第3号被保険者問題

国民年金の第3号被保険者の問題についてはあまり調べたことはないのですが、常日頃、誤解が多いことが気になっておりますので何とか頑張って正しい解説を試みてみたいと思います。

  1. 第3号被保険者問題とは
  2. 問題の大きさはどの程度か
  3. 何が問題とされどのような議論がなされてきたか
  4. 第3号被保険者問題の考察と私の意見
  5. おわりに

補足1

補足2:遺族厚生年金について

補足3:加給年金額についてについて

補足4:130万円の壁についての補足

 

※本稿で取り上げなかった点も含め「第3号被保険者制度は不公平、という意見をもう一度考えてみよう」にまとめました。

 

※ご質問の回答はこちらをどうぞ

1.第3号被保険者問題とは

(基礎的事柄ですので知っている方はこの節とばしてください。)

第3号被保険者とは何か

国民年金の被保険者には強制被保険者(国民年金法第7条)と任意加入被保険者(国民年金法附則第5条)があります。少なくとも日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の人は原則全員、強制被保険者です。日本に居住していない日本国民等、幾つかの条件に合致する人のみ任意加入被保険者になることができます。

強制被保険者は3つに別れ、それを規定する国民年金法第7条第1項の号番に従ってそれぞれ第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者と呼ばれます。

第2号被保険者とは、厚生年金保険の被保険者、共済組合の組合員等サラリーマンが加入する年金の被保険者です。(被用者年金被保険者と言います)。

第3号被保険者とは第2号被保険者に扶養されている、20歳以上60歳未満の配偶者です(被扶養配偶者と言います)。

ここで扶養されている(正確には"主として第2号被保険者の収入により生計を維持する")という認定は、国民年金法施行令第4条では健康保険法や各共済組合法の被扶養者の取扱を勘案して日本年金機構が定めるとされています。はっきりしない表現ですが、通知(昭61庁保発13号)で健康保険の被扶養者と同じに定められていて、平成5年度以降は年間収入が130万円未満であることが条件とされています(日本年金機構のページより)。

第1号被保険者は日本国内に居住する20歳以上60歳未満の、第2号被保険者でも第3号被保険者でもない人全てとなります。

厳密に言うと既に公的な老齢・退職年金をもらっている人は除かれます。また25年以上加入できる見込みがない外国人等は脱退することができます。いずれも特殊な場合と考えてよいです。

第3号被保険者問題とは

第3号被保険者が問題にされるケースは大きく次の2つに分けられると思います。

年金の専門家が第3号被保険者問題という場合(1)の方を指すことが多いでしょう。第3号になったことの届出を忘れたために保険料未納期間になってしまった。夫の退職等で第3号から第1号に変わったのに届出をせず収めるべき保険料を納めていない等です。これらの問題は制度を改善し、また特例法による救済措置を設ける等の対応がなされています。ニュースや日本年金機構のホームページで詳細を知ることができると思われます。本稿でこの問題を取り上げるつもりはありません。 取り上げようとしているのは(2)の方の問題です。何が問題にされ、それは正しいのかどうかということです。

第3号被保険者の保険料はどのようになっているのか

第3号被保険者に関する代表的な不満は保険料を収めないのに基礎年金がもらえるのは、保険料を納めている被保険者と比べ不公平であるというものでしょう。本題に入る前に、まずこの点を明確にしておきましょう。良く見かける誤りは次のようなものです。

第1号被保険者、第2号被保険者は国民年金保険料を納付している。第3号被保険者は納付していない。

これは誤りです。正しくは次の通りです。

国民年金保険料を納付しているのは第1号被保険者のみ。第2号被保険者、第3号被保険者は納付していない。

ではどうなっているのでしょうか。基礎年金の費用は半分は国が持ちますが残りは国民年金保険料(積立金を含む)と厚生年金、共済年金が分担しています。厚生年金全体として、あるいは共済組合から、毎年次の額が納付されています。(国民年金法第94条の2、3、4)

基礎年金の給付に要する費用 ×第2号と第3号の被保険者の総数
国民年金被保険者総数

厳密には数に入れるための条件がありますが、ざっくりこうだと思って下さい。これを基礎年金拠出金と言います。つまり第3号被保険者が負担すべき分は厚生年金や共済組合の保険料を納めている第2号被保険者が負担しているということができます。

