e.s.t.
これがe.s.t.の遺作になってしまうとするなら、それはあまりにも悲しい
"LEUCOCYTE"
ESBJORN SVENSSON(p, electronics, transistor radio), DAN BERGLUND(b, electronics), MAGNUS OSTROM(ds, electronics, voices)
2007年1月 スタジオ録音 (UCCM-1159)

ESBJORN SVENSSONが44歳の若さで亡くなったのは6月のことだ。このアルバムはその1年半前の録音である。この録音日を見て思ったのであるが、これは2007年1月13日の東京公演(渋谷・文化村・オーチャッドホール)(JAZZ批評 388.)のわずか4日後の17日と18日の録音である。即ち、東京公演の後、すぐにオーストラリアへ飛んで録音されたアルバムということだ。
たった4日間の違いであるが、やっている演奏はまるで違う。これには少々驚いた。言ってみれば、このアルバムはひとつのテーマをアルバム全体で表現しているような感じ。いわば、組曲のような感じなのだ。
東京公演のベースになっているアルバム、"TUESDAY WONDERLAND"(JAZZ批評 371.)のような爽快感はない。むしろ、重たく沈んだ感じだ。電子音の使用頻度が随分と増えていて、ノイジーな音楽になっている。

@"DECADE" いわば、イントロ的な1分と16秒。
A"PREMONITION" 
 
T"EARTH" リズムを刻むドラムスとベースに乗ってアコースティックなピアノが電子効果音を加えながら高揚感を増していく。後半になると単調なドラミングが繰り返され電子音だらけになる17分と7秒。
 
U"CONTORTED" ピアノとベースの背景に電子音がかなり入ってくる。装飾音というにはかなり目障りだ。6分と18秒。
C"JAZZ"
 いきなり電子音炸裂で始まる4ビート。さすがに4ビートをやらせると躍動感とドライヴ感が満載だ。が、それもつかの間、フリーっぽい演奏にシフトしていく4分と17秒。
D"STILL" フリーな電子音で始まる。今までのe.s.tが見せたことのない姿だ。残念ながら、こういう音楽に素直にいいなあと言う度量を僕は持ち合わせていない。早く終われと祈った9分と55秒。
E"AJAR" 美しいピアノ・ソロ。もっと続けと祈った1分と36秒。

F"LEUCOCYTE" 
 
T"AB INITIO" どこかで聴いたことがあるような音楽。そう、ヘヴィーメタルだ。ゲップが出そうになる8分と51秒。
 
U"AD INTERIM" 無音の1分。こんなチャレンジはAKIKO GRACEの"GRACEFUL VISION"(JAZZ批評 493.)でもあった。このときは4分と18秒とさらに長かった。
 
V"AD MORTEM" ノイジーな電子音で始まり、それが延々と続く。何も楽しくない13分と8秒。早く終わってくれ!
 
W"AD INFINITUM" エンディングは別れを告げる鐘の音のようだ。4分と38秒。

2007年1月の録音なので、これが遺作になることはないと思うけど、もし、これがe.s.tの遺作になってしまうとするなら、それはあまりにも悲しい!
1993年のデビュー当時のアルバム、"WHEN EVERYONE HAS GONE"(JAZZ批評 387.)から始まって、常に新しい風を送り込んできたe.s.t.にとっては、ひとつの過程としてこのアルバムが存在したのだろう。そして、これぞe.s.tと言わしめるアルバムが近い将来生まれるはずだったのかもしれない。
果たして、リーダのESBJORN SVENSSONの死によってその望みは儚く消えてしまうことになるのだろうか?   (2008.09.14)



独断的JAZZ批評 502.