BRAD MEHLDAU
このアルバムは10年に1枚あるかないかの素晴らしいアルバムだ!
たった2000円で味わえる至福の時を、どうぞ!
"DAY IS DONE"
BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), JEFF BALLARD(ds)
2005年3月 スタジオ録音 (NONESUCH 7559-79910-2)

今度のトリオはドラムスにJEFF BALLARDを迎えている。今までのオリジナル・トリオではJORGE ROSSYであったが、メンバーを入れ替えたのだろうか?それとも一過性のものか?
実は、このサイドメンこそ山中千尋が2002年に澤野工房で吹き込んだ傑作"WHEN OCTOBER GOES"(JAZZ批評 113.)で共演したメンバーなのだ。GRENADIERはMEHLDAUの当初からの盟友で、太く力強いピチカートを身上としている。前述の山中千尋のほかにAKIKO GRACEとの競演もある(JAZZ批評 101.144.)。しっかりとした力強いリズムを刻みベース・ラインも基本に忠実なので、ピアノとしては非常に弾きやすいタイプのベースだろう。ドラムスのBALLARDもポイントを押さえてピアノを引き立たせるタイプだから、やはり、ピアノ好みのプレイヤーと言えるだろう。

この二人のリズム陣を迎えて、音楽もストレートな感情表現になった。その分、非常に分かりやすく、単純明快になったと思う。まさに磐石のサポートを得て、やりたいことを全てやってみたという感じ。美しさ、躍動感、緊密感、一体感を満喫できるアルバム。こいつは凄いぞ!

@"KNIVES OUT" 3者のアグレッシブな演奏で幕を開ける。
A"ALFIE" ジャズのスタンダードとしてはSONNY ROLLINSの"ALFIE"の方が有名だが、ここで演奏されているのはBURT BACHARACHの書いたポップスの名曲。しっとりと情感たっぷりのバラード。
B"MARTHA MY DEAR" ピアノ・ソロ。この流れはソロアルバム"SOLO PIANO LIVE IN TOKYO"(JAZZ批評 219.)から続くものだ。
C"DAY IS DONE" ベースがテーマをとる。

D"ARTIS" 高速4ビートの緊迫感溢れる演奏。BALLARDのスティック・ワークとGRENADIERの刻む力強い4ビートの間隙を縫うようにアンマッチングなピアノが漂う出鼻。その後、徐々に高揚感を増していく。磐石のリズム陣を従えMEHLDAUのピアノは思う存分のわがままを通す凄い演奏だ!
E"TURTLE TOWN" ミディアム・テンポのボサノバ調。そん所そこらのピアノと違うのは、その音使い。一筋縄には行かないMEHLDAU節があるのだ。
F"SHE'S LEAVING HOME" 美しいテーマのワルツ。3者の緊密感溢れる演奏がいい。
G"GRANADA" スパニッシュ風。

H"50 WAYS TO LEAVE YOUR LOVER" この曲こそMEHLDAUの真骨頂だろう。多彩なリズムだが、実に安定している。そのリズム陣の磐石なサポートに乗ってMEHLDAUのピアノが高潮感を増していく。途中でピアノのソロになるが、それと分からないほどの分厚い演奏なのだ。その後、トリオの一体感溢れる演奏になってクライマックスへと収斂していく。
I"NO MOON AT ALL" ピアノの最初の1音を聴けば、この曲の素晴らしさが予測できる。ベースとブラッシュのバランスも良くて、気が付けばいつの間にか指を鳴らしていることだろう。もう、最高!!!

多種多様な音楽ジャンルからピックアップした曲が演奏されている。今回のアルバムだけでも、LENNON/McCARTNEY,BURT BACHARACH,NICK DRAKE,PAUL SIMON,RED EVANSなどなど。更に、演奏形態も4ビートあり、8ビートあり、バラードあり、ボサノバ調あり、スパニッシュ風ありと多種多様に富んでいる。

ここ数年の紆余曲折を経て、結果、MEHLDAUが目指すのはJAZZの枠を超えた楽曲との融合なのかもしれない。ジャズというジャンルを超越して、音楽としての「凄み」が堪能出来るはず
体力、気力を充実させてジックリと聴き込んで欲しいアルバム。体力と気力がないとこのアルバムは3回聴くのが苦痛な筈。10回聴けば、本当の「凄み」が分かる。更には、100回聴いても聴き飽きることがない。
BRAD MEHLDAU TRIOの最高傑作が誕生した。勿論、GRENADIERとBALLARDの絶妙なサポートなしには、この傑作が生まれなかったことは言うまでもない。

このアルバムは10年に1枚あるかないかの素晴らしいアルバムだ!
たった2000円で味わえる至福の時を、どうぞ!

「manaの厳選"PIANO & α"」に追加する文句なしの1枚。   (2005.10.15)



独断的JAZZ批評 301.