このことから、第1号被保険者が第3号被保険者に対し不公平だというのは見当はずれであることが分かります。「不公平」という不満が言える者がいるとすると、被扶養配偶者を有していないにもかかわらずその分の費用も負担させられていることになる第2号被保険者です。すなわち第2号被保険者のうちの、独身者、共働きで夫婦共に被用者年金の被保険者である者、妻の年収が130万円以上のため国民年金に加入している者です。

2.問題の大きさはどの程度か

本題に入る前に寄り道させてください。問題の金額的な大きさがどの程度なのかイメージを把握しておくことは無駄ではないと思います。次節以降の本題には関係ない話なので興味のない方はこの節跳ばしてください。

公的年金の財政の面から

第3号被保険者のために第2号被保険者が負担している額はどの程度で、またそれは公的年金の中でどれだけの大きさを占めているのでしょうか。これを知るための資料は以下があります。

これらの資料は旧制度の年金分も含まれる等のためもともと難解なうえ、[1]と[2][3]では数値が異なっていたりして経理が苦手な私には完全には理解できませんが、おおよそのところは以下であっていると思います。

なお平成22年度公的年金の総額は[1]では51兆1千億となっており一般にはこの額が広まっていますが、[3]では給付総額が48兆8千億です。何故2兆円以上違うのかはっきり分かりませんが、[3]が決算額であるのに対し、[1]の注で”年度末現在の受給者についてその時点での年金額を合計したもの”となっています。つまり年度途中からもらっている人も年度を通してもらった計算になっているようです。また支給停止額も含むとなっているので、働いて収入があるために年金が減額や全額支給停止されている人等の支給されていない人の分も払ったことにした計算のようです。それらが原因だとすると、2兆円以上大きく見える額を何故あえて情報として普及させているのでしょうか。年1兆円の増加を問題にしているのに何か杜撰な気がします。意図的でしょうか。

閑話休題、資料がそろっている平成22年度について概算します。
年金加入者は平成22年度では[1]によると、

大雑把には 第1号:第2号:第3号=2:4:1といって良いでしょう。[3]によると厚生年金、共済年金(以下被用者年金と呼びます)の給付費は30兆5,013億円(ちなみに内厚生年金は24兆92億円)です。基礎年金勘定給付総額は20兆5,369億です。基礎年金給付費のおおよそ7分の5である15兆くらいを被用者年金が拠出することになります。実際には基礎年金拠出金は18兆1千億になっています。その5分の1くらいが第3号被保険者分で3.6兆くらいとなります。基礎年金拠出金の半分は国庫負担ですから2兆くらいが第3号被保険者のために拠出している金額となります。被用者年金の立場からまとめましょう。被用者年金の給付額が30兆くらいです。基礎年金拠出金(国庫負担除く)が9兆くらいで、そのうち2兆くらいが第3号被保険者のために拠出している金額となるはずです。

個人の年金額の面から

[1]の23年度版によると厚生年金保険被保険者の平均標準報酬額年額は4,313,465円ですので一年間だけ見た月額は約36万円になります。生涯の平均標準報酬額36万円の人が40年間厚生年金に加入した場合もらえる老齢年金の額を見積もって見ましょう。ちゃんと計算しようとすると、5%適正化の従前額保障、物価スライド特例を適用しなければならず、総報酬制が導入される前の平成15年度以前の分は標準報酬月額で別に計算しなければいけないとか、改定率の改定により額がかわるとか、平成27年度以降はマクロ経済スライドが適用される可能性があるとか大変めんどうです。そのようなこまごました話は全て無視した、実用的ではない非常に大雑把な見積もりですので承知してください。
 厚生年金年額(報酬比例部分)は次の通りです。

36万円×5.481/1000×480ヶ月=95万円

これに基礎年金約79万円(平成24年度価額)を加えた174万円が年額となります。これに対し40年ずっと第3号被保険者でいた人の年額は基礎年金の79万円のみとなります。さらに基礎年金の半額は国庫負担ですから、第2号被保険者が自力で得た年額は95+79/2=135万円、第3号の人が第2号被保険者のおかげで得た年金額は40万円ということになります。

