたM20スクリューシャフトをバイスに挟んだだけでは鉛直が出ません。そこで適当な大きさのt5MDF材にφ22で穴を開けたものを用意し、その穴にスクリューシャフトを通して板の両サイドから平ワッシャとナットで固定します。(下図)
MDF板をボール盤の作業台にクランプで固定すればスクリューシャフトの軸角度とドリル刃の軸角度を簡単に合わせることが出来ます。(鉛直が確保出来ます)

show

上の写真では、構造を見やすくするためにクランプを外しています。

スクリューシャフトの中央にポンチを打ち、φ3 ⇒ φ6 ⇒ φ7 ⇒ φ8.5 ⇒ φ9の順にドリル穴を大きくしていきます。
5段階に分けたのは、出来る限り負荷を小さくするためです。
それでも精神衛生上良くないガガガという加工音と煙(切削油が発煙)が発生します。快削鋼を使い慣れていると怖いです。何度か焼き付き寸前でボール盤がロックしました。

show M10の下穴は、通常φ8.5ですが、私にはこのサイズのタップをSUS材に切る自信が無かったので、下穴をφ9にしています。ネジ山の谷側のクリアランスが0.5o生じてしまいますが良しとします。(左図イメージ)

タップもSUSの場合には感触が独特で、ガリガリ切る(というより削って剥がす)感じです。

ここだけはSUS専用の止まり穴用M10タップを購入しました。(中タップだけで税込み2,728円!高い!)
まだネジロックで固定はしていませんが、ユニットに仮組付けした状況が以下になります。

show

誤記訂正

 2021.8.28
8/15の記事に誤記がありましたので訂正いたします。

VCインダクタンスLevc(Le)ですが、オンキョーサウンドさんの発表値は0.07mH(1kHz)です。0.07μH(1kHz)と誤記しました。
私の作ったTSパラメータ表ではフルレンジが多いためμH(at 1kHz)を単位にしているので、間違ってそのままの発表数値を記入してしまったことに起因しています。
すみませんでした。
7/21の記事に記載した表の数値は、正しくは70μH(1kHz)になります。(訂正済みです)

オンキョーさんの表記単位が業界ノーマルで私の表記単位がアブノーマルでした。
謹んでお詫びいたします。

OM-OF101 取り付けスクリュー実装

 2021.8.23
早速、ユニットにM10のスクリューシャフトを実装してみます。

今回はヨークのボトム部分に穴を開けてタップを切る必要が無いので、鉄粉の発生が無く作業が楽です。
まずM10のSUSシャフトをカットし、片側をヨーク穴に合わせて削ります。

show 今回もSUSの全ねじ1mから切り出しました。全部で120mmくらいしか使わないので285mmのカット品を使った方がコスパが高いです。
私の場合は良く使うので、いつも1m単位で購入します。

カット後の切削は、ネジ山を残す側にマスキングテープを巻いてボール盤のチャックに咥えて行います。マスキングテープを巻くのはチャックの爪でネジ山を潰さないためです。
SUSは硬い(脆い)のであまり力をかけ過ぎないように注意しながら平ヤスリを回転しているネジ山表面に押し当てることでヨーク穴にガタ無く挿入できるようになるまで削ります。
ここで訂正があります。ヨーク穴は切削ではなく冷間鍛造でした。
従って寸法精度は甘く、4個ともに測定したところ、φ8.9〜9.1でバラついていましたので、現合(一つ一つ合わせ込む)にしました。
鍛造の場合には真円度が取れないためモノによっては楕円(いびつ)になっているので、その場合には多少小さめ(といっても0.1mm程度)にします。

接着はアクリル系SGAのセメダイン・メタルロックAY-123(2液性)を使います。SGA(第二世代接着剤)は30年以上前からデンカのハードロックがスピーカー業界では主流でしたが、後発のメタルロックは粘りがあって衝撃に強く、金属同士の接着には非常に良い接着剤です。

show

次の工程としては、結合部に固定するためのM20スクリューシャフトの中央にM10用のタップを切ったものを用意して、ボトムに固定します。
今週中には実施予定です。

OM-OF101 寸法測定と気付いたこと

 2021.8.20
主要部分だけ寸法を当たりました。
測定値が赤字と赤線で示されたものです。

show

念のためですが、私の測定した数値は、私が購入した現物を測定しただけで、公称寸法がどうのこうのというものではありません。
私が設計に必要な部分とプラスアルファを測定しているに過ぎません。
もちろん個体差がありますし、私以外の方には不要な寸法もいっぱいあります。
例えば、ヨークのテーパーが開始する部分の直径φ44は、通常は不要なデータになりますが、結合部をヨークのボトムに連結する構造のAR方式では必要なデータになります。
昨日見つけたヨークのボトム中央にある穴の寸法φ9.1についても、シールを貼ってあるくらいですから普通は不要です。
そういった目で見てください。

振動板の直径は80mm(半径4cm)でした。
発表されているSdが50.3cm^2(平方cm)なので、エッジは実効振動系投影面積には含まれないのか???
通常はエッジの途中までが音響放射に関与するので、実効直径84mmとすると約55.4cm^2
OF101の場合、ダストキャップが無いので、VC内側(ほぼフェーズプラグ)に相当する投影面積約4.9cm^2を差し引くと50.5cm^2となり、数値の説明がつきます。

フレームには17x5のエア抜き穴が4つあって、ダンパーとフレームに囲われた空間のスチフネスが非線形になるのを緩和するのに役立っています。
これが音の抜けや立ち上がり感をスポイルしないために有効な手段であり、海外の高級ユニットメーカーでは常識とも言える構造になります。
国産ユニットで鉄板フレームを使用している場合、強度を少しでも上げたいことと、磁気ギャップへの異物混入を避けることのために穴を開けないユニットがほとんどです。

ここから巻線が見えますので、写真を撮ってみました。

show

トッププレートから飛び出して見える巻線幅が2.5mmくらいなので、トッププレート厚さ5mmよりVC巻き幅は9〜10mmと想定できます。

エッジ外周部分は平坦なリング状になっていて、この外側から補強リングを付けたいので、「エッジ外径φ98.5」も私には必要な寸法になります。

フレームの開口部をもう少し広くしたくなりますが、エッジ裏面のエア流動性を考えて立ち上がり部分を長く(9.3mm)しているのではないかと想像します。
開口部(窓抜き)を広くするために幅が狭くなってしまう枠部分には強度を補うためのプレスリブ加工を施してあります。(写真の黄色矢印)

show また、振動板が五角形非対称形状(72°毎に繰り返す)であるため、エッジもそれに合わせて36°毎に繰り返す形状となっているので、写真の橙色矢印のようにそれぞれに合わせマーク(切込み)を設けていて、貼り合わせにも気を遣っているようです。(写真では振動板側は見えませんが・・・)

ファーストインプレッションとしては、こんなところでしょうか。

OM-OF101ボトム接合方法

 2021.8.20
早速、結合部の構造を考えました。

show

ヨークのテーパー部分が浮いてしまうのがちょっと気になりますが、ヨークのボトム部分に突き当てる面積も確保出来ていますので、これで行きます。
ヨークのφ9.1穴とM10加工部分の接着はデンカのハードロックより高性能なセメダイン・メタルロックAY-123(SGA:第二世代変性アクリル系接着剤:ヨークとマグネットなどの接着にも使われる)を使用し、M10とM20の接合は住友3Mの嫌気性接着剤TL-42J(中強度のネジロック)を使用します。

昨日購入した現物を寸法計測して、次の記事に記載します。

因みにユニットの重さは実測で756g、VC径は1インチか25mm(測り辛いので・・・)、VCボビンは黒のアルマイト処理したアルミ合金のようでした。巻き幅は想定で9〜10mmなので、可動ストロークは標準的と言えます。
VCボビンの底突き防止用アレスタはマグネット厚さからして入っていないと思います。
ダンパーはデニールの低い(繊維が細い)5山コルゲート(波型)のもので、たぶんコーネックス製だと思います。窓抜きがあり通気性を考慮しなくて良いので信頼性優先で設計できるのがメリットです。
マークオーディオのユニットのようにダンパーレスに近付けようと通気性を加味してフラフラにするとヘタる可能性があります。でも、それはそれで限界を狙うメーカーの姿勢は好きですが・・・。
ダンパーは巻線に近いため耐熱性および難燃性が求められる上、吸湿による特性変化を嫌って綿ダンパーは少なくなりました。
また、フェーズプラグもヨークに直に取り付けられるので、前述のように耐熱ABS製です。

OM-OF101を購入しました

 2021.8.19
本日、OM-OF101ムック本を2セット購入してきました。
なぜ2セットかと言うと、AR方式の場合には片チャンネルに2本使うためです。

show

まず、一番気になっていたボトム部分の確認から実施します。
ラベルを剥がしてみると・・・なんと!穴が開いているではないですか。

show

想定外でしたので、しばし呆然としましたが、気を取り直して構造を確認。
LEDライトで穴の中を照らしてみると、奥に十字型が見えます。(写真右)
たぶんフェーズプラグの裏側。穴に挿し込んで位置決めする部分だと思います。
ただ、位置決めだけであればφ9もある大穴を貫通させる必要はなく、前回記事で一方法として採り上げたエア抜き穴(ダストキャップ有り)で当初検討(プロトタイプ)は走っていて、途中でフェーズプラグに変更した可能性もあります。
想像の域を出ませんが、ボトム側にある穴周辺のテーパー部分は、スムーズな気流を期待したものにも見えます。

糊の付いたシールで穴を塞いでいる以上、何で塞いでも良いわけで、6/9の記事写真に示したような結合部との接合方法は、M10のSUS製スクリューシャフトを加工してφ9穴に挿入して接着固定することにします。

結合部とユニットを連結するM20結合シャフトの中央にM10のタップを切っておいて、そこにねじ混んでユニットとM20結合シャフトを一体化します。

裸の状態で音を出して確認しましたが、思いの外、低音が出ています。
裸の状態でこれであれば、小さなキャビネットでも低音不足は無いのでは・・・。
いかに料理するかは、中低音から中域にかけての「音楽の基音部分」の再現性にかかってきそうです。
文字通り、オンキョーさんの言う「音楽の本質」を再現できるか(振動板とエッジの設計を追い込んで、分割振動開始周波数を高域に追いやった効果が出せるか)どうかが勝負だと思います。
ムック本に載っていた作例のダブルバスレフが正解かもしれませんが、予定通り通常のシングルバスレフで行きます。
鈴木茂さんが特許をお持ちのMCAP-CR(多自由度バスレフ=並列配置小部屋構造)もダブルバスレフの延長線として面白そうですが、設計が複雑になるので今回はパスします。
普通のバスレフでもやれることはまだまだあります。
ただしダクトはデザインも兼ねて特殊構造にする予定です。

OM-OF101について

 2021.8.17
月刊STEREO8月号からのお問い合わせが多いので、関連記事を読み直してみました。
ちょっと気付いたところがあるので、ここに記しておきます。

「聴感上のS/N感」という記載が多く見られましたが、まず、ここに引っかかってしまいました。
細かいことで恐縮ですが、S/Nという概念は能動機器(電源を持っていて、同時にノイズも出してしまう)に適用するもので、受動機器の場合にはノイズではなく「歪」とするのが正しいと思います。
アンプで言うとS/Nと歪率は別項で示されていますし、最近は示されなくなりましたがユニットの特性グラフには高調波歪(第二次歪、第三次歪)の特性が一緒に示されていました。(S/Nという項目はありません)
たぶん、この表記のほうが読者に分かりやすいと思われたのではないかと推察します。
「ホント細かいね!」「どうでも良いじゃない」と言われそうですが、電気設計者のハシクレとしては気になってしまったので・・・。

さて本題ですが、ダストキャップを排しフェーズプラグにしたことは、振動系が重い状況で「抜け」や「こもり感の払拭」を狙うには必然だったと思います。
たぶん私が設計したとしても、同じ選択をしたと思います。
センターポールの中心に穴を開けてユニット背部(ボトム部分)に圧を逃がす方法もありますが、かなり大きな穴を開けないと「抜け感」の改善にはならず、VC径の関係から磁路の設計にも影響を及ぼしますし、機械加工(切削)の費用を考えるとフェーズプラグに軍配が上がります。(耐熱ABS製フェーズプラグは量産数量が多ければ金型償却代だけで単価はそんなに高くはなりませんが、切削加工は1台1台に費用が乗るのでキビシイのです)
それに、穴を開けられてしまうと私の作品の根幹である『AR構造』が取れないので、新たなユニット保持方法を模索しなければなりませんでしたので本当に助かりました。(これは私だけの理由ですが・・・)

かなり音質的に考慮されたユニットだということが分かりましたので、作品を作るのが楽しみになりました。

ボイスコイルについて

 2021.8.15
磁気回路について触れたのに、ボイスコイルについて触れないのは片手落ちですので、ちょっとだけ。
磁気回路とボイスコイルは相互に影響を与える存在であることは前回のローレンツ力の公式に「 l (磁界内にある電線の長さ)」というパラメータがあることからも明白だと思います。
この「l」はギャップ磁界内にあるボイスコイルの線長を意味していて、駆動力を大きくする(音響出力≒平均音圧SPLを大きくする)ためには l を大きくすればよいことが分かります。
TSパラメータとしてはBl(駆動力係数)として扱われています。前回の公式は、電流に駆動力係数を掛けるとローレンツ力になることを表しています。

l を大きくすると言うことは巻線を増やす(長くする)ことで、ボイスコイル径が決まれば巻き数を増やすことになります。
ところがギャップの中に長い銅線(マグネットワイヤと言います)を納めるには物理的に線径を細くしなければならないので直流抵抗値が上がり、公称インピーダンスも上がってしまいます。
また巻き数が増えるとインダクタンスが大きくなり(駆動電流の実効値が下がり)、高域再生には不利になります。フルレンジとしては致命的ですね。

OM-OF101の場合には、SPLをある程度犠牲にした設計(前述公式で l を短くして、マグネットをおごってBを大きくすることで対処)をしていて、こうすることで高域の再現性を確保しています。インダクタンスの発表値が0.07mH(1kHz)と小さくなっていることからも頷けます。
これには銅キャップも一役を担っています。(説明は別の機会に・・・)

実際の音響出力はボイスコイルに連結された振動板が発生するものですから、駆動力が大きくても実効質量が大きければSPLは小さく抑えられます。(重いものを大きく動かすには、それ相応の力が必要ということです)
OF101の場合には、振動板とエッジの特殊構造が技術的な訴求ポイントなので、どうしても実効質量が大きくなってしまい、SPLは犠牲にせざるを得なかったということです。

このように、ユニットの設計ではバランスを取ることが重要で、何を追い求めるかで解答が変わってきます。全てを満たす解はありません。

銅キャップの効果について

 2021.8.13
いよいよ来週発売となるSTEREOムック「これならできる特選スピーカーユニット」の付録OM-OF101ですが、月刊STEREOの8月号に紹介記事が載っていました。
それを読んだ方から昨日質問がありました。
「銅ショートリングってどんなもので、どんな効果があるのですか?」「磁気回路が低歪設計と書いてあるけど・・・」
ある程度ユニットの構造をご存じの方から「ボイスコイルの内側にあるヨークに被せてある銅色のヤツ」「銅キャップって言うんだよね」「高級ユニットには付いているものがあるよね」などという声が聞こえてきそうです。

では、「低歪になるのは何故?」と聞かれてしまうと「うっ・・・」と言葉に詰まってしまう方が多いはず。
「そもそも磁気回路の歪って何よ」と追い打ちをかける声も聞こえてきそうです。

詳細は、テクニクスSB-G90のウーファを例として解説した拙著PDF『ユニットって奥が深い』の2.3.4項 自己誘導歪の発生原理を読んでいただくとして、ここではアウトラインだけお話しします。
「理想の磁気回路」の条件は「ボイスコイルがどれだけ動いても均一な磁界Φ(実際には磁束密度B)を与えるものであること」で、通常はほとんどのユニットが色々な制約によりこの条件を満たしていないのです。
これはユニットが音声電流で駆動される根幹の仕組みであるローレンツ力(ファラデーの左手の法則にしたがって「力」が生じる)が音声電流とリニア(音声電流に比例する)であるための条件でもあります。
したがって「均一な磁界を妨げるもの」や「音声電流を変調するもの」が歪の要因になります。

磁気回路は磁石と鉄(軟磁鉄鋼)の枠(ヨークとトッププレートと呼びます)で出来ていて、磁石から発生した磁力線を枠の中に閉じ込めていて、1ケ所だけ切れ目(磁気ギャップ)を設けてあり、この部分だけ空間を磁力線が飛ぶような構造にしてあります。
このギャップ(局所均一磁界)の中にボイスコイルを置いて音声電流を流してやると音声電流に応じてボイスコイルが動くのですが、歪の要因その1としてギャップ部分の機械的な構造(形状)が±の駆動方向に対して非対称であることが挙げられます。
ボイスコイルが引っ込む時には、内側にヨークがずっと沿っていて、飛び出す時にはヨークが無い空間に出ていきます。
鉄でできたヨークと空気では磁界に及ぼす性質(透磁率μと言います)が大きく違うため(鉄は空気の約5000倍)、ボイスコイルの自己インダクタンス(コイルの中にエネルギーをためる量を示す)が引っ込んだ時と飛び出した時とで大きく違ってしまいます。
非対称な状況(形状)が歪になることは理解していただけると思いますが、これを大きく改善するパーツが銅キャップ(ショートリング)になります。
銅の透磁率は空気に近く、ヨークのギャップ部分に被せることでボイスコイルに対する透磁率の均一化を図り、非対称性を改善します。

これが銅キャップの大きな役割ですが、もう一つ、本来の「ショートリング」としての役割があります。
ボイスコイルが動くことでヨークには渦電流という厄介なものが発生します。(ボイスコイルがアルミの場合には、ボビンにも渦電流が発生)
渦電流は動こうとするものを元に戻そうとする力を発生させるだけでなく、その渦電流が駆動力を変調してしまうのです。渦電流が局部磁界を作り、それが固定磁界(磁気回路の作る磁界)を変調してしまい歪が発生します。
結果的にローレンツ力を変調することになります。
ローレンツ力(実際にはローレンツ力は「電荷にかかる力」ですが、私は電流にかかる力と拡大解釈しています。一般にはアンペール力と言うこともあります)の公式
F=BxIxl  B:磁束密度、I:電流、l:磁界内にある電線の長さ

より、固定磁界が変調されれば駆動力も変調されることが分かります。
これを防ぐには、生じる渦電流を渦を巻かせずに一定方向に流して熱エネルギーとして消費させてしまうのが得策で、銅キャップはその役も担います。アンプの電源に使うトランスのコアに巻き付けるショートリングと同じ働きです。(漏れ磁束を防ぐ役割が主のように言われていますが・・・)

OM-OF101には、もう一つショートリングがあって、マグネットの内周に配置してあります。
これは磁力線の性質(ショートカットが大好き=漏洩磁界が発生)を防ぐためで、磁石の効率を落とさない(磁力線をキチンと磁路に通す=変調要素を作らない)ために入れます。

説明が後になってしまいましたが、透磁率というのは読んで字のごとく磁力線をどれくらい通すかを示す数値(単位はH/m)のことで、真空の透磁率μ0を基準(=1)とした割合で示したものを比透磁率と言い、これが低いということは磁力線のシールド効果があるということです。銅やアルミニウムなどの非鉄金属は空気と同様にほぼ1です。

漏洩磁界(空間を通る磁力線)は周りの磁界変化(ボイスコイルによる)に影響を受けて通り道が変わるため、これも変調要素になります。
このようなリングをファラデーリングと呼ぶこともあります。

いずれにしろ、このようなリングを廉価ユニットに二つも搭載するなど、今までには考えられなかったことで、音を聴くのが今から楽しみです。

磁気浮上について(2)

 2021.8.9
早速ご意見をいただきました。

ニードルに関してですが、「先端は狭くなるのでインピーダンスが上がるため反射が多くなり伝播しにくくなるのでは」というご指摘がありました。
確かにその通りで、実験もせずに全帯域に亘って伝播量が変わらないと記載したのは間違いです。すみませんでした。
周波数が上がると反射が増えるのではないかと思われます。(実験していないので想定です)
特に床やキャビネットなど木質と金属ニードルでは材質が異なり、異種接合部分の反射は大きくなりますし、先端が尖った形状のもので木質が潰れて応力歪が発生することも考えられるため、想定外の影響が出ることも事実です。
単純に結論を付けようとしたことが間違いでした。

また、磁気浮上についてもキチンと「ばね定数」を考慮して共振周波数を1Hz以下にして、かつ非接触状態を安定して保てるような構造にすれば、非常に有効なインシュレータとして働くわけで、否定するつもりはありません。悪まで「浮いている=究極」という短絡的な所に反応したまでで、その裏にはキチンとした設計が為されなければならないということを言いたかったのです。
むしろ、個人的にはトライしたい構造の一つです。
AR-1.5(一昨年のSTEREO出品作品『Cyclopse-1.5』)のユニットを含むモーター部分のフローティングにも採用しましたが、安定させるために(もちろん密閉度を上げるためもありましたが)ソルボセインを併用しました。
磁気反発は磁力線の密度を均等にしないと安定しないのがガンで、円周上にネオジウム磁石を千鳥配置したのもそのためでした。
すべての自由度について復元力が発生するような構造(どのように変位しても元に戻る)にして、常態がエントロピー極大(エネルギー遷移状態の鞍部)であることがキモになると考えています。

磁気浮上について

 2021.8.7
以前にも採り上げたような気がするのですが、友人と話をする機会があったので記してみます。(ダブっていたらごめんなさい)

「磁気浮上は究極のインシュレーション」などという謳い文句を見たような気がしますが、これには脚色が存在しています。
「触れていないのだから、究極でしょ!」という声が聞こえてきそうですが、人間の感覚が騙されやすい見本です。
ソルボセインやアルファゲルなど材料構造内部にバネ要素と減衰要素とを併せ持ったインシュレータや金属バネ単体のようにバネ性のみを持ったもの、先端の尖ったニードル状のフットなど「インシュレータ」と名打った製品はいっぱいありますが、基本を考えるとバネ要素と減衰要素、そして質量要素からできています。

ニードルは金属製のものがほとんどで「ほぼ質量要素だけ」ですが、ここにも勘違いがあって、ニードルの先端が尖っていることで振動の伝播に違いがあるかと言うとそんなことはなく、減衰せずに全ての振動エネルギーが伝播してしまいます。
断面積が小さくなると伝播しにくいと思ってしまうかもしれませんが、集中するだけで伝播量に変化はありません。伝播位置が明確になるので処置がしやすいというメリットがあるので、キャビネットの振動の節(稜の部分や四隅)を狙ってニードルの先端を配置すると伝播量は減ります。(四隅ギリギリにする場合には安定させるように注意してください)
金属バネだけを使ったものは製品としては見かけませんが、その共振周波数以上の帯域(弾性領域)では振動エネルギーの伝播が抑制されます。
なぜ製品として見当たらないかというと、バネ内部でのロスが小さいので共振周波数前後でインパルス入力に対して減衰振動をするという性格上、いつまでも動き続けることが性能的に劣ると見られるからだと思います。(Qが高いのもあります)
そのため、市場での製品としてはバネ性と減衰性を兼ね備えたものがほとんどになっています。

磁気浮上に戻りますが、これは「ばね要素のみ」に分類されます。
「機械ばね」や「空気ばね(エアサス)」と同様になります。
接触していないのでどんな状態でもアイソレート(分離)されているかというとそうではなく、共振周波数以下では、ほかの種類のばねと同様に振動は伝播してしまいます。(一方のマグネットから他方のマグネットに伝播します)
接していなくてもエネルギーが伝播するのはスマホのケーブルレス充電器(電力を伝播する)を考えると理解しやすいと思います。

共振周波数は意外と高く、数Hzの場合が多いと思います。(他のばねと同様に荷重により変化します)
 f=(1/2π)(k/m)^1/2 k:ばね定数、m:負荷質量)

磁気反発力を利用していますのでバランスを取るのが難しく、外力が加わっていきなりバランスが崩れることがあるので、セーフティ用に位置リミッター(内壁などを利用する場合が多い)が必ず付属しています。
リミッターとフローター(浮く側の磁石)の間には緩衝材(ソルボセインなど)が配置されている場合が多く、接した状態では減衰伝播することになります。

TSパラメータ Vasについて(3)

 2021.8.6
Vasで3回も記事にするとは思いませんでしたが、質問をいただきましたので・・・。

Vasで示された空気(理論上円筒形状)は振動系と同じバネ性(バネ定数)を持つため、同じバネが2つ連結された状態を考えることになります。
これはどのような状態かと言うと、反射や損失が無くエネルギー授受が理想的な状態にある(「一緒に動く」と表現した状態=整合している)ということで、共振のQが最大になります。
ユニットが最低共振周波数で共振した場合には、共振エネルギーが全てVas相当の空気に伝わります。
キャビネット容積がこの容量より大きくなると、エネルギーを損失させる空気が生まれる(上手く説明できませんが、L負荷の質量依存領域となり動かない空気部分が出てくることで振動エネルギーを吸収する)と考えられます。
キャビネット容積を大きくするのは結果的にQをダンプする方向となり、振幅に依存する音圧(総合f特の低域共振山のQ)のコントロールが出来るということになります。

余計にこんがらがるような説明しかできないのがもどかしいのですが、私の能力ではここまでです。悪しからず。

TSパラメータ Vasについて(2)

 2021.8.4
一昨日の記事を読んだ方から「吸音材ではそんなにQはコントロールできないでしょ!」とお叱りをいただきました。
確かに、吸音材だけでQをコントロールするには、かなりの量を入れなければなりませんし、そうすると音が死んでしまいます。
どちらかと言うと補強桟や内部拡散板などを箱の内部に貼り付けて容積をコントロールする方法(Q0c、f0cが変化)を主、吸音材は味付けとして記載したつもりでした。
私の文章力がつたないために勘違いをさせてしまいました。すみません。

実際、ブックシェルフタイプの既成エンクロージャでも、内部に三角錐状のコーナー補強を入れることで定在波の防止と補強による歪感の改善、容量減少による低音のダンピング変化などが確認できます。
既存のものを改良することもリッパなDIYだと思います。

TSパラメータ Vasについて

 2021.8.2
Vas(振動系相当気柱容量)については、キャビネット(エンクロージャ)の推奨容量と思われている方が多いようです。

Vasの定義ですが、ユニットの振動板が前後に動く時に周りの空気が一緒に動きますが、その空気のバネ性がユニットのバネ性(1/Cms)と同じになる(バランスする)ような円筒状の空気量(有効投影面積Sdx空気層の厚さ=容積)で表されるものになります。

かなりアバウトな表現ですが、「この部分の容積はユニット振動板と一緒に動く(バネとして押し引きでバランスしている)ので、キャビネット容積は最低でもこれより大きくしてね」と考えていただければ、遠からずだと思います。

実際にこの容積で密閉箱を作ると、PDFの98ページの図に示したようにキャビネットの共振周波数でのQ(共振ピークの鋭さと考えてください)が高くなり、振動系のバネ製がそのまま浮き彫りになり低域にクセのある音になります。
同じページに示した「理論上F特がフラットになる容積(Qが0.707=√0.5になる)」は、計算してみると分かりますがかなり大きくなってしまいますし、それ以上に大きくすると、低域はダラ下がりになりますが、レベル的には低域まで伸びるようになります。
ここまで大きくする必要はありませんし、フラットがベストという訳ではありませんが、ユニットのピーキーさ(Qの高いバネ性=大きな位置エネルギー⇔運動エネルギー変換)をキャビネットの余剰容積によって吸収することで低音特性がコントロール出来るということが分かります。

バスレフにした場合にも同様で、インピーダンスカーブの2つの山のうち高い周波数の山のほうのQがVasとキャビネットの容積の関係で決まります。
昔は、2つの山のQを同じくらいにするのが無難な設計方法として推奨されていましたが、メーカー製ではありませんのでそれほど拘る必要もありません。
実際、それなり(極端でない)の容積やダクトの箱に実装すれば、それなりに鳴ってくれるものです。
インピーダンス特性を見ながら吸音材の量や内部に入れる拡散材や補強によって容量を変化させることでQをコントロールして追い込んでみるのも楽しいと思います。

TSパラメータの求め方について

 2021.7.31
7/21の記事で、今年のSTEREO誌ムックの付録になるOM-OF101について発表されていないTSパラメータを計算してパラメータ表を埋めておいたら、「どうやって計算したのですか?」とお問い合わせをいただきました。

TSパラメータについては、相互に関係しているパラメータが多く、いくつかが分かれば計算することが出来ます。
例えば、振動系がどれだけ動きやすいかを表わす振動系コンプライアンスCmsは、最低共振周波数f0を求める式
 f0=(1/2π){1/(Cms・Mms)}^1/2 (「^1/2」は√の意味です)
で、f0とMmsが分かっていれば求められます。
求められればしめたもので、比較表に記入すると横比較でそれぞれのユニットの性格が見えてきます。

詳細は、トップページの左袖にあるPDFライブラリの「ユニット関連」をクリックして、PDF『ユニットって奥が深い』を開いていただき、96ページからの第二章「TSパラメータ」をご確認ください。

エンクロージャの設計については、市販されている優れた分かりやすい参考書(例えば、誠文堂新光社刊の新井悠一氏著『高品位スピーカーシステム』など)がありますので、必要であればご購入されると良いと思います。(PCシミュレーション主体なので、ちょっと難しく感じるかもしれませんが、分からなくても最近はWebサーチで大概のことに回答が見つかる良い時代になりました)
どうしても分からなければ、トップページの左袖にある「お問い合わせ」からメールを送っていただければ、私の分かる範囲でお答えさせていただきます。

PDCAについて

 2021.7.28
若い友人に「PDCAってよう分からんですよ。特にA(アクション)が・・・」と急に言われて、私も同じように悩んで、同僚とケンケンガクガクやりあった30年前を思い出しました。
そのころはまだPDCサイクルと言われていて、Plan(計画して)、Do(実行して)、Check(結果を精査)だったのでまだ分かった(チェックした結果で次の計画を練り直す)のですが、PDCAと言い出してから誰に聞いても「良く分からない」になりました。

またまたケンケンガクガクの結果、このサイクルには2ステージあって、PDとCAでくくると分かりやすいことが分かりました。
通常、計画して(こうしたいと思って)実行するのでここまでで一括り。
出た結果を精査して(C)修正実行する(A)でまた一括り。
ここからいきなり「次の計画立案」に繋げてしまうのでおかしくなるのですが、AアクションはDOの修正なので元々立てた計画に沿った形で実績が上がるようになっているので、次のサイクルの計画は元のままでも良いし(計画の中のステップが進むだけ)、チェックの状況によって新たに修正しても良いと考えるとスッキリします。

現在、私が進めているAR-1.8の製作にしても、「今日はここまでこうやろう」と朝一で計画(P)して実作業(D)にかかりますが、色々な問題にぶつかって手が止まります。そんな時には現状把握(C)して「どうすれば良いか(Dの修正)」を考えてから次の作業(A)に取り掛かります。
「PDCAを回せ」なんて難しいことを言わなくても、皆さんが日常的に実行していることなんです。難しくも何でもありません。

『座学の功罪』とはこのことで、物事を抽象的な言葉を使って難しく見せているだけのことで、実際の作業になぞらえてみれば何のことはないのです。

座学って簡単なことを難しくして教えているように感じてしまいますが、何にでも当てはめられるようにとエライ学者さんが考えるとこうなってしまうという事なのでしょう。
学者さんの頭の中では、「これ以上完璧でシンプルなものは無い」と思っている(たぶん美しいとまで思っている)のでしょうが、周りは「良く分からん」ばかりになってしまいます。

接点について (3)

 2021.7.27
「応力歪の影響」とは?・・・と聞かれてみて、どう応えて良いのか詰まりました。

接点(SPターミナルなど)にケーブルの導体を挟み込む場合、導体は潰れて塑性変形をして、端子自体は締め付けることにより弾性変形している状態と思われます。
塑性変形は不可逆性(元に戻らない)変形なので、内部応力は基本的に小さい(大きな塑性変形では応力は残らないが、局所的には弾性変形が発生しているためゼロではない)が、弾性変形は可逆性のため締め込む力の大きさに応じて内部応力(歪)が大きくなります。

内部応力が大きくなるということは、構造的にテンションを持つということで、外力が加わった場合には固有振動数に変化が発生します。
例えとしては、弦楽器の弦を張っていく(応力を大きくしていく)と共振周波数は上がっていくことで分かります。

この状態のところに音声電流を流した場合、周りに磁界があればローレンツ力により振動しますし、それが変調要因になる可能性もあります。
また、ソースをスピーカーで再生した状態では端子の周囲に音響エネルギー(音波)があって、これによる変調(共振による)も考えられます。
これらのエネルギーレベルを考えると音質的な影響を疑問視する方もいらっしゃいますが、条件次第で-60dB(0.1%)の歪(場合によっては-100dB=0.001%)が検出できる聴覚能力を以てすれば影響が出てもおかしくはないと思います。

エネルギーは状況に応じて常に形を変えていて、条件次第で変調要因になるということは確かだと考えます。それが音響(固体や気体の振動)エネルギーや電気エネルギーだけ別ということはないはずです。

応力の影響以外に、当然、それぞれの状況による接触抵抗の差が熱損(電気エネルギーが熱に変換される=歪)の差になることも事実で、応力がこの影響、接触抵抗がこの影響と区切ることは出来ません。(どちらもリニアですが・・・)

それ以外にも異種金属接合による電位差や形状による共振の度合い(バルクより平板や細い形状の方が共振しやすい)なども考えられます。

これら種々の影響が混然となって影響が出ると考えるのが妥当であるし、接点部分だけを突き詰めても、もっと大きな要因が存在すればパレート図を持ち出すまでもなく、それによって容易にマスキングされてしまうのも事実です。
耳タコでしょうが、大きな要因(例えば、部屋の状態、スピーカーそのもの〜置き方など)から対処することが効率的であることは確かです。

接点について (2)

 2021.7.25
思い出したことがあったので、追記します。

接点の材質についてですが、昔から「材質固有の音」と言われ続けてきましたが、以前、タフピッチ銅と真鍮の削り出し(メッキ無しのムク)で2種類の端子を作って比較実験をしたことがあります。(確か25年くらい前)
被験者は4名(5名だったかも)。ソフトはそれぞれが分かりやすいと思っているものを持ち寄っての実験でした。
1種類はケーブル導体を挟み込む面積を極端に大きくしたもの(導体を穴に通して潰すように締め込むのではなく、導体径に合わせて凹みの付いた板で均一に導体を挟み込むバイス構造)で、他方は通常のジョンソンターミナル形状のものでした。
得点は5段階(3がセンター標準:市販の真鍮に金フラッシュ)で、被験者が持ち込んだものを再生した時には、その被験者の検出度が高いものとして点数に倍(x2)の重みを付けて集計しました。
もちろんブラインドテストで、コメント(4種のどれか?の予想も含めて)を書き込む形で実施しました。
結果は、真鍮と銅では真鍮に6割強の得点が集まり軍配が、形状では特殊形状が得点僅差で勝つという予想外の結果になりました。(具体的な数字は、今となっては思い出せません)
得点に重み付けをしたので、もう少し差が出ると思ったのですが・・・。
コメントとしては真鍮に「明確さ」や「高域の情報量が多い」を挙げるものが数票、銅に「おとなしい」「情報量不足」を挙げるものが同じく数票となり、傾向が若干見えたかな〜というものでした。

ただし、4種類を全て当てたのは1名だけで、全く逆(銅を真鍮、真鍮を銅)と記入された被験者もいました。
特に特殊形状のほうは、銅の方が得点が高く(二倍ポイントが多く)、コメントは「音場が整っている」「楽器の輪郭が分かる」「ブラスがきれい」などとなっていたと記憶していて、材質だけの傾向というものが正しいのかは疑問符が付く結果となりました。

前の記事でも触れましたが、材質以外に形状や締め付けによる応力歪などの影響も少なからずあって、一概に材質だけで、「xxだから良い」「△△だからダメ」というものではないということを理解すべきです。

「高い買い物」をしてしまうのも癪ですから、雑誌などの情報による思い込みではなく、実際に体験する場があるならば、それを活かして納得して購入することをお奨めします。

接点について

 2021.7.25
友人と接点についての論争&試聴をケンケンガクガク1時間近くやりあいました。

そもそもの発端は、AR-1.8のスピーカー端子にGeeSoの大型のものを使うということを伝えて、「頭の部分にはバナナ端子も刺さるから比較試聴には便利だよ」と私が言ったところからです。
彼曰く、「接点がシリーズに入ると音質劣化が激しいから止めた方が良い」
激しいかどうかは別にして私もそれには同感ですが、比較試聴の場合にはケーブルを挿し替えるか、リレーなどで経路を切り替えるしかありません。
シリーズに入るにしても、良質なリレー(バナジウム接点など)を使った切り替えボックスとバネ性のしっかりしたバナナジャックの差し替えを比較すると、経験上、音質に与える影響は五十歩百歩です。
ケーブルを直に端子に固定するよりは確実に劣るかもしれませんが、スピーカーを切り替える際にケーブルの銅線をAの端子から外してBの端子に固定し直すのに1分近くはかかります。
聴覚記憶力の高い方なら大丈夫なのかもしれませんが、私のような一般的な能力しか持ち合わせていない人間には時々刻々失われる情報量を考えるとデメリット(情報欠損)の方が大きくなるのでバナナ端子の利用が便利だと主張したのですが・・・。
彼は「バナナ端子は多面接触のように見えるけど実際は多点接触だし、挿す度に接点の状況が変わる」と主張し始めました。
私も大人げなく「それを言うなら、銅線だって繋ぎ直せば、端子の表面と接触する位置や面積が変わるから同じだろ」と応じてしまい、泥沼に突入。
実際に比較実験をする事にまでなりました。

結論から言うと、交換作業者と視聴者を私と彼とで入れ替えて、それぞれ5回のトライ(ブラインドテスト)をしましたが、結果が逆転することもあり、確実な優劣は付きませんでした。
バナナプラグの場合には「直接続」より劣るけれど構造上バラツキが少なく、直接続は線材の接触状況や締め付けトルクのバラツキが大きく場合によってはバナナより劣るということで優劣が付かなかったという所に帰結しました。

何れの場合にも、かなり真剣に聴いても若干の差があるだけで、バナナだからこのようになるという明確な傾向は出ませんでした。(バナナだと若干高域にクセが出ますが、直接続でも同じ傾向になることがありました:SP端子の音でしょうか?)
また、直接続の締め付けトルクについては大きければ(きつく締めれば)良いということでもなく、銅線と端子との接触具合によって応力歪が発生してしまうこともありそうでした。(音が硬くなり、エネルギーバランスが高域寄りにシフト)
異種金属のシリーズ接続は出来る限り避け、接触抵抗を少なく、構造上歪まないようにするのがベストという教科書的な結論になってしまいました。
ただ、接点の差はアンプやDACを交換したりする差に比べれば微々たるものというのが二人の共通見解でした。

銅線をカシメ端子に取り付ける時には変形させてカシメるので応力歪による影響が出ても良さそうなものですが、経験上、カシメ端子(丸タン)のネジ止めが一番確実で、音も満足できて比較的バラつきません。
比較試聴をしない(常時接続)ならば、これをお奨めします。

OM-OF101オンキョーユニット新情報

 2021.7.21
STEREO誌8月号に追加情報がありました。
TSパラメータ表を以下に示します。(昨年のマークオーディオ製OM-MF4との比較表にしました)

show

今回、発表された数値は濃いアイボリー色のセル、それを使って計算して求めた数値はピンク色のセルになります。
6/26の記事の付表でブランクになっていた部分を埋めた形です。
事前に予測した通り、電気Qは0.8でビンゴでしたし、EBPも115でほぼ予測通りでした。

比較表において2つのユニットの違いが一番分かる項目は、機械系コンプライアンスCmsになります。
マークオーディオ製MF4が柔らかい(動きやすい)振動系なのに対し、オンキョーユニットOF101はしっかりと保持するタイプです。
同じような低いf0を達成するための考え方の違いで、柔らかくして下げるか、重くして下げるかの違いです。
また、振動系のロス(機械抵抗Rms)にも差があって、オンキョーの方が2.5〜3倍大きいです。フレームがプアでも振動エネルギーの伝播量が少ないので、鳴きにくいとも言えます。
このあたりにメーカーポリシーが感じられ、たいへん興味深いですね。

STEREO誌の本文に情報があったのですが、振動板の材質は叩解度の低い(繊維の長い)パルプで、特筆すべき添加剤は入れてないとのことです。
添加剤が無い紙の比重を考えると、かなり厚めに抄いているのかなぁ・・・翅脈(しみゃく)パターンはプレスで整形しているのでノンプレスではないし、当然、五角形の渦巻き形状リブもプレスの為せる技です。
変形しないように、プレス圧を上げて硬くしているのかもしれません。

エッジを特殊形状にしたので、ロールエッジが振動板と逆方向に駆動されることによる1kHz前後のf特ディップ(反共振:打ち消し)が出ないことを特徴として挙げていました。
ロールエッジの反共振の例を挙げておきます。
show
外観上で分かるもう一つのポイントはキャップレスにしてフェーズプラグ(耐熱ABS製)が付いていることですが、キャップを付けるとQmsが低くなり過ぎてオーバーダンプになり、想ったような低音が出なかったのではないかと思います。

ムックの発売は来月19日の予定ですが、だいぶ内容が見えてきたので、そろそろ設計に入ろうと考えています。

吸音と拡散について 補足

 2021.7.16
言葉では分かりにくいというご意見をいただき、イメージ化してみました。
show

茶色のラインが理想的な再生装置の特性として、「オリジナル(赤色)」が未対策の部屋の再生特性、黄色のラインが「吸音」、緑色のラインが「拡散」のイメージになります。(あくまでイメージです。念のため)
オリジナルの場合には、中高域で定在波による細かいピーク&ディップが生じています。(波長が短いため密になる)
中低域での定在波はブロードに見えますがエネルギーが大きく且つ波長が長いためにロケーション依存性が高くなります。特に、部屋の四隅や部屋の中央部分は共振の「腹」になることが多いので、思った以上にエネルギーが溜まってしまいます。
この帯域は、今回採り上げている対策用アクセサリーでは対処が難しい部分になります。

注目すべきは中高域ですが、拡散タイプのツール(緑色のラインでイメージ)はその形状によって定在波を少なくする効果を期待したもので、総じてピーク&ディップが浅くなります。ここで注意すべきは、全ての定在波に対して効果がある訳ではないという点です。
ちょうどピッタリ打ち消せる周波数のものもありますし、逆にピークを新たに作ってしまう場合もあります。(万能ではないと言うことです)

吸音(黄色のラインでイメージ)は材質による吸音特性(ある周波数範囲で効果あり)が支配的ですが、量(厚さ)によって吸音する周波数が変わります。厚いほど低域寄りにシフトします。
前回の記事にも書きましたが、定在波や外来ノイズだけでなくソースに含まれる情報も吸音対象となるため、使い過ぎには注意が必要です。

吸音、拡散共に測定ポイント(マイク位置)が変われば効果も変わります。と言うことは、試聴位置が変われば効果も変わるということです。
したがってチューニングの際には、試聴位置で確認しながら進めることが肝要になります。
そのような意味からも、前の記事で示したスローピーは特性の違う4種を変更するための取り付け&取り外しや反射角変更(上下⇔左右)が簡単にできることがメリットになります。(たぶん、特許か実用新案を取っていると思います)

吸音と拡散について

 2021.7.15
部屋の特性改善記事を載せたとたん、「吸音と拡散の音の違いは?」というお問い合わせをいただきました。

私の感じた部分を説明するだけでは不十分なので、関連情報をいくつか調べてみました。
建築業界では、内装カテゴリーにあたる製品ですが、けっこう老舗があるようです。
最近、注目されているのが、吸音と拡散といった「調音(楽器みたいですが、こう呼ぶそうです)」以外に吸湿、断熱を兼ね備えたサーモウールというもので、コスモプロジェクトという会社が扱っている「Sound Sphere」シリーズに使われています。
文字通り羊毛(ウール)が原料で、天然素材のメリットを活かした製品になります。

https://soundsphere.cosmo-project.co.jp/
https://www.cosmo-project.co.jp/assets/pdfs/catalogue/soundsphere2021-03.pdf

この中で、Philewebでも採り上げられたのが、「スローピー」という製品です。

https://www.phileweb.com/review/article/201703/29/2427_2.html

製品名はその形状からきていて、下図のように正方形の表面が3分割されていて、傾斜方向が反対になった斜面3つで構成されています。

showPhileweb資料を引用

3分割の部分は拡散と吸音が選択できるため、図中の番号の順で反射(拡散)が多い特性になります。
デザイン的にもコスト面でも考えられていて、壁面全体でなく一部に貼り付けることを想定していて、裏面は薄い金属製になっています。
貼り付けたい部分に、付属のテンプレートを使って、同じく付属のマグネットシートを壁用ホチキスで打ち付けます。
本体は、構造枠と内部にサーモウール、表面はファブリック調の伸縮布だけですので軽く、ズレ落ちたりはしないのでしょう。
特に秀逸なのは正方形なので縦にも横にも貼り付けられることです。
試聴位置の前面壁は上下への拡散、両脇壁は前後への拡散と吸音の組み合わせなどのバリエーションが可能になっています。

なんだか、製品の宣伝のようになってしまいましたが、ここからは本題の「吸音と拡散の音の違い」です。
鴻池さんのレビュー記事(Phileweb)の内容にもありますが、貼り付ける場所、配分、数量などにより効果の度合いは変わりますが、総じて拡散については中高域の定在波を減じて音のバランスを整える方向で、吸音は嫌な音を減らす方向と言えます。
定在波の悪影響は、周波数特性に本来は無いピークを作ることで、ソース自体に入っている情報のバランス(スペクトラム)を崩してしまい聴覚で認知する空間情報を乱してしまうことです。
結果的に、定位自体が悪くなったり、発音源の輪郭がボヤケル(楽器やヴォーカルの口の大きさが不自然に大きくなる)、楽器やヴォーカルの前後位置が不明確になる(ソースで位相を弄らない限りはスピーカーより前には定位しないのに張り出してくる)などが起きますので、拡散はそれを減じる効果があります。

一方、吸音は、文字通り音響エネルギーを熱に変換してしまうことになりますが、不要な部屋特有のピークだけを減じるのではなく、ある帯域のエネルギーをもれなく(ソース情報も含めて)減じるため、注意が必要です。
使いすぎると、ツヤが無くなってソースの魅力が損なわれるし、使用している製品のアラも目立ってきます。

部屋と使用システムに合わせて、拡散と吸音のバランスを取っていくことが「調音(チューニング)」には不可欠な作業になります。

ゼロから始める6畳オーディオルーム【第2回】

 2021.7.11
昨日、東京・町田にある「KRYNA」さんの掲題イベントに行ってきました。
イベント開催情報が『Phileweb』のHPにあったので、一週間ほど前に予約しておきました。
コロナ禍のなか、東京都は緊急事態宣言も発令されることになり、イベントに参加するのは心苦しかったのですが、オーディオイベントには1年半以上行けていないので禁断症状が限界だった・・・言い訳ですね・・・こともあって、1回目のワクチンを打った後だったのと、説明していただく方が1人だけの1対1のワンマン・イベントだったのを苦しい言い訳にして参加することにしました。
もちろん、交通手段はチャリんこで、神奈川県大和市にある私の作業場から炎天下約40分かけて30℃以上の外気に苦しめられながら定刻5分前には到着しました。コロナもですが、熱中症も心配な気候になってきましたので、途中給水は必須でした。

失礼ながら、KRYNAさんについては『Phileweb』のHPで初めて知った次第です。

イベントについては、
公式ツィッター
https://twitter.com/KRYNA_Audio
に写真が早速にアップされていますので、そちらもご覧ください。以下に一部(左:未対策、右:途中経過の写真)を引用させていただきます。

show

さてイベントの中身ですが、社屋の2階に設えた6畳相当の空間(音響的に未対策)に、KRYNAさんのアクセサリー製品である拡散器Azteca(ツィッター記事の写真にあるピラミッド形状のもの)と吸音材WatayukiU(部屋の正面上方にちらっと見える四角の枠を四分割したような形状)を使って対策していく過程を実体験するものでした。
まず初めににスピーカーのエンクロージャの上にAztecaを各1個バッフル面に合わせて置いただけのもので音出し。
未対策と比べると、格段に空間の見通しが良くなったのが分かりました。これだけでも効果があるということです。
拡散器Aztecaのアレイ(写真参照)をスピーカー後方と中央の壁面に立てかけると、効果はアップ。女性Voと楽器pの位置がピンポイントで分かるようになってきました。
さらに吸音効果の確認として、吸音材WatayukiUを正面壁四隅に設置して吸音すると、ボーカルや楽器の付帯音が減って見通しが良くなりました。
中央のアンプラックの裏側空間にWatayukiUを入れる実験もしていただき、より良い方向に変わっていきましたが、数量を必要以上に増やすと吸音しすぎてデッドになって余韻が吸われてしまうのも体験できました。
アンプラックやスピーカーの裏側などは、意外に音が溜まって(定在波が発生して)悪さをする場所になりやすいことも分かりやすく説明していただきました。

KRYNAさんでは出張して部屋に合わせた調整も行っているとのことで、コンサルの依頼もあるそうです。(フェイスブックにも記事があります)

また、KRYNAさんのことを存じ上げなかったことをお伝えすると、昔、東林間駅近く(クラリネット通り)にあったサウンドミネさんが移転して社名を変えたことや、先代の社長が日本ビクターにいらしたことなどをお話しいただきました。

真空管アンプの販売でスタートされて、今はアクセサリー類の販売とルームチューンのコンサル、従来販売品の修理などを主業務にされているそうです。

AztecaやWatayukiUは単品販売をしていて、リーズナブルな価格になっているのも嬉しいですね。
現在、吸音と拡散を兼ねた新製品を開発中で、今秋には販売するとのこと。試作品を聴かせていただきましたが、更にチューニングすればコスパの高いアクセサリーになりそうです。

このような小規模でも有意義なイベントを草の根で続けることが、今後のオーディオ業界には必要なのかな〜と感じました。

以上、簡単な報告ですが、非常に有意義な時間を持てたことを感謝いたします。

仮想アースについて

 2021.7.10
昨年の8月後半から9月にかけて、電源についての記事を掲載しましたが、その中で「仮想アース」商品の仕組み(構造)を説明しました。

今回も想定通りというか、「アース」の話をしたら「仮想アース」について質問をいただきました。
「仮想アース」についてネットサーチしてみると、色々な情報が拾えます。
アクセス数の多いサウンドクリエイトさんのHPにもありました。
「トップ」から「使いこなし」⇒「バーチャルアースって何?」と辿ればOKです。

https://soundcreate.co.jp/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%A3%E3%81%A6%E4%BD%95%EF%BC%9F/
(コピペして検索してください)

内容については、ちょっと勘違いされている部分があります(日本の場合はコールド側が柱上トランスのアース側に繋がっていますが、家屋毎に地絡用の保安アース(D種)は必ずあります)が、大地アース(保安アース:電力用アースと説明)と仮想アース(不要輻射用のエレクトロニクス用アースと説明)が別ものであることをキチンと説明してあります。

巷では「金属たわしアース」というものを各人各様自作されていて、色々な金属たわしを組み合わせて音質検討されているようです。皆さん、探求心に溢れているのだなぁ・・・と感心してしまいました。

冒頭に記載した昨年の記事では「仮想アース」は異種金属同士によるガルバニック接続(貴金属と卑金属の電位差⇒電流発生)を利用したものと「十羽ひとからげ」にくくってしまいましたが、1種類の金属でも「表面積」が大きければ空気中への電荷の移動(放電)が可能になるため、一種の放電器として機能すると思われます。
また、昨年9/9の記事に掲載したグラフ(腐食電位)を再掲しますが、黒鉛は白金と並んでプラス電位にあるため、アルミニウムと黒鉛の組み合わせで実験されている方もいらっしゃいました。

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上図の出典は、軽金属溶接協会の施工法委員会報です。
http://www.jlwa.or.jp/faq/pdf/21.pdf
(注) SCE(飽和カロメル基準電極)を使った数値になります。

電位差による電荷の移動が電流の概念ですので、仮想アースには微弱電流が流れるという発想だと思います。
電荷が移動しただけで、その先は???となりますが、表面積を稼ぐことにより前出の空気媒体への電荷放散が可能になるという考え方だと思います。
要は、静電気レベルの電気量を想定した除電アクセサリーの一種と考えれられます。

微弱電流にしろ、一種のチャージポンプかバッファプール的に働けばインピーダンス(電位/電流=電位/電荷移動量)が局所的に下がる??のでノイズ(微弱電流)を吸収すると言うことなのでしょうか??

以前、展示会で光城精工さんのクリスタルシリーズの仮想アースを聴いたことがありましたが、試聴環境(S/N)が悪く正しく評価できませんでしたので、年初に友人が所有しているモノ(メーカーおよび型式は忘れました)を借りて実際に使ってみました。音が微妙に変わるのはデモ会場で確認できたとおり事実でした。巷の意見では「S/Nが良くなる」とのことで、確かに静粛性は上がっているようにも聴こえます。
ただ、ノイズだけでなく微弱な音楽情報も一緒に減ってしまっているような・・・ちょっとデッドな部屋で聴いているような・・・気のせいでしょうか?その製品特有なのかもしれませんが。

これは私だけの感じかたであって、色々交換して使ってみてその違いを楽しめれば良いのだと思います。

TIAS2021開催

 2021.7.7
今年の東京インターナショナルオーディオショーの開催が決定したようです。11/5〜7 於:東京国際フォーラム

show 5月には情報が出ていたようですが、入手が遅くなりました(汗;)。今年も中止と決め込んでいたので調べもしませんでしたが、福井にあるオーディオスペースコアさんのフェイスブックで知ることとなりました。
その頃には、新型コロナも落ち着いていると良いですね。
今から楽しみです。

アクセサリーについて(その3)

 2021.7.4
以下にアースの施工方法と、その改善方法を記します。

通常の住宅におけるアース接地(D接地)では、適宜な長さの裸銅線を埋設するか、銅棒を地中に打ち込む方法を採ります。
この方法ですと、銅線や銅棒の表面積が限られるのと、土中の水分量の多少により数百Ω程度の抵抗値を持つことがザラにあります。もちろん抵抗値は天候や経年変化でバラつきます。
A〜C種接地の場合には、落雷時の地電位上昇を抑える目的(設備や器具の故障を避ける)もあって裸銅線や銅棒の周りに接地抵抗低減材(導電性コンクリートなど)を打ち込んで(包み込むようにバラ撒くだけで地中の水分を吸収して固まる)施工されます。
もし、これから新築される場合には、導電性コンクリート(SANKOSHAのサンアースなど:下記アドレス)の施工を依頼されると良いと思います。
導電性と言っても金属ではないのですが、土と接する表面積が増えるため電流が分散され、結果的に抵抗値を下げることになり、効率的に地絡性能を上げることが出来ます。

https://www.sankosha.co.jp/product/detail.php?id=407

それでは、住んでいる住宅で対処するにはどうしたら良いのでしょうか?
部屋の壁コンセントにアース端子がある場合には、アンプなどのアース端子(PE:保護アース端子・・・リアパネルに直についている端子。最近は付いていないものもあるようです)にアース線で繋ぐだけでも有効です。
このようにすることで、筐体の電位が安定するのと、ホット&コールドにノイズが流れ込むのを防ぐことができるメリットが生じます。(PEのインピーダンスが下がるため、ノイズが効率よくPEに流れ込む)

3回に亘り「極性」と「アース」について記してきましたが、高価なアクセサリーを購入する前に、キチンと極性を合わせ、アースの仕組みを理解しておくことが無駄な出費(アクセサリーがすべて無駄という意味ではありません)を抑えることにもなることを忘れないでください。
これを実践するだけで、数十万円分の効果が期待できるかもしれないのですから・・・と言うより、これを実践しておかないとアクセサリー本来の効果が出ないと言うことです。

アクセサリーについて(その2)

 2021.7.4
今日は、オーディオ機器の電源極性は何で生じるのかについて記します。
昨年の2月3日のアースとグランドについての記事を参考にしていただきたいのですが、機器内部には基準電位となるべき部分が色々な名称で存在します。
回路系の基準電位をSG(シグナルグランド)、シャーシ(筐体)を基準としたFG(フレームグランド)、製品から供給電源への不要輻射を防ぐためのLG(ラインフィルタグランド)などがあります。
このうちLGについては電源ラインへの製品ノイズ(不要輻射)の流出を防ぐためにXコンデンサ(ノーマルモード用:ホット〜コールド間)、Yコンデンサ(コモンモード用:ホット〜LG間とコールド〜LG間)を使ってバイパスするためのグランドになります。
FGと共通の場合が多いです。← ここがポイント
詳細は以下のHPが分かりやすいので、ぜひ参照してください。

https://engineer-climb.com/xcap-ycap/

グランドって電流が流れないんじゃなかったの?と言われそうですが、機器の基本動作概念としては流れません(インピーダンスがゼロでない部分に電流が流れると電位差が生じるため、設計上グランドラインのインピーダンスをゼロとしている)が、実際には繋がっている以上リターン電流経路として電流が流れます。
話がこんがらかるのでこれ以上展開しませんが、定義なのでこういうものと思ってください。

さて、冒頭の「極性が何で生じるのか?」ですが、結論から言ってしまえばホットとコールドそれぞれとLG(FG)の間の結合度が異なるためです。
例えばトランスですが、巻線の巻き始めと巻き終わりとではトランスコアとの距離が異なります。と言うことは、容量結合度については巻き始めとコアの方が高いと言うことです。コアはほとんどの場合シャーシに固定されますので、「シャーシと巻線の結合度」と読み替えられます。
回路基板の場合も完全対称と言うことはなく、SGに対して部品配置も含めて非対称の部分が多々存在して、結合度が異なりますし、SGからFGに繋ぐ(場所によってはダイレクトではなくコンデンサを介して)ポイントをどこにするかでも変わってきます。
前出の不要輻射対策のYコンデンサにしてもノイズ源の位置によって2つの容量値を変えないといけなかったり、極端な場合にはホット〜LG間には入れてコールド〜LG間には入れない場合(またはその逆)もあります。
このようなアンバランスによってホット〜LG間の結合度とコールド〜LG間の結合度が異なってしまい、LGに流入する高周波電流に差が生じます。
結果として電源プラグの向きによってアースとLGとの関係が変わってきてしまいます。
メーカーでは、音質も含めてより良い状況になるように電源プラグに極性表示をしているという訳です。(続く)

アクセサリーについて(その1)

 2021.7.3
アクセサリーについての質問がありましたので掲載します。
「この際、ケーブル関係を一新したいので相談にのってください」と言うことで、再生システムの一覧と、購入する予定のケーブル類の一覧表をいただきました。
再生システムは私には手が出ないものばかり・・・総額1千万近いのに驚きました。
羨ましい限りですが、ケーブル類は付属のものしか使っていなかったので、雑誌の特集記事を見て交換したいとのことでした。

一覧表にあるケーブルもRCAケーブル、USBケーブル、電源ケーブルなど十数種類がラインナップされていました。
これだけのものを一度に交換したら、どのケーブルの効果があったのかまったく分かりません。
購入可否はお任せしましたが、交換は1ケ所ずつにして、それぞれの効果を確かめながら進めることをお勧めしました。その作業自体も楽しいので・・・。
ただ、交換する前に、電源の極性チェックとアースの増強をすることをお勧めしておきました。

アースの重要性は、雑誌などでも取り上げられることが増えているので、皆さん気付き始めている方も多いのですが、電気系の基準はアース電位です。
これがフラついていたら、どんな高価なシステムを組んでも宝の持ち腐れです。
まぁ、スピーカーに付ける『仮想アース』というものが絶大な効果(コロコロ変わるという意味です)を生むのも電源アースがプア(インピーダンスが高い)だからなのですが・・・。

前にも記したかもしれませんが、接地には機能接地、保安接地、雷保護接地の3種類があり、保安接地はA〜D種の4種類が規定されています。
住宅用はD種になりますが、規格は100Ω以下(ただし漏電ブレーカーが入っている場合には500Ω以下)となっていて、法的なシバリは非常に甘い状況です。
それも配電盤部分での規定なので、2階にオーディオルームを設けている場合などは、屋内配線の長さ分だけ更に条件が悪くなります。(アースの強化は別の機会に・・・)

日本の場合には片側接地なので、壁コンセントをよく見ると縦長の穴(コールド)と短い穴(ホット)になっていると思います。(基本的にコールドに触っても感電しません)
オーディオ機器はコールドマーク(電源ケーブルであれば白線など)が施されたほうが壁コンセントのコールドに刺さるように揃えます。
こうすることで、最低限の条件が整います。(機器が電源に対して最適な状況になったということです)

いずれにしろ、壁コンセントの数は限られているので「たこ足配線(分岐配線)」もしくは「送り配線(ディジー配線)」になってしまうと思いますので、この部分の極性も揃えます。物理的に仕方ないですね・・・。
ノイズにも気を配るならば、高周波ノイズを撒き散らす機器(デジタル機器)を壁コンセントに近いタップから給電するようにするかデジタル機器だけを別タップで給電するかなどの方法がありますが、ほとんどの機器がデジタル機器となった現在ではあまり効果が無いかもしれません。
アンプなどの消費電力の大きいものを別タップ給電にすることで、共通インピーダンスの影響に対処することは安全上(許容電流値)でも必要と思います。

この状態から電源ケーブルをまず交換し、次にUSBやRCAケーブルの交換へと進めていきます。(続く)

MDFの接着について

 2021.7.1
せっかくですから、MDFについてちょっとだけ説明します。

MDFは中密度ファイバーボードのことで、乾燥させた木材繊維(解繊)に接着剤と若干の撥水剤を混ぜて0.35g/cm^3以上の密度で圧熱〜調湿〜表面仕上げしたものになります。
「軽くて均質」が特徴で、組み立て家具や安いスピーカーキャビネットのほとんどがMDF製です。
理由は、均質なので仕上がりがキレイ(表面に木目の化粧シートを貼れば高級感も出せる)、反りが出にくい、製材時の廃材やパルプにならない低質チップが原材料なので安いなどになります。

ムク板は木目による方向性があるため反りが出やすいので薄くスライスして貼り合わせたものが各種の合板ですが、ここまでは木材の繊維構造(セルロースやリグニンから成る繊維が複雑に絡みあった状態)がそのまま残っていて木の種類による独特の響きがあります(叩いた時の固有共振Qが高い)が、MDFになると繊維は短く、繊維束構造もほとんど無くなるため響きは鈍くなります。(共振Qが低い)
昔から弦楽器などにはムク材を削って薄くしたものが使われていたこともあり、スピーカーキャビネットも楽器のようにキャビネットを鳴らすことで音作りをするならば高級なムク木材を使うのが常道でした。
これはユニットとキャビネットの合わせ技を使うことでもあり、熟練した技術とセンスが問われますし、左右に同じ性能のものを用意したいのにムク板のバラつきで唯一無二のものしかできないというジレンマに陥ります。楽器でも個体によって音色が異なるのと同じです。
同時にキャビネットの響きの美しさでユニットの性能の低さをカバーしていたところもあったと思います。

いまでは、ユニット自体の性能が上がり、キャビネットの共振が歪と見做される状況も出てきていて、海外製品を中心としてキャビネットをアルミフレームで補強したり金属シャフトで連結したりといった剛構造にする方向性を持ったものも増えてきています。

キャビネット自作におけるMDFのメリットは加工性の良さです。
木目が無いので平面も出しやすく、組み立て後の経年変化(乾燥による反りなど)による応力歪の増加も少なく、塗装時にも見た目のムラができにくいメリットがあります。
材質自体の響きが美しくないので、上記のキャビネットを鳴かせることには不向きですが、それにも増して自作の際のメリットには余りあるものがあります。

そろそろ表題の「接着」について記述しようと思います。
接着には@機械的結合、Aファン・デル・ワールス力による物理的相互作用によるもの、B化学的結合によるものの3種類があります。
接着の詳細については、拙著PDF『ユニットって奥が深い』の第一章2.9.2項をご覧いただくとして、MDFを含めて木材などのように(ミクロ的に見て)表面組織が粗いものはその粗さの隙間に接着剤が浸み込むことで機械的結合「アンカー効果」により接着する方法が一般的です。
ここで問題になるのが、機械的結合の場合に接着剤のみで繋ごうとすると接着剤そのものの強度が接着強度を支配してしまうことです。
水性木工ボンドと呼ばれるもののほとんどが水溶媒の中に酢酸ビニルを主成分(50%前後)として分散させたもの(エマルジョン)で、繊維相互の隙間に酢酸ビニル樹脂が入り込んで硬化することで、繊維と同等の結合を得る仕組みです。
酢酸ビニル自体は柔らかい樹脂なので厚く塗っても強度は得られず、強く圧着して余分な樹脂を追い出すことで強度を確保する事になります。したがって、「クランプ」が重要な作業になります。
アクリル樹脂を添加したエマルジョンタイプの木工ボンドも同様です。「接着強度アップ!」などの文言に惑わされず、十分に圧をかけて追い出すことが肝要です。

もし、材料加工で接着面の平面度を得られない場合には、エポキシ系の接着剤を使うのも手です。
エポキシは樹脂としての硬度が高く、接着以外に充填効果も期待できます。
ただし、硬いことが裏目に出て、仕上げの際にヤスリ掛けする時には注意が必要になります。電動サンダーなどで均一に押し付けた場合、木材の方が柔らかいので先に削れますからエポキシ部分が盛り上がってしまう状況が往々にして発生します。
表面から見えない部分で、強度が必要な部分に使うのがポイントになります。
昔、長岡鉄男さんの影響で自作バックロードホーンを製作していた頃(40年以上前)に、加工精度が悪く隙間が開いてしまうので音道の接着によく使いました。
仕上げは、金工用の平ヤスリで行うのがベストでした。
懐かしい限りです。

MDFの価格と品質(2)

 2021.7.1
今日訪れたDIY店では、t15の3x6板で価格は半分以下の1980円・・・MDFってこんなに価格差があるものだったのか???
もしかしたら、前回の店の価格はt21かt24だったのか???
今回の質は「並」なので、早速購入することにしました。
在庫は3枚しかないそうで、必要量は5枚ですが、とりあえず3枚を購入しました。
ここでも動向を聞いてみましたが、素地MDFに関しては流通に支障はないけれどオーバーレイMDFと呼ばれる化粧板付きの建築材などは価格が高めに推移しているとのことでした。
ここにきて、価格はミズモノになってきているのかもしれません。安くて質の悪くないものを自分で探すしかないのかもしれません。

MDFの価格と品質

 2021.6.28
そろそろMDFのストックが無くなったので、近くのDIY店で購入しようと思い、価格を確認してビックリ。3x6定尺のt15材が4500円弱!消費税入れたら5000円近い金額です。
前回購入が約1年前ですが、約2割近く高くなっているようです。
おまけに質が悪く、ケバ立っています。これではMDFでなくLDF(中密度ではなく低密度)です。

店の方にお聞きしたら、購入される工務店関係からも価格と質でクレームが入っているそうですが、これしか入ってこないと言うことで困っていらっしゃいました。
気になって、日本木材総合情報センターのHPにアクセスして状況を調べてみたら、新型コロナの影響で輸入木材が激減していたことが分かりました。
こんなところにもコロナ禍の影が・・・。

たぶん、このDIY店のものはサーフェーサーを塗ると膨らんでしまい使えないと判断して、他の店を当たることにしました。同様かもしれませんが・・・。
かと言って、価格は仕方ないとして合板の使用は加工性は同等ですが均質性に欠けていて仕上がりが悪くなりそうです。(昔はラワンやシナ合板、ちょっと前まで米松などの針葉樹系合板を使っていたので、MDFの均質性のメリットが良く分かる)
さてどうしたものか・・・

受賞盾

 2021.6.27
掲載するのを忘れていました。
今更ですが・・・。

STEREO4-4

盾をいただくのは学生時代以来でした。
盾は、写真を撮ったあとで本棚の奥にしまい込んだままです。汚れそうなので・・・。

部屋の特性改善ツール(実験)

 2021.6.26
AR-1.8P製作の息抜き(昼食休み)に、拡散ツールで実験してみました。

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左右のスピーカーのまん中に拡散ツールを縦に置き、左右の空間を分断してみました。
録音状況が左右を分断してリークの無い(左右のクロストークの無い)ものであれば、この配置は功を奏するはずですが、実際には音がユニットそのものから出てくるのが分かるようになってしまいました。
「音離れの悪い音」で、奥行感もほとんど無くなります。
これは録音状態において、左右のマイクはブロードな指向性を持っていて、右chのマイクに左空間の情報が少なからず入っていて、また左chのマイクには右空間の情報が入っていて、それがステレオ再生されることで空間情報を再構築していることの証になります。
拡散ツールでさえこのような状況ですから、平板で仕切ってしまったらもっと違和感のある音になるのではないかと思います。

