日本刀の各部名称 |
各部名称1 | |
刀の長さは、左の図のAからB(切先の頂点から棟区)までの距離をいいます。何尺何寸というのはこの長さのことです。 CからDの距離のことを「反り」といいます。 |
日本刀の反りは、図のように切先と棟区(むねまち)を結んだ線上で、棟とその線との距離が一番離れている所の寸法を言います。そしてその地点が刀身のどのあたりにあるかによって以下のような表現をします。
・反りというものは、より少ない力で効果的に物を切る事ができる工夫なのですが(反りの効果参照)、そもそも日本刀に反りが付いた理由が、斬れ味を求めてのことだったという点について私は疑問を持っています。これについては反りの始原は蕨手刀?を参照して下さい。
・腰反り高い、腰反り深いなどと表現されますが、これはどちらも反りが強いという意味です。
<反りが合わない>
ある人と相性が合わないことを「あの人とは反りが合わない」と言いますが、これは日本刀の刀身と鞘(さや)との関係からきた言葉です。日本刀の鞘は、一本一本その刀に合わせて作られます。つまりオーダーメイドです。従って別の刀を鞘へ納めようとしても反り方がそれぞれ違うため納められません。こういうことからこういった表現が生まれました。また、カップルが復縁した時などに「元の鞘に納まる」などと言うのもこれと同じく刀身と鞘との関係からきたものです。
各部名称2 | |
A:棟(むね) B:鎬地(しのぎじ) C:鎬筋(しのぎすじ) D:棟区(むねまち) E:鑢目(やすりめ) F:銘(めい) G:目釘穴(めくぎあな) H:刃文(はもん) I:刃 J:地(じ) K:刃区(はまち) L:茎(なかご、中心とも書きます |
棟(むね)とは、刃の反対側にあたる部分で下の図のような種類があります。角棟(かくむね)は平棟(ひらむね)とも呼び、上古刀のものです。庵棟(いおりむね)は行の棟(ぎょうのむね)とも言い、屋根のような形の物で最も多い形です。三つ棟は真の棟とも言い、相州系に多いものです。丸棟は古刀期の九州物や北陸物に多く、庵や三つ棟に比べて少ないものです。
庵棟の場合、屋根のようになっている部分の傾斜がゆるいものを庵低い、傾斜がきついものを庵高いと言います。
棟の種類 |
鎬筋(しのぎすじ)とは、横手(よこて/下記の切先各部名称参照)下から、茎尻(なかごじり/茎の下端)まで通っている線のことです。下の左の図は日本刀の断面図です。下側が刃、上側が棟です。棟寄りに横に張った部分がありますが、この頂点が鎬筋です。この鎬筋と棟との間の平地を鎬地(しのぎじ)と呼びます。下の断面図を見ると、鎬筋が張っているためくさびのような形になっています。これは衝撃の緩和と斬れ味を良くする工夫です。また、下の右側の図の左側のように、張りが大きいものを鎬が高いと言い、張りが小さいものを鎬が低いと言います。
・鎬を削る
激しく戦うことを「鎬を削る」と表現することがありますが、この「鎬」は日本刀の鎬を指します。刀で戦う際、相手の振り下ろした刀を受け流すにはこの鎬の部分で相手の刀を受けます。相手の刀を受け流した時にまるで鎬が削られるほどに激しい攻撃を受けているといった意味合いからこのような表現が生まれました。
日本刀の断面 | 鎬が高い・低い |
区(まち)とは、刀身と茎(なかご)との境界にあたる部分のことを言います。刃側と棟側が少しカギ形にくぼんで茎(なかご)となる部分です。刃側を刃区(はまち)、棟側を棟区(むねまち)と呼びます。区はその日本刀が作られた当初は深いカギ形にくぼんでいますが、刃が欠けたりして研ぎ直すと区のくぼみが浅くなっていきます。刃が欠けた所まで刃先を下げなければならないからです。普段この区ははばきの下に隠れていますが、その日本刀がどれほど健全か(研ぎ減りしていないか)は、刃区を見れば分かります。