3.何が問題とされ、どのような議論がなされてきたか

今まで何が問題とされ、どのような議論がなされてきたかは以下の厚労省の資料が良くまとまっているいるように思います。
第3回社会保障審議会年金部会2011年9月29日資料1
問題とされている内容が良く分かると同時に、この問題に対する議論や厚労省の対応の奇妙さも浮き彫りになっているようにも見えます。歴史的な経過については、にわか調べでは困難なので今のところこの資料を頼ることにします。

過去何度も議論があったようです、上の資料に挙げられている最初のものは平成12年7月から平成13年12月まで開催された「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」です。これについては報告書が厚労省のホームページで閲覧できます。ざっと第3号問題に係る部分のみ眺めてみると、既に議論が出尽くしているように思え、妥当と思われる見解を見ることができます。しかしながら、このような検討会や審議会の常として、おそらく良く理解していないか、何らかの理由でバイアスがかかっている方の意見も尊重する結果、それらをどう見ても正しい見解と全く同列に並記し、結論を出していません。 社会保障審議会年金部会でも何度か議論されているようです。まとめたもののみ参考にすることにします(平成14年12月平成15年9月)。

結論を出さないため毎回同じような議論を繰り替えしている印象です。問題にされているのは平成23年資料にまとめられているように次の3点であるようです(該資料11ページを私がさらに簡略化して端的に表現しました)。

この中で(1)の内容はさらに2点に分けられると思います。

また批判というのとは異なりますが、世帯単位ではなく個人単位で給付と負担の関係を整理すべきという考え方も有るようです。

これらの"問題"に対し改正案が提案されています。最初の「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」では6案ありましたが、平成15年の議論以降次の3案にまとめられているようです。

平成24年4月の 社会保障・税一体改革素案では

第3号被保険者制度に関しては、国民の間に多様な意見がなおあること を踏まえ、不公平感を解消するための方策について、新しい年金制度の 方向性(2分2乗)を踏まえつつ、引き続き検討する。

と結論先送りながら、”年金分割案”(二つに分けて賦課額を計算して二倍するということで2分2乗と言います)を基本とすることを明確にしています。

なおニュース等でも取り上げられたのでご存知の方も多いと思いますが、平成16年の法改正により現行の厚生年金保険法では、婚姻期間中の年金は離婚時に分割できるようになりました。平成19年4月1日以降の離婚について適用されています。

4.第3号被保険者問題の考察と私の意見

第3号被保険者制度は不公平ではない

最初に、第3号被保険者制度は金銭面から見て、保険料を納めている人に対し決して不公平にはなっていないということを説明しておきます。第1号被保険者に対して不公平でないということは第1節で説明しましたが、被扶養配偶者を持たない第2号被保険者に対しても不公平ではないです。これは第3節内で示した色々な参考資料の中で繰り返し説明されていることですが、一般にはよく理解されていないことです。世論の中にある第3号制度への批判の多くは「専業主婦は優遇されている。ずるい。」に類したものでしょう。説明します。

厚生年金の保険料はご承知だと思いますが、標準報酬月額、標準賞与額に一定の保険料率をかけたもので、それを事業主と折半します。平成24年9月から平成25年8月までの保険料率は16.766%です。面倒なので月々の保険料のみで説明します。また夫が厚生年金保険に加入し、妻は専業主婦で収入は無いとします。

夫の標準報酬月額が44万円とすると、この44万円に保険料率をかけたものが保険料になります。このようにして保険料を納めていった結果、65歳になると、夫は定額の老齢基礎年金と報酬に比例した老齢厚生年金をもらいます。妻は定額の老齢基礎年金をもらいます。さて2分2乗案に従い44万円を夫の標準報酬月額22万円、妻の標準報酬月額22万円と2分することにします。この時の保険料は一人当たり22万円に保険料率をかけたものの2倍となりますので、分けない場合と世帯合計は変わりません。65歳になると夫も妻も老齢基礎年金と報酬比例の老齢厚生年金をもらいます。標準報酬月額が半分なのですから老齢厚生年金の2人分の合計は2分しない場合と同じになります。つまり世帯で合計すると年金の額は変わりません。つまり報酬を2人に分けても、世帯で合計すると保険料も年金額も分割しない場合と同じになるのです。ですから第3号被保険者が優遇されているわけではありません。