経験上、「音離れが悪い」時にはスピーカー本来の性能が出ていないことが多く、本来あってはならない情報(歪)が発生していることが多いことは以前にも紹介したと思います。
再掲になりますが、商品パブリシティで某評論家宅にお邪魔したときに、評価対象として持ち込んだスピーカーで音出ししましたが、評論家先生は開口一番「音離れが悪い」と評しました。
帰ってきて調べたところ、片chのスピーカーユニットのスクリュー取り付けが甘く、フレームが微妙にビビっていたというものです。
このように「歪(本来ないもの)」が付加されれば違和感から音がユニット(歪の発生源)に貼り付くのは分かりますが、スピーカーに不具合が無くても「本来あるべき空間情報が無い」場合にも同じことが起こるということが実験で明らかになったということです。

「入っている情報を足しもせず引きもせずにそのまま出す」=「原音探求」が如何に大事であり、原点であるかということです。
スピーカーは点音源であって、周囲の空間に影響(反射、回折など)を与えるような構造を持たないことが理想で、私的には小口径ユニット+流線形ボディが現時点での理想形になります。

2021年MOOK付録 ONKYO OM-OF101について(5)

 2021.6.23
またまたですみません。
同じ10cm径のマークオーディオAlpair-7MSのTSパラメータとの比較表を掲載しておきます。有効数字の桁数の違いは、マークオーディオは設計数値をそのまま出しているためです。オーディオサウンドの数値は量産でのバラツキを含めた「まるめ」をしています。メーカーの考え方の違いです。
振動系の軽いマークオーディオとの比較になりますし、7MSはダンパーレスですので条件が違いますが、実効質量で1.5倍重いのは少々厳しいです。
1W/1mでの平均音圧をほぼ同じに持ってきているのは、数値の発表はありませんが磁気回路をおごってBLを稼いでいるからでしょう。
インピーダンスカーブを見ると、1kHzで約8Ω、10kHzで10Ωとなっていてインダクタンスは低いようです。
と言うことは、BLのうちL(VCの巻線長さ)はあまり長くなく、B(磁束密度)だけで稼いでいるようです。
巻線のインダクタンスが増えると高域の能率が下がるので、高域を伸ばすためにも得策と思います。

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ムック本でどれだけクリアになるか分かりませんが、パラメータが不足していて設計には不十分です。
これだけ少ないと、パラメータ同士を演算して求めることも出来ません。
せめてコンプライアンスCmsと電気Qだけでも分かれば良いのですが・・・。(電気Qは16日の記事で0.7〜0.8と想定しています)
Mmsとf0から逆算すると、コンプラアイアンスCmsは0.5〜0.6[m/N]くらいになり、振動板の保持系はかなり硬いと言えます。(重いのにf0がそんなに低くない)
あとは現物をチェックするしかないのかな〜と考えています。

2021年MOOK付録 ONKYO OM-OF101について(4)

 2021.6.22
小出しにしているようで恐縮ですが、もう一つ大きなポイントがあります。
外形図のフレーム部分を見ていただくと、ダンパー座の段差と磁気回路のトッププレートとの間に長穴があるのにお気付きでしょうか?
90度振り分けで4ヶ所に穴が開いていますが、これが重要なポイントになります。

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この穴がない場合には、ダンパーとフレームと磁気回路で閉空間が形成されますが、この部分の処理が小信号のTSパラメータ(ある意味スタティック)には現れないダイナミック・パラメータに影響を及ぼします。
この閉空間は、振幅が小さいうちは振動系に影響を与えませんが、振幅が大きくなるとスチフネスとして機能し、振動系を抑える要素になります。
それもダンパーの番手(デニールと言います:繊維の編み密度になります)によってノンリニアの度合いが変わります。
空気は粘性流体ですので、ダンパーがあまり動かなければ繊維の隙間を自由に出入りしますが、ダンパーが速く大きく動くと繊維の隙間を通りにくくなり閉空間の圧力変化が大きくなるのでダンパーが抑えられて動きにくく(スチフネスが大きく)なります。
これがダイナミックな楽音で変化するのですから、結果としてノンリニア歪が発生します。(全く通気しない空気ばねと同じならばリニアですが、中途半端に通気するので・・・)
解決方法としては色々ありますが、一番簡単な方法はフレームに穴を開けて外気と流通させることで、圧力の変化を最小限にします。

「それならもっと大きく穴を開ければ良いじゃないか」と思われるかもしれませんが、この穴の奥には磁気ギャップがあるので、異物が混入すると厄介です。
一番安く問題解決できる方法ですが、穴の形状や数はメーカーの考え方になります。
異物混入防止のため、デンマークのオーディオテクノロジー社の製品(Flexunits)では連続発泡のスポンジ状フィルタを開口部(穴ではなく大きなスリット)に被せています。
そこまでしなくても良いというのも一つの考え方です。私は穴が開いているだけで幸せです。

実際の音への影響ですが、穴があるとインパルス的なアタック(ティンパニーや大太鼓)などの抜けが良くなります。
インパルス応答の特性が良かったのは、この穴の効果もあるのではないかと考えています。

蛇足になりますが、キャップを排してフェイズプラグにしているのでキャップ裏の空気ばねによるスチフネスも無くなり低歪になると思いますが、鉄粉などの異物混入はこちら側からも可能性があるということです。

2021年MOOK付録 ONKYO OM-OF101について(3)

 2021.6.21
追加情報ですが、磁気回路には銅キャップと銅リングを入れているそうです。コストがかかるので高級ユニットにしか採用されないものです。

ポールピースの頭に被せる銅キャップには渦電流による歪を低減する目的があり、且つ銅は比誘電率が低いため自己インダクタンスの急変を防ぎ、磁束(磁力線)の均一化も図れます。(最大磁束密度は下がるがBLが均一な範囲を拡げられる ⇒詳細は拙著PDF『ユニットって奥が深い』の磁気回路の項目を参照してください:PDFライブラリのユニット関連にあります)

リング型フェライトマグネットの内周に銅リングを配していますが、これは漏れ磁束をコントロールするもので入力電流の変化で漏れ磁束が変調されるのを防ぎ、歪低減に役立ちます。

ここまでやるならダンパーやフレームにも手を入れて欲しかった!!とつくづく思います。

2021年MOOK付録 ONKYO OM-OF101について(2)

 2021.6.20
バイオミメティクス(生物模倣)振動板と低歪エッジについての情報がオンキョーのHPにありました。
https://biz.onkyo.com/biosp/

トンボの羽の翅脈(しみゃく)パターンを模したという表面の突起は、ランダムなパターンであるために特定の振動モードが立ちにくいことで1kHz以上のピークディップを抑える効果があるようです。
HPのモーダル解析画像では差が目立ちやすい周波数を選択しています(他の周波数では差が出なかったりする)が、同様の効果は叩解度の異なる叩解液を混合(極端に叩解の浅い不規則な形の繊維を混ぜる)して抄紙したり(混抄と言います)、ランダムパターン(例えば有限要素のように大きさと形の異なる三角形で表面を覆う)を彫った金型でプレスすることでも得ることが出来ますが、見た目の面白さは突出していて魅力的です。
昆虫に抵抗のある方には気持ち悪いと映るかもしれませんが・・・。
五角形を回転させたような表面形状も定在波の立つ周波数を高域に追いやる効果があり、且つリブ的な補強にもなっていると思われます。
インパルス応答もキレイで、設計的には上手くいったのだと思います。
ただ、強度を優先させたため質量が増えてしまったのは残念ですが・・・。

凹凸エッジについては、駆動時のリニアリティ対称性を改善するためで、FOSTEXのタンジェンシャルエッジと似た効果だと思われます。
説明にある「クリッペル」というのは東陽テクニカが扱っているデンマークKLIPPEL GmbH社製の測定器の事です。
応力の発生具合を可視化しているもので、リニアリティ評価に使われます。
グラフにおいて荷重がかからない左端の部分で対称中点がセンターからズレているということは、入力ゼロでも応力がかかっているということなので、小入力時のレスポンスに影響を与えます。
グラフからは非常に良い対称性が読み取れるので、能率が低くても小音量時の再生音には期待できます。
ここまでやったのであれば、ダンパーのリニアリティやフレームの開口率にも手を入れて欲しかったなぁ〜という感じです。
ムック付録(OEM扱い)なので、かなりの数が販売できるとしても「トータルコストを考えれば、ここまで」ということでしょうか・・・。C/Pを考えると妥当な設計だとは思います。

因みに振動板は特許出願、エッジはデザイン出願になります。特許公開サーチエンジンJ-Plat-Patで検索しましたが、3月の申請なので、まだ情報がアップしていないようです。

2021年MOOK付録 ONKYO OM-OF101について

 2021.6.16
オンキョーのOM-OF101のアウトラインがONLINE予約開始の情報とともにSTEREOブログに掲載されました。
8/19(木)の店頭販売になるとのことです。
https://stereo.jp/?p=5507

形状は、OM-MF4と同様にフレームのバッフル取り付け部分がはみ出した変形・・・個人的には中心軸対称の丸型フレームが好きなんですが・・・ユニットの傾きもバレないし。

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インピーダンスは6Ω、f0は92Hz、Q0は0.67、m0は5gとなっています。
磁気回路はマグネット径がφ80-h15ですが能率は86dB/W/mと低いのはm0が重いためです。
Qesの値が公表されていませんので想定になりますが、キャビネット形式の指標となるEBP(=f0/Qes)はQes=0.7として131、0.8では115となり、推奨エンクロージャーがバスレフというのも頷けます。軽くロードをかけたバックロードホーンも成り立つと思います。

ちょっと残念なのは、後面開放率が低い事です。マグネットが大きいのは能率を確保するためには必要ですが、後方ビューを見るとエッジ部分しか見えていません。これが意味するのは、振動板の後方放射波はユニット内のフレームやダンパー表面で反射した二次反射波がキャビネット内に放射されるということです。
出来る限りユニット内での乱反射を避けるために振動板を深い形状(断面の稜線が立った形状)にしていて、これで自家中毒から救われている部分が大きいと思います。
反面、浅い振動板に比べて前方への放射波面の変形が大きくなるため、点音源から遠くなる(球面波から遠くなる)ことでパースペクティブの表現が難しくなることが想定されます。フェイズプラグでどこまで行けるか・・・。
現時点では限られた情報しかなく、すべて想定になります。
私の経験からすると、嫌な音を抑えた、情報量より「味」を前面に出したかなりおとなしめの音が出てくるのではと想定されます。

さて、どう料理するか楽しみです。

螺旋状板ばねを使ったフット周りの実験(2)

 2021.6.15
昨日の記事では、「ばね」だけを挿入しての実験でしたが、ばねの条間にソルボセインを挟んで減衰要素を並列に入れた実験もその後に行っています。
「ばね」より顕著な変化はありませんでしたが、より低歪になったように感じました。
ソルボセインに過渡な荷重がかかっている状況ではないので、効果が少ないのかもしれません。
ばねのQダンプにはなっているはずですので、共振周波数の逓倍高調波の影響は減っているはずです。
減衰要素の効果については、TF16-25をAR-1.8Pのフットに組み込む時点で、もう一度検証してみるつもりです。

螺旋状板ばねを使ったフット周りの実験

 2021.6.14
AR-1.8P用に東京発条のTF16-25というコイルばねを購入しました。
「ばね(発条)」というと頭に浮かぶのは断面が丸い線を螺旋状に巻いた形ですが、このばねは平板(断面が面取りした長方形)を螺旋状に巻いたものになります。
ばね定数は16N/mmのもので、AR-1.8Pのキャビネット荷重によるタワミ量と固有共振周波数が適切なものになるよう選択して6個購入しました。

質量がほぼ同じAR-1.7(「T2」です)のフット部分に実験的に入れて音質的な変化を確認してみました。
実際には高さ的にフットそのものには装着できないので、ブーム(腕木)の下部3ヶ所に挿入しての実験になります。

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高さ合わせのためにばねの下に3mmのアクリル板を挟んでいます。
高さ調整機構を縮めて「ばね」のみで三脚を受ける状況と、機構を伸ばしてフット中央部分の金属スクリュー(先端は袋ナット)がダイレクトに床(合板)に接するような状況とを交互に繰り返して音質を比較しました。(下図)

床は完全剛体(質量∞)が理想ですが、そんなものを備えている家屋は皆無です。かく言う私の作業場に併設した試聴スペースの床も「畳の上にt15合板3枚を重ねただけ」ですので、振動が伝播する構造体として考えねばなりません。日本の家屋は十中八九この程度のものです。
AR-1.7の支柱中心にはモーター部分を支えるM12保持シャフトが通っており、保持シャフトの先端が直接床に接触する構造になっています。
保持シャフトの床に近い部分には約2kgのカウンターウェイトがあって三脚のブーム根元のボディ部分と一体になっています。
ここがAR-1.7としての仮想GNDに相当する部分で、ここから最短距離で保持シャフトの先端(M12袋ナット)が床に接しています。
フットは、これが倒れないように補助しているだけで、荷重のほとんどはM12袋ナットに集中しています。
そうは言うものの、フット部分は床に対して多点アースの形となっており、1点アースではありません。
これを上記のばねで支えることで、約0.4Hz以上の弾性領域ではフローティングさせることができます。

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前置きはこのくらいにして、結果を以下に記します。
単純に「ばね」の有無で音楽再生の音質比較をしただけですが、これほどの差が出るとは思えない結果となりました。
現時点でのAR-1.7の再生音質ですが、3/20の記事に記したようにフットの高さ調整をベストにすることで、パースペクティブの表現性(特に奥行の距離感の再現)が上がり、且つ重心が下がったものになっていて、友人に聴いてもらっても「市販の15cm以下のシステムでは出せない音質」になっているという評価をいただきました。
再生ソースは、MJオーディオテクニカルディスクNo.8の15曲目:プロコフィエフのロミオとジュリエット組曲より第6曲目「モンタギュー家とキャピュレット家」(ピアノ独奏)を中心に、No.6〜9の中から選んでいます。
この状態を基準にして「ばね」を挿入してみると、まず分かるのは、S/N感の向上です。スピーカーの改善なのにS/N感というのも抵抗がありますが、ノイズフロアがグンと下がります。
それと高域の付帯音が減っていて、楽器の音色がクリアに聴こえます。
最初は「きれいになり過ぎだよ」「情報量が減ったんじゃない?」と感じたのですが、聴き込んでみると付帯音(にじみ)が無くなったことでクリアになった結果であることが分かりました。
これは、床を伝わってユニットに戻るルートが出来ることによる混変調歪の発生が激減しているのだと思われます。(加速度ピックアップを使って測定すれば、具体的な違いが測定できるかもしれません)
ただ、良いことだけではありません。立ち上がりのエネルギー感が丸くなる印象があってソースを変えて確認しましたが、低音のゴリゴリした部分(物理的なアタック感)が確実にスポイルされています。
具体的に言うと、ピアニストが鍵盤を強く打鍵するとハンマーが弦を強打しますが、弦の振動による空気の圧力(粗密波の「密」と「疎」の差)が体感できるかどうか・・・実際にその時の音圧を近くで感じたことがあれば分かりますが、鼓膜に圧力がかかる(揺さぶられる)のが分かります。
再生音でそこまで表現できるとは思いませんが、「それっぽさ」が表現できるかどうかは重要なファクタです。
それが減ってしまうのはデメリットですが、曲によっては混変調の少ないクリアさがメリットとして勝つこともあり、一概にどちらが優れていると決めるのは難しいことも分かりました。

AR-1.8の設計意図について

 2021.6.13
ここ2回ほど、AR-1.8P実験機(Pはプロトタイプの意味)のモーター部分の写真を掲載しましたが、「そもそも何で2つのユニットのお尻(ボトムプレ-ト)を連結するの?」という質問をいただきました。

以前AR-1を製作した時にも「キャビネットはJBLパラゴンのような構造にするのか?」と友人に聞かれたことがありますが、写真にあるユニット2つと連結部分で構成されたモーター部分(駆動部分)は片chで使うもので、ステレオ再生には2組必要になります。

「そもそも」になりますが、私が作用反作用の打ち消しを基本構想に置いたのは、1970年代後半の月刊STEREO誌に江川三郎氏が革新的な実験記事を掲載されていたことに端を発します。
その後、1981年にオーディオアクセサリー誌の別冊『江川三郎実験室』に掲載されたウーファにタンデム結合(尻と尻を突き合わせた構造)を採用した記事『ミラード・アクロポリス方式』と、スバルの水平対向エンジンの振動が少ないという記事とで私の中では「理想的な構造」が形作られました。

前方に音響放射するユニットの振動系と磁気回路はそれぞれ逆方向の力が加わっていて、振動系が前方に動いた時には磁気回路も微小変位ですが後方に動いています。有名な「作用・反作用の法則」と「運動量保存の法則」です。
この磁気回路の微小変位を、同相駆動した2つのユニットの尻と尻を突き合わせることでゼロにしてしまうというのがこの方式の基本的な考え方です。
江川氏が世界特許を取られて、途中から更新されなかったのだと思いますが、各国のスピーカーシステムのウーファ部分にこの方式が使われるようになり始めたのが90年代後期だったと記憶しています。

私はサラリーマンでしたし仕事が忙しかった(毎週土曜日も会社に出向いていた)こともありますが、週末の余暇は家族に使う時間に必然的になっていましたので、実際にこのテーマに取り組み始めたのはリーマンショックで仕事に余裕が出来た(経営的に仕事が制限されたので、平日の時間に余裕が出来た)ころからになります。

この合理的な構造をウーファ部分に使うのは、波長の長い低周波であれば位相干渉が小さく、人間の聴覚感度も低いので、違和感なく導入できるためですが、私は敢えてフルレンジユニットでの採用を基本としました。
そのために、タンデム結合した後方のユニット(hidden unit/idle unit)から放射される音響出力は邪魔者でしかなく、その処理にいくつもの施策を行いましたが完成形には至っていません。

10年以上前に作ったAR-1のモーター部分の写真を掲載します。今見るとアラが目立ちますが、当時は精一杯やってこれでした。懐かしい限りです。

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AR-1.8用連結ユニットの状況(2)

 2021.6.9
ここのところ、気温が上がってきていて体調不良が続いています。
疲れやすく、製作は遅々として進みませんが、ユニットを実装した写真を載せます。

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この状態で1台約2.73kgあります。内訳は、ユニット+M20ナット+M20シャフトで約650g(これが2組)、固定用M20ナット+ワッシャ+連結ベース約1.3kgの合計で1.43kgになります。組み合わせを考えた訳ではありませんが、2台の質量差は約7gと僅差なのにビックリ!
まだ保持シャフトが無いので手に持ったプラスドライバーで代用してみましたが、キチンと「やじろべぇ」が成立しています。かなり安定していますので性能が期待できそうです。

AR-1.8用連結ユニットの状況

 2021.6.2
ここ2週間ほど金属加工(旋盤やフライス盤ではなく、ボール盤+α:簡単な治具のみ使用)に時間を費やしてきましたが、AR-1.8用の結合部が何とか形になってきました。シャフト&ナットはSUSですが、躯体はアルミですので1台あたり約1.3kg弱になります。今回は、写真だけの紹介です。

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以前にもご紹介しましたが、実験機AR-1.8はAR-1より取り外したAlpair-6Pを流用することにしており、この結合部はタンデム構造部分を「やじろべぇ」方式で保持するための心臓部になります。
前後にAlpair-6Pをマウントして、中央部にM12の先端を尖らせたシャフトを下から挿入し、やじろべぇのように支える構造になります。(今回は、ジンバルを使用しません)
詳細は、周辺のキャビネットなどが出来上がって音出しが出来る状態になったら、別稿で紹介したいと思います。

2021年自作スピーカーコンテスト用ユニットについて

 2021.5.30
月刊STEREOの6月号にオンキョーのユニットに関する記事が1ページだけ掲載されていました。
気になるスペックですが、Qtsは0.67と使いやすい数値ですが、振動系実効質量が5g!とたいへんに重い・・・。Alpair-10Pとほぼ同じです。
いままでのムックに付属していた8cmクラスのマークオーディオ製ユニットが2g前後だったのを考えると約2.5倍です。なんとパークオーディオの10cmケブラーコーンと同等です。誤植だと嬉しいのですが・・・。
振動系の重いユニットを上手く鳴らすのは、かなりの工夫が必要です。磁気回路が強力でBLが2.5倍になっていれば帳消しですが・・・とてもそんな磁気回路には見えません。
軽い振動系のユニットを使って逆起電力の悪影響を出来る限り抑えるのが今までの設計の王道でしたので、正直、自信がなくなってきました。

その他のTSパラメータはムック本を見なければならないのでしょうが、今、頭に浮かんだのは、1本は小容量密閉箱でミッドレンジを分担させて、もう1本でウーファを分担させ、極端に細く長いダクトにして狭いメインキャビティで制動をかけた方が音がまとまるかもしれません。
もしくは、LINNのイソバリクのように2本を向き合わせに組んで強制的にBLを2倍にしてやるかです。Mmsも2倍になるので、あまり意味が無いように見えますが、f0が下がってくれるので、同じユニットを使った2ウェイには良いかもしれないと思いつきました。
いずれにしても、今回のユニットはスピード感や情報量で勝負するユニットではなさそうで、小さな箱に入れればそれなりの音が出るような予想がします。
逆に言うと、個性を持たせた鳴かせ方が難しそうです。

ボール盤で旋盤と同じような加工をするには (番外編)

 2021.5.25
前回まで3回に亘っての記事で一番の失敗だったφ3の連続穴開けですが、ポンチを打たずにできないものかと考えて、思いついた方法を試してみました。
前回の作業では、ポンチ穴無しでいきなり穴を開けていましたし、皮一枚も残したくない=連続穴にしてワイヤソーでの作業を簡略化したい、整形作業で削る量を減らしたいので寸法線ギリギリを狙うという姑息な考えもありましたので、穴位置がバラつき溝残りの結果となりました。
そこで今回は、穴を一気に開けるのではなく、穴位置を決めるためにドリル先端だけで径マーキングする方法を採ってみました。

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写真左がその状況で、先端だけの切削加工ですのでビットの刃と既に加工した凹みの外径との位置関係の把握がしやすく、ほぼ思った通りの位置にマーキングが出来ました。(終点を意識して、緑色のカッコ内は間隔が空いてしまいました 汗;)
写真右がそのガイドに沿って穴空けした結果の裏面になります。
あたりまえですが、表で設定した間隔通りに穴が開いています。(紺色の矢印同士が同じ穴になります)
通常のタップ作業の精度でさえ0.5mmはズレると考えると、これでも実用になるのではないかと思います。

ここで、加工の際のポイントを。
ドリルで穴を開けるときには、裏バリが大きくならないように、当て木の上に加工材を置いて加工すること。
裏バリは毎回大きめのドリルでバリ取りすること。(バリ取りは手でコジるようにするだけで良い)
裏バリがあるまま加工を続けると、当て木から加工材が浮いて、当て木をした意味が無くなってしまいます。当て木はアルミより柔らかいので負けてしまい、多少はバリが出ます。

ボール盤で旋盤と同じような加工をするには (3)

 2021.5.23
昨日までの作業が円筒形にする加工の主要部ですが、作りたかったのは段付きの円筒形。そのために2種類の円筒を切り出した訳です。
今日は、これを繋ぐ加工になりますが、またしても失敗が待っていました。

繋ぐためにスクリューによる固定を想定していましたので、そのためのケガキが必要でしたが、気が逸るあまり忘れていました。
寸法線を描こうにも、φ8の穴を開けてしまったので中心がありません。
仕方なく、φ8のアルミ丸棒を切って中心にポンチ穴を打ったものを用意し、φ8の穴に嵌め込んでコンパスの中心を作りました。先にゲガキ作業をしていれば不要な作業です。

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この寸法線にしたがってポンチを打ち、ドリルで穴を開け、タップを切る部分にはタップを切り、最終的に糸面取りしたものをスクリューで組み上げたものが、以下になります。外形は前回示した溝があるのでキレイではありませんが・・・。
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黒マジックのマーキングが見えますが、合わせマークです。
これが無いと組み上げる際にスクリュー位置がずれてしまい組み上げられません。機械精度が高ければそんなことはないのですが、シロウトが作る場合には重要なポイントになります。ちょっとしたノウハウですね。
旋盤で引くほど精度は出ませんが、ここまでであればボール盤とちょっとした工夫で出来るということです。

ボール盤で旋盤と同じような加工をするには (2)

 2021.5.22
外形がある程度整ったらボール盤に実装します。
ここでM8シャフトに固定した意味が出てきます。シャフトの片端をチャックに咥えてもう一端はバイスに咥えた内径φ8のベアリングに挿入します。
こうすることでシャフトを軸として回転させることが出来ます。

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注意したいのは、バイスを最後に固定することです。軸に負荷がかかっているとベアリングを入れても軸ブレが出ますし、ボール盤にも負荷がかかります。
出来る限り負荷のかからない位置でバイスを固定します。

この状態でボール盤を駆動させて、加工材の表面に平ヤスリを当てることで切削します。具体的には、平ヤスリの片端をボール盤の支持シャフトに当てて固定し、もう一端(握り手)を手でコントロールすることで削り量を調整しながら切削作業を続けます。

写真右は、大型の粗目平ヤスリで回転切削した後に撮ったもので、かなり表面が整ってきています。
この後、#180のメッシュヤスリ、最後にスポンジヤスリ(#400相当)で仕上げます。

ベアリングはシャフトの位置決めだけの役割なのでバイスで強く固定する必要はなく、バイスから落下しないように下にステイを当てていて、このステイはベアリングを水平に保持する役割も担っています。
仕上げ切削前の加工材はそれなりに質量(慣性質量)があり、且つ回転軸周りの質量偏りがあるので、モーメント力によってかなり振動します。前工程の手加工で出来る限り整形しておくことが肝要です。

ボール盤で旋盤と同じような加工をするには (1)

 2021.5.21
私が先端恐怖症ぎみと言うこともありますが、デザインも直線的なものより美しい曲線を活かしたものが好きで、設計にもその傾向が出ています。
今回は、ボール盤とちょっとした治具を使って旋盤加工に近い(精度は落ちますが・・・)円筒形部品の製作を行ったので、3回に分けて紹介していきます。

厚さ12mmのアルミ板から2種類の円筒形を4枚切り出す必要があって、外注に旋盤加工を依頼するのも高いコストと納期がかかるし、さてどうしたものか・・・え〜い、自分で作ってしまおう!というノリでトライしたもので、方法は至って原始的です。
まず、必要な外径円(φ100とφ70)を描き、その外径線より外側にφ3ドリル刃で連続穴(皮1枚残して隣り合うのが理想的)を開け、それをワイヤにダイヤモンドチップをまぶした糸鋸(ダイヤモンド・ワイヤソー)で繋いで切り抜きます。
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これはアンプなどのシャーシの丸穴抜きと同じ手段(薄いので繋ぐのはハンドニブラやニッパですが)なので、皆さんも経験がおありかもしれません。
アンプの場合には「切り抜いたもの」は不要ですが、ここでは「切り抜いたもの」が加工対象になります。

外径円を描く時に使った中心(ポンチ凹)にφ8の穴を開けるのがミソです。
今回必要だったのは2種類各4枚だったので、それぞれの径の4枚をまとめてM8のスクリューシャフト(スンギリ)に通してナットと平&ばねワッシャで両側から締めあげてズレないようにします。
まず、上記の4枚重ねたものを万力に挟んで、外径線から食み出しているドリル穴でできたギザギザのバリを平坦にしていきます。

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今回の失敗 第一弾は、ドリルでφ3の連続穴を開ける際にそれぞれの穴センターにポンチを打たなかったことです。
写真右側でお分かりのように、ポンチ凹穴をガイドにしなかったので、穴位置がズレて外径円より内側に溝が彫れてしまった部分が発生しました。
面倒でも、一周100個以上のポンチを打つのが正解でした。そうすれば穴の間隔も均一になり、「皮一枚」がコンスタントに出来たと思います。
この溝が消えるまで削れば問題は払拭できるのですが、そうなると外径が小さくなってしまいます。
今後の検証もあって設計寸法は変えたくないので、今回は多少の溝(外観上の問題)は許容する方針としました。

ネットサーフィンは脳の混乱を招く(2)

 2021.5.18
昨日の記事を読んで、早速ご意見をいただきました。
ネットサーフは現代人にとって必要悪で、「スマホによる日々の新情報が無ければ生きていけない」という過激なものでした。
それも私と同世代の方からの意見です。

以前、お話ししたかもしれませんが、2年ほど前に長患いをして、リハビリにはストレスが大敵でしたのでメールの確認を週一にしたことがありました。
もちろん、PCは、このHPへの書き込み以外の時にはPowerOnさえしませんでした。ネットサーフなど以ての外でした。
それでも生活には困らなかったし、朝のテレビニュース番組だけは見ましたが、それだけで情報に乗り遅れることもありませんでした。

最初こそ禁断症状なのでしょうPCに手が伸びましたが、数週間もすると必要な情報だけに精査された開放感のようなものも感じるようになりました。
何よりも変わったのは、物事に疑問が生じたときに、考えもせず直ぐにウィキペディアなどで調べていたものが、まず、自分で考えて、それでも分からない場合にだけ知る手段を考えてから選択するようになったことです。
1つの疑問に対し、自分なりの予想をして、それから複数の情報を比較してより正しい情報を入手するという思考の正常化手順が身についたのも、この頃です。

話が逸れますが、「ネットの情報は正しい」というのは間違いであることが分かったのもこの時期です。
あのウィキペディアにさえ、誤情報が混じっていることがあります。
ましてや、個人のHPの情報を鵜呑みにするのは非常に危険です。(私のHPにも「不確定情報があるかもしれない」と謳っていますが・・・)
それに、メーカーなどから発表される新製品ニュースなどは良いこと(自社に都合の良いこと)しか書いていないのが普通ですし、それを基に記載している記事も同様です。
基本的な技術情報を理解していれば、それらのスクリーニング(正誤だけでなく、現在の少なくとも正しいとされている情報を基にした問題点の掌握も)ができますが、そうでなければ複数の情報を比較することで浮き彫りにすることが必要になります。

昨年の自粛開始時期のちょっと前(アルコールの入手難)だったと思いますが、「次亜塩素酸水」の自作の記事がたくさん出ていましたが、どれも酷いもので、塩素系漂白剤を薄めればできるというものでした。雑菌には効くかもしれませんが、コロナウィルスへの効果は厚生省の実験結果を見る限り、希釈して濃度を低くしたものでは期待できません。濃度が高ければ皮膚(表皮細胞)への影響も大きく、使えると判断できる結果ではありませんでした。
化学の知識を持っていれば、次亜塩素酸水と塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウムが主剤)+水は、まったくの別物と理解できますが、知らなければ鵜呑みにしてしまいます。

https://varsan.jp/virus/hypochlorous-acid/

このように情報が溢れている現代社会において「情報を鵜呑みにする危険性」は高く、ましてやネットサーフで種々の情報を身構えていない(目的意識を持っていない=意識して情報防御をしていない)脳に流し込むのは「百害あって一利なし」と考えるのは私だけでしょうか・・・。

ネットサーフィンは脳の混乱を招く

 2021.5.17
本日のNHKあさイチで「現代人はダラダラとネットサーフすることにより膨大な情報が押し寄せて脳を疲弊させ、混乱を引き起こしてゴミ屋敷化させる」という内容の情報がありました。
「情報過多が必要な情報(記憶すべき情報、憶えていなければならない情報)を追い出してしまう」というショッキングな発言もありました。

まさに、前回記事のイマジネーション・インフレーションのシステムが稼働してしまうのでしょう。
「脳は情報を欲する(新しい情報が入ることでドーパミンが発生する)ので、ネットサーフを止められない」という情報もありましたが、悪循環ですね。ITの奴隷になっているようなものです。
大事な約束を忘れたり、一つのことに集中できなくなるのも情報過多の悪影響です。

情報が入ってくることを抑制することで脳内が整理され正常化されるとのことで、具体的には「瞑想(何も考えない)」が良いようですが、なかなかそのような時間は取れませんよね。

PDF『音場再現と聴覚の限界』統合版を更新

 2021.5.9
拙著PDFライブラリーに収納されている『音場再現と聴覚の限界』統合版を更新しました。
認知心理学の資料を読んだ内容を反映したことと、一部記載が間違っていた部分を修正しました。

5/5の記事にも記載しましたが、『イマジネーション・インフレーション(想像力の肥大化)』プロセスの考え方は、「人間の記憶の曖昧さ」を説明する上で私にとって一番分かりやすいものでした。
大まかに言ってしまえば、記憶したことに対して「いろいろ考えすぎて記憶が変質してしまう」ということです。
これは意識せずに関連情報として記憶が引き出されて再度記憶される場合もありますし、何らかのトリガー(映像や音声などの外部情報やそれ以外)で特定の記憶を意識して思い起こす場合もあります。
また、雑誌記事やテレビなどの情報が新たな記憶情報として脳に蓄積される際に影響される場合もあります。(「事後情報効果」と呼ばれます)
このように記憶を引き出して(無意識にでも)考えることで変質して(加工されて)しまい、それが新たに記憶(上書き)されるということです。
これは記憶全般に亘って起こるプロセスになります。

『音質評価』という作業は、文字通り、実際に音を聴いてその質を評価(評定)するということです。
聴覚情報により音質情報を正しく把握する(脳に取り込んで記憶する)には多数の相互関連情報が必要なのに、リアルタイムに現れては消えていく音響情報を瞬時に記憶して、時間経過後に比較してそれを評定しなければならない作業になります。
評定するには何らかの「基準」が必要で、その基準が記憶の中にある「自分の評価基準」であるか、それとも比較試聴する際に用意した「基準製品」の再生音であるかの違いに分けられます。
もし、この基準情報が「ゆらぐ」としたらどうでしょうか?
比較という行為の意味がなくなることは自明の理です。

ほとんどの方が、自分の中にある「理想の音質(評価基準)」が不動のものと思っていらっしゃって、それと比較しているのだから俺の評価は正しいと思っていらっしゃると思います。
でも、実際には上記の『イマジネーション・インフレーション(想像力の肥大化)』プロセスによって「理想の音質(評価基準)」が常に刷り替えられている可能性が高いのです。(余程のことが無い限り、大幅に変わってしまうことは少ないでしょうが・・・)
おまけに質(タチ)が悪いのは、本人(当事者)には変質したことが認識されないということです。

畑違いの「味覚」の話になりますが、年齢に応じて好みが変わると良く言われますが、聴覚にもそれが当てはまりますので、若いころ好きだった音質と年齢を経てからの好みが違ってくることは当然考えられることです。
音程(ピッチ)のように客観的に一義的に決まるものではなく、「好み」の影響が大きい「自分の中の理想の音質」ですので、変わっていても少しもおかしくないのです。
これは人間である以上、避けられないことです。
もちろん、これには個人差があり、たぶんオーディオ評論家の先生たちは基準の刷り替えが起きにくいのでしょう。
これは先天的な部分(才能)がおおいにありますが、後天的な部分もあり、訓練(学習)によりある程度固定することが出来るようになります。
でも、上記のように人間の脳での記憶はメモリーチップへの記録と異なり、リード/ライトに伴う刷り替えは皆無ではありません。それどころか、ほぼ毎回起こっている可能性が高いですし、それに対してデジタルメモリーのパリティやCRCチェックのような補正(エラー訂正)がかけられることはありません。脳での記憶の場合、「固定すること」より「書き替えること」が優先されるからです。
したがって、評価には基準機との相互比較が必要になってきます。

比較試聴も悠長に長時間行っていては、せっかく記憶した情報がどんどん忘却されていきます。人間の脳はオーバーフローした情報を、どんどん忘却していきますので。(選択的注意喚起が無い限り、基本的には古いものから順番に消えていきます。それが「海馬」や「視床」という部位の基本的な働きになります)
一番有効な比較試聴は、1対1(基準と評定対象)で特定のフレーズ(ソースはもちろん同一)をそれぞれの製品で交互に切り替えて再生することで比較する方法です。
長くても20秒程度のフレーズだけを交互に再生して比較します。
こうすることで、脳に記憶した情報を加工せずに最大限活かすことが出来るようになります。

記載間違いはこの部分です。短時間で比較することで脳での記憶方法の特質である「チャンキング(紐づけ)」を出来る限り固定させない(前述の「加工せず」と同じ意味)ことが重要ですが、「固定する」という表記になっていました。謹んで訂正いたします。

部屋の特性改善ツール試作 第二号機

 2021.5.5
第二号機が完成しました。

今回は、自家用ではないので、手を抜かずに作りました。一号機が手抜きという訳ではなく、やってみないと問題点が見えてこなかったという意味で、その問題点にパッチを当てて対策をしました。
今回の大きな改良点は以下の3点です。

1.塩ビパイプを切り揃えた
2.M8シャフトの受け側をM8-L11フランジ付き鬼目ナットにした
3.VU40とVU50の塩ビパイプの隙間に川砂を充填した

自家用ではないということもあって、塗装をしました。
下地サンディングシーラー2回塗り後に#180で軽くサンディングして、ウレタンスプレーでテカらない程度に2回塗装という簡便なものですが、仕上がりに差が出ました。

・塩ビパイプは前回の反省から一番短いものに合わせて全てを切り揃えました。結果的に長さは998mmになりました。
・M8シャフト受けの鬼目ナットについてはフランジを切り起こしたツメを平面に打ち込むタイプにして、最終的に3M社の嫌気性ネジロックTL72J(永久固定用)でシャフトと固定しました。
・川砂は消毒済の乾燥川砂(砂場用)を使いました。塩ビパイプ同士の隙間が狭いので、漏斗の口を絞る工夫をして作業しましたが、均等に入れようとしたため5か所の作業に1時間半もかかりました。パイプの外側から拳で叩くと、コツコツと上手い具合にダンプされています。

四隅のシャフト部分は以下の構造になります。

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四隅のパイプだけ、フランジの厚さ分だけ短くして他と長さを揃え、上フタ側の板の「パイプ受け面(内側のカウンターシンク)」部分には発泡塩ビシートを丸く切り抜いて貼り、防振と長さの不揃い対策(VU50に関しては砂漏れ対策も兼ねる)をしています。
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外装では下板の裏側にアルファゲルもどき(中国製:ダイソー100均で購入)を貼り付け(下写真右側)、上フタ側のシャフト固定用に使うM8-L50長ナットとM12平ワッシャ、M8-L15キャップボルトをネジロックTL72Jで一体化しました。(下写真左側)
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いよいよ試聴です。

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試聴ポジションの背後に今回製作したものをあまり考えずにとりあえず設置してみました。
写真にあるように、前面のスピーカー背面側の1台はそのままの位置に置いた状況です。両方とも動かしてしまうと比較が出来ませんので・・・。もちろん、2台設置して初めての試聴になります。
前回の検討結果より確実に「嫌な音」が減っています。中高域の耳につく余計なノイズがほとんど消えた感じで、今までスピーカーからノイズ(高調波歪と思っていた)が出ていてウルサかったものが定在波の影響によるものであることが分かりました。
S/Nが上がり楽器(特に金管楽器)に付帯していたニジミ感(ffになると耳が痛い)が取れて、奥行方向の見通しも良くなり、気持ち良くボリュームが上げられますが、近隣から苦情が来るので一瞬で止めました。
ニジミ感は定在波のワルさだったようです。
ツールには拡散効果しかないはずなのに、「ホールの客席に座った時の座席シートや聴衆による吸音」のような効果が感じられます。後面壁(約4m後方のガラス扉)による正対反射がいかにワルさをしていたかが如実に分かりました。

音質評価の難しさ

 2021.5.5
友人から音質評価して欲しいとスピーカーシステムが届きました。

彼は私の友人(オーディオファイル)の一人ですが、私の職歴を知っていて、良く評価を依頼されます。
彼曰く、「昔持っていたスペンドールBC-Uを再現できたと思う」と息まいていました。
そのBC-Uは壊れてしまっているとのことで、私の常套手段である「比較」ができない状況です。
BC-Uが評判だった30年以上前の私の記憶では、「中域で嫌な音がしない」「おとなしい」「高域でちょっと味付け:管楽器」といったイメージしか残っていなかったので、正しい評価が出来ないと告げると、「俺に出来るのに、あんたにできない訳がないだろう」といぶかしげな顔をされてしまいました。

「私はスーパーマンじゃないよ!」とクギを刺しましたが、依頼されて中途半端も気分が悪いので、とりあえずYouTubeの空気録音を数件再生してみました。
空気録音では細かいニュアンスなどを得るのが無理なのは十分承知していましたが、自分の記憶してる音質とかなり掛離れていることにビックリしました。
私の記憶にも『イマジネーション・インフレーション』が生じていたということです。
『イマジネーション・インフレーション』は認知心理学での記憶に関する第一人者であるエリザベス・ロフタスが「想像力の肥大化」と名付けたプロセスで、無意識の「記憶の刷り替え」とも呼ばれています。
どんなに強烈な出来事として記憶したとしても、その後の外部情報(雑誌記事など)や「思い返し行為(思い出として思い出す)」により徐々にあるいは急激に不確かな(正しくない)情報に置き換わってしまうということです。
これは、個人差はありますが全ての人間に共通に起こるプロセスです。

これを防ぐためには、私が常々言っている「リアルタイムでの1対1の比較」しかありません。
同じ記憶(する行為)を重ねる=反復学習することで定着させることができる事象もありますが、それとて時間経過とともに変質してしまうこともあります。
映像を例に挙げると、子供が小さいころのビデオ映像を久しぶりに見たときに、「あれ?こうだったっけ??」という違和感を抱かされる場面に度々出くわします。これは、同じようなシチュエーションをテレビ映像で見たり、文章を読んだりすることを起因として、昔の記憶を思い出すことで『事後情報効果(上書き、刷り替え)』が起こり、記憶が変質してしまっていたことに他なりません。
記憶は思い出す度に、常に刷り替えられているのです。

友人には、キチンとした比較評価が出来なかった旨を説明したうえで、仕方なくYouTubeで仕入れたレコーダーによる空気録音に入っていた音質情報(当然、空間再現性などはほとんど得られませんでしたが・・・)を基に評価した結果を伝えました。

当然、BC-Uらしからぬ音質だったことを書き添えておきます。
改めて、記憶は当てにならないことを実感しました。

振動板の共振モードについて

 2021.5.1
昨日は、共振(共鳴)について記しましたが、振動板での挙動についても以下に記しておきます。
振動板はVCで加振駆動すると、低い周波数のうちはピストン駆動(全体がVCと同相で駆動)されますが、構造上、薄くて軽いモノですので、周波数が高くなるにつれ分割振動し始めます。

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この図は例によって『ユニットっておくが深い』から抜粋しましたが、中心部(黒丸)が駆動点の円盤形状の板を上方(手前)に駆動している状況を想定したものです。(外周は保持無し)
モード(0,1)がピストン領域での振動から最初のモード振動に移行する状況(1次共振周波数f1での挙動)で、慣性質量により振動板の腹の部分に変形(膨らみ)が生じます。
これは振動板の口元とエッジを節(固定端)とした共振で、中心軸に対称な変形になります。
図の上端右端に次数、倍率とあるのは、上記のモード(0,1)を基準として、それより高い周波数で何番目の共振で、それが基準の周波数の何倍かを示しています。勘違いしないでいただきたいのですが、この数値は、あくまで平らな円盤の場合であり、色々なユニットに使用している振動板にはそのまま適用できません。
「+」と記載してある部分は手前方向に駆動しているときに手前に変位し、「−」と記載してある部分は手前方向に駆動しているときに奥方向に変位していることを表します。
横断面での表記は図の2段目までが限界なので、それ以上の部分を模式化したものを示しておきます。

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模式図なので多少おおげさですが、実際の振動板でも目に見えるレベルで振動板の原型を留めないような変形(デコボコ)が生じています。(図は外周が開放状況のシミュレーションなので、エッジで支持されている実際の振動板の場合には若干状況が変わってきます)
このようにモード共振した状態(分割振動領域)でキチンとした波面(粗密波)が生成できないことは容易に想像できると思います。
波面が一定しないということは、タイムドメイン歪(波形歪)を発生していると言うことです。場合によってはフリケンシードメインでの周波数特性のディップやピークも生じます。

そのためにメーカーは分割振動開始周波数 f1 をより高い周波数にするような工夫(より比弾性率の高い=軽くて高剛性な材料の選定、形状の工夫など)を日夜続けている訳です。

2種類の音響伝播について

 2021.4.30
拙著PDF『ユニットっておくが深い』を読まれた方から、質問が来ました。

2.8項に音響伝播の仕組みを記してありますが、粗密波は理解できるけれど、共振の仕組みが良く理解できないというものでした。(下図)

wave 「粗密波」は局所的な圧力変化(位置エネルギーの変化)が進行波(運動エネルギー)となるもので、運動エネルギーが四方八方に伝播するため、減衰することも理解できるけれど、「共振の減衰が少ない」という部分が分からないとのことでした。
まず、「共振とは?」の部分ですが、物質(固体)には固有共振周波数といってその物質が振動しやすい周波数があります。
外部から伝播した振動が、この周波数に合致した場合には、理想的な状態では運動エネルギーに変換されることなく伝播するため減衰が小さくなるということです。金属のように強固な格子構造であっても分子が運動(振動)すると振動エネルギーの一部が熱に変わるため減衰します。(図の下側)

それでは空気(気体)の場合にはどうでしょうか?
この場合には固有共振周波数が無いので、開放空間では共振は生じません。
ところが壁や箱、筒などの固体が空間内に存在した場合には、この固体が節もしくは腹となる周波数で共振が生じます。
固体で囲まれた空間では固有共振周波数が発生するということです。
したがって外部から伝播(もしくは内部に発生源がある)した振動エネルギーは、この固有共振周波数で共振(共鳴)します。
室内で発生する定在波が代表的なもので、特定の周波数のエネルギー減衰が小さいためエコーのように残ります。

弦楽器などの場合には、弦の振動がボディそのものとボディ内部の空気を共振させ、楽器特有の共鳴を作り出しています。
この場合には、楽器それぞれの響板材質や形状、根柱(突っ張り棒のようなもの)、表面のニスなど、もろもろの組み合わせ条件で音色が決まります。
ヴァイオリンの場合、ストラディバリやアマティ、ガルネリなど作者によって違いがあるのはこれらの違いが音色に反映しているのと、経年変化で材質に変化が生じていることも要因になります。

KEF Uni-coreについて

 2021.4.20
最近、ネット情報をサーチしていなかったので、KEFの情報収集をしましたが、思わぬ収穫がありました。
それはUni-coreと呼ばれているサブウーファに使われている構造です。

ISO-1

HPより引用

従来、2つの独立したユニットのボトムを突き合わせて反作用の打ち消しを行っていましたが、この構造では磁気回路を共有して、サイズのコンパクト化と部品の簡素化を図っています。

写真では、VC径の異なる2つの振動系を使っているように見え、これでは完全な打ち消しは・・・。それに巻線幅が尋常ではなく広いです。ストロークを取りたいのは分かりますが、供給した電流のほとんどが熱として消えていきます。
そこで同じ構造を使って同じ径のVCを実装できるような模式図を作ってみました。

ISO-1

実際に作る場合には磁力線がダブっている部分の厚みを増やしてやらないとダメですが、ネオジウム磁石を使えばスペース的には実現できそうです。
KEFで実現できなかったのは、ストロークが異常に長いので全長が長くなってしまう(メリットが無くなる)のでVCの駆動行程をオーバーラップさせることで防ぐしかないこと(これがパテント対象だと思います)と、コスト要因でフェライト磁石を使わざるを得なかったことが大きいと思います。
せっかく素晴らしい構造を考え付いたのですから、上級機で実現して欲しいものです。
サブウーファと違ってストロークをほどほどで設計できるフルレンジならば実現できるし、反作用を打ち消すことで成り立つAR方式には最適なので、期待してしまいます。

後面開放の可能性について

 2021.4.18
今日はティーブレイクの軽い話題です。
ちょっと思いついて、AR-1.7の後部(背面パネル+ダクト)を外して、『後面開放』のメリットを探ってみました。
AR-1.7はメンテナンスのために着脱出来るようにしてあります。

OM-MF4のようにコンプライアンスの大きいユニット(マークオーディオからは値が非公開ですが、他のTSパラメータから演算して求めると約1.5m/N)の場合、抑え込んでも大丈夫(小さな箱でもOK)ですが、抑え込みすぎると良さが出てきません。
後面開放してキャビネット内部の空気のスチフネスを下げてやると、どの程度、音が変わるのかを実験してみました。
いざ音が出ると、後面からのノイズ(ダダ漏れタイムドメイン歪)が大きいのに辟易します。
ソースを替えながら「良さ」を探ります。もちろん、低域はダラ下がりで締まりがありませんが、音に詰まりが無く、立ち上がりも早く振動板が自由に駆動されているのを感じます。
その代わり、ドラムや梵鐘などのffアタックに未制動感(Qが高くなっているので、本来の音に付帯音が着く)が出てきます。
Q=0.5で臨界制動になりますので、MF4のQts=0.64ではトランジェント的に「揺れ戻し」が多少あるのでしょう。
ここまで開放してしまうとMF4の場合は「やりすぎ感」が先に立ちます。

ダクト径を太めにした上で、回折効果を抑え、且つ流体インピーダンスの急変を抑えた砂時計のオリフィス構造にしたのがちょうど良かったことを再確認しました。
後面開放とバスレフの中間あたりを狙うのが、最近のマークオーディオのユニットには合っているのでしょうね。

デュアル駆動について

 2021.4.12
早速、「デュアル駆動って何よ?」という問い合わせをいただきました。
Linnの『アイソバリク』が有名ですが、これは向かい合わせにウーファを突き合わせて配置して、相互に逆相で駆動(押し引き)することにより理論上f0を1/√2 にできる(実際にはそこまで下がらない)というものです。
有効振動板面積は1つのユニットだけの面積しか有効ではないので、低音増強という効果はありませんが、駆動力(ローレンツ力)が約2倍になる(BLも2倍)というメリットがあります。
どちらも同じユニットを使っていて、片側が逆相で駆動されるので振動板は同じ方向に駆動されることになります。2つの振動板に挟まれた空間の空気も一緒に駆動されます。それぞれのユニット(振動板後方に音響放射する)で空気抵抗(流体である空気の質量を動かす時の抵抗)を受けるのは振動板裏面だけで、正面方向(密閉空間に面した側)は殆ど抵抗を受けることがありません。(ただし、2つ分の振動板質量と密閉空間の空気質量を駆動しなければならない)⇒下図の左側
実際には、ユニットの前後方向(押し引き)のリニアリティが異なるため、完全なユニゾン駆動にはなりませんが低音再生(特にトランジェント特性)には有効な方法になります。

アイソバリクのように正面同士を突き合わせずに、同じ方向に配置して同相駆動してユニット相互に挟まれた空間をある程度有した形で空気連結しているものもあります。⇒下図右側

これらの共通効果としては、振動板の駆動方向が同じになる(同期する)ので駆動力を相互に補うというのが最も大きいと思います。

ISO-1

私が勘違いしたのは、このデュアル駆動ユニットに対してMFBをかけるということでした。

「ツイン駆動とどう違うの?」という質問が来そうですので答えておきますと、AR-1.7(上記ホットニュースのT2)のようなツイン駆動のメリットは有効振動板面積が2倍になることで低域の音響出力を増やせること(理論上+6dB)ですが、2つのユニットが共通のスチフネス負荷(ユニット背後のキャビネット内の空気)を駆動することになり圧力変化も倍になるため、容積を大きくしないとfcが上がります。

ドローンコーンについて [訂正]

 2021.4.12
昨日、ドローンコーンの遅れをMFBで補正と記してしまいましたが、デュアル駆動と頭の中で思い込んでしまっていて、完全な勘違いです。
電気的な駆動系の無いドローンコーンには補正は無理です。
誤情報を流し、申し訳ありませんでした。

ドローンコーンについて

 2021.4.11
音工房Zさんのメルマガが私のところにも配信されていますが、昨日の記事でマークオーディオのOM-MF4を使ってパッシブ・ラジエータ(別名ドローンコーン)を駆動したが音が良くないという内容の記事を読ませていただきました。
残念ながらドローンコーンで良質な音を求めても「無理な検討」だと私は思います。

まず、ドローンコーンの動作ですが、バスレフと対比してみます。
基本的なバスレフの動作原理は、ダクト内部の空気質量(容積)とキャビネット内部の空気質量(容積)との共振(ヘルムホルツ共鳴:位相が180°遅れて同期する=外部に放出される音波は同相になる)を利用しています。
結果的に、このダクト内部の空気質量の代わりにドローンコーン用ユニットの振動系質量を駆動することになります。

空気密度は常温で約1.3kg/m^3(1立法メートルあたり1.3kg)になります。
ダクトを仮に直径5cm、長さ10cmとすると体積は約200cm^3なのでダクト内の空気質量は0.26g でしかありません。
もうお分かりかと思いますが、ドローンコーンの実行振動系質量は少なくとも5g以上(通常は10gくらいか・・)あり、ダクト内の空気の数十倍の質量を駆動することになります。
ドローンコーンは振動板である以上、ストロークを稼がねば音圧が生じないため効率が悪く、かつ大きな『慣性質量』として駆動されるので必然的に遅れが生じます。
ドローンコーンは非力なユニットで駆動しても、文字通り「ドローン」とした低音しか再生しません。
したがって通常はメインスピーカーとは別にパワードスピーカーの形式を採り、サブウーファとして使用される場合が多い(ドローンコーンが機械的LPFとして機能するためメリットがある)ですし、遅れを少しでも是正するためにはMFB(モーショナルフィードバック)などの手法が必要になるなど、大掛かりなシステムにしないとまともに機能しません。

AR-1.7 再考 フット

 2021.4.7
3月20日の記事を読まれた方から、「フットの高さ調整だけで何故そんなに音が変わるのか」という質問をいただきました。
まず、文章では伝えきれない部分があると思いますので、先に図を示します。

bal-1

図の左は選考時の状態で、中央の支持シャフトは床から浮いていて、三脚が床に接しているのでモーター部分からの振動経路は3ヶ所のフットに分散して床に至ります。
それに対して図の右は本来の設計に従った状態で、中央の支持シャフトが床に接してモーター部分のほとんどの質量を支える形になっていて、システムの重心の関係から後方のフットはいくばくかの質量を支えるようになり、前方の2つのフットはバランスを取っているだけです。

図左側の状態では、経路にもれなく三脚のブーム(三脚本体とフットを連結する部分)が入っていて、その材質(MDF)の影響を受けます。おまけに接地的には多点アースになります。
図右側では床とモーター部分を出来る限り直結することと、1点アースに近付けることを第一に考えています。したがって、モーター部分の仮想GNDで稼いだ質量は支持シャフトを介して1点集中で床にかかることになります。
介在物の有無と1点集中か多点分散かの違いになり、電気〜機械のアナロジー解析的に見ても図右側の優位性が明らかです。

拡散ツールを設置してから初めての検証になりますが、数種類のソースを使って比較してみました。
前回の検証では、床を伝わる低音エネルギーの感じが出るか出ないかの差(ピッチが明確になるかも含めて)に聴こえましたが、今回一番大きな差異が出たのは、音響的にエネルギー量の大きいピアノの低音ffや大太鼓、梵鐘などで、音量感(フリケンシードメイン要素)は変わりませんが、アタック感(タイムドメイン要素)が極端に変わりました。
図左側の状態では音像の周りにまとわりついた感じでエネルギーが前に出てきませんが、図右側では粗密波が空気中を伝わってくる感じが分かります。(まだ物足りませんが・・・)
この違いはブーム(木材要素)でエネルギーが吸収されてしまうからなのか、多点アースが要因なのかどうかは特定できませんが、数回繰り返して検証しましたが結果は同じでした。

この結果を含めて質問に回答させていただいたところ、「あんなヤワな床では評価できないでしょ!」と逆にお叱りを受けてしまいました。
床の構造ですが、以前にも記載しましたが畳の上に15mm合板2枚を重ねて敷き込んで左右のスピーカーシステム共通の床にしています。2枚貼り合わせたものも検討しましたが、貼り合わせによる応力歪なのか特定の振動が強調されているのも嫌だったし、「ただ重ねる」ほうがスピーカーシステムの質量で合板同士が相互に倣うためか音の抜けが良かったため採用しました。
確かにコンクリートを打った「完璧な床(十分な剛性と質量を合わせ持つ床)」ではありませんが、少なくともフローリング床より厚く、且つマンションなどでは防音のために6mm前後の厚さの幅の狭いフローリング床材1枚1枚もしくは数枚を合体したパネルもしくはCFシート(商品名:クッションフロアなど)をコンクリートに貼った厚い防振クッションゴムもしくはコンクリ土台+根太板の上に敷き込んでいる構造(一軒家の場合には根太板の上に直貼りが多い)が一般的であることを考えると、どちらに優位性があると考えられるでしょうか?
ただし、左右のスピーカーシステムを畳の上に置いた別々の板に載せてはダメです。基準となるGND( = 床)は1つでなければならないからです。畳を介して別々のGNDとして機能してしまい、試聴してみると音がまとまりません。(一体感が無く焦点がボケた感じになります)

部屋の特性改善ツール試作(その4)

 2021.4.2
実際にどのくらい音波が通り抜けるのか、簡単にシミュレートしてみました。

SWT-4

思ったより反射せずに直進する経路が多くスカスカで、これで効果があるのか?と思ってしまいますが、1次反射、2次反射・・で最終的に透過するものは十分に減衰するし、1次反射であらぬ方向に拡散してしまうものがほとんどなので、シルヴァンやアンクと同等の効果が得られていると考えて良さそうです。
シルヴァンやアンクの構造解析は特許に触れるのでしていませんが(本当はキチンと調べて抵触しないようにしなければいけないのですが・・・)、AGSという名が表わすように森(雑木林)を意識しているのでしょうから、まさにランダムに生えている木々に相当する塩ビ製パイプは効果を発揮してくれているのだと思います。
これ以上密にすると、壁と同じになってしまい効果が減ってしまうのかもしれません。
表と裏(どちらがどちら?)での効果の違いも確認してみましたが、上の写真の上側を背面壁に向けた方が低域の定位が若干良かったと感じました。それも微々たる差ですが・・・。

また、パイプを固定&ダンプしないと共振してしまい、目的の拡散効果だけでなく副次的な歪を発生してしまうことが製作途中の試聴で判明しています。

クライオ処理について

 2021.4.1
CDやLPを液体窒素冷却して音質をアップする技術「クライオ処理」が注目されています。
最近では、電源ケーブルやUSBメモリ、電源タップやプラグ、SPターミナルなども処理されているようです。
方法には2種類あり、直接液体窒素を流し込んで急激に冷やすもの(浸漬)と、設備を使って数時間〜数十時間かけて徐々に冷やし徐々に常温に戻すものです。
その処理の効用として「分子構造のゆがみを低温環境にすることで矯正する」との説明がなされています。
この説明を読んで???
この方法で連想するのが、「焼き入れ」と「焼きなまし」です。温度の変化範囲こそ高温⇔常温であってクライオの低温⇔常温とは違いますが、「直接液体窒素を流し込んで急激に冷やすもの」は「焼き入れ」に相当し、「設備を使って徐々に冷やし徐々に常温に戻すもの」は「焼きなまし」に相当すると容易に想像できます。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、「焼き入れ(テンパリングもしくはハードニング)」と「焼きなまし(アニール、アニーリング)」は『改質』と呼ばれていて、金属などの元の性質(結晶構造)を全くと言ってよいほど変えてしまう処理になります。
それも「焼き入れ」は焼き入れ層部分の分子構造が全く変わる(殆どの場合硬くなる=結合度が一方向に上がるが、応力歪が内在する場合がある)のに対し、「焼きなまし」は言葉通り全体が柔らかくなる=分子構造のゆがみ(本来の分子間距離や結合角度などのバラつき、場合によっては電子欠損など)を減らす=方向性を無くす処理で、それぞれ全く異なる処理になります。

低温環境で何が起こっているかですが、徐々に冷却していくと被冷却体から熱エネルギーが徐々に奪われる(実際にはエントロピー極大の法則に従って自由度が1になり、被冷却体から外部へと熱エネルギーの流れる方向が決まってしまう)ことにより、分子振動や電子の励起は減少していき、教科書で習うような結晶格子に近い構造になるものと思われます。
この状態から徐々に常温にもどすことで、この結晶構造を崩すことなく(実際には励起して動き始めますが・・)常態化することができるのだと思われます。

オーディオ的に考えれば「アニールが好ましく、テンパリングは好ましくない」と説明されるのだろうなぁ、と容易に想像がつきます。
私は全てが良否で言い表せるとは思いませんが・・・。弦楽器の響きが美しく、かつ個体によって音色が異なるのはボディ(響板)を根柱でテンションを持たせている(=内部応力を持たせている)からで、あくまで「好み」の問題で、銅線にしても、施工によっては無酸素銅C1020のアニール撚り線より純度の低いタフピッチC1100銅単線のほうが評価が良かったりするので、何が良くて何が悪いと言うこと自体ナンセンスとも言えるのですから。
ただし、「焼き入れ」と「焼きなまし」を一緒にくくって説明すること自体はおかしいと私は考えます。
刀鍛冶(かたなかじ)が鋼でできた刀を最後に焼き入れるのは硬く(格子組織のマルテンサイト化)するためですが、同時に脆(もろ)くなるのも確かで、刃こぼれや折れてしまうことも起こります。そこで「焼きなまし」ではなく「焼き戻し(変態点に達しない温度に上昇させる)」することで「脱炭(硬く脆くなる要素のカーボンを析出させる)」して硬さをコントロールします。
もし「焼きなまし」をすれば、硬くならず、打ち付けても凹んだり曲がるだけで折れることは無いでしょう。
万能な物性というものは無いのです。

また、作業環境によっても改質の仕方が変わります。
酸化環境なのか?還元環境なのか?処理される材質によって変化の度合いが変わります。これも十羽ひとからげにくくって良いのでしょうか?
何でも処理すれば改善するというのは神話や都市伝説のレベルの話です。
原則は結晶構造を持つ材質が改質すると考えるべきでしょう。
また、応力歪に関しては、常温から極低温へとゆっくり温度変化(焼きなましに相当)させることで歪が取れるのだと思います。

SWT-1

サブゼロ研究所などの行っている処理は上記のようにアニール処理(焼きなまし)であり、銅線や機械加工物の応力歪を結晶レベルで改質(是正)する方法です。

少なくとも直接液体窒素を流し込んで、もしくはただ浸漬しただけではアニールとは違う「焼き入れ」に相当する処理になるということをキチンと説明すべきです。

Alpair-7MSについて

 2021.3.31
コンテストの景品でいただいたAlpair-7MSが先日届きました。
改めて、ユニットの位置付けをしてみます。

SWT-1

このユニットのコンセプトは、言わずと知れた「ダンパーレス」です。
重心を前方に寄せるために振動板は極端に浅く、錦糸線引き出し位置も前方寄りになっていて、アルミ製VCボビンには熱対策が主だと思いますが丸穴を複数個設けることで軽量化も図っています。
また、ダンパーレスによる揺動発生を想定してVCのギャップクリアランスを大きくしつつ駆動力を得るために、マグネットワイヤ径を細くしています。
ストロークを大きくしていることもマークオーディオのセールスポイントでもあるので、巻き数で巻き幅を稼ぐことになり、結果としてインダクタンスが大きくなります。
他のマークオーディオのユニットとの比較表を以下に示します。

SWT-1

緒元はAlpair-6Pに似ていますが、前述のようにロングストローク要因でインダクタンスが高いことと、ダンパーレスのためにエッジ(フロントサスペンション)を若干厚いものにしているようです。(保持部質量が大きい)

新製品として発表された3年前に音を聴いていますが、リニアリティの良さと、小音量時のS/Nの良さが印象的でした。
現在設計中のAR-1.8プロト(ユニットはAlpair-6P再利用)があるし、本番のオンキョーユニットを使ったAR-1.8(コンテスト出品用)もあるので、Alpair-10Pと同様に、しばらくは「お蔵入り」になってしまうと思います。

部屋の特性改善ツール試作(その3)

 2021.3.29
今回の試作で分かったことに、塩ビパイプの長さはバラつくということがあります。
同じ型式でも1mに対して3mm程度、型式が異なると5mm以上違ってきます。現場で、「長さを測って切り取って合わせる」のが原則と考えれば「あたりまえ」なのかもしれません。
このバラツキに気付かず、片側を接着してから気付きました。後悔先に立たず・・・不安定な状況でリューターとサンダーを使うハメになりました。

いつものバタバタはこれだけではありません。

SWT-1

このツールはパイプに川砂を充填するため重力級になるので、接着だけでは強度的に無理と思い、四隅にシャフトを通して上下で挟み込む構造にしましたが、定尺1mのM8スンギリシャフトを使いたいために上記の構造を考えました。
ここで問題になったのは、鬼目ナット。上方から「キャップボルト+平ナット+長ナット」で構成された締め付け長ナットを締めていくと、スンギリシャフトが一緒に回ってしまい、鬼目ナットに締め込まれていって下側の板を貫通してしまいました。
それも気付かずに締め込んだので、板は無理やり持ち上げられてササクレ立ってしまいました。
せっかく表面には出ないような構造にしたのに・・・それならば、図の右下に示した「突き止まりの家具用ナット」で対応すべきでした。

オマケに鬼目ナットをパイプ接着前に実装しなかったので、逆側の板に鬼目ナットを実装することになり、構造的に川砂を入れることが出来なくなりました。
仕方なく、鳴き止め対応とパイプ長さの不揃い対応に厚さ3mmの軟質発泡塩ビシート(図の黄色部分)を板とパイプの間に貼り、挟み込んで締めつけることでダンプしました。

パイプを叩くとコーンコーンがコンコンと響かなくなっていて、試聴してみると確実に音は改善していて、タイトでシャープな音像が得られています。これで川砂を充填したら・・・。
こうなったら、キチンとしたもの(川砂充填)を1台作りたくなりましたが、今月は予算オーバーですし、来月はAR-1.8の部材購入があるので、ゴールデンウィーク明けに再チャレンジすることにしました。

部屋の特性改善ツール試作(その2)

 2021.3.28
ツールの設置場所での効果の違いを探ってみました。
まず、部屋の見取り図を以下に示します。(「その1」の記事に載せた設置写真も参照してください)

set-1

ツールを設置したのは上図のようにSP背面壁とAR-1.7の中間あたり、AR-1.5の間になります。この状態で前回のような効果が出ました。
作業場の左端(試聴位置後方)はカーテンも無いガラスサッシで、これとSP後方壁の間で定在波が立っているので、その間にツールを設置したことで効果が得られたのだと思います。
それならば試聴位置より後ろにツールを設置してみたらどうか?となり、やってみました。

set-1

効果としては、両方ともに奥行方向の定位が改善しますが、S/N感(定在波をノイズとして)という意味からすると後ろに設置した方が効果がありました。
前方設置は音像の輪郭が引き締まり、リアル感が増し、上下方向の見通しも良くなる傾向があります。
ただ、後方設置の場合には吸音効果(ホールなどで満席の時に感じるデッド感に近い)も感じられて、距離をコントロールしないとベストチューニングは難しいなと感じました。
1台しかないので、2台設置したらどうなるかは分かりません。
しばらくは、これで楽しめそうです。

AR-1.8 構想について その2

 2021.3.27
5日に続いて「その2」になります。

その後、組み込み性の検討を行い結合部の見直しとダクト断面積の試算からダクト形状を変更しました。

cab-12

後方ユニットと後方キャビネットとの干渉防止のため、ユニットフレーム外径より結合部の外径を小さくしています。
また、後方にある密閉チャンバーと後方ユニットの結合部分との間に設置したシール構造(ソルボセイン・リング含む)は、2分割できる構造にして装着を安易化します。
今後、出来ることなら同じ結合部を他のユニットにも共通に使っていきたいという目論みもあり、このような変更をしています。結合部の質量は減りますが、質量の大きな仮想GNDよりユニット同士の打ち消し効果を期待したものになります。
少なくともユニット1個分の質量はお互いに相手方の仮想GNDとして働くので質量を増やすことが必要であれば、他の方法で補うことになります。(例えば、前後連結用M8シャフト8本にM8ナットを多数抱かせるなど)

密閉チャンバーの周囲に位置するダクト部分については、キャビネット構想から後面開放に近いダクトを狙います。
ダクト断面積の大きいもの(狭いところで148平方センチメートル:円筒ダクトに換算するとφ69mm相当)とし、且つ、AR-1.7で好結果を出した砂時計のオリフィスに似せた「断面積が徐々に減って、極小点を越えると徐々に増える」形状とします。
こうすることで、5リットルしかないキャビネット容積でも振動板の動きに影響を与える内部空気のスチフネスを上げることなく、ダクト部分では流体としての空気がスムーズに動くようにして、円筒形のダクトにありがちな回折や渦による流速の局所低下(風切り音になる)を防ぎます。

