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BARRIER FREE 

第3回 バリアフリー住宅
 

 バリアフリーとバリアフリー住宅


私が専門書以外で「バリアフリー」を見たのは、1996(平成08)年の住宅金融公庫の割増融資工事仕様書に、「高齢者対応構造工事(バリアフリー住宅)」の仕様書でした。

調べると、前年の1995(平成07)年から、高齢者対応構造工事(バリアフリー住宅)に対して割増融資を始めたので、「バリアフリー住宅」が行政の正式な単語になって2年目に知ったようです。
(朝日新聞の社説は、1993年に「バリアフリー住宅」を書いていた。)
       

1990年代は、銀行より住宅金融公庫の方が住宅ローンの金利が安く、「家を建てる時には住宅金融公庫を活用する」が一般的でした。
(しかし、この後からは住宅金融公庫と民間の銀行との金利の差が無くなりますが…。)


その様な世情ですので、住宅金融公庫の高齢者対応構造化工事の「バリアフリー住宅割増融資」は、インパクトがありました。しかし、実際にインパクトがあったのは「割増融資」の方で、「バリアフリー住宅」は割増融資の付け足しでしたが。

なぜ、「バリアフリー住宅」は付け足しだったのか、それは、
公庫の高齢者対応構造化工事は、1991(令和3)年から始まっていますが、当初は割増融資ではありませんでした。
また、住宅需要で「新築」の主要年代はアラフォー世代です。まして「核家族」が基本になってきた時代でしたので、家族構成に「高齢者」は居ません。
つまり、住まいに「高齢者対応」は必要なく、多くの施主には、「高齢者対応は、我が家には関係ない」のです。

それが1995年から、「バリアフリー住宅には割増融資をします」となった途端に、家を建てる人のほとんどが「バリアフリー住宅で」となりました。理由は、より多くの融資を受けて住宅資金にしたいからでした。

 バリアフリー住宅の基準


住宅金融公庫のバリアフリー住宅の基準を要約すると、次のとおりです。

 (1)部屋のつながり(高齢者等の寝室のある階には、便所を設置する。)
 (2)段差の解消
 (3)廊下の幅員の確保(廊下の有効幅は780o以上)
 (4)出入口の幅員の確保(有効幅員を750o以上、浴室は600o以上)
 (5)浴室の規模(短辺方向1,300o以上、面積2.0u以上)
 (6)住戸内階段の規模
 (7)手すり(浴室、階段)

我々設計を担当する者は、「バリアフリー住宅」の割増融資を受けるためには、これらの基準を施主に伝えなければなりません。

以下は、私の担当した施主の皆さん方を通しての主観です。

住宅金融公庫には他にも割増融資はありました。「高耐久性木造住宅」や「高規格住宅」、「省エネルギー断熱構造工事」などです。多くはありませんが、これらを選択する施主もいました。これらの施主に共通した印象は「住宅金融公庫の意図を充分に理解している」でした。

しかし「バリアフリー住宅」の申請する人は、
「バリアフリー住宅は、何かよう分らないけど、これを申し込めば融資が増えるらしいですね。追加になる金額も大してないと聞いているけど」という感じでした。

まあ、住宅メーカーの営業さんもバリアフリー住宅の説明も難しかったのだと思いますが、住宅を建てる人の「バリアフリー住宅」の理解とはこのようなものだったと記憶しています。

 施主が意識した「手すりの設置」


「バリアフリー住宅」基準で施主が意識したのは、(7)の手すりの設置です。
(1)部屋のつながりと(6)住戸内階段の規模は、設計者がプランを作る時に配慮すべき項目です。(2)段差の解消は、施工上の問題であって、工事費が掛かるものではありません。私の担当では、施主から「いいえ、段差は付けてもらわないと困ります」という話は聞いていません。
(3)廊下の幅員の確保と(4)出入口に幅員確保は、普通にプランをすればクリアできます。当然、費用は掛かりません。
(5)浴室の規模も特殊なことではありません。浴室面積が2uとありますが、ユニットバスだと1316タイプの大きさで、一般的なタイプです。現在に多いのは1616で、この規格より一回り大きいものが主流です

(7)の手すりですが、ほとんど(私の担当では全員でしたが)の施主は、手すりを必要とはしていませんでした。しかし基準ですので、浴室と階段に手すりを付ける(2000(平成12)年からは、全ての住宅の階段に手すりの設置が義務付けられた)ことになりました。
施主は使わない手すりですが、10万円ほどの金額が追加になります。ですので、手すりの設置は、「どうしてもいるのか?」「少なくはならないか?」との話し合いがありました。
結果、バリアフリー住宅には「手すりが必要」と印象付けられました。

 現場から嫌われた「段差の解消」


「バリアフリー住宅」の施主との打合せが終わり、現場が始まります。すると、大工から罵声が飛んできます。

「そんな仕事はしたことがない!!!」と。

「そんな仕事」とは、「段差を解消する」仕事です。

1990年代は、住まいには和室を好む傾向が強くありました。1階の高齢者部屋(バリアフリー住宅の規定で造らなければならない)だけではなく、リビングが畳の茶の間だったりしますし、2階の夫婦部屋も和室だったりしました。

また、ドアも工場で作る既製品ではなく、地域の建具屋が作っていました。ですので、建具枠は大工の手仕事ですので敷居がありました。

和室が「単純段差」を作り、敷居が「またぎ越し段差」を作っていました。お風呂はまだユニット化は進んでいなかったので、「水返し段差」がありました。いわゆる「段差だらけ」が「普通の家」だったのです。

この「普通の家」を「バリアフリー住宅」にしなくてはならないので、「段差を無くして下さい」と大工に説明(説得)しなくてないけないのでした。中には「親方の許しを得てくれ」と耳を貸してくれない大工もいました。
現場が変わるたびに、この「すったもんだ」は続きました。
結果、バリアフリー住宅は「段差を無くさないと」が印象づけられました。

 バリアフリー住宅は、「手すりの付いた段差のない家」


バリアフリー住宅の基準は、1995(平成07)年 旧・建設省から出された、長寿社会対応住宅設計指針を具現化させるために出されたと言われています。

長寿社会対応住宅設計指針には考え方が示されています。
「身体機能の低下や障害を有する状態になった場合でも、住宅の大規模な改造を必要とせず、軽微な変更を行うことで対応可能とすることを前提とする」です。

しかし、施主は「手すりが追加になる」と考え、大工は「段差を無くさないと仕事がなくなる」と意識をしたのが「バリアフリー住宅」だったようです。

どうもこれ以降に、「バリアフリー住宅は、手すりが付いた段差の無い家」のイメージが定着した気がしています。


 

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