MICHEL BISCEGLIA
3者の絶妙なバランスとは言い難く、デリカシーのないLEHANのスティック捌きがマイナス点だ
"INVISIBLE LIGHT"
MICHEL BISCEGLIA(p), WERNER LAUSCHER(b), MARC LEHAN(ds)
2009年7,8月 スタジオ録音 (PROVA RECORDS : PR 0909CD10)

2006年録音の"INNER YOU"(JAZZ批評 428.)はなかなか素晴らしいアルバムで、トリオとしてのバランスに優れ、しっとりと心に染み入る演奏だった。
2002年の"THE NIGHT AND THE MUSIC"から"INNER YOU"まで3枚のアルバムを紹介しているが、圧倒的に"INNER YOU"が良かった。2003年の"SECOND BREATH"(JAZZ批評 432.)からは不動のメンバーとなり現在に至っている。僕の中ではBISCEGLIA 4枚目のアルバム紹介だ。全10曲中、BISCEGLIAのオリジナルが8曲。残る2曲は、MIKE NOCKとCHARLIE HADENだ。

@"FLOATING" 
LAUSCHERのベース・ソロで始まるが、ピアノが加わるとまさにその雰囲気がBISCEGLIAサウンドなのだ。定型パターンに乗って「間」を持ったピアノがフレーズを綴っていく。
A"ESPERANZA" 
先ずイントロがいいね。何かを期待させる出だしだ。静から動への移り変わりとテンションの高まりが凝縮していきクライマックスを迎える。そして、最後に静に戻る。
B"DARK LIGHT" 
MIKE NOCKの曲。多少、観念的な匂いのするテーマ。こういうテーマだと熱く燃えるというのは期待できない。この手の演奏は今までにいやというほど聴いている気がするし、何か強烈な印象を残すものでもない。
C"SPEED OF LIGHT" 
テーマからしてこれは高速4ビートを刻むのかと思っていると、何とミディアム・テンポの4ビートを刻みだす。と思っていると倍テンの高速ビートを刻む。見事に予想を裏切ってくれる。予測不能の演奏で刺激に満ちているが、何とも落ち着きのない演奏だ。この辺まで来ると、矢鱈、ドラムスのLEHANのスティック捌きが耳につく。これには参った。
D"O CEU DO ALENTEJO" 
メロディックなテーマに透明感の強いアドリブで、熱くなるという演奏ではない。あくまでもクールなのだ。
E"PROVA 21" 
これもリリカルなテーマとアドリブ。「間」を生かしたピアノの演奏だ。3者のインナープレイがいいと思う。やはり、このグループはこういうスタイルが一番嵌っている。
F"FIRST SONG" CHARLIE HADEN(b)の書いた名曲。淡々と一音ずつに思いを込めたBISCEGLIAのピアノは何とも物悲しい。LAUSCHERの弾くベースはあたかもHADENのようだ。この切ないほどに美しい曲の名演がほかにもある。ひとつがSTAN GETZの"PEOPLE TIME"(JAZZ批評 231.)で、もうひとつがPAT METHENYの"BEYOND THE MISSOURI SKY"(JAZZ批評 6.)の中にある演奏だ。併せて聴いてもらいたい演奏だ。
G"AT NIGHT" 
"INNER YOU"では気にならなかったが、このアルバムではLEHANのデリカシーのないドラミングが妙に鼻につく。特にスティックを持ったときは無粋にうるさいだけ。
H"PROVA 31" 
内省的なピアノで始まり、ベースとドラムスとのインタープレイで徐々に昂揚感を増していく。このアルバム・ジャケットには5分26秒と書いてあるが、実際は7分と15秒。
I"THE VERTOV" 
8ビートで始まるシンプルな曲ではあるが強い印象を残す。ベースは定型のパターを刻み、ドラムスはブラシで8ビートを刻む。それに乗ってピアノが気持ちよさそうに歌っている。小難しいことやるよりも単刀直入な物言いに好感が持てる。このアルバムのベストに挙げたい。
 
"INNER YOU"ではトリオとしてバランスも良くて、地味であっても心に沁みる演奏だった。対して、このアルバムではLEHANの不出来(録音バランスの悪さというのもあるかもしれない)が気に掛かる。3者の絶妙なバランスとは言い難く、デリカシーのないLEHANのスティック捌きがマイナス点だ。とは言っても、標準以上、捨てるほどでもないという気はする。   (2009.10.22)


試聴サイト : http://www.myspace.com/michelbisceglia



独断的JAZZ批評 588.