Essential future studies

Essential fure studies;
今後ぜひとも必要な研究

　とうとうヒューマンゲノムの解析がほぼ終わってしまいました．私が学生の頃には，「ヒューマンゲノムの全解析が終わる頃までには，タンパク質の結晶成長の分野も飛躍的に進んでいて，良質な結晶がどんどん作れるようになるだろう」と，漫然と思っていました．しかし，現在の状況がそれとはほど遠いことは，皆様が良くご存じの通りです．タンパク質の結晶成長分野にこれまで携わってきた者として，やはりプロテオームがはじまろうとしている正にこの時期に，構造解析分野に実際的な寄与ができれば，と願っています．下記は，そういったスタンスで，私が「今後こういった研究が本分野で必要である」と思っている事柄です．

１）タンパク質結晶の「品質」の定量的な評価
　本ホームページでもいろいろ述べてきましたように，「こうすれば良い結晶ができる」という結晶成長屋のパラダイムはたくさんあります．しかし，それぞれの考えがどれくらい実際に結晶を良質化させることに有効であるのかはまだまだ不明です．この点が不明であるために，構造生物屋さんになかなか振り向いてもらえないのだと，私は思っています．
　シリコン結晶は人類が作り出した結晶の中でも最も素晴らしいモノの代表選手ですが，この場合も同じです．これまで様々な成長方法が考え出され，育成された結晶の品質が徹底的に評価される中で，一歩一歩品質が向上してきたのだと思っています．結晶品質を定量的に評価することなくしては品質向上のための「正のフィードバック」がまわりません．本テーマが特に重要であると私は考えています．

２）マイクロポンプなどの極微小容量流体操作系の開発
　溶解度測定のところでも申しましたが，極微小容量の溶液を取り扱うためのポンプなどの開発が重要です．現在，数マイクロリットルの溶液を定量的にハンドリングできるポンプは多数ありますが，それらの多くは数ミリリットル程度のデッドボリュームが必要です．しかしながら，タンパク質の場合にはそれでは試料がまかなえませんため，デッドボリュームなしで数マイクロリットルの溶液を定量的にハンドリングする必要があります．

　そういった要請に答えうるシステムとして，現在，応用物理の中のメディカル応用分野で多くの研究がなされている「電気浸透流ポンプ」などが有望だと思っています．近い将来，これらのポンプと溶解度測定システム，結晶育成システムがあわさった「タンパク質良質結晶育成デバイス」のようなものを作ることが必要であると思っています．是非とも，アイデアやサジェスチョンをお持ちの方がいらっしゃいましたならばお教えくださいませ．

３）タンパク質分子間およびタンパク質-水分子間相互作用エネルギーの評価
　どういった結晶化条件にすれば，どういったスクリーニングキットを使えば，望むタンパク質の結晶を得ることができるのか．これに答えることが構造生物分野に対する結晶成長分野の最終の寄与だと思います．現在，実際にそのような予測ができる分野として合金などを取り扱う冶金分屋が上げられます．この分野では，未知の合金のフェイズダイアグラム自体をほぼ完全に計算で求めることができます．

　タンパク質の場合，現状ではそれとはおよそほど遠い状況ですが，決定的にかけているモノは「タンパク質分子間およびタンパク質-水分子間の相互作用エネルギー」についての知見です．まだ，タンパク質分子間の相互作用エンタルピーを評価するための研究は，ようやく始められたばかりで，数十から50%程度の誤差がついてまわります．また，水のエントロピーに話が至ると全くお手上げ状態です．

　私の不勉強のための多くあると思いますが，こういった事柄にアプローチするための有効な手段がまだ見つからないのが現状です．将来的には計算機科学のこの分野への寄与ははなはだ大きいと考えられます．タンパク質の溶解度に及ぼす「高圧力の効果」なども，部分的には寄与できるのではないかと考えています．他に何か良いアイデアはありませんでしょうか？　あれば自分で実験しますよね．

４）核形成やクラスタリングなどの未知の過程や，タンパク質分子の回転拡散など未知の影響の解明
　「タンパク質の結晶成長過程は低分子化合物のそれと基本的には全く同じである」と，本ホームページでは力説してきましたが，それはタンパク質の結晶成長現象を「これまで低分子化合物を元に発展してきた結晶成長学のパラダイム」で整理してきたからに他なりません．こういった観点では整理しきれない部分に，本当にフルーツフルなサイエンスが眠っています．核形成やクラスタリングなどの現象もその一つであるといえます．また，タンパク質という巨大サイズのモデル分子を用いて初めて実験的に見えてくる現象といえるかもしれません．さらに，近年見つかった「磁場」の効果や「高圧力」の効果なども，この範疇にはいるでしょう．

　ここまで長々と拙文を読んでくださいまして誠に有り難うございます．是非ともご批判，サジェスチョンなどくださいますよう御願い申し上げます．

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