おさるロゴ1
おさるロゴ2

日本刀の特徴


ホーム

日本刀の性質を表現する際に、「折れず曲がらず良く切れる」と表現されます。しかし、この表現には矛盾があります。つまり「折れない」と言うことは鉄が柔らかくなければなりません。極端な例で言うと、ゴムの棒は柔らかいので曲がりはしますが折れません。また「曲がらない」と言うことは鉄が硬くなければなりません。と言うことは、1本の刀を柔らかくもあり、硬くもある鉄で作るということになり矛盾が生じます。
日本刀の断面 
断面の図 
こういった矛盾を解決するのが、日本刀の特徴である造り込みです。比較的柔らかい鉄を、堅い鉄で包み込むと言う手法を用いました。つまり、もなかのようにあんこを皮でくるむような形です。これにより、外側の鉄は堅いので曲がらず、中には柔らかい鉄がくるまれているので、衝撃を吸収して折れないのです。
注:ここで言う「柔らかい鉄」というのは粘り(ねばり)がある鉄という意味です。
外側の鉄を「皮鉄(かわがね)」、内側の鉄を「芯鉄(しんがね)」と呼びます。また、刃の部分は硬すぎると物に当たった時に刃こぼれが生じる恐れがありますので、別に粘りを持たせて鍛え刃鉄(はがね)とし、棟の部分を別に鍛えて棟鉄(むねがね)として組み合わせることもあります。つまり、刀身の各部の役割に合わせた鉄をそれぞれ造り、それらを組み合わせて一振の刀を造り上げているのです(「日本刀の見所 造り込み」参照)。中国などでは早くから刀身と(なかご)の硬度を変えて、刀身を柔らか目にして折れを防ぐという工夫がなされていたようですが、各パーツに合わせて別鍛えとし、それらを組み合わせて一振の刀にするという手法は日本刀のみです。
そしてたたら操業によって砂鉄から玉鋼(たまはがね/「日本刀の材料」参照)と呼ばれる、日本刀に適した炭素を均一に含む良質な鋼を作り、これを折り返し鍛錬することによって強度と粘りを増し、各パーツに適した材料を組み合わせて一振の刀に仕上げ、反りを付けることによってより小さな力で斬ることができるのです(「日本刀の科学」参照)。
ただし、ここで覚えておかねばならない重要なことがあります。それは、一般に言われる玉鋼を材料とし、芯鉄を皮鉄でくるむという作刀法は、新刀期以降の作刀法であり、それが現在に伝承されているということです。古刀期の日本刀の作刀法や材料などは今だハッキリとは解明されておらず、「日本刀の出来るまで」で解説しているような作刀法は、新刀期以降の作刀法を受け継いだものなのです。従って古刀期の刀工達がこのような行程で刀を作っていたかどうかは分かりません。少なくとも古刀期には玉鋼はありませんので、玉鋼で作刀されたということはありません。
また、平安時代までは地域によっては砂鉄ではなく鉄鉱石を原料としていた地域もありました(鉄鉱石から砂鉄へ参照)。このような古刀期の材料は、新刀期の玉鋼のような良く精錬されたものでは無く、不純物を含み炭素量も不均一でしたが、これがかえって刀身に硬軟の部分を作り出し、新刀には見られない地肌を生み出し、柔らかいが粘りがあるため曲がることはあっても折れにくく、また焼き入れによってもその強度を高めていたと考えられています。
このように、古刀期の日本刀は比較的柔らかい(粘りがある)鉄を用いていたため刀身が折れる心配をする必要はなく、芯鉄は必要なかったため丸鍛え(芯鉄を入れない)であったのです。研ぎ減った古刀には、芯鉄らしきものが表面に出ているものもありますが、基本的に芯鉄は硬い玉鋼を使用した新刀期の鍛冶が、刀が折れるのを防ぐために考えた工夫であると考えられるのです。
※ 古刀の特徴について詳しくは日本刀の歴史古刀の部を、新刀の特徴について詳しくは日本刀の歴史新刀の部(作成中)をご覧下さい。
『銃砲刀剣類等所持取締法』、いわゆる銃刀法によると、「日本刀とは武用または観賞用として、伝統的な製作法によって鍛錬し、焼き入れを施したものをいう」とあります。「所持と登録証」でも書きましたが、戦時中に作られた、車のスプリングとして使われていた板バネを加工して刀のように仕立てたスプリング刀や、洋鉄を打ち延ばして作られた一分の軍刀などは、上記の規定に合わないので日本刀とは認められず、登録証も発行されません。どんなに優秀な洋鉄を用いて、武器として日本刀よりも優れたものが作られたとしても、それは「日本刀」では無く、「刀」なのです。
日本刀の人間国宝である、故・隅谷正峯(すみたに まさみね)氏は、『日本刀職人職談(光芸出版/1971年)』の中で、
「とりわけ我々が今日日本刀を作る場合、たんなる実用ではなく-もちろん刃味が悪かったり、折れたり曲がったりするものでは意味がありませんが-美術的な味わいのある日本刀を目指さなくてはなりません。あるいは、この二つの要素はあい伴うとまではいかなくても、それほど矛盾するものではないのかもしれません。」
と述べています。日本刀の日本刀たる理由はその「美しさ」にあります。レーシングカーが流線型をしているのは格好良く見せようとしている訳ではありません。速く走るために空気抵抗を極限まで減らした結果あのような形になったのです。つまり実用から生まれた美なのです。日本刀も同じです。
武器に美など必要ないと言う人もいるでしょう。しかし、古来日本刀を鍛えてきた刀工達は、江戸時代の一時期を除いて、故意に美を狙って作刀したのではありません。武器としての性能をつきつめた結果、あのような直線と曲線で構成された美しい姿となり、材料を工夫して武器としての性能を高めていった結果、地肌働きなどが現れ、後世の人がそれらを「美」として鑑賞したのであって、刀工達は美術品を作っていたのではなく、全く無駄の無い武器を作っていたのです。この無駄の無い姿こそ、実用から生まれた美しさなのです。戦時中の武器としての性能だけを追求し、科学的に作られた洋鉄を使って作られたものが、日本刀と呼ばれないのはこういう理由もあるのです。