納得いかない方がいらっしゃるかも分かりません。それでは標準報酬月額が44万円の独身者はどうなるのか、同じ保険料を納めて同じ額の厚生年金と1人分の老齢基礎年金をもらうだけではないか。2人分の基礎年金をもらえる夫婦は得しているのではないか。ということになると思います。しかし、共に標準報酬月額が22万円の共働き世帯でも保険料と年金の額は世帯合計では全く同じです。つまり世帯で考えると被扶養配偶者を有しているから得しているわけではありません。

何故こういうことが起こるのか。お気づきの方もいると思いますが、これは保険料は完全に報酬に比例しているのに、支払われる年金は定額の基礎年金部分があることによります。このため標準報酬月額が低いほど得するしくみになっているのです。このように報酬が高いほど不利で、低いほど有利である仕組みを所得再分配と言います。厚生年金保険はその仕組み自体に所得再分配機能を持っていると言えます。例について言うと44万円の夫婦はその報酬で2人生計を立てているため一人当たり22万円で生計を立てていることになる。従って44万円の独身者より有利な年金がもらえるということになります。

別の例でこの所得再分配機能を見てみましょう。厚生年金保険の標準報酬月額は最低が9万8千円です。さらに賞与を全くもらわないという人が厚生年金保険被保険者で最も報酬が低いクラスの人になります。この人が現在収めている保険料は次の通りです(月額。事業主負担分も含む。以下同じ。)

9万8千円 × 16.766% = 16,431円

今年度の国民年金保険料14、980円と比較し1,451円高いだけです。これでもらえる年金額を計算します。といっても年金額の計算は複雑なので以下の条件で計算した実際的でない大雑把な見積もりのみ計算します。

それぞれが何を意味するかここでは説明しません。何のことか分からんという方はただ非常に大雑把な見積もりであるとのみ了解してください。ずっとこの状態が続き40年間加入したときの年金額は次の通りです。

定額分(基礎年金) 786,500円(平成24年度価額)

報酬比例分(厚生年金) 98,000×0.005481×480=257,800円

保険料は国民年金より1,451円高いだけですから厚生年金は随分とお得な年金に見えます。全く同じ条件で標準報酬月額が44万円の独身者の場合を計算します。面倒なので賞与は無いとします。保険料、年金額は次の通りです。

保険料月額:44万円 × 16.766% = 73,770円

定額分(基礎年金) 786,500円(平成24年度価額)

報酬比例分(厚生年金) 440,000×0.005481×480= 1,157,600円

つまり国民年金に比べ、保険料は5倍高いのに、もらえる年金総額は2.5倍程度です。なお保険料の半分は事業主が負担しているので被保険者個人にとってだけ見ればこの場合は妥当な金額となることは留意してください。標準報酬月額がもっと高い場合、また賞与がある場合さらに割りの悪さは悪化します。

これで分かるように、厚生年金保険はもともと報酬の低い人を報酬の高い人が助けてあげる仕組みになっているのです。 第3号被保険者は報酬ゼロの場合の第2号被保険者と見ることもでき、先ほどの2分2乗法が世帯合計ではぴったり同じになるというのもそのためなのです。

第3号制度は不公平という不満と改正案について

第3号被保険者は不公平な制度ではないことを説明しました。このことは第2節であげた政府主催の審議会や検討会で十分議論されてきました。それなのになぜ改正案として”負担調整案”や”給付調整案”が生き残っているのでしょうか。第3節で書いた私が感じた”奇妙さ”の第一です。厚生年金保険の所得再配分の仕組みが不公平であるというなら筋は通っています。これを廃止するとすると、例えば保険料も定額分+報酬比例とすることが考えられ、第3号被保険者も定額分を払います。この場合財政は一定とすると、報酬が低い人は今までより保険料が上がり、報酬が高い人ほど保険料が下がることになるはずです。第3号被保険者のみ特定してターゲットとするこれら両案は理屈に合っていません。

不公平でないとするなら、「不公平」と言う不満に対しては不公平でないことを丁寧に説明し理解してもらうことが全てであるはずです。しかしながら第2節で引用した「社会保障・税一体改革素案」で”不公平感を解消するための方策”となっているのは何でしょうか。このように不公平感をなくす様に制度を変えることを検討すると言う姿勢は厚労省の資料にも貫かれています。これは私のような理系の人間には理解し難いところであり、感じた2つめの”奇妙さ”です。