懸念材料としてはダクトからの音漏れが挙げられますが、AR-1.7で大きな悪影響が見られなかったことから完成品で状況判断することにします。

AR-1の場合、サイレンサーから後方に放射される部分の形状(丸穴のみ)が伝次郎先生の「空気砲」のような形状や動作になっていたため背面壁に反射する影響が大きかったと推察されます。

部屋の特性改善ツール試作(その1)

 2021.3.25
3月12日の記事で自作宣言した音響対策ツールを先週から作り始めました。
設計は、ベース材料を決めるところから行いました。
柱にするベース材料はコスト重視で進めるため、水道管に使用する塩ビ管(PVC-U pipe)で、VP-16(外径φ22)、VP-25(同φ32)、VP-30(同φ38)、VU-50(同φ60)の4種類を使います。
実際にはもう1種類VP-40(同φ48)をVU-50の内側に設置して、充填する川砂の量を削減します。(重くなり過ぎるのを防ぐため)
VPとVUは許容水圧の違いで、VUの方が肉厚が薄くなります。(下の写真参照)
長さは全て1m。

RT-1

上下の板材はストックにあった15mmのランバーコア材を使用しました。200x600を4枚切り出します。
塩ビ管のセット間隔は、乱数(ランダム数)発生器で出した値を一部アレンジして当てはめています。

まず、パイプ径に合わせて上記間隔で穴開けしたものを作り、フラットなものと貼り合わせます。

四隅にRを付け、ボウズ面ビットを装着したルーターで周囲を面取りします。

これを2枚作り、VP-40用の受け凸(VP-30用穴を切り抜いた端材)を貼り付け、上下からパイプを挟み込む形で下部のみ接着します。

試作なので、とりあえず中には川砂を詰めませんが、効果があることが確認できたら塗装をして、ジョウゴ(漏斗)で川砂を詰めます。

実際に設置して、音聴きしてみると、なんと!すごい効果。

RT-4

前後の音像の位置関係が明確になるだけでなく、エッジのニジミが払拭されてひと回り締まったようになり、よりリアルな空間が再現されます。
ffでピーキーな歪っぽさが気になっていましたが、定在波だったようです。思わずヴォリュームを上げたくなりますが、環境が環境なので・・・。(古いバラック平屋で防音がNG)
さらに、気になっていた低域のブーミング感(低域だけ強調された感じ)がなくなり、中高域とキチンと融合されるではありませんか。

上の写真のように背面の壁が広く、定在波の影響が大きいのは分かっていましたので、出来る限りシステムを壁から離していましたが、それでも影響があったのがハッキリ分かりました。
ここまでくると、CDレシーバーのアラが分かってしまい、アンプ系をアップグレードしたくなります。

部屋の特性改善(特に背面壁関連)が重要である認識は以前より持っていましたが、これほど劇的に変わるとは・・・。

市販されている川砂は殺菌されてあるものと無いものがあり、いずれも濡れているので、今回は天日に当てて日光消毒をした上でパイプに詰めます。
30kgくらいは入ると思いますので、接着だけでは心もとなく、四隅に貫通シャフト(M8スンギリ)を通してボルト締めすることにします。
せっかくなので、塗装も実施しようと思っています。

ここまで効果が明確になったのは、パイプ径を4種類混在させ、その相互ピッチと配置をランダムにしたのが功を奏したのかもしれません。
オーディオルームに1台数十万円もするシルヴァンやアンクを複数台持ち込んだ調整に何件も立ち会っていますが、もしかすると、それより効果があるかも・・・なんて自画自賛か手前味噌になってしまうほど変わりました。

月刊STEREO 4月号に掲載

 2021.3.20
昨日、本屋に並んでいた4月号を買ってきました。
1位入賞してから1か月近く経ちますが、本当に紙面に掲載されないと実感が湧かないものですね。

内部がガチガチの金属から成る構造からイメージして『T2 ターミネーター2』と名前を付けたのですが、印刷された字ヅラを改めて眺めてみると恥ずかしく思えたり、家族に見せると「へぇ〜、凄いね!」と言われたのが嬉しかったり、やっと実感が湧いてきました。

STEREO4

作品は、今月5日には神楽坂から引き上げてきて、今はエージング中です。奥に見えるのは、昨年出品して二次選考を通過しましたが入選を逃したAR-1.5(出品名:『cyclopes-1.5』)です。
蛍光灯下でスマホ撮影のため色がおかしいですね。
SPケーブルはベルデン9497(通称「ウミヘビ」・・・橙と黒のツートーン)です。いろいろ試しましたが、結局、「巻き」がきつく「シース」の硬いベルデンに戻ってしまいます。
確かに良くできたケーブルは聴いていて気持ち良いのですが、評価するためには「過不足なく」「等身大」となるとこれしかありません。
送り出し機器は、部屋の遮音状況から本格的な機材でなくCDレシーバーで十分という判断です。(あくまで作業場での音確認用なので・・・)

AR-1.7

作業場の隣室にある試聴場所にセッティングする際に気付いたのですが、三脚フット部分(高さ調整可)がかなり引き出された状態で、三脚中央にある支持シャフトが浮いた状態になっていました。
たぶん、神楽坂への搬入の際に、急いでいたので高さ調整を忘れたのだと思います。
設計上は、支持シャフトが確実に床に着く状態になるようにフット高さを調整するように考えていました。支持シャフトが床へのメイン経路で、三脚のフット部分はピラーの上に設置したオーバル形状の木枠に吊るしたキャビネットを支えるだけという筋書きです。
と言うことは、搬入前の音検討の際にも浮いていたことになります・・・。

気になって、支持シャフトが浮いた場合と床(仮の試聴場所なので、畳の上に合板2枚を重ねてあるだけですが・・・これでも十分に音質検討可能です)に接地した場合とで、音比較をしてみました。
浮かした状態では、低音がボケ気味(検討の際に感じたほどブーミーではないけれど・・・接着剤と塗装がキュァしたのか・・・)で定位が甘くなりますが、豊かな感じはします。
一方、支持シャフトを床に着けた場合には、左右はさほど変わりませんが奥行方向の定位がキチンと定まり、楽器の前後位置が明確になります。その代わり、低域の量感(豊かな感じ)は減ってタイトになります。
低音評価用にしているMJオーディオテクニカルディスクNo.8の15曲目:プロコフィエフのロミオとジュリエット組曲より第6曲目「モンタギュー家とキャピュレット家」(ピアノ独奏)を再生してみると、奥行の定位の差に加えて重心の下がり方に差があります。
支持シャフトを床に着けた方が低くなり、低音の鍵盤を叩くとピアノを設置した床に低音が響いていく感じが分かります。

今更ですが、この状態で聴いていただければ・・・。「慌てていたので仕方がない」と自分に言い聞かせるしかありません。

部屋の特性改善について

 2021.3.12
市販のスピーカーを購入している方が大半だと思いますが、せっかく購入してもそのモデルの音を出せていない例を多く見かけます。
「売り場で聴いた時には、気に入ったのに・・・」「アンプやプレーヤが悪いのかな・・・」
こう嘆く方がほとんどですが、アンプやプレーヤに責任があることは非常に少ないです。

ご存じかもしれませんが、結論から申し上げてしまうと「部屋の問題」です。
以前も品質管理で使うパレート図を取り上げたことがあります。要因として上位のものから対策することを示唆した図になりますが、音質改善に関してはスピーカーの配置や定在波などの問題がスピーカーそのものの要因より上位になります。
どんなに高価で優秀なスピーカーシステムを購入しても、部屋の問題が大きければ実力を発揮できずに「宝の持ち腐れ」になるということです。

「部屋の問題と言っても、どうやって手を付ければ良いの?」「いろんなアクセサリーがあるみたいだけど、本当に効果があるの?」「どれが良いか分からない」
相談者が最初に口にされるのが、このような言葉です。

そのような場合には、「まず、部屋の中で1つ柏手(かしわで)を打ってみてください」「耳にビーンビーンと特定の音が強調して聴こえるようなら対策が絶対に必要です」と答えています。
これはフラッターエコー(定在波)の影響を調べる初歩的な方法ですが、非常に有効です。
フラッターエコーは平行に向き合った面同士の間で発生しますので、直方体の部屋(ほとんどがそうだと思いますが・・・)では必ず発生します。
家具を入れることで平行面(同じ距離=同じ波長で共振する条件)が減り、もしくは絨毯などを敷くことで片側の面が吸音するため天井との間の定在波が減ります。
家具も直方体のものであれば新たな平行面になるため、違う波長で定在波が発生しますが、共鳴エネルギーは面積に比例しますので影響は減ります。
整然と片付けられた部屋より、ごちゃごちゃと部屋中に色々なモノが積み重ねられていて乱雑な部屋の方が特性が良く、音質的にも優れていることが往々にしてあります。

拍手は、フラッター対策機材を購入して設置する際にも、測定器無しでできる確認方法になります。
オーディオ雑誌には音楽を聴きながら対策機材を設置する方法が書かれていることがほとんどですが、楽音の場合にはいろいろな周波数成分が含まれているため、どこを聴けばよいのか聴覚が迷います。
本格的な測定ではホワイトノイズやピンクノイズ、インパルスなどを使うのですが、インパルスに近い拍手をする方法がザックリの判断には有効です。
どうやって判断するかというと、基本は「嫌な音がしなくなるように設置する」ことになります。
「嫌な音」というのは、「不自然な音」「耳に付く音」「心地よくない音」「耳に圧力を感じる音」などと言い換えても良いと思います。(これでも十分に曖昧ですが・・・)
部屋の中を歩き回って、いろいろな場所で拍手をしてみてください。問題を持っている場所がおおかた特定できます。

対策機材の設置作業は二人で行うのが効率が良いです。一人がリスニングポイントに座って評価します。もう一人は、スピーカーを設置するであろう位置(それ以外の場所、部屋のコーナー部分なども試す)で柏手を打ちます。
機材を移動して、同様の作業をします。
評価者が、方向や定位が甘くならないことも含めて一番心地よく聴こえる位置が正解です。(フラッターがあると定位が甘くなり、音像がボケる傾向がある)
日光東照宮の「鳴き龍」を経験した方も多いと思いますが、ビーンビーンという共鳴音は拍手をする手とは別のところから聴こえてきます。
対策が出来てくると、拍手の位置を変えても移動に伴う音質の変化が分からなくなってきます。また、音源(拍手)の移動も明確に捉えられます。それが正解です。
拙著PDFにも記していますが、聴覚は非常に優秀な測定器なのです。ただし短時間で作業を行わないと、聴覚が順応して(疲労して)分からなくなります。

LINNのようにスペースオプティマイゼーションという方法をアンプ側(信号処理側)に持たせた製品もありますが、あくまで対処療法になります。(試聴位置を決め打ちしたフィードフォワード制御)
定在波の発生でエネルギー的にダブついた周波数付近のアンプ出力を減衰させて、試聴位置での特性を無理やりフラット(ピークのみ潰してディップはそのまま)にする手法なので、違和感を感じる場合もあります。
当然ながら、効果を発生する聴取エリアは限定されます。

次回は、日本音響エンジニアリングのシルヴァン、アンクといった製品群(乱反射による定在波防止)とカテゴリーを同じくした対策機材(コピーではなくオリジナル)の自作にトライしたいと思います。
Acoustic(音響)Grove(森) Systemとして特許・意匠登録されているとのことですが、特許庁官報や検索ポータルサイトJ-PlatPatで簡単に調べましたが、特開、再表情報には見当たらず、販売製品は木製なのでコストメリットを考えて材質を塩ビ管にしてみます。
内部には乾かした川砂を充填して鳴きを抑え、4種類の径を持つ管それぞれの間隔には独自のランダム性を導入します。

設計・製作はAR-1.8と並行して進めます。

聴覚関係の資料統合

 2021.3.9
「音場再生の限界について」「音質評価について」「音声記憶の脳メカニズム」の3つのファイルを統合しました。

ユニットと同様に、まとめた方が利便性が高いと判断しました。

PDFファイル
 『音場再現と聴覚の限界』統合版

世の中には「音質についてはチョットうるさい」と自称されるオーディオファイルの方々がいらっしゃいます。
私も20歳代の若いころは尖っていて、何の実績もないままに「俺の耳は誰にも負けない」なんて勝手に思い込んでいて、それが言動に現れないはずもなく、周囲のマニアからは鼻持ちならない人間と思われていたのだと思います。
確かに、スポーツ選手と同じように生理学的に優れているかどうかは聴覚の能力にもあって、聴覚の優れた方は音質の見極めに関して「とてつもない分別能力」を有しています。

でも、一般人だからといってスポーツを楽しめない訳ではないように、オーディオだって楽しめれば良いのだということに改めて気付かされたのが40歳になったころでしょうか。

上記した「とんでもない能力」を持った方に出会ったからです。
ブラインドテストでもほぼ100発100中。それも数秒聴いただけで数種類のスピーカーのモデル名を難なく当てられてしまいました。
世の中には、すごい能力を持っている方もいらっしゃるのだという驚きとともに、自信喪失しました。
単純に「上には上が居る」ということなのですが、実は後日談があります。

ある時、その方と一緒にカップリングコンデンサ(電解コンデンサとフィルムコンデンサのパラ)の音質検討をしました。
ああでもないこうでもないと検討して半日(2〜3時間くらい)経った時のことです。
「これで決まりかな」とその方が仰ったので、内容を書き留めようと思い基板上のコンデンサを確認すると作業者のミスで片チャンネルずつ違うコンデンサが実装されていました。
それも片側は明らかにグレードの低い有極性の一般品だけでした。(フィルムコンデンサのパラ無し)
私は途中から参加して記録係に徹していたのですが、「これで決まりかな」と聞いた時に「本当にこれで良いの?」と思ったのを憶えています。
「弘法も筆の誤り」ではありませんが、長時間の試聴で聴覚が疲労して判断が鈍くなっていたのだと思います。(生理学では「順応」と言います)
その方もバツが悪かったのか「次回やり直しましょう」と切り上げてしまいました。

「聴覚」という測定器(器官)の機能に興味を持ったのも、こんな「事件」があったからかもしれません。
今回、まとめるにあたって通しで読んでから修正しましたが、ほんとうに人間の感覚器というのは面白いです。

【追記】
味覚の話になりますが、ワインテイスターの実験も興味深いです。

https://nihonwine.jp/enjoy-wine-life/wine_tasty/

ソムリエの脳の活動を分析しているクダリを読んだ時には、「フムフム、銘柄を当てるという報酬性刺激に対してドーパミン(脳内に分泌される快楽物質)が出るのだろうな〜」と思わず納得してしまいました。自己満足ですかね。

AR-1.8 構想について

 2021.3.5
前回の内容について、昨夜、30年以上前に日本に留学していた友人(今は香港在住)からコメントがきました。
「後方のユニットを完全にダルツール(dull tool「役立たず」のスラングか?)で使うのは、メーカーじゃ絶対に考えないね。投資の無駄だから」「もったいないと思ったら負けだよ」「グッドラック!」(私の訳なので、たぶんですが・・・)

確かに、貧乏性の私はAR-1でも後方ユニットの背面放射音圧が低域増強の役に立つような設計にしていました。
「反作用のキャンセル」だけの目的に集中させて、「中途半端はダメ」という指摘と受け取りました。
どこかに「もったいない」という気持ちが残っていたので、このメールには勇気付けられました。
この基本構想は、そのままでいこうと決め、設計を進めていくことにしました。

今は、モーター周辺部分(タンデム固定方法など)を攻めています。

BAR2

相変わらず、Excelのお絵かきです。Fusion360のほうが時間がかかってしまうので、どうしても最初はExcelに頼ってしまいます。赤点線は5°傾斜時の外形で、実際にここまで傾いたら実装できません。
この際なので、ユニット換装用に共通で使えるような構造にして、予備セットを作ることを前提に材料を多めに手配しようと思っています。質量はそこそこ、剛性重視で考えています。

AR-1.8 設計始動

 2021.3.2
AR-1.7の状況から以下の2点が明確になりました。

1.ツインユニットで前方に放射する新AR方式の場合には、ユニット相互の特性を完全にユニゾンにすることができないので、音が濁ってしまう。
2.仮想GND&バランス構造の効果は十分にあるが、質量を増やした程には効果に反映しない。
どうせユニットを片ch2個使うなら、タンデムでリジッドに固定する方が物量投入より合理的と言えます。
ただ、AR-1のような消音構造では後方放射が減衰していても少なからず音圧が外界放射されるため、完全には干渉歪が払拭できないので、新たな構造を模索することが必要になります。

AR-1での問題点は、消音構造のデメリットとして前後ユニットの前面放射空間スチフネスの差が大きくなってしまうことで結果的にfcの差にもなるため、完全な反作用の相互打ち消しが難しいことでした。

AR1.0

それなら後方のユニットをバッフルで仕切らない(振動板は空振りする)構造にして、且つ音を外部に漏らさなければ良いということに思いつきました。
要は、閉鎖空間に後方ユニットを裸の状態で置くだけ(封じ込める)ということです。

AR1.8

これだと後方ユニットの後方放射をバスレフなどのエネルギー源に利用できません(AR-1では2個分の音圧を低域増強に使えた)が、タンデムでの反作用キャンセル効果を得ながら後方ユニットの存在をゼロに近付けるには最適な方法になります。
後方ユニット前後の空間は、ユニットのフレーム端でシームレスに繋がっていて前面放射と後面放射の波面キャンセルが起きるため、かなり高い周波数(数百Hz)から下の音圧発生が無くなります。ユニット単体で音を聴いているのと同じで、まったく低音が出ません。「暖簾(のれん)に腕押し(スチフネス⇒ 0)」の状況になっているということです。
閉鎖空間には容積の影響を避けるために吸音材を大量に詰め込み、遮壁は漏洩防止のためにデッドニングするのが前提になります。

追記
使用ユニットは、AR-1に搭載したAlpair-6Pを流用します。
十分に性能を知っているユニットで、AR-1のタンデム改良版を製作することで、改善度合いが明確にできることと、何と言っても私がAlpair-6Pの音に惚れ込んでいるからです。購入から8年以上経過して、物性的には劣化してきている部分もあるので、今のうちに性能を発揮させてやりたいという思いもあります。

AR-1ではモーター〜支持シャフト間に簡易ジンバル(重心位置に自由度2のジンバルを設置)の構造でしたが、自立性が無く前後に倒れ止め兼用のインシュレータが必要でした。
AR-1.8ではAR-1.5で採用した「やじろべぇ方式(重心位置より上方に支点を設置:自由度3)」をモーター部分に採用して自立安定性(エントロピー極大の状態)を持たせ、且つ組み上げの安易化を目指します。
具体的には、三脚中央の支持シャフトの先端に突起を設け、モーターブロックの上端に設けた凹受け皿部分と組み合わせることで、簡単に「やじろべぇ構造」が実現できるようにします。
AR-1.5ではモーター部分を支持シャフトにリジッドに固定してキャビネットをやじろべぇ構造でフローティングしましたが、今回はキャビネットを三脚とリジッドに結合してモーター部分にやじろべぇ構造を取り入れています。
モーター部分を固定することで組み上げの作業性を著しくスポイルしている部分が多々見られ、その改善を課題として捉えたことも1つですが、上記の構造とすることでユニットの変更(換装)やキャビネットの変更(換装)が比較的簡単に行えるような構造にできるメリットがでてきたため優先しました。(三脚&支持部は共通で使えると言うことです)
どちらの構造でも、モーター部分とキャビネットとのインシュレーションは同じように行えるし、ジンバルでもやじろべぇでも床に対する関係は同じになります。
その分、三脚とキャビネットの境界部分の構造と固定方法が複雑(一部「入れ子」構造)になるため、製作上の大きな課題になります。また、キャビネットは前後2分割方式になります。

概略構造図が未完成なので、詳細は、追い々々掲載していきます。

2021 OTOTEN中止

 2021.3.1
JAS通信(2/26号)で、今年6月19〜20日に予定されていたOTOTENが中止されたことを知りました。
コロナ禍の影響ですが、3月のMJオーディオフェスティバルも去年に続いて中止のようです。
状況からすれば当然なのですが、イベントもなく自粛自粛で単調に過ぎていく生活のストレスも大きく、ワクチン接種による集団免疫が機能するのが待たれます。早くても今年の秋以降でしょうか・・・。
10月のインターナショナルオーディオショーも中止かもしれませんね。

急に、30年以上前(ビッグサイトができる前)に東京・晴海の見本市会場で開かれていた全日本オーディオフェアを思い出し、懐かしくなって検索してみたら映像が見つかりました。
https://www.youtube.com/watch?v=8PuVANBHdG4
第35回全日本オーディオフェア('1987)の映像ですが、当時はエレクトロニクスショー(電機業界の一大イベント:略称エレショー)と同時開催で、一日の来場者数が数万人で4日トータルで30万人近かったと記憶しています。行列待ちや入場制限があったりで、今では考えられませんよね。
私も毎回、説明員として最低でも1日は出ていたので、翌日は足がむくんで一日中辛い思いをしたけれど、当日はかわいいコンパニオンさんと話をしたり、休憩時間に他社の新技術に触れたりで、忙しい中にも楽しかったという記憶しかありません。

もっと遡ると、私の生まれるずっと前の1952年に第1回全日本オーディオフェアがJAS創立とともにスタートし、途中、一部名称変更(1991年に「全日本」が取れた)しながらオーディオが衰退する1997年の46回まで毎年開催されました。その後、途切れながらオーディオエキスポ、A&Vフェスタに継承され、音展(OTOTEN)に至ります。
https://www.icom.co.jp/personal/beacon/electronics/1594/

私が始めて本格的にオーディオに触れたのは第22回(1973年)の東京・五反田TOCセンターで開催された時だったと記憶しています。高校に入ってできた友人数人と一緒に訪れ、JBLの43xxシリーズの迫力に肝を抜かれたのを今でも憶えています。

「貧乏暇なし」と言うけれど、私のように暇を楽しめない人間(貧しいですね)にはコロナ禍のほうがよほど辛いです。
今は、辛抱ですね。

MOOK付録オンキョー製フルレンジについて

 2021.2.27
昨日の記事にあるオンキョー製ユニットの追加情報です。
振動系を特徴のある形状にしたこともあり、それほど軽量ではなさそうですが、振動系以外にも魅力的なところがあります。
キャップを排してフェイズプラグを採用したことは配信でも説明がありましたが、それに加えてハウジングとダンパー、ボビンで囲まれた空間のエア抜き穴(4ヶ所)をハウジング側面に設けていることから、ノンリニア歪が少なく、抜けの良い音が期待できそうです。
この空間のエア抜きは最近の高級海外製ユニットでは定番構造になっています。
マークオーディオのダンパーレスユニットで得られる「情報量の多さ(S/Nの良さ)」に通ずるところがあるかもしれません。
とにかく、閉空間によるスチフネスの非線形歪は耳に付きます。(特に立ち上がりの激しい音への反応が悪い=頭が潰れる)
小信号パラメータ(スタティックに近い)であるTSパラメータには出てこない項目で、トランジェント特性などと同様、タイムドメインでの性能に含まれます。(そもそも、ノンリニアを数値で表わすのは難しい)
振動系と並列にエアダンパー(エアサスペンション)が入っているのと同じですから、振幅がほとんどない状況ではフリーでも振幅が大きくなるとオーバーダンプになり、細かい情報は振動系が急激に動けば動くほど埋もれてしまいます。理由などの詳細は拙著PDF『ユニットって奥が深い』の第1章2.3.9項をを参照してください。
「廉価版ユニットでは仕方がないのかなぁ」と半ば諦めていたのですが、オンキョーサウンドさんは細かいところまでキチンとやってくれました。

月刊STEREO誌で入賞しました

 2021.2.26
応募していたSTEREO誌主催の「自作スピーカーコンテスト」で、1位入賞させていただきました。

1月末の記事にもあるように、まったく自信の無い状況で神楽坂の音友社に持ち込んでいるので、今年も2次審査通過で止まりだろうと思っていたのですが・・・。

今年は、オンライン・ライブでの発表でした。(2月23日pm1:00〜4:00)
https://www.youtube.com/watch?v=WaumcqUiFf4&feature=emb_logo
↑ リンクを切っているので、URLをコピペして貼り付けてください。

審査委員長の石田さんが体調不良で欠席され、マーク・フェンロン氏も新型コロナ感染されたとのことで、審査委員が少ない状況での発表会は、ちょっと寂しい気もしましたが、生形さんの司会進行で進められた発表会も例年と雰囲気が違って新鮮でした。

141作品の応募があって、1次審査で25作品に絞り、試聴を含めた2次審査で12作品(一般部門9作品、匠部門3作品)に絞ったそうです。
生形さんが2ch収録したソースを再生する形で発表会が進められたのですが、皆さんの作品は個性豊かで、かつ音もしっかりとバランスが取れているように聴こえ、私の作品「T2 ターミネーター2」だけがブーミーで、低音の締まりがなく濁っているように感じられました。
そんな状況でしたので、順番に入賞作品が発表されていくのをドキドキもせずに客観的に楽しんでいたので、1位で自分の作品名が読み上げられたときに、「え・・・」と絶句してしまいました。

評価が良かったのが不思議で、仮想GND(デッドマス)とユニットをリジッドに結合し、保持シャフトに対して「やじろべぇ」のように質量バランスを取ったことと、キャビネットをモーター保持部分からフローティングした構造は功を奏しましたが、低音の濁りはユニットの相互干渉だと思います。(完全にユニゾンにはならない)
やはり、何らかの形で相互にバックキャビティを分離しないとダメなのでしょうね。

今年のMOOKユニットの発表も後半にあり、ONKYOの10cmフルレンジでした。
振動板に72°毎に渦巻き状のリブが入ったもの(五角形の頂点が回転しながらVCに向かう感じ)で、エッジもタンジェンシャル方向に凹凸形状を採用したものになります。
3年間、私がイチオシするマークオーディオ製ユニットが続いたので、そろそろ変わるのだろうなとは思っていましたが、ONKYOはタイムドメイン社を興した由井さんが在籍していた会社で、私も好きなメーカーです。
現在の社名はオンキョーサウンド株式会社となっているようで、お二人の方から技術説明がありました。分割振動開始周波数が高く、エッジの変形歪が少なそうです。
面白そうなユニットで、挑戦する意欲が湧いてきました。

ユニット情報をまとめました

 2021.2.17
ユニットに関連している『理想のユニットとは?』、『TSパラメータ』、『ユニットの構造と組み立て方』、『DFと逆起電力』、『アナロジー手法による電気系への変換とその解析』の5つのファイルを統合しました。
いくつものファイルに情報が分散しているのも扱い辛く、それぞれを独立した「章」の形式でまとめました。

PDFファイル
 『ユニットって奥が深い』

それぞれのファイルで重複していた情報は、詳細に記述すべき章だけにして、その他は最小限の情報に絞り、出来る限り冗長さを払拭してポイントを明確にする方向で編集したつもりですが、150ページもあり、まだまだダルダルです。
折を見て、さらに編集をかける予定です。

AR-1.7進捗状況(その2)

 2021.1.28
またまた1か月以上経ってしまいました、

前回の記事掲載後、年末に一次審査通過の連絡をいただき、試聴を含めた二次審査のために作品完成を目指したのですが、例によってバタバタして宅急便では間に合わず、今週の25日(〆切の前日)に車で持ち込みました。
その間、塗装でトラブル、組み込みでトラブルと切れ目なく続き、散々な状況でした。

昨年9/16の記事にも記したように、前回(AR-1.5)の塗装は時間がひっ迫していて半艶ラッカースプレーで誤魔化してしまったので、今回はしっかり作業するために時間を十分にとったつもりでしたが・・・。
下地塗装作業中にMDFの積層部分に溶剤による収縮でヒビが入って修復したのを皮切りに、ヒビの部分をパテで修復したのにサンディングしても塗膜の凹みがなかなか消えなかったり、乾燥が不十分な塗膜(24時間は経っていますが)に布ヤスリをかけた際に摩擦熱で部分的にボロっと塗膜が取れてしまったり、数え上げるのが嫌になるくらい失敗を繰り返しました。
そのストレスたるや、納品期日が迫る中、数日間は胃がキリキリと痛みました。

実際の塗装内容はというと、バッフルはポアーステインを二色(オリーブとブラックオリーブ)使ってツートーン着色し、それ以外のパーツはオリジナル色(ダークモス)のアクリル塗装にしました。(後日、写真を掲載します)
予定では、この上にクリアウレタン塗装をするはずだったのですが、これも〆切タイムオーバー・・・。

組み込みのトラブルは、三脚の脚が1個モゲたこと、組み立ての積み上げ誤差が大きくなり仮想GNDの軸が左右方向にズレてしまったこと・・・細かいミスはいっぱいあって書ききれません。

そして何より残念なのは、音を追い込む時間が無かったことです。
持ち込み前日の夜に、やっとのことで吸音材無しでの一発目の音出しをすることが出来て、「なに、このブーミーな音は!」と絶句して、試行錯誤しながら検討すること二時間・・・。
作業場の周辺環境からタイムオーバーを余儀なくされました。(築50年以上のバラックなので音が漏れる・・・)

「今年こそ、満足のいく作品を作るぞ!」と毎回息まく割には、中途半端で送り出す状況が続いています。
実力かな・・・。

AR-1.7進捗状況

 2020.12.23
約2か月ぶりの記事になります。

作業場に居ると、「世捨て人」じゃありませんが、作業をして、帰って、寝る・・・みたいな(極端ですが)生活になり、HPのメンテナンスも一切していませんでした。
10月は金属加工をメインに行い、11月に入ってから木工作業を開始した感じです。

構想については、9/27の記事にあるように「2つのユニットの磁気回路に発生する反作用を相互に打ち消して本来のローレンツ力による駆動のみを出力すること」を目指すのはAR(action-reaction)の名を冠したモデルである以上当然ですが、今回は質量比を大きくする(仮想GND質量を大きくする)ことで、支点となる仮想GNDを大地(不動点)に近付けることがポイントになります。
ユニットの有効振動系質量が 1.69g x2 で、サブフレームを加えた質量が 350g x2 
ユニット単体では、ほぼ 1 : 200 の質量比になります。
ここに 2.5kg を超える仮想GNDを追加するので、質量比は 1 : 1000 になります。
「たった5倍かよ〜」と言うことなかれ。
運動方程式 F = ma から得られるのは、慣性質量(磁気回路を含めた仮想GND部分の質量)の移動量が 1/5 になるということです。(より大地に近付く)
振動板がフルストロークで 5mm 動いたら、ユニット単体では約25ミクロン、AR-1.7では約5ミクロンになるということです。
もちろん、タンデムでボトムを突き合わせる方式では理論上完全にキャンセルできるため移動量はほぼ0になり、それと比べれば5ミクロンは大きいと言えます。
ただ、タンデム構造のデメリット(振動板にかかる圧力の対称性を保持しながら、フルレンジの場合に歪の原因となる片方の音響出力を外に出さないようにしなければならない)を考えると完全な実現は限りなく不可能に近く、仮想GNDの 5ミクロン( 1mm の 1 / 20)という値は十分に小さなものと言えます。
実際には、この仮想GNDを金属シャフトを介して三脚で床に立てる構造になりますが、シャフトは重心位置から床に向かうようにします。

もうひとつ。ユニットをキャビネットに固定してしまうと、エネルギー保存則から反作用のエネルギーは全てキャビネットに伝達されます。単純化して考えると、キャビネットの質量が小さければ、移動(振動=励振)してしまうということです。これは歪に他なりません。
同じような考え方をするならば、キャビネットは金属製で、大きな質量を持つものでなければ、反作用の影響が無視できないと言うことです。

発想を転換すれば「ユニットをキャビネットに固定しなければ伝達もしない」ということになり、実践しているシステムとしてはデンソーテンのECLIPSEシリーズが有名です。
構造的には、仮想GNDの上に軽いキャビネットが載っている状態で、いくら軽いキャビネットにしても緩衝材を介して伝播している可能性があります。
そこでAR-1.7では、キャビネットの分離を吊り構造にすることで荷重による応力が仮想GNDにかからないようにしています。

コンテスト前ということもあり、詳細は掲載できませんが、主要内部構造は鉄(SUS)の塊、周りを覆うキャビネットは角の取れた優しい形状となっていて、外から中身の様子は想像できません。
まるでシュワちゃんが主演したターミネーターに出てくるサイバーダイン社製アンドロイドT600やT800(T2のモデル名)のようです。

製作の進捗状況ですが、当然、〆切は今月10日ですので、形状は出来上がっており、音質調整の段階です。

複数ユニットの配置について

 2020.10.26
2週間ぶりの記事になります。

現在製作中のAR-1.7ですが、2つのユニットの配置については、当初より「出来る限り接近させて縦に並べる」と決めていました。
理由は、私の求める点音源に近いものでないと音場再現性が発揮できないからです。
「だったら横並びのほうが指向性で有利では?」という声が聞こえてきそうですが、人間の聴覚性能上、縦並びのほうが音源位置の検出誤差が小さくなるのです。(実際は耳が左右に付いている動物にはすべて同じことが言えるのですが・・・詳細は、拙著「音場再現の限界」を参照ください)
単なる文字表現では難しいので、「測距(距離を測ること)」を例に挙げてみます。
通常、距離を測るには「3点測量」という技術を使います。
三角形の2点から他の1点(測距対象点)がどれだけ離れているかを知るためには、@2点間の距離とA2点を結ぶ辺と他の1点に至る2辺の為す角度が分かれば求められます。
これは二次元(水平面に3点があるという条件)での話なのですが、仮に他の1点の位置が水平面から上下方向にズレて(2つに分離して)いても、測距パラメータ(2点間距離と2つの角度)に対する誤差は微々たるものになります。
それに対し「他の1点が左右2点に分離した場合」には、測距パラメータのうち2つの角度が大きく変化しますので測距値が変化してしまいます。(下図は上から見た図になります)

amp1

2点間の距離を両耳の間隔と考えれば、聴覚で位置を特定するのに「横に2つ並べたユニットが存在する」ことが、上記の「測距誤差」を増やすことと等価になることがお分かりと思います。
横並びの配置では、奥行表現が「へたっぴ」になるということです。(上図のオレンジ色の2つの丸位置の間、前後どこにでもにあるように検知してしまう=曖昧になる)
このことから、縦並びのほうに軍配が上がるということです。

ただし、誤差を最小限にするために、2つのユニット間は出来る限り近くするということが肝要になります。
フルレンジの間にツィーターを挟みたくなる方もいらっしゃると思いますが、キチンとフェイズを合わせないとデメリットにしかなりません。2ウェイの呪縛に苦しむことになります。

ナノバブルについて

 2020.10.10
最近、マイクロバブルやファインバブルという名をテレビCMで耳にすることが多くなりました。
入浴シーンが出てきて、シャワーの水流だけでファンデーションや油性マジックなどの油脂汚れが落ちるのを実験している例のやつです。
「オーディオとは関係ないじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、ちょっとだけお付き合いください。

CMではシャワーの場面が多いのですが、実際の洗浄力は湯船に入っている時のほうが高いとのことです。(シャワーで噴出させるときに泡が減ってしまう)
そもそも、どのような仕組みで毛穴の中に入った油脂汚れが落ちるのか不思議に思い、調べてみました。
マイクロバブルが注目され始めたのは最近ですが、1992年に赤潮による広島牡蠣の壊滅危機を救った徳山高専の大成教授が行った「海水中に微細気泡を送り込む」という対策が事の起こりだそうです。
普通、気泡は放っておくと浮き上がってきて、割れて消えてしまいます。(圧壊と言うそうです)
ところが、気泡が一定のサイズ以下になると水中に留まり、水圧でさらに小さくなって割れにくくなります。
海水中に長時間留まる微細気泡(100ミクロン以下)に酸素が含まれていることは疑う余地もなく、それが牡蠣を救ったのでしょう。

上記の洗浄力も、毛穴より小さな微細気泡が毛穴の中まで入り、スクラブのように汚れをかき出すと言われれば「はぁ、そうですか〜」と納得してしまいます。
洗浄効果だけでなく、保温(熱交換)、植物栽培、海産物(魚介類)の養殖、河川浄化、医療用殺菌水などにも利用されているとのこと。「熱交換」と記したのは、泡の保温効果だけでなく冷却水に含ませることでウォーターカッター切削時の冷却効率が上がり、「水焼け」が減るそうです。

「泡」という同じものでもサイズにより性質が変わってくるのにビックリさせられますが、マイクロオーダーでもこうなのですから、さらに小さいナノサイズの気泡(ナノバブル)には、また違った効果があるのだと思います。

この現象はほかの材料でも見受けられます。
以前、お話しした「ナノセルロース」もそうです。
振動板に使われる紙は、植物繊維を叩解(こうかい:水中で細かく砕く)したドロドロの叩解液を抄くことで得られますが、その叩解液を化学的手法などで更に細かく解くことでセルロース繊維の微細単位であるナノセルロースが得られます。
通常の叩解液は白濁していますが、ナノセルロースになると光の波長より細いため、無色透明になります。
これを色々な材料とコンポジットする(混ぜる→結び付ける)ことで、その性質を強めたり変性させたりすることができます。紙の振動板は手で簡単に破けますが、「紙と同様に軽く、鉄の数倍の剪断強度」を持つ材料などが有機材料等とコンポジットすることで実現できます。
このCNF(セルロースナノファイバー)を利用したものは生産量が少ないために高価なので、まだまだ身近には出てきていませんが、ほかにも色々な例があります。

身の周りの例で言えば、ステンレスのパイプは金属なので手で曲げられないほど剛性が高いのですが、ミクロンオーダーにダイスで引き伸ばしたものを束ねたステンレスケーブル(SUSケーブル)は、DIY店でも最近よく見かけます。
強靭さは材料固有なので変わりませんが、細くして撚り合わせることでしなやかな性質を得て、構造物の吊り下げ部分などにも利用されます。炭素鋼が主のピアノ線は錆びるので、バネ性(復元性)が不要な用途にはSUSケーブル(またはSUSワイヤー)が広く使われます。
ちなみに、先日作ったパネルソーの滑車を利用したバランス構造部分にも1mm径の細いSUSケーブルを使いましたが、ナイロンテグスのようにしなやかでありながら数十kgの耐荷重性能があります。

蛇足ですが、以前にも触れたと思いますが「ワイヤー」と「ケーブル」、それと「コード」を入れた3つの違いについては国内外、業界毎に違うので、一概に分けることは出来ません。それに倣って、私も適当に使い分けています。悪しからず・・・。

塗装あるある

 2020.10.5
AR-1.5の再塗装を実施したことは、既にご報告しましたが、塗料を使い分けていると起こる「あるある」をひとつ。

塗料には色々な種類がありますが、それぞれ溶剤(水や有機溶剤)に顔料などを溶かし込んだものになります。
購入したまま塗るには粘度が高いので、通常は薄め液で希釈します。
DIY店に行くと、塗料と一緒に「〇〇専用」などと名打った薄め液が置いてあるので、同時に購入して使う場合にはあまり気を遣わなくても間違いは生じません。

私の作業場にはラッカー系とニス系の塗料が混在(整理が悪いので、本当に混ぜこぜになっています!)していて、木材や仕上げに応じて使い分けています。
ラッカー系はラッカーシンナーという芳香族炭化水素を主原料とした溶剤で、強い揮発性(引火性)、溶解性と刺激臭があります。
ニス系はペイント薄め液という脂肪族炭化水素を主原料としていて、灯油に近い成分のため揮発性も低く、匂いも穏やかです。
最近は、このような油性塗料に代わって、環境に考慮した水性塗料が主になりつつあります。

今回の塗装では、ニス系(ウレタン系)の塗料にラッカーシンナーで希釈するというミスを犯しました。
一見、きちんと希釈できるので、そのまま塗っていたところ、表面に「縮みシワ」が出来てしまいました。
そこでやっと気づきました。
これは元々の溶剤(脂肪族炭化水素)に芳香族炭化水素を加えたことで部分的な乾燥差異が生じてしまった結果と思われます。

逆にラッカー系の塗料をペイント薄め液で希釈すると溶解性が不十分なので分離したままゲル状になり使えなくなるので、塗装以前に気付きます。

必ず指定の薄め液を使うことが肝要なのですが、私の場合、注意散漫なので数年に一回はやらかします・・・。

追加情報ですが、シンナーは溶解性が高いので、ニス系の塗料を塗った上にラッカー塗装をすると、ニス表面を侵して濁りやシワを作ってしまうことがありますのでご注意を!

タイムドメインについて

 2020.10.3
「タイムドメイン方式」とオーディオファイルの方から言われて、困ったのが今回のお題です。

この方だけではありませんが、「タイムドメイン」という手法(形式?)があると思い込んでいる方が結構いらっしゃいます。もしかしてタイムドメイン社の製品がこの方式を使っているという誤解でしょうか・・・。
この記事を読んでいただいた方々だけでも、この誤解を解いていただければ幸いです。

タイムドメインを訳すと「時間領域」となります。
これと対になるのが「周波数領域」になり、「フリケンシードメイン」という言葉になります。
これは物事を分析する仕方(立ち位置)の違いになります。
時間経過に従って変化する(ダイナミックな=動的な)度合いを調べたい場合にはタイムドメインでの分析を、時間軸を考えず一瞬もしくは総括的な性質(スタティックな=静的な)を調べたい場合にはフリケンシードメインでの分析を行います。
「周波数特性」はフリケンシードメインで調べた性質ですし、「インパルス応答(過渡特性)」はタイムドメインでしか調べられないものになります。
どちらもそれぞれ得意な分野があり、「音響振動」というものの有効な分析には両方とも必要なものになります。
混乱すると困りますが、語弊があっても困るので一言だけ付け加えると、タイムドメインのデータをフーリエ変換するとフリケンシードメインの性質(周波数特性など)が見えますし、その逆にフリケンシードメインのデータを逆フーリエ変換すればタイムドメインの情報が得られます。この2つは相互に補完するものとお考え下さい。
そうは言っても、イメージが湧きにくいと思います。人の顔を考えてください。正面から見た顔がどうであるかを分析するのを「フリケンシードメイン領域での分析」とすると、横顔の分析が「タイムドメインでの分析」に当たります。
立体的な人の顔を正面からだけみても鼻がどれだけ高いかはっきりとは分かりませんし、横顔だけみても鼻がちょっと右側に曲がっているのは分かりません。
それぞれの情報が揃って、初めて立体的な情報が得られるということです。

別の例を挙げると、走ってくる犬の写真を正面から10枚くらい撮ったとします。
それを全部重ねて(コンポジットして)一度に見せたのがフリケンシードメインの考え方で10枚の写真に移っている一挙手一投足が1枚の写真で確認できます。
タイムドメインの考え方は、1枚1枚の写真の間にどんな違いがあるかを並べて見せるのに相当します。

音響情報に立ち返ってみると、時間推移に応じて変化する「波形データ」はタイムドメイン情報になり、周波数特性はフリケンシードメイン情報になります。
波形情報からすべての周波数成分についてそのレベル分布を示したものが周波数特性ですし、すべての周波数に相当するレベルの正弦波波形を重ね合わせたものが、実波形になります。

歴史的な経緯から言えば、周波数領域での静的分析という考え方は70年以上前から存在していて、時間領域の動的分析が後から加わってきたということもあって、「タイムドメイン」という言葉が「新しくてすごいもの」と取られてしまうキライがあるようです。

いずれにしても、タイムドメインは魔法の呪文などではなく、物事の考え方(視点)がフリケンシードメインとは異なるということだけです。
タイムドメイン社の製品では、従来の周波数領域での性能をベースに時間領域のデータ解析を加えることで、よりよい製品の方向性を見出しているということです。(周波数領域での性能は無視してよいと言うことではありません)
特徴は、時間整合を取る改善になるので立体的な空間表現が改善します。また過渡特性にも踏み込んでいますので、波形再現性も改善しています。(回折効果を減らし、点音源に近付けることで実現します。キャビネット共振させないことも点音源化に寄与します)
これらを実現するために、ユニットは小口径で、キャビネットは回折効果の少ない形(例えば流線形やタマゴ型:デンソーテンのTDシリーズなど)になります。

AR-1.7設計開始

 2020.9.27
OM-MF4を片chに2本パラで使い、新AR方式でユニット反作用を打ち消す構造にするのは、既に方針として決まっていたので、概要設計は先週の半ばからスタートしています。

今回のAR機構はユニットが2本とも正面を向くため、ちょっと見ではツイン駆動だけのシステムに見えます。
実際には、以下の模式図のように一方のユニットの反作用が加わった磁気回路と他方の磁気回路(こちらも反作用が加わっている)が連結され、連結棒の中央(支点)を仮想GNDで固定する構造になっています。

amp1

ここで、この連結棒の中点が力学的GND(不動の大地と同様)であると仮定します。
2つは同じユニットなのでF1 = F2(反作用 -F1 = -F2)とすると、上記の仮定により支点が不動であるので、テコは吊り合った状態のままになります。
これは、反作用同士が打ち消されるのと等価になります。
すなわち、2つのユニットは、反作用から解放されて、ローレンツ力のみで駆動(磁気回路位置がFIXされるので、駆動基準が明確になる)されます。
実際には、中点を本来の意味での力学的GND(不動ポイント)にするのは難しいので、質量の十分に大きな「仮想GND」をこの位置に設定することになります。

AR-1.5では1ユニットで仮想GNDを磁気回路後方に位置させましたが、瞬間的な大音量の際に音崩れが少ないのがメリットでした。
基本的な考え方は同じですが、仮想GNDの質量は2倍以上になっています。
懸念材料は、2ユニットになるので、1ユニットのように点音源に近いというわけにはいかなくなりますが、できる限り2つのユニットを近付ける構造を考えたいと思います。
キャビネットはエッジ回折を避ける形状とし、ユニットとキャビネットを分離する(キャビネットを浮かす)構造は、AR-1.5を踏襲しますが「やじろべぇ構造」ではなく、「ストリングリフター方式(多方から糸で吊る)」にします。

AR-1.5組み上げ完了

 2020.9.23
組み上げた状態が以下になります。構造が複雑なのと「やじろべぇ構造」の質量バランスを取るのとで、組み上げには両chで3時間(1台で1時間半!)近くかかりました。今後の改善ポイントですね。

amp1

新しく借りた作業場は試聴環境がまったく整っていないので、作業主体の洋室ではなく、材料などを置いてある和室の畳の上にとりあえず合板2枚を重ねて置いて、それなりに水平を取ってから設置してみました。
ソース側も20年選手のCDレシーバーで送り出しての音出しです。(ディスクは入れっぱなしになっていたTOTOの「ファーレンハイト」)
吸音材も適当に入れただけなので、まともな音は期待していませんでしたが、思いの外、低音が出ています。
帯域バランス、空間再現や音像定位(前後奥行感)など、Alpair-6Pをタンデムに実装したAR-1には到底かないませんが、音出し一発目としては合格にしても良いかなという感じでした。

外観上では、ソルボセインを巻き付けた部分(青色なので目立つ)が雑に見えるのと、チューブ下部の鉛を巻き付けた部分に銅箔テープを巻き付ける予定でしたが未実施なので汚いのと、塗装失敗部分(黒が所々ハゲている)が目立つこと、保護していたはずのユニットのフレーム部分が追加作業で汚くなってしまったことなどがマイナスポイントですが、今回は割り切ります。

年初のお約束である「トランスミッションライン方式での吸音材の入れ方とインピーダンス特性の変化」の検証が出来る状態に、やっとなりましたが、AR-1.7の設計〜製作をスタートしないと、去年と同様にタイムアップになってしまいます・・・。
昔の体力があれば・・・と切実に思うのは、歳を取ったせいでしょうね。

KEF MATについて

 2020.9.23
遅ればせながら、KEFよりMAT(Metamaterial Absorption Technology:メタマテリアル技術を応用した吸収技術)を採用した製品を出すとの発表がありました。
最初「メタマテリアル」という名称を見たので、自然界には無い特殊な物性の材料を使っているのかと思いましたが、そうではないようで、「革新的な(innovative)」という意味で使っているようです。
実際には、ユニットからキャビネット内に放射されたノイズ(たぶん高調波歪成分)をマルチレゾネータで吸収するものになります。(キャビネットの定在波吸収も含むかどうかは不明)
現時点ではイメージ画像が提示されているだけですが、レゾネータに相当する迷路構造が複数存在するものです。(下図はKEF ホームページ提示のものを加工 : 禁転載です)

amp1

中央の黒丸部分がユニットのバックキャビティに相当する?(迷路の入り口)
色分けに意味はなく、独立した迷路を見やすくしただけです。長さの異なる迷路は別々の共振(共鳴)周波数を持つため、その周波数に対して吸収する性質を持ちます。長さの異なるアルペンホルンの音が異なるのと同じです。 → ヘルムホルツ共振器
それほど新しい技術ではなく、数年前にヤマハのNS-5000の「RSバックチャンバー」や「アコースティックアブソーバー」でも見かけました。
たぶん、今回のMATは15種類の迷路を使い、「より細かく不要共振に対応するもの」だと思います。
詳細は、製品の発表を待つのみです。


追記 2020.9.24

どうやら9/22にプレスリリースされたようです。
https://kyodonewsprwire.jp/release/202009214611

「LS50コレクション」という商品名です。
MATは第12世代Uni-Qユニットの後方に組み込まれているようです。分解図にはMATが明記されておらず詳細は不明ですが、磁気回路のヨークにエア抜き穴が開いている部分がMATの入力部分(図の黒丸部分)になっているようです。
同軸ツィーターのバックキャビティ部分に対しての効果ということでしょうか・・・?ヤマハのRSバックチャンバーと同じかな?
確かに、ツィーターのバックチャンバーでの反射による振動板での混変調は音質劣化を招きます。
B&Wのノーチラスに始まるテーパードチューブ構造などは振動板に戻るまでの距離を稼ぐことで高域成分自体を減衰させることで対処していますが、ヤマハのRSや今回のMATでは共鳴による積極的な吸音を目指しています。
既存のLS50との比較試聴で効果を確認したいですね。

鏡面塗装について 訂正

 2020.9.20
前回の記事で、最後に載せた写真が間違っていました。

実は、ピアノ塗装が予想よりきれいに出来たので、欲が出てさらにクリア(透明:実際にはウレタン樹脂の色=ちょっと黄色っぽい)のウレタン塗装を重ねた結果、ボディの上面に曇りが出来てしまいました。
それが前回の写真で、ピアノ塗装(黒)だけの写真は、以下の通りです。

amp1

上手くいっていればクリアを上に塗装した方(前記事の最後の写真)が表面の傷も目立たず、黒の塗面が内側に見えてその上にガラスがある本当の鏡のようでカッコ良いのですが・・・。
失敗の原因は、雨の日に窓を開けて塗装したので湿度が高く、且つ乾燥時間を待たずに重ね塗りをしたことだと想定しています。(クリアはスプレー缶を使用したためハケ塗りより乾燥時間が速いと勝手に思い込んでしまったが、実際にはスプレー塗膜はハケ塗りより厚くなっていてキュアするのに時間がかかる)
湿度が高い環境では雰囲気中に目に見えない細かい水滴がある状態なので、スプレーから噴出された塗料の粒子が電荷を持っていて、この水分を吸着して身にまといながら塗面に到達しているのかもしれません。この水分が蒸発する前に上塗りすれば、当然、中に留まってしまいます。
湿度の高い環境でのスプレー塗装は要注意です。

鈍感なくせに、変なところが「せっかち」な自分を恨むしかありません。
「後悔、先に立たず」を何回繰り返せばすむのでしょうか・・・。

鏡面塗装について

 2020.9.16
昨年末、AR-1.5(出品名:cyclopes)の表面処理として「ピアノ鏡面塗装」にチャレンジするはずでしたが、STEREO誌自作コンテスト発表会出品の輸送〆切の関係から無難な「ラッカーの艶消し黒色」になってしまいました。(左下写真)

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1月18日に音友ホールのステージで説明&音出しを行い、2月初めには返却されましたので、直ぐにでも鏡面塗装に再チャレンジしたかったのですが、新型コロナや諸事情(冬場は乾燥が遅い!、寒くて屋外での作業ができないetc.・・・「やる気の問題だよ!」という声が聞こえてきそうです・・・)で延び延びとなり、8月後半になってやっとリトライするハコビになりました。

清水の舞台から飛び降りるほどではありませんが、一大決心して7月中旬に作業場を自宅から4kmの地点に借りたこともあり、環境の制約はなくなりました。
ただ、製作の必須治具であるパネルソーとサークルカッターの製作を優先したため、ここまで遅れてしまいました。

黒色ラッカーを剥がし、ウレタン黒(油性)を重ね塗り&平坦化を数回繰り返し、3週間かかって(紆余曲折があり・・・内容は後日にします)上右の写真の状態になりました。

自分でも納得できるレベルに仕上がりました。(反射が青っぽく見えるのは青空が映り込んでいるため)
もう一枚、映り込みが確認できる写真を載せておきます。

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通常のピアノ塗装であれば、これで完成ですが、ここで欲を出して塗膜が傷に強くなるように表面にクリア塗装を施したのですが、これがミゴトに失敗!
部分的に曇り(クリア塗装の内側)が出来てしまいました。過ぎたるは及ばざるがごとし・・・でも、良い勉強になりました。

三脚とフローター部分の塗装もリトライしていますが、複雑な形状であったりユニットと一体になっていたりでボディほどきれいにはいかないと思います。水研ぎもできませんし。

リトライであることとハケ塗りの限界でしょうか・・・。
AR-1.7(今回MF4を使って応募するモデル)では、この経験を生かして仕上げをしていきたいと考えています。

今回も写真の貼り付けが上手くいきませんでした。ご容赦ください。m(__)m

→ 修正しました。

MarkAudio OM-MF4

 2020.9.15
今年も音友MOOKが発売になりました。
ユニットは予告通りMarkAudio製で、昨年までのOM-MF5シリーズ(呼び径7cm)より小口径の6cmフルレンジになります。
書店で見かけてはいたのですが、あまりにも小口径なので最初は興味が湧きませんでした。
先日、友人から「ダンパーレスに近い特性みたいだよ」と情報をもらい、俄然興味が湧いてきました。

Alpair 5に始まり、7MS、11MSに展開したダンパーレスは、幾度か音を耳にしましたが、情報量の多さにいつも驚かされます。
私の求める「音場」や「空気間」「臨場感」といったものを再現するには情報欠損が一番の敵です。
早速、1セット購入してみました。

以下に、各部寸法とTSパラメータの比較表を載せます。

amp1 amp1

寸法の赤字は発表値で黒字が実測値です。VC周りは想定になります。たぶん、VC径は15mmか0.6inch(15.24mm)でMF5シリーズと共通と思われます。

フレーム(ハウジング)外形は、丸ではなく良く見かける取り付け穴部分だけを張り出させた形状です。
私としては振動モードが単純になるので丸が好きなのですが、材料取りによる選択(板金からの板取りコストで2割くらい安くなるはず)と思われます。
ただでさえ、小口製造を嫌う中国のことですので、製造単価を吹っ掛けてきたのでしょう。多少でも材料費でコストダウンして利益を確保するしかありません。私も苦労したところです。(最初から生々しい話で申し訳ありません)

MOOKの記事に「磁気回路はMF5と同じ」と記載されていましたので、前述のようにVC径も共通ですが、8Ω仕様に変更しているようです。(VC径が同じなので、キャップも共用できる!)
ストロークを大きくする関係上、VC巻き幅も広くなっていると思われますが、ギャップから食み出す部分が多くなるため、パワーを稼ぐためには線径を若干細くして巻き幅を抑えることが必要になってきます。
(同じ線径のマグネットワイヤを使うと単純に巻き幅が2倍になり、食み出た部分の熱損が大きくなって許容パワーが低くなるので、線径を細くして巻き数も減らし、必要ストロークに合わせた設計とする)
振動系が柔らかくなっている関係から、ギャップとのクリアランスを考えると線径が細くなるのは妥当な方向と思われます。
また、これは能率が落ちる分を「パラ使い」で対応することを想定していると思われ、今回のシステム設計も片chに2本のユニットを前提とします。(新AR構造にすることを想定しています)

ユニットの特徴ですが、浅いコーン(MF5シリーズと同じAl-Mg合金製)が目に付きます。
友人の情報を基に振動系を見てみましたが、エッジ(フロントサスペンション)は凹ロールで共通ですが、幅が広くなっています。(3.8mm→4.0mm)
振動板径が55mmから47mmに小型化していますので、通常のダウンサイジングからするとエッジ幅が狭くなる(Qmsが極端に上がる)のですが、f0を低くすることとストロークを大きく取るという設計目標からエッジの幅を確保したものと思われます。
ダンパー(リアサスペンション)ですが、見た限りでは「透け方」が大きくなっていてデニール(基材の繊維の太さ:単位長さあたりの質量)が若干小さく(細く)なったのかなという感じです。形状は内側(VC側)に行くほど山が低くなるように設計しているようで、「中央部ほど柔らかくなるように制御している」というマーク・フェンロンのインタビューにも合致します。
樹脂含侵濃度を薄くするのは限界にきていると思いますので、MF5シリーズと同じでしょう。
機械系コンプライアンスCms(振動系の柔らかさ)は発表されていませんが、かなり高くなっているものと思われます。
VCのギャップに近い位置でセンタリングするだけの役割と割り切っているようで、エッジレスに近い効果が期待できます。

Qts、Vasなどの数値も妥当な範囲に抑えてきたのは、さすがマーク!という感じですね。
今年もコンテストに応募する意欲が湧いてきました。
前回と同様、奇抜さやアイデアで勝負するのではなく、地味ですが性能(今回は仮想GNDではなく新AR構造にします)と外観仕上げ(前回はタイムアップで散々でしたが)で攻めるつもりです。

電源について 異種金属接合

 2020.9.9
電源と並んで、今、話題になっているものに「仮想アース」があります。
「電源(with平滑コンデンサ)を繋いでインピーダンスを低くしたり、アース線を繋いだりしないのにアースと同じような効果がある」ものが「仮想アース」なのだそうです。
構造は、何種類かの金属板(または箔)を重ねた構造のものが多く、いわゆる異種金属接合の状態にあります。
本来、異種金属の接合は、『ガルバニック電蝕』という現象を起こして腐食につながるため、ガスタンクや原子炉容器や船舶外壁の構造で一番注意しなければならない項目になります。(表面処理:たとえばメッキも含む)
ガルバニック電蝕(電食)については、比較的分かりやすく説明しているHPを見つけましたので、以下に紹介しておきます。

https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/surface_treatment_technology/st01/c1886.html
要は、異種金属を接触させると相対的に電位差が生じ、電位の低くなる金属(卑金属)が電子を外部に放出して一部が陽イオンとなり、外部の陰イオンと結合して腐食や錆を生じる現象です。
電位差を生むということは、外部に電流を流す仕組み(たとえば空気中の水分=湿度が高い環境や電線などの具体的な電流経路)があれば金属間を定常的に電流が流れる(電池もしくはダイオード特性を示す=一方向に電流が流れる)ということになり、電流を吸い込むアースとして機能するのでは???・・・という発想の商品と思われます。
2種類の金属間電位差(貴金属と卑金属の電位差)は、上記HPの表にある通り金属同士でどちらが「貴」でどちらが「卑」であるかということと、環境(海に近い環境を想定するため塩水中で電位差を測定することが多い)によって決まっていますが、接触面積を増やすと電流値が増えるということから、「面積が大きいほうが効果がある」と多くのメーカーカタログに謳われています。

amp1

上図の出典は、軽金属溶接協会の施工法委員会報です。
http://www.jlwa.or.jp/faq/pdf/21.pdf

SCE(飽和カロメル基準電極)を使った数値になります。

実際には、まともに電流が流れてしまうとすぐに腐食や錆ができるので、電流は微々たるものだと思います。対策が必要な大型船舶の数十メートル四方もある側面板などでは、未対策の場合、海水侵入時に数A流れることもあるそうです。

構造としては、数種類の金属を使い順番を入れ替えて重ねたり並列に設置したりすることで、ダイオード特性ではなく双方向に電流が流れる状況を作ろうとしているようです。
ただし、ここで流れる電流は、金属のイオン化傾向の差による定常電流なので、イオンが移動することで生じるため金属中を流れる音声電流のようにダイナミックに変化することはありません。

原理だけを考えると、本当に効果があるの??と思ってしまいますが、確かにスピーカーの端子などに繋いでみると音は変わります。(誤解を避けるため、「良くなる」とは書きません)
S/Nが良くなるようにも感じますが、逆に鈍っている(エッジが取れてしまう。聞こえなくなる成分がある)感じもします。
例えるならば、床に直に座っていたのを座布団を敷いて座るような・・・余計に分かりにくいですね。
理解できる仕組みは上記のようで、音が変わるのが何故なのかは私には分かりません。
これは好みの問題レベルなので、色々変えて楽しむのも良いかと・・・。

因みに、電源ケーブルや電源タップ(機械的構造や材質による違い?)、その他ケーブル用スタンド(床との浮遊容量を減らす?)などでも音は「微妙に変わる(実際には、一つのファクターだけが変わった結果とは限らない)」のは体験できましたが、私の場合、評論家先生が仰るように「接点材料(金属)の傾向、違いが明確に分かる」ような聴覚は残念ながら持ち合わせていません。
意地悪ですが、一度ブラインドテストで分かるのかどうか実験させていただきたいなぁ。
私は、電源タップのコンセント金具の材質のみを変える実験(隣り合う金具材質の異なるコンセントで差し替え:メイクブレイク=切り替え時はパラ)を25年ほど前に自分でやってみて、まったく違いが分かりませんでした。
ワインの銘柄をブラインドで当ててしまう「ワイン・テイスターの味覚」のような聴覚(記憶)を持ち合わせていらっしゃるのであれば尊敬に値しますし、羨ましく思います。

電源について その4(補足)

 2020.9.2
昨日の訂正です。
AVRの「瞬時電流供給能力」ですが、一部のAVRにはバッファ蓄電池を持っているものがあるそうで、その場合には供給電源より大きな能力を有することもできます。

一部のオーディオファイルの方々は、AC電源を使わず、DC電源としてカーバッテリーを使い直接給電するように改造しています。
パワーアンプの場合には出力によっては12Vではまったく足らないので、シリーズに繋いでいるのでしょうか?
鉛蓄電池の場合には、出力インピーダンス(ESR)は低くありませんが、「瞬時電流供給能力」は十分と思われますし、何よりも高品位ローカル電源として機能させられるのでノイズの回り込みを考えなくて良いのがメリットです。
一度オールバッテリー駆動のシステムを試聴させていただいたことがありますが、S/Nが非常に良かったのは当たり前かもしれませんが、定位も良かったのに驚きました。
色々質問させていただきましたが、グランドポテンシャルをキチンと決めているのがキモとのことでした。
平滑コンデンサの中点とバッテリーのマイナスは銅バスバーで繋ぎ、中点から大地GND(接地用の銅棒を床下の地面に深く挿して、システムの直近にAWG4(22sq)ケーブルだったか・・・で引いている)に落としているそうです。
ここまでやると異次元の効果が実感できるということです。頭が下がります。

電源について その3

 2020.9.1
フィルターについてですが、その役目には2つあります。
1.電源側が非常にノイジーな場合には、製品へのノイズ流入を阻止する
2.製品側がノイジーで、その流出を避ける
製品設計に関しては第2項の「外に漏らさないための対策(前回もお話ししましたがEMCまたはEMI対策になります)」が主になります。
2の対策ができていない能動製品(実際にはIECとCISPLという規格があって、これに合格しないと製品として出荷できないはず。自作製品は、ほぼ対策していないので漏れている可能性大)がノイズ源となって電源を汚染している場合には、1の対策が必要になります。
いずれにしろ、汚染された電源が良いことはありません。
屋内に集中分電盤のある場合には、サブ・ブレーカーでエリア毎に給電を分けていることがありますが、よほど広い部屋(リビングなど)か特殊な指定をしない限り1部屋の中で分割されていることはありません。
もし分割されているならば「ノイジーな製品」と「その他」でコンセントを分けるのが有効です。
こうすることで、共通インピーダンスの影響を減らすことが出来ます。(屋内配線と電源ケーブルの長さを合わせるとかなりの長さになり、L成分自体がフィルターになる)

話は変わりますが、商用電源は交番(AC)電源で、波形は正弦波だということは、ご存じと思います。
実際にコンセントに来ている波形をオシロスコープで見てみると、大概の場合、ほぼきれいな正弦波ですが、柱上トランスから家屋が遠い場合には形が歪んだり上下非対称になったりします。
昔、友人の家で電源波形をオシロで観測したことがありまして、波形が時々歪むので原因を探ったところ、近くの柱上トランスの直ぐ近くの自動車修理工場でアーク溶接をしていました。友人の家は、柱上トランスから30m以上離れていました。
家電品の場合ACのままで使うことはほとんど無く、整流&平滑回路でDC化した電圧を使います。
その場合、DC電圧の品位は整流&平滑回路に依存し、平滑時定数(コンデンサ容量やチョークのインダクタンスに依存)がよほど小さくないとAC波形には依存しません。ここで言う品位は「DCにリップル(変動)が出るかどうか」になります。

20年くらい前の中国では需要が供給を上回って都市部でも頻繁に停電がありましたし、柱上トランス(柱上ではなく道路の脇に置いてあったり・・・)もプアで且つ電圧変動も3割くらいあるのが当たり前でしたので、オーディオ製品を設計するにはAVR+CF(AC電圧スタビライザ&周波数コンバータ)が必須でした。
AVR+CFというのは、改めて交番電力を作り出すもので、電圧と周波数を可変できます。(余談ですが、当時の中国では周波数も50Hzではなく1Hz近く違っている地域もありました。発電機の制御が甘かったのでしょう。因みに中国は220V/50Hzです。50Hzなのは、歴史上、アメリカ製でなくドイツ製タービンが先に導入されたからです)
電源事情から、AVRを使用しないと製品での平滑電圧DCの品位が保てなかったのです。

現在の日本では、電源事情の悪い地域は限られていますので、通常の設計をされた製品であればDC品位は保たれていると言ってよいでしょう。
では、最近、各社から安定化電源が製品化されているのは何故でしょうか?
商用電源より「波形がきれい」というだけのことでしょうか・・・?

