ドキュメント・オーダー自転車ができるまで
2004年10月から翌年4月にかけて製作して頂いたフルオーダー自転車『IF9000light』のドキュメントです。ここまで細かいオーダーに応えていただけるのは国内では『アトリエ ドゥ キャファ』さんしかないと思います。
当時、メルマガ『キャファ通信』に投稿した記事を再編集しました。
Vol.1
「人もすなるおーだーといふものを」
キャファオリジナルのVバイク トップチューブレスが特徴です 私の場合27インチのためトップチューブ付になりますシマノアルテグラフルモデルチェンジの噂を聞いた某月某日、7年ぶりにバイクオーダーを決意。辻本さんにオーダーする時期について相談する。「12月のボーナスシーズンは注文が殺到するから10月くらいがエエな~」との回答を得、その日からXデーに向けヘソクリのラストスパートが始まる。
●10月5日(月) Xデー
ついにこの日を迎えることができた(涙)。仕事帰りに辻本さんに連絡を入
れ、採寸の日程調整。問診~採寸まで相当時間を要する事と突発対応による採寸中断のリスクが少ない金曜日20時にアポイントをとる。当日は乗車時と同じ格好にて採寸するため、バイクジャージ上下とシューズ持参を確認する。(更に現マシン持参がベター)
●10月6日(火)~
要望を正確に伝えるため、採寸当日までに3つの資料を用意。
【資料1:要望書】
現マシン(LOOK KG171)の時に感じていた不満や改善ポイントに優先順
位をつけ10 項目を列挙。加えてどう工夫したいのかも明記。 Ex)私の場合
01 /腰が楽なポジションが取れること(IMジャパンでは骨盤の上あたりが痛くなった)。・・・トップ長を短くしたい。
02/脚力に応じた設定を行うこと。クランク長170。マイクロドライブ化。
03/ハンドル周りを軽くすること。・・・スローピングデザイン、サドルとDHパッドの高さを水平にするが、スペーサーは入れない。
04/衝撃吸収がよいこと。・・・KG171同等。
05/10年乗れる耐久性があること。・・・クランプ部分(フォークコラム、シートポスト)はアルミ製でしっかり締め込めること。
06/高速コーナーでも膨らまないがっちりしたフォーク。・・・エアロフォークよりベントフォークが良い。
07/27インチ(ホイールは現在のものを流用)。
08/ダンシングしてもリアがスリップしないこと。
09/50km/hからアタックしてもBBがたわまないこと。
10/ハンドルの変速周りを工夫する。トライバー、STIかバーコンか。
【資料2:フレームカラーイメージ】
希望の色に近い、某メーカーのカタログ写真とVバイク写真にコラージュし
て作成した完成イメージ。
【資料3:レース中の乗車写真】(岩佐さん、superrem中尾さんに感謝!)
今年のジャパンと昨年の皆生の写真。
●10月8日(金)
問診~採寸。要望書の項目に沿って問診を進める。中には私の間違った知識が散見され都度修正する。結果、9000light(トップチューブ付)に車種
を決定。トップチューブの取り付け、ボトルゲージ、FD、チェーンステー
等細かな仕様をイメージしてから採寸バイクに移動。シート高、後退幅・・
・と順に仮決め。最優先課題である腰痛対策は特に慎重に意見を重ね、DHポジションなどハンドル周りを決めていく。気がつけば日付が変わり1時
前。(通信1920号の送信時間が物語ってます)。長時間お付き合いいただ
いた御礼と深夜残業のお詫びを申し上げて帰宅。事前資料の要望書とレース写真は問診時に役立ったが、カラーイメージは実際の発色と異なる事からNG。 RGBやCMYKによる色指定も同じ理由でNG。また某メーカーは米D社の特殊塗料を使っているから同色の採用は困難である事も判明。梅津さんのようにフレーム端材に色を塗って渡すのがベストと思われる。
●10月9日(土)
Excelでギア比チャートを作成し前後歯数を検討。現在のF51/42/30、
R13-23より少しだけ下りを意識したF44/32、R11-23仕様について辻本
さんに相談。あわせてシートポストの候補商品を相談。仕様書(案)をベー
スにメールにて仕様を個々に決めていく。前後ドライブ系、シートポストの
み継続検討になる。
キャファ通信より転載
Vol.2
「街角のプロジェクトX」
チェーンステイを下げてチェーンとのクリアランスを稼ぐ設計●10月12日(火)
コンパクトドライブ F44/32に問題発覚。辻本さんの懸念が的中し図面検
証の結果、フロントディレイラーのガイドプレートの下端とチェーンステイ
のクリアランスがなく接触すると判明。
【激闘編】
安定性を重視し一般的な設計に比べてBBを下げている事と極太チェーンス
テイ(20mmx40mm)が原因であるが、ここは妥協できない。更に極太ダ
ウンチューブによりFD固定バンドとの接触も懸念される。解決策として
48Tで検証するが、クリアランス僅か2mm弱。(チェーンステイの上面に
はシフトワイヤが来る為5mmは欲しい)あ~ダメだ~。
●10月23日(土)
・・・辻本さんの名誉の為、補足しますが解決案の方向性は10月12日に
出ていましたがIMハワイのため日数が空きました。
【解決編】
1,チェーンステイを下にオフセット(イメージ参照)
BBを巻き込むようなパイプ回し。弱点としてBB周りの剛性が下がるがトッ
プチューブ付である事、極太チェーンステイで補う。
2,シフティングワイヤーの通る位置を中央寄りにオフセット
3,F44/32→F48/36にする(F44は諦め難いが・・・)
この2点によりガイドプレートから逃がす方法を考案。チェーンステイの仕
様変更(細くする)とBB取付型FD(シマノFD-M760-E)の採用について
は検討保留。
【フレームカラーサンプル】 類似色:アルミナブルー
イメージに近いサンプルを入手(駅前で配布していたシャンプー試供品)。
持ち込んで再現できるか相談。紙への印刷物である事や下地がメッキになる
事など再現にあたり懸念もあるが上村塗装工業所との協議事項になる。
【感想】
他店のバイクオーダーなら採寸して1回で終了だと思いますが、キャファな
らどんな要望でも具現化できてしまいます。自転車秋葉系(オタク)の希望
も叶えてしまうので希望が肥大化しがちですが、世の中で唯一無二のバイク
が作れて幸せです。作って楽しく、乗って楽しい。お手間ばかりかけてしま
い辻本さんには申し訳ないことばかりですが、商品開発の疑似体験も楽しめ
るフルオーダーは価格以上の価値があります。
関連リンク:キャファ通信
#辻本さんから/
何でも出来てしまうということはありませんが、出来るだけご希望に添う物
作りを心がけてはおりますが、いわゆる「際物」は作りません。念のため。
ボトムブラケット回りの強度について補足説明をしておきます。チェンス
テーをオフセットさせフロントディレイラーのガイドプレートと干渉するの
を避けようとしていますが、このためにボトムブラケット回りの強度が不足
することはありません。
しかしiF9000はダウンチューブとシートチューブの接合部分が縦方向に長
く、ここでフレームの縦剛性を稼いでいる特性があります。チェンステーを
下方向にオフセットするにはダウンチューブも同様にオフセットする必要が生じるので、その縦剛性を確保するために新たな工夫が必要になります。
しかしブルゴーニュさんのフレームはトップチューブ付きなので、その心配は無用です。
キャファ通信より転載