2分2乗案について

不公平でないことを例示するための説明としては有効であるとは思いますが不公平感を解消するために2分2乗にするというのは前述の通りおかしいと思います。一方個人単位での給付と負担の関係を明確にするために2分2乗とすべきという考え方は一理あるように思います。ただ実際に制度として導入するとなると多くの問題が考えられます。

最大の問題は遺族厚生年金、障害厚生年金でしょう。実際に収入を得ている方が現役中に亡くなった場合や障害で働けなくなった場合等です。また年の差のある夫婦で両方が65歳になるまでの間も問題でしょう。これらの場合見なし収入が半分になるので年金も現在の半分になり、これは現実の生活をおびやかすものでしょう。実際には加給年金や年金併給の制度等にもよるのでそう単純ではないですが、それらを含めて制度全体をどのように修正したら良いか複雑です。また2分に1にすることで一人当たりの報酬が130万円以下になる場合どうするか。反対に標準報酬月額の最高限度62万円を超える人の場合2分することで保険料が増える場合があります。また2号と1号の夫婦の場合はどうするか、共働き家庭での夫婦間の報酬の違いは考えなくて良いか等々いろいろ問題が出てくると思われます。

財政上の問題ではなく、べき論の問題なので、早急な対応が必要な「社会保障と税の一体改革」の中で無理して扱わなくても良い気がするのですがどうでしょうか。

第3号制度は女性の就労に悪影響があるか?

確かに130万円という枠は主婦が就業を制限する大きな理由の一つになっている実感はあります。 これについては第3回社会保障審議会年金部会2011年9月29日における諸星裕美委員(レイバーコンサルタント オフィスモロホシ 社会保険労務士)の以下の発言が我が意を得たりの思いです。

ただ一方、その方々に3号制度ができたという先ほどの趣旨、それから、日本の年金制度の基本的なお話、それから、これからの働き方次第で、御本人の将来の年金額が変わるというお話をさせていただきますと、その後のアンケートがぐんと変わるのです。実はそういった枠ではなくて、それを超えて働きたいということが非常に増えたということがありまして。先ほどから言われているような金額の枠だけではなくて、正しい知識を持って、それで、女性の働き方はこれからどういうことがいいのかということは周知といいますか、教育が必要ではないかなと思いました。

厚生年金に関して130万円という枠が問題になるのは、第3号でなくなると第1号になるというケースと思われます。これは社会保険の加入条件が収入額ではなく労働時間、労働日数等で決められるているからです。厚生年金保険に加入できるのであれば、世帯報酬に比例した保険料のこと、及び将来の年金額が増えることを周知させる方策をとればよいはずです。パートの厚生年金保険加入問題と一緒に制度の整理を考える必要があると思います。いずれにせよ、「女性の就労を制限しているから第3号制度を廃止すべき」というのは短絡に過ぎる意見でしょう。そもそも第3号制度を廃止しても、健康保険の被扶養者から外れてしまうということが就業制限の枠として残ります。このような主張は「専業主婦はずるい」と言う不平不満と同じレベルに私には見えます。

130万円の枠の撤廃について

配偶者がパート等で勤務している場合は、、もし厚生年金に加入できるのであれば、世帯当りの報酬に比例した保険料を前提とすると、本来は枠を設ける合理性は無いように思います。標準報酬月額最低等級が9万8千円であることを考えても130万円という枠は大きすぎるように見えます。問題は厚生年金に加入できるかどうかは労働時間等の基準で決められるので、第2号にも第3号にもなれず、第1号にならざるを得ないケースが出てくることです。この場合事業主の2分の1負担も無く、収入によらず固定額を納めるということになるので、就業を制限する動機になります。第3号問題としてだけではなくパート等低所得者の厚生年金保険加入問題と一緒に考えるべきと思われます。

昨年8月の改正により、平成28年10月1日より厚生年金保険(及び健康保険)の適用条件が拡大し、従来の「通常の労働者の所定労働時間の4分の3以上の労働時間かつ労働日数」という場合に加え、週20時間以上かつ1年間以上継続して使用されることが見込まれかつ報酬が8万8千円以上の場合も適用されることになりました。これにより第3号でなくなると第2号になるというケースが増えると思われます。またこの条件は将来さらに拡大される可能性があり、”女性の就労に悪影響がある”、”130万円枠はおかしい”という批判の根拠は薄れてくるものと思われます。