「瞬時電流供給能力」というものがあります。どれだけの電流を瞬間に流しても電圧が変動しないかの目安になります。
貧弱な電柱からの引き込み線を見るとそんなに大きくないのだろうと思ってしまいますが、電力会社の方にお聞きしたところ以外にも大きいようです。(ただし柱上トランスの近くでは・・・電線の抵抗はバカにならない!)
それに、AVRの能力だって使用している素子を見てもそれほど大きいとは思えませんし、AVRにエネルギーを供給する商用電源に依存するはずで、それ以上にはならないはずです。
そう考えると、「AVRの電源インピーダンスが低いこと=ノイズ吸収能力が高い」あたりが製品価値になってくるのでしょうか。

電源について その2

 2020.8.29
昨日の記事で、何を勘違いされていたかを記するのを忘れました。
まず、CDプレーヤーなどノイズ源となる機器をどのように繋ぐかです。
電力を食うアンプをコンセントから直接取るのは正解ですが、勘違いしていらしたのは、「その他の機器は消費電力が小さいので、テーブルタップで引っ張って、そのタップにすべて繋いでいる」という部分です。
確かにノイズを考慮しなければ正解です。

以前、共通インピーダンスの話をしたら、「屋内配線は『送り配線(ディジーチェーン)』だから、もともと共通インピーダンスだらけだよ」と言われたことがあります。
勿論、理想を言えば柱上トランスから何本もに分けて引き込みたいくらいですが、現実には無理です。
「部屋の中に限定して一番良い配線方法は?」というお話です。
フィルターについては、「入れれば魔法のようにノイズを消してくれる」と考えられているようで、すべての電源ケーブルにフェライトコアを付けられているそうです。
フェライトコア個々の特性によって阻止帯域はまちまちですし、厳密にはLCR共振器なので阻止帯域より上の周波数ではフィルタとして機能しません。
https://www.krfm.co.jp/japanese/pdf/POWERFIL_KHLC.pdf

現実は昨日の記事通りです。

電源について その1

 2020.8.28
先日、オーディオファイルの方とメールでやり取りしていて、電源の話になりました。オーディオ製品についての知識が豊富な方ですが、電源に関しては勘違いされているところがありました。ほかにも電源については都市伝説まがいの話もありますので、記事にさせていただきます。(以前にも、他の方がおなじ勘違いをされていました)

まず、部屋に付いているコンセントですが、極性があります。
商用電源は柱上トランスで中性点が大地アースに落ちていて、この中性点(COLD)と100V(HOTまたはLIVE)の2本の線が家屋に引き込まれています。(200Vを使用している場合には、トランスのもう一方の100Vもいれて3本が引き込まれています:単層三線式)
そして、ブレーカーを介して各コンセントに配線されています。(下図)
基本的に、コンセントの少し長い穴のほうがCOLDになります。

amp1 「そんなの知っているよ」という声が聞こえてきそうですが、この極性が間違っていることがあるのをご存じでしょうか?
通常の機器に接続する際には、HOTとCOLD(基準)のどちら向きに挿入しても正常に働きますので、あまり意識してプラグを挿したことが無いと思います。
それを知っている配線業者は、結構適当に配線しているのが実情です。
したがって、「正しい繋ぎ方」を実践するには「正しい極性を調べること」が必要になります。
検電ドライバー(HOTに挿した時だけドライバーヘッドに指を当てるとランプが点灯:電流が体を流れる)による方法やテスターのACレンジを使用する方法(片方のリード棒をコンセントに挿し、もう一方を壁などに当てる・・・指で持っても良いが、レンジを間違えると危険:AC電圧の高い方がHOT)があります。
いずれも接地側(COLD)では電流が流れないことを利用しているのですが、テスターによる方法では電圧差がほとんど出ない場合もあります。(COLDでも電圧が誘起してしまう)
これは柱上トランスから離れた家屋などで起こりますが、COLD側の配線抵抗が高くインピーダンスが上がっていることに因ります。

本来、オーディオ機器は極性を正しく接続したほうがS/Nや重心感(楽器の低音域の重心が下がる)ようになっているはずで、実際そのように設計しています。
具体的な例としては、トランスの巻線の層も構造上コアから近いほうをシャーシGNDに近くしてストレイキャパシティ(構造上、多かれ少なかれ対地容量を持ってしまう)や結合度を管理しています。(トランスにも極性があるということです)

次に共通インピーダンスについて説明します。

amp1

機器Aと機器Bだけなら、理想的にコンセントに直接プラグを挿すことができますが、機器Cがある場合にはテーブルタップなどが必要になります。
機器Bと機器Cをテーブルタップから給電した場合を考えると、もし機器Cがノイズを多く出す機器(例えばCDプレーヤーやクロックジェネレータなど)だった場合、テーブルタップまで延長した電源線にはこのノイズが流れることになり、当然、機器Bにも流入します。
これは延長したテーブルタップの電源線が『ゼロでないインピーダンス(単純に抵抗値と考えても良い)』を持っているため、このラインにノイズ電圧が顕在化するからです。
ノイズを出す機器は、出来る限りコンセントに直接繋ぐのが原則になります。商用電源の質が良ければ(柱上トランスが近く、対地インピーダンスが低ければ)、ノイズは商用電源のアースに吸収されます。

そもそもノイズとは何でしょう?
オーディオ機器を考えると、「本来、ソースに入っていない音響成分」になります。
これが聴覚で顕在化すると『歪』になります。
したがって無ければベストなのですが、デジタル機器の場合には動作上必要な信号に高周波成分が含まれているため(デジタル信号自体が矩形波なので、アナログ的に見れば高周波ノイズそのもの)、それを封じ込めておくのは至難の業になります。
このノイズを除去(エネルギーとして消費)する方法として、フィルタがあります。
電源ラインを考えた場合、HOTとCOLDに同相成分(同じ形)のノイズが発生する場合をノーマルモードノイズ、それぞれ逆相の成分が発生する場合をコモンモードノイズと呼びます。

それぞれに有効なフィルタの代表例を以下に示します。

amp1

万能なフィルタは存在せず、特定の帯域を狙って設計されます。基本的にはローパスフィルタ(高周波成分をカット)ですが、設計で想定した帯域より上の周波数では高周波的な結合(低周波ではコンデンサはコンデンサとして機能するが高周波ではインダクターや抵抗に化けたりする)が避けられず、1GHzあたりまで帯域を広く見てみると高域ではフィルタとして機能せずノイズが通過してしまいます。
https://www.krfm.co.jp/japanese/pdf/POWERFIL_KHLC.pdf

それを防ぐため、実際の製品では至るところにノイズのバイパスを作ります(EMC対策と言います)が、やればやるほど音は死んでいきます。(対策しているのは本来の音響帯域ではないのですが・・・)
続きは次回に。

丸鋸パネルソー製作 その6

 2020.8.19
イマオのクランプレバー入手しました。
このレバー、ちょっとお高い(MISUMI VONAで1275円)のですが、クランプした状態でレバーの回転位置を変えることが出来ます。
内部に20山のセレーションクラッチが入っていて、18°毎に位置を変えられます。

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固定した後、邪魔にならない位置に変えられるのは、大きなメリットです。
ただし、レバーにしたことで、細い材料を切り出したい場合などには、スライダーベースとレバーが干渉するので、一工夫必要です。(写真左下)

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材料との間に寸法を規定した介在物(例えば150mm幅)を入れることで対応します。(写真右上)
こうすることで積み上げ公差になるので、本当は何とかしたいのですが、暫定版なので宿題にしておきます。

丸鋸パネルソー製作 その5

 2020.8.16
パネルソーの材料位置決め治具は、イマオのクランプハンドルKR8x25が盆休みで発送されていないため遅れていますが、とりあえずM8の六角穴付きボルトで組んでみたので紹介します。

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このようなものを以下のように4040フレームを跨ぐように設置した状態でフレーム上をスライドさせて、スケールステッカーの数値に合わせてボルト(本来はクランプハンドル)で固定すると、カット寸法が決まるという仕組みです。

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暫定のものなので、クランプハンドル以外は手持ちの材料で組んだため、アーム部分が20mm幅しかなくスライド時にちょっと抵抗がありますが、ボルトで固定すればキチンと寸法が規定できます。

クランプハンドルは明日発送と連絡がありましたので、近日中にはちゃんとした形で写真をアップできると思います。

サークルカッター製作 その1

 2020.8.12
パネルソー製作が止まっている間にサークルカッターの製作を進めます。
基本設計は7月時点のものですが、一部変更になっています。
ホルダーベース(ルーターの底部に付く板)をMDFで製作する予定でしたが、MDFの厚さ規格が2.5mm、4.5mm、7mm、9mm(一般に出回っているもの。2.7mm、3mm、4mm、5.5mmも規格上は存在する)という刻みなのを忘れていて、どう組み合わせても設計寸法の6mmにはならず、材料変更することにしました。
元々、MDFの強度には不安を抱えていて、手持ちの3mm厚さのアクリル板を2枚貼り合わせる方法に変更しました。
加工が面倒で工数は二倍以上に跳ね上がりますが、材料強度が上がりますし接着が溶着(溶剤で溶かして一体化する)なので構造強度も上がります。
追々、作業工程を紹介しますが、昨日までの実績は以下の通りです。

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丸鋸パネルソー製作 その4

 2020.8.12
平行度調整の際にブレードが想定より下がらないことが判明し、修正を行いました。
躯体ベースの切り溝が浅いので気になって調べたところ、材料ガイドの位置まで溝が達していないため、完全にカットできないことが分かりました。
構造上、高さ方向の構造変更は難しいので、材料ガイドの位置を15mm移動する方法を選択しました。

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修正前の穴が一部見えますが、ご愛敬です。
□30角パイプ取り付けの際に0.3mmくらいズレたために、切り溝がちょっとズレました。スケールテープも貼り位置を修正しています。
ガイドの部分に材料寸法を決めるための機構を追加すれば、ほぼ完成ですが、クランプレバー未入手のため一時棚上げにします。

丸鋸パネルソー製作 その3

 2020.8.5
ルーターによる溝堀りとフレームの穴加工に手間取りましたが、今日の段階で以下のところまで組み上がりました。パネルソーとして使う場合には、写真手前側が上、奥側が下になります。

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あとは、材料ガイドの一部加工と、リニアシャフトとブレードの平行度調整が残っています。それとパネルソーとして使う場合のスライダーと重量バランスを取る機構(ピアノ線+滑車+ウェイト)の組み込み、材料固定用のパーツ製作など・・・。
予定を1週間くらいオーバーしてしまいましたが、やっとここまできました。
アルミフレームを多用したため、想定していたより重いものになりました。未実測ですが、15kg〜20kgくらいありそうです。
稼働は来週以降になります。

丸鋸パネルソー製作 その2

 2020.8.1
一昨日までにスライダー部分の丸鋸ベース固定がほぼ完了しました。

前方の固定方法は、設計編通りに平行治具を利用したものになります。

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平行定規の2ヶ所に穴を開けただけのものですが、これでスライダーベースと平行治具の位置関係がフィックスし、平行治具を固定する蝶ネジを緩めることで丸鋸ベースの左右位置を変えることが出来ます。
この蝶ネジを使ってブレードの左右位置をスライダーベースに開けた溝(幅7mm、長さ200mm)の中央に合わせることが出来ます。

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後方左側の固定方法ですが、別売オプションの2本ポールの平行定規を取り付けるための穴を利用して固定用プレート治具を固定し、そのプレートをスライダーベースに固定する方法になります。
固定だけならば、用意されている穴を利用して直接固定する方法もありますが、リニアシャフトとブレードとの平行度を微調整する機能を持たせるために、敢えてプレートを追加しています。
プレートには長穴を開けてあり、これで微調整が可能になります。(外して丸鋸単独でも使うため、毎回調整が必要)

後方右側は、オリジナルの固定方法と同じで、テコの支点となる立方体ブロック、およびテコの腕になるt5mmアルミ製プレートと力点になるスクリューを使用した固定方法になります。

以上4点での固定は非常にリジッドで且つ緩みにくいものと自負しています。

昨日と本日は、フレームの追加工を実施していました。明日には終わると思います。
いよいよ、躯体ベースの加工に入り、ルーターの登場になります。

手を抜いて良い部分

 2020.7.31
最近、「歳だなぁ」と感じることが多くなってきています。
以前であれば、朝から晩まで作業をブッ通しで行っても、一晩寝れば何とかなりましたが、今はそうはいきません。無理すれば、翌日に疲れが残り、休んだり効率が下がったります。
そこで良く考えるようになったのは、「どこで手を抜けるか」ということです。
これは、自分で満足できないようなものを作るという悪い意味では無く、目的に応じて、その性能を落とすことなく(外観も性能の一つです)設計変更や作業方法の変更などで簡単な作業にできないかと考えることです。
重要なポイントで手を抜けば、自分にシッペガエシが返ってくるということを身を以て知っているので、それを考えたうえで、そうでない部分はどこか?というように考えます。
作業は基本、一人ですので、身の丈に合わせた作業になるような設計になるし、そのなかで最大効率を狙う(カッコいい言い方をすれば・・・)ということです。

雨の降らないのを祈って、チャリで出動します。

丸鋸パネルソー製作 その1

 2020.7.26
材料が揃い、製作に入りました。
まずは、スライダーベースの加工から。
基本、ドリルでの穴開けとタップ切りになります。
丸鋸ブレードの逃げ穴(7mm幅、長さ200mm)は、中心線に沿って5mmのドリルでそれぞれの穴同士の壁が残るくらいの間隔をあけて連続穴を開けて、それを繋いでヤスリで仕上げるという地道な作業になります。
これだけで半日を要しました。
リニアブッシュの取り付け穴はφ5.5の穴を16ヶ所あけるだけですが、タップ穴と勘違いして16ヶ所すべてにM5のタップを切って、リニアブッシュが取り付くかどうか、いざ確認と言うときに勘違いに気付きました。頭で考えていたことを直ぐに行動に移した結果です。
数年前までは、「まず図面を確認してから作業に取り掛かれ!」「それが効率化の第一歩だ」と口を酸っぱくして注意する側だったのに・・・なってないですね。
気を取り直してφ5.5でタップ穴をさらい、リニアブッシュを仮止めしてみました。

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続いて、アルミフレームと角パイプのカット。
ここでも間違いが発生。4040タイプは2100mmの規定寸法長物を購入し、600mmを2本と残り(900mm弱:材料ガイドに使用)に切り分けなければならなかったのですが、勢い余って600mmを3本カット・・・。気付いた時には端面仕上げも終えた後でした。
材料ガイドは、長物材のカットには支えとして1m程度必要か??という想定で余り900mmを使う考えでしたが、通常のカットであれば600mmでも事足りると思いますので、このまま使うことにします。
注意力が落ちてきているようです。連続してのミスに我ながら、呆れてしまいました。

今日も雨で、これから歩いて作業場に向かいます。(片道45分!チャリなら20分足らず)
「今年の梅雨明けは早い」なんて長期予報出したのは誰だ!・・・スパコンの『京』に当たっても仕方ありませんね。

丸鋸パネルソー案 その5

 2020.7.16
ご質問をいただきました。
「本体が1万円そこそこの丸鋸に、5万円の費用をかけてパネルソーにする意味があるのか?」というものです。
今回の設計では精度と剛性、そして作業性に拘ったため、C/P(コスパ)が悪くなっているのは自覚しています。
仰るように、直線切りだけであれば木製の直角定規とクランパ、または丸鋸に合わせて作った直線切り治具さえあれば手動で実行可能ですし、パネルソーの形態でも要所に金属を使って主要部分を木製に徹すれば1万円〜2万円そこそこで作成可能と思います。
実際、ネットには木製の作例が溢れています。強度的に大丈夫?数回使ったらキックバックでガタがくるのでは?と思ってしまうものも半数ぐらいありますが・・・。

道具に対する考え方かもしれませんが、職人さんはちょっと値が張っても自分のために良い道具を購入します。そのほうがトータルのコスパが高いことをご存じだからです。
私は職人ではありませんが、だからこそ良い道具で安全な作業ときれいな仕上がりを求めるのです。
職人さんは『弘法、筆を択ばず』で現場を乗り切れるかもしれませんが、技量の低い私などは現場での臨機応変(キズの浅いうちに修正)が利かず、材料を無駄にすることを今までに幾度も経験してきました。
材料ロスだけでなく、途中工程での修正に要する時間、そして「仕上がり」を考えると、私には高い投資とは思えないのです。
何を目標にしているかで回答(意味があるかないか)は異なると思います。
私には「アウトプットが自分にとって満足できるものであること(自己満足であっても・・・)」が目標であり、それを安定して生み出せる治具を作っていきたいと考えています。

丸鋸パネルソー案 その4

 2020.7.15
細かい部分を再設計しました。
スライダー部分はリニアブッシュが衝突するのを避けるため、スライドベースの寸法を300mmx310mmに変更し、材料固定用レールは個別送料のかからない材料に変更しました。

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横断面は以下のようになりました。

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高さ調整用に4040フレームと2040フレームの間に□15のフレームを追加しています。これを入れないと、底面板の切込み深さが深くなり過ぎ、強度的な問題が懸念されたためです。
破線円弧がブレードの移動端を示していますが、目標の厚さ30mm、幅600mmカットはクリアできています。幅は狭くなりますが、最大厚さは65mmくらい(丸鋸としては68mm)までいけそうです。
材料固定は、当面はクランプとレール+Tナット併用で、本格稼働までにトグルクランプを採用する予定です。

本日、材料を手配する予定です。同時に、ルーター用サークルカット治具の材料も手配してしまいます。

日産 アクティブトルクロッド開発

 2020.7.15
ちょっとオーディオとは違う業界のニュースを取り上げますが、日産が自動車技術会の第70回技術開発賞を受賞したというものです。

https://response.jp/article/2020/07/13/336526.html?from=tprt

対象は「世界初アクティブトルクロッドの開発」というもので、ブリジストンなどとの共同開発とのことです。
自動車の構造に興味が無い方は「トルクロッドって何?」となると思います。エンジンマウント(エンジンをシャーシから浮かしておく構造)の部品になります。
もしエンジンを直接シャーシに固定したら、エンジンの回転数に伴った振動と騒音がとんでもないことになり快適なドライブなどできません。
そのためにマウント部分にはゴムのように弾性と減衰性を併せ持った防振固定装置が必要で、大昔は車軸のダンパーと同じような板ばねやコイルばねを使い、その後ゴム製になり、数十年前にゴム容器(外装)にオイルを封入した複合型が開発されました。
エンジンルームを開けるとエンジンがブルブル震えているのが観察できると思います。マウントで浮いているのでエンジンだけがブルブル震えていますが、ボディに触ると振動が伝わってきます。

4月に建築業界から発したチューンドマスダンパー(TMD)技術を取り上げた記事「制振について」を掲載しましたが、上記の複合型マウントも含めて、ここまではパッシブ(質量、弾性、減衰)な要素での制振になります。

今回取り上げるアクティブトルクロッドはACM(アクティブコントロールマウント)と呼ばれるものの一種で、パッシブ型ではどうしても残ってしまう振動数に応じた固有共振を「電気的に制御するアクチュエータ」でキャンセルさせるものになります。
アクティブ型は振動センサー(加速度センサーや圧力センサー)入力に対して反応し、あくまでフィードバック制御になりますが、アクティブトルクロッドの場合、プログラム(プリセット)しておくことで初期演算時間が不要になり、応答性を高めることでセンサーからの入力に即対応できることが強みです。
従来は、複数の共振点をキャンセルするためには構造が複雑にならざるを得ず、結果的にサイズも質量も大きいものになっていましたし、演算自体も時間を要するものになっていましたが、今回の技術でダウンサイジングと軽量化、即応性が可能になりました。

例えば、アクセルを踏み込めば回転数が上がるのでセンサーで検知する前に回転数が上がった状況に対応するようにアクチュエータを制御(事前予測制御)することが出来ます。(もちろんセンサー入力に応じた後追い微調整も行う)

これをスピーカーユニット周りに応用すれば、入力に応じてキャビネット(自動車の場合にはドア内装「内張り」やボディ内装)に伝達される振動を予測してアクチュエータでキャンセルすることも近い将来には可能になることでしょう。
そうなると、自動車のEV化、自動運転化と相まって、車内が静粛性の高い理想オーディオルームになる時代も来るのかもしれません。

丸鋸パネルソー案 その3

 2020.7.11
昨夜、丸鋸が届きました。
さっそく、ベースプレートの採寸を実施。(裏面)

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ベースは思ったより小さいですが、思った以上に頑丈です。
アルミ合金なので元々軽いのですが、上手く肉逃げしてあり、昔の鉄板製と強度的に大差ないような気がします。ただ、落としたり衝撃が加わったりした時に、鉄より柔らかいのが難点なのでは・・・。鉄のように塗装が剥がれた時に錆びることはありませんが・・・。

このベースを取り付けるアルミプレートは、下図のように300mmx290mmでいけそうです。
リニアシャフトと干渉する丸鋸モーター部分の逃げを想定していなかったので、シャフト間隔は20mmしか狭くなりませんが、アルミプレートの幅は350mmから300mmに減らすことが出来ました。

具体的な固定方法は、「自作工房」のものとは異なるものになります。
現物を見ていて気付いたのですが、平行定規は本体に対して精度よく固定されることが要求されています。
挿し込んだだけではちょっとガタがありますが、蝶ネジで締め付けるとしっかり固定されます。
それならば、これを利用して固定できないか・・・。
平行定規にバカ孔を予め開けておき、平行定規を通常とは逆さに取り付けて、前側(進行方向側)の左右固定用に使います。
蝶ネジを締め込んだ際、ベースの底面と平行定規との間は、3.6mmの隙間があるので、スペーサーが必要になります。t3のアルミ板+平ワッシャで想定しておきます。
後方は、ベース左後端に付いているφ4の穴を利用してリニアシャフトとの平行度微調整機構兼固定構造(幅10〜15、長さ35〜45)を用意します。
といっても、たいしたものではなく、ベースにリジッドに取り付けるプレートに長孔を開けることで左右に振れるようにしただけのものです。
ベースφ4の穴部分に5mmのカウンターシンクがある(元々、何かの固定用?)ので、t5のアルミ板からこのプレートを切り出せば底面と段差が無くなります。

ブレード(鋸歯)とリニアシャフトとの平行度はパネルソーとしての重要なファクタになります。平行が取れていない状態は、手動の場合に進行方向まっすぐに力を加えていない状態と同じで、ブレードに不要な応力が加わり摩擦熱が発生します。
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パネルソーのメリットは材料の表面をベースが摺動(しょうどう:すって動く)しないので摩擦抵抗が少ないことと、同じカット寸法のものを多数切り出すのに重宝することです。
同じ働きを期待したものとしては、ベース幅に合わせてL字のレール2本を設置しただけのパネルソー(直線切り治具)の作例も多数ありますが、キックバックによる跳ね上がりに対しては通常の手動と同様に防止できないため、跳ね上がり防止がリニアシャフト&リニアブッシュ構造の最大メリットになります。

今日は、不動産屋に出向いて作業場の契約&鍵の引き渡しでしたが、思いのほか時間がかかり、設計が進みませんでした。
前途多難です。

丸鋸パネルソー案 その2

 2020.7.10
丸鋸を注文してしまいました。
パネルソーで使い、ある程度の厚さまで対応となると190mm径のパワーがあるものという条件になり、マキタのAC電源駆動M585を選定しました。
過負荷時の制御は付いていませんし必要最低限の機能になりますが、パネルソーとして主に使うのであれば、これで十分と判断しました。チップソーが標準で付いています。
意外と納期がかかり、本日の納品になります。

先立って、構造設計を進めました。
丸鋸のベースプレート寸法については、Webにある取説に記載がありませんでしたので、その部分はざっくりの数値で入れてあります。

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もう少しリニアシャフト(薄抹茶色)の間隔を狭められるかもしれません。
材料カット可能幅は600mmくらいまでと考えましたので、けっこう大きくなってしまいました。

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ざっくり見積もって4万円強(モノタロウ)の出費となりますが、これから稼働率が高くなること、頑丈に且つ精度よく安全に作業効率を高めるとなると、これくらいは必要経費と考えるべきだと腹をくくりました。
設計が浅く、まだ微調整用の小物部品などが追加されると思うので、丸鋸本体も含めて5.5万円くらいになると思います。

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新型コロナで延び延びになっていましたが、作業場が明日から借りられますので、基材の搬入&環境整備が終わったら、丸鋸パネルソーとサークルカッターの製作が初仕事になりそうです。
近場では、なかなか手ごろな物件が無く、自宅から作業場までは約4kmあります。チャリだと20分、徒歩だと50分くらいかかりますが、やっと環境ができて安心しました。

サークルカット治具改良と丸鋸パネルソー案

 2020.7.2
ルーター用サークルカット治具は、スライダーのベアリング間隔を広くしたほうが安定するため、購入予定のアルミ板を使ってできる最大効率の大きさに変更しました。

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軸間隔は45mmから60mmになり安定度は向上しますが、設定できる最大半径が120mmから105mmへと小さくなるためデメリットとなります。
フレーム長さを160mmより長くしても、どこかで折り合いを付けることになります。
R加工や大きな穴を切り抜かないのであれば、多少の使い回し悪化を割り引いて300mmにすれば延長しないで240mmくらいまで切り抜きが可能になりますが、製作までに色々勘案したいと思いますので、現時点では160mmのままにしておきます。

いままでは直線カットもジグソーを使い回していましたが、加工量が多くなると「丸鋸」が欲しくなります。
私の本音は、どうせ買うならケーブルのない18Vバッテリー駆動のマキタHS631DGXSあたりが欲しいのですが、どうにも懐具合はきびしく、AC電源駆動のM565(165mm径)かM585(190mm径)あたりが候補になります。マキタ以外にもHIKOKIあたりも考えています。
サークルカッターでもお世話になった『自作工房』のパネルソーを参考にアレンジすることにします。

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スライダーはφ12シャフトとSBC製アルミケース入りのスライドユニットSC12UUを4個使います。
自作工房では安定度優先(軽量化もある?)で直径の大きなパイプ(φ25)+大口径スライドユニットを使っていますが、今回はφ12のSUSシャフトとそれに合ったスライドユニットの組み合わせにします。構造強度的には同等と思われます。

追加した構造としては、パネルソーとしての利用をメインと考えると、質量の大きな丸鋸の移動に伴う負荷が気になるのでバランサーを追加するようにしています。
これはプーリーとピアノ線+カウンターウェイト(背面に配置)だけの簡単な構造になります。

丸鋸を選定&購入後に具体的な寸法を設定していきます。


追記
youtubeの最後の部分にバランサーを追加している部分がありました。(↓)
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1593&v=M1xYKw5FP-0&feature=emb_logo

失礼しました。最後まで確認するべきでした。

デンマーク・トイフェル社 ローゼンタールのデザイン

 2020.6.26
デンマーク・トイフェル社のXローゼンタール(磁器メーカーのローゼンタール社とのコラボ:Wifiスピーカー+ストリーミング・ステーション)を見つけたのは、画像エンジンPinterestで何気なく画像をスクロールしていた時でした。

https://www.teufel.de/?ac_type=warenkorb&ac_name=update&rf_set_country=1&vw_type=seite&vw_name=detail&vw_id=1976&delivery_country=48

拙作AR-1.5と同様に球体のボディからテーパーダクトを下方に伸ばしたデザインで、細いパイプ脚に支えられたものでした。(Wifiなのでケーブル無し)

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キャビネットボディは白いローゼンタール社製の磁器を使っていて、型に流し込んだものを焼き上げたようです。(500ペア限定生産:もちろん手作り&ブランドロゴ入り)

形状的には、AR-1.5と同様にユニット周りを流線形にすることでバッフル効果を排除し、且つバスレフダクトからの漏れ歪を低減するためにダクトを下方に向けている点が似ています。
残念ながら、床との間の支持構造(パイプ脚)には思想が感じられず、あくまでデザイン優先になっていますが、何となく親近感が湧いてしまうのは拙作ARシリーズ可愛さゆえかもしれません。
技術的には、特段触れることもありませんが・・・。

因みにローゼンタール社の代表的な磁器には、『スオミ』『魔笛』『TAC』などがあるそうです。確かに美しいです。

サークルカット治具 リニューアル設計 その3

 2020.6.20
構成は半径を決めるためのスライダーと、それを正しい位置に固定するためのホルダーから成ります。
昨日は、スライダーの概略構造を示しましたが、スライダーの上板と下板(各 t5mm)、アルミフレームを本体に固定するためのシャフトジョイントの部品寸法を入れたものが以下になります。(M12のスクリューシャフトは省略してあります)

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以下のホルダー部分はシャフトジョイントを本体に固定する際にガイドとなるほか、スライダーの内側移動リミッターの役目も担います。こちらは厚さ3mmのMDFを2枚貼り合わせたもので作成する予定です。

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amp1 左図のようにM12のスクリューシャフトを本体に固定する構造上の理由(V溝で位置合わせ)から、本体のボトムプレートを外した状態での底面からシャフト中心までの寸法が9.2mmと中途半端になります。
厚さ5mmのアルミ板を使うと0.8mmの段差ができてしまいますので、敢えてMDF3mmx2を使うことで段差0.2mmとしました。
MDFは強度の点でアルミに劣るので、三角補強板の数を増やしていますが、シャフトジョイント部分は直接ホルダーとは接しないため、MDFでも十分と思われます。

ルーター用サークルカット治具 リニューアル設計 その2

 2020.6.19
下面図とスライダー部分の詳細は以下のようになります。

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スライダー機構ですが、外径φ8/内径φ4長さ20の黄銅カラーをベアリングに圧入したものをM4のスクリューで固定しますが、カラーとスクリューのクリアランスがあるため、組み込み時にフレーム側面へベアリングを押し付けるように実装することでガタを減らすことが出来ます。

最小切り抜き径は25mmになりますが、スライダーがストッパーに突き当たることで25mm以下にならないようにしています。フレーム長を160mmにしましたので延長せずに半径120mmくらいまで切り抜き可能になります。
フレームのT字溝に角ナットを入れて、スクリューノブで締め付けることでスライダーの位置決め固定が出来ます。
構造は9割がオリジナルからのコピーなので、ほとんどアレンジレベルでの変更になります。

ルーター用サークルカット治具 リニューアル設計

 2020.6.19
ネットサーフしていたら、「自作工房」のHPでアルミ押し出しフレームを利用したサークルカッター治具を見つけました。

https://www.youtube.com/watch?v=2mEV75w6_cQ
アルミフレームを継ぎ足すことで半径の大きな円にも対応できる点はスグレモノです。
構造的にシンプルで、且つ剛性も取れるため、以前作製したものを作り替えることにしました。
構造は、ほとんどパクリになりますが、手持ちのRP2301FCに合わせて設計しました。概略形状を以下に示します。

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大まかに言うと、スライダーは20x40断面のアルミフレーム(ACE製で治具製作に使用実績のあるもの)をオリジナルと同様にt5のアルミプレートで挟んだ構造になります。オリジナルのスライド機構はフレームの側面に真鍮カラーを押し付ける構造にしていますが、加工精度に自信が無いのでカラー+ベアリングを使った構造に変更しました。こうすることで、クリアランス調整が出来るようになります。
半径を設定するためのスケールをフレーム上面に貼り付けますが、内周切り抜きのスケールと外周切り抜きのスケールを並行して貼り付ける予定です。使用するビットはφ6ストレート固定になります。
貼り付けることによる厚さ分の段差を低い面にテフロンテープを貼り付けることで逃げる構想です。
今月中に設計完了予定です。

新型コロナで動きが取れない状況も少しずつ緩和しつつあるので、自分自身も少しネジを巻かないと約束を守れない童話の「オオカミ少年」になってしまうので・・・(オオカミ老人ですね)。

Panasonic SB-G90の改善策

 2020.6.13
先週の記事でSB-G90のアナロジー解析結果を載せましたが、「改善策は言葉だけで、同じようにloop図を載せないと比較できない」とのお叱りを友人から貰いました。朝から気圧の影響か体調が悪いのに・・・今日は厄日でしょうか・・・。

早速、PDF用に作った改善案のnode図とloop図を掲載します。G90の場合には、キャビネットとサブキャビネットの関係は親亀子亀でしたが、改善案のnode図を見ると、サブキャビネットの要素すべてが独立でGNDにつながっています。

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キャビネット質量がつながる位置が改善前と変わりますが、理想化するために見做しを入れたものは以下のようになります。

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SB-G90を理想化したものとまったく同じじゃないかと仰るかもしれませんが、理想化すれば同じになるということです。現実には弾性要素や減衰要素がゼロということはありません。誤解を招かないように見做しを入れない方が良かったかもしれませんが、理想形を示したかったのです。
前回、「心柱化」と記したのは、サブキャビネットの質量を大幅に大きくして弾性&減衰要素を完全にショートするという意味です。
さらにキャビネットの剛性が高ければ、シリーズに入るのは質量のみになり、反作用電流の変動は質量に吸収される(刻々変化する音響出力による磁気回路の速度変動=加速度が極端に小さくなる)ことになります。

標準を再掲載すると、(上記G90の回路に合わせて違いを分かりやすくしたのでGNDシンボルの位置が違うため前回の等価回路と違うように見えますが、まったく同じです)

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今日は、これくらいにします。

PDF『理想のユニットとは』更新

 2020.6.13
定期更新になります。
アナロジー関連の修正と、産総研と宮城化成(宮城県栗原市)との共同開発で一躍注目されたポリマー・クレイ・コンポジットの項を追加しました。
また、一部表記の訂正も実施しました。

PDFファイル
 『理想のユニットとは』

PDF『アナロジー手法による電気系への変換とその解析』更新

 2020.6.6
前記事でも触れましたが、LOOP図が間違っているものがあり更新しました。
キチンと手順を辿って、紙に描いて接続を確認してから変換すれば間違いは少なくなるのですが、生来の面倒臭がりもあって頭の中で組み立てようとした結果がこのザマです。

テクニクスのSB-G90を展示会などで見かけますが、セッティングに手間取っている姿が目に付きます。
G90はユニットの固定にハウジング外周部を使わず、磁気回路のトッププレートから延ばしたステイ部分をサブバッフル(サブキャビネット)に取り付けたことが特徴になりますが、標準(ブックシェルフ型)との違いをLOOP図を並記して比べてみました。

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黄土色破線内がサブバッフルですが、質量が大きく且つ堅牢で、キャビネットと独立して床に設置されていればベストですが、構造上、反作用の主ループにサブバッフルの弾性&減衰要素が入っていて、且つキャビネットの中にサブバッフルが組み込まれている(回路的にはシリーズになる)ため、構造的に複雑な共振が発生することによりキャビネット内での混変調発生も考えられ、結果的にキャビネットの影響を受けてしまいます。
シリーズ接続ですのでサブバッフルは共通インピーダンスとして振舞うことになります。これは「キャビネットの上にサブバッフルが載っている」イメージを想像していただければよいと思います。
電気回路のGNDパターンもそうですが、「共通インピーダンスを排除すること」が正しい動作の原則になりますが、制約が多い場合には難しい課題になります。
ハウジングとキャビネットの間に入っているシーリングですが、機能している(OPENに近い)とサブバッフルを含むメインの反作用ループ(紫色矢印)で吸収されますが、インシュレートが不完全だと通常のブックシェルフに近付き、キャビネットにも電流が流れ、共通インピーダンスの影響が増大します。
G90デザインそのままで共通インピーダンスを排除する方法を考えてみましたが、@ サブバッフルをキャビネットから独立させる(構造的に難しい!)か、A サブバッフルを制振した金属製にして、キャビネット全体に対する質量比率を高めてしまうこと(仮想GND化=心柱化)が良いはずです。
更にキャビネット底板も金属製にして、サブバッフルと強固に組み合わせて逆T字形にすると改善度が上がるかもしれませんが、コストアップを考えるとかなり難しいと思われます。

前記事の吊下げに関する部分も改訂しました。

PDFファイル
 『アナロジー手法による電気系への変換とその解析』

SPシステム吊り下げ時のアナロジー解析

 2020.6.3
故中島平太郎さんが社長を務めていらしたNHラボの「たまご型スピーカーNH-B1/W1」は革紐でスタンドから吊下げる方法を提唱しています。
以前にも、このような吊下げ構造のアナロジー解析について記事に取り上げさせていただきましたが、勉強不足もあり間違っていたのを発見しました。
度々で心苦しく申し訳ないのですが、アナロジーの説明も再度行いつつ、解説させていただきます。

まず、「アナロジー」の意味ですが、「類似性」になります。
振動工学の基本概念として「すべての構造物は3つの機械要素である @慣性質量、A弾性(バネ性)、B減衰(機械抵抗)で表すことが出来る」ことを理解する必要があります。
それぞれ、運動する(仕事量)、移動する(位置)、消費する(熱)という機能を持っていて、これらの要素を組み合わせることで、構造物を物質量に置き換えて等価的に扱うことが出来ます。

力Fを電流「i」として捉えた場合には、速度vは電圧V、慣性質量mはキャパシタC、バネ係数kはインダクタ1/L、粘性係数μは抵抗1/R、と同様な機能を持つために変換が可能で、力Fを電圧「V」として捉えた場合には、速度vは電流i、慣性質量mはインダクタL、バネ係数kはキャパシタ1/C、粘性係数μは抵抗R、と同様な機能を持つために変換が可能になります。
このような類似性を「双対性:duality」と呼びますが、それぞれ相互変換が可能で非常に便利な機能になります。

機械系から電気系への変換方法(F-iアナロジー、F-Vアナロジー)など詳しくは、拙著PDF『アナロジー手法による電気系への変換とその解析』をご覧いただくとして、一般的なスピーカーシステムの代表であるブックシェルフ型(直方体の箱にユニットがスクリューなどで固定されたもの)を床(GND)に直に置いた場合を想定すると、構成要素図と相互接続図、およびF-i変換、F-V変換したものは以下のようになります。

amp1 amp1 amp1 amp1

かなり複雑に見えますが、F-V変換図の緑色矢印が振動系を流れる電流iで「駆動速度」に相当し、それを生み出しているのが一番左にある電流源(丸の中に矢印)で磁気回路とVC(ボイスコイル)を流れる音声電流との相互作用によりVCに発生した「(駆動)力=ローレンツ力」に相当します。
同様に、右のほうに見えるiRを生み出す電流源は、上記ユニット駆動の反作用で磁気回路に発生した力(反力)になります。
キャビネット関連の要素は、上の方にあるLcab(キャビネット質量)、1/Ccab(キャビネット剛性:弾性)、Rcab(キャビネット損失)になります。それなりに剛性があれば図の赤色破線枠内「〜SHORTA」部分のインピーダンスが低くなり、ショート状態と見做せます。

ユニット単体では、上の要素を含むループ(一巡回路)がありません。
ハウジングが板金打ち抜きで弱い構造の場合には、図の赤色破線枠内「〜SHORT@」部分の1/Ch(ハウジング剛性:弾性)はそれなりのインピーダンスを持つため紫色の電流(iRのほとんど)によりハウジングが励振されます。iRの一部はハウジングを経由して振動系支持部(ダンパー、エッジ)を流れます。(水色破線矢印)

キャビネットに実装すると、Lcabを含むループが形成されます。
交番電流はインピーダンスの低いほう、もしくは電流(=速度)を蓄積する能力の高い(質量の大きい:分圧の大きい)ほうに流れるため、F-V変換図ではLの値が大きいほうに流れます。
したがって、キャビネットに実装することにより、ユニットの支持系に流れ込んでいた電流(水色破線矢印)はほとんど無くなり、Lcabに流れる青色矢印がメインになります。

振動系の駆動電流(緑色矢印)もLcab側に流れ込みますので、混変調が起こる条件が満たされますが、キャビネットの剛性が高ければ電流(=速度)はLcabに吸収されます。
剛性が低ければ、弾性要素1/Ccabによりキャビネット共振が発生して混変調が顕在化します。


次に、NH-B1/W1の専用スタンドに革紐を介してキャビネットを吊るした場合ですが、構成要素図と相互接続図、およびF-i変換、、F-V変換したものを以下に示します。

amp1 amp1 amp1 amp1

当然ながら、SPシステム部分の等価回路は同じようになります。
異なるのは、床に直置きの場合にはキャビネットを含めた質量が床に直結になるため、GND基準(キャビネットの速度=0)で等価回路が描けますが、吊り下げの場合にはキャビネットの速度≠0となり、結合度は吊革の材質やSPシステム全体の質量にも因るとはいえSPシステムは物理的にGND(床)から浮いている状態になります。(スタンドに流れ込む電流値によってキャビネットの基準電位が正負に変動する)
したがって、上下方向の自由度は吊革で規制されるものの前後左右にはフリーの状態になる為、磁気回路とハウジングとバッフルは反作用と同相で駆動されることになり、振動系(特に振動板とVC)とは逆相になります。
対空砲の砲筒や台車が弾を発射する毎に後ろに下がるのをビデオ映像などでご覧になった方がいらっしゃれば、作用反作用のイメージとしては分かりやすいと思います。弾ほど振動板は重くはありませんが、加速度(速度の微分量)は同じか速いくらいになります。
図では緑色矢印と青色矢印が同じ方向を向いているように記述せざるを得ませんが、実際には相互に逆方向で、その差分がキャビネットを揺すると考えるのが妥当と思われます。
キャビネットに伝わる作用と反作用が単純に大きさが同じで向きが逆だけであるならば打ち消して0になるということですが、都合よくそうはならず、実際には経由した状況の違い(後述のテンソル)によりタイムドメインでもフリケンシードメインでも差分が生じます。
キャビネットに伝播した状況でのテンソル(2次元や3次元の場の条件を決定する配列または行列式:係数としては材質差や形状&厚さの変化など)により振動ベクトルとして考えられる力の方向や大きさ、位相、(パワー)スペクトルなどが変化してしまうので、単純な足し算にはならず、ロケーション依存になります。
このあたりは、私も専門外なので深堀りしません。

話を元に戻しますが、吊下げ構造は、デンソーテンのECLIPSEシリーズや拙作ARシリーズが『駆動基準の明確化』を狙っているのとは、まったく逆のアプローチになります。
この方式のメリットは「床の影響を断つことができること」で、床が完全なGNDとは呼べない環境では混変調を削減できる大きなメリットがあります。
しかしながら、実際に試聴してみると、S/N感が向上したようにも聴こえますが、必要以上に音像が奥に引っ込んでしまい物足りなさを感じる方が多いようです。
また、どうしても床からの距離が発生するため、床反射による低域の増強は思いのほか期待できなくなります。
仮想GNDの発想と同じくキャビネットの質量をもっと大きくしてやり、且つ床面との距離を上手く制御できた場合に、吊り下げ構造のメリットが出てくるのかもしれません。

D&D社8c 追記その5

 2020.6.1
前回は、1波だけレベルが変わった場合だったので、減衰振動の場合にはどうなるか、確認しました。
amp1 例によって、一番上の段は原波形で、2段目が反射波相当になります。
3段目では、原波形の一波長後(10ms後)の波形にする「原波形x2+反射波の逆相」 のDSP演算を行い、4段目はDSP演算後の波形、5段目で反射波、6段目で合成(4段目+5段目)した結果が原波形x2になっていることが確認できます。

8cについては、このくらいにしておきます。

D&D社8c 追記その4

 2020.5.31
先日、ご意見をいただき、色々と試行錯誤しました。
結局、もう一度D&D社関連のHPを確認した結果、私の思い込みであることが判明しました。
「反射波のコヒーレントを・・・」ということではなく、「反射波はキャンセルして放射波だけを生かす」という方法のようです。
名古屋にあるサウンドピットさん(D&D社8cを販売)のHPにイメージ図の記載がありました。

https://bokutachi.exblog.jp/28789844/
以下はHPより引用させていただきました。(禁転載)

amp1
DSP処理しない場合の腹線進行波形(合成波)は以下の図の三段目にある若草色の波形になります。

amp1
ご覧のように、反射波はちょうど2π位相が遅れるので、原波形とコヒーレントですが、空間伝播による遅延があるため腹線上の合成波には波形再現性がありません。(これが一般的なスピーカー再生の現実です)

そこでDSP処理の登場ですが、反射波(2π遅延:一周期前の波形)をキャンセルするには、単純に「反射波の逆相」を事前に加算しておけばキャンセルできることになります。
合成波がコヒーレントになることの条件から、原波形の振幅を2倍にしたものをさらに加算すれば、腹線上の観測点で「ある時点でのコヒーレントな合成波」を再現できます。
言葉だけでは分かりにくいので、図(DSP処理済)を参照ください。
原波形が伝播して2π遅延した反射波(DSP処理無しの二段目:赤色実線)の逆相(DSP処理の一段目の赤色点線)と原波形の振幅を2倍にしたもの(DSP処理の一段目の青色実線)をDSP加算して得られた波形(DSP処理の二段目の青色実線)を出力すると、反射波との合成波は反射波をキャンセルすることが出来て、腹線には原波形の2倍振幅の合成波(DSP処理の三段目の若草色実線)が生成されます。

8cの場合には、後方壁面との距離だけでなく側面壁との距離もパラメータとして取り込み、DSP補正をかけるようです。
DSP演算で、遅延量(位相)を2π以外の数値にすることで、腹線の進行波の角度を変えることが出来ると思われます。
参考までに側壁反射の想定図を載せておきます。

amp1
どのようなパラメータ値が正しいのかは不明ですが、試聴環境の壁面が平坦であることは少ないでしょうから、パラメータを入れ替えてトレイアンドエラーで探るしかないでしょう。

今回もまた、私の思い込みで混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

D&D社8c 追記その3

 2020.5.27
amp1 腹線が存在しても、複線の進行方向が視聴側に向く条件が1つありました、
後壁面までの距離Lが波長λの1/4になる時です。
この場合には、システムの正面のみがコヒーレントになり、角度が付いてくると条件が崩れてしまいます。

これらの図は、1つの周波数に限った場合の作図であって、100Hzまでのすべての周波数に対して、この距離と波長の関係を満たす物理的な方法は無く、やはりDSPの力が必要になります。

D&D社8c 追記その2

 2020.5.26
「前回の図では、低音域の波長に対してスーパーウーファの距離が遠すぎないか?」・・・スケール感が気になりだして、壁面との距離をさらに近付けた場合の腹線を以下に示しました。

amp1 8cのスーパーウーファのクロスオーバー周波数が100Hz(波長λ=3.4m)ですから、中央の図の位置関係だと後方壁から1.7m、左図は2m以上、逆に右図は1mくらいになります。
ということは、後方壁から近いと腹線が生じない=何も加工しないとコヒーレントな状況にはならない???ということになります。
干渉しなくなるのであれば、それに越したことはないような気もしますが、どうにも気持ちが悪い・・・。
もし、DSPで音源の鏡像の位置(本来であれば、音源から壁面までの距離の2倍)が自由にコントロールできるのであれば、実距離を入力することで鏡像の位置と音源の位置が重なる(音源と壁の距離がゼロになる)ような状態設定ができて、その時には放射波と反射波がピタリと重なり(コヒーレントな状態!)完全な球面波になります。
たぶん、8cのDSPでは、このようなコントロールが出来ると言う事なのではないでしょうか。

D&D社8c 追記

 2020.5.26
先日の記事で、低域での背面壁からの反射に対してローQキャリブレーション機能を使って波面をコヒーレントにすると記述したら、「コヒーレントを調べたら、『可干渉な』という意味になっていたけど、どういう意味?」と突っ込まれました。
私も勘違いしていた(というよりは、深く調べずに、思い込んでいた)ので、「コヒーレント」の意味を記しておきます。

詳しく記述した資料(出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ))によると
「強度の等しい二つの波が重なって干渉するとき、干渉縞(じま)の強度の極小値がゼロであれば、二つの波はコヒーレント(干渉的、可干渉的)であるという。」
とあります。
また、「一般に、干渉する二つの波の合成波の強度は、個々の波の強度の和に、干渉の影響を表す干渉項を加えたものに等しい。」
とした上で、
「干渉縞の強度の極大値と極小値の差と、それらの和との比を、干渉縞の可視度(見やすさ)とよぶ。」
「可視度の値が1.0の場合に、二つの波はコヒーレントである。」と記してあります。
同じ強度のA波とB波の干渉をCとして式で表すと合成波の強度は、
A+B+C :随意の時間において
可視度をDとすると、
D =(Cmax−Cmin)/(Cmax+Cmin)
D = 1ということは、Cmin=0ということで、「完全に重なる」ということです。光でいえば、干渉像(モアレ)の濃淡がマックスになるということです。
ここで、一番最初の条件「強度の等しい」のほかに、「同じ周波数」という条件が含まれていれば理解しやすいと思います。逆に、「完全に重なる」ということは、強度と周波数が等しくて、且つ位相が揃った場合だけだと思います。

要は、強度、周波数が同じ場合には、位相が揃った状態を「コヒーレントである」といえると私は理解しました。

8cの場合、Aをスーパーウーファの出力音波、Bを後方壁からの反射とし、ある周波数(波長と読み替えても良い)を想定すると、壁面からの距離で腹線(合成波の振幅が一番大きくなる)がどのようになるかを図示してみました。
amp1 amp1 この腹線部分では合成波の強度はA+Bで表される(干渉項がゼロとなる:位相が揃っている)のでコヒーレントであるということです。また、腹線は時間経過とともに矢印の方向に進みます。
実際には、反射波のレベルBは、A>Bと減衰しているはず(だから背面壁との距離を近付ける)で、少なくとも壁面に近い位置で合成波はコヒーレントであることの条件を満たさないといけないということです。
DSPの演算で、この腹線を球面波のようにできる仕組みは、今のところ理解できていません。
私の理解では、放射波面をコントロールしないとできないと考えますが・・・勉強不足ですね。
波面を制御するには、放射角度に応じて位相(時間遅延)を変えないといけないはずですが、DSP演算で指向特性を変える仕組みが理解できないと、この部分は未知のままです。

どなたか、詳しい方がいらっしゃったら、ご教授いただけないでしょうか。

原音再生とは? その2

 2020.5.23
昨日の続きですが、古いソースの修復方法として、デジタルリマスタリングというものが増えてきています。
これは「修正・修復」の範疇に入るものとの認識でしたが、はたしてそうなのでしょうか?
アニメ作品のリマスターの場合を例にとると、『ルパン三世 カリオストロの城』のリマスターには3年を費やしたという話が有名ですが、色の鮮度が上がって「本来、そうであるべき色」に修正されていますし、「となりのトトロ」の例では当時の解像度では再現できなかったものをくっきりと見せることもできています。

http://www.churun.com/contents/theme01/column03.html

ただ、この作業には「作者が意図したもの」と違う修正が行われる危険もはらんでいます。作者が意図してぼかしていた部分をクッキリ見せることはデフォルメではないのか・・・といった疑問も湧いてきます。作者が存命ならば聞いて対応できますが、そうでなければ・・・。
入っている情報以上のものを付加するのは、現時点での「最良の推定」をするにせよ、良い悪いではなく、やはり「創作(オリジナルではないもの)」になってしまうと私は考えます。

音声についても同様で、一時期、モノーラル録音のマスターからステレオリマスターを作るなんていうスゴイことも為されていたようですが、現在の技術ではVRと同様、作業者の感性がおおいに反映されてしまう訳で創作に他ならないと思います。
今は、このあたりの倫理規定が徐々にはっきりしてきていて、当時の設備環境を鑑みてノイズ除去や、再生速度のワウフラ修正などに留めるのが通例になっています。(そのような作業用の専用アプリが販売されている時代ですよね)
ただ、今の技術レベルでは、この作業で失われる情報も皆無ではなく、賛否両論あるのも確かです。
創作は創作で、別の作者が作品に別の意味を持たせるもので、リミックス、Voカバーなどはその分類に入るものだと思いますし、キチンと「リミックス」と謳わなくても聴く側で理解できる場合が多いです。(実際には、知らない人のために「リミックス」と謳っていることが多いですが・・・)
そのようなこともあり、「オリジナルリマスター」などとわざわざ名打ったものまで登場しています。「オリジナル」という言葉も解釈によって変わり、「コピーではない」ということは創作なの???(何も手を加えないものがオリジナルという意味ではリマスターを作成するという行為自体がコピーをベースに加工しているので・・・)という疑問も生じ、極端な話、オリジナルのアナログソースをデジタル化(サンプリング)した時点で「別物」との認識もありますし、「業界として共通用語を定義すべき」などと、複雑な思いに取りつかれます。

以上は、作る側の話ですが、再生側に関してもある程度同じ考え方が適用されると思います。
CDに入っているのは44.1kHzでサンプリングされた情報のみで、シャノン(またはナイキスト)の標本化定理によれば22kHzまでの音楽情報しか再現できないことになります。(実際にはエイリアシングが生じるので櫛型フィルタを使っても正確な再生は20kHzくらいが限界)
その対策として、CDソース情報を再生機器側でデジタル補間技術を使ってリサンプリングすることで、88.2kHz(2fs:単純に情報量は2倍)にしたり、176.4kHz(4fs:情報量は4倍)にしたりしますが、補間は近似値であり正しい値(原音の実サンプリング値)でないことは事実です。
これを「創作」と見做すか「修復」と見做すかも意見の分かれるところだと思います。
それでもユーザーが求める理由は、「そのほうが(生理的に)心地よい」もしくは「心理的に優位感がある(実際に情報量は増えているので・・・)」という答えが大半と思います。
補間技術自体がそれを狙ったものである以上、そういった答えが得られるのは当然だし、聴感上で大事なのは「その帯域の情報が存在するかどうか」で、その正確さはあまり必要ない(聴覚?皮膚感覚?のレベル検知能力が低い)という現実があるからだと思います。この帯域の情報の有無は、内耳のコルチ器にある外有毛細胞や皮膚の外皮細胞にあるセンサーが検知すると考えられています。(歳を取ると内耳の基底膜が硬くなり高域が聴きとりにくくなるが、それでもハイレゾの違いが分かるのはそのため)
ソースに10kHz以上の情報が入っている箇所に、同じタイミングで楽音と無相関の倍音パルス(可聴帯域外)を発生するようにしたら、発生の有無で快感率に差が出たという大学での試験報告もありました。(内容をよく憶えていませんが、モスキート音を考えると無相関音を加えた方が悪い結果が出たのかもしれません・・・)

「擬音」は、例えばドラマや物語の進行に情景を加えるために「波が打ち寄せる音」を使いたい場合にはザルに入れた大豆を手で傾けて出てきた音を「効果音」として使用したりするするものです。NHK放送センターにレプリカがあって何種類か体験できますが、戦前、戦後のラジオドラマでは馬の走る足音や襖の開け閉めの音など、このような擬音で処理されていました。
当時の帯域の狭いラジオなどでは、ちょっと聴いただけでは、本物と騙されるくらい似ていたそうです。
例が悪いかもしれませんが、この擬音が「あるかないか」で、そのドラマの情感が変わってきます。あれば、より、リアル?に(情感豊かに)感じる訳です。
杓子定規にとらえれば、これは元のソースには無い「にせものを加える」ことに他ならず、アップサンプリングも同様の扱いになる訳です。

日常的にも、市販のUSB-DACなどではアップサンプリングやダウンサンプリングが簡単に行えます。アップサンプリングやダウンサンプリングはDSP処理で、アップサンプリングの場合にはアルゴリズムは平均値補間が多いですが、細かく見てみると若干のスムージングをかけたり各社まちまちです。

こう考えてくると、アナログソースの復刻版などはデジタルメディアで販売しないと「一般にはLPを再生できる環境が少ない」こともあり、サンプリング自体はCDやSACDを受け入れた時点で許容されているという状況からすると、創作ではなく必要悪だというところに落ち着くのでしょうか。

ただ、60年以上前の録音設備の状況を考えると、当然、帯域の狭いアナログ録音なので40kHz以上の情報がキチンと入っているとは思えず(ただし、デジタルと異なり0ではない)、「素」で勝負できるレベルにあるソースは少ないと思われます。ただし、1970年代に入ればアナログ録音技術は格段に進歩していて、プロ用レコーダー(76cm/secのテープ速度)で60kHzくらいまでの情報は記録できたのだろうと思います。もちろんダラ下がりでしょうし、LPフィルタのON/OFFが入っていたとは思いますが・・・。

原音再生とは?

 2020.5.22
昨日の記事で調子に乗って8cを絶賛してしまいましたが、DSPでできることは、あくまで修正です。
特性が良いもの(整えたもの)が的確な再生ができることとイコールではないことは、今までの経験で良く分かっているはずなのに、どうしても期待してしまいます。
「化粧」をする前に「素」でやるべきことを追及するのが私のポリシーだったはずなのに・・・ブレていますね。
ソースに入っている情報を足しも引きもせず、ありのままを再生できることが原音再生であると、「原音探求」の理念をあれだけ叩き込まれたのに、基本を忘れていました。
もちろん化粧(補正)は悪ではなく、薄化粧が素材を生かすことはフィードバックの利点を挙げるまでもなく理解しています。

ただ、時々、どれが素でどれが化粧なのか分からなくなることがあります。
回路構成を理に適った方向にブラッシュアップするのと、その回路に使う部品クォリティを音質検討と称してセレクトするのとでは、前者が素で後者が化粧と言い切って良いのか・・・。
どちらか選べず、それぞれが補う=相補関係にあるものもあると思います。
設計のステージというか検討シチュエーションで逆転することもありました。
そもそも、「素」には限界があって、それを超えるには「化粧」が必要なのかもしれません。
スピーカーユニットとディフューザーの関係もそうですし、結果的に素をスポイルしなければ「化粧」は善と言えるのかもしれません。
DSPによるデジタル処理を「化粧」と見るか、VRのように「作りもの」と見るか・・・結果的に正しい形(原音)を再現できる方向ならば、それは「化粧」の範疇に入るのだと理解しています。
では、「個人の好みに合わせる」ということはどちらになるのだろう・・・悩みは尽きません。

  

お詫び FOCAL TMDエッジ

 2020.5.22
4/13に掲載したFOCALのTMDエッジの図が間違っていました。関係各位に対し、お詫びいたします。

FOCALユニットの場合、凸ロールであるのに対し、凹ロールエッジでの図が掲載されていました。
4/13の記事も凸ロールの図に差し替えましたので、ご報告します。

amp1

D&D社8cについて

 2020.5.21
(一部、追記しました)
AA誌の昨年春号に載っていたアンフィオンのクリプトン3に興味があってネットサーチしていたら、オランダ・ロッテルダムに本拠を持つダッチ&ダッチ社(D&D社:通称ダブルダッチ)の8cというシステムに辿り着きました。
元々は、上記クリプトン3の側面にある多数の穴(UDD:Uniformly Directive Diffusion 単一指向性拡散)の働きが気になって調べだしたのが始まりです。(アンフィオン関係のサイトでは、詳細情報は見つかりませんでした)
UDDで辿っていくうちにカーディオイドという名称が出てきたので、マイクの指向性コントロールと同様に、背圧を制御して指向性パターンを変えるものと予想しました。
プロ用マイクの場合には、フロントアダプターとバックチャンバーの開放の仕方によって、オムニ(無指向性)、カーディオイド(単一指向性:ハート型パターン)、オープンエア(双指向性:前後8の字パターン)の切り替えができるものが多いので、クリプトン3の側面にある多数の穴も単一指向性を実現するためのものなのだろうと考えました。

D&D社ですが、アンフィオンと同様にPA業界では有名な企業で、DSPを駆使した製品には定評があります。
8cは初めての民生向け製品になり、昨年5月に発売されました。

amp1 8cについては、UDDに相当するものとして、ミッドウーファに採用されている「パッシブカーディオイド」があり、側面に設けられた幅広スリット状の開口部から背圧(逆位相音圧)を開放することで、敢えて正面音圧の回り込みと干渉させることでキャンセルしてカーディオイドパターンの指向性を実現するとのことです。平面バッフルサイズ(横幅)で決まる波長で、背面波とのキャンセルによるハイパスカットオフフィルターが形成されるのと似た働きです。
PAでは常套手段のようです。(下図転載禁止)

amp1

カーディオイド前方放射パターンだけを生かすこの機能のメリットは、側面及び背面への音圧を低減することで、背面壁および側面壁からの反射波の影響を低減できることです。PAの場合には複数のSPシステムを配置するため、相互干渉による音圧の落ち込みは会場の音響設定にとって致命的になります。

8cの場合には追加機能として後方にマウントしたサブウーファの放射波と背面壁の反射波との干渉を防げます。
サブウーファ(〜100Hz)は、背面壁の反射波との干渉を防ぐローQキャリブレーションという別のDSP機能を使います。これは、壁との距離をDSPに入力することで直接波と反射波を整合させてコヒーレントな波として6dB近く音圧を上げた球面波を形成できる(アリソン・アプローチによる)というものです。
通常は干渉によりキャンセルしたり定在波となったりする背面壁の反射波を有効に使えれば、単純計算で2倍(6dB)の音圧が得られるということですが、この制御がアナログでは非常に難しい課題でした。(スピーカー位置を固定して、背面壁を曲面にして出来る限りコヒーレントにした例を実験室で見たことがあります)
この波面を入力情報を基にしてDSPで制御してコヒーレント(位相がきれいに揃った状態)にするということです。
実際には、壁面までの距離を明確にできるような家具配置にはないと思いますが、波長の長い帯域なので距離がアバウトでも効果があると思われます。

8kHz以上の帯域では1インチのAl-Mg製ドームツィーターと8インチのウェーブガイド(ホーン形状)により180度近い指向性を実現しています。
これらにより、100Hz〜20kHzでの周波数&位相平坦と低域のコヒーレント放射を実現していて、リスニングルームの形状やスピーカーシステムの配置による影響から解放されるとのことです。

詳細は、
http://www.az-audio.jp/cn33/pg271.html
を参照してください。
参照いただくと、平坦な周波数特性と位相特性に驚かされますし、その後にある異常にきれいな100Hz〜20kHzでの「Horizontal Directivity Plot(水平指向性スペクトラム)」を見ると皆さんも驚かれると思います。(以下は転載禁止)

amp1

DSP技術は、とうとうここまで出来るようにしてしまいました。

価格はシステムで160万円と高め(2年間の開発費回収がほとんどでは・・・)ですが、新型コロナが収束方向に向かいつつある状況で、リスクが解消したら、一番に聴いてみたいシステムになりました。

スピーカーキャビネットの設置について

 2020.5.20
前回、キャビネットの混変調歪が発生するのは、床に伝播した振動エネルギーが変調されてキャビネットに戻ってくるためだと記しました。
また、様々なスパイク状の(先の尖った)サウンドチューニングパーツが売られているようですが、単純なスパイクであれば振動エネルギーの減衰には全く役に立たないこともお伝えしました。

「インシュレータ」と呼ばれるエネルギー減衰を目的としたパーツでも減衰量は-30dB程度に留まります。
仮に、床に伝播したものが100%歪になるとすると、その-30dBは0.1%となり、アンプの歪に置き換えれば、看過できない量と言えます。
実際には、床からキャビネットへの伝播で-30dB減衰するので戻りも含めると合計-60dBとなり、キャビネットで混変調が起こっても影響がないレベルと言えます。

スパイクは減衰しないので、極端な言い方をすれば歪んだエネルギーが100%戻ってくると言うことになります。
これは数字のマジックで、実際にはキャビネットの振動エネルギー(ユニットの駆動で励振されたもの)のすべてがスパイクから床に伝播する訳ではありませんし、床からもすべてのエネルギーが戻ってくる訳ではありません。
直方体形状のキャビネット(ブックシェルフと呼ばれる形状のもの)は、その寸法(W,H,D)と材質、補強構造などにも因りますが、形状がシンプルなため面の振動モードは有限要素法(FEM)などにより比較的簡単に解析できます。
そのモード解析の結果を見たうえで、節を狙ってスパイクを配置するのは合理的と言えます。
ただ、FEMに因らずとも、一般的に12稜(角と角を結ぶ線=平面同士の交わる部分)の変位が一番小さくなるはずで、スパイクで床へのエネルギー伝播量を減らすためには底面の4稜または4隅(角)ギリギリに設置するのが常道になりますが、キャビネットの転倒などの危険が増えるため専用設計したもの以外メーカーは推奨していません。
リスクを承知した上で、ある程度の効果を期待するならば、この常道に従うべきでしょう。

一部のオーディオファイルの方々は、キャビネットを床に置くのではなく、ピアノ線などを使って宙空に吊ることで床への伝播を遮断しようとトライされています。
ピアノ線の固定先が気になるところですが、床への直接伝播は防ぐことが出来ます。

20年くらい前、このようなシステムを聴く機会がありました。
キャビネットは力学的に床から切り離されているので、振動板を駆動すると磁気回路に反作用が起き、それとつながっているハウジングと同期してバッフル板が動きます。(振動板が前方に駆動されたら、バッフル板は後方に駆動される)
ブランコに乗っていて、腕で支柱を押すと自分自身は逆方向に動いてしまうのと同じ状態です。ブランコだけでなく車に乗っているときに地震が起きると、その地震がどのくらいの震度なのかを体感することが出来ません。これは免震構造の建物と同じです。

実際に音を聴いてみると、音像がスピーカー設置面より奥にあるように定位します。(使用システムはスペンドールLS3/5a)
床に設置していないためキャビネットが上記の混変調歪を発していないのでスピーカーの存在感が消えたためとも考えられましたが、クラシックなどの場合にはパースペクティブがそのようになっているので奥行表現ができているように感じてしまいますが、ティンパニーや大太鼓なども遠くで鳴っている感じでした。オンマイクのヴォーカルなども、マイクから口が離れているように聞こえました。
たまたま持ち歩いていた「位相を電気的に制御して特定の楽器が前方に定位するようにしたソース(CD)」を再生しても、想定したほどの前方定位が得られませんでした。同行していたレコーディングスタッフを生業としている友人も「おかしいね・・・」と呟き、思わず顔を見合わせたのを、今、思い出しました。現場の状況を変えない(同じ様に再現する)よう意図した録音エンジニアのパース感を重要視する私のような人種には、聴き慣れた空間がデフォルメされたような眩暈のする経験でした。
念のため、使用されていたスピーカーを秋葉原のテレオンで確認しました(スタンドに載せた状態だったと思います・・・)が、きちんとパースを再現できていてホッとしました。
吊り下げていたのが小型で比較的軽量のシステムでしたので、一概に全ての吊り下げを否定するつもりはありませんが、この時に「反作用は歪だ」という認識に至りました。

それからは、「磁気回路を対地速度がゼロになるようにして、且つキャビネットから混変調歪を出させない為には?」という課題の解決策を考え続けていて、富士通テン(現・デンソーテン)のECLIPSEに出会います。
そのために「50の手習い」でアナロジー解析や振動工学を学び、最近になってやっと現象(聴感)と理論をまがりなりにも結び付けることが出来るようになってきました。
最近は、TMD(チューンド・マス・ダンパー)を上手く使うアイデアを模索しています。
そのうち、ご紹介できるようなものが出てきて欲しいものです。

Wind Bellについて

 2020.5.16
Wind Bell は、兵庫県尼崎市にある特許機器(株)の製品ブランドになります。
企業業務としては、あらゆるものの防振、除振、制振、免震、耐震を考え、対策製品や現場の測定情報やシミュレーション結果として提供したり、コンサルを行ったりすることが主になりますが、6年ほど前にWind Bell(風鈴:ふうりん)というブランドで音響用制振アクセサリーを市場に出しました。

スピーカーシステムの場合、自ら振動を発していることを疑う方はいらっしゃらないと思います。大入力の場合にはキャビネットに触ればすぐに分かりますし、小入力でも耳を板に密着させれば音が聞こえるので分かると思います。
ただ、キャビネットがユニットで励振されていて、その振動エネルギーが床に伝わった後に、もう一度キャビネットに戻って元の振動と混変調歪を発生していることをご存じの方は少ないかもしれません。

床が剛体(機械的に完全なGND=機械インピーダンスが0)として機能するならば、このようなことは起きませんが、現実問題として床は有限質量の共振体であり、その材質や構造により伝播してきた振動エネルギーのスペクトラムを変調したり、時間遅延を引き起こしたりすることになります。言い換えれば、フリケシードメインでもタイムドメインでも混変調歪を発生しているということです。
基本的に振動エネルギーは機械インピーダンスの低い方へと流れますが、床とキャビネットのインピーダンスがあまり違わない場合には相互にエネルギーが行き来することになります。極端に違う場合には吸収や反射が起こります。
部屋の壁もスピーカーから発せられた音波に対しては同じ状況にありますが、インピーダンスが大きく異なるため反射します。
リスニングルームの床や壁などの影響が「本来の音質」にどれだけの影響を与えるかは、同じスピーカーシステムでも設置場所でまったく音が変わってしまうことで確認できます。
スピーカーを試聴して気に入ったので購入し、いざ自分の部屋に置いて音出しした瞬間、「こんなはずじゃなかった・・・」「まだエージングが済んでいないんだよなぁ・・・」などと失望感に苛まれた方も多いと思います。

床の影響を少なくする方法には大きく分けて2つあり、発音源を対象物(部屋の床や壁)から切り離す(文字通り、直接接触させない状態にする)方法と、対象物に伝播してしまった振動エネルギーを何らかの方法で吸収(消費)する方法です。

多くの方は、スピーカーと床、もしくはスピーカースタンドと床の間にスパイク構造のアクセサリーなどを入れて「低音の量が改善した!」「ノイズが消えてS/Nが良くなった」などと感じておられるのだと思います。
このスパイクは伝播位置(床と接する位置)を明確にすることには役立ちますが、伝播する振動エネルギーを小さくすることには何ら役に立っていません。
「でも、改善効果が聴いて分かるじゃないか!」と仰る方も多いと思いますが、これは振動モード(スピーカーキャビネット、床の双方)が変わるからに他ならず、エネルギーを遮断(インシュレート)できている訳ではありません。
夢を壊すようですが、スパイクの先を鋭くすれば「接地面積が小さくなるので伝播が抑えられる(伝わりにくくなる)」「スパイクは硬く尖っているものが最高!」と感じてしまいがち(私も金属質で鋭利なメカものが好き!)ですが、そんなことはなく、どんなに接触面積を狭くしても伝播するエネルギー総量には変化がないことを科学が証明しています。
確かに、鋭くすることでスパイクの材質による影響(スパイク自身の共振など)はより少なくなると思いますが、金属など振動エネルギーに対する内部ロスが極端に少ない良伝導材料(格子構造体)を使う以上、ほぼ100%伝播してしまうのは致し方ないのです。
去年の9月12日の記事を参照いただければ幸いです。
ただ、スパイクやスタッドの設置場所を変えることにより相互の振動モードが変わるため、できる限り気にならない(聴覚で検知しにくい)モードにすることは出来ます。

上記の1つ目の方法ですが、インシュレータ装着がそれに相当します。
インシュレータはスピーカーシステムと床との間に弾性要素(バネ)と減衰要素(機械抵抗)を持たせるものになります。
拙著PDF「アナロジー手法・・・」にも示していますが、世の中のすべての構造物は慣性質量と弾性要素と減衰要素の3つで表すことができます。
弾性要素は質量とつながっていて質量の持つ運動エネルギーを位置エネルギーに変換するもので、減衰要素は同様に質量に対して運動エネルギーを熱エネルギーに変換するものです。通常、インシュレータの場合、この2つが質量と床の間に並列につながっています。
要素がバネだけの場合には、その共振周波数の逓倍(2、3・・・n倍、そして、1/2、1/3・・・1/n倍)の周波数において「サージング(surging)」という共振現象を同時に起こします。
それをダンプする目的もあって減衰要素を抱かせるのが常道になります。
インシュレータの中で運動(振動)エネルギーを位置エネルギー(応力歪)に変えて、さらにそれを機械抵抗(粘性抵抗も含む)で熱エネルギーとして消費させればエネルギーの伝播を阻止することができるということです。
実際には、完璧にこのような阻止が出来るものは無く、通過する振動エネルギーを1/100や1/1000もしくはそれ以下に減らすことで対応します。
Wind bellの制振は全帯域に亘って-30dBくらいの効果があります。(「ウィンドベル」の名の由来は別の効果にあるのですが・・・)

