MATTIAS SVENSSON
強靭なピチカートから弾き出されるアコースティックなベース音は録音の良さと相俟って、素晴らしい音色を提供している
"HEAD UP HIGH"
BILL MAYS(p), MATTIAS SVENSSON(b), JOE LA BARBERA(ds)
2008年12月 スタジオ録音 (FIVE STAR RECORDS : FSY-509)

スウェーデンのベーシスト、MATTIAS SVENSSONがサイド・メンとして共演しているアルバムはいくつか持っているが、強烈な印象は残っていない。むしろ、地味で堅実なプレイヤーという印象だ。JAN LUNDGRENとの"FOR LISTENERS ONLY"(JAZZ批評 242.)とかJACOB KARLZONの"TODAY"(JAZZ批評 276.)がそれだ。いずれもアルバムとして強烈な印象を残すほどの評価を与えていない。
このアルバムは初めてのSVENSSONのリーダー・アルバムだという。そういう意味では本来の姿を剥き出したような、あるいは、今までのイメージを払拭するような自己主張が見てとれる。
注目すべきは白人ベテラン・ピアニストのBILL MAYSが参加していることだ。このピアニストには1990年録音のデュオ・アルバム"ONE TO ONE 2"(JAZZ批評 259.)や2002年録音のトリオ・アルバム"GOING HOME"(JAZZ批評 130.)があるが"GOING HOME"ではドヴォルザークの「新世界」に挑戦している。斬新なアレンジとテンションの高まりでクラッシクを一級のジャズに仕立て上げた。いずれも素晴らしいアルバムで、5つ星を献上している。
ところで、このアルバムの録音スタジオは"WANG GUANG RECLABS"と書いてあるが、これは「湾岸音響スタジオ」ということらしい。日本ツアーの最中に録音したのだろう。

@"HEAD UP HIGH" 
SVENSSONのオリジナル。ベース・ソロに続くMAYSのピアノが快い。ガッツ溢れる演奏に拍手。ドラムスとの8小節交換、4小節、2小節交換をへてテーマに戻る。
A
"IT COULD HAPPEN TO YOU" スタンダード一発、しっとりとした演奏でお楽しみください。こういうスタンダードを弾かせるとBILL MAYSは上手いねえ。
B
"LULLABY OF THE LEAVES" ピアノとベースのデュオで始まりドラムスが絡んでくる。BARBERAのドラムスが煽り、徐々にテンションが高まってきて、子守唄とは正反対とも言うべきガリガリ、ゴリゴリの演奏なってくる。これが素晴らしい。続くSVENSSONのベース・ワークも太く逞しい。これが本来の姿だろう。録音の良さも付記しておこう。
C"PUTTE'S WALTZ" 
この曲はスウェーデンの今は亡きクラリネット奏者のPUTTE WICKMANに捧げたSVENSSONのオリジナル・ワルツ。実に心地よい。
D"PHILOSOPHICAL ABOUT IT" 
BARBERAがマレットに持ち替えての演奏。変拍子。7拍子か?
E"WHEN IT'S TIME TO GO" 
いきなり太いベース音。いい音色だ。日本の録音技術の高さを表しているかのようだ。ベースの音色はこうありたい。
F"EDELWEISS" 
「エーデルワイス」 このアルバムではこのほかにもIやJのジャズ・チューン以外の曲にもチャレンジしているが、結果はどうだろう?僕は、曲をこなすことに一杯で余裕や楽しさに欠けると思うのだが・・・。
G"ATLANTIS OVERDRIVE" 
ハード・ドライヴなモーダルな演奏だが、少々荒っぽい。
H
"BYE BYE BLACKBIRD" 原曲のイメージを残しながらアレンジされているが、こういうスタンダードになると手馴れた感じだ。
I"VOLARE" 
カンツォーネをモーダルな演奏で。BARBERAのドラム・ソロがフィーチャーされている。
J"THEME FROM BEETHOVEN'S 9TH SYMPHONY" 
MAYSの「新世界」に刺激を受けたわけでもないだろうが、ここではベートーヴェンの「第9」に挑戦している。ひょっとするとMAYSのアドヴァイスがあったかもしれない。しかし、これは「ちょっと」という感じだ。

サイド・メンとして得ていたSVENSSONのイメージを大きく変えるリーダー・アルバムである。こんなにも逞しいベーシストとは思っていなかった。強靭なピチカートから弾き出されるアコースティックなベース音は録音の良さと相俟って、素晴らしい音色を提供している。
ベース・トリオとしてでなくピアノ・トリオとしてみた場合、MAYSにいつもの輝きがないのが残念だ。リーダーのSVENSSONに少々遠慮したのだろうか?とはいえ、
ABHのようにスタンダード・ナンバーでは水を得た魚の如し。
トータル時間71分30秒は聴き応えあり。   (2009.05.26)



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独断的JAZZ批評 559.