独断的JAZZ批評 626.

KEITH JARRETT / CHARLIE HADEN
KEITHの新たな一面を引き出したデュオ・アルバム
"JASMINE"
KEITH JARRETT(p), CHARLIE HADEN(b)
2007年3月 スタジオ録音 (ECM : ECM 2165 273 3485)


KIETHのデュオ・アルバムというのは初めてかもしれない。対するHADENのデュオ・アルバムはいくつかある。その最たるものは1996年に録音されたPAT METHENYとのデュオ、"BEYOND THE MISSOURI SKY"(JAZZ批評 6.)であろう。このアルバムはPETHENYがシンセサイザーなどを駆使しながらも、素朴な美しさに溢れたアルバムだった。
同じ年にHADENはKENNY BARRONとのデュオ、"NIGHT AND THE CITY"(JAZZ批評 16.)も録音している。いずれもナチュラルなサウンドに心洗われたものである。
デュオというのはでしゃばり過ぎず、かといって、引っ込み過ぎない微妙なバランス感覚が必要だ。HADENはこの塩梅が上手い。デュオの名手といって良いだろう。そのHADENが31年ぶりにKEITHと邂逅しKEITHの自宅のスタジオで録音されたアルバムだという。

@"FOR ALL WE KNOW" 
ほっとするような優しくてしっとりとした湿り気を含んだメロディ。何の気負いもないシンプルな演奏に心が安らぐ9分と45秒。
A"WHERE CAN I GO WITHOUT YOU" 
前曲と同じような曲想のバラード。HADENのベース・ソロは大向こうを唸らせる超絶技巧のテクニックがあるわけではない。プロのベーシストなら誰でも弾けそうな平易なベース・ワークだ。だけど誰にも真似が出来ないHADENならではの持ち味を感じさせる9分と20秒。
B"NO MOON AT ALL" 
この曲の名演がBRAD MEHLDAUの"DAY IS DONE"(JAZZ批評 301.)でも聴くことが出来る。ミディアム・テンポの4ビートを刻む4分と40秒。
C"ONE DAY I'LL FLY AWAY" 
KEITHは意識的に少ない音数の演奏を心掛けているようだ。こういう美しいテーマには饒舌である必要はない。ひたすらナチュラルさを求めていると感じさせる4分と15秒。
D"INTRO〜I'M GONNA LAUGH YOU RIGHT OUT OF MY LIFE" 
トリオ演奏では聴くことが出来ない一味違ったKEITHのデュオ。やはり、GARY PEACOCKではなくてCHARLIE HADENだからこそこういう音楽になったと痛感させる12分と9秒。
E"BODY AND SOUL" 
多くのミュージシャンが取り上げる名曲スタンダード。KEITHの唸り声も入ってミディアム・テンポを刻む11分と9秒。
F"GOODBYE" 
G"DON'T EVER LEAVE ME"
 切ないほどの3分と11秒。

CHARLIE HADENは不思議なベーシストで、共演者からナチュラルな感情を上手に引き出してしまう特異な才能がある。PAT METHENYやKENNY BARRON、ひいては、このKEITHまでもナチュラルさの虜にしてしまった。ジャズとは不思議な音楽だ。丁々発止のインタープレイがあるかと思えば、このアルバムのように温くて刺激のない穏やかで優しいジャズもある。
余談であるが、一昨夜、僕は新宿のPIT INNでMAGNUS HJORTH〜PETTER ELDH〜池長一美の3人によるライヴを聴いてきた。その中でMAGNUSとPETTERはKENNY DREW〜NIELS-HENNING ORSTED PEDERSENの"LIVE IN CONCERT"(JAZZ批評 292.)を彷彿とさせるような丁々発止のデュオを披露してくれたけど、そういうデュオもあり!そして、このデュオのような温くて優しいデュオもまたあり!なのだ。
ここにあるのはトリオでもソロでもない、デュオとしてのKEITHの姿なのだ。KEITHの新たな一面を引き出したデュオ・アルバムということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。多分、何年、何十年と聴いても聴き飽きることのないアルバムだと思う。   (2010.05.17)

試聴サイト : http://player.ecmrecords.com/jarrett-haden-jasmine



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