近所の女子大生が卒業し、もう使わないのでと、その親から原付をもらった。
トコトコと写生をしながら、気がつくと山中湖に立っていた。富士と湖を描き終え、眼前の山と見くらべて愕然とした。自分の絵のひ弱さに泣きたくなった。
そこから格闘が始まった。原付で回を重ねる時は途中でパンク、ガス欠、エンストなど道中で色々あった。自動車にしてからも、よく出かけた。
ある日、スッキリ見えていたので鉛筆で描きだしたら、10分位で雲に隠れ、何時間も、湖と雲だけを描いていた。帰る寸前に数分間頂上が、見えたので必死で描いた。その絵は今までにない迫力があった。
しかし、それは見かけの関係とは懸け離れた虚構であった。
もともと絵は、平面という虚構だから、創り出すことが不可欠だと感動しながら実感した瞬間であった。身近なものを描く場合もすべて同じだ。今まで分かっているつもりでいたことも、自分の身につけるには葛藤が必要だ。
よく会っている絵描きに、富士を描いているのを話したのは、描き始めてから10年以上も後になってからだ。それまでは自分の非力が悔しくて話せなかったのだ。(2010年6月)