MASAKI MATSUMOTO
アルバム制作ともなれば普段と違うことをやりたくなるというのがプロの性なのかもしれない
"ECHO OF THE WAVE"
松本 全芸(p), 渋谷 盛良(b), 橋本 学(ds)
2009年5月 スタジオ録音 (T.S.C.C. : SC CD-2104)


40年の長きにわたってピアノ・トリオを聴いてきたのであるが、何か大切なものを見逃してきたという思いが最近ある。いわゆる、「灯台下暗し」ってやつだ。海外のピアノ・トリオばかりに溺れて、地元の日本人ピアニストに目が行き届いていなかったと今更ながらに思う。この反省は、ジャズのライヴ・ハウスにちょくちょく顔を出すようになってから初めて生まれたものだ。
殊に男性ピアニストに逸材が目白押し・・・というのが最近の印象だ。辛島文雄、小曽根真、佐藤允彦、後藤浩二、山本剛、嶋津健一、村山浩・・・などなど。まだまだ聴いていないピアニストが五万といる。そういう流れの中でゲットしたのがこのアルバム。松本全芸の名も演奏も全くの初耳だ。ネットで検索して、試聴も出来ずにゲットしてみた。

@"MANBOW" 
ジャズらしくないテーマ。僕はこの手のモーダルで頭でこねくり回したようなテーマの曲っていうのが苦手だ。前掲のレビューでも書いたのだが、面白みがなくて、さらに無機的な印象を与える曲っていうのは生理的に受け付けられない。歌心溢れるようなテーマっていうのが僕の好みだ。さらには、口ずさめるような曲っていうのが理想だ。
A"THE DOLPHIN" 
タイトルと言い、曲想と言い、ボサノバのために生まれてきたような曲。軽いタッチの聴き易い演奏となっている。若干、インパクトに欠けるかなあ。
B"SPLANKY" 
冒頭からベースがフィーチャーされているグルーヴィなブルース。3者のけれんみのない演奏は良いねえ。多分、もっともこのグループらしい演奏だと思う。
C"ROUTE 16" 
「ルート66」出なくて「国道16号線」 松本のオリジナルだ。
D"MOON RIVER" 
テーマをピアノ・ソロで歌い、その後に、ベースとブラシが加わってくる。松本本人曰く、ハーモナイズに特色を出したというが、果たして、原曲を超えているかなあ?
E"PIRO DANCE" 
ベースの定型パターンが12拍で回っていく。こういうグルーヴィな曲では松本のピアノが生き生きとしている。後半には橋本のドラミングがフィーチャーされている。
F"WHAT A DIFFERENCE A DAY MADE" 
やはりスタンダードというのは良いねえ。長い時間を経て人々に支持されてきた曲でもある。スタンダードをどう弾きこなすのか・・・これこそプロのミュージシャンの力量の見せ所と思うのだが、いかがだろう?極めてオーソドックスだけどこれで良いのだ!
G"IT COULD HAPPEN TO YOU" 
何も変拍子に頼らなくても良かったのでは?生理的な不快感が残る。
H"IF I SHOULD LOSE YOU" 
心地よい4ビートを刻む。松本のコメントに「いつもやっているように何も考えず普通に弾きました」とある。そう、これで良いのだ。逆に言えば、アルバム制作ともなれば普段と違うことをやりたくなるというのがプロの性なのかもしれない。
I"ECHO OF THE WAVE" 
アルバム・タイトルにもなっている松本のオリジナル。フリーなイントロで始まる。実験的なブルースだというが、まるでブルースらしくない。

松本全芸は1963年生まれというから今年47歳。多くの日本人ピアニストがバークリー音楽大学に留学しているように、この松本も1989年から1992年まで籍をおいたそうだ。
このアルバムではボサノバ調から変拍子まで、あれやこれやと色々なことに挑戦しているが、本領はBのように単純明快なブルースや、Hのような「何も考えずに普通に弾いた」演奏にこそきらりと光るものを感じさせる。
今回、このアルバムはどこを探しても試聴できるサイトがなかった。したがって、当たるも八卦で購入したわけだけど、それなりに楽しむことが出来た。   (2010.05.13)



独断的JAZZ批評 627.