2つ目の方法ですが、床に伝播してしまった振動エネルギーを後から吸収するのは、非常に難しい作業になります。
床が「質量無限大のGND≒インピーダンス0」に近い状態であれば、何もせずに吸収(エネルギーを蓄積)してくれますが、そうでない場合が殆んどですから、@ 床の上に局所的に質量の大きな状況を作るか、A キャビネットにエネルギーを戻させないように減衰させる大規模なインシュレータを設置するか、直ぐに考え付くのはそんな方法になります。

3月10日の記事に、@、Aの折衷例として我が家の対策を載せましたが、やはり質量が効きます。表面は金属か石のように伝達速度の速いものにすることがポイントになります。我が家では2mmの鉄板(SUS304)になりますが、さらに厚いものが入手出来るならば、そのほうが良いと思います。この表面部分を減衰の大きな材質にすると、音が死んでしまいます。
トータルでは、かなりの質量になるので、床の養生を怠ると傷だらけになります。実践される方には、老婆心ながら。
この状態であれば、スパイクでもWindbellインシュレータでも、その実力を遺憾なく発揮できます。

最後になりましたが、Wind bellの「風鈴」たる機能部分について説明します。
スピーカーシステムに接する部分(上スリーブ)が金属の釣鐘状になっていて、特定周波数で共振するようにしてあります。
床への伝播は阻止しながらキャビネットの共振を助長するという事になります。
一見、矛盾しているように思えますが、伝達系を遮断したうえでキャビネットを美しく鳴かせよう(メーカーではサウンドチューニングと呼んでいます)ということのようです。
キャビネットの共振自体が既に混変調歪を多量に含んでいるので、風鈴共振にどのような効果があるのか・・・?
実際に使ったことが無いので効果についてコメントできませんが、結果良ければ何とやら。歪が快感につながる場合もあるので・・・。
風鈴の1次共振周波数は検討の結果3500Hzが良く、その時には7700Hzと13800Hzにも風鈴共振が発生するそうです。

話は変わりますが、特許機器のホームページは情報がたくさんあって勉強になります。Q&Aや用語集も覗いてみてください。
https://www.tokkyokiki.co.jp/technical_guidance/

コーネックスについて

 2020.5.14
前回はエッジの材料としてメジャーなゴム(エラストマー:架橋ゴム)について記しました(完全に「他人のフンドシ・・」です)が、今回はダンパーのメジャーな材料であるコーネックスについて記します。

コーネックスはテイジンアラミド社(帝人のグループ企業:本社はオランダ)製のメタ系アラミド繊維になります。
材料に触れる前に、単位の話を少々・・・。
繊維業界では、繊維の太さを表わすのに、ある長さの質量で示すのが慣例的になっています。
デニール【d】という単位は9000mあたりの質量を表わします。100gであれば100dと表します。今でもストッキングやタイツなどの繊維の太さ(編み間隔が同じなら生地の厚さに相当)の表記に使います。
長さが中途半端なのは歴史的な理由があるそうですが割愛して、もう一つの単位であるテックス【tex】について以下に示します。
テックス【tex】は切りの良い1000mあたりの質量になり、換算の利便性から1/10のデシテックス【dtex】という単位を使います。
100d = 111dtex という換算値になります。
なぜ繊維の太さの単位に触れたかというと、繊維の強度は太さあたりの強さ【cN/dtex(センチニュートン/デシテックス):1/10テックスあたり1/100N単位】で表すからです。
この説明を基に、以下の表を見てください。(出典はテイジンアラミドのHP)

amp1

項目は上から、「粘り強さ」「破断に至るまでの伸長」「密度」「含水率」「分解または溶融温度」になります。
横軸は粘り強さの異なる3種類のコーネックス、ポリエステル、綿、PAI(ポリアミドイミド)、変性アクリル、防弾繊維「トワロン」、耐熱耐薬品繊維「テクノーラ」になります。
綿に比べて引張破断余裕は4〜5倍強、耐熱は3倍弱(溶けず難燃性)、さらに低価格という特性を備えています。

通常使われているダンパーは縦糸/横糸が同じテックス値(同じ繊維太さ)のコーネックス織物にフェノール樹脂を含侵させて熱成形&ビク型抜きしたものです。
含侵するフェノール樹脂は熱硬化性樹脂(耐熱は約180℃)のため、VCボビンが熱を伝えても軟化しません。
それでも、材質が綿の場合には140℃前後から綿の炭化が始まり脆くなってしまいますが、コーネックスならば400℃くらいまで保持が可能で、おまけに難燃性(耐炎性)です。
したがって北米輸出用のユニットの場合には、UL規格やCSA規格をクリアするために、綿ではダメでコーネックス使用が必須になります。
フェノール樹脂そのものの接着性が高く(濡れ性が良く)、且つ繊維の隙間に接着剤が入り込むため、接合部強度は綿ダンパーと大差ありません。
コーネックスであっても無理やり機械的に引っ張って破壊すると、繊維部分で千切れます。

因みに表の最後にある「テクノーラ」はパラ系アラミド高耐熱繊維でコポリマー(単一でなく共重合体)の構造を持ち、破断強度はホモポリマー(単一)のケブラーより高いものになります。ユニットではFRPにしてVCボビンに使われることがあります。

ゴムについて

 2020.5.12
エッジの説明をしていて、「ゴムって、何故伸びたり縮んだりするの?」と聞かれて、架橋の説明・・・ゴム分子の一部が「架橋」という仕組みで相互に結び付いていて、力が加わって変形してもその架橋部分が元に戻ることで復元する・・・こんな説明しかできませんでした。

そこで、ネットサーチして見つけたのが、以下のPDFです。
http://tsukuba-ibk.com/omosiro/%E3%82%B4%E3%83%A0%E3%81%AE%E6%80%A7%E8%B3%AA%E5%BC%BE%E6%80%A7%EF%BC%91.pdf

すごく分かりやすい文章で、こんな文章が書けるのを羨ましく思いました。ぜひ、アドレスをコピペしてサーチして読んでみてください。

ゴムとバネの違いも粘弾性ということで説明しています。
この性質により急激な変位が生じた場合には、粘性>弾性 ・・・バネ性より粘性が大きくなる訳で、水あめを速くかき混ぜると抵抗が大きい例を挙げています。水あめもゆっくりかき混ぜれば抵抗が小さくなります。
スーパーボールのように弾性が大きい(架橋部分の結びつきが大きい)場合には、反力が直ぐに発生しますが、架橋部分の結びつきが弱い = 粘性が優位になると、バネの性質(弾性)も弱くなり、ソルボセインやアルファゲルのように応力を瞬時にして吸収してしまうのも説明できます。
温度が高くなると、この性質も解消していく(粘性<弾性)という説明もされています。

寒い冬にスピーカーを鳴らした時に「音が硬い」と感じるのは、このあたりの影響で、暖房を入れて音出しを始めると、エッジが動く運動エネルギーが熱エネルギーとして消費されるのと部屋が温まってくる(エントロピー極大になるためユニットも温度が上がる)のとで、音出しせずに温めるのより早く準備運動が完了して柔らかな音が出てくるようになります。
このように、ものの性質を知ると、色々なことが説明できるものですね。

ポリマークレイコンポジットについて お詫び

 2020.5.10
「クレーストを使ったハイルドライバーはTS1000Fでも使っているよ」と知人が知らせてくれました。
情報収集能力不足で申し訳ありません。穴があったら入りたいです。

白状してしまうと、TS1000F発売当時(2016年)にTS-500/550の延長線にあるシステム商品という勝手な思い込みがあって、よく調べなかったというのが実情です。面目ありません。オオアサ電子関係者の皆様、申し訳ありませんでした。
調べてみると、クレースト技術を利用した製品(水素バリアコーティング)については2012年には産総研と宮城化成(宮城県栗原市)との共同発表がされています。
さらに、TS1000F、TS-A200に採用されたクレーストフィルムによるハイルドライバー振動板だけでなく、改質リグニンコンポジット樹脂を含侵したCFRPドーム型振動板も宮城化成とのコラボになります。

以前、セルロースナノファイバー(CNF)の記事を掲載したときに、富山県にあるスギノマシンと中越パルプの2社がフォスター電機とオンキョー・パイオニアにCNFコンポジット振動板を供給しているとお伝えしています(拙著PDF「理想のユニットとは」の振動板の項に詳細記事有り)が、地方企業発の新技術が音響製品に盛り込まれているのは、日本の底力を見せられたようで、なんだか嬉しくなってしまいました。

ピエゾ素子について

 2020.5.8
ピエゾ素子というと、昔からPCに付いているブザー(MS-DOSベースで間違った操作をすると怒られる不快な「アレ」です)を思い出すのは私だけではないと思います。
圧電素子とも呼ばれ、電圧を加えると結晶分極方向に直線的な変位(伸びる)が生じることを利用したものです。
逆に圧力を加えると電位を生じます。5年くらい前(失礼しました。調べてみたら14年〜12年前でした。)にJRだったかが実験的に行った「改札を通過する人が体重をかけると発電する」なんてこともできる「可逆な双方向変換素子(エネルギーを断つと元に戻る)」になります。
電圧→変位変換の場合に交番電圧を加えることで、この変位を音に変換するのが上記のブザーが鳴る仕組みです。
電圧に応じてリニアに伸び縮みするので、「圧電アクチュエータ」という分野にも利用されていて、ナノメートル領域の位置決めが必要な場合などに活躍しています。

スピーカーへの応用も10kHz以上の領域を補うスーパーツィーターが主になりますが商品化されています。
エネルギー変換効率が非常に高いため、省エネの時代になってからの注目度は高く、TDKの「PIEZOLISTEN」は1kHzからの再生が可能で極薄、京セラはLGのOLED(有機EL)テレビへの搭載(ピエゾ素子を樹脂板に貼り付けて共鳴させるスピーカー)などの製品化が進んでいます。
https://www.youtube.com/watch?v=K2NG0eNabhQ

オーディオ専業メーカーのTAKE Tからは、バイモルフ構造(2枚貼り合わせて変位を増強)のフィルムをハイルドライバーと同様に波型に畳み込む「呼吸」構造とすることで磁界(直流磁気回路)の不要なスピーカーとして製品化されています。
EgrettaのTS-A200に搭載されたハイルドライバーに分類されるツィーターは、磁界中でフィルムに印刷された電極(フィルムの一部:面積小)がローレンツ力を発生することによりフィルムがタワミ変形することを利用しているのに対し、ピエゾはフィルム上の結晶構造(面積大)が一様に伸びること(タワミ変形)に起因するため、素子の質量依存性が小さく応答速度が速いと思われます。
ただし、素子自体の変位が早くても、それなりに質量のあるフィルムを駆動するので、どちらもフィルムの強度が高く(比弾性率E/ρが大きく)、且つ質量が小さいことが波形再現性の優劣を決める条件になります。したがって「フィルム材質」と「厚さ」がキーワードになります。
磁気回路の不要な分、ピエゾのC/Pが高くなるのと、磁気回路が音波の流れをスポイルすることのないピエゾのメリットが勝っているかもしれません。
音質の優劣は、聴き比べたことがないので、コメントを差し控えます。

ポリマークレイコンポジットについて

 2020.5.8
ニアフィールド卓上用に全指向性を取り入れたEgrettaのTS-A200については、昨日の記事でもちょっと触れました。
「改質リグニン」を添加した樹脂をカーボンファイバーに含侵したCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製のドーム型振動板をウーファに使用していますが、「素材がらみ」でもう一つ特徴があり、ハイルドライバーを採用したツィーターにはポリマー・クレイ・コンポジットという聞きなれない素材名が登場します。
どちらの素材も産総研のClay Team(天然素材由来の複合材を研究開発するグループ)に端を発する素材になります。論文概要は以下を参照願います。
https://unit.aist.go.jp/cpt/clayteam/results/paper.html

Egrettaは広島に拠点を置くオオアサ電子のブランドネームですが、オオアサ電子は1983年の創業以来、液晶表示部や音響部品の製造組立OEMを請け負ってきた企業で、リーマンショックからの脱却のために自社ブランド「Egretta」を立ち上げたそうです。
2013年にはTS-550/500、2016年にはフロア型TS1000Fをシステム展開し、昨年、TS-A200を発表しました。

ポリマー・クレイ・コンポジットですが、「ポリマー・クレイ」は楽天市場やアマゾンでも人気の高い「オーブンで焼けるクラフト粘土」と同類の「樹脂粘土」のことです。
工業用で使用されているのはフィルム化したものや壁面に噴霧して焼き付けることで耐熱性を上げるものなどがあります。マイカ(雲母)、バーミキュライト(園芸用で使う多孔質の蛭石)、タルク(滑石:含水珪酸Mg)などの粘土素材をフィラーとして一定量を限度として樹脂に添加(一定以上添加すると成形性が極端に悪くなる)して「焼き上げる」ことで耐熱性やガスバリア性を向上させたフィルムや塗布材が従来から使われてきましたが、産総研では「どうせ成形性が悪くなるなら良い特徴を目一杯生かしてやろう」という発想の逆転から、これらの粘土素材を主成分として樹脂を少量添加した膜「クレースト」の開発を行ってきたそうです。
詳細は、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kinoushi/47/0/47_63/_pdf
を参照ください。
特徴は上記のように耐熱性やガスバリア性が良好で、熱膨張係数が低い(熱変化に対する寸法安定性が高い)ことから、クレーストHR(エポキシレジン添加)とCFRPを積層成形した航空機用液体水素タンクの実用化実験や膨張黒鉛製ガスケットにクレーストを薄くコーティングすることで耐熱性とリーク性の向上が認められた実験、熱暴露性の高い環境でのフレキシブル基板への応用など、従来製品の品質アップに広範囲の応用例が考えられるそうです。

TS-A200のハイルドライバー(ツィーター)振動膜に使われているものは、住友精化が商品化したフレキシブル基板用フィルムをベースとしたものと推測され、薄くしなやかで耐熱性もある優れものです。
https://unit.aist.go.jp/cpt/clayteam/whats_new/news/news120913.html

構成のほとんどが無機質(粘土)で、フィルムに関しては層状に配向させたものであるためしなやかで、経年変化にも優れています。
音響特性的にどのようなメリットがあるのかは、メーカーからの発表資料がないため分かりませんが、温度変化や経年変化に対して「安定」という言葉がキーワードになりそうです。
日々の環境変化や経年変化で音質が変わってしまう事(特に紙コーン)は痛いほど経験してきているので、これは意外に重要な性能要素になるな〜と気付きました。
紙コーンの表面にフィルムを薄くコーティングして改質するなんていうのも面白いなと感じました。

Egrettaの製品は従来から耳にしていて、ちょっと特性偏重ぎみなのが気になりますが、音質的な追い込みは別にして、新素材を積極的に取り込もうという姿勢は大好きな企業です。
これからも注目していきたいと思います。

『理想のユニットとは』更新 Rev.5.01

 2020.5.7
久々に大幅更新しました。
短時間で作ったためプアだった図を作り直し、理解を助けるためPinterestで見つけた写真や図を追加し、アナロジー図の間違いを訂正。EgrettaのTS-A200 Wooferに採用された「改質リグニンCFRP(産総研主導で開発、宮城化成で製造)製振動板」の情報を追加したりと盛り沢山です。
言葉足らずなところと、回りくどいところを中心に修正しました。

 『理想のユニットとは』

ツインリンクについて〜クロック考 その2

 2020.5.3
SPDIF(SONY/PHILIPS Digital Interface)がジッタに対して対処していないという内容に対して、「ツインリンクがあるじゃないか!」と早速コメントをいただきました。

SPDIFの場合、マスターが送り出し側で、DAC側はスレーブとなるため、DAC側でマスタークロックにシンクロするためのPLL回路(受信した信号からsyncを抽出して位相同期をかけ(タイミングを合わせ)、その位相に合わせて逓倍回路でDAC側で使うクロックを生成する)が必要になります。
したがって、DAC側(スレーブ)のクロック精度はマスター側に比較して一桁以上低下します。
SONYではSPDIFの問題点に気付いていて、「ツインリンク」という方式を後発で出しています。
これは、DAC側をマスターにして、クロックをソース機器(スレーブ)に送る経路を別に設け、そのクロックに同期したデータを吐き出させる方法(双方向通信)になります。SPDIFやEBU(プロ用規格)と異なる伝送ケーブルとなりますし、コネクタ形状も異なります。
これだと受信データがDAC側のクロックに同期しているのでPLLは不要で、タイミング合わせのためのディレイ制御だけで済みます。
したがってDAC側は自前のクロックで動作できるのでジッタの影響を受けないという意味の冒頭のコメントになります。

SPDIFやEBUにはツインリンク機能が無いためスレーブ機器にはPLL機能がマストになるというのが昨日の記事内容になりますが、ツインリンクを使用する機器であれば前述のようにPLLは不要になります。
また、PLLの引き込み時定数とロックレンジは別物なので、引き込んでロックしていればジッタは発生しないという意見もありますが、ジッタの時間スケール(数nsec.)とは、かなり隔たりがあります。逆にジッタに追従しないのでジッタ・バッファになるという意見もあります。
ちょっと専門的になりますが、PLLについて記しておきます。
通常使われているPLLはチャージポンプ型と呼ばれるものが多く、位相比較器とチャージポンプ+ループフィルタ+電圧制御発振器(VCO)+分周器のフィードバック回路で構成されます。一巡時定数はそれほど小さくありません。
位相比較器で検出した位相差分をチャージポンプでループフィルタのキャパシタに充電することで時定数機能を持たせていますが、一度引き込んでしまえば位相差分は小さくなるので、ロックレンジ以内であれば外れることは殆んどありません。ロックするということはマスターとスレーブの周波数&位相が同期するということです。ただし、フィードバックによる遅れ系制御になります。
ΔΣ変調器とデジタル制御発振器(DCO)、デジタルループフィルタなどを使ったフルデジタル型やΔΣ分周シンセサイザーを利用したPLLは、応答性が非常に速く、携帯電話のCDMAなどにも使われていて優れたものになります。

話を元に戻しますが、PLLを排除するためにツインリンクを使ったとしても、DACに入力されるデータストリームにジッタが載っていることに変わりはなく、初期のK2-I/FのようにDAC直前でマスタークロック精度でゲーティングする意味が重要になります。

光格子時計について〜クロック考

 2020.5.2
だいぶ記事間隔が空いてしまいました。
外出を控えて家でダラダラしているので、数kgの脂肪が内臓に付いてしまいました・・・(汗)。

光格子時計をご存じでしょうか?私は昨日まで知りませんでした。

https://www.jst.go.jp/seika/bt57-58.html

水晶振動子より遥かに精度の高いセシウムやストロンチウムのスペクトル吸収線に応じた周波数で時を刻む原子時計が世界標準時(SI 時)を決めているのは、ずいぶん前に知っていましたが、久しぶりにJST(科学技術振興機構)のHPを訪ねてみて、更に精度の高い光格子時計に切り替えられるようなのを初めて知りました。
調べてみると、原子時計は精度の悪いもので10^-11(千億分の一=百ナノ秒)、高いもので10^-15(千兆分の一=フェムト秒)だそうで、それに取って代わる光格子時計は、なんと10^-18(百京分の一=アト秒)オーダーで、換算すると300億年に1秒ほどのズレになるとのこと。宇宙の年齢138億年が経過しても0.5秒もズレ無いということです。
ここまで精度が必要なのは何故?という疑問が生じますが、かのアインシュタインの一般相対性理論の証明には欠かせないそうです。
「高速に近い速度で飛ぶロケットの中では時間(相対時間)がゆっくり進む」というヤツです。ウラシマ効果とも呼ばれる現象が本当に起こるのかを地上で実験するためには、「遅れる」ことを確認するために途方もない精度の時計が必要になってくるということです。

何かを検証する時に基準を設けることは一般的に行われている事で、これは上記の「時間」というものだけでなく、長さであればメートル原器、重さであればキログラム原器があります。
これらも平等に過不足なく比較するための基準(誰でもが納得できる基準)を与えるものになります。

オーディオの場合には、ΔΣDACの基準発振器の精度がこの二十年くらいずっとトレンドになっていて、あたかも精度の高いもの(ピコ秒オーダーでなくフェムト秒を謳うものも有り)が優秀なのだとばかりに外付けクロックジェネレーターが信じられないような高価格で取引されています。
人間の耳(というより聴覚)は、恒常的なものを聴き分けるのは不得意で、急激な時間変化(時間に関する微分値)に対しての感度が高くなるように出来ています。
±50x10^-6 くらいの精度の一般的なクリスタル発振子(昔はHC49缶タイプパッケージでした・・今は面実装がほとんど)を搭載した2台のCDプレーヤーを使って時報で使う440Hz正弦波を別々に再生した場合、そのピッチ(音の高低)の違いを聴き分けられる人間はいません。(同時に鳴らすと干渉して長周期のワウが聞こえるので分かりますが・・・)
もし発振子を精度の高いものに変えて、その違い(ピッチは検出できないので、それ以外の要素)が分かったとするならば、それは何なのでしょうか?

またまた昔話で恐縮なのですが、私がK2インターフェイスに関わっていた頃に実体験から理解していたのは、音質に対する影響はデジタル回路の符号検出動作(殆んどが0→1、1→0波形のエッジ検出による順次動作)に伴うゲートタイミングのズレや、伝送路不整合による反射や、ゲート遅延(数n〜十数nsec./gate:ゲート毎にバラつく)などによる『時間軸方向の揺らぎ(ジッタ)』に起因しているということで、いくら原発(水晶発振子もしくはそれを含むクロック発生回路のことです)の精度を上げても一向に音質向上が望めなかったということです。
当時、OCXO(ヒーター入り恒温槽付き水晶発振器)を使った場合と、単価数十円の通常品を使った場合とを切り替えて試聴をしましたが、優位性が認められなかったのです。と言う事は、原発よりは、DACに至るまでの処理に伴うジッタが悪さをしていたということです。
初代K2インターフェイス(XL-Z711に搭載)は、このデジタルゲート処理によるジッタ悪化を防ぐために、DAC入力直近で水晶基準のウィンドウパルス(ストリーム信号の交番より十分に幅の狭いパルス)で符号のみを取り込む(叩き直す)ことでジッタ品位(デジタル波形品位=アイパターン)を復活させてやろうというものでした。
当時は、R-2R型のラダーDAC(バーブラウンのPCM-56Pや58P)との組み合わせでしたので、波形再現性はDAC内蔵電流源の精度とトリミングしたR-2R抵抗の精度に依存していましたし、DAC入力は直近でラッチした16ビットパラレルデータでした。
それでもK2効果があったのは、GNDのD/A分離(ジッタ成分を含むデジタルGNDのノイズを排除)との合わせ技が功を奏したのかもしれません。
数年後、波形再現性が時間軸精度に依存するΔΣDAC(俗に言う1ビットDAC:PWMやPDM出力を積分して波形再現)が主流になり、それとの組み合わせで実験(初代K2と同様に最終段のストリームをウィンドウパルスで単純に叩き直し)したことがあり、K2有無の差異に驚いたものでした。
これほど差が出たのは、やはり処理途中に発生したジッタの影響が大きいためであり、更にPWMやPDMのパルス幅を決めるのはDACに入力される水晶クロック(DAC内蔵バッファアンプを使って発振)の精度であることにも因ります。(この入力クロックで叩き直し用ウィンドウパルスを生成)

ここで注目していただきたいのは、「精度が重要になるのは、その精度が最も必要とされる部分(この場合はΔΣDAC)に対して」で、それも「直近で対処しないとほとんど効果がない」と言う事です。「直近」という部分が重要です。
ヒーター電源を別から取らねばならないOCXOを製品の外に置いてクロックをリジッドワイヤ(50Ωマッチング)で送り込んで検討したときには、ΔΣDACであっても思わしい効果が得られませんでした。
そんなこともあり、製品としての外付けクロックジェネレータには、今でも懐疑的なイメージしか持っていません。
特に、受け側がクロックをSPDIF経由(デジタルPLLで同期させて引き込む)で処理する場合(殆んどの製品がそうですが・・・)にはPLLの性能(時定数を持つ一巡応答特性:追いかけ制御)に支配され、ジッタを云々する状況にはなりません。
また、フェムト秒オーダーの製品になると送り側のクロック精度もジェネレーター信号出力端子での保証(所定治具によるTIA測定値保証)になってしまい、出力ケーブル先端に実負荷がつながれた状態(実動作状態:伝送路インピーダンスによる反射有り)では保証されていないと思われます。

それでも音質改善効果(音質変化ですね・・・「改善」は個人的判断or見解が入りますので・・・)があったとすれば、相互接続したことによるGNDループのインピーダンス変化などに因って、電流経路が変化したことに起因していると考えた方が妥当なように思われます。

ケーブル考 スターカッド配置について

 2020.4.21
オーディオアクセサリーに位置付けられるものは多々ありますが、一昔前、「ケーブルに嵌まってしまうと抜け出せなくなるよ」と友人(かなりのオーディオファイル audio-phile:マニアのことです)に言われたことがありました。
私自身は、アクセサリー類にはあまり興味がなかったので、当時も現在もほとんど実験していませんでしたが、彼はノメリ込んでしまい、端子に負担がかかりそうな「ツチノコ」のようなケーブルを使っています。(笑)

私は昔からドイツ・ベルデン社製の硬いシースのもので黄色と黒のシース(PE)同士をかなり密に(ピッチを小さく)撚り合わせた市販品を使っていました。仕事で使っていたものと同じで、タイトでニュートラルな傾向の音質なのと、仕事場と同一環境のほうが色々と便利だったため長年使ってきました。
空気に触れている部分は酸化して変色してくるので、年に一回くらいの間隔でシースを剥いて新しい部分を剥き出します。短くなると届かなくなるので交換して2本目ですが、既に20cm以上短くなってしまいました。

その間にも、くだんの友人が持ち込んだケーブルを何回か使ってみましたが、どれも色が付いたり、低音が不自然に重くなったり、見通しが悪くなったりで、ベルデンを超えられませんでした。
それならと、私の使っているものと同じベルデンを購入し、解いて黄色2本、黒2本、合計4本の芯線を再び撚り合わせたものを持ち込んできたことがありました。
断面の対抗位置に同極を配するようにしてベルデンと同様に撚り合わせたもので、終端部分は同極同士の芯線を撚り合わせてありました。スターカッド(Star quad)配置そのものです。また、長さも彼が測って、私が使っているものと同じにしてきました。
期待せず付け替えたところ、これがびっくりするほどS/Nが良かったのです。

amp1 しばらく聴きましたが、バランスは高域が若干強くなるようでした。職場との相関を取ることを優先して結果的には元に戻してしまいましたが、変化要因が @ 導体が2倍になったことにあるのか、A スターカッド配置にあるのかが気になって、その時ばかりは二人で実験することになりました。
現状使用しているベルデンと同じ撚り線を「2本パラに使ったもの」と比較試聴しましたが、オリジナル・ベルデンと比較してバランスが高域寄りになる傾向は双方とも同様なことが分かりましたが、演奏合間の無音状態でのノイズの少なさはスターカッドに因るものだろうと結論付けました。

当時、私の部屋は外来ノイズが比較的少ない環境だったので判別できたのだと思いますが、1.5mほどの @ PCOCCと A OFC撚り線、B 軟銅単芯線などのシース無し(裸線)での音質差がブラインド判別できなかった私と友人にでも分かるノイズ改善効果でした。
樹脂シースの誘電率や機械的ロス、応力歪などが音質を支配しているので「シンプルイズベスト」とばかり考えていただけに、芯線配置での音質差が聴きとれたのはショックでした。
スターカッド配置については、上図のようにループが小さくなるメリットくらいしか、未だに説明が思いつきません。

エージングについて その2

 2020.4.18
前の記事を記していて思い出したことがあります。
経年変化=劣化もエントロピー極大に向かう現象だと記しましたが、木材についてはどのように考えられているかを以下に記します。
まずライフサイクルですが、伐採後、約半年〜1年ほど自然乾燥(屋外に積み置き)されます。日光や風雨、冬の乾燥などにより生木から水分が抜け、樹脂なども流れ出していき、結果として木目に沿って変形(反り、割れなど)が発生します。
勿論、樹齢により変形が完了する(「枯れる」と言うそうです)までの時間には長短があり、且つ樹木の種類によっても長短があります。
この段階でやっと「切り出し」が行われます。枯れるまでに反り、割れなどは完了しているはずなので、ここからは必要な寸法に切り出すことになります。切り出した後、さらに乾燥させるために積み置きすることもあります。

この加工材を製品のエンクロージャに使います。殆んどの製品がプライウッド(Plywood:積層合板)を使っていますが、一部の製品本体や、製品の補強材にはムク(無垢)材が使われることがあります。
合板は、層毎に繊維の方向を90度変えて積層しているので均一性に優れ、反りなども少なくなります。結果として木材そのものの性質も均質化されてしまいます。これがメリットでありデメリットでもあります。
ムク材の場合には、木材の種類により「そのものの特性」が現れやすくなります。
そのため、材質を使い分けて音質検討を行い、その結果を製品に反映させているメーカーもあります。
その担当者(私の記憶が曖昧で、そのころ会った楽器演奏者だったかもしれません。ゴッチャになっています・・・汗)との雑談の中で楽器の話題になった時のことを次に記します。

ご多聞に漏れず、A・ストラディバリやB・グァルネリ、N・アマティといった作者が生み出したバイオリン名器の話になり、表面材はスプルース(松)、裏板や側板、ネックなどはメイプル(楓:カエデ)で作られているところまでは私の知識にもありました。
製法ですが、ストラディバリの場合には、基材を灰汁(あく)で締めている(響くように固くしている)のが特徴だそうです。響きは板厚の分布と表面に塗ったニス(松ヤニと亜麻仁油だけを混合。混合比や煮詰め方に特徴)によると言われていますが、彼曰く「スプルースは200年くらい経つと熟成するんですよ」「ところが、ニスは木材より早く数十年で劣化するし、使っていれば擦り減るので塗りなおしていて、当時から名器と言われた楽器のニスがそのままの状態で残っていることは殆んどありません」とのことでした。
これらの楽器が高額で取引きされているのは皆さんもご存じのとおりですが、本当に「良い音」なのでしょうか?
2010年、2012年に行われたブラインドテスト(詳細はウィキなど参照)により評価されたのは現代に作製された楽器で、ストラディバリウスは下位評価でした。
彼は、これにも意見を持っていて、「これらの名器は製作して300年から350年くらい経っているので、もう木材自体が劣化を始めているのだと思います」「200年〜300年が木材としてのピークで、それ以降は繊維が劣化するんです」「力強い響きや遠くまで届くパワーが無くなります」「おばあちゃんになったら、きれいな響きを出すのは無理です。楽器は生き物ですね・・・」彼にとってバイオリンは女性なのでしょうか・・・

前回の記事に記したように、エントロピー極大は日々対象物に変化をもたらしていて、長い目で見ると、生産⇒熟成⇒劣化のライフサイクルが見えてきます。このように考えると、楽器や絵画、ひいては宝石や陶磁器さえもが保存環境によって変化するのも頷けます。

キャビネットの補強材について、「実は、使っている補強材には加速環境で熟成させているんです」とのこと。(ここからが、メーカー担当者だったかも・・・)
日々のエントロピー変化を時間的に環境試験機(短時間で温度&湿度を変化させる)で加速させて、数週間で200年後の熟成した状態に近付けているそうです。
加速試験は信頼性試験の一種で、私も現役のころに品質試験として嫌になるほど経験していましたが、それを製品に応用するとは考えもしませんでした。
実際の環境より厳しいストレス試験ですので、結果が同じになるとは考えにくいですが、応力分散するための「改質」の一種と考えれば技術者としては頷けます。
ここまでくると、ある意味タイムマシンですね。

エージングについて

 2020.4.18
友人とメールのやり取りをしていて、ちょっとした論争になりました。
友人曰く、「最近の自動車は機械精度が上がって、新車に必要だったアタリを付ける作業が不要になった」「スピーカーユニットも以前より部品精度も組立精度も上がっているようだから、エージングは短時間で良いんじゃないの」・・・
彼の言う「最近」は30年くらい前のことで、若い方は「アタリを付ける」と言ってもピンとこないかもしれませんが、昔の車は新車の時の扱い方次第で、シリンダー内面にキズが付いて高回転まで回らなくなったりしたので、「ならし作業」が必要でした。最初の5000kmくらいは小まめにエンジンオイルを交換しながら回転数を抑えて運転し、気密と潤滑を担うピストンリングをシリンダー表面と馴染ませる(これを「アタリを付ける」と呼んでいました)ようにしてストレスフリーにしてからエンジンを高回転まで回すようにしていました。
昔は1/100mmくらいの精度だったのでバラツキ吸収のために必要でしたが、今は1/1000mm台の精度が出せるのと、使用している材質の均質化が進んでいるので、「ピストンリングのエッジ欠け」などは皆無に近いと思います。
友人は、これに倣ってスピーカーユニットも同様だと言いたかったのだと思います。
確かに精度は、昔(20世紀かな・・・)とは格段の差があります。VCボビンと振動板の口元の嵌合にしても、錦糸線を直出しにしたことにより機械精度で一桁近くは向上していると思います。
口元を固定する接着剤も溶剤系(ゴム系)から縮重合(アクリル変性)系へと変わってきていて、硬化時間も短くなって、硬化後の物性に関しても安定しています。
彼の言うようにエージングは昔ほど重要なものでは無いのかもしれませんが・・・。
確かに接合部分そのもののエージングは短時間で済むかもしれませんが、可動部分(特にエッジ&ダンパー)とハウジングとの間には成形時や組立のバラツキによる応力歪が少なからず内在していて、エージングで強制的に駆動することで歪が分散することになるのは、今も昔も同じというのが私の持論です。
ダンパーについては、現在でも殆んどが綿やコーネックス製でフェノール樹脂含侵して熱成形しています。フェノール樹脂の含侵量でQをコントロールしているのは昔から変わりません。
組み上げた状態ではハウジングおよびVCボビンとの接合部付近に応力歪が集中して内在していることが考えられ、駆動することで応力が極端に大きい部分の歪が徐々に分散されます。経験上、音が落ち着くまでには、試聴音圧相当のエージングでは速いもので2〜30時間、平均で80時間程度(8時間x10日)くらいかかるようです。
エッジについては、ダンパーほどではありませんがエージングの効果はあります。

エージングというのは、エントロピー極大(自由度大)に向かう作業ということになります。集中から分散、特異点から平常点に向かう工程です。
ただ、注意しなければならないのは、「経年変化」もエントロピー極大に向かっての遷移になるということで、これは本来の性能が「劣化する工程」になります。
日々の環境変化でも「エントロピー極大」は起こっていて、湿度が高ければ紙コーン紙の湿度も変化しますし、温度が低ければ殆んどの部品のスチフネス(硬さ)が上がります。(f0は測定する日によって、数%変わります)
この変化への対処は、日々のエージング(数分)で対処する場合が殆んどだと思います。

「何を以てエージングと称するか」というのは難しく、たぶん、10人に聞けば10通りの答え(評論家が定義したものもあると思います)が返ってくるでしょう。

HANIWAaudioについて 捕捉

 2020.4.16
4/7付の記事に対する質問がきました。

「位相を揃えるといっても、遅れてしまったものを元に戻すことは出来ないのでは?」という質問です。
アナログ的に考えれば、その通りですが、デジタル処理にはメモリーという強い味方があるのです。
一度、バッファメモリーに蓄えて、遅れている信号に合わせて「いっせーのせ!」で位相を合わせた信号を出すというイメージです。
リアルタイムで・・・という訳にはいきませんが、何らかの遅延(全体の情報をバッファメモリーを使って一定時間遅らせる)を以て揃えることが可能になるということです。
以下は、メーカーから発表されたものではなく、私の独善的なものであることを、先にお断りしておきます。

基本的な考え方は、タイムラインは固定しておき、加工が必要な部分だけを取り出して加工後に正しいタイミング(位相)で再度嵌め込むというものだと思います。
この処理を行うのがDSP(デジタルシグナルプロセッサー)になります。実際には大きなデータ量を扱うことになるので外部メモリをバッファメモリー(RAM)やパラメーターストッカー(ROM)として使い、そのデータを基にDSPで演算処理(デジタルフィルタやデジタルディレイ、デジタルフェイズシフタ機能などによる)を行うことになります。

ご存じの方も多いと思いますが、アナログ処理ではNFB(ネガティブフィードバック)というものがあり、出力を加工して入力に戻す(入力と出力の差を戻して比較する)ことで特性改善を図るものです。
スピーカーからの音響出力に相当する情報を駆動アンプの入力までフィードバックするものをMFB(モーショナルフィードバック)と呼びます。
アナログ処理だとフィードバックする際の時間遅延は補償されません。極端に遅延した位相の補償はできないということです。
これに対しデジタル処理のメリットは、「メモリーを使うことで、この遅延部分を補償することが出来る」という点です。

具体的な手順としては以下のようになります。
1.あらかじめ、補正する内容をパラメータとして記憶させておくことで処理内容を明確にしておきます。
これは特定のスピーカーシステムHSP01とDSPアンプHDSA01の組み合わせで基準信号(インパルスやステップ信号)を入力とし、パラメータを変化させながら測定を行い、基準信号の応答に最適化したパラメータを追い込んでメモリーにストックしておくことに因ります。(4/7記事参照してください)
2.通常のソース再生を行います。
入力データストリームを順次バッファデータとして取り込み、そのデータに対しパラメータに応じた逐次処理を行ってからスピーカーに送り込むことになります。フィードバックではなく事前に想定した情報で制御する「フィードフォワード制御(ただし、スピーカーの想定外の挙動には関与しない)」と言えるものです。言い換えればスピーカーで出来ないこと(不得意なこと)を先回りして(予測して)DSPで実行してしまうことになります。

amp1

この出力信号は、特定のスピーカー以外のスピーカーに入力しても「何ら意味の無い出力(特化した情報)」になっていることに注意が必要です。
気に入っているスピーカーを繋げば位相が揃って素晴らしい音になる訳ではないということです。
気に入っているスピーカーをDSPアンプに繋いで、項目「1.」の作業を行って、最適パラメータを求めて書き換えることが出来れば、それが可能になります。

HANIWAのHDSA01(DSPアンプ)にその機能(パラメータ書き換え)があるのかどうか分かりません(たぶん無いと思います)が、もし出来るならば製品としての訴求力は格段に上がります。
ただし、特定のスピーカーシステムHSP01との組み合わせでDSP機能(「位相合わせ」と「周波数特性フラット化」)だけでは得られない機能(高い駆動能力など)を強くアピールしているのも事実ですので、HDSA01+HSP01によるクローズド商品コンセプトになります。

制振について その2

 2020.4.13
制震について、私は専門ではありませんので、もう少し調べてみました。
昨日の図で左から二番目の慣性質量を設置するものですが、100年以上前に考案され、特許申請されていたとのことです。
動吸振器(dynamic vibration absorber、DVA)またはダイナミックダンパ(dynamic damper、DD)と呼ばれる技術で、ウィキには「振動する対象物に、補助的な質量体をばねなどを介して付加することにより、対象物の固有振動数周辺での共振現象を抑制する装置」とあります。
紹介した建築以外に土木や機械分野でも活用されているそうです。
別名として、同調質量ダンパ(チューンドマスダンパ、Tuned Mass Damper、TMD)や質量ダンパ(マスダンパ、Mass Damper)と呼ばれるとのこと。
台北101に設置されているのは、92階から87階にかけて吊り下げられた直径5.5m、質量650tの鋼鉄制振振り子で、地震以外に強風による横揺れも7割程度抑制できるとのことです。もちろんアクティブコントロール付きです。

オーディオ関係で「TMD」で検索してみると、FOCALのSoplaやカー用ES-130Kに搭載されているウーファユニットのエッジに使われているのが分かりました。
このFOCALのエッジについては拙著PDF『理想のユニットとは』に記したものと同じですが、当時は文章情報だけでしたので勝手に想像して中央に1本で記してしまいました。誤情報を与えてしまい、申し訳ありません。
今回「イメージ」で検索したものはちょっと違っていました。数日前に記したロールエッジに定在波が発生する部分に当たるところに「2本の円周に配したリブ(赤色矢印)」が見られます。(下写真:転載不可)
ちょっと考えれば、この定在波対策なので内周にリブがあるのは必然ですね・・・穴があったら入りたい・・・。

amp1

先日と同じようにシミュレーションしてみましたが、円周部分に配した2本のリブは慣性質量として働き、遅れ系となることでエッジのタルミを吸収する効果があり、確かに定在波は減りそうです。
一番揺れる部分に質量を持たせるのはTMDの決まり事ですので、振動の腹に2本のリブを充てることでリブの相互位置関係に因る相乗効果が生まれるのだと思いますが、その結果、さらに外周に弛みが出ることは確かですし、リブの質量が共振に寄与する特定周波数では効果が無くなります。(完璧で万能な防歪対応はないということです)
エッジ内周部分の厚さを若干増やす(質量を偏らせる)だけでも、ある程度同じ効果が得られそうです。
30年以上前、ウーファの布エッジ(樹脂含侵して熱成形したもの)の内周にモーエン(ささくれ防止の「サカムケア」とほぼ同じ成分:通常はフィクストエッジの通気防止に使用)を塗って音質対策(高調波歪も下がる)したことを思い出しました。これもある意味では質量添加制御ですね。
ただ、実際に歪の影響を排除したいのは中域ですので、Mission社のエッジフィルタのほうが音質的には寄与すると思われます。(注意して設計しないとフィルタ自体が共鳴するので、その部分は難しいのですが・・・)
他の業界では古い技術でも、このように応用することで技術リサイクルできるのは素晴らしいことだと感じました。

拙著PDFも時間をみて修正する予定です。

AR-1.5における制振について

 2020.4.12
皆さんには「制振」よりは「制震」のほうが馴染みのある言葉だと思います。ということで、制震について概略説明を以下に記します。

高層建築では制震構造を採り入れているものがほとんどですが、これは地震が発生した場合に低周波振動(高層階でゆっくりと大きく揺れる:振幅で4m以上揺れた計測情報あり。国内では6秒周期、52階で2.7m p-pという記録あり)を防ぐ構造で、その考え方には色々なものがあります。
一つは、台座(土台)部分に揺れを吸収する構造を設けて「伝わらないようにする」方法です。具体的には、台座を「揺れと同期させて(同じ方向に)動かす」もしくは「瞬間的な変位を吸収してしまう」ことで地震のエネルギーを吸収(運動エネルギーを位置エネルギーに変換)してしまうものです。台座にコロやタイヤを付けたり、制震ゴム(エラストマー)でズレ変位を吸収したり、それらを組み合わせたりした構造物を台座部分に組み込んでいます。これは低層建築物にも採用されています。(下図の左端)
もう一つは、横浜マリンタワーやランドマークタワーなどに採用されている方法で、高層階に慣性質量に相当するもの(重量物=錘)を設置して振動の節とすることで中層階の揺れ幅を抑制するものです。(下図の左から二番目)
図では建物が剛構造で菱形に歪んでいるように描いていますが実際には柔構造が採用されています。(というより応力集中しない設計が為されている)
ただ、これは初期振動に対しての対処であって、継続して揺れて且つ共振現象が起きた場合には振り子現象が起こってより振幅が大きくなることもあります。上記4m以上の揺れは、これに因ると思われます。
それ以外に建物構造全体(各階もしくは数層目毎)に柔構造(分布定数構造)を取り入れて層間でエネルギーを分散吸収する方法もあります。(下図の右から二番目)

amp1

スカイツリーの場合には、柔構造と慣性質量を組み合わせた上で、柔構造の最上部(通信室部分)にアクティブコントロールを採用して通信室部分の揺れが最小になるように制御しています。

https://www.obayashi.co.jp/news/detail/skytreedetail10_20101125_1.html

ようやく本題のAR-1.5に採用した制振構造ですがチューブ下端に鉛の薄板を巻いた部分(カウンターウェイト)が慣性質量として働きます。(下図のチューブ下部の濃グレー部分)

amp1

これが無い状態でチューブを叩くとコ〜ンとある周波数で盛大に響きます。チューブ下端が開放端になっているので振動の腹もしくは節になるためです。構造的には加振されないような設計をしていますが、考えられるのはソルボセインを通してエンジン部分の振動がキャビネットボディに伝わった場合です。
加振部分のボディを地震の際の地面と想定すると建物がチューブに相当します。「こじつけ」と言われればそうかもしれませんが、実際に保持シャフトに「やじろべぇ」のように立ててボディを叩いた時に下端に慣性質量を付けた場合のほうが制振が効いているので残響がかなり短くなります。コツコツという感じです。
当初は「やじろべぇ」のバランスを取るのに、モーメントを考えた場合に距離を稼ぎたいという発想からチューブの下端に錘を設置することにしたというのがネタバレになります。結果良ければ何とやらですよね。
本来は、印加質量を変えて効果を検証すべきなのでしょうが、今回はやめておきます。

ロールエッジの挙動について

 2020.4.11
ユニットの多くはロールエッジを使用しています。
成形が容易で、且つストロークが取れる形状になりますので、廉価モデルでは当たり前といえばそれまでですが・・・。
ユニットを実際に駆動しているときの挙動については拙著PDF『理想のユニットとは』にも記しましたが、前後駆動に応じて引っ張られることで変形するだけでなく、振動板と同様に共振現象によるモード共振が発生します。
フィクストエッジのユニットを除き振動板とエッジでは材質や厚さが異なるため、接合部を境界(節)とした共振が発生しますが、振動板の共振はエッジの共振周波数より十分に高いため、ここでは低域でのバースト応答についてエッジの挙動をシミュレーションしてみました。
バーストというのは突然加わる信号のことで、入力OFFからONになった時の挙動ということです。ここではエッジの1次共振周波数に相当する信号入力をユニットに印加した場合を考えました。

amp1 一番上は、静止状態からVCに入力信号が印加されて前方に駆動された状態です。
エッジは静止しているので、振動板が前方に駆動されると接合部では引っ張られるようにして形状がまっすぐに伸びます。
駆動が後方に切り替わった状態が二番目になります。伸びた部分が駆動により押し戻されるので、接合部近傍で内周方向に弛み(タルミ)が生じます。
三番目は二回目の前方駆動で、弛んだ部分の形状が元に戻る前に引っ張られるため、エッジの中央凹部あたりまで上方に移動します。
四番目は二回目の後方駆動で、二番目と同様に弛みが生じますが、引っ張り込んだ量が多いため弛みの大きさが大きくなります。大きくなる分テンションが緩み、エッジの中央凹部あたりは慣性で上方に引き上げられ続けます。
五番目は三回目の前方駆動で、弛み部分が引っ張り上げられると同時にエッジの中央凹部あたりの形状が復元します。
その後は、四番目と五番目を繰り返すようになり、定在波(共振)が発生します。
これは入力周波数がエッジに同相の共振を生成するような値の場合で、ほかの周波数では共振が生じなかったり、逆相の共振が発生したり、もっと高次の共振が発生したりします。

いずれにしろ、エッジは振動板の駆動とは別の「歪を発生する挙動」をしている訳で、そのレベルは振動板との面積比で考えると無視できないものになっているはずです。
amp1 英国Mission社のQXシリーズに使われているウーファでは、樹脂製で櫛状スリットの入ったリング(エッジ・フィルタ)でエッジを覆っており、ローパスフィルタの機能により上記のエッジ歪の低減を図っています。(左の図はメーカー著作権により転載禁止)

http://missionspeaker.jp/

現在設計中のAR-2でも、数年前からエッジフィルタの構想があり、いずれご紹介できると思います。

前室効果について

 2020.4.10
前室効果って???
という質問がきました。

これには点音源から音がどう広がっていき、それによってどんなメリットがあるのかを理解することが必要です。
水面に石を落とした時に、波紋が円を描いて広がっていくのを思い描いてください。これは水面の現象なので2次元ですが、これを3次元で想像していただければ音源から音が四方八方に広がっていく様子になります。
ここでは分かりやすいように2次元(上から見た)の図を以下に示します。

amp1

音波は粗密波ですが、実線が山(密)、破線が谷(疎)と考えていただければOKです。
楕円に鼻と耳が付いたような肌色のものが人間の頭と思ってください。
図では左耳に波面の谷が来ていて、時間経過するとこの谷が右耳に達します。
この時間差や位相差(音源が近い場合はレベル差も)を聴覚で検知して、発音源の方向を知ることになります。(矢印が方向を示します)
発音源が大きい(点では無い)場合には方向認知がブロードになります。これは波面が円(実際には球)でなければ、正しい認知はできないことに因ります。(あの辺り・・・というアバウトな情報になります)
聴覚では点音源から放射された音波での検知レベルが一番高くなるようになっています。(時間差で数十μsまで弁別可能)
この仕組みからすると、壁面などの反射があった場合には波面が干渉して方向を誤まるはずですが、ハース効果といって、先に届いた音波(情報)で方向を認知する仕組みが聴覚にはあるので、方向を誤りにくくなっています。
そのような仕組みがあるにしても、正しく方向を認知するためには波面は円(球面)であることが必要条件になります。これは点音源であることと同義です。

それでは点音源にするにはどうすれば良いかですが、@ 発音源の表面積を小さくする A 表面を平面〜球面にする の2つの方法があります。
スピーカーユニットの振動板は、ほとんどがコーン型(凹円錐形)をしており、波面は以下の左側のようになります。

amp1

このような振動板から発せられた波面は複雑で、耳に届いた時間や位相情報が方向を認知しにくい形にゆがめられていると言えます。また、図のキャップと振動板の双方から発した音波は相互に干渉して情報を変調します。
この現象は、普通に話した場合に比べ、口の周りにメガホンのように手を当てて話した場合に、こもるようなイメージになり音色が変わってしまうことで簡単に確認できます。手でメガホンを作ると音が近くに感じるのは、手の反射による干渉によってスペクトラムも変わってしまい、聴覚が騙されることに因ります。
これが『前室効果』そのものになります。
形状が深ければ深いほど位相のズレ(=振動板上の発音位置のズレ)が大きくなり、且つ波面干渉も大きくなって波形歪も発生します。結果として、球面波との乖離から方向認知が曖昧になります。
点音源に近付けるには、図右側のように平面振動板としたり、ドーム型の振動板としたりすることで実現できますが、強度不足に伴う振動モードの多様化、実効質量の増加などの弊害が出るため、できる限り浅い形状の凹型コーンとするのが、現在、大多数の製品で導入されている方法になります。

HANIWAaudioについて 訂正

 2020.4.9
誤:「エッジも弾性領域を有効活用するようバネ定数の大きい(復元性が高く硬い)ものを使い・・・」
正:「エッジも弾性領域を有効活用するようバネ定数の大きい(復元性が高いエラストマー製の)ものを使い・・・」
通常のユニットではエッジ形状をできる限り保持した状態で変形し、形状が変形しても駆動に影響を与えないことを主目的とするけれど、HSP01の場合には、引張弾性変形(駆動中点でもテンションがかかっていて伸びることで変形・・・バイアステンションがかかっているとの記述は無いが・・・)の結果として生じる復元力を積極的に使い、駆動中点で最大速度を得られるように設計されているようです。
ポイントは「駆動中点で最大速度」という部分です。
もし、バイアステンションがかかっているとすれば、中点付近ではフリーではなく、中点通過と同時に逆方向に直ぐに復元力が働きます。

amp1

上図の左が通常のユニットの場合で、復元力はあまり期待せず(駆動はローレンツ力に従う)、駆動範囲のほとんどはリニアになります。
本来、保持系は振動系が駆動されてもギャップ中心に保持することが目的のパーツですから復元力は問われないことが多いので、図のように傾斜はなだらかになりますが、HSP01の場合には「駆動中点で最大速度」を満たすよう傾斜が急な設計(変位0から少しでも離れると復元力が発生する=バイアス有り:右図)になっていると思われます。
復元力が大きいということはスチフネスが大きいことでもあり、f0はかなり高くなっていると思われますが、アクティブ強制駆動するためパッシブな(TSパラメータで示されるファクタによる)設計要素はあまり考えなくて良いのかもしれません。

AR-2への展開 その4

 2020.4.8
今回も実現性アップのための変更です。

amp1

たまご形の後部絞り込みがきつくなり、前面部分の肉厚が上がっています。
チューブ部分も首部分が太くなっています。

これに伴い、内部形状も若干変わっていますが、内面反射波の集中は以前とあまり変わっていません。
amp1

したがって、吸音材の配置も変更なしということです。

低域の遅延について

 2020.4.8
昨日の記事に「元々、低域は遅れています・・・」と書いたら、早速質問が来ました。以下に回答します。

幅の狭い矩形インパルス波形やステップ波形の立ち上がりは、あらゆる周波数の成分が合成されてできているということを理解していただかないと話が始まりませんが、ここを理解していただいたとして進めます。
高域と図に記載した部分は、スピーカーユニットの振動板に伝播した高域成分が振動板の内部を進むことで分割振動を誘起して発生し放射されたものになります。
したがって、振動板の材質に依存した伝播速度で反応します。
それに対して、低域と表示した部分は、ピストン・モーションで駆動された場合の音響出力になります。

拙著『理想のスピーカーユニット』に詳細を記してありますが、振動板の質量(実際には振動系実効質量)は高々数十グラム程度であるにせよ駆動する(位置エネルギーに変換する)以上は「慣性質量」として働きます。
ボイスコイルで発生したローレンツ力Fが振動系質量mを駆動する(位置を変位させる)場合には、加速度aが加わって徐々に動き出し、速度が上昇し始めた結果として変位が発生します。
質量が絡んでくると、常に「遅れ系」の動作になり、入力に応じた変位を達成するには時間がかかるのです。

高域成分はローレンツ力で励振された振動板の分子構造をその媒質構造に応じた伝播速度で伝わるため変位が生じません。したがって遅れ系にはならず、視聴者の耳には遅れずに届きます。
冒頭にインパルスやステップ波形の立ち上がりは、すべての帯域成分の合成から成っていると説明しました。
同時に振動系へすべての周波数が印加された場合、上記の理由で低域成分が音響出力になるには時間がかかるため遅れることになります。
ただでさえ、このような遅れが生じる仕組みがある上に、低域での位相遅れ(弾性領域から質量領域に移行するため、徐々に180°遅れる)が発生するので、超低域での結果は目に見えています。
この結果から得られるのは、パッシブなシステムの場合、低域の遅延を軽減するには実効質量はできる限り小さく抑え、且つ弾性領域での駆動が大半となる(f0が低い)ことが望まれますが、これは振動板の構造強度や支持系の強度、経年変化とのバーターになるため妥協点を見出すことになります。

HANIWAaudio(クボテック)について

 2020.4.7
私の居住する地域にある市立病院の患者や公共機関の職員から感染者が出るなど、新型コロナの脅威を身近に感じる毎日が続いています。
長患いの病み上がりで且つ呼吸器が弱いということもあって外出はできる限り控えていますし、スーパーマーケットやコンビニに食料などの買い物に行くにも気を遣い手洗いを励行するストレスは長患い再発の危機を覚えます。
先ほど政府から非常事態宣言が出されましたが「やっと」という感じです。
国会運営は我々の税金で成り立っているかと思うと腹立たしくて最近は遅々とした国会中継を見る気にもならなくなりましたが、ニュースを見るたびにすべて後手後手に回っていると感じてしまうのは私だけでは無いはずです。
同じ人間が運営しているのだから、間違いはいっぱいあるし、甘んじて批判を受けるのが政治家の本分だと思います。
こと緊急事態であるからには時間が勝負なのですから、トランプのような強権発動も必要と思います。(誹謗中傷のメディア合戦で選ばれる大統領制自体は、あまり良い仕組みとは思いませんし、決して「人間としてトランプが好き」と言う事ではありませんが・・・)

愚痴はこれくらいにして、本題に入ります。
クボテック(株)は大阪・中之島にある画像検査機の会社(創業時は医療機器の開発会社だったそう)ですが、2004年からオーディオ事業にも参入し、HANIWAというブランドネームで製品を供給しています。
主に海外を市場としていたらしく、私も含めて最近の業界参入と思われる方もいらっしゃると思います。
秋葉原にショールームがあることは最近まで存じ上げませんでした。
なぜ、ここで取り上げたかというと、スピーカーだけでの性能に限界を感じて制御系も含めてシステムとして考える姿勢に共感したからです。
これはLINNのEXAKTシステムと相通じる考え方で、「それぞれの受け持ち部分が不完全なものであってもシステムとして補えば完全なものに近付ける」という基本姿勢になります。
従前の考え方では、いくら物量投資しても限界があり、ブレークスルーを達成するにはこのようなコンプリメンタリティ(相補性)を取り入れることが必要で、結果的に安価(今の時点では、まだまだ高価ですが・・・)でありながら高性能が実現できます。

具体的には、LINNのEXAKTシステムと同様にタイムドメインの位相特性を平坦にするDSPをアンプに組み入れていることで、EXAKTシステムと同じように特定のスピーカーに対してパラメータ設定して位相平坦化を狙います。
大きく違うのは、EXAKTシステムが市販の特定マルチウェイスピーカーに合わせる形になっているのに対し、自社製のフルレンジスピーカーシステムのみを対象にしている点です。
LINNのEXAKTシステムについては

http://linn.jp/pdf/EXAKTJBL_catalog.pdf

を参照願います。
決め打ちのほうがクローズドになるので対応がしやすいということが第一の理由と思いますが、LINNのように「高級なスピーカーシステムを既に持っている客層」を顧客にするメリットは享受できません。

補正方法の概略ですが、スピーカーから放出される音響の位相特性を揃える(補正する)ことでインパルスに対する時間軸前後の対称性を整え(遅延補償)、グライコ機能で周波数特性を平坦にすることで時間軸方向の収束(波形再現)を図ります。

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一番上の出力が一般的なシステムの出力になります。どんなに高級なシステムでも五十歩百歩の出力波形になります。
このようにインパルスやステップ波形の再現性はスピーカーという構造には過酷なことなのです。

元々、低域は位相が遅れていますので、強制的に位相を揃えることで低域と高域の波形発生位置が揃ってきます。(時間軸前後の対称性が再現され始める:図の出力中段)
フリケンシードメインでF特を整えること(特に低域をブーストしてフラットにすること)は、タイムドメインでは波形の整合性を高くすることになり、結果として入力信号の波形に似てきます。(図の出力下段)
アンプ(HDSA01)側で、この作業を出力に対して実施するためには、音響出力をマイクロフォンで取り込んで、デジタル的に位相とレベルを独立に加工した結果(波形は入力に近似してくる)をパラメータとしてDSPにメモリしておき、リアルタイムの入力に対してこの情報を基にデジタル的に連続加工処理することで出力を実波形に近づけようということです。
LINNのEXAKTシステムの場合には、各ユニット間のクロスオーバーを勘案して位相&レベル調整しなければならないため、このパラメータは帯域ごとに相関を持って処理されなければならず複雑になりますが、HANIWAの場合には対象がフルレンジユニットのためシンプルになりますので、DSPの処理も楽になり、低価格化に寄与すると思われます。

アンプ(HDSA01)側で低域まで平坦にするよう強制的に押し上げるので、スピーカーシステム(HSP01)側に大きな容積は必要なく、小容量密閉箱で超オーバーダンプにしたほうが応答性が上がるのだと思います。

VCインピーダンスは1.5Ωでインダクタンスも2mHしかありません(ともに100Hzでの値)。電流を多くすることでローレンツ力を稼ぐ設計です。
エッジも弾性領域を有効活用するようバネ定数の大きい(復元性が高く硬い)ものを使い、且つ振幅は十分にとれるようにしていて、強制駆動に特化したユニットといえます。

ユニットを囲っているホーン形状のアルミ一体構造エンクロージャは、球面波を生成するよう仮想点音源を想定して設計していると説明されていますが、前室効果(コーン紙の形状から球面波には成り得ない=理論上、平面〜凸形状でないと球面波にはならない)まで補償できているということでしょうか・・・。そこまで補償できるのであれば、エンクロージャ形状はバッフル効果が生じないよう滑らかな形状ならばどうでも良いのでは??

https://www.kubotek.com/haniwa/index.html

このようなご時世でなければ視聴をしてみたいものですね。(昨年までの展示会会場では果たせなかったもので・・・)

OM-MF519 外形

 2020.3.25
時間が出来たので、OM-MF519のアウトラインをCADで入力しました。
フレームの曲面はスプライン近似せずストレートのままですし、窓抜きもありません。
設計上は、これで十分・・・私の場合はフレームの取り付け穴も不要ですので・・・。

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AR-2への展開 その3

 2020.3.24
キャビネット保持部のリング状セットカラー径を大きくすることでM20ナットとの干渉を排除して、やじろべぇ構造のバランスを改善しました。

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さらにチューブが太くなってしまい、デザイン的にはズングリムックリで特徴の無いものになりますが、実現性は上がりました。

AR-2への展開 その2

 2020.3.24
前回設計したものは後方の質量が大きく、そのままでは「やじろべぇ構造」を満たせないことが分かり、再度検討しました。
AR-1のころからバックヘビーなことは分かっていましたが、やじろべぇ構造でなかったため許容していました。
やじろべぇ構造を採用したAR-2の初期設計では、支点をチューブ外部後方に位置させていたため、やじろべぇが成立しました。
ところが、AR-1.5の構造(支点をチューブ内側に移動)にしようとすると、質量バランスを取るためには支点をかなり後方に移動する必要があります。
同時にエンジンのバランスも取る必要があるため、必然的に保持シャフトと支持シャフトの間隔が離れてチューブを太くすることになります。
サブチャンバーの容積を多少犠牲にしたものになりましたが、案を以下に示します。

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これでも、まだ若干バックヘビーなので、キャビネット前方にカウンターウェイトを付加する必要があります。
フローター外枠付近にリング状の非鉄金属(鉛か・・・)を配置してバランスを取りつつ、キャビネットの補強をする構想で進めようと思います。

試しに、ユニット後方の音波経路をシミュレートしてみました。

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AR-1.5製作の際に、キャビネット内側の形状を複雑にすることがかなり困難なことであるのが判明しているので、できる限りユニットに反射波が戻らないような形状を保持しつつシンプルな形状になるようにしました。
結果を見る限り、予想していたほどの集中は起こっておらず、後方ユニット周辺のキャビネット窪み部分と前方ユニットの磁気回路周辺に1次反射が集中しているようなので、この部分だけに吸音材を入れる構想とします。(下図)

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吸音材の多用は、音質的にデメリットとなることが多いため、必要最低限にしたいのですが、ここは完成後にトライアンドエラーで調整するしかありません。

チューブ内部の吸音材も同様です。

AR-2への展開

 2020.3.22
AR-1.5で見えてきた課題への対策をAr-2に展開してみます。
AR-1.5ではシングルユニット構成だったため、タンデムのツインユニット構成にすることになります。
バックキャビティについては、Alpair-10PのVasが30L近くになるため、Qts=0.33という低いユニットで密閉箱平坦特性を狙うと65Lなどというとんでもない容積(実際にはユニットx2個なので更に倍!)になりますが、チューブ部分が空気抜きになるので従来の設計ではチューブ部分の容積も含めて約半分(30L弱)を狙っていました。

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上図は、キャビネット容積はほぼ同じで、ジンバルや保持構造をAR-1.5から展開したものです。チューブの共振周波数は約45Hzです。

今回は1/3(約20L)で設計してみました。(チューブ共振周波数は約48Hz)
ユニットが大きいので上図のようにキャビネットも必然的に大きくなってしまい点音源構想から遠くなることを避けたかったためです。また、ユニットのQts が低いので、それほど大きなうねりは立たないはずです。

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キャビネット内で2つのユニット間隔が近付くため、相互変調の確率が上がってしまいますし、チューブ構造が細くなるため、傾きへの余裕度やキャビネット「やじろべぇ構造」の質量バランスもクリティカルになります。
それでも敢えて設計変更したのは、音場再生を優先するべきと判断したためです。
設計しながらも、Alpair-6Pがあったらなぁ・・・と考えてしまいます。やはり10Pは点音源化には大きいですし、中域のニュアンス表現や空間表現は6Pのほうが高調波歪が大きいくせに優れていました。
6Pは耐入力が小さいという部分を除けば、非常に良くできたユニットでした。
後ろは向かず、前を見よ!・・・その前に、AR-1.5での検証が先ですね・・・。

メリディアンMQAに見るタイムドメインの取り組み

 2020.3.15
メリディアンのHP https://www.hires-music.jp/mqa/
を久しぶりに見ましたが、上記MQAのページに「AD-DA変換の際の時間軸情報の精度について」の記述がありました。
抜き書きしますと、「具体的には、再生可能な時間軸情報の解像度について、人間が検知できるとされる3μ秒に対して、既存の録音物についてMQAは10μ秒をターゲットとしています。音の立ち上がりの解像度で192k24bitの既存AD/DAのプレセスでは、約250μ秒のプリエコーが生じるのに対してMQAでは5μ〜8μ秒を達成。トータル(インパルスの前と後)のレスポンスでは500μ秒から10μ秒未満まで減少させています。」
とあります。
たぶん、「デジタルフィルタのプリエコーの影響がA/D、D/A変換後に聴感上の差異として検知されるのは・・・」という枕詞が付くのではないかと思われます。
また、ここでは、デジタル処理の折り返しにより発生するエコーと聴感上のディレイとの因果関係が何ら説明されていません。

私の把握していた聴覚のディレイ分解能は、十数年前に発表された「成人の平均で50μsec.」という認識でしたが、その後の検証で3μsec.という結果がえられたのでしょうか・・・?
1周期3μsec.は、約330kHz・・・とても聴こえるような周波数とは思えません。ましてや聴覚の位相差検出では約1.8kHzが上限(それ以上は多義性により定まらない)になります。
両耳到達距離差は音速340m/sec.として約1mm(両耳間隔を18cmとして角度換算で分解能は約0.32°)・・・首をちょっと動かしたら数mm動きますし・・・わざと首を動かして差分で検出するというのであれば、方向検知に使えるサンプル数が増えるので精度が上がるし、聴覚は変化分(微分量)に対する感度が非常に高い(逆に変化しないものには順応してしまい、感度がどんどん落ちる)ので可能性はあると思いますが・・・。
1周期50μsec.では20kHz、両耳到達距離差は約17mm(角度換算で分解能は約5.4°)・・・これくらいの数値なら常識的に納得できます。

数字だけを鵜呑みにして信じる事は、私は好きではないので、分からないながらも理屈をこねくり回して検証してみます。
上述のように、差分を検出するために首を振ることで距離差(ディレイ)のみならずレベル差、位相差、周波数スペクトラム(HRTFによる)などを数ポイント検出し、複合的に判断することが条件に含まれるならば、「人間が検知できるとされる3μ秒」というのも分かるような気がします。(土地測量の「三角法」を場所を変えて何回もやると精度が上がるのと同じ理屈です)

「測定する場合には、前提条件をキチンと決め込まないと、いくらでも数値が変わってしまう場合がある」「単なる数字合わせではなく、因果関係があるのかどうか、相関があるのかどうかが重要」ということを忘れてはいけないと考えます。

AR-1.5検証機の課題について その3

 2020.3.15
今回は、エンジン支持シャフトの補強&緩み止めと、高さ調整部の位置決め治具について記します。

まず、補強&緩み止めですが、ナイロンナットと、それを補強するアルミ板(保持シャフトと同様)で構成します。

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実証機なので必要ですが、固定してしまうならばネジロックがベストです。

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エンジン高さ調整部分φ16は、三脚のボディ部分に開けたφ30穴に入った形なのでφ30穴径で位置制限されますが、移動に伴い中心からは確実にズレます。
ここに示す治具(所定部分断面図のアイボリー色の部品)は、移動の際に穴中心に保持するためだけに使用する(設置したら取り外す)ものになりますが、コンテストの際に無くて一番悔やんだ部分になります。
セッティングは「音楽之友社」の担当の方にお任せだったため、床の傾きに対する三脚の調整もできず、且つ支持シャフトも三脚に接した状態で設置されていました。片側だけは中心位置になるよう手で修正しましたが、時間制約がある中での音出しのため、それ以外の修正は断念しました。歪感はかなり悪化していたと思います。
却って、「キチンと簡単に調整できること」が重要だと気付かされたという意味では次回への課題抽出になり、良かったと考えるべきと思います。

AR-1.5検証機の課題について その2

 2020.3.15
前回は、ユニットのフレームを固定する内枠の内面形状について記しましたが、バッフル板に取り付ける場合も同様の注意をすることで「音の詰まり感」を払拭できる場合があります。
特に古いユニットの場合には開口率が低いものが多く、開口部分とバッフル断面の部分が近いと背圧の流れが悪くなりますので、補強を兼ねたリング状鉄板の取り付け補助プレートを介して取り付けるか、もしくは取り付けネジ部分を避けてバッフル断面をテーパー上に削ることで改善できます。

今日の本題に入ります。
amp1 検証機の場合、キャビネットは、三脚に固定された保持シャフトの先端にある「やじろべぇ構造」でバランスを取っているだけですので、このシャフトにキャビネットの質量(約4.4kg)すべてが加わります。
シャフトの構造は、途中にエンジン部分のM20シャフトを逃げるためのリング状セットカラーがあるため接続部品が多く、接合部に外力が集中することが想定されました。
特に当初の設計から変更を余儀なくされた部分であるφ8アルミシャフトとセットカラーの接合部分はM4ねじで相互を固定して、周りをSGAアクリル系接着剤の『メタルロック』でガチガチに固めておきましたが、コンテストからの返却の際に接着剤にクラックが入ったらしく(剥離ではありません)、ねじ山ごとゴッソリ抜けていました。
補強対策として厚さ2mmの補強板2枚を介し、φ10パイプを被せて接着することになりました。(製作編での応急処置と同じ・・・現状、未対応です・・・)
AR-2の製作時には、材質変更(φ8鉄シャフトもしくはM8全ねじに変更)してセットカラーにM8タップを立てて固定すべきでしょう。

ユニバーサルジョイントとキャビネット間は、検証機では直接接着する方法を採りましたが、キャビネット部分にユニバーサルジョイント形状に合わせた嵌合部分(受け部品)を設けた方が接着時の作業性が良くなり、「製作編」に記したような接着ミスのリスクが減ります。(嵌めてから接着するための「接着剤注入口」を設けました)
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このシステムで重要なことの一つに、三脚に固定した保持シャフトが鉛直になっていないと「やじろべぇ構造」が成り立たないということがあります。
製作編でも示しましたが、傾いた床に置いた場合のシミュレーションを示します。
1°の場合(赤破線)と 2°の場合(橙破線)を示しましたが、2°以上傾くと、保持シャフトとテーパー部の内側が干渉します。この時、フット部分で高さ補正を実施するには約10mm程度の高さ調整範囲が必要になってきます。







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左図にフット部の構造アイデアを示します。 調整しやすさを考えて円盤状のつばをスクリューに固定しています。
調整範囲は15mm弱です。
エンジン〜キャビネット間のアイソレーションが出来ていると仮定して、一巡ループ(振動の帰還)を切るためのインシュレーション機能は付加させていません。
インシュレートが必要であれば、フットに組み込まなくとも、床にソルボセインを敷いて、その上に袋ナットの当たる部分の周辺だけに鉄板(ソルボセインが部分的に変形しないように、最低5cm四方ほどの面積が必要です)を敷いてやれば改善できます。
amp1 先週記載した床の改善を施してあれば、この対策は不要になります。

AR-1.5検証機の課題について その1

 2020.3.12
今年は早めに花粉シーズンに入ったため、検証機の改修時期を逸してしまい(現状、作業は屋外になるので・・・)、既に1か月以上が経過・・・おまけにコロナウィルスで外出もままならない状況になってしまいました。
楽しみにしていた第五回MJオーディオフェスティバル(3/15に開催予定でした)の中止も先月末に告知されました。
年齢のせいかもしれませんが、何もせずに時間だけが過ぎていく焦燥感やストレスを感じる昨今です。

検証機の重要課題としていたチューブに詰める吸音材の量とインピーダンス特性の関係や、それに伴う音圧変化、その試聴などが実施できていませんので、既に明らかになっている検証結果だけを紹介します。

まず、エンジン周りですが、内枠の形状を机上検証しました。
内枠の内面形状については、検証機ではユニットの取り付けに支障が出ない範囲でアールを付けています。(上から2番目の図)
amp1 amp1 amp1 amp1 Rを付けない円筒状だと内側に直径だけ離れた対抗面が出来るので、その半径(厳密にはVCボビンと内枠の距離)をλ/2とする定在波およびその逓倍定在波が生じますし、かなりの壁面反射波がユニットに戻ってしまいます。(黄土色矢印)
この反射波は0.3μs程度の遅延しか起こしませんが、距離が短いため振動板やVC表面での2次反射、3次反射でもレベル低下は微々たるものになりますので逓倍遅延が振動板に戻って聴感上の歪になる確率が高くなります。

不要なものは排除すべきなので、検証機の内枠では一部にRを施しましたが、円筒面の残っている部分では反射が発生しています。(黄土色矢印)
点線のように逆Rで法面を追加した場合には、青矢印のように反射して後方に放射されるようになります。
この法面追加は強度を補うのにも一役を担うので検証機にも追加したいと思いますが、樹脂充填では実現できませんのでエポキシ粘土を使って形成することになります。

奥行を取ってRをフレーム近くまで延ばした場合にはフレーム直近では角度が浅くなり、振動板側に戻ることもあります。
検証機の場合と同様に逆Rで法面を追加すれば改善されますが、開口率は検証機のほうに一日の長があります。

R法面のデメリットを改善する方法としてはストレートテーパーとすることが考えられ、法面反射はきれいに後方へと放射されます。(最下図)
ただし、強度的には逆Rで補強した方が良さそうですし、滑らかな法面はメリットが大きくなります。
また、お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、検証機以外についてはソルボセインの位置を変更することも考慮していて、外枠、内枠の奥行が若干変わっています。内枠〜外枠間の隙間を減らすことも考慮しています。

スピーカーを設置する床面について

 2020.3.10
拙著PDF『音質の評価について』の末文に「ピアノの設置場所が決まっている理由」について述べていますが、その部分について質問がありました。
「普通の家では梁(はり)が床のどこに入っているか分からないし、ピアノじゃなくてスピーカーの置き方を教えてほしい」というものでした。
まず、梁の場所ですが、拳でコツコツ叩けばある程度は分かります。梁でない部分はタイコになるので響きます。トライアンドエラーで見つけるしかありません。
スピーカーシステムを置く位置も、この梁の近くのほうが条件が良いです。

私の場合、以前からスピーカー設置場所には次のような対策をしています。
まず既存の床を傷付けないためにビニールシートを敷きますが、床が塩ビタイルの場合は移行性(くっついてしまう)があるので不可になります。表面が木目などの合板床材が対象です。
その上に1mm〜2mm程度のゴムシート(硬度は60程度)を敷き込み、更にその上に21mm積層合板を載せ、ゴムシートを敷き込んでから、その上にコンクリートタイル(300x300x60が入手しやすい)を3mmくらい空けながら敷き込みます。
もしタイルをモルタルで一体化するのであれば、そのほうがベターですが、タイル相互が分離していても効果がありますので、分離した状態で敷き込んだところから続けます。
その上に、ソルボセインのシート(厚さ3mmまたは5mmのタイプS:ソフト)を敷き込みます。ソルボセインにはタイルの凸凹を緩衝する効果もあります。
最後に1.5mm〜2mmの鉄板を敷き込んで完成。それより厚い鉄板が入手できれば、そのほうがベターです。
ここまでで、かなりの質量になっているはずで、上面の鉄板を叩いてもコツコツとしか音が出ないと思います。

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上記は、それぞれLch、Rchのスピーカーを設置する場所に2か所別々に施しても有効ですが、どうせやるなら左右のスピーカー設置場所をつなぐ部分も一体化してしまうと完璧です。
機械GNDの完成です。数万円の出費とかなりの体力が必要ですが、これでスタートラインに着けます。

この状態でスピーカーシステム(スタンドのある場合はスタンドも)を従来通りに置いて、音出しすると、「このスピーカーってこんな音が出てたんだ〜」とびっくりするか、もしくは「こんな音しか出ないんだ・・・この作業は無駄だった・・・」と落胆するかもしれません。
この設置状態で検討した結果は床の状況に依存しないので、検討対象の評価は床の要素を排除したものになるはずです。もし、後者のように落胆したとすれば、床が音質に関与していたことが疑われます。その音に満足しているならば、それも良いとは思いますが・・・。

物事は、基準があると評価がニュートラルになります。
耳タコの方が多いかもしれませんが、品質評価のツールに『パレート図』というものがありますが、この床改善はパレート図で一番影響度の高い(排除すべき)要素をクリアしたことに相当し、次の評価が正しく行える状況になったということです。
以前より提唱していますが、機械的なGNDを明確にすることは基本なのです。それがこの床改善になります。
極端な話、綱渡りをしたり、ブランコに乗ったりしているときに、地震が起きても体感では震度6なのか3なのか分かりません。地面に足を付けていて初めて震度の大きさを感じます。地面に立つことで、正しい評価が可能になるのです。

このくらいしか例が思い付かなくてすみません。
「機械的なGNDを明確にすること」=上の例で「地面に立つこと」と考えると、床改善がスタートラインだということが理解いただけるでしょうか?