配偶者が自営業というケースについては、第1号被保険者になるしかありませんので、別途考慮が必要でしょう。

5.おわりに

私が主に指摘したかったのは”第3号被保険者制度は不公平ではないし、主婦優遇ではない”ということです。政府にはそれを十分踏まえたうえで冷静な議論と制度設計をして頂きたいと思います。ゆめゆめ「不公平」という不合理な世論に媚びるような制度に変更しないで欲しいです。それにしても政府主催の審議会、検討会の非効率にはうんざりします。これはだめな委員のだめな意見も尊重しなければならないからでしょうか。真剣勝負で議論し、だめなものはだめとしてきちんと結論を出すようなあり方を望みます。

補足1

本稿では主に金銭的な公平性等制度として問題にされている点について書きました。別稿「社会保障制度における親族を考えよう」では第3号被保険者制度導入の背景について書いておりますので、そちらも参照ください。導入経緯からみた第3号制度の妥当性が分かります。
また第3号被保険者問題に関しより学術的な立場から検討を行っている論文として倉田賀世「3号被保険者制度廃止・縮小論の再検討」が大変参考になりますのでお薦めします。

補足2:遺族厚生年金について

第3号被保険者制度を批判する人の中で、遺族厚生年金について不公平になるということを主張する人がいます。これは誤解、無理解によるものと思われますが、無視するわけにはやはりいかないだろうということで、別ページ:第3号被保険者と遺族厚生年金で解説しました。

補足3:加給年金額について

加給年金額について、第2号と第3号の夫婦、第2号同士の夫婦間で不公平があるのではないかというご意見を頂きました。

加給年金額は加入期間が20年以上(老齢満了などと呼びます。生年月日等の条件により最低15年でも良い場合があります。)の厚生年金の受給権者に65歳未満の配偶者や、18歳年度末までの子供がいる場合に厚生年金に上乗せして支給されます。但し、対象者が障害年金を受けることができる場合の他、老齢満了の老齢厚生年金を受けることができる場合は支給停止されます。

特別支給の老齢厚生年金のように65歳未満で受給できる年金がある場合のことなのですが、平均標準報酬額が低い場合や加入期間が20年ぎりぎりのような場合、妻の自分の老齢厚生年金の支給額と、夫の老齢厚生年金につく加給年金額とを比較すると後者の方が多いというケースがあり得ます。その場合だけを見ると第2号として働いてもらう厚生年金よりも、ずっと第3号でいて加給年金額をつけてもらった方が得ということで一見不公平に見えるかもわかりません。

しかしこれはずっと第3号という場合だけではなく、ずっと第1号でも同じです。また働いている妻の場合19年以下で仕事を止めた場合は支給停止されないので19年以下の人と20年以上の人との間が不公平ということもあります。問題があるとすると、支給額に関わらず老齢満了であれば加給年金額を停止するという規定であり、第3号制度の問題とは言えないと思います。

加給年金額の対象となった人は65歳以降は振替加算が自分の基礎年金に加算されますが、振替加算は生年月日により逓減します。これから年金をもらう人は、振替加算は少額かあるいはもらえないことになりますので、生涯もらう年金総額は自分の老齢厚生年金が多い人ほど多いと考えて良いと思います。65歳までの加給年金額の有無で損得を考えて仕事を19年でやめるようなことはよした方が良いです。

補足4:130万円の壁による就業調整についての補足

130万円の壁が、実際に時給がどの程度の人に就業調整の要因になり得るのかについて、別稿に書きました。そこにある通り平成28年改正後は時給1354円以上でなければ130万円の壁にぶつかる前に厚生年金保険加入になります。130万円の壁はほとんどの人にとって無くなると言えるのではないでしょうか。

初稿2013/1/16
修正2013/2/16
●第4節「2分2乗案について」修正
 2分2乗時の問題の説明が不適当
補足1追加2013/5/18
補足を追加2013/5/31
修正2013/6/6
●平成24年改正に基づく説明追加
改訂2013/12/26
●補足3を追加(ご意見により)
追加2014/1/11
●QandAへのリンク追加
修正2014/3/29
●基礎年金拠出金の説明を明確化
文章修正2014/5/11
リンク追加2014/7/2
●「第3号被保険者制度は不公平・・・」