待合室に置いてある本を、ご紹介いたします。
貸し出しもいたしておりますので、ご希望の際は受付でお声かけください。
著 / 渡辺 良
かまくら春秋社
医師には人びとのために働く責任があります。その仕事は終わりの見えない航海に似ていると思うことがあります。
患者さん、みな一人ひとりその人だけの悩み、痛み、苦しみをかかえています。病気だけを診ていては町医者の使命は果たせません。その人を知るということが肝要です。
医療の実践は科学に裏付けられたアートです。心ある医療にはアートの精神が必要なのです。とりわけ在宅で長く生きてきた人の人生の最終章に関わる医療にあってはそのことを強く感じます。
このエッセイ集のなかで取り上げた患者さんはみな私にとって忘れられない人たちです。一人ひとりの患者さんのなかにその人だけが持つ「特別なもの」(宝もの)を認めることが臨床の真髄だと考えています。それは「その人らしさ」といってもよいかもしれません。「その人らしさ」とは人生を生きてきたその人固有の物語です。
どのように生きた人もさいごは死を迎えます。零歳の新生児から百十歳の超高齢者まで多くの人を見送りました。しかし、看取りの経験をいくら積みかさねても、診療のあとには“これでよかったのだろうか”という気持ちが必ず湧いてきます。みずからをふりかえり、様々な思い、後悔や自責、あるいは納得や達成感などを言葉にしてみることは、自分自身との間に新たな対話(ダイアローグ)がはじまることでもあります。
この本を読む人との間にも“開かれた(オープン)対話(ダイアローグ)”が生まれるとしたら嬉しいことです。
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