ワーフェデール「スーパー8」

 2020.3.5
友人とのメールのやりとりの中で、ワーフェデールの20cm口径ユニット「スーパー8」をミッドレンジではなくフルレンジとして後面開放箱に実装して好結果を得ているという話がありました。
ワーフェデールと言っても、あまりご存じでない方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単に説明しておきますと、タンノイ(1926年創業)やセレッション(1924年創業)などと並び称せられる1932年創業の英国老舗メーカーです。
製品が日本に輸入されたのは、たぶん1950年代ごろからだと思います。
オーディオを生業として私が就職した1980年代初頭には、米国JBLやBOSEなどメジャー製品がもてはやされていて、あまり目立たない存在でしたが、昔ながらのデザインとドンシャリなヨーロッパトーンの代表格でした。

入社当時、蝶ダンパーを採用しているユニットとしてワーフェデール製ミッドレンジコーン「スーパー8」をOJTで教育された記憶があります。
残念ながら、当時、キャビネット実装した製品を検討で使用したことはなく、あくまでユニット裸状態での音出しだけでしたが、微小入力でもS/Nが良く、綿やコーネックス(難燃性繊維)にフェノール含侵した構造のダンパーとは一線を画すものだという印象を持ちました。

蝶ダンパーのメリットですが、材質がベークライト(紙や布の積層にフェノール樹脂を含侵して熱プレスしたもの)で物性が熱硬化性ということもあり、高温になるボイスコイルの支持には「もってこい」(熱可塑性樹脂では軟化してしまい保持できない)ということと、製法は平板(プリプレグ)を打ち抜き(ビク型抜き)して熱硬化させるだけですので、50年以上前の量産には向いていたのだと思います。
ユニットに使う音質的なメリットですが、硬くロスが少ない(Rmsが小さい)ことと、樹脂板ですので弾性領域での前後駆動リニアリティが良いこと(機械的に前後対称なので)が挙げられます。
フェノール含侵した綿やコーネックス製ダンパーとの大きな違いは、機械抵抗Rmsが小さい事だと思います。
これは「もろ刃の剣」で、本来支持系に求められる性能として @振動系に対するロス無く、且つ Aフレームに振動を伝えない(振動系をハウジングからインシュレートする)という相反する要求のうち「 @ロス無く」の部分だけを満たしています。綿やコーネックス製ダンパーの場合は機械抵抗を大きくすることで「 Aフレームに振動を伝えない」要求を満たすものになっています。
また、蝶ダンパーの機械抵抗が低いので微小入力リニアリティも良好なのですが、ストローク動作に耐える強度を保持するために「ある程度の厚さ」が必要で、そのために実効質量Mmsが大きくなってしまいます。

もう一つのメリットは、綿やコーネックスのダンパーが全面メッシュ状であるのに対し、打ち抜きによる開放部分が存在することで、動的スチフネスの上昇を抑えることが出来ることです。
綿やコーネックスのダンパーがメッシュ構造であるため、通気性が十分に確保できていると思われるかもしれませんが、ユニット単体で低域の正弦波を入力してみると、ダンパーから「風切り音」が聴こえてくる事が分かります。
これは粘性流体である空気が、ダンパーとハウジング&ボイスコイルで囲まれた空間に閉じ込められた状態で、振動系が高速で動くことによりメッシュの隙間から空気が漏れてくるときの擦過音です。
これは、気体である空気が狭い閉空間での圧力変化の速さに追いつかず、メッシュを通過する際の空気分子とメッシュとの粘性抵抗が大きくなり、閉空間の体積を保持しようとするために起きる現象です。
したがって、微小ながらも閉空間の圧力変動が発生してダンパーに対して制動がかかります。これは、振動系の振幅が大きくなるfs付近から下の質量依存領域の周波数帯で発生します。
大振幅(加速度上昇)になればなるほど、この部分のスチフネス(バネ性)が上昇し、同時に機械抵抗による熱損失(摩擦熱など)に変換されます。
加えた駆動エネルギーの多くが熱損失にバケてしまい、結果として動的Qmsは小さくなります。
これが音質に影響を与えないはずがありません。

一方、蝶ダンパーの場合には、抜き部分で外部とつながっているため、閉空間が存在しません。
当然、駆動(運動エネルギー)はダンパーの変位(位置エネルギー)に変換されるだけになるのでエネルギー変換効率が高い(ロスが少ない:ユニットとしての能率が高いわけではない)と言えて、微小入力時のリニアリティが良くなります。

ただし、良いことだけではありません。
上記の「もろ刃」の一つとして、振動エネルギーがハウジングまで伝播してしまうということが挙げられます。
したがって、鉄板製のハウジングでは共鳴が発生しやすく、ダイキャスト製などによる肉厚制振形状もしくは制振材料の使用、あるいは複合使用など、ある程度の強度と制振性が求められます。
またMmsが大きくなり且つ機械抵抗Rmsが小さいため、極端にQmsが大きくなります。(Qms = ω0Mms/Rms)
磁気回路がプアだとQesが小さくできず、結果的に総合Qtsが大きくなってしまいます。したがって、蝶ダンパーを使用したものはQts>0.5の場合が多く、トランジェント特性が減衰振動を伴うようになります。

逆にこの特性が「元気な音」「開放感のある音」に結び付いたりするのも、面白いところではありますが・・・。

温故知新。ユニットメーカーも蝶ダンパーを使ってみるのもブレークスルーにつながるかも・・・。
もちろん、そのままベークライトを使うのではなく、セルロースナノファイバーを添加したフェノール樹脂(高機能樹脂)などを使えば高剛性且つ軽量化が望めるし、固有共振についても形状を振動解析PCシミュレーションすることでQを低く設計できるはずです。
エッジもエラストマーとセルロースナノファイバーのコンポジット材を使うことで、薄く強靭で且つ内部損失の大きなものができるので、これらを組み合わせることで振動系の理想化が望めます。
もちろんハウジングも複数のコンポジット材の融合にして高剛性&Qダンプ・・・夢は広がります。

PDF更新

 2020.2.27
コロナウィルスが蔓延し始めました。
手洗い励行ですね。

外出もままならず、屋外での作業も花粉でできない状況で、PDFの見直しをかけました。
更新したPDFは以下の通りです。

 『アナロジー手法による電気系への変換とその解析』

 『音場再生の限界』

 『音声記憶の脳メカニズム』

 『ヘルムホルツ共鳴器』

 『音質評価について』

 『TSパラメータについて』

 『USBプロトコルとBULKモードのメリットについて』

 『歪とエントロピー』

ユニットのTSパラメータ比較

 2020.2.21
同じメーカーのユニットであっても、それぞれのユニットでは性格がどれくらい違うのかという質問を受けました。

一番分かりやすいのは、TSパラメータの横比較になります。
試しに、FOSTEXとMarkAudioの数種類のユニットで比べてみました。
細かいので、Ctrlキーを押しながらスクロールホイールを回して、倍率を変えて見てください。(戻すのを忘れずに・・・。)

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まずFOSTEXですが、ホームページに記載されているTSパラメータは機種によってバラツキがあります。数字が無く「-」の部分は記載のない項目になります。いくら演算で求めようとしても、情報が少なすぎて埋めることが出来ません。
ここに記載した一覧表のような形で提供してもらえるとありがたいのですが・・・。
MarkAudioの場合には、ほとんどのパラメータ情報を公開しているので、表を作成しても横比較が簡単にできます。

皆さんが一番馴染みのあるパラメータはFsもしくはF0でしょう。「振動系最低共振周波数」と呼ばれるものです。
ユニットの振動系がアンプから入力した駆動電流で発生したローレンツ力により駆動された場合、質量依存領域(Fsより低域において加振と同相で動く)と弾性依存領域(Fsより高域では加振してもほとんど動かない)の間で加振に対する位相が回転して90°になり、且つ振幅が急激に大きくなる共振周波数のことです。
詳細はPDF『ヘルムホルツ共鳴器』を見ていただくとして、もう一つQes(電気先鋭度)というパラメータがあります。
これは振動系を電気的にどれだけ制動できるかを表わすもので、振動系の機械共振の制御性能を表わします。この値が小さければ磁気回路とボイスコイルによる制動で共振の山を低くできます。
ユニットの総合共振先鋭度QtsはQmsとQesの並列で表されるためQts=(Qms・Qes)/(Qms+Qes)で求められます。Qmsは通常大きくて、それをQesで抑えるという形になります。
Qts=0.5の時に臨界制動、Qts<0.5で過制動になります。Qts>0.5では減衰振動となります。
扱いやすいようにQts=0.5を1つの目標にします。

この2つのパラメータから求められるEBP(効率帯域積)というものがあります。EBP = Fs/Qes で求められますが、Fsに対してQesが十分に低い場合にはロードがかかってもドライブできることを表すため、EBPが大きいユニットはバックロードホーンなどに向きます。
逆にEBPが小さい場合には、振動板がやたら重くてロスが大きいか、ドライブ性能(BLを大きくしてQesを低くする)が不十分か、Fsが極端に低いことになるので、密閉箱の中の空気で支えてやらねばなりません。
目安としては、EBPが50より大きい場合にはバスレフやTQWT、120くらいあればバックロードホーンにも使えるかな〜ということになります。EBPはあくまで目安なので、たとえ40しかなくてもバスレフに使えないということではありません。最近のユニットでは概ね80以上のものが多いと思います。
MarkAudioのユニットはバスレフかTQWTあたりが向いていて、FOSTEXのFE103NVなどはEBP = 184という値でバックロードホーンのために設計されたユニットであるという見方ができます。FE108EΣはQts(Q0)が0.3という情報しかありませんがEBPはたぶん大きく、バックロードホーン用に専用設計されたユニットだと思います。
かと言って、密閉箱ではダメかというと低域がダラ下がりになるだけで、振動板が軽いユニットに共通のタイトで立ち上がりの良い音質には変わりありません。

検証機のアナロジー解析 PDF更新

 2020.2.20
PDF「アナロジー手法による電気系への変換とその解析」にAR-1.5検証機の内容を反映させました。
例によって、見直し、追記も実施しています。

検証機のアナロジー解析について

 2020.2.18
後追いになりますが、アナロジー変換を行ってみました。
まず機械要素による構成図ですが、以下のようになります。

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構成図には、ユニット磁気回路のボトムから質量の大きなM20シャフトとナットなどで構成した「グランドアンカー(富士通テンの名称に倣いました)」を経由して「支持シャフト」で床に至る構造と、床に置いた三脚に固定された「保持シャフト」の上に「キャビネット」が載せられている構造があり、それぞれの構造の端部であるハウジングとキャビネット間にはソルボセイン製の「シーリング」が入っています。
シーリング(sealing)とは、その名の通りシール構造であって、理想的には振動を伝えず、且つ空気の流れを遮断する役割だけを果たしてほしい部品になります。

構成図を基にノードに置き替えます。

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これをループ変換してF-Vアナロジー図を得ます。ここでは、Lが「慣性質量」、1/Cが「ばね定数」、Rが減衰「粘性係数」要素になります。

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支持シャフトとハウジングの減衰要素および弾性要素は十分に小さいと考えられるので、回路的にはショート(短絡)に近くなると考えられます。また、前述のようにシーリング部分の減衰要素および弾性要素は十分に大きいので、オープン(開放)に近くなると考えられます。

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上図は極端な例ですが、インピーダンスの低い仮想グランド(磁気回路+グランドアンカー+支持シャフトの合成質量)を含むループを反作用による電流が流れ続け、「キャビネット」や「保持シャフト+三脚」には流れなくなります。
これはハウジングの弾性と減衰が小さいとした場合で、インピーダンスが高くなる(1/Chが大きく構造的に弱い:板金ハウジングのように「たわみ振動」しやすい)とエッジやダンパーに流入する反作用が増えて、振動系での混変調が発生します。
これが、「ハウジングは重要なパーツだ」と力説する理由です。

いずれにしろ、理想的に機能すれば、キャビネットを振動要素から外すことが出来ます。(「床が『理想的なGND』と同等である」と言うことが前提条件になります)

接合部の応力と歪について

 2020.2.16
昨日、JVCケンウッドのウッドコーンシリーズの記事を書いていて、思い出したことがあります。
CDプレーヤーの量産設計に携わっていたころ(約30年ちかく前)の話ですが、プレスによる曲げ絞りをして側面一体成形した量産シャーシと、その底板と立ち上げを残して側板を切り取ったシャーシに別に作った側板(同じカラー鋼板)をねじで組み付けたシャーシ(改造品)で音質を比較評価したことがありました。
当然ながら前者のほうが後者に比べてコストが抑えられるため、価格が下落していく売れ筋製品に対応するためには前者がマストになっていました。
では、なぜ比較実験をしたかというと、「シャーシを叩いてみたら、前者の音と後者の音が何となく違うのが分かり、次期モデルのために音質を比較検討して欲しい」と依頼があったのだと記憶しています。そのころは、売れ筋でも音質の優先順位が高い時代でしたので・・・。
実際に吊るして叩いてみると、前者、後者ともに10〜15秒程度?でほぼ収束したと思います。ピッチ(周波数)は後者のほうが若干低い、前者のほうが甲高いくらいの違いだったと思います・・・逆だったか・・・自信がありません。加速度ピックアップで記録した減衰振動のエンベロープ波形を見せてもらいましたが、大きな差はなかったと記憶しています。
後者のほうが共振周波数の異なる2つの部品をスクリューで結合しているので、接合部分に歪んだ不連続部分ができて収束が早いはずと想定していましたが結果は違いました。
AE(超音波探傷:UTまたはUIとも言う)にかければデータに差が出たでしょうが、それは後者に部品相互の境界面があるのだから当たり前です。
FFTで周波数領域の特性も確認しましたが、前者に比べて後者の方が主(1次)共振のピークが若干低く、高調波ピークが大きくなる傾向があって、「へぇ、こうなるんだ」と納得した記憶があります。
この後、音質検討のために製品に組み上げたのですが、その音質には差が生じました。各々3台同時組みをしたかったのですが諸事情から改造品の2台だけになり、量産品2台との比較になりましたが、結果的に2台とも後者(改造品)の勝ちでした。
前者の2台は、どちらも腰高で、音像が床よりかなり浮いてしまいました。それに、後者に比べて中低域のS/Nが悪い傾向がありました・・・たぶん。
「2台は手組みしたんじゃないの?条件が違うでしょ!」と言われそうですが、念のため(というか、自分たちで組むのが面倒くさかったのかも・・・)ライン投入して組んだとのことでしたので、条件は一緒です。
モーダル解析はしませんでしたが、大きな差が出るとは思えません。
これは、複雑な形状を冷間プレス成形したために潜在応力が内在したことが原因なのか・・・結局、当時の環境では原因解析できぬまま今に至っています。

同時に行ったもう一つの実験として、その量産モデル(ミニコン)では組み上げ用にNiメッキのタップタイトねじを使っていましたが、上記の側板接合およびシャーシとリアパネルとの接合部に銅メッキねじを使った場合の音質比較もついでに実施しました。
結果は、皆さんの中にも経験された方がいらっしゃるかもしれませんが、音にピーキーなところが無くなり音場の見通しが良くなりました。この時には、組みなおしたことによる応力の分散もあったかもしれませんが、銅ねじを使用している他モデルでの経験から効果があることは把握していました。
これも当時のデータには出なかった内容で、「銅メッキねじを使うことで異種金属が間に入るので、クッションのように馴染むから共振ピークが消える」と言い張る同僚もいましたが、銅メッキ(無電解)の厚さからいっても納得できる説明ができないことの一つです。
一度組んでバラしたときに、タップタイトが刻んだ「ねじ穴の条」に銅が付着していることがある(ニッケルメッキねじでは起こらない)のは確かで、硬度は銅<ニッケルになります。このあたりがヒントなのかなぁ・・・。

経験的には、出来る限り大きな曲げ構造は曲げ絞りに組み込まず、別体で用意して銅メッキねじ+銅ワッシャで固定したほうが、組み込みバラつきが減るためベターと考えます。
また、断面がおにぎり型のタップタイトねじは自作にもメリットがあり、締め付けトルクの細かい管理ができるし、ねじバカも多少は防げます。シャーシ材は鋼板でもアルミでもOK。メーカー製のように下穴にバーリング加工がなくても板厚さえ稼げばOKです。
バラツキ削減にはトルクドライバーがベターとは思いますが、意外とハンドドライバーによる手締め(一度締めてから少し戻してシックリ締めなおす)がDIYの場合のベストな方法になります。

一番重要なのは、石定盤は無理ですが、応力歪を内在させないために、できる限り水平の取れた平面上で組むことです。何事も基準が大事です。

検証機におけるキャビネット共振のシンプル化

 2020.2.15
通常のキャビネットの場合、ユニットはバッフル板にスクリューで固定され、キャビネットと床との間は3点もしくは4点のポイントだけでスタンドや直接床に接地する構造を採ることが多いと思います。
以前にもお話ししましたが、この場合、バラツキ要素の一つ目は、@ ユニットのハウジングをバッフルに取り付ける際の各スクリューの締め付けトルクのバラツキです。
バッフル板の下穴状況にも因りますが、木ねじで直接固定する場合に発生しやすいと言えます。これによりハウジングに加わる応力分布が変わり、ハウジングの歪量(変形量)に応じた振動モードが発生し、且つバッフル板との間の機械インピーダンスも変化するため、一番強く締めた(機械インピーダンスの低い)スクリュー部分からの振動エネルギー伝播が大きくなる傾向があります。
実際には「ガスケット」や「クッション」と呼ばれる介在物を間に挟んで緩和しますが、それでもバラツキは防げず、鬼目ナット(メス)+キャップスクリュー(オス)などを組み合わせてトルク管理するのが早道と思います。木ねじはお薦めしません。

このようにバッフル板とユニットハウジング間のバラツキを減らしても、A バッフル板へのユニット取り付け位置が物理的なセンターでなかったり、補強がアンバランスに施されたりしてキャビネット自身の構造がシンメトリでない場合には、逆に締め付けトルクをそれぞれの取り付け部分でトルク値を変更したほうがキャビネット側の振動(共振)モードのQ(振動先鋭度)が低くなることもあります。
このあたりを考慮した例としてJVCケンウッドのウッドコーンシリーズEX−A300があり、敢えてユニット取り付けスクリュー4本のうち1本の材質変更をして共振モードのコントロールをしているようです。

更に、B ブックシェルフ形状(直方体)キャビネットをスタンドや直接床に設置する際には面での接触による不安定さ(面上のどのポイントで床と接するかが不確定)を防ぐために3点もしくは4点保持をするための構造(メーカー製では金属製ニードル形状の足など)を設けますが、この接地ポイントでキャビネット底面の振動モードが決まります(このポイントが振動の節になる)ので、底面のどの位置にポイントを設けるかといった位置管理が必要になります。この位置(通常は影響の少ない低次定在波の節に当たる部分を選択)によって音質傾向がかなり変わります。
振動(共振)の振幅を抑えるために、ある程度の面積を持った座布団状のエラストマーを介して床に直置きするほうが結果的に良かったりすることもあります。

@A のようにキャビネットにユニットを取り付ける部分の影響を受けて音質がコロコロ変わってしまうならば、キャビネットとユニットの関係を浮かせてしまおうというのがARシリーズで採用しているフローティング法です。
下図の左側は検証機の断面構造ですが、エンジン部分とキャビネットとの間(実際にはフローター内枠と外枠の間)にはソルボセイン(低反発エラストマー)のインシュレータが入っているように見えますが、構造的にはエンジンとキャビネットは別々の保持方法を採っていて、ソルボセインは双方の隙間を埋めるエアタイト構造のためだけに存在します。
これはオリジナルではなく、富士通テンECLIPSEシリーズのデフュージョンステイ先端に取り付けたエラストマーによりキャビネットを浮かす「仮想フローティング」機構とユニットハウジング外周に取り付けられたエラストマーによるエアタイト構造に類似しています。

B については、キャビネット共振モードを最も単純化する(外乱要素を少なくする)にはどのような方法があるのかを色々考えて、辿り着いたのが「やじろべぇ」方式になります。

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上図の右側が三脚に固定された保持シャフトとキャビネットの関係です。
保持シャフトの上端がユニバーサルジョイントになっていて、この回転軸部分が「やじろべぇ構造の支点」になります。
このようにすることで、支点以外の部分ではキャビネットのどこにも接触することなく保持することが出来るので、応力歪からはフリーになります。
デメリットは、キャビネット自体のQが高いので(振動しやすい音叉に類似)、特定の周波数で共振ピークが立ちやすいことです。現在は未対応なので、MDF特有の響きの汚い共振が悪さをしているかもしれません。
内壁にQダンプを施して、どのように変化するかも検証してみようと思っています。

積極的に共振を利用するためにカエデなどの材料を使ってキャビネットを作り、鳴きを楽しむという手もありますね。

「技術情報」ページを更新

 2020.2.12
「技術情報」ページを長い間更新していなかったので、ちょっとだけ変更しました。
トップにカテゴリー分けを付けました。

    1.スピーカーユニットに関連した項目
    2.スピーカーシステムに関連した項目
    3.聴覚と脳に関連した項目
    4.アナロジー関連
    5.音響理論関連
    6.新技術関連
  • 「技術情報」へ

その他の項目についても、サムネイルを新しくして見やすさを心掛けました。各項の終わりに「サイトトップへ」というタグを付けましたので、素早く「ホーム(このページ)」に戻れます。

「タイムドメイン」の項は、ちょっとだけ加筆しています。
ユニット単体ではリニアフェイズ先鋒に位置するアルテック604については劇場用だと勝手に思い込んでいましたが、最近、潜水艦のソナー用として政府の補助を受けて開発していたことを知りました。時代背景が伺われる話ですね。

タイムドメイン社の吉井さんがONKYOのセプターシリーズ開発に従事していたことも今まで存じ上げませんでした。勉強不足がバレバレですね。

表示エリアの拡大

 2020.2.8
遡って、今年初めの記事から表示エリア幅を15%広げました。( ul タグを外しただけなのですが、不具合があったらご連絡ください)
その代わり、タイトルとの「字下げ」が無いのでそれぞれの記事のメリハリは減りましたが、図表や写真の大きさを優先しました。
多少、見やすくなったでしょうか?

PDF「TSパラメータ」 誤記訂正など 改訂

 2020.2.8
PDFファイル「TSパラメータ」のBL説明の中で、逆起電力Eに関する式 (3)の N を「総巻線長さ」と表記していましたが、これは「総巻線数」の間違いでした。申し訳ありませんでした。
また、μ(比透磁率)の補足説明と、ギャップ周辺でのμ値変動例を示したグラフ、代表的な物質のμ値の表などを追記し、Rev.2.10としてアップしました。

PDFファイル
 『TSパラメータについて』

OM-MF519を使った検証機 改善1

 2020.2.7
戻ってきた検証機で、一ケ所変形しているところがありました。三脚の足に設けた高さ調整用スクリューがちょっと曲がっていました。ここもある意味想定内でした。やはりM4では心もとないですね。
保持シャフト部分の修理と一緒に、この部分も再設計&改修することにしました。

傾きのシミュレーションを実施した際に、1°傾いた場合のチューブ下部の移動量は確認しましたが、足の高さ調整部分でのスクリュー移動量は求めていませんでした。
改めて求めてみると、5.5mm以下です。(間隔が1mで17.5mm弱:1000 x tan 1°)
ということは、可動量は10mm程度あれば十分ということです。
接地場所を移動する度に調整が必要なのに、現状の構造だと足を持ち上げてナット回転&固定用のレンチ2本を使わなければならず、作業性が非常に悪いです。
回転させる利便性を形状に、固定性をナイロンナットに持たせるようにして、以下のような案を考えました。

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向かって右が低くした場合、左が高くした場合で、3種類を考えました。可動域は約17mm・・・ちょっと大きいので製作時に調整します。
右端は今までのものとほぼ同じ構造ですが、スクリューの固定にナイロンナット(ガイド用に鬼目ナット)を使って「固定できる長ナット」の役割を持たせることで、袋ナット部分にレンチをかけて回せば高さ調整ができるようにしています。この構造は3種類共通です。
あとの2つは袋ナット&スクリューAssyに足と同径の部材を抱かせることでレンチを使わずに高さ調整ができるようにしたものです。
一番左のものは、床がほぼ水平であると想定して、移動量が小さい場合の見栄えを改善したもので、構造は複雑になります。
実験&デモが主になるし、追加工であることを考えて中央もしくは右の案でいきます。

保持シャフトの修理は、もう片chと同じ構造にすることで対処します。
AR-2では、アルミシャフトではなくスチールシャフトを設計段階から想定することにします。

OM-MF519を使った検証機 寄り道

 2020.2.5
検証機が昼前に戻ってきました。
1台はキャビネット保持シャフトが外れた状態でした。
これは、ある程度想定していたことです。
タイムリミットぎりぎりで車で持ち込んだ時は、自分で運んだし、取り扱いにも注意したので問題ありませんでしたが、返却は宅急便です。
φ8アルミシャフトとリングカラーの接合部はM4のイモねじを介してつないだだけでしたので、SGA接着剤で根元を補強して出品しました。
応力は、構造上弱い部分に集中するので、ここがやられました。
接着剤が割れて、アルミシャフトのネジ山がガバガバになって外れていました。
強度計算などしていませんでしたが、噛んでいるねじ山は5〜6山(P=0.7で4mm前後)で乱暴に扱ったら・・・乱暴でなくても不用意に移動して大きな応力が加われば接着剤などヒトタマリもない・・・ここがやられちゃうだろうな・・・くらいは考えていました。
皮肉にも、作業を間違えて2回も固定方法を変えたもう1台(外部応力に対する強度は明らかに上)は無事でした。

すぐには検証に入れませんが、怪我の功名かもしれません。
検証の途中で事故が起きるより、今のうちに対策しておくべきですね。
輸送試験をしたと思えば、気が楽です。

バラしてみると、ちょっと欲が出ました。
塗装が中途半端なので仕上げたいという欲求です。
元々、鏡面塗装にトライして出品する予定でしたが〆切りに間に合わなかったために中途半端で出した心残りがありました。
今の季節は乾燥しているので塗装には向いている?のかもしれませんが、気温が低いので乾燥時間は長くなります。時間は貴重です。
ちょっとだけ悩んだ末、修復後に検証を優先し、完了してから塗装にトライすることにしました。

ところで、インピーダンスの測定ですが、いつものようにエクセルで作った対数グラフに数ポイントの実測値をプロット(数値表から展開)するのもちょっと面倒だし、何よりポイントが少ないので見栄えも良くないので、何か良い方法はないかとWebを探してみたところ、『創造の館・音楽苦楽部』というサイトを見つけました。
https://souzouno-yakata.com/audio/2017/10/15/25527/

まず、WaveGene(無償信号発生アプリです)を入力源として、ユニットと直列に入れた固定抵抗とユニットの分圧(出力)をICレコーダーのライン入力(L/Rch)で.wavファイルとして取り込みます。
WaveSpectra(FFTと周波数表示などの機能がある無償アプリ)にそれぞれのファイルを読み込み、処理して.WSOを作る。
用意してくれているExcelマクロ(インピーダンス特性計算マクロ)で読み取れば、インピーダンス特性グラフができてしまうという「とんでもスグレモノ」です。

実はICレコーダーを持っていませんので、ライン入力のあるレコーダーで安いモノを探してみようと思います。

OM-MF519を使った検証機 捕捉その2

 2020.2.5
ちょっとした手違いがあったようで、検証機は今日戻ってきます。
やっと本来の目的である「スチフネス検討」ができます。

友人から「ところで、その検証機とやらは、どのような方式のキャビネット構造なんだぃ?TQWTの原理図みたいなの描いてあったけど」と問われ、「設計編に書かなかったっけ?」と言ったものの、慌ててPDFを見直しましたが、目的についての記述が先行してしまって曖昧な書き方になっていました。
早速、訂正して再掲しました。

PDFファイル
 『AR-1.5 設計編』

それでも分かりにくいと言われそうなので、ここで補足しておきます。

形状からは分かりにくいのですが、動作としてはバスレフと密閉箱の中間的なもの(ほとんど密閉箱)を狙っています。
TQWTの動作原理図を描いたのは、形状からTQWTを連想されるであろうことを考え、それとは違うことを示したかったこともあり、かと言ってバスレフそのものでもない・・・錯共鳴管方式(Complicated resonance system:錯=単純ではないという意味)の一種であることを示したかったからです。
Martin J. Kingが2002年にシミュレーション検証したTL(Transmission Lineトランスミッションライン:TQWTの原型)方式を参考にしていて、彼のシミュレーション結果で「チューブに吸音材を大量に入れることでQダンプできて密閉箱の特性に近付く」ことを利用しようと思いついたからです。
バスレフ方式は低域を補う優れた方式として広く採用されていますが、これは周波数領域での話であって、時間領域ではデメリットが大きい(位相が180℃遅れる=トランジェント歪)と私は考えていますので、本来は密閉箱か、できれば振動板の前後空間スチフネス差の影響の無い後面開放にしたいのです。
ところが、後面開放は、後面に放射された音波の回り込みがありますので前面放射との干渉(=歪)が生じます。
そうかと言って、小さな容積の密閉箱ではチャンバー内のスチフネスが大きくてオーバーダンピング気味の音になります。
このように辿っていくと、密閉箱+音漏れを最小限にしたスチフネスの十分に小さいエア抜き構造という構想に至りました。
そこで白羽の矢を立てたのが、上に記したTLの吸音材を詰めた方式『Stuffed Transmission Line』です。
http://www.quarter-wave.com/TLs/Test_Line_Results.pdf

これをバスレフに導入・応用してみようというのがスタートでした。
それとキャビネット内部での反射波を何とかしたい・・・B&Wの『Sphere and Tapering Tube』もパクりたい。(言葉が悪いですね・・・)
今回のMF519は金属振動板ですが、AR-2は薄い紙製振動板なので、内部反射波が透過して前面放射波と混変調を起こす、もしくは振動板を励振して混変調を起こすことを避けたい・・・。
結果として出来たのが、AR-2のキャビネット構造でした。(設計途中で休止中)
検証せずに導入するのはリスキーなので、検証機では1つのユニットを使い仮想グランド構造を採用することでAR-2の「やじろべぇ構造」を再現することにしました。

以上が検証機の形状に至った根拠です。
戻ってきた検証機では、吸音材の量でQダンプがどの程度できるのか、構想通りにスチフネス低減効果があるのか、それがどう音質に影響するのかを検証する予定です。

接地(アース)とグランド(GND)について

 2020.2.3
アースとグランド・・・皆さん、違いが分かりますか?
時々、オーディオ談義をしていると話が何となく食い違うことがあります。
先日、電気設計や工事に携わったことのない一般の方(もちろんオーディオの好きな方です)と電源に関する談義をしていて気付いたのですが、一部の方はアースとグランドを混同しているようです。
アースは、通常「大地アース」のことで、電流をいくら流しても0Vを保つのが(抵抗値0Ω)理想です。実際には施工条件(材料や方法など)によりバラつくので、C種とかD種という規格が存在します。
また「アースする」と言った場合には、大地アース(実際にはアース端子)に接続することを意味します。この場合、電流が流れることを想定します。(グランドするとは言いませんね)
一方、グランドと言うのは共通電位(基準電位)の意味で、製品や設備、その中の基板Assyなどそれぞれのブロックに存在しています。意味するところは「インピーダンスを低くして、できる限り電流の影響を受けずに一定電位を保つ部分(電流が流れない=合成電流がゼロと想定する部分)」となり、ローカルな意味で使うことが多いです。
グランド(基準電位)=アースではないことに注意してください。
詳しくは、
https://detail-infomation.com/ground-and-earth/

をお読みいただくとして、グランドにも種類があることを以下に述べます。

書物や製品本体、製品の取扱説明書などで良く見かける表記に以下のようなものがあります。
FG:Frame Ground(フレームグランド)
LG:Line-filter Ground(ラインフィルタグランド)
SG:Signal Ground(信号グランド)
グランドではありませんが、
PE:Protective Earth(保護接地)

最近のオーディオ回路図では、SG(信号グランド)の中にAG(アナロググランド)とDG(デジタルグランド)を分けた表記が目立ちます。
これらは「それぞれの回路ブロックでの共通電位」という意味です。
デジタルグランドには処理素子による多数の高周波パルスノイズが重畳しているため、インピーダンスの低いポイントでアナロググランドと接続しないと基板Assy自体からの不要輻射が大きくなり、且つアナログ出力にも流出します。
パターン設計で注意しなければならないのは、ループを小さくすること(パスコンやデカップリングは素子直近に!)、DGは輻射を考慮してベタアースを基本とすること、AGは電流が比較的大きいラインの共通インピーダンスに注意すること、インピーダンスの低い方にノイズ電流が流れるということを忘れないことです。
機械構造でも同じで、機械インピーダンスの低い方に振動や応力歪のエネルギーが伝わります。電気、機械によらず、自然界のすべての事象が「エントロピー極大の方向に向かう」ということです。

話が逸れましたが、それぞれの違いを記してみます。 FGは、製品の筐体電位のことです。シールドとしての機能も持たせるのであれば、FGの対地インピーダンスを十分に小さく保持すべきです。
LGは、電源ラインフィルタやYコンデンサ(ノーマルモードフィルタ)の帰還電位のことで、ここをフローティングにするとAC電位が現れて危険です。キチンと接地が必要です。
http://t-sato.in.coocan.jp/terms/xy-capacitor.html

PEは、「保護接地」の意味で「グランド」ではありませんが、輻射対策や絶縁対策、誤動作防止等でLGをFGにつないでいる場合には感電防止を目的としたPE端子が筐体に付いていますので、必ずアース端子に接続して下さい。洗濯機のアース線も同じです。
蛇足ですが、アース線は緑色、もしくは緑色と黄色のツートーンが推奨されています。

SGは、上にも記しましたが信号系のグランドのことで、基準電位だけ決めて、FG(筐体)からDCフローティングする(コンデンサを介して高周波ノイズだけバイパスする)こともあります。

TAB2020

 2020.2.2
昨日、コロナウィルスに心配しながら、東京・秋葉原で開催されているTokyoAudioBase2020に行ってきました。
HPにもコロナウィルスの注意喚起が掲載されていましたので、マスクをして向かいました。(実際にはマスクは感染予防にはほとんど効果が無いみたいですが・・・何と言っても手洗いと手のアルコール消毒ですね)
昼前にホテルに到着しましたが、例年以上に閑散としています。
まずは、フィディリティムサウンド、四十七研究所、アムトランスのブース(会議室2)へ。
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ちょうど和田さんの公演が終わるところで、アンプ組み込みアクティブスピーカー Duo5Active の音出しが終わったばかり・・・。
製品音出しのタイムスケジュールが分からなかった(Webで確認できたかも・・・)ので、受付でもらったスケジュール表を見て、新製品はこのタイミングと思い、急いで向かったのですが・・・。
オプションとしてケネス・ウォンさんによる手巻きトランスを使った24V安定化電源があるとのこと。それを使った音出しだったそうです。残念!

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次は、光城精工で小原由夫さんの講演(会議室3)。
PWMインバータ方式のリジェネレータ新製品DA-6(600VA)と旧製品のArayU(1kVA)、そしてノーマル電源(商用電源)を順次切り替えての聴き比べ。インバータの点弧制御は、IGBT(独立ゲートバイポーラトランジスタ)の入手難で、SiC-SIT(シリコンカーバイトを使用した静電誘導型トランジスタ)へと変更していますが、SiCはSiに比べて耐熱性、耐圧ともに優れています。音質的にも優位性があると話題になっています。(話題になっているのはSiC-MOSFETですが・・・)
最初に音が出た瞬間に分かりました。ノーマルに比べ、音像の結び方は雲泥の差。まず音離れが良い。旧製品に比べて新製品のDA-6は容量が小さいのに打楽器などで破綻することなく、音像が締まってS/Nは勝っていた。奥行方向も見通しが良く、天井に音が抜ける感じもよく再現できている。敢えて、旧製品より劣っている点を挙げれば、床の位置がちょっと上がって聴こえた(そうは言ってもノーマルの場合の楽器が浮いた・・・地についていない感じは完全に払拭できている)ことだろうか・・・。それでもノーマルとの差は旧製品でも十分に実感できた。
これは経験上、商用電源に挿すプラグ極性を入れ替えた時(日本の100V電源はニュートラルN側が接地されています)の差に似ていて、そう・・・柱上トランスから近いお宅と遠いお宅の違いにも似ています。
基準となる中点電位がフラフラしているか、しっかりと定まっているかの違いだと考えればほぼ当たっています。
会場はホテルの会議室なので、キュービクルを介しての給電になっていて条件は良いはずですが、それでも差が出ました。
基準電位が、いかに重要かということでしょう。
ご自宅が柱上トランスから近く、地面に銅棒を打ち込んでC種に相当する(10Ω以下)接地工事をされている方には、差が分からないかもしれません。通常の接地はD種(100Ω以下)です。それも値の確認は、銅棒を埋設した地面の直近で計る簡易測定(逆算法)の場合が多く、部屋のコンセント部分では保証されません。(屋内配線の抵抗値が直列に入ります)
経験上、波形の崩れや電圧変動より接地不十分のほうが、音質が悪化します。
リジェネレートは基準電位を0V(中点電位)としてプラスマイナスに同じ交番電位を作ることに他ならないのですから、局所的に見て改善されるはずです。
小原さんには失礼ですが、途中で次のブースへ。

会議室6はネットワークジャパンのブース。AURUM9シリーズの音出し中。エッジが立ってスピード感を感じる音。リボントゥイータquSENSEの新型を搭載して超高域まで再生帯域が伸びているようですが、緊張感が在り過ぎて疲れる・・・。同じように高域が伸びているB&Wのダイヤモンドシリーズではニュートラルで寛げるのに・・・もう少し中域の情報量が多くても良いのでは。
カタログにある「プレッシャーチャンバー方式」とは?ダクトの共振音圧を利用してQダンプ?・・・「前面と背面の負荷を完全にバランス」とありますのでスチフネス改善?・・・いままで気づきませんでした・・・要調査ですね。

会議室7(カジハララボ、SAEK、ZYXの共催)は、談話中だったのでパス。

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ROOM Vではカレッジ対抗手作りスピーカー対決と名打って芝浦工大、東京都市大、立命館大の作品展示と音出し。写真左が芝工の迷路トランスミッションライン型、テーブル上左端が立命館大の3バスレフ型、床置きのオレンジ色円筒が東京都市大の革製チャンバー方式。
いずれもユニットはOM-MF519で、芝工と都市大のものは去年の夏、月刊STEREO8月号の企画で作ったものです。立命館大のものは1月にコンテストに出したものです。
学生だし、初出展なので仕方ないけれど、ポスターセッション+アルファで留まっていたのは残念。どれも「アイデア先行で作りました」までで、そこから効果の確認〜解析や理論的な裏付けなどに発展できるようになれば・・・かく言う私も学生の頃は形を作ることのほうが楽しくて楽しくて、失敗したら次にトライだったのだから・・・後輩の躍進を望みます。

予定があるので短時間で引き揚げ、帰りにmAAch(マーチエキュート)に立ち寄り、旧万世橋駅のジオラマを撮影してきました。

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昔の街並みのほうが、人間がゆったりと生きていたようで羨ましさを感じるのは、自分の心に余裕が無いからでしょうか・・・。

OM-MF519を使ったシステムの製作 捕捉

 2020.1.31
PDFの内容について、配線の種類「VFF」って何?との問い合わせがありました。
私も「ビニル被覆線で、屋内配線には使ってはいけない」くらいの知識しかなかったので、調べてみました。
そもそも「ケーブル」と「コード」の違いって何?・・・からですが、出典によりずいぶん違い、総じると、「コード」は可撓性(フレキシブル:変形しやすい、曲げやすい性質)を有する外装電線(=一重被覆)を表わし、「ケーブル」は単数もしくは複数のコードを絶縁被覆(シース)でまとめたものを表わし、それぞれにシールドの有無もあります。
キャブタイヤの特殊なものでは伸長防止にピアノ線を入れたり、綿糸を一緒に撚ったりするものもあり、心線(芯線)は単線も撚り線も混在しているようです。
屋内配線用は、基本的に単線だと思います。
ケーブルは600V以上、コードは300V以下という説明もありましたが・・・。
よく見かける配線材の種類には、以下のようなものがあります。

amp1 厳密な棲み分けはJISや電安法(旧電取法=PSEマーク規制法)に拠るとして、一般にケーブルはコードより絶縁性が高く被覆が丈夫な配線材ということでしょうか・・・。

VFFは、ビニル絶縁ビニルシース可撓ケーブル平形ということで、材質がビニル(ビニル基から成る高分子樹脂:通常はPVC塩ビ)であれば一重被覆も二重被覆もありますが、実際に使ったものは、1.5sq(断面積が約2.3mm^2)の軟銅撚り線をめがね状(平形)にビニルシースで被覆したものです。
配線材としては一般的なもので、芯線は無酸素銅ではなくただの軟銅線です。

以下は持論になります。
シースは「芯線を保護する」役割が主ですが、その材質により可撓性に差が出ます。
シース材質に応じて制振性も変わってきますので、皆さんが気にする音質は、この部分の影響が大きいと考えます。
特にスピーカーキャビネット内の配線については、励振されやすい環境にあるため、影響は拡大されると思われます。
それを防ぐには質量の大きなものにピタッと沿わせることが有効ですが、沿わせる材質により相互浮遊容量(stray capacity:ストレイキャパシティ)の影響が変わってきます。
金属に沿わせた場合には、芯線と沿わせた金属が電極となり、シースの材質がそのままコンデンサの容量要素となりますので注意が必要ですし、電磁誘導も発生します。
また、シールド層を持つケーブルの場合にも同様に浮遊容量による分布定数を持ちますから、その影響もあると思われます。
したがって、ケーブルには @ 単純な構造で、A 振動しにくく(可撓性が良く)、B シース材は誘電率の低い、C 硬いものが良いと考えます。(優先順位もこの順)
高価なものには複雑な構造のものが多いですが、良かれと思うことをみんな詰め込んだ結果だと思います。要素が増えるということは、それぞれの影響が合算される訳で、それがプラスに行くか、マイナスに行くかは、周囲の環境も含めてバラつきます。
ベクトル量の合算は、「ある側面から見たスカラー量」に変換するとプラスにもなるしマイナスにもなるという記事を数週間前にパレート図の説明の中で記述しました。
それであれば、材質を上記の4条件で厳選したシンプルな構造のほうがコントロールしやすいというのが私の考え方です。
単線は、撚り線に比べて、そのままでは振動しやすいけれど、それを制振構造(シースに相当)で上手くダンプしてやれば相互位置が決まる(単線は撚り線に比べてフレキシビリティには欠けるが、逆に位置は決まる)ため、ストレイキャパシティの変動などの影響を受けにくい=メリットにもなるということです。

OM-MF519を使ったシステムの製作 その4

 2020.1.30

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 『AR-1.5 製作編』
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14.やっと塗装工程です。

三脚&保持シャフトAssyに、組み上げておいたボディ&チューブAssyを載せた状態で塗装を実施しました。
この状態では、保持シャフトの先端がφ8のアルミシャフトになっていて、ボディ内壁上面に固定されたユニバーサルジョイントをシャフトに挿すことで、ボディ&チューブAssyに触ることなく保持することができて、塗装には最適です。
塗装工程としてはPDFにも記しましたが、油性シーラーを塗っては平坦にして、塗っては平坦にしてを繰り返して塗料の吸い込みを抑えておいて、油性ウレタン塗料(黒)を同様に数回重ね塗りして表面を平坦にすることで道半ばになります。
今回は、ここまでで作品を送らねばなりませんでした。
予定では、もう数回、黒のウレタンニスを塗り重ね、#1000でサンディングしてから透明ウレタンニスを同様に4回程度重ね塗りして、#2000でサンディングしてから最後にバフがけして鏡面にするはずでした。

15.キャビネットの高さ調整ですが、ここで事故が起こりました。作業を急いだための事故です。
M20シャフト軸心(キャビネットボディの軸心と重なる)とリングカラーのセンターの高さについては設計上十分に検討しましたが、現物で合わせることが最終的に必要になります。
加工や組立による積み上げ公差が影響してくるからです。
φ8のアルミシャフトとユニバーサルジョイントとの接合部でこの調整を行う設計でした。
チューブ下部に臨時のスペーサーを挟んで正常な高さに保持しながら、合わせマークをマジックペンでシャフトとユニバーサルジョイントに書き込み、バラした後、アルミシャフトをカラーから外してユニバーサルジョイントとの接着作業に臨みましたが・・・魔が差したとしか言いようがない・・・完全な作業ミスでした。
当日は送付の3日前・・・冷や汗が出ました。
事故が事故を生み、この修正に3日を要しました。・・・ということは宅急便は使えず、車での持ち込みを余儀なくされました。

16.エンジンの組み込みですが、この工程で失敗すれば後が無い状況でした。
2度失敗してから、接着剤が完全硬化するまでの時間待ちが1日。その間に、組み込み工程のシミュレーションを何回も行い万全の状況で臨みました。
微調整ナットの位置については、組み込み前にすべてを実装した状態でマーキングしておき、実装時に木工用ボンドでM20シャフトに固定します。(構造上、事前に固定することはできません)
吸音材の量と位置は一発勝負。
リアパネル構造板をナットで固定して、接着剤の硬化を待って「音出し」・・・音が硬いのはしょうがないが歪感はあまりない・・・その程度の音質確認を5分程度で実施した後、再生レベルを上げてもビリツキが無いことを確認しただけで、持ち込みのためのエサフォーム製クッション(車の中で転倒しないように)、固定用のトラ・ロープ、持ち込み時に壊れていた場合(非常時)の修理工具、接着剤などを用意して車に積み込んだのが持ち込み日の朝6時・・・。
タイトロープ・・・ホントに綱渡りでした。(汗)

第二次審査は審査員によるヒアリングを主体とした選考とのことでしたが、何とか通過し、発表会に臨むことになりました。
音質をキチンと検討された皆さんには申し訳ないと思いながら、作りっぱなしでも評価されたのは理論的に正しい方向性なのだと自分に言い聞かせ、胸を撫で下ろしました。

OM-MF519を使ったシステムの製作 その3

 2020.1.30

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 『AR-1.5 製作編』
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ジンバル部分が長いので、いったん記事を切りました。

9.キャビネット保持シャフトの途中にはM20シャフトとの干渉を避けるためにリングカラーを入れます。
保持シャフトに抱かせるコードにはVFF(1重被覆の平行コード)の1.5sq品(被覆は黒)を使い、実装したときに見えにくいようシャフトの後ろ側に位置する(リングカラーにねじ込んだ時点で位置が決まります)ようにして熱収縮チューブを被せて、熱して固定します。
ここでもヒートガンを持っていれば作業がスムーズでしたが、持っていないのでガスレンジの炎であぶって収縮させました。温度が高すぎると発煙したり伸びてしまったり硬くなってしまったりするので、気を遣う作業でした。

10.三脚の塗装については、残念ですが時間的なしわ寄せがこの部分にきてしまい、満足いく仕上がりにはなりませんでした。「とりあえず黒く塗った」というレベルです。

11.次に、三脚と保持シャフトを組み立てます。
端子部分については、細かい設計をしていなかったため、作業に迫られて図面を引いて作るという「ぶっつけ本番」になり、この部分も満足できるものではありません。
PDFでは赤字で表記していますが、端子板の固定にコーススレッド(建築用:ピッチの粗い半ねじ)を使用したところ、長さの検討が不十分で銅単線に接触してしまいました。

12.エンジン部分の質量バランス調整ですが、仮組状態で確認をします。
ユニットのボトムとジンバルのY軸(ナットに立てた真鍮シャフト)の間の距離は設計上120mm固定ですので、それをキープしながらバランスが取れる状態を確認します。この状態ではソルボセインも貼り付けていませんし、ウェイト微調整用のナットがいくつ必要かなど、ラフな確認になります。

13.キャビネットのバランス調整ですが、この段にきて木工加工での手抜きのツケが回ってきました。
ボディ板厚は設計段階でラフに求めていて、ボディ断面積合計が支点の前後でほぼ同じになるようにしましたが、内壁の加工時に「ガイド板」での確認をせずに(できずに)切削作業を進めたためにボディ後ろ寄りの質量が大きく(板厚が厚く)なっていて、チューブ下端の後部が保持シャフトにぶつかってしまう状態でした。
正直、慌てました。
PDFにあるように、作業を中断して近くのDIY店に向かいました。
購入したのはドイツのドレメル社製の回転カッター「115」です。(念のため、2本入りの115Nを購入)
ボディ内側に電動ドリルに「115」を実装して入れると作業に支障が出るので、手持ちのフレキシブルドリル延長シャフトと組み合わせて「115」の付いた先端を指で持ちながら作業しました。

バランスチェックは、保持シャフトが鉛直であることが条件です。工程11で、床とt21mmの基準板(水平基準になる積層合板)との間にスペーサーを入れて「基準板の水平」を水準器でキチンと出しておいて、その上に「高さアジャスト機構を実装する前の三脚」を直接置き、三脚の保持シャフトが鉛直になるように糸の先に錘を吊るしたものを使って確認しながら組み上げていますので、三脚を基準板に直接置くことでいつでも鉛直を得られます。
その状態で、チューブ下部内壁と保持シャフトとの位置関係が設計通りになることが完了条件になりますので、それを目指して切削作業を進めました。
1台目をそれに近い状態にするのに、ほぼ1日かかりました。同じようにもう1台も切削しましたが、こちらは板厚があまり厚くなっていなかったようで、半日で同じ状態まで漕ぎ付けました。それだけバラついていたということです。

OM-MF519を使ったシステムの製作 その2

 2020.1.30

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 『AR-1.5 製作編』
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製作編の2回目です。

8.ジンバル部分の製作になります。機械加工の主要部分です。
前工程でユニットのボトムにM20-L285のSUSシャフトを立てましたが、これにM20のSUSナットを組み合わせてX軸の回転をフリーにする役割を持たせます。
したがってY軸のジンバル構造を構築するには六角ナットの対向する二面にタップを立てて軸構造を作る必要があります。
ナットの材質は、SUS304(18Cr-8Ni:オーステナイト系)で且つ冷間で加工しているので硬度が高く、かなり粘りのあるものになります。したがって加工性は他の金属に比べて非常に悪く、PDFにも記しましたがタップを2本折ってしまいました。
これは、普通のタップを使った私のミスです。ドリルで穴加工をする際に、キリコが快削鋼のように糸状でなく細かく千切れることから、これではダメだという見極めができませんでした。
このことを友人に伝えると、「シャフトがSUSなんだし、磁気回路も強力ではないし離れているので鉄でも良かったんじゃない?」と言われましたが・・・。
やっとのことでナット2個にタップを立ててホッとしたのも束の間、真鍮シャフトにダイスでネジを切ったものをネジ込んでいたら1本がポキッ・・・ダイス加工でストレスが加わっていたのかも・・・。もう1個ナットにタップを切ることに・・・。

ジンバルのY軸台座は、2分割タイプのシャフトカラーKSC4018-SP のベース側を流用してそこにアルミブロックの筐体に嵌め込んだベアリング軸受け部分を載せる構造です。
機械加工用の旋盤か横フライスがあれば、もう少しスマートな形状にできるのですが、私の加工環境にはありませんので、既製品を組み合わせて、ちょっと加工して使いまわすということで進めてきました。
20x20x20アルミブロックも既製品をそのまま使いました。シャフトカラーの形状に合わせればカッコいいのは分かっていますが・・・。

シャフト類については、共鳴を避けるためほとんどの部分でダンプ構造としています。パイプとスクリューの間にシリコンシーラントを充填していますが、高粘度のものを空隙なく充填するのには「真空引き」という方法が常套手段になりますが、これも環境が無くシロウトができる方法を考えました。
先にスクリューに挿入可能な限りシーラントを塗りつけておいて空隙を減らす方法です。これにより大きな空隙は防げます。スクリューとパイプを同心にするには、「つま楊枝」を3本使います。最終挿入の際に120度振り分けでスクリューとパイプの間に挿して隙間を均等にする方法です。原始的な方法ですが、結構満足できる精度が出ます。

エンジン支持シャフトの下部にある高さ調整アジャスターですが、これはAR-1でも取り入れていた機能です。
キャビネットの高さが決まっていますので、キャビネットに実装したフローター外枠とユニットおよびリアパネル構造板に実装したフローター内枠との隙間を一定にするには、エンジン部分の高さをキチンと合わせなければなりません。
内枠と外枠は磁石の反発力で円周すべてで等距離になろうとしますので、エンジン部とキャビネットの相互中心軸高さが一致していれば、フローティングが成立します。

床の水平調整が三脚に付いていますので、移動したら @三脚の足部分で水平を出し、A支持シャフトのアジャスターでエンジン部分の高さを合わせる作業を実施するのが原則になります。
この作業をしないと、外枠と内枠の間に入れてあるソルボセインに応力が加わり、エンジン部分とキャビネットのインシュレートが不十分になり、混変調歪が大きくなります。(分離したメリットが減ってしまう)
見た目も、傾いてしまいます。
余談になりますが、1月中旬に行われたコンテスト発表会(試聴)の際に、16の作品を次々と短時間に入れ替えなければならないため、交換作業をする編集者の方に調整を依頼しませんでした。たぶん、置台の水平も出ていなかったので、参加者の皆さんは「傾いていて作り方が雑だなぁ」と思われたのではないかと思います。音質も然りです。

OM-MF519を使ったシステムの製作 その1

 2020.1.28
製作編に入りますが、もう出来ているのですから先にPDFファイルを掲げてしまいます。

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 『AR-1.5 製作編』
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このPDFをベースに捕捉する形で記していく形を採ります。PDFをダウンロードして、それを見ながら記事を読んでいただいてもOKです。

1.まず板取りです。
当初より、板材にはPDFを使うことにしていました。
AR-1の時に針葉樹系の合板を使いましたが、加工性は良かったのですが、節が多く、却って修正に時間がかかったことで今回の選択からは除きました。
今回は、@ 短時間に加工が必要なこと、A 検証用なのであまり費用はかけられないこと、B 滑らかな表面(曲面)にしたいこと、C 塗装は鏡面仕上げにトライしたいことなどからMDFに決めました。
ARシリーズは、その形態からドーナツ状のパーツを複数枚重ね合わせることになります。今回も片チャンネルのボディ本体だけで20枚のサイズが異なるドーナツを切り出さなければなりません。
ボディの治具が4枚x2、フローター部では治具用を含めて両チャンネルで20枚、チューブ部分では治具用を含めて34枚x2、三脚のボディで6枚x2 ・・・単純合計しても両チャンネルで148枚を超えるドーナツや円盤を切り抜いています。
リング状の切り抜きのために円切り抜き専用治具を作ってルーターで加工しましたが、専用治具シャフト固定用中心穴加工(ドリルによる)&材料の切り抜き(ルーターによる)だけで延べ40時間以上かかりました。サイズが異なるものが多いため、同じものを大量生産できないのも時間がかかった理由です。

2.貼り合わせには木工ボンド(酢酸ビニル)を使用しました。工程上、切削が多いのでエポキシ等の硬い接着剤は避けました。MDFの場合は浸み込んで周囲も硬くなるので塗布量には気を遣いました。多ければ硬くなる幅が広くなるし、少なければ剥がれが生じます。適量がどれほどなのか経験値がないので、ある意味アバウトにならざるを得ませんでした。

接着剤塗布後はバークランプで挟んで放置し、数枚ずつ外形と内壁を自作木工旋盤もどき(回転軸は手動とモーター駆動切り替え。逆転可。速度変更不可)とルーターを実装できる自作X-Yテーブルを使って加工し、それらを貼り合わせて全体形状を加工しました。
この部分は、文章で表現するのは難しいのでPDFを参照願います。

キャビネットのボディとチューブの接合には、間に首部分を介することにしました。卵型のボディと円錐台形状のチューブを滑らかな曲面で結ぶには、この方法がベスト・・・というよりこれしか考えつかなかったのですが、試行錯誤しながらの作業でした。
ボディとチューブは「もどき」で滑らかに加工できますが、首部分はそうはいきません。棒ヤスリと布ヤスリによる手加工+電動サンダーによる仕上げになりますが、左右のチャンネルで加工方法を変えました。このあたりは、これからのARシリーズのノウハウになる部分です。
手加工ですので、この部分だけで両チャンネル延べ25時間近くかかっています。

3.三脚部分については、この部分に端子板を設置するにあたり、設計時に「できる限り配線が見えないようにすること」、「配線を振動させないようにすること」をテーマに構造を模索しましたので、製作に関しても苦労しました。
端子そのものについては選択を誤ってしまいました。Dカットやボスなどの回り止め構造が無いものなので、それに対処しなければなりませんでした。端子板を自作する場合には、要注意ポイントです。

4.フローターについては、軟質塩ビを加工してAR-2用に二度試作をしているのですが、その後、AR-2の構想自体が複雑になり過ぎて棚上げになっていたため、「仕掛り」のままになっていました。
今回、千鳥配置の単純な反発構造だけにして、材質も加工しやすいMDFにして実用性を探りました。エンジン部分のやじろべぇ構造を実現するには、非接触で保持するために無くてはならない構造です。従来よりシンプルな構造になったため、コンパクトにすることができました。
磁石を実装する溝の加工は、軟質塩ビの時よりは精度が上がりましたが、貼り合わせ構造なので隙間が発生してしまうことに変わりはなく、できることならば3D-CADでモデリングして3Dプリンターで印刷一体成形して精度を上げたいところです。

5.次にユニットの磁気回路ボトムにスクリューシャフトを取り付ける構造です。
ここからは機械加工がメインになりますが、拙著PDF『理想のユニットとは』にも記載したようにARシステムには不可欠な構造になります。
AR-1の時には、ボトムにヤスリで食い付きが良くなるように傷を付けてナットをエポキシ接着剤で貼り付けるだけの構造(接着剤だけを介して保持)にしましたが、5年を経過してちょっとショックを与えたところ、経年変化できれいに剥がれてしまったため、単純な平面接着はNGとしました。
そうは言っても、小さく薄いボトムに対して大掛かりな機械加工を実施するのは性能をスポイルする危険があるので、設計の際にかなり悩んだ部分です。
嵌合部分を作るという発想がまず出てきて、ボトムにタップを立てる方法を模索しました(径を小さくしてM3のタップまで考えた)が、寸法的にも強度的にも厳しく、ドリル形状に近似の挿入形状に至りました。
φ6のドリルでボトムに穴を開けましたが、φ6の鉄製シャフトとの嵌合が良く、接着剤(メタルロック)を薄く塗るだけで圧入に近い感触になりました。
これならば、耐ショックも経年変化も問題ないと思いますし、磁路への影響も最小限で済んでいると思います。

7.ユニットとフローター内枠との接着一体化については、完全な失敗です。接着剤が漏れる構造であることに設計段階で気付くべきでした。
それと、ユニットのバッフル取付穴の処理を決めていなかったのは、思慮が足りませんでした。今回は、ユニット表面から軟質発砲ウレタンシートを丸く切り取って貼り付け、エア漏れだけの対応にしました。
この部分はAR-2の設計時には要注意ポイントにします。

今回は、ここまでにします。

OM-MF519を使ったシステムの設計 その4

 2020.1.27
キャビネットとエンジン、そして三脚部分の相互関係について記します。
前回まででエンジンとキャビネットにそれぞれ「やじろべぇ」構造を採用して、床に対する独立性を持たせたことを説明しました。
これは床が物理的な大地アース(質量無限大)と同様であれば理想的な形で実現されますが、通常は12mm程度の貼り合わせ合板などが多いので、とても理想とは言えない状況だと思います。
エンジンの支持シャフトとキャビネットの保持シャフトとは、設計基準線(キャビネットの寸法上のセンター)からそれぞれ前後に15mmしか離れないようにしていて(理想は0mmですが物理的に不可能)、できる限り床の要素が共通インピーダンスとして入らないようにしています。
当初は、キャビネット保持シャフトを床まで伸ばす設計で、三脚と保持シャフトの間にアイソレート構造を入れた状態で支える想定でしたが、保持シャフトを鉛直に保持=キャビネットほどの質量を保持するのは難しいことに気付きました。
また、三脚の3点以外に支持点が入るのは力学的に不安定になるため、保持シャフトを三脚に対してリジッドに固定し(シャフトは床から浮く)、三脚の足(ここも小型の袋ナットを使用)で床と接し、3つの足からできる限り等距離にエンジンの支持シャフトが来るようにしました。
文章が稚拙なので、下図を参照願います。エンジン支持シャフトは、三脚に開けた穴を通過して(三脚に触れることなく)、直接床に接します。
こうすることで、伝播距離差による混変調をできる限り避けようという意図です。

