Crystal growth of protein ;
タンパク質の結晶成長について

For the crystallographer, to what extent crystal growth physics can play a role now
For the crystal growth researcher, what is the crystal growth of protein
構造解析屋さんへ, タンパク質の結晶化:結晶成長学がどこまでお役に立てるのか
結晶成長屋さんへ,タンパク質の結晶成長とは

This page is for the crystallographer who has (to have) an interest on the science protein crystallization, and for the researcher in the crystal growth field who has an interest on a protein molecule. Every kinds of your comments and suggestions are welcome.
このページは主に,構造解析が本業で結晶化のサイエンスに興味をお持ちの方,および結晶成長が本業でタンパク質に興味をお持ちの方を対象に,タンパク質の結晶成長の基本的な事柄を説明しているページです.もちろん,間違って入り込んでしまったという方も心配いりません.この研究分野の魅力をおわかりいただけるよう,極めて平易に説明したつもりです.ご意見・サジェスチョンをいただければ幸いです.

これはニワトリ卵白リゾチーム(塩化リゾチームとして風邪薬にも入っている天然の抗菌剤です)の正方晶系結晶を1000倍づつスケールを変化させて観察した象です.通常結晶は平らでぴかぴか光る面に囲まれていますが(左上図),1000倍くらい拡大してみますと,渦巻き成長模様(右上図)や二次元核成長の縞状模様などが見えてみます.さらに1000倍くらい拡大すると,もう個々のタンパク質分子がグリグリと見えてきます(左下図).その中の分子を一つ取り出してみたのが右下図です.(AFM像の著作権は立命館大・中田俊隆氏)

構造解析をされる方は,左上図の結晶にX線などをあてて右下図の分子構造を解こうとされますが,私ども結晶成長屋の興味の対象はその中間のスケールの右上図・左下図です.タンパク質分子同士がどの様にして相互作用しあい左下図のような美しい規則構造をとるのか,また,そのような規則構造がどの様なメカニズムで成長!するのか(右上図),を調べるのが結晶成長という研究分野です.この様にして成長してくるタンパク質結晶(左上図)がどのくらい高分解能の回折データを示すのかは,その結晶がどの様にして成長してきたか(右上図,左下図)に極めて大きく左右されることは言うまでもありません.

このページは,「そうか,少しくらいは結晶成長屋の言うことを聞くのもまんざら損はないな」と構造解析屋さんに思っていただくために,そして「そうか,それなら俺もタンパク質を題材にしてみても面白そうだな」と結晶成長屋さんに思っていただくために,以下の項目について私の独断に基づいて私見を述べたものです.

【トピックス】

1.Why protein crystallization is important; タンパク質の結晶はなぜ重要であるのか.

2.What we know; これまでどの様なことがわかってきたか.

3.What we do not know yet; まだ何がわかっていないのか.

4.Basic strategies to grow a protein single crystal of good quality;
  良質なタンパク質結晶を作るための基本戦略.

5.Effects of natural convection (advantages of microgravity experiment);
    対流の効果(微小重力実験の利点).

6.Essential future plans; 今後必要な研究.

7.タンパク質の溶解度を制御するパラメータおよびそのメカニズムについて.


トピックスのあらすじ
 タンパク質の結晶化については,1980年代中頃から結晶成長学的観点から研究が始められました.タンパク質の結晶成長過程は,はじめは何かミステリアスなものと考えられていましたが,これまで金属や半導体などの低分子化合物を題材にして発展してきた結晶成長に関する諸概念が,タンパク質の場合にも適応できることが,徐々に明らかになってきました.たとえば,タンパク質結晶の場合にも,過飽和度(結晶化駆動力)が小さい場合にはらせん転位による渦巻成長が起こり,過飽和度の増加と共に二次元核成長や付着成長様式で結晶は成長します.また,結晶の外形も,低分子化合物と同様に過飽和度が増すにつれて,多面体結晶から骸晶,樹枝状結晶へと変化します.すなわち,結晶が成長する根本原理には低分子化合物もタンパク質も何ら変わりはないことがわかってきました.
 現在のところ,どういった溶液条件にすると適切な結晶構造を持つ核が晶出するかについては残念ながらまだ歯が立ちませんが,いったんできた結晶の良質化には結晶成長学は十分お役に立てる状態にあります.結晶成長学的観点からは,良質な単結晶育成のための基本戦略は,1)試料の高純度精製,2)効率的な結晶化条件の探索,3)溶解度曲線の作成,4)適切な結晶化法の選択,5)溶解度データに基づいた能動的な結晶育成,6)対流の制御,の6点にまとめられます. なかには,構造解析屋さんにとって「そんなの無理だよ」とおっしゃられるものもありますが,結晶成長学の観点からの「正論」をまとめました.これらをどうやって実際に応用可能な技術として発展させてゆくかが,我々にかせられた課題だと思っています.
 また,1980年代より,微少重力環境を利用して良質なタンパク質結晶を成長させようとする実験が多く行われてきました.しかし,その成功率は3割程度とはなはだ小さいのが現状です.単に試行錯誤的に結晶化実験を繰り返すのではなく,結晶成長に及ぼす「流れ」の効果をきちんと把握した上で微小重力下での結晶化操作を設計する必要があります.そこで,タンパク質結晶の成長に及ぼす「流れ」の効果をまとめてみました.
 残る課題としては,A)結晶化の駆動力や流れなどの個々の因子を制御することでどれほどの良質化がもたらされるのかを定量化すること,B)上記2)や3)の過程での試料のロスを最小にするためのマイクロポンプなどの極微小容量流体操作系の開発,C)核形成や水和・脱水和などのまだ未知の過程の機構解明,の3点が挙げられます.
 また,最後に,タンパク質の結晶化を行う際の操作パラメータについて,主なものを紹介し,そのメカニズムをまとめてみました.
 本ページをごらんいただくことで,構造生物学の方々にも結晶成長の重要性と効力を実感していただければ誠に幸いです.

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