MAKIKO HIRABAYASHI
決して、BGMにしてはいけない
正面からじっくりと対峙し、最後の1曲まで聴き届けて欲しいアルバムだ
"HIDE AND SEEK"
平林 牧子(p), KLAVS HOVMAN(b), MARILYN MAZUR(ds, percussion)
2008年4月 スタジオ録音 (ENJA : MZCE-1219)


このアルバムにはヨーロッパからの輸入盤とこのジャケットにおける国内盤との2種類が発売されている。輸入盤のジャケットは、それは恐ろしいほどの暗い顔をした平林の写真がアルバムになっていて、怖くてとても手が出せなかった。その後、ジャズ批評の2009年度の金賞を得たアルバムということで、にわかに国内盤がHQCDになって発売になった。まあ、これなら怖くはないかと購入した次第だ。
平林は今年44歳になる2児の母だそうだ。日本人ピアニストの誰もが当然の路線を歩むようにバークリー音楽大学へ留学しプロとしての道を歩みだしたそうだ。2001年にこのアルバムのメンバーと巡り合い、自己のトリオを結成したそうだ。活動拠点はデンマーク、コペンハーゲンだ。足掛け10年になろうとするグループだ。確かに、グループとしての緊密感、一体感に溢れている。
最初、僕はこのアルバムを嶋津健一の"COMPOSERS U"(JAZZ批評 624.)と前掲のKEITH JARRETT "JASMINE"(JAZZ批評 627.)等と一緒に仕事場のBGMとして聞いていた。その時の印象は決して良いものではなかったのだが・・・。

@"HIDE AND SEEK" 
BGMでこそこそ聞いているのと、大音量でしっかり聴くのではこれほど印象が変わる。まず、一体感が素晴らしい。素晴らしいアンサンブルだ。平林のピアノも鋭く切れている。こいつぁ、期待できそうだ。個々の演奏というよりはグループ全体のアンサンブルに耳を傾けたい。
A"SOULS OF TOMORROW" 
これも平林のオリジナル。MARILYN MAZURのパーカッションが印象的。このアルバムの一味違った印象はこのMAZURのパーカッションに負うところが大きい。
B"DEEP ROAD" 
MAZURの書いた曲。とても抽象的、かつ、口ずさめる曲ではないが、緊迫感とスリリングな展開がこの曲の命。兎に角、3者の緊密感が抽象的表現を超越している。
C"RAIN" 
まるで雨滴が大地を潤していくようだ。ここでもMAZURの表現力抜群なパーカッションが効果的だ。粒立ちの良いパーカッションの一音一音がまるで雨音のようでもある。合間を塗りつぶしていくHOVMANのベース・ワークも素晴らしい。なんというアンサンブルなのか!なんというアレンジなのか!
D"REMEMBER THE SUN" 
平林もMAZURも素晴らしいけど、忘れてならないのがベースのHOVMANの存在。音色といい、ベース・ワークといい。このベーシストなくてこのアルバムは存在しなかった!因みに、このHOVMANはMAZURの旦那さんということらしい。
E"A MAJOR" 
聴きやすいというか、どこかで聞いたこともあるような平林のオリジナル。この平林はなかなかのメロディ・メーカーでもある。
F"JOURNEY WALTZ" 
G"WINGS IN JULY" 
サポート陣の躍動するリズムに乗って平林の奏でるピアノ・ワークが素晴らしい。このMAZURというドラマーは女だてらに凄いことする。
H"SHADY"
 アンサンブルが見事!

正直に打ち明けると、BGMで聞いていた第一印象とはまるで違う。聴き込むほどにそのスリリングな展開と緊密感に感動を覚えるようになった。このアルバムは録音も良いので出来れば大音量で聴くことをお勧めしたい。そうすればアンサンブルのよさがより一層分かるだろう。
このアルバムがJAZZ批評誌の2009年度ジャズ・オーディオ大賞とジャズ・メロディ大賞の2部門で金賞を受賞したのはフロックでも偶然でもない。しかるべき正当な評価を得たアルバムの当然とも言うべき結果である。これは凄いアルバムだと思う。(最初の僕のように)決して、BGMにしてはいけない。正面からじっくりと対峙し、最後の1曲まで聴き届けて欲しいアルバムだということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2010.05.22)

試聴サイト : http://www.myspace.com/makikomusic



独断的JAZZ批評 628.