三脚の足部分に小型袋ナットを採用したもう一つの理由は、床が水平でなかった場合、キャビネット(というよりチューブの内壁)は保持シャフトに対して一定の距離を保持することができなくなりますし、エンジン支持シャフトとの位置関係もズレてしまいます。
キャビネット&チューブのバランス位置は重力に依存(鉛直を常に保持(「やじろべぇ」の動作そのもの)しているのに対し、床の傾斜状況により保持シャフトのほうが鉛直から外れて傾いてしまうということです(シミュレーションした結果を後述)
これを補正するために足部分をスクリュー構造として高さ調整ができるようにしています。鬼目ナットを利用したものになり、重量物を支えるにはちょっと貧弱ですが、これで進めます。

amp1

前回提示した概略横断面図でお気づきになった方もいらっしゃると思いますが、エンジンのボトムに配置したM20のシャフトとキャビネット保持構造は完全に干渉する位置関係になります。
amp1 amp1 これを防ぐために、保持シャフトの途中にM20シャフトを逃げるリング構造を設けています。
あまり大きくするとユニット背圧の反射要素になりますし、できる限り小さくということで、内径φ30mmの既製品カラーを使用しました。
クリアランスは5mmしかありませんので、DIYとはいえ相互位置には「それなりの精度」が必要になります。

詳細は製作編で述べますが、この部分で幾度かトラブリました。ユニバーサルジョイントの挿入径がφ8だったため、リングカラーとユニバーサルジョイントの間をφ8のアルミ製シャフトに変更していて助かりました。

床が1°傾いた場合をシミュレーションしてみると左図のようになり、かなりクリティカルであることが分かります。
試しに2°傾いた場合をシミュレーションしたところ、チューブ下端(内径φ65mm)で壁に接触してしまうことが確認できました。
これは、三脚足のアジャスター機能がマストであるということを示していますし、製作する上でキャビネットの質量バランスを十分にとらないと、まともなモノができないということも示唆しています。

以上で設計編の概略説明を終わり、次回より製作編に入っていきます。

PDFファイル
 『AR-1.5 設計編』

ちょっと脱線 B&K

 2020.1.26
皆さんには、あまり馴染みが無いかもしれませんが、B&K(ブリューエル・ケアー)をご存じでしょうか。ご存じB&Wとは違います。
ネットで調べものをしていて、B&K社のHPに行き当たりました。

https://www.bksv.com/ja-JP

B&K社は1942年にブリューエルとケアーがデンマークに創立した測定器メーカーで、翌年には世界初の圧電加速度PUを開発したそうですが、私には2301型レベルレコーダーの記憶が鮮明に残っています。(モノクロ写真がB&KのHPに載っています)
私が扱っていたのはスィープ発信器と一体(重ね置き)になったものでシステム型番は忘れましたが、オーディオの仕事に就いて初めて扱った輸入測定器でした。1970年代後半〜1980年代のお話です。
薄い緑色の焼き付け塗装のパネルと黒色のシャーシのツートーンカラーで、ゴツいロータリーSWつまみが確実に切り替わるのが印象的でした。
下に写真を挙げますが、私の使っていたものは、もうちょっと縦長で、中央に周波数を変更する直径20cmくらいあるバーニアダイヤルが付いていたと思いますが、薄緑色の色合いはこんな感じ(薄いペールグリーン)・・・もう少し緑っぽいか・・・でした。(ネット検索では、このくらいしか見つかりませんでした)
amp1 先輩からは「高価な測定器なので心して扱うように」と説明された記憶が残っています。周波数特性とインピーダンス特性、高調波歪特性を記録紙に出力するために無響室に併設された狭い測定室に置かれていました。記録ペンは1本だったと記憶しているので、どうやって同時記録したのか?・・・記憶がありません。インピーダンス特性は電流検出抵抗を挿入しなければならないのでSWで切り替えて重ね書きしたような記憶もありますが、高調波歪は?・・・。
記録ペンはインクカートリッジ一体のもので、出が悪い時には記録紙の上でよく弾いたものです。インクが出過ぎて記録紙をずいぶん無駄にしました。
音響(振動)測定器の雄で、当時はどこのオーディオメーカーもB&Kだったと記憶しています。それしか選択肢がなかったのかもしれません。
JIS-Aウェイトのついた騒音計や加振器、ストロボスコープもB&Kだったかな?・・・。
当時、自作アンプのパネルをB&Kカラー(薄緑色)に似せて塗装したのが懐かしいです。

OM-MF519を使ったシステムの設計 その3

 2020.1.26
今回は、キャビネットの構造とやじろべぇ構造について説明します。

amp1 左図は横断面になりますが、流線形のキャビネット(約9リットル)のボディ下部にテーパーチューブが付いた形状になります。お世辞にもカッコ良いとは言えませんが、理に適った形状になります。

流線形であることの理由は、キャビネットによる回折効果を排除することにあります。これは富士通テンのECLIPSEシリーズを聞いたことがある方ならば分かると思いますがスピーカーの存在が薄れて音場が広くなったように感じます。これは単純に形状に因るものではなく、キャビネットをフローティングしたことによりエンジン部分から振動が伝播することを防いだことにも因ります。キャビネットは発音源(歪発生源)にしてはならないのです。この歪がスピーカーの存在を明確にしてしまいます。理由は、キャビネットから放射される音とキャビネットから二次放射される音(歪)が異質なためです。人間の聴覚は異質なもの(非線形)を見つけるのが得意です。

キャビネットを励振させない方法については、従来、特に海外製品では金属や比重の大きな複合材の採用が多くなり、木材にしても徹底的に桟(さん)を入れて補強することで振動対策をするものが増えました。これは振動が伝わってもキャビネット質量で抑え込んだりキャビネット構造自体を振動させないようにすることで歪の発生を抑えたもので、今回の実証機や富士通テンECLIPSEの「伝えない方法」とは根本的に考え方が異なります。

実証機ではキャビネットのフローティング方法として、ここにも「やじろべぇ構造」を採用しました。

amp1 重心点の鉛直線上に支点(重心より支点が上にあることで「やじろべぇ」が成立)を持っていき、ユニバーサルジョイントを支点として結合することによりストレスフリー(応力歪フリー:Z軸以外)を実現し、三脚に固定された保持シャフトの上でバランスを取ります。キャビネットとエンジン部分はフローティングしますが、構造上、エンジンとキャビネットの間にはエア漏れ防止が必要なので、ソルボセインによるインシュレート構造が必要になります。これは「流通しなければ良い」レベルで十分です。

テーパーチューブについては、小型密閉箱の振動板をオーバーダンプしたような音を嫌い、後面開放に近い動作を狙うためにエア抜きとして機能することを目的としています。したがってヘルムホルツ共鳴周波数も60Hzに設定して、ユニットの質量依存領域とすることでバスレフのような低域増強には寄与しません。
キチンと機能すればキャビネット内部の密閉空気によるスチフネスを低減できるはずです。
今回、検証したいのは、この効果がどれだけ音質に寄与するかがメインになります。

OM-MF519を使ったシステムの設計 その2

 2020.1.26
前回は、エンジン部分を仮想グランド構造にするまででした。
今回は、ジンバル構造と高さ調整機構について記します。

エンジンの重心位置にジンバル構造(XYZの3軸)を実装するのはAR-2の発想から変わっていません。
機械構造では接合部分などに応力(外から加えられた力、またはそれに対する反力)が加わると見た目の変形が無くても必ず内部応力による歪が発生します。
大がかりな設備なら、ちょっとした歪により破壊に至るようなこともありますが、歯車などの可動部分が無い通常のスピーカーシステムで機械的な外力により破壊に至ることはほとんどありません。
AR-1の場合、エンジン部分と支持シャフトの接合部分は2軸ジンバル構造だった(Y軸方向はリジッドに固定した)ため、支持シャフトの傾きが要因でユニットとキャビネットの位置不整合が生じてソルボセインの一部に圧力が集中しました。(歪は弱い部分に集中する)
その歪で音がコロコロ変わってしまった失敗を反省し、リジッドでなければならない部分はリジッドに、そうでない部分はストレスフリー的な考え方から3軸ジンバルを採用しています。
このジンバル部分には、振動系で発生したローレンツ力の反作用がユニットのボトムに接合されたM20スクリューを介して伝わりますので、その流れ(ベクトル)に影響をできる限り与えたくないのです。
出来ることならジンバルから床に至る支持シャフトを排除したいのですが、支えがなくなってしまうので必要悪になります。

amp1 これを見ると「なんだ、ナットの回転方向(X軸)を含めて2軸じゃないか」という声が聞こえてきそうですが、支持シャフトが床に接する部分を回転できる形(後述)にしたことで、支持シャフトの軸(Z軸)に対する回転方向の応力はかかりません。

ジンバル部分の「お辞儀(Y軸)」方向については、当初、図上段のような「ナイフエッジ」か中段のような円筒軸を直接凹面で受ける滑り軸受け構造を考えましたが、組立・分解時の作業性を考慮して下段のベアリング構造を採用しました。
これであれば、ナットに取り付けられた軸が浮き上がって不具合を生じる危険は格段に減ります。

次に高さ調整機能ですが、まず、支持シャフトの構造から説明します。
軸の中心にはM6の1m全ねじから所定の長さにカット(285mmと265mm)したものを使用します。これをφ9.5mmのステンレスパイプに挿入して、間にシリコン樹脂を注入します。
文章で書くと簡単に思えますが、エア・コンプレッサーを利用した圧入もしくは真空引きもできない状況で空隙なく充填し、且つ全ねじとパイプが同心であるように組み上げるには、それなりの工夫が必要です。
そのために構造上550mmの1本で良いはずのM6の全ねじをわざわざ2本に分割していますし、口元と途中の接合部にはφ8,5mmのアルミパイプをジョイント&芯出し用に3か所配置しています。
このような構造にしても実際の作業で工夫をしないと、空隙ができてしまいます。

amp1 高さ調整機能を持つのは支持系が床に接する部分に位置された「アジャスター」ですが、高さ調整には支持シャフトの下端から飛び出させたM6全ねじを利用します。
アジャスター上部にはナイロンナットが配置されています。ナイロンナットは通称「弛み止めナット」とも呼ばれ、ねじ山との間にナイロン樹脂で摩擦を作り、相互位置を変えないような構造になっています。
アジャスターも支持シャフトと同様にシリコン樹脂でのダンプ構造を有するため、ナイロンナットをパイプに直接圧入する構造は避けました。

床との接点はニードル状のものを使うか、球状にするかについて、昨年の9/12記事で検証していますが、質量に因る木製床への沈み込みを想定すると球状で十分(たとえ石製の床でもニードルの優位性は無い:ミクロで見ればニードル先端も球状)との結論から袋ナットを利用しています。

繰り返しになりますが、振動エネルギーの伝播量(総量)は接触する断面積とは無関係です。断面積が狭くなればエネルギーが集中するだけです。どこにも逃げません。
もし関係するとすれば、それは家具の足のようにかなりの接触面積をもって床面に接触する場合で、エネルギー伝播する際の振動モードが異なってきますので音質(床の振動)にも影響を与えます。
クッションなどの弾性体を介した場合には、当然ながら更に状況が異なってきます。

【お詫び】OM-MF519を使ったシステムの設計

 2020.1.25
友人から「OM-MF519を使ったシステム作るんだって?!」とメールが入りました。???
実証機は既にできていることを説明すると「お前の文章ではこれから実証機を作るようになっている!」とお叱りを受けました。
読み返してみると、そのようにも読み取れるのに唖然・・・。
急遽、加筆訂正しました。
分かりにくい文章で、申し訳ありませんでした。

実証機は12月には稼働できる状態になっていたのですが、コンテストに応募していて二次審査を通過したこともあって実機が不在状態でしたので、目的の実証試験ができていませんでした。
来週には実機が戻ってくると思いますので、早々に検証をスタートしたいと思います。

OM-MF519を使ったシステムの設計

 2020.1.25
マークオーディオ社製のフルレンジユニットOM-MF519については、去年の8月に詳細をご報告しました。
今年の1月3日の記事で実証宣言をしたシステムに、このOM-MF519を使いました。
昨年9月後半から設計をスタートして、11月には形ができていましたが、目的である実証実験ができていませんでした。
ここでは、遅ればせながら設計編と製作編を紹介していきます。

AR-2では、1月3日の記事で示したようにタンデム構造を採用して、ユニットのボトム同士にシャフトを立てて結合する構想ですが、実証機では後方ユニットの代わりにカウンターウェイトを設置しました。
実証の目的は、やじろべぇ構造をキャビネットにまで展開した構造の実現が可能か、その際の課題は何があるのか(ここまでは製作段階で洗い出しました)、チューブ構造がローパスフィルタとして十分に機能するのか、チューブに吸音材を入れる量によりどの程度のスチフネス・コントロールができるのか・・・などになりますので、複雑にして要素を増やす必要はないと判断してタンデム構造は諦めました。
1台に2本ユニットを使うタンデム構造ではないので、やじろべぇ構造を実現する方法として富士通テンのECLIPSシリーズで採用している仮想グランドを採用しました。
ユニットのボトムにはAR-2と同様にシャフトを立てますが、これにはSUS製のM20、長さ285mmのスクリューを使います。ユニットと比べてもかなり太いし重い!街中のDIY店では売っている店のほうが少ないと思います。(モノタロウにて購入)
ユニットが小さいのでボトムも薄く、M20の穴を開けるだけのスペースはありません。
そこで、ユニットにはφ6ドリル穴を開けて鉄のφ6シャフトにM6ダイス加工してネジ山を刻んだ部品を接着剤で埋め込み、M20シャフトの中央にM6タップを立てたところにネジ込むことで連結する構造を採ります。

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図は潰れてしまって詳細は見えないかもしれませんので、例によって設計完了時点でPDFを載せることにします。
やじろべぇ構造でユニットと反対側に位置するカウンターウェイトはSUSナットと円盤状に切り抜いたMDFで構成します。「やじろべぇ」ですからユニットと等価の質量を持つようにしてバランスを取ります。
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AR-2と同様に、重心位置にはジンバル構造を設けて支持シャフトで床に立つ構造にしますが、床に接するポイントが支点になるため、重心が支点より遥か上方になってしまい、「やじろべぇ構造」でバランスを取っても倒れてしまいます。
ユニットとカウンターウェイト構造の双方にAR-2と同様のマグネットフローター(ちょっと簡略化しました)を装備して、反発力でキャビネットとの相互位置を決められるようにします。

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エンジン部分の基本構造は、以上のようになります。

今回は、ここまでにします。

歪について

 2020.1.24
ふだん、「歪」という言葉を無造作に使っていますが、「そもそも歪って何?」と聞かれて言葉に詰まるのも嫌なので、いくつかの辞書で調べてみました。

1.外力などで形状や体積が変化すること ねじれ、ゆがみ、のび、ちぢみなど
2.ものごと(形の有無に限らず)が推移する中で欠陥が生じること。欠点が浮き上がってくること。またはその欠陥や欠点そのもの
3.再生された信号が元の信号と等しくない状態
などが認められます。

3の「入出力を持つ現象」に絞った場合、
1.線形歪(Linear Distortion)
2.非線形歪(Non-linear Distiotion)
3.非定常歪(Irregular Distortion)
の3つが挙げられます。

1の線形歪はランダム歪とも呼ばれ、入力と相関なく定量的もしくは比例した量(リニア)で生じる歪になります。例えば、入力に関係なく出力に重畳されるアンプの残留ノイズやハムなどがこれに相当します。
2は、入力された対象物の性能を要因(内部要因)として入力信号の大きさや周波数に応じて入力に無い情報や状態(歪)が入力に比例しない(ノンリニア)で発生する場合にあたります。
3は、経年変化や塑性変形(外部要因)などで、本来発生してはいけない情報(歪)が発生するものになります。 (接続部分の剥がれなどによるビビりなど)
それ以外に、混変調歪というものがあり、2つ以上の入力以外の要因もしくは発生した歪を二次要因として発生することで、それらの性質を反映したために生じる歪になります。
元々は、通信(受信)時に、外部信号(外乱)の高調波により変調されてしまう歪を指していましたが、外乱により定性的に発生する変調歪全般を指すようになりました。
スピーカーの場合には、キャビネットなどの媒体を信号が伝播することにより遅延、変質した信号が元の信号に重畳する場合にも使います。

スピーカーの場合、線形歪には駆動信号に伴って発生する均一磁界中での逆起電力(ビオ・サバールの法則による変動磁界が固定磁界を変調することに因る)などがあり、非線形歪には、振動系が弾性限界近くまで駆動されたときに入力とノンリニアな変位になるもの、均一磁界を外れた領域での逆起電力などが挙げられます。
歪は無いに越したことはありませんが、人間の感覚(視覚や聴覚、触覚など)の特性により、認知されにくい歪と微量でも認知されてしまう歪があります。
前者には、1の定常的に発生しているもの(残留ノイズなど)があり、感覚の「順応」という性質により最初は気になっても慣れてしまうと気にならなくなります。
後者は、2の一部と3に相当し、レベルが急に変化したり、波形が急に大きく変化する(不整合を伴う)歪がこれに相当し、人間の感覚では時間変化分 dX/dt に対する感度が時間経過してもあまり下がらない性格を持つことによります。
これは、動物としての危機管理能力(敵や危険現象の認知)に因るためで、歪としての認知に関して考慮すべきものになります。
危険に結び付かないこと=安全を条件に、分からなければ(気にならなければ)歪はあっても良いのではないか・・・ということで、製品設計にも応用されています。
ただし、人間の感覚には個人差(「個性」)があり、歪低減の方向性は失ってはならないということを肝に銘じなければなりません。

ONKYO SL-1の記憶 低域再生のメリット

 2020.1.18
1978年だったと思いますが、オンキョーからスーパーウーファSL-1が発売されました。

https://audio-heritage.jp/ONKYO/speaker/sl-1.html

38cm平面振動板のように見えているのはドローンコーン(ナマケモノのコーン:パッシブラジエータのほうが馴染みがある?)でドライバーは20cmになります。
雑誌に紹介されて直ぐに秋葉原に出向いて現物を確認したのを憶えています。
ドローンコーンは鉄板成形品をダンプしたもので、叩くと(ホントは叩いちゃいけないんですが・・・モノを見ると叩く癖があるので)コツコツと鈍い音がした記憶があります。
カタログによると80リッターの密閉箱とあります。実際には結構小さく見えて、期待はしていなかったのですが、音出ししてびっくり。50Hzは確実に出ています。(カタログでは20〜90Hz)
BOSEのAWCS-1(通称バズーカ)と発売時期はどちらが先だったか忘れましたが、私自身、低域再生の重要性は認識していましたし、私と同年代か上の皆さんもLPレコードでカッティングレベルの高いテラーク版やデッカ版などをアナログプレーヤでトレースできるように努力したと思います。

最近なのですが、SL-1の開発にタイムドメイン社の吉井さんが関わっていたという記事を目にしました。お恥ずかしい話ですが、まったく存じ上げませんでした。(汗)
https://next.rikunabi.com/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=000725

ドローンコーンの原理は音響変成器(音のトランス)になります。原理はヘルムホルツ共鳴器と同じで、気柱の代わりにドローンコーンを使った共鳴を利用しています、トランスが電圧を変換するのと同じように低域の音圧を補強するものです。
利点は、ダクトと違って空気の流れがオープンでなくドローンコーンを介するため、高域の音漏れがほとんど無いということです。ドローンコーンがハイパスフィルタになるということです。
そうは言うもののカットオフフィルタ(SL-1では60、70、80Hz切り替え)が必要で、且つドローンコーンを駆動するためのパワーが必要になるためパワードスピーカーの形を採ります。

昨今のハイレゾブームで感じるのは、高域が出ていると低域が物足りなくなるということです。
アナログ再生では「100万理論(例えば低域が50Hzまで再生できれば20kHz=2万Hzまで、下限20Hzなら50kHz=5万Hzまで再生するのが妥当)」というものが唱えられていましたが、CDの登場で高域20kHz上限(実際にはシャノンの定理により44.1kHzの半分)が前提となってしまったために「死語」になってしまいました。

現在、私のシステムではFOSTEXのアクティブサブウーファCW-250Aを使っていますが、レベルは控えめにしていてもOFFにすると途端に音楽の魅力が失われます。
金欠状態なので1本モノラル接続ですが、低域の方向性が無いと言われていても、カットオフを80Hz/-18dBoctにした実験から2本使ってステレオ再生したときの優位性を知っているので・・・皆さんには2本使うことをお勧めします。一番変わるのは定位です。
確か、長岡さんも100万理論を提唱していたような・・・。

PDF記述ミス 『理想のユニットとは』

 2020.1.14
PDFを見直していて、大きな記述ミスに気付きました。
『理想のユニットとは』の振動板の項目で、「4.3インパルス応答」に対数減衰率δ、減衰比ζ、先鋭度Qの関係を示していましたが、どこで感違いをしたのか間違った式が記載されていました。
ζ=π/Q となっていましたが、正しくは ζ=1/2Q になります。
δとζを混同したようで、δ=π/Q が正しくて、δ = 2πζ に従います。
したがって、減衰振動( 0<ζ<1 )、臨界減衰(ζ=1)、過減衰(ζ>1)をQで表すと、減衰振動はQ>0.5、臨界減衰はQ=0.5、過減衰はQ<0.5になります。

「7.2ロールエッジの挙動」では、FOCALのリブ入りエッジのデメリットについて図を加えて、文章も加筆しました。
Mission社のQXシリーズでウーファに使われているエッジフィルタの図解も追加しました。
個人でチェックしているので、ミスが多いです。定期的な見直しは、今後も続けていきます。

pdfファイル:
 『理想のユニットとは』

バスレフのダクト共振周波数について 2

 2020.1.11
ダクト長の補正係数δについてちょっと説明しておきます。
通常のダクトは断面が円形の円筒もしくは長方形の直方体形状をしています。ダクト内の空気が共振した場合、ダクト内だけでなく色を付けた部分の空気が一緒に動きます。赤い矢印で示したのは補正範囲を示していて δ=0.6r と δ=r になります。

amp1 δ=r の場合にはオレンジ色を付けた部分までが一緒に動くという認識になります。
ダクトを出てオープンエア(2π空間)になり圧力が急激に下がっても、粘性流体である空気は急に切り変わらずに引き摺られるという意味です。
おまけにエッジの部分で新たな波面が生じるため、波面の干渉も起こります。
ダクト内部の波面が球面波もしくは平面波でないのは、壁面との摩擦力により音速が落ちるためです。これは川の流れが岸辺で遅くなるのと同じです。

amp1 amp1
干渉の対策として、エッジが無くスムーズに曲面でバッフルにつながる形状を採用する製品もあります。
この場合には波面干渉が生じないのと、緩やかに圧力が変化するため「風切り音」が発生しにくくなります。
更に、ダクト内壁からバッフルに至るまでゴルフボールの表面と同様のディンプル構造を採用すれば壁面での音速低下を減らすことができて、ダクト放射波面がきれいになり、ユニットから放射された波面との干渉がシンプルになりますので、聴感上の混変調歪が減ります。
ホーン効果で若干音圧が上がる?のかもしれませんが、フリケンシードメインではピークディップ削減のほうがメリットがあります。タイムドメインでのデメリットは「バスレフであるために共振周波数近辺で急激に位相回転する」こと以外は想定できません。
冒頭に挙げた補正係数δについても、ほとんど考慮する必要がなくなります。
メーカーでは金型を製作して実践することが可能で、B&W 805Sなどの例がありますが、アマチュァには難しい課題になります。

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「写真は転載禁止」

ディンプルの効果については以前にも記したと思いますが、再掲します。「静止」の色塗り部分が壁面です。
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表面がツルツルの場合には、その周りの空気の流れは層流という整った流れを形成します。
この場合、層流は相互に弱く結び付いた状況で、静止している壁面の直近では層流と壁面が弱く結びついています。
結果として、壁面に近い層流はゆっくり流れ、少し離れるとちょっと速くなり、離れるほど速くなっていきます。

ディンプルがある場合には、ディンプル部分で圧力が低くなるため流れが乱され、小さな渦も生じます。結果として、相互の結びつきが弱くなり、流れは壁面近くでも遅くならなくなります。

マクロ的に見れば、壁面による流速遅延が起こらなくなり、且つ小さな乱流の影響はほとんど考える必要が無く、波面が整うということです。
空気が粘性流体であることが、この現象を引き起こします。
PCシミュレーションにより流速(∝圧力変化:ダクト径とキャビネット容積に依存)に応じたディンプルの最適深さや大きさ(径)、配置&密度が求められ、当然のようにB&Wではシミュレーションを実施しているそうです。
ゴルフボールでは、複数種類の深さ&大きさのディンプルを組み合わせたものをシミュレートして、初心者用(まっすぐ飛びやすい)、上級者用(飛距離優先)などを揃えているメーカーもあるようです。

バスレフのダクト共振周波数について

 2020.1.10
バスレフ(正式にはバスレフレックス・・・低音反射・・・だそうです)のダクト共振周波数は、ヘルムホルツ共鳴器の共振(共鳴)周波数と同じという話を友人にして、その周波数を求める式を以下のように示したら、「長岡先生の式と違う!」という指摘を受けました。友人は、たいそうご立腹で、なぜ違うのかを調べることになりました。

(c/2π) x{S/V0(L+δ)}^1/2 【Hz】(長さはcm) 
ここで(c/2π)≒ 5473 at20℃

詳細は、拙著PDF『ヘルムホルツ共鳴器』に説明してあります。
cは音速、Sはダクト断面積、V0は有効キャビネット容積(ダクト除く)、Lはダクト長、δはダクト出口で動く空気による補正係数(=0.6r)になります。

気になって、最近の情報から長岡鉄男さんの記事を探すと以下の式が載っていました。(月刊STEREO 2019年8月号「ゼロからのスピーカー工作」)

160√{(πr^2)/Vc(L3+r)}

ムムム・・・
√は ^1/2と同じで、(πr^2)はダクトの断面積(L1xL2を円の半径rの円に変換)ですから、ダクト長さの補正係数をδ(=0.6r)にするかrにするかの違いだけで間違いはありません。
あとは係数の(c/2π)の問題かと思い、CGS系で計算してみると160ではなく5473・・・・
しばし悩みましたが、キャビネットの体積Vcを長岡さんがリットルで入れているのに気付き、√1000≒31.6で5473を割ってみると約173となり、ひと安心。長岡さんは、経験値として173ではなくキリの良い「160」を使ったものと思われます。
長岡さんは、読者に分かりやすいように cm^3 でなくリットルで表わしていたのだということに、ちょっと感動しました。市販の既成キャビネットはリットル表示が多いからです。

ご多聞に漏れず、私も長岡さんのバックロードホーンの記事でスピーカー自作に目覚め、それが嵩じてオーディオメーカーに就職したものですから、間違いがあるはずはないと信じていましたので。

「読者に馴染みやすい、分かりやすい言葉で記述する」ということをキチンと実践していたから、長岡さんを神様のように慕う読者が多かったのだと改めて気付きました。
長岡信者である友人に話したところ、「当たり前じゃないか」と一蹴されてしまいました。
私にとっては、よい反省材料になりました。

追記 (思い出)
長岡さんがご存命のころ、方舟にも2、3回お伺いしました。もちろん仕事でです。
最初にお伺いしたときには、長岡さんの声が高いのにびっくりしたのを憶えています。もっと低い声かと勝手に思い込んでいたので・・・故・永六輔さんの声よりも高かったと思います。
ほかの評論家のお宅にもお伺いしましたが、方舟は広く、天井が高く、スクリーンの大きさにびっくりした記憶があります。
斎藤さんのお宅は公団の2階か3階で、製品を持って階段を上がるのに苦労しましたし、金子さんのお宅も試聴室に座るスペースが無い(床がほとんど見えない)ので製品を入れ替える毎に壁面に接して置かれたベンチ風椅子に入れ替わって試聴してご意見を伺いましたし、江川さんのお宅には庭から伺ったり・・・菅野さんや石田さん、山中さんのお宅が快適空間だったのとは違い、我々庶民側・・・というより良い意味で「作業場」「実験室」の環境でした。長岡さんも最初は同様でしたが、方舟を作られた後で伺って広いのにびっくり。ただ、試聴や検討に本当に必要十分なものしかなく質実剛健を地でいく感じでしたが。

浅沼さんのお宅は、モダンな中二階での試聴で、音圧がうまく逃げて羨ましい環境でした。浅沼さんはAVの感性が高く、私が気にしている「痛いところ」を突いてくる雑誌評価をしていただきました。
2002年にご逝去されたときには「早過ぎる・・・」と絶句したのを思い出しました。そのころには私も最前線から離れつつあったので、お伺いする機会が減ってしまっていました。

お伺いしていた評論家の皆さんが次々と逝去されていき、自分の年齢を感じる今日この頃です。

『102SSC』ケーブルについて

 2020.1.10
『102SSC』は、オヤイデ電気が生産中止のPCOCCに代えて市場投入した無酸素銅のケーブル導体ですが、気になって製造を担っている三洲電線のHPを確認しました。
http://www.sanshu-ew.com/
「UD撚り線(同方向2回撚り線)」「SD撚り線(異方向2回撚り線)」「CKK撚り線(真円集合撚り線)」「CK撚り線(中空撚り線)」など「真円」への徹底的なこだわりを感じました。
通常、集合撚り(何も考えないで撚る)を実施すると、素線の間隔が最小になるように六角形の断面(次図の下)になりそうですが、実際には不等辺の多角形配置になります。(三洲電線のHPを参照願います)
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それを真円に近付けるためには外形を圧縮して整形するようです。当然、応力が内在し太さにもバラツキが出ると思われます。
それを嫌って撚りを2層に分けて同方向で実施するのがUD撚り線で、それぞれ異方向で撚ったものがSDになります。径の平均化を狙ったものですが、これには限界があります。
そもそも何で真円を狙うのかですが、シース(被覆)の厚さを薄くできることが第一の理由と思われます。集合撚りでは撚り線真円度が低いため、シースの厚さをある程度厚くしないと絶縁性(最小被覆厚)が確保できません。撚り線が真円で、且つシースの偏りが無ければシースを薄くできて、信頼性が上がります。
MIL規格(米軍規格)では他の規格に比べて寸法公差が小さく、使用温度範囲も広いのに屈曲性や他の信頼性も求められるため、真円化はどうしても必要になります。
圧縮しないで真円を得る方法を模索する中で3種類の径の異なる素線を撚り合わせることで真円度を上げるようにしたのが3E撚り線になるそうです。
上の図は37芯の2スクェア品TA-3Eを模したものです。

102SSCの撚り構造は、この3E撚りそのものです。
これは製品としての品質を確保するための方策で、三洲電線のお家芸ですが、それ以外に伸延工程で通電アニールを実施すると表面に浮いてくる不純物の排除方法にピーリング(表面を剥いてしまう)を実施していることが触れられています。
酸洗いと違い、表層だけでなくある程度の深層まで排除する(削り取る)ため、純度アップには良い方法です。ただし、日本酒と同様に製品になるのは芯の部分だけになるためC/Pが悪いのが難点です。
表面酸化を嫌い、この素線を三洲電線に短時間で持ち込み、撚り〜被覆工程を実施するのだそうです。
ただ、ちょっと考えると分かりますが、ケーブル状態に切ったものは端面が空気に晒されており、素線の隙間から酸素が入り込むので酸化からは逃れられません。ただし、シースとの間隙は樹脂で埋められているので、表皮効果(高周波電流は表面を流れる)はスポイルされにくいと思います。100kHz〜MHz帯より上の話ですから、オーディオにはあまり関係が無いと思いますが・・・。
素材に関しては、PCOCCの粒界が少ないことによる音質改善については自分で確認して納得している(ただし5m以上のSPケーブルでしか私には認識できませんでした)のですが、どちらかというと撚り構造やシース材質のほうが音質影響度が高いと考えています。

40年以上前から感じていましたが、複雑な構造にすればするほど、それぞれの影響が複雑に介入してきて、「高価=複雑でスゴそう」だけれど、実際にニュートラルな試聴をしてみると「高価=高音質」にはならないようです。
数学の1+1=2はスカラー量の足し算であって、事象の場合はベクトル量なので、それぞれの1は素晴らしいものであっても1+1=1.8の場合もあるし、1+1=0.2、1+1=−1なんていう場合もあります。せっかく手間暇かけても、1+1+1+1+1=0.3なんてこともあります。
シンプルであれば解析も楽だし、次の対策の方向性も間違うことが少なくなりますので、温故知新・・・前項のパレート図やフィッシュボーンを活用して、地道に検討することが『急がば回れ』なのだと思います。

パレート図の効用について

 2020.1.7
前項でパレート図が出てきたので、ちょっと記します。

パレート図は、ある事象にたいして影響度の高いものから順に表示して整理したものです。各項目を棒グラフで表し、絶対値累積パーセントを折れ線グラフで表します。
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このように整理せずに検討を実施した場合を想定します。
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下図で目標(☆)を目指してA点から検討をスタートしますが、@ ⇒ A ⇒ B ⇒ Cの順番で実施すると、@、Aは「何となく改善」、Bは「かなり改善」、Cは「ちょっと悪くなった」という評価ができます。Bの効果が大きいのでCは過小評価される傾向がありますが、悪化が分かったとします。(例1:A ⇒ Eが軌跡)
結果としてCは実施せず、Dが検討終了ポイントになります。(赤破線)
ここでパレート図の棒グラフの長さは、どれだけ目標に近付いたかではなく、例1の各ベクトルのX軸への投射スカラー量(どれだけ改善したか)になっていることに注意してください。
別の検討順番を例2に示します。
B ⇒ A ⇒ C ⇒ @の順番だとAの改善効果が小さいためCの悪化や@の改善効果がマスキングされてしまい、C’ではなくEが検討終了ポイントになる可能性が高くなります。
例3のように、偶然であっても改善効果がプラスの項目を実施した場合には検討順番に因らず到達点が共通になる場合が多くなります。D=D''

検討の方法としては、フィッシュボーン図(特性要因図)で項目を明確にして、効果を想定して効果の大きそうなものから実施するのが合理的ということです。

「記憶の忘却と再構築(すり替えまたは美化)」についても、以下に記しておきます。
途中経過ポイント(たとえば例1のD)からCとC’の項目を比較チェックする段階でCの結果であるE点の位置が時間経過(作業時間などによる)とともに移動してしまうということです。
Cの効果が自分の考えていた結果(かなり効果ありと想定)と異なっていた場合、時間経過に伴って実際より過大評価されてExに書き換えられ、自分が効果がないと考えていた項目(実際にはプラス評価)を実施するとFと評価されるためExが終了ポイントになってしまいます。客観的にはEが次のスタートポイントになりますが、次の検討時には記憶が薄れていますので何の疑問も持たないと思います。ただし、Cの評価は過大評価されたままです。
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実際にはEよりFのほうが目標に近付いていたのに違う結果になってしまいました。(時間経過による記憶の再構築と美化)

詳細は、拙著PDF『音声記憶の脳メカニズム』、『音質評価について』を参照願います。

 『音声記憶の脳メカニズム』
 『音質評価について』

クライオジェニック処理について

 2020.1.7
Webサーフしていて見つけた『クライオジェニック処理』について調べてみました。

極低温(液化天然ガス−162度〜液体窒素−196度〜液体ヘリウム−269度)の環境に物質を置くことで分子配列が整い、物質によっては超電導現象を起こしますが、その後、常温に戻す際の処理(特許項目になっている:少なくとも常温放置でなない⇒脱酸素、窒素雰囲気中など?)によっては超電導現象は消えるものの整った分子配列は残り、結晶欠陥や配列の歪が極端に少ない状況を保持できるとのことです。

これは高温環境に物質を置いた後の「焼きなまし」や「焼き入れ」などで表面改質が行われるのと同様の現象になります。その際に脱酸素や窒素雰囲気中で行うと改質の達成度が上がることは実証されているので、処理自体が重要なのは頷けます。
これをケーブルの導体やヒューズ、電源ジャックなどに応用して音質改善製品として販売しているメーカーがあるので、気になって調査しました。

ケーブルで言えば、結晶粒界が少ないPCOCCと通常タフピッチ銅との音質の違いほどの音質効果は期待できないにせよ(これとて、十人が十人とも同じ評価にはならないが・・・)、聴覚で認識できる可能性があるかもしれません。
実際に切り替え試聴した訳ではありませんので断定はできませんが、周囲の条件を厳密に固定してクライオジェニック処理したものとそうでないものを比較してみたいものです。同じケーブルへの処理の有無が比較対象なので、シース(被覆)の差も排除でき、判断がしやすいと思われます。

品質管理で有用なパレート図を使って音質影響の大きい項目を排除したシステムを使い、瞬時に切り替えができるようにすれば差異が分かるかもしれません。
長い時間をかけてケーブルを交換する試聴方法では「記憶の忘却と再構築」による「プラセボ効果」を排除できず、自分に都合の良い(自分が好ましく思う)ほうを優れていると思い込むので意味がありません。
あくまで短時間、できれば瞬時に切り替えることが「正しい評価」を得るためには必要です。

PDFファイルアップデート

 2020.1.5
定例のアップデートを行いました。
・理想のユニットとは:rev.4.07
 『理想のユニットとは』
・音声記憶の脳メカニズム:rev.1.08
 『音声記憶の脳メカニズム』
・音質評価について:rev.1.05
 『音質評価について』
今回も小幅変更になります。

キャビネットと駆動系の分離について

 2020.1.3
令和2年もいつの間にか3日目になってしまいましたが、今年もよろしくお願いします。

今年はAR-2を構想段階から実証段階へとステップアップさせたいと思います。
第一回目は機械系の話になります。
エンジン部分についてはARシリーズの名称の由来であるタンデム構造(2つのユニットのボトム同士をリジッドに結びつけて作用・反作用を打ち消す)を採用することは貫きたいと考えています。
2012年からスタートしたARシリーズですが、旗艦機であるAR-1でエンジンの重心(振動系中性点でもある)から支持シャフトを床に立てる「やじろべぇ」基本構造を実現しました。
キャビネットについては床に置いた三脚&ピラーの上に載せる構造だったためエンジン部分とキャビネットとの間にはどうしても構造的応力が働いて、何らかの歪がエンジンからキャビネットに伝播して二次歪(タイムドメイン混変調歪)を生むという欠点がありました。
結果、床の材質や設置方法で音がコロコロと変わり、歪感の無いまともな音を出すまでに、調整に多くの時間を要しました。

その反省から、キャビネットにも「やじろべぇ」構造を導入してエンジン〜キャビネット相互に応力がかかりにくい構造設計をAR-2に盛り込むことにしました。 amp1
ただし、キャビネットの支持シャフトはキャビネットとチューブの接合部後部(図のオレンジ色部分)にあり、チューブ先端にウェイト(図の下方オレンジ色部分)を追加しないとバランスが取れない構造になっています。
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そこで、チューブ内にキャビネット支持シャフトも納めてしまい、シャフトの支点をキャビネット内壁上部に位置させる(支点が重心より十分に上に位置する)ことで安定度を上げました。

この構造の効果を確認するため、タンデムではなくユニット1つとバランスするようなカウンターウェイトで構成されたエンジン(富士通テンのEclipsと同様に仮想GNDを構成する)で実証を行うことにしました。

結果については、これから順次ご報告していきたいと思います。

OSコンの思い出

 2019.12.28
OSコンをご存じでしょうか。
有機半導体(Organic semiconductor)を使った固体アルミ電解コンデンサのことです。
佐賀三洋工業(現・パナソニックデバイス佐賀)の丹羽さんが1980年代に開発し、1980年代中頃に市場投入された電解コンデンサで、電解質に高伝導性を有し耐熱性の高いnBIQという有機材料を使っています。
スリーブ(熱収縮チューブ)の極性表示が紫色なので雑誌記事の内部写真などで目にされた方も多いのではないかと思います。

1980年代後半〜90年代はCDプレーヤー全盛の時期で、私も音質検討に使わせていただき、抜けの良い音質に好感を抱いていましたが、いざ製品投入となるとコストがネックになり、なかなか採用できなかったのを思い出します。
カップリングコンデンサにはニッケミ(日本ケミコン)のAWDやAWF(茶色のスリーブに金文字表示)、エルナーのシルミック、ニチコンのMUSE(メタリックグリーンのスリーブ)、ルビコンのブラックゲートなど高価で低倍率エッチングの巨大なものを検討したり採用したりしましたが、サイズ的に制限のあるオペアンプのパスコンには高周波特性の良い小容量コンデンサをパラに挿入することなく特性改善と音質改善(ローカル電源としてインピーダンスが低く保持できるためか抜けが良くスピード感があり、何故か歯切れの良い低音が出た)の一挙両得できるものとして検討していましたが、採用には至りませんでした。
1990年代中頃には縦型面実装タイプのOSコンが製品化され、CDプレーヤーの高級モデルを私が担当するタイミングで採用を決定しました。ただし音質面でのメリットではなく回転系サーボ回路の性能要求からでした。高周波特性の良いタンタル電解コンデンサは安全面から使えないため、その代替採用ということでした。

1990年の特許取得なので、2010年以降は他社製品も市場に投入されるようになりましたが、「サンヨーのOSコン」はパナソニックになっても半導体固体電解コンデンサの代名詞のように感じます。懐かしい思い出です。

SPケーブルの鳴きについて

 2019.12.20
アンプからスピーカーには音声信号に応じた電流を供給する必要があるのは当たり前ですが、この役を担うケーブルが振動して音を出すことがあると言ったら、皆さんは信用していただけるでしょうか?
実は、私自身が30年以上前に一度だけ経験したことなのです。都市伝説ではありませんよ。

当時、私はオーディオ製品の設計者でしたが、担当者に比べて製品数が多く、最終段階の製品では音質検討以外に性能検討も自分でやらなければならない状況でした。
その時は、十分にS/Nの取れる視聴室(Mスタと呼んでいました)に試聴用のスピーカー、CD、アンプなどを持ち込んで、アンプに純抵抗(ヒートシンク付き8Ωのメタルクラッド抵抗:ビシェイ製だったか・・・)をつないで実験をしていました。
スピーカーをつないでいれば音量でボリュームの目安が付きますが、相手が抵抗なので音は出ないため、かなりのミュージックパワーが加わった状態だったと思います。
別の作業をしていたら、どこかから音が聞こえます。楽音に応じているようでフォルテッシモの部分だけでしたが、何の曲かが分かるレベルです。そんなはずはないと思いながら音の出どころを探ると、抵抗の端子に巻きつけた配線の撚り線部分(シースから出た部分)でした。不精をして半田付けせずに、ただ軽く巻きつけた状態でした。
ボリュームを上げると音が大きくなりましたので、音響変換が起こっていたことは事実です。
端子に巻きつけた撚り線がちょっとバラけていて、1本だけ膨らんで食み出しています。その細い撚り線が食み出していた部分から音(楽曲に従った音の強弱は確実に分かりました)が聞こえていたことは確認しました。指でその部分を軽く触ったところ、それ以降、まったく再現できませんでした。それほど微妙な現象でした。
環境としては、壁面近くに抵抗を設置していたので、壁に埋め込んであるAVR(電源変動安定器)が近くにあって交流磁界と電界が大きかったのは確かです。それと外したウーファユニットがゴロゴロと置いてあったので、直流磁界の影響もあったと思います。
そのあたりを勘案して原因を想定すると、直流磁界中に平行線(お互いに反対方向の音声電流が流れる)が置かれている場合、それぞれの電線はお互いに近付いたり離れたりするような力を受けます。
下図では、紫色で平行な多数の矢印が直流磁界、黄緑色の被覆(シース)の中に青色の電線があってそれぞれ逆方向に電流が流れている状況を上下で表現しています。黄色の矢印は電線に加わる力(ファラデー力)になります。
wire11
電流が交番する毎に、力の向きも逆になるため、電線同士が振動することになります。これは片側だけでも成立し、振動することにほかなりません。ただし、スピーカーのギャップ内のように磁界が強烈な訳ではありませんので、力は微々たるもので、電線を目に見えるほど動かすことはできません。
私が経験したのは、電線の撚り線(記憶では極細線を撚ったものだった)の1本だけが非常に動きやすい状況にあって、且つウーファの漏れ磁界が強い状態で、部屋の暗騒音が25dB以下(無響室ではないので20dB以下は無理)という特殊な状況で発生した現象だったのではと想像しています。

抵抗でなくスピーカーにつなげばかなりの音量が発生する電流が流れていましたので、歪として認識できるレベルではありません。
このように確認できる現象もあるということです。

ただ、ケーブルを交換すると音が変化するのは事実で、歪が付与されていると考えられます。
要因としては、銅線自体の材質が取り上げられることが多いのですが、私は、シース(皮覆)の材質のほうが分布定数的に考えても虚数成分(ロス)となり影響が大きいと考えています。
とは言え、シースが無いと絶縁性が保てませんし、空気に触れて酸化してしまうのも困ります。
フォルマル線(単線の表面を数十ミクロンの薄い樹脂でコーティングしただけ)を数か所スタンドなどで空中保持して配線するのが一番良いのかもしれません。太ければ、上記のように鳴くこともないでしょうから。

追記
プラスとマイナスの配線間を広げるのはお薦めできません。ループの内側面積が広いと貫く電界による影響が大きくなってしまいます。外乱のアンテナになってしまうということです。撚り合わせられるならそのほうが数段良いと思います。

瞬間接着剤について

 2019.12.14
前々回、接着剤SGAの話をしましたが、今回は瞬間接着剤です。
日本では東亜合成のアロンアルファが有名ですが、セメダイン(ヘンケル)のロックタイト(403など)も市販されています。
実は、今回も失敗に端を発しています。
接着面積の小さなものを接着しようとする場合、その周りに接着剤を盛り上げたくなるのが人情ですが、そうすると瞬間接着剤としての機能が失われてしまうという「あるある」系の失敗をしてしまいました。
そもそも、瞬間接着剤の硬化の仕組みは、主成分(シアノアクリレート:ほとんど成分の100%に近い)が、空気中の水分と反応してポリマー化することに拠ります。
説明書にも「面積に応じて1滴〜数滴を垂らし、相互接着片を押しつけて広げるようにしてください」のような記述があります。
これはモノマーができる限り水分と反応しやすくするための作業であり、上記のように盛り上げてしまうと表面しか空気中の水分と触れなくなり、いつまで経っても硬化しません。おまけに表面だけがポリマー化して透明でなく白くなってしまいます。

また「塗り広げないでください」の記述も見かけますが、これは水分に触れて硬化してしまい、接着に供与しなくなってしまうからです。

SGAのように成分同士が重合反応するものでは盛り上げても良いのですが、瞬間接着剤については禁止項目になります。ゼリー状は盛り上げるためではなく、垂直面への接着のために粘性を持たせていて垂れないようにすることが目的です。

トルイジン(芳香族アミンの一種)が、硬化促進剤として使われることもありますが、てんこ盛りを許容してくれるものではありません。

失敗すると、いろいろな知識が広がります。大いに失敗しましょう。「トライ(アル)アンドエラー:試行錯誤、手探り」とは良く言ったものです。

追加情報ですが、ほぼ同義語の「カットアンドトライ」は電気分野で生まれた言葉のようで、「(巻線などの長さを)何度も調整しながら目標値に追い込む」意味のようです。
トライアルアンドエラーは結果としての失敗を前提としたように感じて使うのを躊躇われる方もいらっしゃいますが、私は「失敗を次に生かす」という意味で良い言葉だと思います。

2019東京インターナショナルオーディオショー

 2019.11.23
雨の降る中、本日行ってきました。
昨日よりは気温が高いものの、本格的な寒さに震えました。
例年通り、有楽町・東京国際フォーラムでの開催で、雨のせいか、人出は少なく感じました。
今年もダイジェストでいきます。写真はiPADで撮りましたが、掲載は後日・・・ご容赦ください。

G701(DENONブース)では、DALIの技術者がユニットの説明をしていたので、聞かせていただきました。
ボイスコイルを駆動する弊害としての逆起電力と磁気変調による渦電流(結果的に3次高調波歪の要因になる)を減らす方法としてポールピースにSMC(ソフト・マグネティック・コンパウンド:砂鉄一粒々々に樹脂コーティングしたものを焼結?)を使い、磁区(磁路)を確保したうえで絶縁性を持たせることで渦電流が生じにくくしたとのことでした。
カタログを見ると、マグネットの一部に・・・とありますが、誤訳でしょう。写真を見る限り、ポールピースとトッププレートのギャップ周辺部分にSMCを使っているようです。たぶん、純鉄(軟磁性鋼)に対して比透磁率はさほど低下しないのではないかと思われます。
技術者の説明では、1kHz〜2kHzの3次高調波歪が低減するため、クリアな音質が得られるとのこと。

G602(エソテリック)ではアヴァンギャルドUNO XDのFINO EDITIONでデモを行っていました。能率の高いホーンならではの鳴りっぷりで、好きな人には堪らないのだと思います。
G603(LINN)は、毎年、最適化により安心して聴けるデモを行っているのに感心します。
G608(今井商事)ではデンマークJERN(ヤーン)社のねずみ鋳鉄製キャビネットを使った小型SPシステムで音出しをしていました。低域はFoundation500というサブウーファで補っていましたが、繋がりがイマイチでした。
G610(太陽インターナショナル)ではNAGRA(スイスのプロレコーディング機器メーカーとして昔から有名)のHDプリアンプが展示されていました。音量調整に抵抗分圧ではなく分割トランス巻線を使ったりコンストラクションが左右対称で洗練されていたりなど独自技術に溢れていて、ノイズフロアを十分に下げS/Nを確保し、クロストーク(1kHz、1Vrms)が-130dB以上のスペックを得ています。デザインはNAGRAらしく古くさく無骨なのですが味があり、ヘビーデューティなキャノン端子などが装備されたプロ仕様で信頼性が高く、メカ好きや技術者でなくても欲しくなる逸品です。
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G502(日本音響エンジニアリング)はエレクトリのブースで共同開催していて、AGS(アコースティック・グローブ・システム)の「SYLVAN」をシステム後部に並べた場合の効果を検証していました。かなりの人数が入っていましたが、低域のダブつきがすっきりしてヴォーカルが明確になるなど、効果は十分に分かりました。部屋の改善はオーディオ製品の差以上です。
G508(フォスター電機、フォステクス)では、FE-NVシリーズの視聴と説明を行っていました。例年の営業主体から技術主体のデモ&説明に舵取りしたらしく、設計者自らの説明にあいまいさのない小気味よさを感じました。銅キャップが3次歪を減らすことやインダクタンス上昇を抑制することを上手く説明していました。また、コーン紙はケナフの長繊維と短繊維を混抄したもので、鉱石をコーティングしているそうです。パンフレットによるとダンパーには3点接着用にコーン紙の口元を納めるポケットネック形状を採用しているようです。20世紀の技術ですが、基本に忠実がベストです。
G509(ハイエンド)ドイツのランシェ・オーディオNo.5.2をデモ。コロナ放電を利用したツイーターは振動板の共振モードが発生しないためか嫌な音がしない自然な音が再現できていました。放電のための高圧発生部分が無ければもっと普及しても良いはずです。
G401(TAD)は、例年通りハードな音を追及していました。
G404(タイムロード)では去年創業の英国NODE社の「HYLIXA」を展示していました。ペアで520万円ですが、流線形のボディが拙作ARシリーズと似ていて、勝手に好感を持ちました。3Dプリンターによる製作ということで、かなり複雑な音道構造になっていて、且つ外観にはネジ1本も見えないという徹底ぶりです。
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G409(ゼファン)では、去年、試聴したハンガリーBAYS Audio社の「クーラント」が展示されていました。円筒形メンブレンが膨らんだり縮んだりすることにより平面波を発生するというのが謳い文句なのですが、どこから音が出ているか分からないほど音像が膨らみ、芯のないフワッとした音が出ていて欲求不満になりそうだったのを思い出しました。音場はJAZZMANの波動SPにちょっと似ていますがJAZZMANと違って自然さが無く、残念ながら私には好きになれない音でした。スイスHSE社のMASTERLINE7は同国内でNAGRAと双璧を成していたSTUDER出身のロバート・フーバー氏が設計したものですが、デザインコンセプトがちょっと似ています。
D5ホール(アクシス)は、例年通りのデモでした。これもいつも感じることですが、天井の高いホールでのプライオリティ(気持ちよく聴こえる)があって逆に製品の評価が難しいなぁ・・・。
D1ホール(パナソニック)は閑散としていて、ちょっと残念でした。小川さん、中途半端な展示では魅力を感じません。そろそろテコ入れしないといけないのでは・・・雨模様だったこともあり、ちょっと湿ってしまったのかな・・・テクニクスは日本の雄でなければならないと思います。

接着剤SGAについて(追記)

 2019.11.12
「重合」が良く分からないとご意見いただきました。
前回の記事は、ちょっとザックリし過ぎていたと反省しています。
重合というのは、モノマー(反応する成分と考えてください)が何らかのトリガー(攪拌など)を機に繋がってポリマー(反応後の生成物)を生じる反応のことです。
重合には逐次重合と連鎖重合があって、逐次重合は縮重合(付加縮合)とも呼ばれ、モノマーの端にある官能基が次々と反応して高分子化するので1つのポリマーの分子数(分子を構成する原子の数)が大きくなります。連鎖重合は官能基を持たないモノマーが開始剤(触媒の場合もある)により反応を開始するもので、いたるところで反応が進むため、分子数はさほど大きくなりません。
連鎖重合にはラジカル重合とイオン重合があるそうですが、ここでは割愛します。
ここで重要なのは重合反応はAとBが同じ数の分子対で成立するということです。通常、分子の数を表すのにモル数(約6x10^23個)の質量(物質量)を用いますが、モノマー同士が重合するため、A、B、2液の混合には等量(等モル)の混合比を守らねばなりません。
最近市販されている2液性接着剤の場合には、ほとんどが同体積で等モルになるように作られているものが多いため、目分量で同量を混ぜれば硬化するはずです。(全てが1:1ではないので説明書きに注意!)
それでも硬化不良が発生するのは、ほとんどの場合、攪拌不足が原因です。
気温が低くなると攪拌してもキチンと混ざらないことがあり、表面がいつまでもベタベタしてしまいます。ひどい場合には層間にモノマーが残り、剥離します。

2液性接着剤による接着では何度も痛い目にあっているのに、注意しているつもりでも繰り返します。使いかけの容器(ホコリや残滓、放置中に入った油分、水分が障害になる)、ワックス付きの容器(紙コップなどは漏れ防止でワックスを使っているものがある)は使わないことが肝要です。

接着剤SGAについて

 2019.11.10
最近、金属同士を接着する必要があり、セメダイン社の『メタルロック』を使用しました。
この接着剤はSGA(Second Generation Acrylic adhesive)と呼ばれるアクリル系2液性常温接着剤です。FGA(触媒によるアクリルモノマーとエラストマーの反応)、SGA(ラジカル重合反応)ときて、現在ではTGA(第三世代:紫外線、電磁波、電子線などのエネルギーで重合反応する)まで登場しています。
SGAという言葉が気になって調べてみました。

接着剤の硬化形態には、湿気硬化型・加熱硬化型・紫外線硬化型・嫌気硬化型、2液混合型などがあります。
それぞれメリット・デメリットがあり、紫外線硬化型は硬化させたいタイミングをコントロールできて、固まらせたいときに直ぐに硬化する反面、紫外線照射設備が必要になりますし、湿気硬化型は湿度があれば常温で硬化しますが、硬化に時間がかかり、環境の温湿度により硬化性が左右されます。
2液混合型の接着剤は、主剤(A剤)と硬化剤(B剤)を規定の比率(等MOL)で混合(十分に攪拌)することで硬化(ラジカル重合:モノマーが次々とポリマーになっていく)反応が開始し、反応が終わることで硬化します。
主剤としては、エポキシ系、シリコン系、アクリル系に大別されていて、それぞれに特徴がありますが、今回のSGAはアクリル系で、硬化性が良く(硬化時間が短く)、短時間で実用強度に達します。
エポキシ系との大きな違いは、硬化後の柔軟性にあります。エポキシの場合には硬度は高いものの粘りが無く割れや剥がれが生じやすいのに対し、エラストマーを含むアクリル系SGAの場合には応力に対する粘りがあり、耐ショック性に優れています。
また、2液性のメリットとしては、他の接着剤と異なり、いたるところで反応が始まるため均一に硬化が進むので面積の広い接着をした場合に応力歪が残りにくいというメリットもあります。(湿気硬化型や溶剤に固形成分を分散させたゴム系接着剤などは表面から硬化しますので、厳密にいえば体積が減少したりして内在応力が発生します)
SGAの使用例としては、ローターに永久磁石(ネオジなど)を使用するPM(永久磁石)モーターの接着固定などに使われ、耐久性を求められる状況に適した接着剤となっています。

私の場合には、AR-1で2つのユニットを連結させる際にエポキシ系接着剤を使用しましたが、数年後にメンテナンスで分解した際に衝撃を与えたところ、ユニットのボトムと接着剤の間で見事に剥がれました。
接着面積もそれなりに確保して、脱脂してから貼り合わせていますので、粘りがないための結果と思われます。今後の製作ではメタルロックが活躍しそうです。

毎回、にわか仕込みの知識で申し訳ありませんが、引き続き紹介していくつもりです。気になったら、もっと深く調べていただければ幸いです。

ビームテック『Nova2101』について

 2019.10.25
記事の掲載が約1か月ぶりになってしまいました。
この間に台風被害が相次ぎ、幸いにも我が家に被害はありませんでしたが、甚大な被害を受けられた方もいらっしゃると思います。
お見舞い申し上げます。

STEREO誌9月号に電子顕微鏡開発メーカーであるビームテックがULTIFI(Ultimate Fidelity:究極の忠実性の合成造語だそうです)のブランドネームで発表したNova2101が注目製品として取り上げられました。
畑違いの業界からの発表ですが、そもそも光学顕微鏡が光をレンズで屈折させて拡大映像を得るのに対し、SEM(走査電子顕微鏡)やTEM(透過電子顕微鏡)は、電子ビームを途中に設けたコイル(巻線)に電流を流すことでレンズと同じ屈折の働きをさせて曲げるものです。昔のブラウン管テレビと同じ原理です。
要は磁力線の扱いについてはプロということですので、磁気回路を持つオーディオユニットを考えれば、それほど遠い業界ではないのです。

ユニットは、エッジレスと平面振動板を特徴としていて、システムとしては10cmのウーファと2.6cmのツィータの2ウェイです。
キャビネットはバッフルサイドをテーパー加工した奥行が長めのブックシェルフ(約15L)で、バーズアイ・メープルのツキ板にクリア鏡面仕上げ。バスレフ方式を採用しています。(ビームテックのホームページで禁転載を明示しているので、写真などは掲載できません)
見た目はYAMAHA系の明るいデザインで、左右対称のデザインがすっきりとしたイメージを与えますが、値段がなんとペアで148万円!開発費に相当な金額を投入したのでしょうか・・・。もしくは良い音と思った方にだけ購入していただければ良いという発想かと思います。全て外注で作れば原価がべらぼうに高くなるので、このくらいが妥当かもしれません。
ULTIFIのホームページは
http://www.ultifi.jp/
になります。

前置きが長くなりましたが、特徴であるユニット構造について考察してみます。
まず振動板ですが、発泡プラスチックと金属薄板のハイブリッドとあります。写真を見るだけでははっきりしませんが、表面は白色発泡樹脂のようですが、STEREO誌の写真ではメッシュが入っているように見えます。
円錐形の金属コーンに極薄の金属ハニカムを貼りつけ、そこに発泡樹脂を充填したものではないかと思われます。
平面振動板のメリットは、前室効果(メガホン効果)が生じないことですが、デメリットもあります。
平面振動板の構造は珍しいものではなく、各社で製品化した実績がありますが、今までの構造ではVCボビンで発生したローレンツ力が円錐台形の金属振動板に伝播され、同時に充填された発泡樹脂にも伝播される形になります。表面は発泡樹脂ですので、気中には発泡樹脂による音響振動が放射されることになります。
樹脂と金属が一体化していても、音質はどうしても表面材質に左右されます。
それを補うために、ビームテックでは表面までハニカムで伝播させる構造を採用し『多重駆動』と名打っているのではないかと想像します。この部分が特許なのでしょうか?
しかしながら、樹脂を充填して強度を上げ内部損失を得る弊害として、振動系質量が大きくなってしまいます。Nova2101の場合には、ハニカムの質量も加わるので馬鹿になりません。能率は下がるし、逆起電力の影響も大きくなります。
それでも敢えて平面とした拘りがビームテックにはあるのだと思います。私もSONYのESPRIT(エスプリ)シリーズ、特にAPM-6 Monitorには憧れたものです。(商品化コンセプトを認めてくれる環境を羨ましく思い、自分ならこうするのにと考えたものです)平面振動板の材質はアルミハニカム+アルミ表面スキンでした。実効質量が大きいので磁気回路+VCは4つあり、高域までピストンモーションが成立するようモーダル解析で最適駆動点を決めていたと思います。

同じ平面振動板でもパナソニック(テクニクス・ブランド)のSB-C700やG90などのリニアフェイズを謳うユニットについては発泡樹脂充填は採用せず、サブコーン+表面スキン材(カーボンクロス系)を採用して実行質量の増加を抑えています。
この場合には、サブコーンはVCボビンの延長として機能し、スキン材を外周(実際には外周ではなくモーダル解析して分割振動モードが立ちにくい半径の円周部分)を駆動する方法を採用しています。
それぞれ一長一短があると思いますが、個人的には実行質量を大きくしたくないところです。

次にエッジレスですが、ホームページのユニット写真を見ると振動板とフレーム間のギャップは非常に狭く見えます。
この部分は拙著PDF『理想のユニット』にも記しましたが、パイオニアやFOSTEXが何回かトライして、結局諦めたテーマです。
ユニットを上向きにした状態では振動板は正しく軸中心に保持されますが、システムとして箱に組み込む(ユニットが立てられる)と振動系の自重によりモーメントバランスを取った状態であっても地面方向に応力(重力)が働きます。
常に応力がかかった状態なので、保持系(ダンパー、スパイダー)に負荷がかかり、経年変化が心配になります。
Nova2101のユニットの場合には、ギャップの前後にダンパーを入れて保持していますが、その位置決めは至難の業と思います。同時に振動板とフレームのギャップ幅も制御しなければならないのですから・・・もしかしたら、この組立部分に何か仕組みがあるのかもしれません。発想を転換して、ギャップを均一にするよう最後にフレームを位置決めする構造かもしれません。(磁気回路とフレームはスタッド連結のようですので・・・)
エッジレスの結果としてダブルダンパーにせざるを得なかったのだと思いますが、そうすることで振動系のスチフネス(ばね定数)が大きくなり、f0は下げられなくなります。
いずれにしても興味深い製品ですが、エッジ・ギャップ部分が狭いだけに異物が入るとヤバイな〜と感じました。

私のほうは、やっと体調が戻ってきたこともあり、AR-2の予備実験としてAR-1.5と名付けた機種の製作をスタートしました。
そちらのほうは、後日ご報告させていただきます。

VC周りのスチフネスについて

 2019.9.30
一昨日の記事でVC周りのオリフィスについて質問がありましたので、回答します。
オリフィスは、狭い空間を流体が通過する構造のことで、広い空間から急激に狭い空間へと流体が移動するため、オリフィスが形成される壁と壁との間の流速(圧力)が上がるものです。狭い空間を抜けると再び流速は遅くなり、圧力は元に戻ります。
オリフィス内では圧力が上がるため、壁面に対して押し広げようとする抗力が生じます。VCとギャップとの間にもVCの内周および外周にオリフィスが形成されています。(下図左端)

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左端図は、通常のユニットでVCが振動板を後ろに駆動した場合を図示したもので、空間1、2の圧力が上がるので、VCの内、外周ともにVCの駆動と同じ方向に空気の流れが生じます。VCが逆方向に駆動された場合も同様に駆動と同じ方向になります。
その次の図はキャップが無い場合で、空間2はオープンエアになります。したがって空間1⇒空間3、空間3⇒空間2の流れが生じ、外周と内周とでは流れの方向が逆になります。結果、VC下端で回り込む際に渦が生じる可能性があり、安定度が悪くなり、且つオリフィスでの流動に伴ったノイズがフロント側に漏れる可能性があります。
さらに次の図は空間1の外周部分にエア抜きの穴を設けたもので、空間1、2ともにオープンエアになり、空間3のみが閉空間になります。空気の流れは内、外周ともに駆動方向と逆になります。
この状態では、オリフィスに挟まれたVCボビンは安定してギャップの中を駆動されます。オリフィスで流速が早くなると壁面に対して常に押し広げようとする力が働くためです。
この状態で十分で、右端図のようにさらにセンターポールに貫通穴を開けるとユニット前後の空間が連結してしまい、キャビネットが閉空間にならなくなります。キャップ(ダストキャップ)がある場合には、空間2のスチフネス急変を防ぐ効果があり、図の左側から二番目のキャップレスの場合と異なりノイズがフロント側に漏れることもありません。
そういった意味では、Eton製4-318のセンター穴は蛇足ではないかと考えますが、フェーズプラグの構造がはっきりしないので断定はできません。センターポールとフェーズプラグとの間に何か特殊な構造があるのかもしれません。

空間3もオープンにしてしまえば、VCはストレスフリーになりますが、オリフィスが機能しなくなるので安定性は下がります。この部分は、設計者の考え方次第ですね。

「スチフネス急変」というのもおかしな表現で、スチフネス=バネ定数が急変する訳ではなく、圧力が急変することで「空気の硬さ」が急変することを表しているつもりです。身の回りの現象としては、タイヤに空気を入れていくとタイヤが固くなっていくのと同じです。これが短時間に起こると考えてください。この時、全ての空間で圧力が均一になろうとして(エントロピー極大になろうとして)、オリフィスに流れが生じます。精密機械を運ぶトラックなどで使われているエア・ダンパー(エア・サス)と同じことが起こっています・・・言葉は難しいですね。

Eton Arcosia 4-318 について

 2019.9.28
Etonという企業をネットで見つけました。
ドイツ南部のウルム市からノイウルム市を経てオッフェンハウゼンに向かう途中にあるカーオーディオ&ホームオーディオのユニットを設計製造している会社のようです。

https://www.eton-gmbh.com/en/home/ 

1983年創業ですから、老舗というより中堅企業ですね。
今回、取り上げるのは、「4-318」という4インチのミッドウーファーになります。

bal

振動板はマグネシウム合金ですが、写真の表面に見える「らせん状?放射状?に配置されたディンプル状のもの」は振動板を打ち抜いた穴で、裏面から樹脂コーティングして表面に若干盛り上がる構造になっています。
こうすることで比弾性率は表面のマグネシウム合金に、内部損失は裏面の樹脂に担わせ、且つ、穴の部分で振動板表裏の法線方向の接合をする構造を利用して穴の数や大きさにより振動モードのコントロールも行っているようです。
特徴は振動板だけではなく、中央に見えるチューリップ形状のフェーズプラグには複数のスリットがあって、空気が流れるようになっています。この効果としては、ボイスコイルの放熱がメインになりますが、エアキャップを削除することになりますので、内部微小閉空間によるスチフネス急変を防ぎ、閉空間に起因したギャップ部分でのオリフィス形成による風切り音(歪)も低減しています。
フレームはダイキャスト(アルミ合金では?)だと思われますが、強度を保持しつつ表面を滑らかにして肉を少なくする工夫が見られ、開口率も取れています。また、ダンパー裏側空間のスチフネス急変についてもフレーム台座側面にいくつものスリット穴を設けて開放することでクリアしています。(写真の黄色い四角穴が18個開いていると思われます) おまけにヨーク底面中央にはエア抜き穴があるようです。
このように機械抵抗要素が少ないため、機械系Qms は、7.13と大きくなりますが、フォースファクタBLが4.2【T・m】と大きいので電気系Qes が0.48と十分に小さくなり、総合Qts は0.45と十分にダンプされていることを示しています。
現物を見ていないので詳しくは何とも言えませんが、技術的な欠陥を見つけるのが難しい優等生ユニットだと思います。

1本4万円弱なので安くはないのですが、食指が動くユニットです。

アンプによるスピーカー駆動について

 2019.9.28
以前にもDF(ダンピングファクタ)についての記事を載せましたが、相変わらず『DF神話』が消えないようです。
抵抗をアンプの負荷として考えた場合には、DFは大きければ大きいほど良いというのは私も異論がありません。問題は、SPユニット自体が純抵抗ではなく、駆動周波数範囲に共振点を持つ負荷であるということです。
ご存じのように、ユニットは最低共振周波数f0でインピーダンスピーク(せいぜい数十Ω)を持ち、位相もf0前後で180度変化します。それだけなら有限のインピーダンスピークに対してアンプの内部抵抗が十分に低ければ(DFが大きければ)制御できてしまうように思えます。