鑢目(やすりめ)とは、茎(なかご)に施したヤスリのことです。古刀の時代からこの習慣はありますが、恐らく柄から刀身が抜けにくくするためのものです。この鑢目には個人、流派の特性があって、刀を鑑定する場合の目の付け所の1つです。上の図では一部のみにヤスリをかけているように見えますが、実際は下までかけます。
銘(めい)とは、その刀を作った刀工が自らの作であることを証明するために切るもので、刀工名や製作年月日などが切られます。ここで「切る」と言っているのは、銘は鏨(たがね)で茎(なかご)の肉を切り開くようにして刻み込むので「切る」と言うのです。詳しくは日本刀の見所の銘をご覧下さい。
【 目釘穴 】
目釘穴(めくぎあな)とは、茎(なかご)にかぶせる柄木(つかぎ)と茎を固定するために、目釘という乾燥した竹で作った釘を差す穴です。
【 刃文 】
刃文(はもん)とは、焼きを入れたときに化学変化を起こし、鉄の性質が変化した部分です。この部分は他の部分より堅くなっています。刃文の形はいろいろあって、流派や個人で個性があります。刃文については日本刀の見所の刃文、どうして刃文が出来るのかについては日本刀の科学をご覧下さい。
茎(なかご)とは、刀身の握る部分で、柄(つか)の中に入って隠れてしまう部分ですが、銘などが切られており刀の鑑定を行う際に重要な部分です。茎は芯鉄(しんがね)ですので(日本刀の出来るまで参照)、時間の経過とともに錆びてきます。この錆びも重要な鑑定ポイントになります。茎(なかご)について詳しくは日本刀の見所の茎をご覧下さい。
なお、茎が製作当時のままで、後に加工(磨上げ、偽造のための加工など)が施されていない状態を、生ぶ(うぶ)と呼びます。
ふくらとは、切先のカーブしている部分を言います。カーブしているものを「ふくら付く」、カーブしないで直線的なものを「ふくら枯れる(かれる)」と表現します。
【 鋩子 】
鋩子(ぼうし)とは、切先の焼刃のことです。ここは刀の中でも最も重要な部分の1つです。鋩子が無い日本刀は価値が無いとまで言われ、作刀上でも最も難しい部分です。詳しくは日本刀の出来るまでの切先作り、日本刀の見所の鋩子をご覧下さい。
【 物打ち 】
物打ち(ものうち)とは、実際に刀で斬りつける時に中心的に使う部分のことです。図ではかなり上の方になっていますが、実際は刀身の中心よりも少し上の部分です。
【 返り 】
返り(かえり)とは、鋩子が切先の方へグッと上がって下の棟部分の方へ折り返すことを言います。詳しくは日本刀の見所の鋩子をご覧下さい。
【 横手 】
横手(よこて)とは、切先の下部にある線のことで、刀身と切先の境界線です。横手筋(よこてすじ)とも言います。
刀を棟の方から見た厚みを重ね(かさね)、刀を平らにして刃文を見る状態にした棟から刃先までの幅を身幅といいます。
踏ん張り(ふんばり)とは、先幅(さきはば/横手下の身幅)と、元幅(もとはば/区の上の身幅)に差があることを指す言葉です。人間が足を少し広げて踏ん張って立っている姿、つまり足下が幅広く、頭の方へ行くに従って幅が狭くなる形を表現したものです。日本刀、特に古刀の説明文で「踏ん張りがある姿」とあれば、元幅と先幅に差があり、切先が小さい目になっていると理解して下さい。
樋(ひ)とは刀身に彫られた溝のことです。樋の役目は刀の重量を軽くする、曲がりにくくする、衝撃を緩和するなどがあります。電車のレールの裁断面を見たことがあるでしょうか。極端に言えば「エ」のような形をしています。樋のある刀の裁断面もこのような形になります。これにより斬りつけたときの力が分散されるのです。
また樋の種類には下のようなものがあります。チリとは鎬造りの刀に樋を彫った場合、残っている鎬地のことで、下の絵のように片側に残す場合と樋を挟んで両側に残す場合があります。
樋 |
樋の種類 | ||||||
掻き流し・掻き通し | 角止め・丸止め | 片チリ | 両チリ |