通常、アンプは電圧駆動する(結果的にDFが大きくなる)ので、もし負荷が純抵抗であれば、リニアなエネルギーを抵抗に供給できます。(抵抗の両端には供給転圧に相似した電圧が生じる)
ところが、SPユニットはアンプから供給された電流により駆動される(ローレンツ力を発生する)ことは拙著PDFの至る所に記述してあるので耳タコだと思いますが、電圧駆動で電流が供給電圧に相似である条件は『負荷が純抵抗である』ことです。
理想的には電流出力のアンプになりますが、そうすると出力インピーダンスが大きくなり、DFという概念自体が無意味になります。
SPユニットが純抵抗と異なり、上記のように最低共振周波数f0でインピーダンスピークを持ち、位相も共振周波数前後で180度変化するということは、この帯域での挙動はノンリニアにならざるを得ないということです。

これを解消するために、オープン駆動(通常の駆動方法)ではなくフィードバック駆動する(ユニットやスピーカーケーブルを含めてアンプのフィードバックループ内に入れてしまう)ことが一つの解決策(MFB:モーショナル・フィードバック)となります。MFBについては、概略を拙著PDF『DFと逆起電力』で紹介しています。
ただ、これも突き詰めると視聴者の耳の位置に至るまでの要素(部屋の特性含めて)すべてをフィードバックループに納めないと完璧でなないと思えてきます。

7月の記事で、JVCケンウッドがヘッドフォンによる頭外定位を実現できる技術(システム)を商品化したという報告をさせていただきました。
内容は、外耳道に設置したマイクロフォンで個人の頭部伝達関数HRTFのパラメータを測定しておき、ヘッドフォン視聴でありながら、あたかも目の前に設置されたスピーカーから再生しているようにHRTFまでも補正してしまおうというものになります。ただ、この場合には事前予測補正(フィードフォワード制御)になります。ということは、正しく機能させるには「再生のたびに測定時の環境を正確に再現すること」が大前提になります。ヘッドフォンやイアフォンであれば、外耳道との相互位置(測定マイクと同じ位置に振動板を配置)さえ押さえれば、この条件はクリアできます。

この技術を取り入れれば、2chスピーカー再生でも上下方向や前後方向の定位を再現できる可能性が出てきます。
掃除ロボットのルンバではありませんが、測定用外耳道マイクを付けて部屋中を歩き回って測定(位置情報を伴ったパラメータデータをバンク)しておけば、任意の視聴位置で正確な再生が可能になるかもしれません。

アンプの駆動の話からだいぶ離れてしまいましたが、純粋にアンプならアンプ、スピーカーならスピーカーの性能を追いかける時代は徐々に終わり、LINNなどが提唱するようにオーディオ再生も総合システムとしての性格を持ち始めているのかもしれません。

ニードル状の接地部品について

 2019.9.12
体調不良がようやく落ち着き、久々の登場です。

先端恐怖症というのをご存じでしょうか?
先の尖ったものを見ると極度な恐怖を感じて行動に障害の出る症状のことです。
それほど極端ではなくても、目の近くにキリのような先端の鋭いものを持ってこられれば、誰しも恐怖を感じて目を閉じてしまうでしょう。
それとは反対に、尖ったものに対する憧れのようなものがあるのも確かのようです。

スピーカースタンドやラックの足などにニードル形状のものを使ったものが多いのも、なんとなく尖っているとカッコいいということでしょうか。
「いやいや、接地面積が少ないので、影響が小さいんだよ」という声が聞こえてきそうですが、本当にメリットがあるのでしょうか?

bal

確かに、真ん中の三角錐ニードル状のものが床面への接触面積は一番小さく見えます。
理論的には、先端が球面状の左側と接触面積では大差ないのですが・・・。
それでは、接触面積が小さいことのメリットとは何でしょうか?
「そんなの当たり前じゃないか。広ければ振動がいっぱい伝わっちゃうだろ!」と言われる方が多いと思いますが、実際には振動エネルギーの伝播量は接触面積には因らないのです。減衰要素が入っていたり塑性変形したりすれば、伝達率は低くなりますが、弾性領域ではエネルギー保存則が成り立ちます。
逆に、接触面積を小さくすると単位面積当たりの荷重が増えるので、床との接触が確実(損失要素がなくなる)になってしまい、かえって伝達率は上がる場合が多いです。
「それじゃニードル状にすることのメリットって何?」と問われれば、伝達ポイントが明確になる(=支持点が明確になる)ことでしょうか。

ブックシェルフ型のキャビネットを床に直接置くことを想定してみます。床の凹凸があると、どのポイントで接するかが場合々々で異なってしまうため、キャビネットの振動モードが変化してしまいます。
この変調を防げることが、足を設けるメリットになります。
でも、それならば3本足や4本足で安定して接地できる構造であれば、接地部分の形状には因らないことになります。デザイン的な安心感や、機械精度への憧れは個人的にも感じますが・・・商品としては、床面にキズを付けにくい先端半球面がベストと考えます。金属製の鋭いニードルと受け皿のセット商品も先鋭感とキズ防止ができるので商品としては良心的と思います。

ニードル形状が優れているという思い込みは、人間心理(プラシーボ効果)によるものが大きいと思いますが、楽しむためには「思い込み=想いこみ」も大事なファクターです。理論から入ってしまう頭の固い私は『残念な人種』なのかもしれません。
それでも「いいや、見た目だけじゃなくて実際に違いはあるのだ!」と仰る方は減らないと思います。どなたか理論的に説明していただけると有難いのですが・・・。

『マークオーディオOM-MF519』について

 2019.8.18
OM-MF519について、少し書いてみます。
まずMF5との差異ですが、TSパラメータの比較表を以下に挙げます。

bal

色付きの部分が値の異なる項目です。
TSパラメータについては、以下を参照ください。

pdfファイル:
 『TSパラメータ』

ざっと見ると、ダンパーのスチフネス(コンプライアンスの逆数)を下げたことが分かります。実際、ダンパーを触ってみると、本当に柔らかいです。これを製品で使用できるようにしたのは、MarkAudio のダンパー設計者・松原さんの功績と思います。
「スチフネス」で話をするのは、バネ要素の固さ(バネ定数)のほうが仲間内でも理解しやすいためです。(スチフネスが小さい=柔らかい)

昨今、MarkAudioはダンパーレスの製品を立て続けに製品化しており、ダンパーの功罪をよく分かっているメーカーですから、振動系の保持はエッジが主でダンパーが副という位置付けで考えているのだと思います。
磁気回路は、強化したというよりは、漏れ磁束などを処理することで歪改善とQesコントロールを狙ったものと思われます。
事実、数値的にはフォースファクタ(駆動力係数)が若干低下していますのでローレンツ力を発生する加速度自体は若干小さくなりますが、後述のように振動系等価質量が減っているので電気先鋭度Qesは小さくなっています。
相対的に実効振動系質量が1割程度軽く(バラツキは通常±10%程度許容:実質は5%程度か・・・)なっているので、数値発表はないものの、能率はMF5と大差ないと思います。

振動板質量と振動系等価質量の差から、振動板以外の軽量化は微々たるもので、振動板では約0.1gの軽量化が図られているようですが、たぶんセンターキャップの形状変更(厚さと製造法が変更?)と接着剤の減量が要因と思われます。
MF5のセンターキャップは深絞り(複数工程の成型を伴う)のため、基材料が絞りで切れないようにある程度の厚さが必要になりますが、MF519の場合には形状的に抜きテーパーもありますし、裏側にフレア(放射状)の溝があるということですので、たぶん通常のプレス成型に変更したのだと思います。
Dr.マークは、センターキャップの変更についてはVCボビンとの嵌合性アップと説明しています。「フレア」と呼ばれている放射状の溝の効果ですが、接着剤がこの溝に逃げて、溝以外の部分でボビンとの直接接触に近い状態が実現できるということでしょう。
溝が無いと、キャップは接着剤の層に浮いた形となってしまい、必ず「接着剤の音」がするし、接着剤の量によって音質やf特のバラツキも大きくなるということだと思います。キャップの自重で溝に沿って余計な接着剤が押し出されることにより、密着度は上がると思われます。
もう一つは組立作業性の向上だと思います。
設計者としての経験から、MF519のようにフランジを付けて法面(のりめん)にテーパー(抜き勾配)を持たせることで、結果的にセンターキャップの実装性は飛躍的に向上していると思います。
「そんな理由かよ!」と思われるかもしれませんが、販売数量が増えたこともあって、作業者の工数は MarkAudio にとって大きなファクタになってきます。
広州のテレフィールド社(MF519をEMS&OEM生産している)ではセル生産を採用しているということですので、ライン生産ほどではないにしろ工賃に影響します。ひいては販売単価や利益にも影響します。
深絞りからの変更でキャップ単価も下がったでしょうし、一挙両得でしょうか。ユーザーからすれば、一番の得は「キャップとボビンの密着性アップ」ですが・・・。たぶん特許は取ってあると思います。

『ヘルムホルツ共鳴器 rev.1.03』をアップ

 2019.8.14
PCを変えたのを機にOffice2016にアップしました。今まではOfficeXPを騙し々々使ってきましたが、やっと仕事場の環境(Office365)にほぼ追いつきました。
常に最新に更新されるOffice365にも食指が動いたのですが、いきなりアップデートされる環境にも使用者として抵抗があり、安定性で評判の2016を選択しました。
そんなこともあり、このところPDF化した各種資料を見直してきました。
今回は、『ヘルムホルツ共鳴器』になります。
ビール瓶の口元に唇を当てて息を軽く吹き込むと「ボーッ」と鳴るやつです。空気バネの共鳴による身近な現象になります。
なんでオーディオ?音が出るから?と思われるかもしれませんが、バスレフレックス(通称バスレフ)の仕組みの元はヘルムホルツ共鳴に因るのです。
共鳴周波数、バネ定数の求め方(根拠も含め)、バスレフによる低域補強の仕組み(デメリットも)について図の追加と記述の修正を行いました。

PDFの(図1:今回、ちょっと修正)が何の連絡もなく他の方の発行文書に勝手に使われていたのには、「著作権に関しての知識がまだまだ浸透していないなぁ」と感じた半面、「これくらいの図でも転用されるのか!」とびっくりしました。
Googleなどで検索するときにイメージを選択すると、色々な画像が際限なく表示されますが、これらは「個人使用の範囲」が原則であって、公式資料はモチロン、シロウトの作ったドキュメントであってもネットに上げる以上、引用記載した図表や写真の場合には「転載禁止」等の表記や引用元(著作権元)を表記するのがルール(礼儀?)と私は考えています。
活用していただけるのは、ありがたい限りですが・・・。

pdfファイル:
 『ヘルムホルツ共鳴器』

『理想のユニット rev.4.03』をアップ

 2019.8.10
『音響エネルギーの伝播』を書き直していて、『理想のユニット』にも同じような項目を記述していたことを思い出し、第8章の「2種類の音響伝播」の記述に誤りがあるのを確認して修正しました。
そもそも、気体と液体は弾性体ではないので、伝播する波はすべて縦波(粗密波)で、横波はありません。
水面の波紋は山谷がはっきり見えるので、振幅が上下方向の横波ではないかと勘違いされるかもしれませんが、空気の密度が液体の密度より小さいために空気との界面で「圧力(粗密)による食み出し」が起きているだけで、基本的には粗密波(縦波)になります。
したがって、水中では山谷が生じることはなく、粗密波で伝播します。
地震の話と混同してしまったようで、Rev.4.02までを読まれた方には誤解を与えてしまったかもしれません。
固体の場合には弾性体ですので、質量依存の縦波と弾性依存の横波が共存します。 申し訳ありませんでした。
pdfファイル:
 『理想のユニットとは』

rev,4,03から目次に色が付いて醜いかもしれませんが、私の利便性のために元文書Word内にリンクを張ったためです。PDFではリンクが切れますので皆さんにはメリットはありません。悪しからずご容赦ください。(文中のWebページアドレスのリンクは有効と思います)

『音響エネルギーの伝播 rev.1.01』をアップ

 2019.8.10
気体や液体の中を伝わる音(音波)は、基本的に縦波になります。
なぜならば、気体や液体は、固体と違って弾性構造を持たない(ある形を保つことが出来ない=応力による弾性変形がない)ので横波(進行方向に対し直角方向に振幅を持つ)が原理的に発生しないためです。
縦波は波動の進行方向に振幅の変化(粗密)が発生するもので、粗密波とも呼ばれます。
この仕組みを目に見えるようにするには、ちょっと長めのバネの両端をそれぞれ両手に持ち、片方の手でバネを縮める方向に揺すってみます。
そうすると、バネの一部に密な部分が生じ、それが順次進行方向に進んでいくのが観察できると思います。
そして、よく見ると密な部分のすぐ後に疎な部分があるのが分かります。
これは、粗密波が部分的なエネルギーの偏りを順次遷移していくことによって伝播するものだからです。
実際には、このような粗密波のほかに物理的な粗密(進行方向への空気分子運動)を伴わない「エネルギーのバケツリレー」とも言うべきものがあり、これが分割振動になります。これもエネルギーの粗密と言えるのですが・・・。
これら2種類の縦波の仕組みの違いを分子の挙動を例に説明しています。また、音色を決める要素が分割振動にあることも説明しました。
さらに海の波は縦波と横波(上下方向)の複合波であることや、地震の場合には固体中を伝播する『弾性波』になるので質量依存の縦波【P波】と弾性依存の横波【S波】が存在することを記してあります。
そして、波の性質である、反射、屈折、回折のうち、回折についてキャビネットの形状の違いによる影響度合いを示してみました。

pdfファイル:
 『音響エネルギーの伝播について』

『音質評価について rev.1.04』をアップ

 2019.8.4
業務として音質評価を長年行ってきた経験を、皆さんが音質を評価する際のお役に立てればとの思いから、だいぶ前に作った資料ですが、ちょっとだけ手を加えました。
音の3大要素であるラウドネス(音の大小)、シャープネス(先鋭度)、ラフネス(粗さ)の説明と、聴覚のしくみ、評価に臨む前に決めるべき条件、聴覚の『順応』と『疲労』に伴う評価可能時間と進めて、具体的な評価方法にも触れています。
3大要素以外のパースペクティブ(立体知覚)についての種々な限界、実音と再生音の違い、「なぜ短時間で評価すべきか」「どうすれば効率的に音質改善できるか」「好みの音の曖昧性」と続けて、おまけで「メカニカルアースの重要性」にも触れています。
できる限り分かりやすい表現に修正しましたが、クドイ!と感じたら御容赦ください。

pdfファイル:
 『音質評価について』

『PCOCC生産中止リカバリー にわか考 その2』

 2019.8.1
昨年の1月に高純度銅線PCについての記事を記載しました。
私の専門外ですが、友人に聞かれたので「にわか作業」で調べた内容と昔の経験談を記載したものでした。

メールで粒界の影響やアニール処理の効果についてのお問い合わせがあり、このテーマを再掲載することにしました。
2013年に古河電工がPC−OCCを採算上の理由から生産中止したことにより、業界に危機感が巻き起こり代替品の開発が盛んになったことは、前回記事のとおりです。

以下、一部を再掲。

PC−OCCは、Pure Copper Ohno Continuous Casting(大野式連続絞り高純度銅)の略で、千葉工業大学名誉教授で2017年に亡くなられた大野篤美さん(金属凝固学の権威)の開発したOCCプロセスによる産品になります。
キャスティングというのは一般に言う『鋳造』とは違い、加熱して柔らかくした母材を「ダイス」という金型で指定径に絞って線材を作る工程のことです。通常、いっぺんに指定径には絞れないため複数回に分けて実施します。
無酸素銅線(OFC)を作る場合には、酸素などの不純物が銅結晶境界(粒界)に入るのを防ぐために亜真空状態や不活性ガス(窒素、アルゴンなど)雰囲気中でこの作業を行います。
結果として4N(99.99%)、酸素含有10ppm(1/100000)程度、結晶は約400個/フィートになりますが、OCCプロセスの凝固温度制御をすることで長手方向の結晶粒を大きくすることができます(特殊な加熱型を使うことで長手方向には120m以上単結晶化が可能)。
これは、結晶境界の影響度を低く出来るということに他なりません。
再掲了

世の中では「粒界が少ない = 電子の流れ(電流)を妨げない」 ということで通っていますが、その差は数値的には微々たるものです。感覚的に粒界 = 障壁 という意識が働くのでしょうが、実際には「粒界に不純物が入ることで結果として数値的な変化を生じる」のであって、「その混入確率が低くなるというメリットがOCCにある」というのがポイントです。
アニール処理(「焼きなまし」:−Aが付くのがアニール処理品)したものとそうでないものの差は機械的物性の差で、数値にはっきりと現れます。簡単に言うとアニールを実施すると柔らかく伸びやすくなります。逆に「焼き入れ」をすると固く伸びにくくなります。金属には、このように『改質』が可能という特徴があります。

高純度銅線PCの命題は、「不純物が安定して少ないこと」であり、ケーブル製作の各工程で安定して不純物(酸素など)を排除することにOCC処理が有効(そもそも粒界が少ないため)なのが分かります。

以下、一部を再掲。

PC−UHD(Pure Copper Ultra High Drawability:超高絞り性高純度銅)はPC−OCCの生産中止に伴って古河電工が代替品として提供するようになったもので、市場にはアニール処理したものPC−UHD−Aが出回っています。
基本は「OFC:無酸素銅」ですので最低純度は4Nながら酸素含有量は5ppm(5/1000000)と低く、粒界は操作せずに不純物(酸素)の排除という命題を満たしています。
「超高絞り性」という名前は、プロセス改善により細線が絞れるようになったことに由ります。粒界に大きな不純物があったら、細く絞った時にその部分で千切れてしまいます。

もうひとつ、古河電工の関連会社FCMがPC−OCCの代替品としてPC−CCC(Pure Copper Continuous Crystal Constructions=PC−TripleC:連続結晶構造高純度銅)を同時期に開発しています。
定角連続移送鍛造法(ある角度をつけて適度な力で叩いて延ばすことで結晶方向を電線に沿う方向に揃え、且つ、結晶が延びることで粒界が狭くなり繋がっている状態に近くなる)によりPCOCCほど結晶が長くは無いが通常のOFCより粒界の影響が少なくなります。
再掲了

オヤイデ電気の102 SCCも同様にPC−OCC代替として開発されたもので、日本工業規格「JIS C1011」に準拠した電子管用無酸素銅(リサイクル銅ではなくバージン銅だそうです)を母材として通電アニールを実施しながら数回に分けてキャスティングして、表面に浮き出てきた不純物を酸洗いでなくピーリング(文字通り表面を削り取る)で除去し、酸化しないように短時間でケーブル製作することを特徴としています。
これも工程改善で不純物の排除を狙ったものになります。

以上が現時点での高純度銅線PCへのリカバリー取り組みになりますが、いずれもOCCほどの不純物排除の安定性は無いと思われます。粒界の数が少ないというのは絶対的な差を生みます。ただし、音質に限れば、後処理のケーブル構造のほうが支配的と言えます。
私の記事で時々登場する「パレート図」というものがありますが、この考え方を採用すると音質に関する高純度銅線PCの製造工程による差は、順位(影響度)としてはかなり低くなります。

既記事に実例とともに記載しましたが、「音声信号の流れるケーブルがどのような挙動をしているのかを考えてみると、その電流(電荷の移動)により電線の周りには常に変化する交流磁界が生じていて、近くに磁性材料があれば自己誘導によるエネルギー変換が起きて、振動が発生することが十分に考えられます。」とあるように、振動による影響がケーブル構造に起因しているのは想像に難くないし、その意味ではPC線材のアニール有無も影響を与え、アニールしたほうが構造要素としての影響度が小さくなる(残留応力が小さい)ということです。

ここでは、テーマの性質上、ケーブル構造には触れません・・・というより要素が多すぎて優劣が単純に決められないというのが本音です。はっきり言えるのは、構造を複雑にすればするほど訳が分からなくなるということで、単純な構造で要素を追い込んだほうが明確な音質差が分かると思います。
ところが、世の中、複雑な構造や高純度、複合材のほうが高級=高品質という考え方があるので、プラセボ効果で満足してしまうことが多いと思われます。次から次に新しいアイテムが現れて、いろいろ選べるのも楽しいのですが・・・。

『Dutch&Dutch 8cモニタースピーカー』について

 2019.7.30
NetAudioの35号にオランダDutch&Dutch社のDAC内蔵アクティブスピーカー8cの記事が掲載されていました。
スコットランド・LINN社のスペースオプティマイゼーション+と同様、『DSPを使い、部屋の状況に合わせて音場の最適化をするシステム』になりますが、LINN社が部屋の固有寸法起因の定在波などによる余分なエネルギー付加(滞留)への対策として「DSPを使って視聴位置でのf特ピークを潰す(ディップは対応せず)」方法を採用したのに対し、D&D社はバッフルに取り付けられたミッドウーファユニットの後方放射の一部(DSPで遅延時間や位相を制御したもの)をキャビネット側面に設けられたスリットから放射することで後方壁面からの反射波を打ち消すという方法を採用しています。オープンエアのリアルタイム・ノイズキャンセル・ヘッドフォンがそれなりのレベルで実現できているので、アルゴリズムさえしっかりしていればたぶん可能なのでしょう。
通常のスピーカーではキャビネットエッジなどで回折した音波が側壁面や後方壁面に向かい、壁面での反射が正面放射と干渉してしまいます。
それに対し、壁面からの距離を調整したり壁面との間に吸音構造や反射構造を入れたりして受動的に最適化していますが、生まれてしまったものはなかなか手ごわく、かと言って完全に吸音する壁(無響室と同じ)にしてしまってもベストな状況にはなりません。
拡散と吸音の合わせ技的なノウハウが必要になります。
その作業が不要になるというのですから効果に期待をしてしまいます。

まず、裸のシステムとしての指向性パターンはキャビネットエッジ形状などを工夫してハート型(カーディオイド:単一指向性)にしています。
そのうえで、キャビネット側面から逆相(ユニット裏側の音圧)の波面を放射することで壁面反射を打ち消すのですが、DSPによる加工なしに単純にこの方法を採ると『小さな平面バッフル』になってしまい、正面放射の低域音圧の打ち消しが生じてしまいます。
かといって、この側面放射だけにDSPで加工することはできないので、低域のレベルをブーストして、ディレイやフェーズシフトなどでかなり複雑な加工を行っているのだと思います。DSPで打ち消し効果を出せるのは、8cの位置が後壁から10cm〜50cmの範囲とのことです。
D&D社としても現状が完璧なものとは思っていないようで、DSPのファームアップデートをネットクラウド経由で自動的にバックグラウンドで行うことが謳われています。勝手に変わってしまうのもちょっと抵抗がありますね・・・私だけでしょうか。
ここまでやるのであれば、NHK技研で検討していたように側面や裏面に別のユニットによる波面(DSPで遅延や位相を加工した入力で作られた)を形成して打ち消したほうが合理的なようにも思います。(裏面には2発のウーファがありますが・・・)

https://dutchdutch.com/8c/

技術先行の製品の場合、音楽性がないがしろにされることがありますが、8cの場合はどうなのでしょうか・・・。

『ONTOMO MOOK マークオーディオOM-MF519』を入手

 2019.7.29
楽天ブックでムックを購入。
昨日、到着したので、外形を採寸しました。

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振動系の想定図も記載してありますが、VC巻き幅はもう少し広いかもしれません。
オーソドックスな設計のようです。
ハウジングの抜き窓はOM-MF5(去年のムックの付録モデル)と同様におもしろい抜き形状です。右の落書きは、抜き穴の形状を考えてみたものです。t0.5の鋼板打ち抜きプレス品なので強度は低いながら、せめて共振モードの分散を狙ったものでしょうか?側面もストレートではなくR40くらいの絞り形状にしています。それにしてもカンカン良く鳴きます。昔、海外向けシステムのOEM用に使っていた東京コーンのユニットを思い出しました。システムにすると嫌みのない元気な音になり、単純な判断ができないと悟らせてくれたユニットでした。
去年は、夏場の体調不良や仕事が忙しかったために全く手つかずのOM-MF5があるのが悔しくて、今年はOM-MF519にチャレンジしてみようと考えています。
どう料理しようかと、楽しみになってきました。AR-2の事前実験にも使えそうですので、一石二鳥です。

今回は、PCが壊れたのを機に、64bitOS(Win10)搭載機に買い替えたので、先週よりFusion360をインストールしてチュートリアルを開始しました。
ユーザーインターフェイスは分かりやすいのですが、昔使っていた2Dとは根本的に設計手順・・・というか3面図からイメージする癖があるので、頭を切り替えるのがかなりの難敵です。
会社でInventorとSketchUpをかじっているのが多少役に立っているようです。
今後は、3DcadによるCAEなどにも取り組みたいと考えています。
OM-MF519を搭載予定のAR-2.5(ARとは言うものの、質量を大きくした仮想GNDによる1ユニット構成の予定:あまりにも小型なのでARタンデムにすることのデメリットのほうが大きい)では重心設計や機械的な構造強度計算(シミュレーション)も重要になってきます。
私の場合、専門は電気系なのですが、ことスピーカーに関しては機械系にも手を出さざるを得ませんので・・・。3Dcadは「六十の手習い」です。

『音場再生の限界』を改定

 2019.7.21
rev.1.03にアップしました。
方向認知方法としての位相差とレベル差の守備範囲の説明を追加しました。

また、バイノーラルの項目にJVCケンウッドの『EXOFIELD』についての記述を追加しました。
これは、日本ビクターの時代から音響研究所でテーマにしていた『ヘッドフォンによる頭外定位』を商品展開するものです。
今年の1月にCESで発表しましたが、先日のOTOTENで国内発表されました。

pdfファイル:
 『音場再生の限界』

『アナロジー手法による電気系への変換と解析』を修正

 2019.7.20
rev.1.08にアップします。
気になった部分の修正と誤記訂正。そしてARシリーズの原理を追記しました。

pdfファイル:
 『アナロジー手法による電気系への変換と解析』

『アナロジー手法による電気系への変換と解析』をアップ

 2019.7.15
三連休で少し時間が取れたので、『アナロジー・・・』についても手を入れました。rev.1.07 になります。
何ヶ所かミスを見つけて修正しましたが、改めて等価回路で表現することの有用性を感じました。
イメージや感覚で良いと思っていても、理屈で裏づけできると「なるほど!」と改めて自分の考えが正しかったことに気付かされます。
ただ、先に等価回路を見てしまうと思い込みが起きて、試聴にもバイアスがかかり、プラセボ効果のように実際には効きもしない対策が有効のように感じてしまうことも起きそうです。
あくまで自分の聴覚を信じて、検証結果に対して理屈を確認することに留めたいと思います。

pdfファイル:
 『アナロジー手法による電気系への変換と解析』

『理想のユニットとは』rev.4.02をアップ

 2019.7.13
気になって、色々なところに手を入れました。
レビジョンが、いきなり4.02にアップしているのは、4.01でアップして、直ぐに修正したためです。
細かく見ていくと、んんん???自分で記述したのに、なんじゃこりゃ!という部分もあり、十箇所以上は手直ししました。
たとえばハウジングの項ですが、Audio Technorogy社のハウジング構造についての説明が私の文章力だけでは無理のようなので、図を追加しました。
実物とは違い、すでに作ってある図をアレンジしたのは手前味噌ですが・・・。
履歴を細かく書くとキリがないので、全面改訂としました。

pdfファイル:
 『理想のユニットとは』

『理想のユニットとは』rev.3.04修正 その2

 2019.6.29
さっそく駄目ダシされました・・・。
そもそも、何で簡略化しているかの説明がないとのご指摘です。
3要素を全て表記したものが以下の上図になります。

bal

簡略化については、以下の理由に因ります。
まずVCですが、駆動力(ローレンツ力)の作用点であり、振動板に直結していて駆動方向に関しては構造的に強度が高いこと、他の構成パーツに比較して弾性要素、減衰要素が小さいことなどの見做しから質量のみを考えることにしました。
また、エッジは振動板最外周に接続しているので、質量要素を振動板Assyとして一体(振動板外周にエッジの質量が集中している)と考えたほうが分かりやすいと判断しました。
当然、弾性要素、減衰要素は振動板外周に接続しているものとして考えています。
ダンパーも同様で、質量はAssyと一体(VC周辺に集中)、且つ、弾性要素、減衰要素はVCとハウジング間に位置すると考えています。
磁気回路は、弾性要素、減衰要素の値が質量に比較して十分に小さいため質量のみを考えることにしました。
等価回路としては、クリーム色に着色した部分が考慮対象から外れますので、これらのLはショート、C、Rはオープンとなります。
以上の見做しにより、図の下半分のように簡略化されます。
簡略化したものは、表示のスタイルが異なりますが前回の記事中に記したものと同じになります。

『理想のユニットとは』rev.3.04を修正しました

 2019.6.29
アナロジー解析で、キャビネットに取り付けたときの説明が不足しているとの指摘がありましたので、修正しました。
キャビネット要素が入ることにより、機械インピーダンスの低いキャビネット側に逆起電力に起因したエネルギー(下図の赤矢印で示した青色の太い矢印)が流れ、結果として振動系にもキャビネット要素で変調されたエネルギーが流入する(⇒混変調を起こす)という経路が分かるように図も書き換えました。

bal

キャビネットが十分な剛性と質量を持っていれば、バッフル板(こちらにも剛性と質量が求められます)に固定しても影響度は低くなります。
このようにキャビネットに物量投入することを否定はしませんが、合理的な構造でキャビネットの質量を軽くした富士通テンのECLIPSEシリーズや拙作ARシリーズなどの手法でキャビネットの影響度を軽減したほうがクールだと私は思います。

『理想のユニットとは』rev.3.04をアップしました

 2019.6.24
ここのところ腰痛で作業ができないので、ユニット情報を見直しました。
細かいことが気になってしまい、図や不足している記述を追加して、図の番号は項番号とリンクさせて独立性を確保しました。手前味噌かもしれませんが、分かりやすくなったと思います。(回りくどくなった部分もあるもしれませんが・・・)

大きな追加項目としては、ユニットをアナロジー解析して、ハウジングをバッフル板に固定した場合のエネルギーの流れを等価回路で説明しています。
「振動エネルギーは機械インピーダンスの低いほうに流れる」ということだけでも知っていれば、何かを実験的に変えたときに音が変わった理由を考えるときや、どのようにすれば改善するかを考えるときに役に立つと思います。

pdfファイル:
 『理想のユニットとは』

『AR-2 ジンバル構造の変遷 その2』

 2019.6.15
ジンバル部分をキャビネットに組み込んだ図(未公開)を見ているうちに、ちょっとデカすぎないか・・・と考え始め、こんなに大きいとキャビネット内での占有率は高いなぁ・・・に至り、はたと気付きました。
キャビネットの内部を複雑な曲面にしたのは、定在波の発生を防ぎ、且つ、後方放射波の二次反射を集中させないためであり、それ以前に直接放射を正反射して振動板に戻してしまうのは論外です。
そのためには、出来る限り振動板に正対する面積を小さくすることが必要になります。
ジンバルの外径がφ140だと振動板径の約φ100、磁気回路径のφ90に対してあまりにも大きく、正反射する面積も想定していたよりずっと大きくなっていました。
対策として、まず2つのユニットをつなぐ砲金製シャフトの径をφ50からφ40に変更しました。これだけで仮想GNDに相当する部分の約4割弱に相当する質量が減少してしまいますが、元々、力学的にモーメントがアンバランスになった時に質量に食わせるための『保険』なので、割り切ります。
更に、これに合わせてベアリング径をφ90-φ50からφ80-φ40に変更し、ピボットを有する砲金製の保持枠の外径はφ140からφ110へと減らすことができました。

bal

詳細については、以下のPDFに追記しましたので、ご参照ください。

 PDFファイル  『ジンバル構造の変遷』

なお、とがり先のイモネジを入手しましたが、先端部分は90°で平坦部はφ2弱でした。
したがって後加工が必要になります。

『AR-2 ジンバル構造の変遷 訂正』

 2019.6.9
昨日の記事で、ピボット部分に記載ミスがありました。とがり先のイモネジの先端形状は90°か120°なので、使用するものを90°として受け側を120°とします。また、先端は完全なトガリではなく規格として平坦部がmaxφ1くらい許容されているので、ヤスリかけして球状に仕上げます。

bal

『AR-2 ジンバル構造の変遷』

 2019.6.8
昨日、起きるなり腰を痛めてしまいました。
十五年以上前に腰を痛め、整形外科に行ったら、第五腰椎分離(蝶々の形をした腰の骨が折れてしまう)だと言われました。原因は高校時代に三段跳びで痛めたのが原因の疲労骨折・・・。
腹筋と背筋をバランスよく鍛えることで、ヤバイ状況をのらりくらりと乗り越えてきましたが、ここのところサボっていたのが良くなかった。
普段なら歩いて2分の病院まで20分近くかかって通い、着けば金曜なので混んでいて、座らずに1時間半待ち・・・。どの道、座ったら立つのが辛いので、立って待つしかなかったのですが・・・。
今は、コルセットを着けていますが、久々の強烈な痛みに苦しんでいます。

本題ですが、今日は冶具製作の予定が上記の理由で当面の間、お預けになります。
そこで、AR-2のジンバル構造の変遷について記述します。

bal 当初、2つのユニットの反作用打ち消しポイントに位置するジンバル構造については、出来る限り1点支持が明確になるように小型でシンプルであることを目指しました。
当然ながら、小型であることが剛性をスポイルすることは分かっていましたが、力学的中点なので、やじろべえの指先に載る部分(1点)がベストと考え、それを実現する方向で検討していました。
その後、重心が軸より下にくることがない(やじろべえ構造にはならない)ことに気付き、安定性を考慮して「吊り下げ構造」を模索しました。
支点より作用点が下にくる構造です。

現在の構造は以下の通りです。

bal ユニット間を繋ぐシャフトもφ50の真鍮丸棒を想定し、それに嵌合するベアリングとピボットでジンバル構造を形成しています。
ユニット2個を繋ぐ部分(エンジンと称します)に相当の質量を持たせて仮想GNDとする構想です。重心は軸中心になるので、本来のジンバル(全ての軸で支点と作用点が重心とほぼ同じ)に近い構造です。
変遷の詳細は、以下のPDFを参照願います。

 PDFファイル  『ジンバル構造の変遷』

これだけ書くだけでも腰が張って痛くなってきました。
早く治ることを自ら祈るばかりです。

『木工フライス冶具の製作 その2続き』

 2019.5.26
ルーターの固定方法について、問題点が出てきました。
自らの考えのアサハカサに呆れるのには慣れていますが、今回は、もっと早く見つけていてもよいイージーミスです。
ルーターを固定するにはルーターフレームAssyを一度バラさないといけないということです。幅と奥行きの寸法がルーターより小さいのだから、ちょっと考えれば分かりそうなものですが、どこかフレームを1本外せば組み込んだり外したりできると勝手に思い込んでいました・・・。
ルーターを単体で使ったり、ルーターテーブルに取り付けたり、このフライスに取り付けたりするシチュエーションが当然考えられるので、これでは作業性が極端にスポイルされますし、組みなおす度に精度が変わってしまい再現性もスポイルされます。

また、ベースフレーム底面からルーター軸中心までの高さが25cm程度までで規制されてしまいます。
すでに稼動させていた木工旋盤(といっても、機械的強度が不足していて、使い物にならないのですが・・)の軸中心が45cmの高さであり、当面はこの回転軸を流用することを考えると、高さ不足の問題も出てきました。
そのため、組みあがったルーターフレームAssyの上に新たにルーター固定用の構造を積み上げることにしました。

例によって、以下のPDFをご覧いただきたいと思います。4ページ目を追加しました。

 PDFファイル  『XYテーブル冶具の製作』

『音声記憶の脳メカニズム rev.1.06』を訂正

 2019.5.25
定期的にPDFの見直しをしますが、蝸牛管の中にある基底膜の模式図が間違っていることに気付き、訂正しました。
基底膜は周波数の検知をするための共鳴器です。アブミ骨から蝸牛管の前庭窓に伝わった音声振動が前庭階から鼓室階に続く外リンパの中を伝わって基底膜を共振させるのですが、その形状に間違いがありました。
形状としては厚みが徐々に変化する細長い帯状の膜になるのですが、「高い周波数で共振するのは幅が狭く厚い部分」で、「低い周波数で共振するのは幅が広くて薄い部分」が正しい情報です。
老化によって高域が聴こえにくくなるのは、この基底膜が硬くなって振動しにくくなることが大きな要因と言われています。厚い部分が硬くなりやすいのは想像に難くないと思います。

常々話題になるものに、「老化しているのにハイレゾとCD帯域のソースの差が聴き分けられるのはナゼ?」というものがあります。
「年齢とともにディテクタである基底膜の帯域が制限されてくるのに違いが分かるのは、ソースに含まれるその他の周波数帯域に細工しているのでは?」という性悪説まで出てくる始末・・・。
このPDFにも、この話題は掲載していますが、本来の経路である 基底膜 ⇒ コルチ器 ⇒ 内有毛細胞 というよく知られた経路ではなく、外有毛細胞(タンパク質モーター)というものが関わっているという検証実験がなされています。
詳細は、PDFをお読みください。

 PDFファイル 『音声記憶の脳メカニズム』

『アナログオーディオフェア2019』

 2019.5.19
週末悪化した体調が改善してきたので、昨日、秋葉原の損保会館で開催されているAAFに行ってきました。懲りませんね・・・。

詳細は以下のPDFにて。

pdfファイル:
 『OTOTEN、AAF 展示会』

『木工フライス冶具の製作 その2』

 2019.5.13
先週末、アルミフレーム用の専用ナットを入手したので、残りの作業を進めました。

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まがりなりにも、形が出来てきて、早く使ってみたくなります。
後は、ルーターを固定するための構造を追加する作業が残っています。

 『XYテーブル冶具の製作』

『木工フライス冶具の製作 その1』

 2019.5.10
GW中、かねてより懸案だった冶具製作に臨みました。
今年のGWは10連休ということもあり、張り切って事前に部品を手配して万全を期したつもりが、天候が悪かったこともありスタートから躓いてしまいました。
家の中では作業が出来ず、金属加工は当然のように屋外作業を余儀なくされてしまう『俄か作業員』の悲しき実態があり、おまけに周囲にも気を遣わざるを得ないため、作業は早くても9時くらいからのスタートになりました。
途中から天候が回復して作業が出来る日が増えたのは幸いでしたが、直射日光の下での作業は熱中症との闘いでもあります。気温も上がっていたため、水分補給を心がけていましたが、最初に晴れた日の夕方には頭痛に看まわれダウン。翌日からの作業は連続2時間以下で午前と午後に分けて行うと勝手なルールを作りました。そうしなくても、突然の降雨など天候が不安定で、作業途中で打ち切りが続き、連続作業が出来ない状況でしたが・・・。
強い日差しは普段からのサラリーマン生活の賜物である生白い肌を容赦なく焼き、短時間の作業でも数日経過すると赤黒い肌になってしまいました。

途中でアルミフレーム用の特殊ナットの手配数が間違っていたことに気付き、直ぐに注文しましたが、GW中の納品は無理・・・。仕方なく、できる作業を先に行うことに・・・まったくの想定外でした。
ブロック毎にサブ作業(前工程)を先に行っておき、後半で組み上げる想定でしたが、とんでもない! GW終了時点で約7割の道程途中という感じでしょうか・・・。

次回、乞う、ご期待。

pdfファイル:
 『XYテーブル冶具の製作』

『良い音とは?』

 2019.4.17
『良い音とは?』という問いかけは、何千回、何万回と取り上げられてきた話題だと思います。
そもそも、リスナーひとりひとりが個性を持った聴覚器(耳介から内耳に至るまでの物理的な受動器だけでなく聴神経による伝達系や脳での記憶に至るまでのシナプスなどの器官を含む)で聴く音(音楽)は特性の異なるマイクで集音した音(音楽)と同じで、情報としての音の感じ方は十人十色であることは、拙著PDF『音声記憶の脳メカニズム』にも記しました。
視力であれば数値化して視力1.5や0.2のように「目が良い」「目が悪い」と比較できるし、乱視のように歪も自覚できるのに、自分が聴いている音と他の人が聴いている音とが異なるという認識を持つ人は、聴覚に数値評価する方法が無いということもあって意外と少ないものなのです。
確かに感度(特に高域感度)という面だけをクローズアップすれば、耳という感覚器の個人的優劣(個性)が生じますし、加齢による感度劣化からは逃れようがありませんが、感度が良いというだけで「良い音」を聞き分けられるという訳ではありません。
そもそも、「良い音」とは、「自分が心地よく感じる音」「脳がストレスを感じない音」ということであって、ある人はやわらかい音が好みで、またある人はエッジの利いた緊張感のある音が好きだったりします。これは個人の嗜好に属するものであって、良し悪しに明確な基準があるわけではありません。

それを視力のように評価しようとするには何らかの「(絶対評価ではなく相対評価のための)ものさし」が必要であることは、PDF『音質評価について』に詳細を記しましたが、それすら良し悪しではなく、いくつかの感じ方の傾向をアバウトなものさしで決めることでしかないのです。
一例として挙げると、「暖かい音」「冷たい音」、「硬い音」「やわらかい音」、「澄んだ音」「濁った音」などの両極端(そもそも、端とは?を絶対値として示せるものではありません)の間で「どちら寄りか」を評価することであって、ある程度の音質傾向を示すことはできますが、これとて、この評価項目について相対的に傾向を示すだけで絶対的な評価を可能にするものではありません。

視力で言う色弱や乱視のように、聴覚における個別特性(個性)によっては相対評価ができない方もいらっしゃいますが、それを以って優劣を評価したり差別したりすることは、まったく意味の無いことなのです。

さらに言えば、リスナーの置かれた状況や感情によっても評価がコロコロ変わってしまいます。
そう考えると、「良い音」「悪い音」という議論をすること自体がナンセンスという結論もありますが、それでは空しいですよね。

少なくとも、人間の聴覚は「変化」に対しての相対感度(特にスペクトラムや歪に対する感度)は、どんな測定器よりも高いのですから、2台のスピーカーを切り替えて聴くような相対比較に関しては、上記の音質評価は意味を持つと言えると思います。

そうは言っても、私の場合も、ご他聞にもれず寄る年波には勝てないようで、気が付かないうちに音に対する感度はどんどん低下しているようです。
視力と違って衰えの実感が明確に伴わないのも聴覚の特徴で、1年ほど前に友人宅でスーパーツイーターの相対比較をしていた時に、結線されていなかったのに三人とも気付かなかったなんてこともありました。
私を除く二人は40歳台の現役楽器演奏者です。
言い訳になりますが、試聴に2時間以上を費やした後で、疲労による感度低下もありましたが・・・。
体力と同様、若い時分には直ぐに反応して気付けたことが出来なくなってきているのは事実ですし、あがらいようの無いことなのです。
悲観することなく、歳相応の聴き方でいくのが正解かなぁ・・と思う今日このごろです。

『AR-2製作用冶具のアルミフレーム化 その2』

 2019.4.7
ルーターの高さ調整機能を具体的に考えました。
X-Y移動部分と同様にアルミ押し出し材でクレーム構造を組み、それを上下させる機構を組み込む形になりました。

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図の上下が逆で分かりにくいので、正しくしたものを載せました。

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フレーム部分の8箇所に長ナット(カップリングナット)を固定して、それらをM6のスクリューシャフトを同期させて駆動することで水平に固定したまま上下できるようにしました。M6では非力という意見もあるかもしれませんが、4本で支えるため、意外と強度は取れると思います。
上下駆動は、この4本のスクリューシャフトに固定されたタイミングプーリーとタイミングベルトの組み合わせで同期させることで行います。上下動を生む4つのプーリーと同期する第五のプーリーに連動するつまみを手で回すことでタイミングベルトに駆動力を発生させます。

そろそろ発注しておかないと、不足部品や、設計チョンボの確認が出来ないので急ぎました。

『AR-2製作用冶具のアルミフレーム化』

 2019.4.4
冶具を製作するにあたり、強度や精度を考えると木製では難しく、アルミ押し出し材(既製品)に置き替えることにしました。
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既製の押し出し材では20x20、30x30、40x40などのスクエアなものと20x40、30x60などツーバイフォーのように長辺が短辺の2倍になったものがあり、今回は20x40を使うことにしました。
これは、組み合わせ方向で出来る限り強度を高めたかったからで、特にねじれ強度は木製に比べて数倍になっているはずです。
まだ木製で残っている部分は、ルーターの固定される部分で、ここに高さ方向の調整機能を持たせたいと考えています。概略構造図を以下に示します。

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タイミングプーリーと長ナット、ベアリングを一体にしたAssy部品を作り、これをエレベータの4隅に取り付け、それとは別のAssyをタイミングベルトで連結し、つまみを付けた長ナットを回すことで台座に取り付けたスクリューシャフトとの間で上下動を実現します。

そして、GWの間に何とか冶具を製作したいと思います。

『理想のユニットとは』rev.3.01をアップしました

 2019.3.22
ライフワークのようにチョコチョコとアップしてきましたが、気が付けば70ページを超えてしまいました。
ユニットの設計で40年近く前に職業人生をスタートしましたが、紆余曲折があって、オーディオ以外の仕事で飯を食うのも早や14年近くが経過しました。
それでもユニットの奥深さへの探究心から逃れることが出来ず、今の自分があります。
私の経験から事実を記している部分がほとんどなのですが、オーディオファイルの方々の夢を壊す記述も多く、メーカーさんからも営業妨害と言われるような記述もあります。
それでも実証できているものは事実として、仮説は私の意見として今後も記述していきたいと考えています。

pdfファイル:
 『理想のユニットとは』

『ZORZOについて』

 2019.3.21
前の記事でZORZOについて述べましたが、読み直してみて「分かりにくいなぁ」と思ったので追記します。
まず、図がヨコに倒した状態だったので実際に配置したイメージが沸かなかったと思います。
また、吊り構造とした時の床と天井からの距離でコロコロ音が変わる理由の説明が抜けていました。
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図の上部にあるタンデムユニット2個は同相で駆動されるため指向性が広くなり、無指向性に近い動作になります。
下部のユニットも同様になり、上部とは逆相になることで図の黒実線で示した定在波が発生し、床からの反射波(黒破線)とユニット間の定在波とで合成された定在波(赤点線)が発生します。
床からの距離で反射波の位相が変わり、合成波が変化することがわかると思います。
これは床だけを考えていますが、実際には天井との間にも同じことが起こっていて、試聴者の耳の位置と床、天井からZORZOシステムまでの距離を相互に変えることで定在波の腹がどこに来るかが変わるのです。
全ての周波数に対して考慮するのは無理なのですが、トライアンドエラーで試聴してベターな状況を探すことになります。少なくとも床に近い状態(下図は床に直置きの例)では低音がまったく出ないように感じるし、部屋の定在波による影響(システムのf特が共振によるピークディップで極端に暴れる)が発生して空気感や定位がスポイルされることが確認できました。

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MJフェスタでのデモは高さ調整が十分ではなく、本来の性能を出せていなかったのは残念です。
このように調整も難しくジャジャ馬なシステムですが、まだまだ追い込めばより良い方向に向かう可能性があるのは確かです。

『MJオーディオフェスティバル2019』

 2019.3.21
去る3月10日、秋葉原の損保会館にて第4回MJオーディオフェスティバルが開催されました。
例年と同様に金田明彦さんのデモ&講演は盛況でしたが、今まで使われなかった3階の広い会場になったため、立ち見は減りました。
長島さん、岩村さん、征谷さん、上野さん、安井さんらの製作したアンプ試聴は4階、503号室では2018MJテクノロジーオブザイアー受賞機種の試聴会とケーブルアクセサリーの試聴や柴田さん、新井さんの講演を実施していました。
私が楽しみにしているのは502号室でのガレージメーカーや新進メーカーによるデモの競演。入れ替え5分、デモ35分の2ステージ制でNDK(日本電波工業)、データゲート、ゾルゾ、コルグ、オーディオデザインの5社が順にデモりました。
その中でも、山田さん、太田さんが発表するゾルゾの試聴デモが一番楽しみでした。
前回(第二回MJF)、太田さんが「読者の自作大発表会」で発表されたのをきっかけにゾルゾを知り、山田さんのお宅にも昨年数回訪問して進化の過程を経験していたこともありますし、今年に入って格段に進化したという話を聞いていたからでもあります。
ゾルゾの簡単な仕組みですが、太田さんから説明を受けたのは、まず仕組みの基本単位についてでした。

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2つの同じSPユニットの4方向にあるハウジングの窓を1ヶ所だけ残して閉じ、その1ヶ所を通気管(連通管)で繋いだものを基本ユニット対としています。
それぞれのユニットのハウジングで囲まれた微小バックキャビティ同士を連通管で結ばれた空間は微小閉空間になっています。(上図の基本ユニットの青色に塗り潰した部分)
バックキャビティ(微小閉空間)同士が管で連結されているので、相互のバックキャビティ内の気圧は常に同じになろうとします。
液体であれば『連通管』の原理が適用される状態に近付き、それぞれの振動板は文字通り連動(一体駆動=相互に補助して駆動)することになります。
通常のスピーカーシステムでは、1つのユニットがキャビネットに取り付けられる構成となるため、ユニット後方に放射された音圧はキャビネットの閉空間によるフチフネスの影響を受けて最低共振周波数が上昇(キャビネットの容積が小さいほど上昇)し、且つ、振動系の慣性質量によるタイムドメインでの遅延歪も生じます。
ZORZOの場合、基本ユニット対を相互に逆相駆動することで、2つのユニットは完全プッシュプル動作(一方のユニットが前方に駆動されると同時に、もう一方のユニットは後方に駆動される:上記の一体駆動の状態)をすることになります。
閉空間が粘性の無い理想的な流体であるならば、それぞれの振動系に印加されるバックキャビティによるスチフネスが限りなくゼロに近付くことになります。(上記の「連動:一体駆動」状態が実現します)
理想的に実現されれば、駆動力と振動系質量が倍(密閉空間の空気質量は微々たるものと想定)になったのと等価になるので、理論上は最低共振周波数が1/√2になるはずです。
昨年、一回目に訪問したときに確認したところ、1/√2まではいかないものの、ユニット単体の最低共振周波数よりかなり低い値を記録しており、連動に近い状態が実現されていそうだと確信しました。
この基本ユニットを使い、ユニットの前方空間同士も微小閉空間となるよう構造物で覆って数珠繋ぎの構造とすることで、それぞれ隣同士のユニットが上記の閉空間で繋がることになり、両端のユニット同士もプッシュプル動作をすることになります。これがZORZOシステムの仕組みになります。

基本ユニット対を実際に駆動すると、隣同士のユニットが逆相駆動されるので、打ち消しあってしまいます。これを防ぐために数珠繋ぎの構造を取り入れて、最終的に両端(十分に相互距離が確保される)のユニット相互の干渉を防いでいます。
数珠繋ぎ構造を2つ作って、ARシステムと同様にタンデム(ユニットの尻同士を突き合わせる)にすることで、相互のアレイ間には作用反作用による不要振動の抑制が起こり、且つ、同相のユニットがタンデムになっているので指向性が改善されることになります。
こう考えると、良いところばかりのようですが、ネックになるのは「微小閉空間」という部分になります。連通管で繋がれた閉空間の中を満たしているのは空気(粘性を持ち体積変化をする流体)ですから、内壁をスムーズにしないと粘性抵抗によって振動系の連動が阻害されますし、体積が大きくなってしまうとエアサスペンジョンのように圧力変化(=体積変化)が生じることで連動を阻害します。
したがって、構造上、微小空間をいかに小さくするか、連通管部分をスムーズにするかが理想動作に近づけるためのポイントになります。
この課題に対して、お二人は幾度となく試行錯誤されて、その残骸が試聴室のいたるところにころがっていました。
ユニットの前方には凸レンズのような突起構造を設けて閉空間の体積を減らしていますが、この材質にも苦労されたようです。

その他、苦労話はたくさんお聞きしていますが、そこは端折って、結果として、どのような音になったの?というところが気になると思います。
デモで聴かれた方は、「なんて荒々しい音なんだ!」というのが第一印象だったと思います。これは、立ち上がりを阻害するスチフネスが極小なので駆動に対して曖昧さ(ダンプによる情報欠損)がないためです。
このトランジェント特性の良さは、生録ソースを再生するとその効果が確認できます。ライブ感(空気感)の表現が半端ではありません。楽器そのものから音が出てくるのが分かります。(特にピアノ)
最低共振周波数が下がるので、キャビネットレスでもそれなりの低音再生が可能ですが、ZORZOの求める性能を出すために、構造上、ユニット口径を大きく出来ないことがネックになります。
デモでは低域用にサブウーファをZORZO構造にしたものを用意して補っていました。

8インチユニットを使ったものもデモしていましたが、構造上、ZORZOらしくない部分が増えてきますので特徴が無くなり聴きやすくなりますので、一般的にはこのほうが受け入れやすいかもしれません。
吊り構造を採用しているのは振動が直接伝播することの悪影響(カラーレーション)から逃げているのですが、今度は床と天井からの距離で定在波の影響がコロコロ変わるなどの問題が出てきます。

今回のデモで使われたものと去年お伺いした時にお聴きかせいただいたものとの大きな差は、粘土で全体を覆って不要共振を抑え込んでいることです。
去年、お伺いした時に、ユニット前面の隔壁として設けた12mm?の人造大理石が音圧で共振して可聴歪になっていたことを指摘しましたが、その回答が粘土でした。
完璧とは言えないけれど、かなりの改善効果が聴き取れました。

まだまだ課題の多いシステムですが、アプローチとしては非常に面白く、従来のシステムには無い良さがあると確信しました。

最後にデモ時のセッティングとQ&Aの様子を載せておきます。

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『ユニット後方放射への対応:Aleph-1の場合』

 2019.2.24
今年に入って決意を新たにしたつもりでしたが、仕事が忙しく、時間のみが経過してしまっています。年齢的に、休日は休養に使わないとダウンしてしまう状況なので・・・。

そんな中、夜な夜なオーディオについての情報を少しずつ集めている中、後方放射に積極的に対応している製品が記憶に引っかかっていたことを思い出しました。
Boaz Dekel氏が3Dプリンターを使って実現したAleph-1という製品をご存知でしょうか。
去年、Webで見つけて、そのデザインや構造が気になっていたモデルですが、イスラエルのBezadel芸術デザインアカデミーを卒業した彼が3Dプリント会社であるStratasysと提携し、『マルチマテリアルObjet500 Connex3』 3Dプリンタを使用して試作を繰り返した結果、一応の成果を得たものになります。
http://aleph1.audio/

LP

クラインの壷(メビウスの帯の立体版)のようにも見えるインパクトのある形状ですが、あくまでも「後方放射を反射させない」という発想で元のルートに戻す(クラインの壷のようにユニット位置に戻すわけではなく無限経路になるようにする)構造にしているということです。
構造が分かる画像がありましたので、以下に示します。

LP 一番左側が音の伝わる経路が分かりやすい画像になります。
ユニットの後方に、球構造に続けてテーパーチューブを配置しているのはB&Wなどに類似した構造になりますが、その先端を経路の前半に戻し、ユニットに帰らない無限経路としている点が特徴になります。

こうすることで、理論的には無限経路(ループ)で音圧が徐々に減衰していき、後方放射の影響から完全に開放されるように見えますし、FDTD(時間領域有限差分法)シミュレーションでもループ形成と減衰が示されています。
話は逸れますが、FDTD法は元々電磁波のマックスウェル方程式を解くための手法でしたが、流体の圧力、速度、熱分布などを分析することに利用され、最近では音波のシミュレーションにも利用されています。
日本音響学界編 FDTDで視る音の世界
https://www.coronasha.co.jp/np/download/1840630383.pdf

閑話休題。

理想的かと思いきや、今度はループの長さで決まる共振周波数が考えられ、この周波数および逓倍周波数では定在波が発生します。キャビネット内部なので、影響は小さいとは思われますが・・・。
そうは言うものの、後方放射の影響に対するひとつの有効な解であることは確かです。
また、上の画像の左端は外殻構造で、かなり硬い材料で作られていて、中央の画像は外殻の内側に貼られている柔軟な材料の層、右端は一番内層に位置する層構造を示していて680個の菱形硬質材料を貼り合せたものだそうです。
総合的に見ると硬〜軟〜硬のサンドウィッチ構造になっていて、制振構造を形成しています(音道には影響を与えず、且つ、鳴かない構造体になっていることが重要です)。吸音材は音を殺すものなので使わないという考えを実践していて、スジが一本通っていますね。

LP

ぜひ、聴いてみたいものです。ちょっとスネーキーなデザインが好きではありませんが・・・。

『逆起電力について 再々考』

 2019.2.10
昨年11月末に逆起電力とDFの関係について記事を掲載しましたが、逆起電力そのものが良く分からないというご意見をいただきました。
まず、逆起電力が発生する原理ですが、『レンツの法則』に因ります。これは磁束密度が変化すると、それを打ち消すようにファラデーの右手の法則で示される方向(元に戻す方向)に力が働くというもので、エントロピー増大の法則に従うものになります。
電磁ブレーキやアラゴの円盤を利用した積算電力計など具体的な応用例がありますが、これらには金属表面に発生する渦電流により誘起される力が関与しています。
スピーカーユニットの場合には渦電流ではなく、VCに巻いたマグネットワイヤに「磁束密度の変化を打ち消そうとする電流」が発生します。この電流の向きが入力電流と逆方向であるため、この電流によりVCのインピーダンスで発生した電圧のことを『逆起電力』と呼びます。
電磁ブレーキや積算電力計などは積極的にこの現象を利用したものですが、SPユニットの場合には、入力に応じて発生するローレンツ力(真の駆動力)をスポイルする(歪ませる)要因になります。

まず、廉価版ユニットでのVC変位と駆動力係数BL、磁束密度時間微分値dB/dtの関係、ローレンツ力と逆起電力の合算出力である駆動力をシミュレートしてみました。
LP 廉価版の場合には、ギャップ部分以外は磁束が分散してしまうので、BLは変位にしたがって徐々に減少する形となり、結果的にdB/dtも大きな変極点を持たず、常に逆起電力が発生している状況になります。
結果的にローレンツ力と近似した駆動力が出力として得られるように見えますが、慣性質量(振動系実効質量と同じ)の大きさにより経過時間に対する変位量が異なってくるため、入力波形や入力レベルによっては所定の変位に達する前に次の入力に応じた逆方向の移動が開始するため、時間軸での歪(タイムドメインでのトランジェント歪)がどうしても発生しています。

LP 中級〜ハイエンドで使われるユニットの場合には、磁気回路の設計に工夫をして磁束密度をほぼ均一に保持する駆動範囲(変位に対するローレンツ力がほぼリニアな関係になる範囲)を広げています。
こうすることで、均一な磁束密度範囲では逆起電力がほとんど生成せず、磁気回路に起因した歪は抑圧されます。
ただ、この均一範囲を食み出すと、工夫して均一化したツケが回り、急激に駆動力係数BLが減少し、磁束密度時間微分値dB/dtが急増します。
結果として、一定振幅以上では急激な逆起電力が発生してノンリニア歪が急増します。

上記の2例について、インパルスによるステップ応答をシミュレートしたものを次に示します。
LP 上図が均一化したハイエンドタイプの応答で、均一範囲を超えた出力では歪が発生していますが、振動振幅が減衰して均一範囲に入るようになると逆起電力の影響は無くなります。
下図が廉価版の応答で、振幅が減衰しても逆起電力の影響は消えませんが、急激な変化が無い分、聴覚には歪として認知されにくいと思われます。
これらのシミュレーションには慣性質量の影響を考慮していませんが、単純化して理解するにはこのほうが良いと判断したためです。
実際には、ウーファのように振動系実効質量が大きい場合、運動方程式における加速度が小さく抑えられてしまうため、質量の小さな場合に比べて変位の遅れが大きくなり、且つ、変位方向が変わった場合の応答遅れも大きくなります。
これを防ぐためにはローレンツ力を大きくすればよいのでBLを大きくすることになります。
また、低域のレベルを確保するには口径を大きくするかストロークを大きくする必要があり、上記の均一磁束密度範囲を食み出すことによる逆起電力の影響を考慮せねばなりません。
いずれにしても、強度を保持したまま振動系の軽量化を図ることが最優先課題になってくることが理解いただけると思います。

『Woofer of Raidho Ayra C1.0』

 2019.1.27
デンマークにある Raidho acoustics 社は、1971年に創立されたDantax社に端を発します。
LP Scan SpeakやScan Sonicを包括して一世を風靡しましたが、1997年に工場売却するなど一時は継続を危ぶまれました。その後、数年のブランクを経て2009年からRaidho Acoustics として起死回生を図ったようです。
商品としてはCシリーズを始めとしてDシリーズ、Xシリーズなどのラインナップを持つ代表的なHiFiメーカーです。

このうちコンパクトを標榜するブックシェルフ主体のシリーズがCシリーズになります。
かなり前の製品になりますがC1.0というシステムのウーファの写真を最近になって目にしました。
C1.0のデザイン、特にスタンドのデザインが優れており、今まではデザインの良さで記憶していただけでした。

LP

ウーファユニットがどのようなものかというと、写真のように特徴は磁気回路にあります。
マグネットにはネオジウム系の直方体形状のものが使われていて、外形を正10角形に成形されたトッププレートの外周部に10個配置されているものと、同様に外形を正10角形に成形され中央部に空気抜き穴の開いたセンターポール(ヨーク)のボトム外周部に10個配置されているもの:合計20個が上下2個を対として連結されて磁路を形成しています。
模式図を記します。
LP LP このような構成とすることで、ヨークやトッププレートより外周部分では磁路を形成している部分(2対のマグネットとそれを連結する部分:写真の黒い変形角柱)以外は外部に開放された空間になっていて、振動系に対して大きな抵抗となることがなく、スチフネス増加を引き起こしません。(赤い矢印の流通があるため)
これは、私の理想とする条件に合致しています。(以下のPDF参照:C1.0情報を追加)

 PDF『理想のユニットとは』

防塵キャップとボイスコイルで囲まれた空間のスチフネス変動歪への対応に関しては、センターポール中央部に貫通穴を開ける対策が半世紀以上前から高級ユニットでは常識でしたが、ダンパー裏側の空間による歪についてはここ20年くらいの対応になります。
C1.0の場合には直方体のネオジウムマグネットを使っていますが、円筒形のほうが流体力学的にはベターと思います。
音質的には、全帯域でのS/N向上、低域のオーバーダンピング感減少(音場再現性アップ:俗に言う「抜け」が良くなる)などが挙げられます。逆に、上手くキャビネットを設計しないと力感の減少と感じる場合もあります。
全ての楽器がスピーカーより前に定位しないと満足できない方には不満を感じさせるでしょう。
振動板を手で押さえ込んだ場合を考えてみてください。ピストン動作領域では当然オーバーダンピングになりますが、分割振動領域においても制動されてしまいます。S/Nが悪くなると言うよりダイナミックレンジが狭くなるという感じでしょうか。
廉価版のユニットではボイスコイルに穴を開けたり(放熱対策もありますが)、多少の妥協によりキャップに穴を開けたりしてこれを防ぎます。ダンパー後方の空間については日本メーカーで対応しているものを私は知りません。
制動には良い面と悪い面があり、ピストン領域での良い面は駆動範囲を制限する助けになることです。磁気回路や振動系のリニアな領域を食み出せば歪が発生するので、これを抑圧します。駆動スピードに対してスチフネスの変動がリニアであれば歪は発生しませんが、流体としての性質がノンリニアな要素になってしまいます。

『ルーターXYテーブル その2』

 2019.1.26
年明けから時間の経つのが早く、「歳をとったなぁ」と思わず口に出す場面が増えています。
「時間が経つのが早いのは感動が減ったから〜」とNHKの『チコちゃんに叱られる』で説明していたのを思い出しました。
今勤めている会社ではAIやIoT、ロボットに使う各種センサーの情報や現物に触れられるのはありがたいのですが、実状は雑用でバタバタしているだけで、残念ながら「何かを生み出している」という感動は感じたことがありません・・・。
XYテーブルは、前記事の最後に記したように「アルミ型紙をトレースする構造」を考えていましたので、NCルーターなどに使う高価な「ボールねじ」による送り機構は想定の外ですし、リーズナブルな「すべりねじ」による移動機構さえ考えていませんでした。
ただ、実際の作業ではXYの位置を固定した状態でルーターを稼動させ、簡易木工旋盤にセットした対象物を手動で軸回転させる必要があり、少なくともX軸Y軸それぞれのリニアブッシュとスライドシャフトとを相互に固定する機構が必要になります。
一番簡便な方法としては、リニアブッシュに固定ねじを抱かせるものがあります。固定ねじ(クランピングスクリューやイモねじ)が直接シャフトを圧して固定する方法ではシャフトを傷付けるので、ブレーキパッドのようなものを介して固定する機構を考えます。
LP 最初はラックアンドピニオン機構を使って、リニアブッシュ側にあるピニオンをグリップつきの長ねじで固定する方法を考えましたが、上手く作らないとバックラッシュのガタが命取りになるような気がしてやめました。コストもそこそこかかりますので・・・。
LP 次に考えたのが、上記の直接シャフトに押し当てて固定する機構です。
リニアブッシュ自体、もしくは直近に固定ねじ機構を抱かせるのは構造的に難しいので、左図のようなフランジナットを平板に接合したものを2つのリニアブッシュのほぼ中央に固定し、クランプノブを回すことでシャフトを固定する機構を設けます。
シャフトに直接あたる部分にはフェルトを貼り、安定して固定するためにスラストパッドとグラブスクリューを組み合わせてフェルト面を通してシャフトに均一に力が加わるようにします。
グラブスクリューは先端が球状になっていて、スラストパッドの受け座に嵌って角度ズレを吸収してくれる構造を持っていることによります。

仕事が忙しいのを言い訳にしないように、そろそろ部品を購入しようと思っています。

『ルーターXYテーブル』

 2019.1.14
今年も、いつのまにか2週間が経過してしまいました。
元日にデザインをアップしましたが、ご覧になって分かるように、曲面、それも軸対称回転体で構成されている部分が多いので、手作りで量産するのが難しいデザインです。
音場再生の理想を求めている以上、このような軸対称形状が必要になるわけで、これを実現するためにはツールとして木工旋盤が必要になってきます。
木工旋盤というのは、思った以上に技量が必要で、美しく仕上げるには数年の作業経験が必要です。これは、実際に旋盤作業を見せていただき、自分でも体験してみたことによる結論ですし、一昨年作った簡易木工旋盤(強度不足で、且つ、芯が出ていなかったので、危うく怪我をするところでした)で痛いほど実感しました。
そのために考えたのが、旋盤のようにチャック構造を持つ回転冶具とXYテーブルに載せたルーターの組み合わせです。3つ爪や4つ爪の本格的なチャックではありませんが、簡易木工旋盤でチャック代わりに使っていたシャフトホルダ部分が軸中心で回転させるために利用できますので、XYテーブルの部分を実現可能にすれば実験はできます。リファインしたものを下図に示します。

xy-1

図は構造を考えながら作ったため、裏面からの図になってしまいましたが、実際にはXYテーブルの上にルーターを載せて移動させる冶具になります。
以前にもこのアイデアを図にしたことはありましたが、今回は手持ちの中型ルーターRP2301FCをこのテーブルに載せます。
通常のビットでは加工範囲が限られてしまうので、UXCELLの12mm径ストレートコレットチャックでビット加工位置をルーター本体から離します。
これだけだと、どうやって加工するのかイメージが沸かないと思いますが、今後、実際に作った冶具で加工する過程をお見せしていこうと考えています。
冶具の枠は18mm合板ベースで考えていますが、反りなどを防ぐためにアルミ押し出し材との組み合わせを想定しています。

少なくとも複数台の加工再現性を考えて、アルミ型紙をトレースする構造は必須と考えています。「世の中に一台だけ」というのは、私の中では自己満足でしかないので・・・。結果がよければ、皆さんに提供できる環境を作っていきたいと考えています。

『Cyclops』

 2019.1.1
あけましておめでとうございます。
以前、AR-2のコンセプトデザインをアップしました。

cy-1

年末休みになり、現状のデザインを同様に考えてみました。

cy-2

Cyclops というのはギリシャ神話に出てくる一つ眼の巨人のことです。
幼児のころに、童話か何かで挿絵があり、恐くてしょうがなかったことを思い出しネーミングしました。
「エイリアンぽい」なんて悪口を友人に言われ、反抗心もあってのネーミングです。
今年こそは作りたいと何度年初に宣言したことか・・・。そろそろ実行に移さないと、還暦過ぎの狼少年になってしまいますので。

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